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ZOZOのAI活用実践〜社内基盤からサービス応用まで〜

 ZOZOのAI活用実践〜社内基盤からサービス応用まで〜

2025/09/30 にPOST Dev 2025で発表した登壇資料です。
https://lp.nijibox.jp/cp/postdev/

株式会社ZOZO
CTO
瀬尾直利 (@sonots)

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ZOZO Developers PRO

September 30, 2025
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Transcript

  1. © ZOZO, Inc. 株式会社ZOZO 執行役員 兼 CTO Ruby, Fluentd コミッタ

    瀬尾 直利 / そのっつ 2019.01 (株)ZOZOテクノロジーズ入社 (前職: DeNA) 2019.04 MLOps立上げ 2020.04 ZOZOTOWNリプレイス戦略, PF-SRE立上げ 2021.04 EC基盤本部長 / CTO委員長 2021.10 (株)ZOZO 技術本部長 2022.04 技術本部長 兼 VPoE 2023.06 執行役員 兼 CTO 2 @sonots 

  2. © ZOZO, Inc. https://zozo.jp/ 3 • ファッションEC • 1,600以上のショップ、9,000以上のブランドの取り扱い •

    常時107万点以上の商品アイテム数と毎日平均2,700点以上の新着 商品を掲載(2025年6月末時点) • ブランド古着のファッションゾーン「ZOZOUSED」や コスメ専門モール「ZOZOCOSME」、シューズ専門ゾーン 「ZOZOSHOES」、ラグジュアリー&デザイナーズゾーン 「ZOZOVILLA」を展開 • 即日配送サービス • ギフトラッピングサービス • ツケ払い など
  3. © ZOZO, Inc. https://wear.jp/ 4 • あなたの「似合う」が探せるファッションコーディネートアプリ • 1,900万ダウンロード突破、コーディネート投稿総数は1,400万 件以上(2025年6月末時点)

    • コーディネートや最新トレンド、メイクなど豊富なファッション 情報をチェック • AIを活用したファッションジャンル診断や、フルメイクをARで試 せる「WEARお試しメイク」を提供 • コーディネート着用アイテムを公式サイトで購入可能 • WEAR公認の人気ユーザーをWEARISTAと認定。モデル・タレン ト・デザイナー・インフルエンサーといった各界著名人も参加
  4. © ZOZO, Inc. 5 目次 ZOZOのAI活用実践 • 社内インフラ整備 • 業務効率化事例

    • サービス/プロダクト活用 • 課題と展望 目次
  5. © ZOZO, Inc. 7 ZOZO社で利用可能な生成AIツール チャットツール • Microsoft Copilot •

    Gemini Advanced • NotebookLM Plus • ChatGPT Enterprise コーディングAI • GitHub Copilot (coding agent) • Claude Code • Gemini CLI • Codex CLI 生成AIモデル基盤 • Amazon Bedrock • Gemini / Vertex AI Model Garden • OpenAI API その他(一部の部署でのみ利用中) • Dify • Figma AI
  6. © ZOZO, Inc. 8 生成AIインフラ整備の歴史 〜 チャットツール 〜 • 2023年12月:Microsoft

    Copilot (旧 Bing Chat Enterprise) • 2025年03月:Gemini Advanced / NotebookLM Plus • 2025年08月:ChatGPT Enterprise Microsoft 365 付属 Google Workspace 付属 背景: Microsoft Copilot、Gemini を利用できていたが、 個別の要望により、部署別での ChatGPT Team 契約が発生 ChatGPT Connectors のような社内システムとの連携機能も生 まれており、統括管理するために Enterprise を導入 https://corp.zozo.com/news/20250922-007248/
  7. © ZOZO, Inc. 9 生成AIインフラ整備の歴史 〜 コーディングAI 〜 • 2023年05月:GitHub

