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滑空スポーツ講習会2021 航空安全講習会 第2回 ウインチ曳航異常に備える / jsa safety seminar 2021 winch accident

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January 25, 2022

滑空スポーツ講習会2021 航空安全講習会 第2回 ウインチ曳航異常に備える / jsa safety seminar 2021 winch accident

公益社団法人日本滑空協会
2022/01/22
講師 東京工業大学航空研究部OB会 津久井潤

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JSA seminar

January 25, 2022
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  1. ウインチ曳航異常に備える 2022年1月22日 東京工業大学 航空研究部OB会 津久井 潤 1 滑空スポーツ講習会2021 第2回航空安全講習会資料

  2. 1. 自己紹介 2. ウインチ安全活動を始めるきっかけとなった出来事 3. 英国と日本のウインチ事故統計比較 4. ウインチ曳航中で最も多い事故要因は何か? 5. 要因と対策

    1. 翼端が接地して起こるグラウンドループや側転 2. 初期上昇中のストールに起因する翼の落下や背面へのフリックロール 3. 100フィート以下でのパワーロスによるストールや地面へのダイブ 4. 曳航中盤でのパワーロスによるストールや地面へのダイブ 5. リカバリー後のオーバーシュートやアンダーシュート、着陸中の衝突 6. まとめ 付録1ウインチ曳航中の力学 付録2ローテーション中の力学 2 内容
  3. 1.自己紹介 • 1983年:東京工業大学 技術会航空研究部入部, 在学中は飛ぶことよりもウインチ製作に没頭 • 1986年:東工大式2連ウインチ完成 • 1987年:自家用操縦士上級滑空機取得 •

    1988年:操縦教育証明取得 • 1989年〜1994年:NarromineにてXC • 1994年〜2009年:グライダー活動低迷 • 2010年〜2015年:グライダー活動休止 • 2016年:滑空界に復帰 • 2017年〜:東工大・理科大ウインチ導入 • 2019年:動力滑空機限定変更合格 • 2021年:事業用操縦士上級滑空機取得 • 現在:板倉、関宿、妻沼、霧ヶ峰で活動 日本グライダークラブ/諏訪市グライダー協会会員 東京工業大学グライダー部監督 飛行時間1000時間 3 Duo Discus Tで関東平野XC 南アルプスで山岳滑翔トレーニング
  4. 2.ウインチ安全活動を始めるきっかけとなった出来事 丸井 満著 「風を聴け」より • 1983年8月21日妻沼滑空場 • この年は梅雨が明けず雨が降ったり止んだりの毎日 • 当時1年生、入部して2回目の合宿(4回の飛行経験)、

    3年生の初ソロに立ち会う • ウインチ曳航中200m位で雲の断片に突入 • 雲から出てきた時には垂直降下状態 • 空間識失調、サブG*の影響があったと言われている *日本の滑空界ではサブGと呼び習わされているが、航空医学界では、 Somatogravic Illusionと呼ばれている。 4 https://www.boldmethod.com/learn-to-fly/aeromedical-factors/the- somatogravic-illusion-causes-accidents-how-to-prevent-it-in-imc/
  5. 5 2021年度滑空スポーツ講習会EMFT学科資料(櫻井玲子氏)より 2020 2020,2021データを追加

  6. 3.英国と日本のウインチ事故統計比較 0 12.5 25 37.5 50 1974-1981 1982-1993 1994-2005 2006-2020

    ウインチ曳航に係る事故の移り変わり〜死亡もしくは重傷者の人数 6 英国 日本 英国ではBGAがウインチ 安全キャンペーンを開始 日本でグライダー 事故が多発した年 出典 JSA INFO 2019 JULY #318「ウインチ安全に係る日英統計比較(津久井)」 を修正
  7. 3.英国と日本のウインチ事故統計比較 死亡もしくは重症 日本(2010-2017) 139,000回のウインチ曳航に1人 英国(1974-2005) 85,000回のウインチ曳航に1人 死亡もしくは重症 日本(2006-2017) 60,000回のウインチ曳航に1人 英国(2006-2017)

    510,000回のウインチ曳航に1人 7 表1 英国と日本のウインチ事故統計比較(日英の発航数の違いを考慮*) 表2 英国と日本のウインチ事故統計比較(日英の期間の違いを考慮*) 出典 JSA INFO 2019 JULY #318「ウインチ安全に係る日英統計比較(津久井)」 を修正 *その他詳細は出典を参照 日本の2010〜2017ウインチ発航数 : 278,922回(JSA INFO滑空統計より筆者集計) 英国の1974〜2005ウインチ発航回数:9,000,000回(BGAサイトより) 日本の2006〜2009ウインチ発航数は、2010〜2017統計と同じレベルと仮定 英国の2006〜2017発航回数は1974〜2005と同じレベルと仮定)
  8. 3.英国と日本のウインチ事故統計比較 ウインチ安全に係る日英統計比較からわかること • 英国:2005年にウインチ安全キャンペーンを始め 、次の12年間でウインチ曳航に係る事故が 1/6 に減少した • 日本:2005年にグライダー事故が多発して(7回 中ウインチ事故2回)、各種対策が打たれたものの

