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理科における資質・能力の育成を意図した実践研究のメタ分析 ―東日本地域の授業実践を対象として―

理科における資質・能力の育成を意図した実践研究のメタ分析 ―東日本地域の授業実践を対象として―

日本教科教育学会第45回全国大会 2019年10月14日

Daiki Nakamura

October 14, 2019
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  1. 研究概要 研究の目的 理科の実践研究のメタ分析を通して、 資質・能力の育成に関する効果量の 統一的な知見を得ること 2 1. 中~大程度の効果量 2. 出版バイアスの可能性

    3. 調整変数の影響 統合した全体の効果量は0.716 効果の大きさの判断基準に 効果量の小さい実践が 報告されず眠っている ➢ 資質・能力の種類 ➢ 測定スケール 4. 指導法の効果 学校種によって効果の 大きさが異なる
  2. 実践研究のエビデンス 5 ⚫ 資質・能力の育成に関する実践研究 知識 技能 意欲 態度 思考 表現

    これらが育ったかを検証 プレ ➢ 量的測定と効果検証 ポスト 実践 ポスト 実験群 ポスト 統制群 比較 効果=ポストープレ 効果=実験群ー統制群 ① ② 効果量=
  3. 理科の実践研究の蓄積 6 北海道 青森 岩手 宮城 秋田 山形 福島 茨城

    栃木 群馬 埼玉 千葉 東京 神奈川 ⚫ 全国の教育センターのHPに掲載の理科実践研究 ⚫ 資質・能力の量的測定と効果検証が行われているもの ◆ 岩手 日常生活と関連付ける指導 ->知識・理解に1.28の効果 ◆ 千葉 日常生活と関連付ける指導 ->考察の思考力に-0.37の効果 同じ指導法でも効果は異なる。 どのように知見を統合すればよいか? ◆ 東京 日常生活と関連付ける指導 ->知識・理解に1.06の効果 ◼ 実践研究の例
  4. メタ分析 7 • 同一のテーマについて行われた複数の研究結果を量的に統合する方法 • 効果量をサンプルサイズで重み付けて平均する 例)e-Learningの平均効果量は0.42(斎藤・金,2009) ⚫メタ分析とは? ⚫メタ分析のメリット •

    メタ分析によるエビデンスは最も強固であり(Murad et al., 2016)、 記述レビューより信頼性が高い(Cooper & Rosenthal, 1980) • サンプルサイズの小さい研究が多く見られる教科教育分野においても、 多くのサンプルに基づく意思決定が可能になる • 新たに行う実践の効果の大きさを判断する基準になる
  5. 研究目的 8 理科の実践研究のメタ分析を通して、 資質・能力の育成に関する効果量の 統一的な知見を得ること 目的 知識・技能 思考・判断・表現 情意面 効果量を平均

    →理科実践の平均的な効果はどれくらいか →各指導法にどれだけの効果が期待できるか →指導法の効果に学校種間で違いはあるのか RQの例 =平均効果量
  6. 研究の方法1 9 論文 抽出 実践報告 2000-2018 ・小~高校生を対象とした理科の実践研究 ・通常級での1つの単元での実践 ・資質・能力を測定している ・効果量が算出可能

    教育センターのHPに記載の実践報告 <学校種・学年・領域・測定項目>などの情報も記録 97実践 研究紀要 成果報告 実践報告 長期研修報告 など
  7. 研究の方法2 10 𝒈 = 1 − 3 4 𝑛1+𝑛2−2 −1

    × 𝜇1−𝜇2 𝑛1𝑠1 2+𝑛2𝑠2 2 𝑛1+𝑛2 サンプルサイズで重みを付けて平均 平均効果量は平均的な効果の大きさを表す 平均効果量 を算出 どの研究も、平均効果量付近に 収束するはず →出版バイアスの検討 平均 ③効果量をプロット 平均値の差 標準偏差 補正 ①各実践の効果量 g を算出 ②平均 効果量 97実践
  8. 効果量の統合 12 実践研究 測定項目 効果量 [95%信頼区間] Ntotal = 5426人 実践

