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ドイツの蚤の市で計算機の歴史に触れたお話

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April 27, 2025

 ドイツの蚤の市で計算機の歴史に触れたお話

2025年4月27日 テクノロジーカフェ

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  1. ドイツの蚤の市で計算機の歴史に触れたお話 27 April. 2025 Takenori Baba 2025年4月度 テクノロジーカフェ 1.なぜ計算機に魅せられたのか? 関数電卓

    6 ÷ 2(1 + 2) → 1 or 9 どちらが正しいわけでなく人間の決めたルールに従い処理 →処理系に対する理解を持たないと誤った結果を得ることに HP社は,数学者でコンピュータ科学者のウィリアム・カハン氏に関数電 卓のアルゴリズム監修させた →HP社の関数電卓は信頼性が高いと評判が高い 科学技術における信用の連鎖 目的 人類が計算能力を高めてきた歴史を,様々な計算機から追い,その仕組みや 背景を知ることで,現代の情報社会やAIのあるべき姿に対する考察を得る. 2.蚤の市で見つけた計算機 <計算尺を探したきっかけ> 米ソ宇宙競争を率いた二人の技術者の計算尺がスミソニアン航空宇宙 博物館に収蔵されており,次のようなキャプションが付いている. 米 ウェルナー・フォン・ブラウン “AN ENGINEER’S TOOL”(技術者の道具) ソ セルゲイ・コロリョフ THE“MAGICIAN’S WAND”(魔法使いの杖) 実は二人とも独 Albert Nestler A.G.社の計算尺を使用していた. 3.なぜ人類は計算を発展させてきたのか ネイピアの2つの発明 計算尺の仕組み 計算尺はこの対数の考え方を用いて計算する道具 寸法精度がそのまま計算精度に直結するため熱膨張の少ない木材 が用いられた.特に湿度による膨潤が少ない竹を用いたものは高級 品とされた(ヘンミ計算尺などが有名). 入手した計算機 左上 Albert Nestler 計算尺 右上 Summira 7 左 Walther社機械式計算機 ブレーズ・パスカル 1623年6月19日 - 1662年8月19日 フランスの哲学者、物理学者、思想 家、数学者「人間は考える葦である」 1640年代に世界初の計算機パスカ リーヌを開発 ヴィルヘルム・シッカート 1592年4月22日 - 1635年10月24日 ドイツチュービンゲン大学のヘブライ 語教授,1623年に計算機の原理を考 案(未完成) ジョン・ネイピア 1550年2月1日 - 1617年4月4日 スコットランドのバロン。数学者、物理学 者、天文学者、占星術師としても知られ る。 発明1:ネイピアの骨 発明2:対数 https://hpinspace.wordpress.com/2009/09/03/korolyov-and-von-braun/ 画像はWikipediaより引用 画像はWikipediaより引用 画像はWikipediaより引用 画像はWikipediaより引用 Page.1 シッカートはこの原理を計算機に応用しようとした
  2. ドイツの蚤の市で計算機の歴史に触れたお話 2025年4月度 テクノロジーカフェ 対数表 • 対数を使うために必要な数表 • この対数表の精度(桁数)が計算精度 に直結するため,時代を追うごとに大 規模化

