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北海道における自伐型林業の特徴

 北海道における自伐型林業の特徴

森林資源を持続的に活用し環境保全と経済性が両立する林業として注目されている<自伐型林業>は、初期投資が安く、参入障壁が低いことから専業も兼業も可能で地域就業も創出できる林業です。
北海道における自伐型林業の特徴や事例を紹介します。

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  1. はじめに • 近年、山林所有の有無に関わらず、採算性と環境保全を高い次元で両立する持続 的森林経営手法である「自伐型林業」が注目を浴びています。 • 自伐型林業は皆伐を行わない多間伐施業と高密度作業路敷設を特徴とし、「災害 に強い森づくり」「持続可能な森林資源の育成」が期待できる手法です。 • 初期投資額が極めて低い手法であるため、参入障壁が低く、「誰でも参画でき る」小さな林業スタイルを特徴としており、地域の森林・林業を支える主体のひ

    とつとして地域活性化の観点からも期待されています。 • 道内においても、自伐型林業を実践している企業・個人が増えてきている他、行 政が積極的に取り入れる自治体も増えてきています。 • 北海道自伐型林業推進協議会では2016年の発足以降、道内の自伐林家や自伐林家 を目指す方々を支援・育成する事業を実施しています。 • 本資料では北海道における自伐型林業の特徴を事例とともに紹介していきます。
  2. 自伐型林業の特徴 【自伐型林業とは】 【主な特徴】 • 森林資源を持続的に活用し環境保全と経済性が両立する林業 • 初期投資が安く、参入障壁が低い。専業も兼業も可能で地域就業も創出 ① 長伐期・多間伐 →

    育林にかかるコストの削減、木を太く育てることによる高収益化。 ② 小さな機械 → 初期投資が安く、参入障壁が低い。山を傷めない。 ③ 小規模高密度路網 → 災害に強い山づくり。地域住民に親しみやすい森づくり。 ④ 持続的な経済活動 → 一般材の他、薪炭材、ホダ木、クラフト素材など多様な資源供給。 ⑤ 次世代につながる → 地域コミュニティによる持続可能的な里山保全。 森林 山主 森林資源の育成 災害に強い森づくり 自伐型林業 里山環境保全 低い参入障壁 地域住民 林業家 憩いの場 高収益 持続的木材生産 一般消費者・加工業者 木材販売 6次化 利益配分
  3. 自伐型林業の具体的特徴① 長伐期・多間伐 – 1haあたりの広葉樹多間伐施業のイメージ 年 2019 2029 2039 2049 2059

    2069 2079 2089 2099 2109 本数(本) 831 797 766 738 711 685 660 637 617 598 伐採前残存材積(㎥) 380 410 433 450 461 468 474 480 485 490 伐採量(㎥) 24 30 35 40 44 45 45 46 46 48 伐採後残存材積(㎥) 356 380 398 410 417 423 429 434 439 442 立木本数は減少 材積は増大
  4. 自伐型林業の具体的特徴⑤ 次世代につなぐための林業 自伐型林業は、以下の特徴から、地域住民が主体となって継続的に里山を守ることができ る林業といえます。 • 低コストのため、参入障壁が低い。 • 森林資源を育成することで高収益化が期待できるため、活動を継続する経済的負担 が少ない。 •

    山を育成するスタイルのため、地域住民の環境保全意識の向上が期待できる。 • 次世代へつながる森林環境教育が期待できる。 • 小規模高密路網で地域の憩いの場としての山林を演出。 低コスト 環境保全 持続可能 環境保全 多面性
  5. 事例紹介① 白老町 株式会社大西林業 北竜町 ほくりゅう里山クラブ • 里山の広葉樹資源から、薪・炭・ホダ木・木酢液・樹液の生産販売を手掛ける。 • 生産から販売まで一貫する林業6次化で補助金に依存しない林業を実現。 •

    里山の空間を活かしたキャンプ場運営開始。住宅地の庭木伐採で高齢世帯の住民からの依頼も相次ぐ。 • 雑食的林業経営で老若男女10名程の雇用を生み出す。 • 大西林業で2年間の研修を受けた後、北竜町で25Haの山林を購入し、独立開業。 • 森林山村多面的交付金を活用し自伐型林業を実践。 • 作業路敷設・間伐等を通して、薪やクラフト製品等の開発をしている。 • 作業は夫婦で行っている。
  6. 事例紹介② 池田町 冨山商店 • 1986年生まれ、士幌町出身のアーティスト。作品制作をつづけ個展など行う傍ら2019年頃から森づくりに惹かれる。 • 様々な研修会に参加し基礎技術を身につけ、2021年に冨山商店を立ち上げ、家族経営による自伐型林業を副業的に開始。 • 池田町と士幌町に所有する200haの山林で、自伐型林業や近自然森づくりの考え方を基本に家族で森づくりに取り組む。 •