    Copilot の全社展開 • 2025年03月:Cline / Devin / Cursor の試験導入が進む • 2025年06月:Claude Code (Amazon Bedrock) の試験導入が進む • 2025年07月:Claude Code (Maxプラン) / Gemini CLI の全社展開 • 2025年09月:Codex CLI / GitHub Copilot coding agent の全社展開 背景: 6月までは「最終的に Copilot 一強になる」にベットして GitHub Copilot を推進。他のコーディングAIは部署ごとの 試験利用に限定 6月以降、Claude Code の評価が急上昇したことで、マルチ スタンダードを容認。変化に備え、予算は「開発AIエージェ ント」として柔軟に運用できる形とした。 2025年7月、全エンジニアを対象に1人あたり月額200米ドルの 基準のもと、開発AIエージェントの導入決定 https://corp.zozo.com/news/20250729-007217/
  8. © ZOZO, Inc. 目次 ZOZOのAI活用実践 • 社内インフラ整備 ◦ 生成AIツールの導入判断とガバナンス •

    業務効率化事例 • サービス/プロダクト活用 • 課題と展望 目次
  9. © ZOZO, Inc. 11 導入判断と費用対効果の計測 導入判断 • 特定部署への試験導入で「どういう業務が」「どれぐらい時間削減できたか」ヒアリング ◦ コーディングAI:開発業務が3割〜5割削減

    ◦ ChatGPT:月9〜16時間削減 • コストメリットがあると判断して全社展開を決定 今後の効果実績計測 • アンケートは個人の所感に依っているため、データで計測したい • 特に、開発業務については、コーディングだけが3割〜5割削減されても、要件定義、レビュー、 QAなどフロー全体を考えると、効果が如何ほどなのか不明 • 模索中 (本日の発表には間に合いませんでした)
  10. © ZOZO, Inc. 12 生成AIツールの利用ルール ①著作権、肖像権、商標の侵害に注意 • アウトプットされた情報が著作権、肖像権、商標を侵害していないか確認すること ②入力情報を学習させないこと •

    情報漏えいの可能性を念頭に、不必要な社外秘情報は入力しないこと
 ③人のチェックを通すこと
 • 生成結果(データ)については、人によるチェックを実施の上で活用すること
 • 生成結果が大量で人でチェックすることが難しい場合、システム化するなどして対応すること
 ④会社メールアドレスでアカウントを発行して利用すること
 ※登壇用の簡易版であり、社内にはより詳細なチェック項目があります
  11. © ZOZO, Inc. 13 生成AIツールの導入審査 (MUST) 入力内容を学習されないようにする設定が可能なこと (SHOULD) その設定を管理サイドで一括管理できること (MUST)

    アカウント管理(退職者管理)ができること (SHOULD) アカウントをSSO管理できること (WANT) 生成物について訴訟された場合の補償があること (MUST) 政府が経済安全保障上の懸念を示している国または地域にデータを保管していない (MUST) 反社チェックに通っていること (MUST) その他、なんらかセキュリティ、法的な懸念がないこと (MUST) 情報セキュリティ部のチェックに通っていること (MUST) 法務部のチェックに通っていること ※登壇用の簡易版であり、社内にはより詳細なチェック項目があります
  12. © ZOZO, Inc. 14 目次 ZOZOのAI活用実践 • 社内インフラ整備 • 業務効率化事例

    • サービス/プロダクト活用 • 課題と展望 目次
  13. © ZOZO, Inc. 15 業務効率化事例 〜生成AI活用推進〜 社内インフラを整備しただけでは不十分。生成AIを活用し効果を出してこそ意義がある。 2023年当時、開発部門では GitHub Coplit

    の導入や、生成AI技術のR&Dが進んでいたが、 ビジネス部門においての生成AI活用はほぼ未検討であった。 2023年9月、生成AI活用推進のためのプロジェクトとチームを発足。 ビジネス部門へのニーズヒアリングから活動を開始し、生成AIツールの開発と提供を行なった。
  14. © ZOZO, Inc. • 情報システム部門の問い合わせ対応ボット • SNS投稿文生成ツール • IR情報の自動収集&サマリ作成ツール •

    売上に関するトピックス作成ツール 23個のAIツールを9カ月で開発し、ITmediaの記事にも取り上げていただいた 生成AI業務活用プロジェクト
  15. © ZOZO, Inc. 目次 ZOZOのAI活用実践 • 社内インフラ整備 • 業務効率化事例 ◦