    その後ウインチ曳航に係る事故率に変化がなかった • 英国は日本の10倍の安全率を達成している 8 BGA Safe Winch Launching Poster https://members.gliding.co.uk/wp-content/uploads/sites/3/2017/12/Safe-winch- launch-2021.jpg BGAウインチ安全キャンペーンを学ぼう
  9. https://members.gliding.co.uk/wp- content/uploads/sites/3/2015/04/WinchBookletWeb.pdf 4.ウインチ曳航中で最も多い事故要因は何か? BGA HP Safe Winch Launchより 9 0

    7.5 15 22.5 30 37.5 1974-2019 日本 英国 運輸安全委員会航空 機事故報告書より http://www.mlit.go.jp/jtsb/airmenu. html 注:2021年版では、fatal/seriousの識別のみになっている
  10. 4.ウインチ曳航中で最も多い事故要因は何か? ウインチ曳航中の事故の要因(BGAの分析による) • 翼端が接地して起こるグラウンドループや側転 • 初期上昇中のストールに起因する翼の落下や背面へのフリックロール • 100フィート以下でのパワーロスによるストールや地面へのダイブ • 曳航中盤でのパワーロスによるストールやスピン

    • 曳航中盤でのパワーロスに引き続くリカバリー後のオーバーシュート やアンダーシュート、場周後の着陸中の衝突 • 地上での索のもつれもしくは飛行中の索への衝突 致死事故の主要因:初期上昇中のストールと曳航中盤でのパワーロス後のスピン 重傷事故の主要因:この2つに加え100ft 以下でのパワーロス後のストール BGAの安全キャンペーンの結果 上記ウインチ曳航に起因する事故は1/6に減少 ストールとスピンに限っては1/10に減少 10 日本件数 4 3 20 6 9 1 2021年版では”Wing drop”を重点対策 5.1 5.2 5.4 5.3 5.5
  11. 5.1 翼端が接地して起こるグラウンドループや側転 1秒後 出発後翼端が接地 1秒後 1秒後 1秒後 1秒後 インストラクターが離脱し ようとしたが、手が滑った

    エルロン/ラダー左 エレベータダウン 速度が非常に遅い 機首が下がり始める 安全に着陸 BGA Safe Winch Initiative “How To Winch Launch Safely”より https://members.gliding.co.uk/library/safety/how-to-winch-launch-safely-movie-mp4/ 11
  12. 5.1 翼端が接地して起こるグラウンドループや側転 https://members.gliding.co.uk/wp-content/uploads/sites/3/2015/04/cartwheel_6.mp4 12 BGA Safe Winch Initiative “Simulations-Wing drop”より

    動画視聴
  13. アドバイス: • リリースノブの上に手を置いて、曳航を始める • 翼を水平に保つことができない場合、即座に索をリリースする 考慮すべきこと: •地上滑走で大切なことは、翼を水平に保つこと。そのためには、 • ランウエイの草を刈る •

    横風成分を最小化するためにランウエイをフルに使う • 索展開時に索をまっすぐに伸ばす • 翼端係は水平を保持して翼端と一緒に走る • ストラップをきつく締め、柔らかなクッションを排除し、手をリリースノ ブの上に置く • 風向、レリーズのオフセット、索の方向を考慮して方向を保持する 5.1 翼端が接地して起こるグラウンドループや側転 13 Safe Winch Launching / ウインチ曳航を安全に BGA Safe Winch Launching Initiative /訳 津久井潤 http://www.jsal.or.jp/uploads/2021/06/24/2-5-8%20ウィンチ曳 航を安全に(訳文2009.09.25).pdf
  14. 5.1 翼端が接地して起こるグラウンドループや側転 ASK21前席 ASK13後席 手をリリースノブの上に置く! 14

  15. 5.1 翼端が接地して起こるグラウンドループや側転 手をリリースノブの上に置く! G103A前席 Duo Discus前席 15

  16. 5.1 翼端が接地して起こるグラウンドループや側転 BGA Safe Winch Initiative STOP THE DROPより https://members.gliding.co.uk/library/safety/stop-the-drop/

  17. 5.1 翼端が接地して起こるグラウンドループや側転 YouTube Pure Glideより • 背風でウインチ曳航しない • 草を刈る •

    翼端が地面に着く前に索をリリースする • 翼端係を訓練する • 横風に注意する 17 動画視聴 https://www.youtube.com/watch?v=Av1ukmZkoi0
  18. 5.1 翼端が接地して起こるグラウンドループや側転 草刈りしましょう! 7月の関宿滑空場 18

