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図書館とは何か

山本 洋平
September 27, 2018

 図書館とは何か

2018年に司書講習を受講した筆者が図書館について考えたことをまとめた文書です。
普段図書館を使っている人やそうでない人、図書館を運営している人の参考になれば幸いです。

感想は筆者のプロフィールへおねがいします。
https://www.linkedin.com/in/yamamotoyouhei/

山本 洋平

September 27, 2018
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Transcript

  1. 何のためにこの文書をつくったのか  図書館の利用者を増やすため  図書館へのニーズが増え、日本中に図書館を増やすため  図書館をトリガーにして街に活気を増やすため  筆者が図書館に就職するため この文書は、主に「図書館というものを知りつつもあまり行ったことがない人」を対象読者としました。

    全体的に利用者目線での構成としましたが、図書館で働いている職員にも参考になれば幸いです。 なお、図書館には学校図書館や大学図書館や専門図書館もありますが、この文書では公立図書館を 対象としました。
  2. 筆者略歴  職歴および学歴  2018年7~9月に聖徳大学にて司書講習を受講  2003~2018年にIT企業にてソフトウェア開発、マーケティング、インフラ系SEを経験  専門領域はストレージ、システム設計、インフラ導入提案 

    大学在学時は情報科学を専攻し数理論理学を研究  興味がある分野  地方創生、地方のマーケット活性化(特に東北地方)  情報資源の未来への継承方法(IT系だけでなく図書に記載された情報も含む)  日本各地の図書館の設備(検索用端末のようなITシステムだけでなく 建物の構成や設置されている什器、蔵書構成を含む)
  3. 図書館というとこんなイメージで は?  大きな建物、多くの本棚、多くの本がある  大声を出すと怒られる  常連の利用者はインドア派、運動が苦手、メガネ率高し  新聞を読みに来る年配者

     閲覧席は試験勉強中の学生のたまり場  子ども向け絵本があり、ときどきお話会のイベントをやっている  検索用端末というパソコンがある  カウンターにいる職員は座って黙々と作業している 静かな環境で集中して勉強するための空間だったり、おとなしくて読書好きの人がよくいたりするところ、 親子連れや年配者の憩いの場、そんなイメージではありませんか。
  4. 図書館に対する誤解1  「近所の図書館は本棚に読みたい本がない。だから読みたい本は本屋やネットで買う」 →本棚にないからその図書館で持ってない、とは限りません。 図書館では利用者が直接さわれる本棚に陳列されている本(=開架されている本)と、 利用者が直接さわれず職員のみさわれる本棚に陳列されている本(=閉架されている本)が あります。読みたい本の所在は検索用端末で検索するか、カウンターの職員に相談しましょう。 職員に話すときは「レファレンスサービス」というキーワードを出すと通です。 →図書館で持ってないから本が読めない、とは限りません。 日本中の図書館は相互につながっていて図書館同士で本の貸し借りができます。

    また博物館や美術館ともつながっていて図書館の外の施設を紹介してもらうこともできます。 読みたい本をよその図書館が持っていることがあるので、カウンターの職員に相談しましょう。 職員に話すときは「レフェラルサービス」というキーワードを出すと通です。 →ちなみに本棚のことを「書架」と呼ぶと通です。 図書館同士でつながっているので、あなたの最寄りの図書館の規模の大小は問題ではないのです。 あなたの最寄りの図書館は、広大な図書館ネットワークの入口に過ぎません。 「近所の図書館、本が少なすぎて役に立たない」と切り捨てるのは早計です。
  5. 図書館に対する誤解2  「図書館は静かだしゲームとかの誘惑がないので集中して試験勉強できる」 →図書館の座席は、その図書館が提供する情報を閲覧する人のために設置されています。 たとえば図書館に置いてある本や新聞を読んだり、音楽CDや映画DVDを視聴したりする人を 対象に設けられた席です。 そのため、もし勉強というのが「自宅から持ってきた教科書とノートを使った勉強」であれば 上記の対象からは外れます。 ただし図書館は「利用者が積極的に学び、成長することを促進するための施設」という 側面があり、図書館の座席を使って勉強することでその人が成長できるのであれば

