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社心2019_WS困難を乗り越える上でのマインドセットの役割

 社心2019_WS困難を乗り越える上でのマインドセットの役割

日本社会心理学会第60回大会でのワークショップでの話題提供資料です。

WS07 11/10 15:00~16:30
マインドセット研究の最前線:マインドセット効果とその社会的意義を議論する
話題提供:困難を乗り越える上でのマインドセットの役割

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Transcript

  1. 東洋⼤学⼤学院 / ディップ (株)
    ⼤久保 慧悟
    ⽇本社会⼼理学会第60回⼤会 ⾃主企画WS
    「マインドセット研究の最前線」
    困難を乗り越える上でのマインドセットの役割
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  2. 困難との直⾯は,避けられない
    • ⼈⽣にとって⼤事な出来事に
    「困難」はつきもの
    • 学業,⼈間関係,仕事,恋愛,
    家庭,⼦育,趣味…
    • ⼤事な場⾯で困難に挑み続け
    る⼼を⽀えているものは︖
    • その1つがマインドセット

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  3. 本発表の
    内容
    マインドセットとは何か︖
    マインドセットが困難を乗り越える
    上で,どう役⽴つか︖
    マインドセットは,キャリア形成にど
    う影響するか︖

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  4. マインドセットとは︖
    • 特定の性質に関する信念
    • 知能,性格,ストレスなど
    • 世の中を理解し解釈する「レンズ」
    (Crum et al., 2013)
    • 研究初期は「暗黙理論」(Implicit
    Theory) と呼んでいたが,伝わり
    やすいようにマインドセットと呼ぶ
    ようにした(Dweck & Yeager,
    2019)

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  5. 知能は変わる︖変わらない︖
    • 知能マインドセットは,
    「知能」の可塑性の捉え⽅
    • 学業上の成功や,困難に直
    ⾯した時の粘り強さを予測
    • 増⼤的マインドセット
    • 「能⼒は変わるもの」
    • 固定的マインドセット
    • 「能⼒は備わっているもの」

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  6. ⼤変な事柄への動機づけに影響する
    • 全て英語で講義が⾏われる
    ⾹港⼤学(Hong et al., 1999)
    • 新⼊⽣に英語の必要性を伝
    え,特別補講を案内して参
    加意欲を測定
    • ⼊学時点の英語の成績が悪
    いときこそ,増⼤的MS学⽣
    は,固定的MSよりも積極的
    • 成績良好な者は特別補講の重
    要さが異なるので,意欲が低
    いとは⾔えない

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  7. マインドセット介⼊の効果(Blackwell et al., 2007)
    • MS介⼊は,数学が難しくなるタイミングでの成績低下を防いだ
    N=

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  8. 約12,000⼈への⼤規模介⼊(Yeager et al., 2019)
    • 1時間未満のオンライン介⼊
    • 低学年の成績改善で有益
    • GPAが.10ポイント向上
    • 落第率が46%→41%
    • ⽣得的な信念が強い理系科⽬
    では効果が顕著

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  9. マインドセットはどう形成される︖
    • 教育に関する場⾯での褒
    め⽅(Cimpian et al, 2007)
    • 「できない」ではなく「まだ,
    できない」(Dweck, 2014;
    TEDトーク)
    • 親の失敗に対する捉え⽅
    (Haimovitz & Dweck,
    2016)

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  10. いかに困難に挑む⼼を⽀えているか
    ⽬標志向性 失敗の意味 努⼒の意味
    増⼤的
    マインドセット
    習熟⽬標
    (能⼒を伸ば
    す⽬標)
    まだ能⼒が不⾜
    している
    能⼒を伸ばすた
    めの努⼒をする
    固定的MS
    マインドセット
    遂⾏⽬標
    (能⼒を証明
    する⽬標)
    そもそも向いて
    いない
    能⼒が無いから
    努⼒しないとい
    けない

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  11. *図はYeager et al(2018)をDweck & Yeager(2019)が再分析したもの

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  12. 多様なマインドセットの展開
    • 初期は能⼒・性質の可塑性が
    対象
    • 数学能⼒,交渉能⼒
    • 性格,シャイネス,リーダー
    シップ,恋愛関係性…
    • 近年では可塑性以外の次元も
    • ストレスの有害性ー有益性,蓄
    積性ー解消性
    • 他のMS研究と共通するのは,
    統制可能性に関する信念を扱っ
    ていること︖

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  13. ストレスは有害︖有益︖
    • ストレスマインドセット
    (Crum et al., 2013)
    • ストレスの性質に対する捉え⽅
    • コーピングやストレス量とは独
    ⽴に,健康状態や幸福感を予測
    • ストレス有害MS
    • 健康や成⻑を害する
    • ストレス有益MS
    • 健康や成⻑を促す
    *関⻄福祉科学⼤学⼼理科学部平成28年度 共同研究「⼼理科学
    研究におけるポジティブ⼼理学の実践」の 助成を受けた。
    ⼤久保・⽵橋・⾼(印刷中)

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  14. 他者の成功要因をどう捉えるか︖
    • 就活が上⼿くいった先輩の
    秘訣をどう捉えるか︖(⼤
    久保・⽵橋,2017)
    • 増⼤的MSを持つ者は「努
    ⼒」に帰属
    • 固定的MSを持つ者は「⼈
    柄」に帰属
    • 増⼤MSを持つ者は,他者
    の体験談の中から学びを得
    やすいのでは︖
    2
    1
    0