    コーディングAI活用とエンジニアの生存戦略 • サービス/プロダクト活用 • 課題と展望 目次
  16. © ZOZO, Inc. コーディングAIエージェントの活用 GitHub Copilot (無印) の時代は、人間が主体で、AIはあくまでCopilot (副操縦士) だった。

    2025年に Cline / Devin のような、AIが主体で、人間がナビゲーターとなるコンセプトのツールが登場 2025年6月に Claude Code の精度が飛躍的に向上 例) 業務委託に1週間で頼もうとしていたPoCが、1日で完了 パラダイムシフトが進行中。エンジニアの生存戦略も変化しつつある AIエージェントを利用したコーディングの流れ 1. 人間: AIエージェントにやりたいことを指示 2. AI: コード生成 3. 人間: 動作確認 4. 人間: 結果をAIエージェントにフィードバック 5. AI: コード修正 6. 人間: 実装が微妙なところは直す 3~6を繰り返す 人間はコードをほとんど触らない 特にプロトタイピングは AIで飛躍的に速度UP
  17. © ZOZO, Inc. コーディングAI時代のエンジニア生存戦略 このAI時代にエンジニアが生きのこるためには (1) AIと共創する力 • AIエージェントに適切な指示を出すプロンプト設計力 •

    生成結果を的確に評価・修正するレビュー力、クリティカルシンキング (2) 設計・抽象化スキル • 仕様を自然言語で整理し、システム構造に落とし込む力 • 大局的なアーキテクチャ設計や非機能要件(セキュリティ・パフォーマンス)を考える力 (3) ドメイン知識の深化 • LLMは汎用的なコード生成は得意だが、業務知識やプロダクトの背景理解は人間の強み • 特定領域(金融、物流、ファッションなど)の知識と技術を組み合わせると代替されにくい (4) 人と組織の橋渡し • ステークホルダーとAI/開発チームの間をつなぐ役割 • 技術を「どう使うか」をビジネスの文脈で提案できる力 そして、時代についていく柔軟性
  18. © ZOZO, Inc. コーディングAI時代のエンジニア生存戦略ロードマップ AI活用: AIに指示してコードを書か せ、出力を読んで理解する。AIを 駆使して既存コードを読解する。 レビュー: 「なぜこのコードは動く

    /動かないか」をAIに質問し、解 釈力を磨く。 基礎スキル強化: CS基礎を押さ え、AIではなく自分の頭で考える 「理屈の理解」を持つ。 設計力: 仕様を整理、抽象化して伝え る(人にもAIにも)力を持つ ドメイン知識: 「業務 x 技術」の掛け 算で強みを持つ 品質の責任: 自動生成コードのリスク を見抜く力を強化する。 アーキテクト力: 大規模システムの 構造を設計する。 人と組織の橋渡し: ステークホル ダー、ビジネス側、AI/開発チー ムをつなぐ。 ガバナンス: 倫理、ライセンス、セ キュリティを管理する。 ジュニア期 基礎的なコーディング力を積む ミドル期 プロジェクトの一部を任される シニア期 組織全体の「意思決定」や「責任」
  19. © ZOZO, Inc. 25 目次 ZOZOのAI活用実践 • 社内インフラ整備 • 業務効率化事例

    • サービス/プロダクト活用 • 課題と展望 目次
  20. © ZOZO, Inc. 27 ZOZO社のAIサービス活用の歴史 2018年:採寸用ボディースーツ 「ZOZOSUIT」 ※2025年現在、サービス終了 2019年:ZOZOTOWNに類似アイテム画像検索を導入 2019年:スマホで簡単に足の3Dサイズが計測できる「ZOZOMAT」