  19. 5.2 初期上昇中のストールに起因する翼の落下や背面へのフリックロール BGA Safe Winch Initiative “Simulations-Flick Roll”より https://members.gliding.co.uk/wp-content/uploads/sites/3/2015/04/1430311977_flick-5.mp4 19

    動画視聴
  20. 事例 原因 (事故調査報告書等) 要因と対策 クラブリベレ(日本2005)*2 初期上昇時、高度30~40m で右に傾き反転し 墜落。死亡。 ウインチ発航中に適切な速度を獲得しないう ちに上昇姿勢を取ったことにより同機の姿勢

    が不安定となり、その後の修正操作が機首を 下げることなくエルロンだけで行われたため 、右翼が失速状態になり、裏返しとなって地 面に衝突 ・十分な速度を確認した後に上昇 ・機体の特性を事前に十分把握して飛行 クラブリベレ(英国1991) *3 離陸後急激な上昇姿勢となり、約25mでスピ ン、ほぼ垂直に墜落 離陸直後の急激な機首上げによるスピン ・クラブリベレが索角5°で 50°の上昇角をと ると失速49kt(90km/h)となると分析された プハッチ (日本2005)*2 離陸時から速度が遅く、浅い角度で上昇を続 けたがピストからの高度約100mで機首を少 しさげてからスピンで2旋転し墜落。2名死亡 。 強い背風における離陸上昇であったために、 十分な対気速度が得られず失速しスピンに陥 り低高度であったために回復できず墜落。 ・背風での曳航が要因 ・背風の限界を設定する ・異常運航時のインストラクターのテイクオ ーバー ・ウィンチドライバーを含む CRM プハッチ(英国1991) *3 ウィンチ曳航で上昇し約 300mで曳航索離脱 前にスピ ン、左2旋転し、一旦リカ バーした が右にスピンし墜落。 2名死亡。 曳航後期での機首上げすぎ? ・曳航後期で上昇角5° でも索張力と機首上げ 角の関係で失速する状況がある ・スピン回復後の上げ舵による反対方向への 2次スピ ン *1 表は、「ウインチ曳航ガイドブック〜安全に飛ぶノウハウとCRM〜相島正敏 JSAL-G-K004P issue 4, 2019. 1. 5」を改訂 *2 国土交通省運輸安全委員会事故調査報告書 *3 “Accidental Spins Off Winch Launches” Bill Scull, Sailplane & Gliding 1991.12/1992.1とその訳文 日口裕二/津久井潤 *1と3は右参照 http://www.jsal.or.jp/page/2005-safety 20 5.2 初期上昇中のストールに起因する翼の落下や背面へのフリックロール
  21. アドバイス: • 機軸のずれが大きい状態で離陸しない • 継続的な加速と共に適度な速度が得られるまで、浅い上昇姿勢を保つ • 離陸時の水平飛行からフルクライム(約35度)までの遷移をコントロールし、少 しずつアップを取り、そして少なくとも遷移時間を5秒確保する 考慮すべきこと: •継続的な加速を感じつつ、速度計の示す速度が予め決められた最低安全速度(

    失速速度の 1.5 倍)に達するまで、浅い上昇姿勢(10~15 度)を保つ •最低安全速度に達したら、適切なペースでフルクライムへとピッチアップす る •速度のモニタを継続 •もし速度が落ちるようであればピッチアップのレートを遅くする •ウインチ操作が適切であれば、ほとんどのグライダーは、自律的に安全に離 陸し上昇姿勢へと遷移して行く 21 Safe Winch Launching / ウインチ曳航を安全に BGA Safe Winch Launching Initiative /訳 津久井潤 http://www.jsal.or.jp/uploads/2021/06/24/2-5-8%20ウィンチ曳 航を安全に(訳文2009.09.25).pdf 5.2 初期上昇中のストールに起因する翼の落下や背面へのフリックロール
  22. ローテーション中は大揚力が発生している • 揚力の方向が垂直ではない • 揚力が索張力を支える • 垂直方向にグライダーを加速させる • 失速速度は上昇姿勢にはさほど敏感ではない •

    失速速度はピッチ変化率に非常に敏感 • 1G失速34ktのグライダーが、上昇角25度、 20度/sでは50ktで失速する! ローテーション中の安全確保には、適度なピッチ変化率と十分な速度が必要 →BGA推奨 ”継続的な加速とともに1.5Vsまで浅い上昇角を保ち、離陸から上昇姿勢確 立まで少なくとも5秒で遷移する” 22 https://members.gliding.co.uk/wp-content/uploads/sites/3/2015/03/Winch-CFI-Part-2-v1.mp4 BGA Safe Winch Initiative “How To Winch Launch Safely – Part 2”より 5.2 初期上昇中のストールに起因する翼の落下や背面へのフリックロール
  23. BGAが英国滑空協会のウインチ安全キャンペー ンで推奨する方法に基づいたウインチ曳航デ モンストレーション YouTube “空とぶむぎちゃんねる”より 23 5.2 初期上昇中のストールに起因する翼の落下や背面へのフリックロール ASK21 ASK13