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  15. 「向いてない」かもしれないけど・・・
    • 就活が本格化する前に受験し
    た職業適性検査の返却会の直
    後に調査を実施(⼤久保・⽵橋,
    2017)
    • 検査結果が「希望する職業への
    適性」をどの程度⾼く表してい
    たかを⾃⼰評定
    • 知能MS,インターン参加意図を
    測定
    • 増⼤MSを持つ学⽣は 「適性が
    無い」 と思っても,インター
    ンシップ参加の動機づけが⾼
    かった
    1
    1.5
    2
    2.5
    3
    3.5














    MS MS

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  16. 介⼊で就活講座の有⽤性を⾒出すように
    • 就活が本格化する前の3年⽣
    を対象に知能MS介⼊or就活
    ⽅略の伝達を実施(⼤久保・
    ⽵橋, 未発表)
    • 介⼊2週間後の測定で,介⼊
    群では統制群と⽐して,学
    内のキャリアガイダンスに
    有⽤性を⾒出しやすく 1
    1.5
    2
    2.5
    3
    3.5
    4

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  17. 苦労して得た進路に⾒出す意味の違い︖
    • 固定的MSでは,⼊社先の進
    路に後悔する⽐率が⾼い
    (⼤久保・⽵橋・尾崎, 2019)
    • 固定的MSで,就活に苦労し
    たと知覚する者では,⼊社
    先に後悔する⽐率が⾼い
    • 苦労しなきゃいけないってことは,
    ぴったりじゃない進路︖ -0.6
    -0.4
    -0.2
    0
    0.2
    0.4
    0.6
    0.8
    1
    1.2
    -1SD +1SD











    MS
    MS

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  18. ⼤変な資格取得に,意味を⾒出す
    3.5
    4
    4.5
    5
    -1SD +1SD









    MS
    MS
    • 資格取得が推奨される企業
    に勤めるSE職を対象に調査
    (⼤久保・⽵橋・尾崎・成⽥, 未発表)
    • 増⼤的MSを持つ⼈は,資格
    取得が⼤変なほどに「役⽴
    つ」と認識

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  19. キャリア形成への影響を検討する意味
    • 介⼊の成績向上効果は⼩さくて
    も,⾼度な数学の履修率4%増に
    (Yeager et al., 2019)
    • 「困難を乗越える」だけではなく,
    困難な道も選択肢に上がったとい
    う点が興味深い
    • 未来をどう設計し,歩むかとい
    う点でも,世界を解釈するレン
    ズであるマインドセットは重要
    な機能を持つのでは︖
    • 教育場⾯だけではなく,キャリア
    形成の視座から⾒つめると新たな
    発⾒が(あると信じています)

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  20. 引⽤⽂献(登場順)
    • Crum, A. J., Salovey, P., & Achor, S.(2013). Rethinking stress: The role of mindsets in determining the stress response.
    Journal of Personality and Social Psychology, 104, 716-733.
    • Dweck, C. S. & Yeager, D. S. (2019). Mindsets: A view from two eras. Perspectives on Psychological Science.
    • Hong, Y., Chiu, C., Dweck, C. S., Lin, D. M. S., & Wan, W. (1999). Implicit Theories, Attributions, and Coping: A Meaning
    System Approach. Journal of Personality and Social Psychology, 77, 588-599.
    • Blackwell, L., Trzesniewski, K., & Dweck, C. (2007). Implicit Theories of Intelligence Predict Achievement across an
    Adolescent Transition A Longitudinal Study and an Intervention. Child Development, 78, 246-263.
    • Yeager, D. S., Hanselman, P., Walton, G. M., Murray, J. S., Crosnoe, R., Muller, C., … Dweck, C. S. (2019). A national
    experiment reveals where a growth mindset improves achievement. Nature, 573, 364–369.
    • Cimpian, A., Arce, H.-M. C., Markman, E. M., & Dweck, C. S. (2007). Subtle linguistic cues affect children's
    motivation. Psychological Science, 18, 314–316.
    • Haimovitz, K., & Dweck, C. S. (2016). What predicts children's fixed and growth intelligence mind-sets? Not their parents'
    views of intelligence but their parents' views of failure. Psychological Science, 27(6), 859-869.
    • ⼤久保慧悟・⽵橋洋毅・⾼史明 (印刷中).ストレスマインドセット尺度の邦訳および信頼性・妥当性の検討 ⼼理学研究
    • ⼤久保慧悟・⽵橋洋毅 (2017). 就職活動における暗黙の才能観の役割ー困難を乗り越える⼼のメカニズムー ⽇本社会⼼理学会第58回⼤

    • ⼤久保慧悟・⽵橋洋毅・尾崎由佳 (2019). 苦労をして獲得した内定の意味は,マインドセットで異なるのか︖暗黙の知能観と新卒⼊社
    企業に対する後悔との関連 ⽇本社会⼼理学会第60回⼤会

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  21. ご静聴,ありがとうございました︕
    東洋⼤学⼤学院社会学研究科社会⼼理学専攻
    ディップ 株式会社 次世代事業統括部
    ⼤久保 慧悟 [email protected]

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