    2020年:髪型からコーディネートが検索できる新機能「髪型別コーデ検索」 ※2025年現在、サービス終了 2020年:ZOZOTOWNにパーソナライズされた検索おすすめ順を導入 2021年:自宅で手指の計測が可能に!ZOZOMAT for Hands 2021年:フェイスカラー計測ツール「ZOZOGLASS」 2022年:ZOZOTOWNのルールベースの「おすすめアイテム」機能をAI化 2023年:画像認識を用いたZOZOTOWN商品に対するシーン・スタイルタグ予測 2024年:WEARにファッションジャンル診断やフルメイクARを導入 2024年:Two-TowerモデルによるZOZOTOWNのHOME面モジュールの並び順パーソナライズ 2025年:WEAR関連コーデレコメンドプロジェクトへのVertex AI Vector Search導入と実践 2025年:マッチングアプリ「ZOZOマッチ」に全身画像生成機能
  21. © ZOZO, Inc. 31 AIサービス活用事例〜パーソナライズ〜 2020年、検索結果の並び順パーソナライズ (Learning to rank) 「おすすめ順」をリリース

    「おすすめアイテム」をルールベースから機械学習モデ ル (Google Recs AI) ベースにリプレイス https://techblog.zozo.com/entry/zozotown-item-recommend-infra-arch https://techblog.zozo.com/entry/zozotown-search-personalize
  22. © ZOZO, Inc. 目次 ZOZOのAI活用実践 • 社内インフラ整備 • 業務効率化事例 •

    サービス/プロダクト活用 ◦ 生成AIのサービス活用とAIエンジニアの役割変化 • 課題と展望 目次
  23. © ZOZO, Inc. 35 生成AIをサービス利用する際に気をつけること ①法規制・倫理的配慮 • 著作権や商標侵害につながる生成物への配慮 • 差別的・攻撃的・不適切なコンテンツ生成の防止

    ②セキュリティ • Prompt Injection(入力を悪用して意図しない動作をさせる攻撃)への耐性 • データ漏洩リスク(個人情報や内部情報の不適切な出力)への耐性 ③品質・ユーザ体験
 • ハルシネーション(事実誤認の生成)の制御
 • 適切なフィードバックループ(ユーザーからの通報や改善プロセス)
 ④運用・モニタリング
 • ログ監査
 • 異常検知(不適切出力が増えた場合の早期対応) これらのシステム的な対応(LLMOps)が必要 例)Langfuse, Datadog LLM Observability, Google Model Armor の導入など
  24. © ZOZO, Inc. 36 生成AI時代におけるサービス開発とAIエンジニアの役割変化 生成AI以前 • PoC構築:AIエンジニアが主導してPoCを実装 • 検証~本番化:技術検証後にエンジニアが本番システムを構築

    • AIエンジニアの役割:実装・検証・運用を一貫して担当。AI/MLモデル開発が中心的スキル 生成AI以後 • PoCの民主化:非エンジニアや企画職でも生成AIで短期間にPoCが可能に • フローの分岐: ◦ 生成AIで不可能 → 従来通り、AIエンジニアにPoCを依頼 ◦ 生成AIで完結可能 → 社内サービスは即リリース、本番システム開発はAIエンジニアに依頼 • AIエンジニアの役割: ◦ セキュリティ・保守性・品質保証の役割を期待されるように(なってしまった) ◦ LLMOps(LLMモデルを安定稼働させるための運用・監視・改善)が新たな必須スキルに
  25. © ZOZO, Inc. 37 目次 ZOZOのAI活用実践 • 社内インフラ整備 • 業務効率化事例

    • サービス/プロダクト活用 • 課題と展望 目次
  26. © ZOZO, Inc. 38 課題と展望 社内インフラ基盤 • 生成AIツールがめまぐるしく進化する時代なので、素早く臨機応変に対応する必要性 • マルチスタンダードを許容

    コーディングAIによるエンジニアのあり方 • エンジニアとしてのAIとの付き合い方を考える必要性 • 費用対効果の定量評価の仕組みをつくる • もし仕事が3割楽になるなら、新しい開発を3割アサインできるようにCTOとして仕事を用意する サービス/プロダクト活用 • 生成AIによって、AIエンジニアがいなくてもPoCできる事例が増えてきている • 一方で、エンジニアがいないと保守性・セキュリティ・性能を担保できない • LLMOps の整備が急務になってきている