    ・翼端接地前の緊急離脱に備えて手をレリーズに かけておく ・失速速度の1.5倍(目安)の速度が出ていること をモニターする ・エアボーンから5秒カウントでゆっくりローテー ションする ・上昇姿勢が確立してから横風修正を行う 動画視聴 https://www.youtube.com/watch?v=i9UJOrZQzyc https://www.youtube.com/watch?v=wHLkQ9SUaBM
  24. グライダータイプ毎の索速度の目安 出典:Winching Operations, BGA, p.6 Recommended Cable Speed グライダータイプ フルクライム移行速度

    1.5Vs(1G)* 最小索速度 (無風) 推奨索速度 (真夏/背風) K6/K8 45kt(83km/h) 50kt(93km/h) 55kt(102km/h) K13/軽量単座 50kt(93km/h) 55kt(102km/h) 60kt(111km/h) K21/ スタンダードクラス 55kt(102km/h) 60kt(111km/h) 65kt(120km/h) ターボ機/ 水バラスト搭載機 60kt(111km/h) 65kt(120km/h) 70kt(130km/h) 24 出典:Winching Operations, BGA, p.6 Recommended Cable Speed *1.5Vs:1Gの状態でグライダーがフルクライムに移行する目安 • ウインチの性能はパワーだけではない! • あなたのクラブであなたが乗るグライダーを引いてこの速度が出せるか 確認しよう! 5.2 初期上昇中のストールに起因する翼の落下や背面へのフリックロール
  25. 5.3 100ft以下でのパワーロスによるストールや地面へのダイブ 2秒後 2秒後 2秒後 2秒後 動画視聴 BGA Safe Winch

    Initiative “How To Winch Launch Safely”より https://members.gliding.co.uk/library/safety/how-to-winch-launch-safely-movie-mp4/ 25 7:06
  26. アドバイス: • 曳航不良が発生したら、即座に機首を下げ適切なリカバリー姿勢に入れる • 適切な姿勢と安全な速度を確保するまでは、エアブレーキを用いない • 50フィート以下、55ノット以下での模擬パワーロス訓練はインストラクタ ーデモンストレーションのみとする 考慮すべきこと: •

    5.2項のウインチプロファイルのガイドラインに従う • 横風の時には、300 フィートに達してから横風修正 • パワーロスが発生したら、機首をすばやく抑えて、適正な姿勢に。0.5秒単 位で効果が異なる • 地表面近くでのパワーロスで、速度が非常に遅ければ、エアブレーキなし でのランディングを 26 Safe Winch Launching / ウインチ曳航を安全に BGA Safe Winch Launching Initiative /訳 津久井潤 http://www.jsal.or.jp/uploads/2021/06/24/2-5-8%20ウィンチ曳 航を安全に(訳文2009.09.25).pdf 5.3 100ft以下でのパワーロスによるストールや地面へのダイブ
  27. https://members.gliding.co.uk/wp-content/uploads/sites/3/2015/03/Winch-CFI-Part-2-v1.mp4 BGA Safe Winch Initiative “How To Winch Launch Safely

    – Part 2”より 27 5.3 100ft以下でのパワーロスによるストールや地面へのダイブ 反応遅れ リカバリーダイブに向けての プッシュオーバー 引き起こし リカバリーダイブの開始 ①パワーロス時の速度と上昇 角がリカバリーダイブ開始時の 速度に及ぼす影響 ②反応遅れ時間がリカ バリーダイブ開始時の 速度に及ぼす影響 ③プッシュオーバーでかけ るGがリカバリーダイブ開 始時の速度に及ぼす影響 ④リカバリーダイブ角 が高度損失に及ぼす影 響 • 即座に機首を下げ適切なリカバリー姿勢に入れる。遅れは1.5秒以内に。 • 浅い上昇角なら0.5Gのプッシュオーバー、深い上昇角ならもっと大きく。 • リカバリーダイブは20度以内とする。地面近くではもっと浅く。 BGA解析結果より
  28. 28 https://members.gliding.co.uk/wp-content/uploads/sites/3/2015/03/Winch-CFI-Part-2-v1.mp4 BGA Safe Winch Initiative “How To Winch Launch