    図書館は役割を果たしている、という見方もできるのです。 上記および、利用者とのトラブルを避けるため、図書館職員は 「図書館の資料を読んでないなら席を空けなさい」と強く言うことができません。 せいぜい「この席は図書館の資料を読む人が優先です」と貼り紙で注意する程度でしょう。 それに元々は試験勉強が目的でも、ふと眺めた本棚に面白そうな本を見つけて 「この本借ります、利用者登録します」と言ってもらえれば職員は万々歳です。 図書館を勉強席で使っていいかはグレーゾーンなのですが、上記を踏まえて「うまくやる」のが吉です。 ただし筆者は、勉強目的に特化して飲食OKの公共施設を設けて、そちらに誘導すべきと考えます。
  6. 図書館に対する誤解3  「図書館で働いている人ってカウンターで座って貸出手続きするだけだし暇で楽な仕事だよね」 →図書館の職員の仕事はカウンターに座っているだけではありません。 書架に図書を並べる仕事や、世の中に無数にある本から図書館に置く本を選ぶ仕事もしてます。 図書館の外に出て学校でおすすめの本を紹介したり、住民参加のイベントを企画したりもします。 カウンターにいる姿は職員の仕事の一端に過ぎません。 →カウンターにいる職員はあなたの相談を待っています。積極的に相談事を持ちかけましょう。 カウンターにいる職員は情報を探すスペシャリストです。 あらゆるツールを駆使してあなたが欲しい情報を探します。

    あなたは日常生活でわからないことがあったら手元のスマートフォンやパソコンを使って Googleで適当にキーワードを入力して検索していませんか? Googleは1つのツールとしては有用ですが入力されたキーワードに対する機械的な処理なので あなたが欲しい情報が必ず上位に表示されるとは限りません。 人間の判断も加味した正確な情報を知りたいと思ったら図書館の職員に相談しましょう。 「こんなこと図書館の人に質問してもいいのかな」と遠慮せず聞きましょう。 図書館で働く司書は情報検索について高度なスキルを有していますが、それを充分に発揮できるのは あなたからの相談を受けるときです。相談を受けて答える機会を増やすことで、司書の高度なスキルが 広く認知され、地位向上、給与向上につながります。 カウンターに座っているだけだから給料は安価でいい、という発想は間違っています。
  7. 図書館は何のための施設?  保管している本を、席に座って読むための施設?  保管している本を、借りて読むための施設?  空調が完備していて、快適に暇つぶしするための施設?  静かな空間で、集中して勉強するための施設? 

    CDの音楽を聞いたりDVDの映画を観たりするための施設?  新聞を読んで世の中のニュースを知るための施設?  未知の知識に触れる機会を提供して、利用者が賢くなるための施設?  町の情報を後世に残すための施設?  インテリのデートスポット? 上記はいずれもある程度は当たっていますが、図書館の本質をとらえきれていません。 上記だと「使いたい人だけが行きたいときに行く施設」に過ぎません。 図書館は住民全員が関係する、もっと重要な役割を担っています。
  8. 図書館は何のための施設?  図書館の本質的な役割は 「住民ひとりひとりが、生きるために必要な情報 (嘘情報ではない正確な情報源)を最速で提供する施設」です。 図書館が大量の本を抱えているのも、本のジャンルごとに番号付けしているのも、 検索用端末を設置しているのも、カウンターで相談に乗ってくれる職員がいるのも、 すべては住民の「知りたい、知らなければ生きていけない」という声に 最速で応えるために推進する施策です。 

    もし世界中のすべての情報が、本という「紙でつくられた、形があり場所をとるもの」 ではなく電子データで閲覧できるようになって、住民全員が 「電子データを使えば欲しい情報を知るのに充分だから、紙の本はいらない」 と言ったならば、図書館は大量の本を抱えるという施策を続ける必要はないのです。 将来、情報の電子化が完遂し、本よりも電子端末がスタンダードになるよう人類が変われば、 図書館という施設は現代の建物よりもっとずっと小さくなります。 これは夢物語ではなく、人類の歴史が続く限り情報は右肩上がりに増えるので いずれは実現しなければならない人類の課題です。 でなければ全国の図書館に資料を分散して保管しても、いずれスペースの限界が来ます。 (もしくは膨張し続ける宇宙空間を、資料の保管庫にするか。 スペースは確保できますがこれこそ夢物語でしょう)
  9. 図書館は何のための施設?  図書館の本質的な役割は 「住民ひとりひとりが、生きるために必要な情報 (なおかつ、嘘情報ではない正確な情報源)を最速で提供する施設」です。 この役割に沿うと、  図書館は「使いたい人だけが行きたいときに行く施設」という “なくても困らないよね”という扱いをされる施設ではありません。 住民は誰もが、生きるために情報が必要となる瞬間に直面します。

