名城大学オープンキャンパス2022(7月30日,31日),情報工学部模擬講義の内容です. ・speakerdeckの仕様で動画が再生できません.Twitterに上げてあるものを見てください. https://twitter.com/konakalab/status/1553570962364215296
使える!数学!応用数学入門情報工学部情報工学科准教授 小中 英嗣(こなか えいじ)
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数学を「使う」高校で勉強する数学,どんな場面で使えるの?
数学を「使う」今日の内容:数学が「現象を記述すること」に使える「ニュートンの運動方程式」からスタート変数,関数,微分,指数関数,代数方程式,複素数,オイラーの公式,三角関数,ベクトルと内積,…高校で勉強する数学,どんな場面で使えるの?
ニュートンの運動方程式:動きの規則とその原理ニュートンの運動方程式𝑚𝑎 = 𝐹「質量𝑚の物体に力𝐹が加わったときの加速度𝑎がこのように決まる」という主張今のところこの規則に反する現象は観測されていない加速度とは?(速度)=(位置の変化量)/(経過時間)(加速度)=(速度の変化量)/(経過時間)数式を使って書ける
変数と関数とグラフ変数と関数変数:値が変わる量を文字(記号)で表す仕組み時間,位置,速度,加速度⇔𝑡, 𝑥, 𝑣, 𝑎関数:変数同士の依存関係を表すしくみ「位置が時間ごとに変化する」⇔𝑥(𝑡)簡潔に・わかりやすく表現する工夫関数とグラフグラフ:関数で結びつけられた変数の関係を図示したもの
速度と微分(速度)=(位置の変化量)/(経過時間)経過時間⇔Δ𝑡𝑣 =𝑥 𝑡 + Δ𝑡 − 𝑥(𝑡)𝑡 + Δ𝑡 − 𝑡
速度と微分(速度)=(位置の変化量)/(経過時間)経過時間⇔Δ𝑡「瞬間の」⇔Δ𝑡 → 0𝑣 = limΔ𝑡→0𝑥 𝑡 + Δ𝑡 − 𝑥(𝑡)𝑡 + Δ𝑡 − 𝑡
速度と微分(速度)=(位置の変化量)/(経過時間)経過時間⇔Δ𝑡「瞬間の」⇔Δ𝑡 → 0微小な変化量⇔変数の前に𝑑をつける“difference”𝑣 =𝑑𝑥𝑑𝑡
速度と微分(速度)=(位置の変化量)/(経過時間)経過時間⇔Δ𝑡「瞬間の」⇔Δ𝑡 → 0微小な変化量⇔変数の前に𝑑をつける“difference”×「微分を使うと位置から速度を求められる」◎「位置から速度を求める計算を一般化したものが微分である」加速度は位置を時間で二階微分𝑣 =𝑑𝑑𝑡𝑥, 𝑎 =𝑑𝑑𝑡𝑣 =𝑑2𝑑𝑡2𝑥
ばねを含む運動方程式フックの法則「ばねを長く伸ばすには力がたくさん必要」ばねは伸ばしたら縮む⇔伸びと力は逆向き⇔負号がつくばねにつながれたおもりの運動方程式𝑚𝑎 = 𝐹, 𝐹 = −𝑘𝑥 ֞ 𝑚 𝑑2𝑥𝑑𝑡2= −𝑘𝑥𝑥(𝑡)とその微分を含んだ方程式:「微分方程式」物理の問題は微分方程式を解くことである𝐹 = −𝑘𝑥
微分方程式を解くための(高校での)準備「微分したらどうなる関数」を知りたいのか?𝑚 𝑑2𝑥𝑑𝑡2= −𝑘𝑥「微分したら自分自身の定数倍になる関数」がわかるとうれしそう知ってる?