    Safely – Part 2”より 5.3 100ft以下でのパワーロスによるストールや地面へのダイブ ①55kt、25度の上昇中のパワーロス では、速度がリカバリーダイブの開始 までに32ktまで下がってしまう。 地面近くでは非常に危険! ②リカバリーダイブの開始速度は、機首 下げまでの反応遅れ時間に大きく依存する 。 55kt、25度の上昇中のパワーロスから遅れ なく機首を下げれば、リカバリーダイブの 開始は49ktだが、2秒遅れると33ktまで下 がってしまう。
  29. 29 https://members.gliding.co.uk/wp-content/uploads/sites/3/2015/03/Winch-CFI-Part-2-v1.mp4 BGA Safe Winch Initiative “How To Winch Launch

    Safely – Part 2”より 5.3 100ft以下でのパワーロスによるストールや地面へのダイブ ③リカバリーダイブ開始速度は、プッシュオー バーのGに依存する。 15度上昇角ならば、0.5Gで十分であり、Negative- GやZero-Gでの反応は不要。 25度上昇角、100ft以下では、0.5Gよりも急いで機 首を下げる必要がある。 ④リカバリーに必要な高度は、ダイブ角が25 度を超えると急激に増加する。 50ftの高度で曳航異常となり、20度以上のダイ ブをすると地面に激突してしまう。
  30. BGA Safe Winch Initiative “Simulations-Spin”より https://members.gliding.co.uk/wp-content/uploads/sites/3/2015/04/1430312036_spin-2.mp4 動画視聴 5.4 曳航中盤でのパワーロスによるストールや地面へのダイブ

  31. 31 事例 原因 (事故調査報告書等) 要因と対策 クラブリベレ(日本2005)*2 初期上昇時、高度30~40m で右に傾き反転し 墜落。死亡。 ウインチ発航中に適切な速度を獲得しないう

    ちに上昇姿勢を取ったことにより同機の姿勢 が不安定となり、その後の修正操作が機首を 下げることなくエルロンだけで行われたため 、右翼が失速状態になり、裏返しとなって地 面に衝突 ・十分な速度を確認した後に上昇 ・機体の特性を事前に十分把握して飛行 クラブリベレ(英国1991) *3 離陸後急激な上昇姿勢となり、約25mでスピ ン、ほぼ垂直に墜落 離陸直後の急激な機首上げによるスピン ・クラブリベレが索角5°で 50°の上昇角をと ると失速49kt(90km/h)となると分析された プハッチ (日本2005)*2 離陸時から速度が遅く、浅い角度で上昇を続 けたがピストからの高度約100mで機首を少 しさげてからスピンで2旋転し墜落。2名死亡 。 強い背風における離陸上昇であったために、 十分な対気速度が得られず失速しスピンに陥 り低高度であったために回復できず墜落。 ・背風での曳航が要因 ・背風の限界を設定する ・異常運航時のインストラクターのテイクオ ーバー ・ウィンチドライバーを含む CRM プハッチ(英国1991) *3 ウィンチ曳航で上昇し約 300mで曳航索離脱 前にスピ ン、左2旋転し、一旦リカ バーした が右にスピンし墜落。 2名死亡。 曳航後期での機首上げすぎ? ・曳航後期で上昇角5° でも索張力と機首上げ 角の関係で失速する状況がある ・スピン回復後の上げ舵による反対方向への 2次スピ ン *1 表は、「ウインチ曳航ガイドブック〜安全に飛ぶノウハウとCRM〜相島正敏 JSAL-G-K004P issue 4, 2019. 1. 5」を改訂 *2 国土交通省運輸安全委員会事故調査報告書 *3 “Accidental Spins Off Winch Launches” Bill Scull, Sailplane & Gliding 1991.12/1992.1とその訳文 日口裕二/津久井潤 *1と3は右参照 http://www.jsal.or.jp/page/2005-safety 5.4 曳航中盤でのパワーロスによるストールや地面へのダイブ
  32. アドバイス: • リカバリー姿勢に入れる • アプローチ速度が回復するまで旋回やエアブレーキの使用を控える • 前方が安全であれば、そこに着陸する 考慮すべきこと: • フルクライム中速度の減少を感じたら、操縦桿を緩めて翼の荷重を軽減

    • 速度が予め決められた下限を下回ったら、離脱して索切れ処置の手順に従う • パワーロス後リカバリーダイブ姿勢に入れる • アプローチ速度の回復まで5秒必要 • アプローチ速度が回復したら前を見て、そこが安全ならそのまままっすぐ着 陸前方が安全でなければ、離陸前に決めておいた方向へ旋回 • 時間が許せば離脱操作 32 Safe Winch Launching / ウインチ曳航を安全に BGA Safe Winch Launching Initiative /訳 津久井潤 http://www.jsal.or.jp/uploads/2021/06/24/2-5-8%20ウィンチ曳 航を安全に(訳文2009.09.25).pdf 5.4 曳航中盤でのパワーロスによるストールや地面へのダイブ
  33. 5.5 リカバリー後のオーバーシュートやアンダーシュート、着陸中の衝突 • 曳航異常時に曳航を中断しても、安全に着陸するために予め 用意しておく選択肢”Option”を、フライト前までに準備・精通 し、飛行前点検(CHAOTIC)で再確認 CHA O:OUTSIDE/OPTIONS(曳航中断時の対処計画) TIC •