    その瞬間を迎えたときにまず駆け込むべき施設は図書館であり、 図書館は住民生活を維持・発展させるための必須となる施設です。  図書館はすべての住民が利用しやすい(情報が必要になったときにすぐ行ける)場所に 設けるべきです。  図書館は滞在型施設ではありません。 むしろ情報提供の高速化を極めた結果、住民ひとりの1回あたりの滞在時間が短い方が 図書館は適切に機能しているといえるのです。 1人の住民が10,000分滞在するより、10,000人の住民が1分滞在する方が理想的であり 司書の情報検索スキルが充分に発揮できる環境だといえます。  図書館は静かな環境よりも、職員や利用者の会話が頻繁に飛び交い 情報の授受が活発に行われる方が、情報提供の高速化が図れて理想的です。 職員と利用者との会話に、別の利用者が助言したっていいのです。 たとえば利用者がフランス語で話しかけてきて職員がフランス語がわからないときに 別の利用者が「フランス語わかります」と助け舟を出せる環境が望ましいです。
  10. 司書はアスリートである  司書は図書館の本質的な役割に沿い、 「住民ひとりひとりが、生きるために必要な情報 (なおかつ、嘘情報ではない正確な情報源)を最速で提供する専門家」です。 すなわち、スピードと正確性を極めるアスリートです。 カウンターで椅子に座ってぼーっとしているわけではありません。  ベテランの司書といえども、図書館内のすべての本の内容を 記憶しているわけではありません。

    また司書の経歴によっては特定の専門分野(文学や歴史や数学やITなど)に 詳しいこともありますが、すべての専門分野に詳しい司書はいません。 すべての司書にあてはまることは、 「住民ひとりひとりが、生きるために必要な情報 (なおかつ、嘘情報ではない正確な情報源)を最速で探す手段を知っている」 という点です。 たとえば数学に詳しくない司書でも、数学に関する情報のありかを 突き止める手段を知っている、ということです。  司書は資料の分類や配置場所を意識し、最短の手順で必要な情報を探し出すことを 戦略的に行います。
  11. 司書はアスリートである  利用者から相談を受けたら、相談内容に該当しそうな資料を 各分類ごとにイメージします。 桜の花について 書いてある本を 教えてください 0類:百科事典 1類:宗教と桜にまつわる図書 2類:桜の名所に関する図書

    3類:桜に関する風習を扱った図書 4類:植物としての桜の特性を扱った図書 5類:桜を使った工学を扱った図書 6類:園芸や林業に関する図書 7類:桜を題材にした美術資料 8類:各国の言語で桜を何と呼ぶか 9類:桜をテーマにした小説
  12. 司書はアスリートである  利用者から相談内容の詳細を確認しつつ、分類の絞り込みを行います。 必要に応じて分類をさらに細分化し、分類のツリーを降りていきます。  2類の中でも20~29類のどれか、29類の中でも290~299類のどれか、という具合です。 知りたいのは 桜の花の植物としての特徴ですか? 桜の花の育て方ですか? 桜の花の名所ですか?

    桜の花の名所を知りたいです 0類:百科事典 1類:宗教と桜にまつわる図書 2類:桜の名所に関する図書 29類:地理資料 3類:桜に関する風習を扱った図書 4類:植物としての桜の特性を扱った図書 5類:桜を使った工学を扱った図書 6類:園芸や林業に関する図書 7類:桜を題材にした美術資料 8類:各国の言語で桜を何と呼ぶか 9類:桜をテーマにした小説
  13. 司書はアスリートである  司書は頭の中で分類のツリーを往来し、調査対象から除外してよい分類を グレーアウトして考慮の対象外とする、という戦略をとります。 この戦略によって図書館内のすべての書架のうち必要な場所だけ参照し 情報検索の高速化を図ります。 0類:百科事典 1類:宗教と桜にまつわる図書 2類:桜の名所に関する図書 29類:地理資料

    3類:桜に関する風習を扱った図書 4類:植物としての桜の特性を扱った図書 5類:桜を使った工学を扱った図書 6類:園芸や林業に関する図書 7類:桜を題材にした美術資料 8類:各国の言語で桜を何と呼ぶか 9類:桜をテーマにした小説 0類 1類 2類 カ ウ ン タ ー 入口 3類 4類 5類 6類 7類 8類 9類 新 着 図 書 参 考 図 書 視 聴 覚 資 料 桜の花の名所に関する本をご案内します
  14. 司書は検索エンジンである  司書は利用者からの相談に対して高速かつ正確な情報源を提供する 検索エンジンです。  検索エンジンというとGoogleやYahoo!が有名ですが、 司書はそれらと敵対する立場ではありません。 むしろ一般的な検索エンジンをツールとして活用し さらに蓄積した知見を加味して正確な情報源を提供します。 Google

