人類学的なデザイン / Anthropological Design

Session by：
松薗 美帆 / 株式会社メルペイ
Miho Matsuzono / Merpay, Inc.

Spectrum Tokyo Design Fest 2023 Day 2 (2023/12/03)

Transcript

1. ⼈類学的なデザイン Anthropological Design mihozono
2. 松薗 美帆 Miho Matsuzono 株式会社メルペイ UXリサーチャー • ICU ⽂化⼈類学専攻 • JAIST 博⼠前期課程在学中 ◦ 応⽤⼈類学の研究室 • 著書「はじめてのUXリサーチ」
3. ⼈類学とは？ • 「⼈間とは何か？」を問う学問 • ⻑期のフィールドワークを通し てエスノグラフィを記述する • 「私たちは⼈々についての研究 を⽣みだすというよりも、むし ろ⼈々とともに研究する。この やり⽅を「参与観察」と呼ぶ。 それがこの学の礎なのである」 （ティム‧インゴルド） 「人びとのものの考え方、および彼と生活との関係を把握し、 彼の世界についての彼の見方を理解することである」 マリノフスキー『西太平洋の遠洋航海者』
4. 私のフィールド：⿅児島‧甑島 • 鹿児島県本土からフェリーで1時間ほどの 離島 • 週末フィールドワーカーとして7年間で21 回、合計78日滞在 ◦ 2016年 7回/27日 ◦ 2017年 10回/36日 ◦ 2018年 1回/4日 ◦ 2019年 1回/3日 ◦ 2022年 1回/3日 ◦ 2023年 1回/5日
5. 私のフィールド：⿅児島‧甑島
6. 私のフィールド：⿅児島‧甑島
7. 「⼈類学的」とは？ ⻑期のフィールドワーク以外にも 「⼈類学的」な経験はある
8. 私の⼈類学的な経験：多国籍寮での暮らし
9. 私の⼈類学的な経験：多国籍寮での暮らし 全員から⼀定額の寮費を集め、 新聞を購⼊する慣習があった
10. 私の⼈類学的な経験：多国籍寮での暮らし 寮費で新聞を購⼊するの をやめて、少年ジャンプ を購⼊すべきだ！
11. 私の⼈類学的な経験：新聞ジャンプ論争
12. 私の⼈類学的な経験：新聞ジャンプ論争 寮費で買うのに ふさわしいのは 絶対新聞でしょ！
13. 私の⼈類学的な経験：新聞ジャンプ論争 だって…あれ…？ 「ふさわしい」って なんだろう…？
14. 「⼈類学的」とは？ 異質な他者をわかろうとする アメリカ からの留学⽣ 漢字あまり 得意ではない ⽇本のアニメ 漫画⼤好き！ 私 留 学 ⽣
15. 私の⼈類学的な経験：新聞ジャンプ論争 漢字ばっかりの 新聞は読めないし… それなら⼤好きな 漫画読みたい！
16. 「⼈類学的」とは？ 他者の視点から⾃分をみつめなおす ⽇本語が 第⼀⾔語 活字⼤好き アニメ漫画 あまり⾒ない 私 留 学 ⽣
17. 私の⼈類学的な経験：新聞ジャンプ論争 寮費で購⼊するのに新聞が 「ふさわしい」というのは 私の思い込みだった
18. 「⼈類学的」とは？ （いしつじゅんか） 異質馴化 馴質異化 （じゅんしついか） 異質な他者をわかろうとする 他者の視点から⾃分をみつめなおす 私 留 学 ⽣ 伊藤泰信，2017，「エスノグラフィを実践することの可能性──⽂化 ⼈類学の視⾓と⽅法論を実務に活かす」『組織科学』51(1): 30-45．
19. 「⼈類学的」とは？ 他者の視点から⾃分を⾒つめ直す 「馴質異化」で⾃分の思い込みに気づき 「⾃⼰変容」していくこと
20. 「⼈類学的なデザイン」とは？ ⼈類学のフィールドで起こるような 「馴質異化」とその結果としての 「⾃⼰変容」をデザインしていくこと
21. 「⼈類学的なデザイン」とは？ つまり、ものづくりへの 態度をデザインすることである
22. ⾃⼰変容をいかにデザインするか？ 「⽂脈」に 埋め込む ⾃⼰を 省察する 偶発性に ⾝を委ねる ⾃⼰変容 箕曲在弘，⼆⽂字屋脩，⼩⻄広⼤ ，2021，「⼈類学者たちのフィー ルド教育 ⾃⼰変容に向けた学びの デザイン」P15 図1-1を改変 ⼈類学のフィールド
23. ①⾃⼰を省察する‧メルカードのデザインプロセス 「⽂脈」に 埋め込む ⾃⼰を 省察する 偶発性に ⾝を委ねる ⾃⼰変容
24. ②リサーチをひらく‧Research Hour ⽂脈に 埋め込む ⾃⼰を 省察する 偶発性に ⾝を委ねる ⾃⼰変容
25. ①⾃⼰を省察する‧メルカードのデザインプロセス 「⽂脈」に 埋め込む ⾃⼰を 省察する 偶発性に ⾝を委ねる ⾃⼰変容
26. ①⾃⼰を省察する‧メルカードのデザインプロセス
27. メルカードとは
28. メルカードの券⾯デザインプロセスのお話
29. お客さまについて考える