微分方程式を解くための(高校での)準備「微分したらどうなる関数」を知りたいのか?𝑚 𝑑2𝑥𝑑𝑡2= −𝑘𝑥「微分したら自分自身の定数倍になる関数」がわかるとうれしそう知ってる? 𝑑𝑑𝑡𝑥 𝑡 = 𝑐𝑥 𝑡高校数学っぽい書き方だと… 𝑓 𝑥 ′ = 𝑎𝑓(𝑥)
微分方程式を解くための(高校での)準備「微分したらどうなる関数」を知りたいのか?𝑚 𝑑2𝑥𝑑𝑡2= −𝑘𝑥「微分したら自分自身の定数倍になる関数」がわかるとうれしそう知ってる? 𝑑𝑑𝑡𝑥 𝑡 = 𝑐𝑥 𝑡高校数学っぽい書き方だと… 𝑓 𝑥 ′ = 𝑎𝑓(𝑥)𝑒𝑎𝑥 ′ = 𝑎𝑒𝑎𝑥
指数関数と𝑒(ネイピア数)を知っておくべき理由Q: どうして𝑒って知らないといけないの?A: 𝑒𝑎𝑥が上の条件を満たす特別にきれいな関数だから.余談: 𝑒は物理ではなく金融(福利の利息の計算)の問題を考える必要に迫られて導出された定数𝑒𝑎𝑥 ′ = 𝑎𝑒𝑎𝑥
微分の記号として 𝑑𝑑𝑥が便利な理由𝑒𝑎𝑥 ′ = 𝑎𝑒𝑎𝑥
微分の記号として 𝑑𝑑𝑥が便利な理由𝑑𝑑𝑥𝑒𝑎𝑥 = 𝑎𝑒𝑎𝑥
微分の記号として 𝑑𝑑𝑥が便利な理由「左から何かを施す演算」として見通しが良い.「左から微分したもの」(左辺)と「左から定数をかけたもの」(右辺)が「等しい」(等号)という主張,がわかりやすい𝑑𝑑𝑥𝑒𝑎𝑥 = 𝑎𝑒𝑎𝑥
微分の記号として 𝑑𝑑𝑥が便利な理由𝑚𝑑2𝑥𝑑𝑡2= −𝑘𝑥
微分の記号として 𝑑𝑑𝑥が便利な理由関数𝑥(𝑡)として,「二階微分したら」(左辺)「自分自身の負の定数倍」(右辺)「と等しくなる」(等号)が解である(それを見つけなさい!) という主張.𝑑2𝑑𝑡2𝑥 = −𝑘𝑚𝑥
指数関数とばねの問題⇒代数方程式(二次方程式)𝑚𝑑2𝑥𝑑𝑡2= −𝑘𝑥, 𝑥 𝑡 = 𝐶𝑒𝑠𝑡֞ 𝑚𝐶𝑎2𝑒𝑠𝑡 = −𝑘𝐶𝑒𝑠𝑡֞ 𝑚𝑠2 = −𝑘𝑠の二次方程式が現れた!𝑚𝑠2 = −𝑘,∴ 𝑠 = ±𝑗 𝑘𝑚(𝑗2 = −1)複素数(虚数)が現れた!