    Yahoo! NDL Search NDL-Bib Web NDL Authorities リサーチ・ナビ レファレンス協同データベース 日本十進分類法(NDC) 日本目録規則(NCR) 基本件名標目表(BSH) 書架に並んだ図書の背表紙を記憶 図書館外の施設の連絡先 参考図書 以前対応した相談を踏まえた知見
  15. 司書と読書  「趣味が読書だから将来は司書になりたい」は正しいか? →そもそも一般論として、読書を趣味だというのは適切ではありません。 読書は「人間が生きるために必要な情報」を読み取るという 生きるための必須の活動であって、誰もができないと困ることです。 趣味という生ぬるい括りのものではありません。 親が子に読み聞かせをしたり、学校で読書を推奨したりしているのは 誰もが人生を通して、資料から情報を読み取る(資料の内容を理解する) という活動を抵抗なく行えるようにするためです。

    →皆さんは「紙に文字が並んでできる文、文が並んでできる文章」に 普段当たり前のように接して、文章から筆者の意図を読み取っていますが これってすごいことなんですよ! 紙や文字の歴史を知ると、人類が編み出したシステムに驚愕します。 なお読書といっても小説を読む必要はなく、情報を読み取る活動は すべて読書です。新聞やネットニュースを読むのだって読書です。 むしろ小説を読む習慣があって特定の作家に思い入れが強い人は、 その作家の文学館ならともかく、広いジャンルの資料を扱う図書館には 向きません。図書館に置く本を選ぶときに好みの作家に偏るので。
  16. 図書館と街づくり  図書館の本質的な役割は 「住民ひとりひとりが、生きるために必要な情報 (なおかつ、嘘情報ではない正確な情報源)を最速で提供する施設」です。 図書館がない街では住民は自力で情報を探さなければなりません。 自力で正確な情報源を見つけられない住民はその街では生きられず、 図書館がある街に移住することになります。 したがって図書館が住民全員が利用できるところに存在するかどうかが 住民が定住し、街が存続・発展するかどうかに直結します。

    図書館を中心とした街をつくり、街の決まりごとや地域情報、 新たな産業を興すための予備知識に関する情報などを図書館に集約し、 「住民はわからないことがあれば図書館に聞くこと」という仕組みを 設けることで、街の存続・発展につながります。 図書館は住民の誰もが使える街の総合案内所です。  日本各地の図書館は毎年「利用者登録数」「貸出図書数」の統計をとっていますが 筆者は貸出がどれだけ行われているかは重要でないと考えます。 「生きるために必要な情報を最速で提供する」という処理に貸出は必須ではないので。 (貸出サービスをやるべきではない、という意図ではありません) また利用者登録は住民票作成時に併せて行うべきとも考えます。 「この街へようこそ、どうぞ図書館を使い倒してください」という街であるべきです。
  17. 「図書館」という施設名  歴史的な経緯で「図書館」という施設名になっていますが 「住民ひとりひとりが、生きるために必要な情報 (なおかつ、嘘情報ではない正確な情報源)を最速で提供する施設」であり 街の総合案内所の役割を担うことを考慮すると、適切ではありません。  人類の歴史上、情報を記載するものが本(図書)という形しかなかった時代は 情報を提供する施設は「図書がある館(図書館)」とイコールでした。 

    現代において情報を記載するものとしてインターネット上の記事が普及し、 世の中の最新の情報や将来予測を即座に文書化するには、 出版が必要で頻繁なアップデートが難しい本(図書)よりインターネットの方が 適しています。 そんな時代において情報を提供する施設の名称として「図書がある館(図書館)」 は適切ではありません。  「図書館」という字面から 「本屋にない本を読みたい人とか、読書が好きだけど本を買うお金がない人が 行くところでしょ?」と思われることを懸念します。 図書館は本(図書)ではなく情報を扱う施設であり、 図書館は住民のうち条件に合致する人だけが使う施設ではありません。
  18. 筆者挨拶  この文書をここまで読んでくださってありがとうございます。 お手間取らせて恐縮です。  筆者略歴の通り筆者は図書館とは別の分野で働いてきまして、 図書館で働いたことはありません。 その割には図書館の何もかも知ってるかのような言い回しで恐縮です。  この文書を通じて言いたかったのは、図書館は決して