    離脱後速度確保、予め決めたOptionを実行する • 対地100m以下で旋回しない • 旋回できる高度なら旋回は風下へ、速度・すべり注意
  34. 34 発生年 機体 曳航 概要 注目点 1982 H23C WT 不時離脱→80mで360度旋回→教官のテ

    イクオーバ遅延→樹木接触 直進可能なのに 旋回を選択 教官同乗 1981 B4 WT 異常離脱試験→45mで180度旋回→翼端 から接地 直進可能なのに 旋回を選択 教官 1976 H23C WT 索切→50mで180度旋回→低翼が堤に接 触 直進可能なのに 旋回を選択 教官同乗 1976 三田3 WT ウインチ低速→30mで180度旋回→翼端か ら墜落 直進可能なのに 旋回を選択 教官同乗 1975 三田3 WT 不時離脱→80m~100mで360度旋回 →270度旋回後高度30mで失速 直進可能なのに 旋回を選択 教官同乗 1974 H23C WT 索切→60mで180度旋回→400m直進→ 高度10mで旋回→錐揉み 直進可能なのに 旋回を選択 前後席とも練習許可書 出典:http://www.mlit.go.jp/jtsb/airmenu.html Option選択に関連する事故(1980年代前半まで) 5.5 リカバリー後のオーバーシュートやアンダーシュート、着陸中の衝突
  35. 発生 年 機体 曳航 概要 注目点 2016 SN101B WT ウインチ故障→高度読み誤り→70mで低

    空旋回→樹木に接触 メートル法対地高度で対処教育され たが機体はフィート計、海面高度設 定 2015 Duo Discus WT ヒューズ切→直進着陸不可能→50mで 低空旋回 ヒューズ付間違い(黒→青) 不時着場未確保 2012 Discus b AT 曳航機急上昇による機首吊上失速→ 着水 当該滑空場のOptionは「着水」 2002 プハッチ AT ダイブロック忘→上昇率不足→60mで離 脱→高圧線回避のための旋回→失速 急いで乗りこみ機体点検不十分 教官同乗 1992 L13 AT 占位点不良→離脱→曳航機への衝突 回避→30mで低空旋回 曳航機吊り上げ懸念による離脱? 1986 ASK13 WT ダミーブレイク→逆進→場外へオーバーシュ ート懸念→40mで増速低空反転 教官テイクオーバ遅延 1984 H23C WT 80mで索切→直進着陸不可能→緊急 着陸場所にトラックと人発見→90度旋 回→失速 不時着場未確保 教官同乗 35 出典:http://www.mlit.go.jp/jtsb/airmenu.html Option選択に関連する事故(1980年代中盤以降) 5.5 リカバリー後のオーバーシュートやアンダーシュート、着陸中の衝突
  36. まとめ ステージ 危険 回避策 実践する事項 地上滑走 翼端が地面につ くとグライダー は側転するかグ ラウンドループ

    に陥る • 手をリリースノブの上に置 いて曳航を始める • 水平が保てないときは、即 座にリリースする • ストラップを固く締める • 隣の索を認識する。地上滑走中 に隣の索に近づいたら索をリリ ースする • 機軸ずれに備える • 翼を正しく保つ • 翼端と共に走る • 翼の水平を確認する • 翼が落下したら地面につく前に リリースする • 初めての型式でのフライトは穏 やかな条件下で行なう 36 Safe Winch Launching / ウインチ曳航を安全に BGA Safe Winch Launching Initiative /訳 津久井潤 http://www.jsal.or.jp/uploads/2021/06/24/2-5-8%20ウィンチ曳航を安全に(訳文2009.09.25).pdf
  37. まとめ ステージ 危険 回避策 実践する事項 初期上昇 上昇初期でのス トール/スピン • 顕著に機軸がずれている状

    態で離 陸することを避ける • 加速の継続を感じつつ、適 切な速度が得られるまで穏 やかな上昇を維 持する • 離陸時の水平飛行からフル クライム(約 35 度)への遷移 を徐々に行 ない、少なくと も 5 秒は時間をかける • 荒れた地面や背風での地上滑走 を 短くするために操縦桿を引 かない • 十分な速度が得られるまで穏や かな上昇を保つために操縦桿を 前に倒すことが必要であれば、 それを行なう • 対気度をモニターし必要ならピ ッチアップレートを下げる 37 Safe Winch Launching / ウインチ曳航を安全に BGA Safe Winch Launching Initiative /訳 津久井潤 http://www.jsal.or.jp/uploads/2021/06/24/2-5-8%20ウィンチ曳 航を安全に(訳文2009.09.25).pdf
  38. まとめ ステージ 危険 回避策 実践する事項 初期上昇 100フィート以 下での曳航不 良後のストー ルもしくはハ