二次方程式と複素数を知っておくべき理由運動方程式は二階微分方程式指数関数が解の候補二次方程式に帰着される⇒解けない二次方程式があると困る波を理解するために必要
指数関数の肩に複素数って,何なの?𝑠 = ±𝑗 𝑘𝑚= ±𝑗𝜔0𝑥 𝑡 = 𝐶1𝑒𝑗𝜔0𝑡 + 𝐶2𝑒−𝑗𝜔0𝑡知識:ばね・重り系なので位置は単振動となるはずオイラーの公式利点:オイラーの公式を使って指数関数と複素数を組み合わせる⇒振動とその微積分が簡単に書けるようになる𝑒𝑗𝜔𝑡 = cos 𝜔𝑡 + 𝑗 sin 𝜔𝑡
確認:2階微分してみる三角関数𝑥 𝑡 = 𝐴 sin 𝜔𝑡֞ 𝑑2𝑥𝑑𝑡2= −𝐴𝜔2 sin 𝜔𝑡 = −𝜔2𝑥(𝑡)指数関数𝑥 𝑡 = 𝐶𝑒±𝑗𝜔𝑡֞ 𝑑2𝑥𝑑𝑡2= −𝐶𝜔2𝑒±𝑗𝜔𝑡 = −𝜔2𝑥(𝑡)どちらも「二階微分したら自分自身の負の定数倍になる関数」𝑒𝑗𝜔𝑡 = cos 𝜔𝑡 + 𝑗 sin 𝜔𝑡
電気回路を微分方程式で書いてみる電磁誘導「電流の変化を妨げる方向に誘導起電力が生じる」𝑅𝐼 𝑡 + 𝐿𝑑𝐼𝑑𝑡= 𝐸(𝑡)
抵抗・コイル回路の微分方程式を複素数だけで解いてみる𝐸 𝑡 = 𝐸0𝑒𝑗𝜔𝑡𝐼 𝑡 = 𝐼0𝑒𝑗𝜔𝑡𝑅 + 𝑗𝜔𝐿 𝐼0𝑒𝑗𝜔𝑡 = 𝐸0𝑒𝑗𝜔𝑡∴ 𝐼0= 𝐸0/(𝑅 + 𝑗𝜔𝐿)𝑅𝐼 𝑡 + 𝐿𝑑𝐼𝑑𝑡= 𝐸(𝑡)
抵抗・コイル回路の微分方程式を複素数だけで解いてみる(続き)𝐼0= 𝐸0𝑅+𝑗𝜔𝐿正弦波を確定させる3つの要素振幅𝐴,位相𝜃,角周波数𝜔振幅(比):複素数の絶対値位相(差):複素数の偏角角周波数:変わらない𝐼0= 𝐸0⋅1𝑅 + 𝑗𝜔𝐿=𝐸0𝑅2 + 𝜔𝐿 2∠𝐼0= ∠𝐸0+ ∠1𝑅 + 𝑗𝜔𝐿= ∠𝐸0− ∠(𝑅 + 𝑗𝜔𝐿)𝐴 sin(𝜔𝑡 + 𝜃)複素数の四則演算だけで振幅と位相の変化がわかる
複素数の絶対値と偏角の関係を知っておくべき理由 𝑧1𝑧2= 𝑧1𝑧2, ∠ 𝑧1𝑧2= ∠𝑧1+ ∠𝑧2三角関数(正弦波)が解となるような微分方程式を四則演算だけで解ける複素数の絶対値と偏角が正弦波の振幅比と位相差に対応
複素数の絶対値と偏角の関係を知っておくべき理由 𝑧1𝑧2= 𝑧1𝑧2, ∠ 𝑧1𝑧2= ∠𝑧1+ ∠𝑧2三角関数(正弦波)が解となるような微分方程式を四則演算だけで解ける複素数の絶対値と偏角が正弦波の振幅比と位相差に対応人類が現在持ちうる,最も簡潔で簡単な微分方程式の解法×複素数,なんだかよくわからないし存在しないとか言われているし勉強するの無駄じゃないの…?◎複素数まで数を拡張するだけなのに,四則演算で微分方程式が解けるなんて感動的!!!!!
