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メディウムの再発明/Reinventing the Medium

Seiji Amashige
August 29, 2020

メディウムの再発明/Reinventing the Medium

MPD Osaka Extra #3 での発表です。
https://mpdosaka.connpass.com/event/183650/

読書会は『暗黙知の次元』(マイケル・ポランニー)でしたが、全然無関係な内容です。

アラン・ケイはコンピュータを「メタ・メディウム」と呼びましたが、メタ・メディウムとは何でしょうか?
美術文脈で「メディウム・スペシフィック」という概念があり、作家は表現のための媒体の固有性を利用して作品を制作します。
私見では、メタ・メディウムとメディウム・スペシフィックという概念は対立するのではないかと思うのですが、この発表ではこの辺りをもやもや考えていました。

なお、「メディウムの再発明」という言葉は、ロザリンド・クラウスという美術批評家の論文から拝借しています。

Seiji Amashige

August 29, 2020
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Transcript

  1. 自己紹介を兼ねて • 美術大学の油絵科で「なぜいまさら絵を描いているのか?500年も前に発明 された技術に何の必然性が?」ともやもやする • そのころ友人とアニメを作り始め(結局未完におわる)、はじめてパソコンを 買ってmpegを生成して「自分が描いた絵が動く」ことに感動すると同時に、 これだけ安価にアニメーション制作が可能なことに衝撃を受け、コンピュー タから謎の万能感を得る •

    30歳で油絵科卒無職(やばい)「IT系なら当分食いっぱぐれないに違いない」 という邪な気持ちからプログラミングを頑張った • アラン・ケイ関連の資料を漁っているとメディウム概念への言及が大量に あって、「あれ、これ10年くらい前に美術文脈で考えていたことと繋がって いない?」と感じる
  2. 最近の開発 • 弁護士むけの業務システムを作っています ◦ https://www.bengo4.com/lawyer/gy osys/ • 直接採用しているわけではないですが、開発 に際していくつか分析して「付箋をメタ ファーとして採用する」事を考えた

    • 付箋はそれ自体「何でも表現できる」ような メタシステムだけど、「付箋ツール」はこれ をコンピュータ上で「再発明する」ことにな る • このとき頭の中に「メディウムの再発明」と いう言葉が浮かんで、「あれ、これって何 だっけ」とおもって検索したら数年前に読ん だ美術の論文のタイトルだった
  3. メディウムの固有性(medium specificity) • 表現はその媒体の特性(medium specificity)を利用する • レッシングは、絵画や彫刻を「空間芸術」、文学や音楽を「時間芸術」とし て分類した ◦ 例:

    小説や漫画表現における「伏線」は表現媒体の継起性を利用している • 芸術家は、自らが扱う媒体の形式的特性を操作するはずだが、芸術の評価の 際の混乱は「ある媒体が別な媒体の効果を模倣する」ことに起因する ◦ 例: 絵画が「物語」を表現するのは「文学」の模倣である
  4. • 手前のトルソと右上の「描かれたトルソ」 ◦ トルソの背中には画布があり、まるで「画 面から飛び出した」ような効果が強調され る • 手前のテーブル上の玉ねぎと左の画布上の「描 かれた玉ねぎ」 ◦

    玉ねぎの芽はわざわざテーブルからはみ出 て立体物であると明示 ◦ 布も描かれた布と実際の布の境界を曖昧化 • 「描かれたX」は「絵画は平面である」という観 念に対応するが、それを裏切るような立体的錯 視の効果を前景化している • 他方で、最終的にはすべてが「描かれたX」でし かありえない • セザンヌは「絵画は平面である」という媒体の 特性と戯れている
  5. 「シミュレートされた絵画」は「絵画」ではなく「シ ミュレートされた絵画」である • 写真は絵画をシミュレートしようとした (pictorialism) • 絵画は?→自然をシミュレートしようとした • 写真が発明されたばかりのときは「写真がもたらす 尺度」が遅れているから、いままで培ってきた尺度

    で評価しようとしてしまう • 新しいメディウムを評価する手段は常に存在しない 「どんなメディアでもその「内容」はつねに 別のメディアである」マクルーハン By George Seeley - Camera Work, No 20 1907, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=5319102
  6. https://miro.com/workshops/ 「付箋」と「付箋ツール」 • miroは「付箋のシミュレーション」だが、Pictorialism が 写真において「絵画のシミュレーション」をしようとしたの とは異なっている • 「ボード」と「付箋」という抽象を通じてソフトウェアを構 築しており、それらは明確に関連付けられている

    • Pictorialismは絵画の表層をシミュレートしようとしている が、miroはいわば「付箋の成り立ち」や「付箋の有用性(の 一部)」をシミュレートしている(ように見える) • 「ボード」や「付箋」という抽象は、「付箋とはなにか」と いう問いから、付箋システムを成り立たせるための抽象に他 ならない • 付箋は「貼ることができる/剥がすことができる/書くこと ができる/色わけできる」ようなものであり、これは付箋シ ステムの有用性の説明になりうる • miroというシステムが行っているのは、こういった実在の システムの抽象を通じて、「付箋の再定義」を行っている
  7. Georges Braque Still Life with Tenora, 1913 • 「描かれたのではない平面」と「描 かれた平面」の共存/相克

    • 「描かれたのではない平面」を取り 込むことで、「描く」ということの 意味は変化する • 「描く」ことはすでに「なにかを再 現する」ことではなく、描く行為に よって地と図を分離するために利用 される • 「描く」という行為の意味そのもの がリデザインされることで「絵画と はなにか」という問い自体が藪蛇に なる
  8. メディウムのシミュレーションと再発明 • 付箋ツールは、単純化すれば「付箋を貼るためのボード」と「付箋」の2つ があればよさそう • この「付箋」と呼ばれるものはただのテキストエリアでよい。おおまかに は、テキストとテキストの所属先の2つの関係があれば、付箋をシミュレー ションすることが可能。 • 実際には、テキストとテキストの所属先という関係は付箋以外のものもシ

    ミュレートできると考えられる。page/bookなど。 • とはいえ、任意のメディアXをシミュレートすることに意義があるわけでは なく、そのメディウムが再発明されることで「新しい尺度」が成立すること に意義がある • メディウムの再発明のプロセスとして、「メディウムXとはなにか」という 問い(シミュレーション)から、なにかしらのブレイクスルーがあるはず