    ードランディ ング • 曳航不良となったら即座に適 切なリカバリー姿勢へと機首 を下げる。反応時間を最小化 することが重要である • 適切な姿勢となり十分な速度 を得るまでエアブレーキを使 わない • 50フィート以下、55 ノット以 下での曳航不良の模擬はイン ストラクターによるデモのみ とする • 300フィート以下で横風に対す る偏流修正を行なわない • 速度が超過しても索をリリース しない。数百フィートまで穏や かな上昇を維持し、その後リリ ースするか 合図を送る • エアブレーキをクセで開けてし まうことに気をつけること。曳 航不良時は注意して使うか、ま ったく使わないこと • 索をリリースしないこと。自 然離脱するに任せること 38 Safe Winch Launching / ウインチ曳航を安全に BGA Safe Winch Launching Initiative /訳 津久井潤 http://www.jsal.or.jp/uploads/2021/06/24/2-5-8%20ウィンチ曳 航を安全に(訳文2009.09.25).pdf
  39. まとめ ステージ 危険 回避策 実践する事項 上昇中期 曳航不良後の、 ストール、スピ ン、 ヘビーラン

    ディング • リカバリー姿勢に入れる。 十分な速度を得るまで旋回 したりエアブレーキを使っ たりしない • 前方の安全が確認できたら 着陸する • 対気速度が下がったら、翼の荷 重を減ずる。対気度がストール 速度の1.5 倍以下に下がったら リリ ースすることを考慮する • アプローチ速度まで加するため のリカバリーダイブは約 5 秒を 要する 曳航不良後にコ ントロールを回 復するが引き続 くストール、ア ン ダーシュート 、オ ーバーシュ ート、 ヘビーラ ンディ ング、衝 突 • 離陸前に様々な場合に備え て、複数の場周パターンを 用意する • 訓練中に、訓練生がミスしたら 、インストラクターは早い段階 で操縦をテイクオーバすること 39 Safe Winch Launching / ウインチ曳航を安全に BGA Safe Winch Launching Initiative /訳 津久井潤 http://www.jsal.or.jp/uploads/2021/06/24/2-5-8%20ウィンチ曳 航を安全に(訳文2009.09.25).pdf
  40. ご清聴と意見交換ありがとうございました 40

  41. 付録 41

  42. 1.ウインチ曳航中の力学 42 出典:ウインチ曳航ガイドブック〜安全に飛ぶノウハウとCRM〜相島正敏 JSAL-G-K004P issue 4, 2019. 1. 5

  43. 1.ウインチ曳航中の力学 • 索張力一定で曳航した場合、上昇後期には張力と重力の合力が重力の2倍近くなる • 合力に釣り合う揚力が発生し、荷重倍数も2倍となる 43

  44. 1.ウインチ曳航中の力学 出典:ウインチ曳航ガイドブック〜安全に飛ぶノウハウとCRM〜相島正敏 JSAL-G-K004P issue 4, 2019. 1. 5 44

  45. 1.ウインチ曳航中の力学 出典:ウインチ曳航ガイドブック〜安全に飛ぶノウハウとCRM〜相島正敏 JSAL-G-K004P issue 4, 2019. 1. 5 45

  46. 46 2.ローテーション中の力学 地上滑走中の機首上げモーメント 重心 張力 張力 機首上げにつれ、機首上げモ ーメントが小さくなる 初期フェーズ 上昇経路角

    理論上の発航点 離陸 地上滑走 地上滑走開始 定常上昇開始 索引方向 (ほぼ水平) ウインチ曳航初期 定常上昇 グライダーの速度 グライダーに働く力の釣り合い 索速度+向風速度 重力 張力 索速度が大きく、上昇角が大き い程、対気速度が大きくなる 重力が大きく、上昇角が大きい程、 張力が大きくなる The First Few Seconds -最初の数秒間- 著者 P. J. Goulthorpe 出典 Sailplane & Gliding /訳 津久井潤 原文、訳文共 http://www.jsal.or.jp/uploads/2021/06/24/2-5-7%20最 初の数秒間(訳文).pdf
  47. 2.ローテーション中の力学 47 張力 張力 機首上げ中 グライダーの加速 力の釣り合い 定常水平速度(索速度+向風速度) 垂直速度の増加 ここでの10degは大きな垂直速度増加をもたらす