    多種多様な美しい広葉樹の森を目指し、作業道の整備や育成木間伐を行う。また、薪やホダ木、白樺樹皮などの生産販売 も手掛ける 函館市 道南森づくりの会 • 2018年に参加した自伐型林業養成塾(現・里山カレッジ)にて環境保全型林業の必要性を認識し、道南地域で自伐型林業 を広めるべく道南森づくりの会を立ち上げ活動を開始。 • 2020年より山主から広葉樹林を預かり、自伐型林業の実践、林業塾、市民向けのワークショップなど活動を展開。 • 2021年から函館市から自伐型林業推進事業を受託し、講演会、自伐型林業研修などを実施している。
  7. 事例紹介③ 積丹町 積丹グリーン • もともとサラリーマンだった代表の森田氏が、NPO法人北海道自伐型林業推進協議会の森林バンク事業(※)を活用して 積丹町にある約20haの山林の貸与を受ける。 • 里山カレッジで知り合った札幌近郊のメンバーと任意団体を設立し、2021年から自伐型林業家としての活動を開始。 • 薪やホダ木、クラフト雑貨を販売するほか、山での体験型イベントなどのサービスを展開している。

    ※森林バンク事業の紹介 NPO法人北海道自伐型林業推進協議会では、山を貸し出したい 山主と林業をしたい小規模林業者の賃貸借契約仲介や、山主から 寄付された山林を林業者に貸与する「北海道森林バンク事業」を 行っています。 本事業を通して、持続的な自伐型林業者の就労環境拡大と、よ り豊かな森林を次の世代に残す事を目指しています。所有してい る森林の利活用にお悩みでしたら、お気軽にお問合せください。
  8. 事例紹介④ 里山カレッジ • 2017年から、自伐型林業に関心のある方向けに自伐塾として研修を開講しています。 • チェンソー・伐倒、集材・搬出、選木、作業道敷設、経営展開相談、QGIS研修・ホダ木生産研修等、内容は多岐に渡ります。 • 道内外から各分野のスペシャリストを講師として招き、ハイレベルな研修を開催しています。 座学 伐倒技術

    チェーンソー安全講習 作業路敷設 • 受講生のみなさんは、自伐塾での経験を活かして、以下のような活動をされています。 • 自分の地域の里山保全活動に従事。 • 自伐型林業家として独立。 • 兼業、副業として新規事業を展開。 • 活動エリアは、旭川・赤井川・ニセコ・穂別・壮瞥・七飯・豊浦・白老・池田・北竜・沼田・積丹など道内全域。 • また、「北海道自伐型林業推進協議会」に入会し、会員間で情報共有しながら各地で活動しています。 会員種別 個人 団体 正会員 73 6 賛助会員 8 2 開催年度 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023 開催地 洞爺湖町(人工林) 白老町(天然林) 洞爺湖町(人工林) 札幌市(天然林) 札幌市(天然林) 白老町(天然林) 白老町(天然林) 白老町(天然林) 白老町(天然林) 延参加者数 86 138 79 76 80 83 80
  9. 自伐型林業「暮らしの豊かさアンケート」その1 自伐型林業を始めた事が、「暮らしの豊かさ」につながっているのかを把握するため、当会の会員と過去の自伐型林業の研修会の受 講者を対象にアンケートを実施しました。 アンケートはメールで144人に送信し、37人からの回答を得ました。 アンケート結果 • 自伐型林業を実践している世代は40代が最も多く、 次いで60代。自営業として取り組んでいる40代の 林業家を60代以上がサポートしているケースが多 い。