    • この対数表を作るために一つ一つの 数字を計算していく必要がある • 当然,初期の対数表には計算ミスや 人為ミスによる間違いが混入し,トラブ ルの元になっていた. • 安全な航行のためには 船の現在位置の算出が 必要 • 計算の誤差がそのまま 位置の誤差になり航海の 成否を左右する.そのた め高い桁数で精度良く計 算したい • 対数はこの計算を容易に するために開発された チャールズ・バベッジ 1791年12月26日 - 1871年10月18日 イギリスの数学者,哲学者、計算機科学者 • 対数表に人為的な誤りが多いことから, 機械式計算機に動力を繋いだ機械で自 動計算させることを考案(階差機関) • 世界初のプログラ ム機能付き計算 機のアイデアであ り,コンピュータの 祖と見る人もいる https://club.informatix.co.jp/?p=2660 計算機の発展の背景 • 計算が大幅な発達を遂げたのが16−17世紀 • この時期に「計算を頻繁に行う必要」があり,「大きな桁数の数字を 精度良く扱う必要」が出てきた • 大航海時代と,それに続く大交易時代,航海の成功が大きな富をも たらす 【余談】クロノグラフ • 船の現在位置(特に経度) 算出に正確な時計が必要 • 英・経度法が制定され揺 れる船の上でも正確に時 刻を測定できる時計開発 を奨励 • 英ジョン・ハリソンが1760 年,世界初のクロノグラフ を開発 計算は儲かる! • この時代,保険制度が発達 • 交易が成功すれば引受人(出資者)はその利益の配分を受け, もし失敗すれば引受人がその損失を補填する • 航海術だけではなく交易の成功率の計算などでも計算が活用さ れ,計算に対する出資が進む. • その権利の債権化などを通じて金融が発達.金融工学という学 問分野も生まれる 現在も金融・保険業界はスーパーコンピューターや量子コンピュー ティングへの投資に熱心 ”In the financial markets, computing speed is a giant advantage. ” (金融市場において,計算速度は大きなアドバンテージである) https://www.goldmansachs.com/careers/blog/possibilities-quantum-computing/ 4.計算尺や機械式計算機の発展の先に 今日のようなコンピュータ社会があっただろうか? 電子計算機時代が来なければ情報化社会はなかったと考える. 機械式計算機 電子計算機 1011 1010 1011 1010 0001 1001 0111 1001 10進数 2進数 27 April. 2025 Takenori Baba • 人間が理解しやすいように10進数→2進数,2進数→10進数 に変換する仕組みが生まれる. • これは言い換えれば10進数の数字という情報を,2進数に結 びつけることができるということ. 符号化 • 本来数値ではない情報を、数値や2進数で表現すること.具体 的には、文字や画像、音声などをコンピュータが理解できる形 で変換するプロセスを指す. • 音などの信号や,画像,動画についても処理をすることで,2 進数のデータで表現できる • 2進法の数字に意味を割り付けることで,広い概念の情報を扱 うことができるようになり,今の高度情報社会につながった 画像はWikipediaより引用 画像はWikipediaより引用 5.符号化された情報社会の未来 符号の誤解釈の問題 機械学習 AI自身が,符号化された情報を自動的にある意味に紐付ける <懸念点> • 標準化のように厳密に意味を定義し紐づけたわけではなく,コン ピュータが自動的に紐付け,誤解釈が生まれる余地がある. • 言語においては一つの言葉が複数以上の意味を持つ可能性が 高い.どの意味を採用するかは話者の立場で変わる. 意味論(Semantics) 【結論】AIを使うにはAI以上に賢くなければならない • AIは非常に強力なツールであり「使わない」という選択肢はない • 計算機は人間の能力を補助するツール.AIもそうあるべきもの. • ツールには何らかの間違い(入力ミス,処理系の特性,誤解釈な ど)が入りうる.その間違いを認識するためにはこれらのツールの 処理を理解しておく必要がある. • AIにおいてはその処理が見えにくい.最近のAIでは判断の根拠文 書が示されることが多く,文書の原典を当たり,当該記述の正確 性・信頼性をしっかり確認することが大事 • それはAI同等,あるいはそれ以上に賢くなければいけないことに 他ならないのではないか? 2進数とそこに結びつける意味のルール作り(標準化など)を通じ, 誤解釈が生まれるのを防いできた. Johnson Space Centerのガイドさん(元アポロ計画技術者)の話 月面着陸をやり遂げたのはNASAの若造たちだ.ジーン・クランツも あの時32歳でしかない. お若いの,あんた今写真撮ってたと思うが,アポロ計画に使われた コンピュータの主記憶装置,その容量全部足してもその写真1枚を 収めることなんてできない.でも我々はそれを使って成し遂げたん だ.今はそれよりもっと良い技術が身近にある.なあ,君たちは技 術を使うのではなく.逆に技術に使われてはいないかい? Page.2