    ここでの10degは小さな垂直速度増加をもたらす 速度の増加は垂直方向に発生するため、加速は垂直方向であり、 ローテーション角速度と上昇角に応じて増加する。垂直加速度は 機体の見かけの重さを増加させる。 機首上げの初期;浅い上昇、小さな加速 =小さな張力 機首上げの後期;深い上昇、大きな加速 =大きな張力 垂直方向の加速により見かけの 重量が増加した力の三角形 垂直方向の加速がない状態での 力の三角形、見かけの重量は変 わらない 重力 重力 The First Few Seconds -最初の数秒間- 著者 P. J. Goulthorpe 出典 Sailplane & Gliding /訳 津久井潤 原文、訳文共 http://www.jsal.or.jp/uploads/2021/06/24/2-5-7%20最 初の数秒間(訳文).pdf
  48. 2.ローテーション中の力学 【地上滑走】 離陸前の加速は全てウインチオペレータによって制御され、地上滑走中の加 速度はおよそ0.5G 。その加速度で速度を増加させてゆくと、グライダーは4 秒以内、地上滑走距離にして 150ft 以内で 離陸速度に達する。 索の張力は、グライダーの下方、重心の下の作用点(レリーズ位置)で水平方

    向に働くため、機首上げのモーメントが発生する。もし、パイロットがこれ を認識していなければ、離陸速度に達するや否や過度の機首上げが起こる( 図2a)。 索の張力はそのうち重心の近くを通り、不必要な機首上 げモーメン トを減らし、そしてグライダはコントロールを取り戻す(図2b)。 48 The First Few Seconds -最初の数秒間- 著者 P. J. Goulthorpe 出典 Sailplane & Gliding /訳 津久井潤 原文、訳文共 http://www.jsal.or.jp/uploads/2021/06/24/2-5-7%20最初の数秒間(訳文).pdf
  49. 2.ローテーション中の力学 【機首上げ】 ウインチオペレータが索の速度を一定に保った状態で、今度は離陸後の加 速度のコントロールをパイロットが担う。パイロットがグライダーを上昇 姿勢に入れて行くと、速度が増加して行く。さらに姿勢角が深くなるにつ れてその影響はより顕著になる。上昇が非常に急角度であれば、姿勢のわ ずかな変化が大きな速度の変化をもたらす(図1c)。そのために、上昇角が 深くなればなるほど、機首上げによってグライダーの速度がより速くなる 。 短い機首上げの間、索はおよそ水平で、グライダーの速度の水平成分は

    変化せず、一定の索の速度+向かい風の速度に等しくなる。速度の全ての 増加分は垂直方向に発生する。 よって機首上げ中、グライダーの加速度の 全ては垂直方向に発生する。垂直加速度の影響はグライダーの重量を増加 させる。例えば、垂直方向の 0.5G は、グライダーの重量をその半分程増 加させる。 49 The First Few Seconds -最初の数秒間- 著者 P. J. Goulthorpe 出典 Sailplane & Gliding /訳 津久井潤 原文、訳文共 http://www.jsal.or.jp/uploads/2021/06/24/2-5-7%20最初の数秒間(訳文).pdf
  50. 2.ローテーション中の力学 【機首上げ】 (続き) 曳航中のあらゆる点で、グライダーに働く3つの力、つまり重量、索張力、揚力 がバランス して釣り合いの三角形を形作る。重量は垂直下方に、(曳航初期では )索張力は 水平に、揚力は(いつでもそうだが)飛行経路に垂直に働く(図1b)。よ って、飛行経路が深くなる程、釣り合いの三角形はその形を変え、索張力と揚 力が重量とともに増えて行く。

    つまり、垂直加速度で重量が増えれば、同じ比 率で索張力と揚力も増える(図1 c)。 よって機首上げの間、索張力は、上昇角の増加に伴って増えるだけでなく、加 速度それ自体によってもさらに増加する(同様に同じことが揚力や翼面荷重にも 起こる)。グライダーが機首上げし、姿勢が深くなる程、索張力は急速に大きく なり、機首上げのレートに敏感になる。 そのため、急激な機首上げは索に過大 な荷重をかけ、過度な索張力がかからないような上昇姿勢においても、索もし くはウイークリンクを破断してしまう可能性がある。曳航中の最もク リティカ ルな瞬間は、初期の上昇姿勢を確立させて、姿勢が最も深くなった時になる。 この ポイントが近づくにつれて機首上げのレートを減らしてゆくのが最良の方 法となる。 50 The First Few Seconds -最初の数秒間- 著者 P. J. Goulthorpe 出典 Sailplane & Gliding /訳 津久井潤 原文、訳文共 http://www.jsal.or.jp/uploads/2021/06/24/2-5-7%20最初の数秒間(訳文).pdf