    3 南富良野町立M中学校 項目11 実践 3 南富良野町立M中学校 項目10 実践 2 江別市立E小学校 項目9 実践 2 江別市立E小学校 項目8 実践 2 江別市立E小学校 項目7 実践 2 江別市立E小学校 項目6 実践 1 北海道C高等学校 項目5 実践 1 北海道C高等学校 項目4 実践 1 北海道C高等学校 項目3 実践 1 北海道C高等学校 項目2 実践 1 北海道C高等学校 項目1 1.384 [ 0.855, 1.914] 1.471 [ 0.925, 2.018] 2.271 [ 1.594, 2.947] 1.605 [ 1.141, 2.069] 2.212 [ 1.705, 2.718] 1.817 [ 1.145, 2.489] 1.806 [ 0.694, 2.917] 0.867 [ 0.567, 1.167] 0.772 [ 0.464, 1.079] 1.082 [ 0.762, 1.402] 1.103 [ 0.768, 1.438] 実践97 横須賀市立I中学校 項目381 0.593 [ 0.054, 1.133] … … … 97実践 381項目 381個
  9. 平均効果量の解釈 14 平均効果量 g=0.716 Cohen基準:中~大程度の大きさ • Lipsey & Wilson(1993):心理・教育分野 <0.50>

    • Hattie(2009) :指導法全体 <0.40> • 中村(2018) :教科教育学研究 <0.44> • 中村ら(2019) :ICTを用いた理数授業<0.40> ◆先行研究との比較 →指導法の効果の程度を判断する基準になり得る →理科教育の実践に期待できる平均的な効果の大きさ →先行研究に比べてかなり高い値 ・出版バイアスの可能性の検討 ・下位変数ごとの検討
  10. 出版バイアスの検討 16 平均効果量 g=0.716 効果量 標準誤差 1.101 0.826 0.55 0.275

    0 -2 -1 0 1 2 3 4 5 非対称傾向 →サンプルサイズが少なく効果が小さかった研究が 隠されている可能性がある 出版バイアスの 傾向あり (p < .0001) 非対称傾向
  11. 調整変数ごとの分析1 19 調整変数 項目数 g QB 資 質 ・ 能

    力 知識・理解 86 1.18 152.02*** (p < .001) 技能 10 0.96 思考力 37 0.89 メタ認知 14 0.52 批判的思考 6 0.56 学習意欲 46 0.54 有用性の認識 24 0.48 (中略) | | 認知欲求 7 0.57 下位変数間 のばらつき • 資質・能力の種類によって効果量が有意に異なる • 知識・理解>技能>思考力>情意面の順に向上しやすい ◼ 資質・能力ごとの効果量
  12. 調整変数ごとの分析2 20 調整変数 研究数 g QB 学 校 種 小学校

    158 0.71 5.38 (p = .068) 中学校 108 0.77 高等学校 115 0.62 領 域 物理 117 0.69 5.43 (p = .143) 化学 123 0.65 生物 77 0.70 地学 64 0.82 • 学校種や領域による効果量の有意な違いは見られない • ただし、地学>化学の傾向が見られる ➢ 地学は化学に比べて相対的に資質・能力が向上しやすい可能性 ◼ 学校種/領域ごとの効果量 下位変数間 のばらつき
  13. 調整変数ごとの分析3 21 調整変数 項目数 g QB 測 定 ス ケ

    ー ル 2 106 1.04 129.05*** (p < .001) 3 32 0.88 4 215 0.51 5 22 0.87 | | | 100 5 0.62 • 2値データによる効果検証は効果が過剰に大きく 見積もられている可能性がある • 順序変数と連続変数を分けて扱う必要がある ◼ 測定スケールごとの効果量 下位変数間 のばらつき
  14. 指導法の効果 22 小学校 中学校 高等学校 導入の工夫 0.446 0.868 0.617 自己評価

    0.447 0.771 0.505 日常生活との関連 0.609 0.310 0.560 定型文の活用 0.499 1.292 0.671 ◼ 指導法ごとの効果量 • 同じ指導法でも、学校種によって効果が異なる 可能性がある • ただし、測定している資質・能力の種類や測定 スケールと交絡している
  15. 地域の平均所得の影響 23 2500000 3000000 3500000 4000000 4500000 5000000 5500000 0

    1 2 3 4 平均所得 効果量 学校所在地域の 平均所得による 変動は見られない 平均効果量
  16. 研究概要 研究の目的 理科の実践研究のメタ分析を通して、 資質・能力の育成に関する効果量の 統一的な知見を得ること 25 1. 中~大程度の効果量 2. 出版バイアスの可能性

    3. 調整変数の影響 統合した全体の効果量は0.716 効果の大きさの判断基準に 効果量の小さい実践が 報告されず眠っている ➢ 資質・能力の種類 ➢ 測定スケール 4. 指導法の効果 学校種によって効果の 大きさが異なる