    • 当会の事業を契機に自伐型林業に取り組んでいる方 は70.3%と半数以上の方が何らかの立場で自伐型林 業に取り組んでいる。 • 現在取り組んでいない方の要因としては、「山が見 つからない」という意見が57.1%と最も高く、自伐 型林業者のサポートとしては山の確保が重要である 事がわかった。 • 現在の山の管理面積は5ha未満が56.3%と最も多く、 次いで10ha~50haが25%となる。 • 年間の林業収入は無報酬により活動する方が33.3%。 他66.7%の方が報酬を得ている。そのうち、100万 円未満が41.6%と最も多く、300万円~500万円が 11.1%、1000万円以上の収入を得る林業家も5.6% 存在する。 • 自伐型林業で取り組んでみたい分野としては作業道 づくりが32.4%と最もニーズが高く、次いで間伐等 の伐採が21.6%。森林施業等の現場系が54%である。 • 林産物の販売・製品開発や施業地確保のための森林 調査も合わせて37.8%で経営に関する分野にも関心 が高い事がわかった。
  10. 自伐型林業「暮らしの豊かさアンケート」その2 – 暮らしの豊さ – • アンケートでは5段階評価で暮らしの豊かさも調査した。 • 自伐型林業に参入する事により現在の収入状況には「変化なし~増えた」が80%との回答を得た。 • また、活動のため人脈が広がり、身心ともに充実しているという実態もある。

    • 若干、自由時間減少の傾向があるが充実した山仕事での時間で消費しているためと思われる。 • 「総じて暮らしは豊かになりましたか?」の質問では「変化なし~とても豊かになった」と回答する方が91.1%にもなる。 • 自伐型林業をスタートさせるには、研修事業への参加、仲間集め、山探しと数年を要する挑戦でもあるが、今の生活水準の低下や悪 影響が及ぶリスクは少ないと言える。
  11. 自伐型林業「暮らしの豊かさアンケート」その3 -自伐型林業による収入目標のスキーム- • 今回のアンケートでは多様なレベルで生業化している事が判明した。 • ここでは目標とする収入(年額)を持続的に達成させるためのスキーム(例)を挙げる。 目標年収 活動スキーム 50万円未満 ①林業グループの活動や自伐展開している企業で週に1~2回程度の作業に参加する。

    ②5ha未満の山を管理し、1ha程度/年の施業を実施。 ①・②単独、または①+②で達成。 50万円~100万円 ①林業グループの活動や自伐展開している企業で週に3~4回程度の作業に参加する。 ②10ha未満の山を管理し、2ha程度/年の施業を実施。 薪材等の販売も行う。 ①・②単独、または①+②で達成。 100万円~300万円 ①林業グループの活動や自伐展開している企業で週に3~4回程度で作業に参加する。 ②10ha~20haの山林管理を行い、交付金制度を使い5ha程度/年の間伐や作業道敷設等を 行う。 ①+②で達成 300万円~500万円 30ha程度の森林所有者となるか、自治体や森林所有者から山林を借り受け、交付金制度 等を利用し事業を展開。薪やホダ木、一般材等の販売も併せて行う。年間の施業面積は 5~10ha程度 500万円~1000万円 50ha以上の森林所有者となるか、自治体や森林所有者から山林を借り受け交付金制度等 も利用し事業を展開。薪やホダ木、一般材等の販売も併せて行う。年間の施業面積は 10ha程度
  12. 北海道における自伐型林業、小規模林業の展開 31 団体が森林管理実施 2016.12~ 北海道自伐型林業推進協議会 設立 1h 管 a 理

    未 面積 満 ~ 40ha 多様な事業体 13 団体が 自伐型林業家養成塾受講済 交付金活用 森林・山村多面的機能発揮対策交付金を活用する団体 → 31団体のうち、26団体(ほか 1 団体は経営計画) 林 業への参入障壁を下げ、今後の展開に期待 北海道自伐型林業推進協議会が設立してから、31団体が森林管理を開始。 自伐型林業家養成塾の参加者から林業を開始したのは13団体。 活動面積は 0.4ha~40ha と多様。 •… 自伐型林業の考え方をもとに実施し、森林管理する団体拠点
  13. まとめ • 自伐型林業は以下のとおり、環境面・経済面の双方で持続的な森林経営が期待できます。 • 低コストのため、参入障壁が低い。 • 加えて森林資源を育成することで高収益化が期待できるため、活動継続することの 経済的負担が少ない。 • 山を育成するスタイルのため、地域住民の環境保全意識の向上が期待できる。

    • 次世代へつながる環境教育が期待できる。 • 小規模路網で地域の憩いの場としての山林を演出 • 北海道自伐型林業推進協議会では、自伐型林業のプレイヤーを増やすために様々な取り 組みを行っています。 • 自伐型林業にご興味のある方は是非お問い合わせください。 • 所有する山林の管理に悩みを抱える山主様 • 放置山林の課題を抱える自治体様 • 自伐型林業に従事したい皆様 https://hokkaido-jibatsukyo.net/ [email protected]