微分方程式を複素数で解く例𝑑𝑥𝑑𝑡+ 𝑥 = sin 𝑡⇒ 𝑗 + 1 𝑋0= 1⇒ 𝑋0= 11+𝑗⇒ 𝑋0= 12, ∠𝑋0= − 𝜋4∴ 𝑥 𝑡 = 12sin 𝑡 − 𝜋4(検算)𝑑𝑥𝑑𝑡= 12cos 𝑡 − 𝜋4,𝑑𝑥𝑑𝑡+ 𝑥 = 12cos 𝑡 − 𝜋4+ 12sin 𝑡 − 𝜋4= sin 𝑡 = (右辺)複素数の四則演算だけで振幅と位相の変化がわかる
ここからは駆け足で!ベクトルと内積と分解ベクトルの分解 ベクトルの内積Ԧ𝑥Ԧ𝑒𝐿 = Ԧ𝑥 cos 𝜃 =Ԧ𝑥 ⋅ Ԧ𝑒Ԧ𝑒𝜃
ここからは駆け足で!ベクトルと内積と分解直交ベクトルへの分解 Ԧ𝑥 = Ԧ𝑥 ⋅ 𝑒1𝑒1+ Ԧ𝑥 ⋅ 𝑒2𝑒2前提 𝑒1= 𝑒2= 1 𝑒1⋅ 𝑒2= 0𝑒1𝑒2Ԧ𝑥
内積を関数に拡張する関数の内積内積:同じ位置の要素の積を足す Ԧ𝑝 ⋅ Ԧ𝑞 = 𝑝𝑥⋅ 𝑞𝑥+ 𝑝𝑦⋅ 𝑞𝑦直交関数への分解前提 𝑒𝑖⋅ 𝑒𝑗= 0 𝑖 ≠ 𝑗 𝑒𝑖⋅ 𝑒𝑗= 1 𝑖 = 𝑗𝑓, 𝑔 = න𝑎𝑏𝑓 𝑥 𝑔 𝑥 𝑑𝑥𝑓 𝑥 = 𝑛=1∞𝑓 𝑥 , 𝑒𝑛𝑥 𝑒𝑛(𝑥)
内積を関数に拡張する直交関数への分解前提 𝑒𝑖⋅ 𝑒𝑗= 0 𝑖 ≠ 𝑗 𝑒𝑖⋅ 𝑒𝑗= 1 𝑖 = 𝑗𝑓 𝑥 = 𝑛=1∞𝑓 𝑥 , 𝑒𝑛𝑥 𝑒𝑛(𝑥)直交ベクトルへの分解𝑒1𝑒2Ԧ𝑥
内積を関数に拡張する直交関数への分解前提 𝑒𝑖⋅ 𝑒𝑗= 0 𝑖 ≠ 𝑗 𝑒𝑖⋅ 𝑒𝑗= 1 𝑖 = 𝑗𝑓 𝑥 = 𝑛=1∞𝑓 𝑥 , 𝑒𝑛𝑥 𝑒𝑛(𝑥)直交ベクトルへの分解𝑒1𝑒2Ԧ𝑥ベクトルの分解→関数の分解 につながる
正弦波の和でいろいろな関数を作る赤線の関数を異なる円の和で作る「フーリエ級数展開」
正弦波の和でいろいろな関数を作る4𝜋sin 𝑡 + 13sin 3𝑡 + 15sin 5𝑡 + ⋯
正弦波の和でいろいろな関数を作る赤線の関数からギザギザの部分(雑音)を取り除く(ディジタル)「フィルタ」音声・画像処理の一例
さらに駆け足!:漸化式漸化式 𝑛を時刻だと思うと…例:𝑎𝑛= 𝑘𝑎𝑛−1+ (1 − 𝑘)
さらに駆け足!:漸化式漸化式「時間とともに変化する規則」の計算実は微分方程式にとても近い音声/画像処理に使われている𝑛を時刻だと思うと…例:𝑎𝑛= 𝑘𝑎𝑛−1+ (1 − 𝑘)
漸化式を使った音声処理(のシンプルな例)𝑏𝑛: 元の音𝑎𝑛:処理後の音𝑎𝑛= 0.3259𝑎𝑛−1+ 0.3375 𝑏𝑛+ 𝑏𝑛−1
漸化式を使った音声処理(のシンプルな例)𝑏𝑛: 元の音𝑎𝑛:処理後の音𝑎𝑛= (もうちょっと複雑な式)
30分では語りつくせませんが…「勉強」と「研究」「勉強」と「研究」はつながっている高校までの数学・物理は情報工学の強力な武器!「受験のため」ではもったいない!!△研究では今まで全く知らない高度な手法を使う◎研究では「すでに知っている/知られている方法」で解けるかどうかを最初に検討しっかり数学を学んでから大学に来てください!数学が「役に立つ」日々が待っています!!
教員SNSなど[email protected] https://twitter.com/konakalabWebサイトhttps://www-ie.meijo-u.ac.jp/~konaka/index.html発表済みスライドhttps://speakerdeck.com/konakalabイラスト素材「いらすとや」 https://www.irasutoya.com/