    「本を読むのが好きだけど本を買うお金がない人」「席で勉強したい人」 「空調のきいた施設でのんびり休みたい人」のためだけのものではない、 ということです。 特に公立図書館は住民の税金で建てて運営しているので、 すべての住民は使い倒す権利がありますし、 使い倒さないと納税して損するだけです。 はじめから図書館を建てずに必要な情報は住民各自で探すと覚悟を決めるか、 建てた以上は全員で使い倒すか、のどちらかになるべきなのです。
  19. 筆者挨拶  日本の全国的な傾向として、市町村の人口のうち その都市の公共図書館に利用者登録しているのは1割程度なのだそうです。 そして図書館の職員に相談をするレファレンスサービスの利用者は さらに少ない(サービスの存在すら知られていない)です。 上記から「住民のほとんどが利用してないし、職員がやることなんて 書架に本を並べるのと貸出返却の手続きくらいなんだから 低賃金の非正規職員にしてコストカットした方が住民のためになる」という 声もあがるかと思います。

    そうじゃなくてレファレンスサービスこそが図書館の根幹であり、 司書は高速かつ正確に情報を探し出すスペシャリストなのだから 住民は司書を使い倒して、司書は相応の賃金を得るべき、という意図を この文書には込めたつもりです。 この文書が図書館業界を変える起爆剤となれば幸いです。 電気、ガス、水道といったライフラインに情報が加わり、情報を司るのが 図書館である、という風潮が一般的になることを期待します。
  20. 筆者挨拶  もうひとつ日本の全国的な傾向として、公立図書館の数は 年々増加傾向にあるそうです。 人類の歴史が続く限り情報は右肩上がりに増えるので、情報の増加に伴い 図書館の数が増えるのは自然なことです。 今後もこの傾向が続くことを期待しますが、 「インターネットで個人で情報が探せる時代に図書館という箱物は必要ない」 という声もあがるかと思います。 ただ、情報は後世に伝えるのが鉄則であり、情報は人間より長生きなのです。

    100年後、1,000年後に現代の情報を責任もって伝えるという任務を インターネット上のサービスを行う企業が全うできるのか疑問です。 企業によっては10年後にどうなっているのかもわからないような 危うい経営のところもあるのではないでしょうか。 図書館という公的機関が責任もって任務を担い、その対価として税金を使う。 これこそがあるべき姿だと思います。
  21. 筆者挨拶  この文書に対する反論もあると思います。  利用者目線では、前述の通り市町村人口の1割しか利用者登録していないので 大半の住民は図書館に行く習慣がないのだと思います。 実際、図書館に行かなくても生活に困ってない、という意見はあるとは思います。 ただ、一個人として図書館を使っていなくても、街として情報を管理・提供する 施設が存在しないと、その街はゆるやかに衰退すると思います。 たとえば街で長年続く祭りがあるとして、その祭りの起源や歴史的背景を記載した

    郷土資料を保管する図書館がなかったりすると、いずれ 「この祭りってなんで始まったんだっけ?」というのがあいまいになり廃れます。  図書館職員目線では、限られた人員で図書館を運営しているのに すべての住民が図書館に押し寄せてきたらパンクする、とか アスリートじゃないし相談受けたときの頭の中のイメージが違う、とか 意見はあるとは思います。 ただ、図書館がパンクするくらい利用者が増えたら人員を増やすなり 図書館を増やすなりの融通はきくのではないかと思います。 むしろ恐れるべきなのは利用者が減って図書館や街がまるごと消し飛ぶことです。
  22. 筆者挨拶  最後に、図書館を礼賛しつつも、筆者としては図書館の限界も感じています。 限界を超える図書館が出ることを期待します。  IT業界で生きてきて痛感したのですが、世の中には文書化されていない、 資料として残されていない情報が大量にあるのです。 特にソフトウェアの世界では「実行してみたらこんな挙動になったけど そうなることを明記した文書はどこにもない」ということは日常茶飯事です。 遠慮せずに図書館の職員に聞きましょうとこの文書で書いておきながら

    いくら調べても情報源が出てこないことはあるのです。  図書館は扱うものの特性上、過去の情報を蓄積する施設になりがちです。 一方、利用者が知りたいのは昔のことだけでなく、今の世の中のトレンドや 住んでいる街が今後どうなるのか、といった現在や未来の情報もあります。 「未来のことは誰にもわかりません」と答えるのは簡単です。 ただ、ITの世界では蓄積したビッグデータから今後起こりうることを 予測する仕組みが登場してきています。 もっと身近な例だと天気予報がありますね。 将来のトレンドを論理的に説明できるレファレンスサービスが出てきたら 起業家にウケるかもしれません。