30. 「⼈類学的」にいうと お客さまをわかろうとする （いしつじゅんか） 異質馴化 （いしつじゅんか） 異質馴化 私 た ち お 客 さ ま
31. 「私たち」について省察する
32. 私たちとお客さまを⾏き来する 「私たち個⼈にとって、新しくクレジット カードを作る意味とは？」 • これまでにない体験 • クレジットカードの概念をアップ デート • ネットからリアルへの新たな挑戦 私たち お客さま 「お客さまにとって、新しいクレジット カードで得られる価値とは？」 • 安⼼して使える • ちょっといい思いをできる • お⾦とうまく付き合えるようになる • 苦⼿な家計管理からの解放 両極端といっていいほどに、対照的な⽴ち位置を認識できた
33. 「⼈類学的」にいうと お客さまの視点から私たちをみつめなおす 馴質異化 （じゅんしついか） 私 た ち お 客 さ ま
34. 私たちを⾒つめ直す馴質異化 異質馴化：お客さまをわかろうとする 馴質異化：お客さまの視点から私たちを⾒つめ直す 私たちの⽴ち位置「じゃない」ことに気づく
35. 「⼈類学的」にいうと （いしつじゅんか） 異質馴化 馴質異化 （じゅんしついか） お客さまをわかろうとする お客さまの視点から私たちをみつめなおす お 客 さ ま 私 た ち
36. 「じゃない」から始まる発想 「◯◯ではない」 「□□じゃない」 「△△ではない」 私たちを形容する語 + 「じゃない」表現がなされた
37. 「じゃない」ことへの葛藤 ‧⾃社サービスをメインで使いたいが、 使っていない後ろめたさ ‧⾃分⾃⾝も⼀番使いたいものを作りたい など、作り⼿でもあり、利⽤者の⼀⼈でも ある私たちの葛藤が語られた
38. 葛藤から⽣まれたキーワード 「少しはみ出す」 「まとう感じ」
39. コンセプトの可視化 これまでのブランドイメージから「少しは み出す」「まとう感じ」を四象限の軸と位 置で表現し、「⼤体ココ」という認識を揃 えていった 縦軸：ブランドらしさ 横軸：クレジットカードとしての新しさ
40. 振り返って思うこと お客さまとの出会いに揺り動かされ 葛藤し私たちが変わっていく 「馴質異化」にこそ意味がある
41. ②リサーチをひらく‧Research Hour ⽂脈に 埋め込む ⾃⼰を 省察する 偶発性に ⾝を委ねる ⾃⼰変容
42. ②リサーチをひらく‧Research Hour • 毎週⽊曜17-18時はお客さまを知る Research Hour！ • プロダクトマネージャー、マーケ ター、CSなどが⾃分⾃⾝でインタ ビューや記録を担当する • 「1時間で得られる経験値としては タイパ最⾼の施策だと思う」（PM）
43. ⽂脈に埋め込むために • とにかくハードルを下げる！ • 事前準備不要、当⽇時間になったら 普通にMTGを始める感覚でインタ ビューに参加できる • インタビュー講座の実施、トークス クリプトの⽤意、リクルーティング の仕組みなどをサポート
44. 偶発性に⾝を委ねるために • 利⽤状況や事前アンケートの⾃由回答で 「お？」っと思った⽅をお呼びする • エクストリームなお客さまが参加してく ださることが多く、脱線しながらも盛り 上がる展開になることが多い
45. ⾃⼰を省察するために • インタビュー後、振り返りで サマリとファインディングスを まとめてもらう • 現時点では施策への活⽤より も、個々⼈がお客さまに対する 理解‧学びを深めることを重 視する
46. Research Hour参加者の声 定期的にお客さまと話して ⾃分の考え⽅の歪みを矯正できる（PM） さまざまなお客さまに利⽤していただい ていることを知ることができ、お客さま 起点な視点に⽴ち返れるよい機会（CS） お客さまや同僚とじっくりと サービスについて話し合える （データアナリスト）
47. Research Hour参加者の声 定期的にお客さまと話して ⾃分の考え⽅の歪みを矯正できる（PM） これって馴質異化、 そして⾃⼰変容なのでは？
48. 振り返って思うこと たった1時間のリサーチでも 頻度や回数を重ねることで ⼈類学のフィールドを ⼩さく再現できるかもしれない？
49. まとめ：⼈類学的なデザインとは • 「⼈類学的」とは他者の視点から⾃分を⾒つめ直すことで⾃分の思い込みに 気づき変わっていくことであり、「⼈類学的なデザイン」とは⼈類学の フィールドで起こるような「馴質異化」とその結果として起こる「⾃⼰変 容」を仕掛け、ものづくりの態度をデザインしていくことである • お客さまとの出会いを通して私たち⾃⾝のことを⾒つめ直す馴質異化を仕掛 けたり、リサーチを通して⼈類学のフィールドを⼩さく再現し、地道に⾃⼰ 変容の種を撒き続けることが⼈類学的なデザイナーの役割なのではないか