Upgrade to Pro — share decks privately, control downloads, hide ads and more …

やさしい⺠主主義の教科書

 やさしい⺠主主義の教科書

昨今の情勢を受けて政治への関心が高まっているように感じます。が、一方で、基本的な理解が不十分な発信も多く見受けられますので、より建設的な議論が可能になるように基本的な理解や知っておきたい事柄をまとめると良いのではと思いました。

現代社会の政治は「⺠主主義」に基づきますので、「⺠主主義はどのようにあるべきか」についてのわかりやすいテキストがあると良いのではないかと考えました。 既存の本は「政治経済」の専門家が書いた本で少々難しいのではということで、予備知識があまりなくても読めるように話をなるべくシンプルに記述を行うようにしました。

本書を機に、現代社会における「⺠主主義」について多くの方に理解を深めていただけるきっかけになれば、大変嬉しい限りです!!


初版については無料で公開することにいたしました。改訂は行いませんが、誤植や明らかな内容の誤りにつきましては見つかり次第修正していく予定です。
また、有料版として随時アップデートしていくものは下記で入手が可能ですので、よろしければこちらもご検討ください!
https://lib-arts-journal.booth.pm/items/2024806

lib-arts-journal

May 12, 2020
Tweet

Other Decks in Education

Transcript

  1. 2

  2. 3 はじめに 初版刊行にあたって コロナショックが猛威を振るう 2020 年の 4 月の今日この頃です。とはい えウイルスだけを気にするだけでなく、日々の生活も気にしなくてはなりま せん。第二次世界大戦やバブル崩壊はリアルタイムで経験していませんが、

    それに匹敵する危機である今回、当然大きな措置が取られる、そう思ってい たのですが、 、 、現政権の対応がちょっとさすがに良くないかなという印象を 受けます。 平時ならともかく緊急時における国家のトップマネジメントが思いつきや 縁故でなされ、外出自粛によって生活に困窮する人が出るであろうというこ とが全く理解されていません。さらに生活困窮者が外出自粛しないだろうと 考えると単なる生活支援だけでなく、感染拡大防止の観点からも良くないで す。挙句の果てに「検事⻑人事への介入」のような三権分立を脅かすような 審議や「憲法改正」などもこの情勢下で検討がなされています (例を挙げる とキリがないのでこのくらいにします)。 これを受けて、 「現政権は駄目だ」という声が山のようにあがっています し、筆者もそれには概ね同感です。ですが、単に否定するだけではまた同じ ことを繰り返す可能性があります。個別の事例についての議論はその時に おいては有意義でも、根本的な解決にはなりません。したがって、システム (仕組み) に目を向ける必要があると考えました。 現代社会の政治は「⺠主主義」に基づきます、そのため「⺠主主義はどの 3
  3. 4 ようにあるべきか」を多くの人が知るのが良いのではないかと考えました。 既存の本は「政治経済」の専門家が書いた本で少々難しいのではということ で、予備知識があまりなくても読めるように話をなるべくシンプルに記述を 行うようにしました。 本書を機に、現代社会における「⺠主主義」について多くの方に理解を深 めていただけるきっかけになれば、大変嬉しい限りです!! 本書の対象読者 ・ニュースを見ていてもイマイチ何が起こっているのかわからないので、 もっと詳しく理解したい方

    ・現代社会における「⺠主主義」や「政治」のあるべき姿についてしっか り考察したい方 ・コロナショックを受けて選挙の一票はちゃんと考えた上で投票したいと 感じた方 ・理系だけれど、最低限の知識は抑えておきたいと考えている方 注意事項 筆者はイデオロギー論にはほとんど関心がありません。というのもロジカ ルに議論できているかどうか、その主張はフェアかの方が関心が強いためで す。とはいえ、様々な考え方の方向性があるということを知るというのは有 意義です (こちらについて詳しくは第 3 章の政治的スペクトルなどで取り扱 います)。 筆者の判断基準として一番重視しているのは「思想や主張の良し悪し」で はなく、 「フェアかどうか」です。例えば「緊急時における私権の制限」一つ 取っても、 「どこまでが妥当なのか」というロジカルで合理的なアプローチ にこだわりたいと思います。 筆者の主張が必ずしも正しいというつもりはないですが論拠を必ず示した 4
  4. 6

  5. 7 目次 はじめに 3 初版刊行にあたって . . . . .

    . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3 本書の対象読者 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4 注意事項 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4 第 1 章 序論 (Introduction) 11 1.1 本書が考える大原則 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11 1.2 国家とはなにか . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13 1.3 ⺠主主義とは . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14 1.4 ⺠衆の意思について . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16 1.4.1 マズローの五段階欲求説 . . . . . . . . . . . . . . . 16 1.4.2 一般意志 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17 第 2 章 日本国憲法 19 2.1 概要 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19 2.2 日本国憲法の三大原理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21 2.2.1 基本的人権の尊重 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22 2.2.2 国⺠主権(⺠主主義) . . . . . . . . . . . . . . . . 26 2.2.3 平和主義 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 27 2.3 権力分立制 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 28 7
  6. 8 目次 第 3 章 政治学 29 3.1 保守とリベラル (政治的スペクトル)

    . . . . . . . . . . . . . 29 3.1.1 保守主義 (conservatism) について . . . . . . . . . 30 3.1.2 リベラル (liberal) について . . . . . . . . . . . . . 33 3.2 三権分立の運用 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 35 3.2.1 大統領制 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 35 3.2.2 議院内閣制 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 37 3.3 政党制 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 38 3.3.1 政党制とデュヴェルジェの法則 . . . . . . . . . . . 38 3.3.2 小選挙区制と二大政党制 . . . . . . . . . . . . . . . 40 3.3.3 中選挙区制と穏健な多党制 . . . . . . . . . . . . . . 43 第 4 章 経済と財政 45 4.1 資本主義の仕組み概論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 45 4.2 中央銀行 (日本銀行) の概要 . . . . . . . . . . . . . . . . . 47 4.3 日本国の借金 (国債) について . . . . . . . . . . . . . . . . 50 4.4 現代貨幣理論 (MMT) について . . . . . . . . . . . . . . . 51 4.5 金融って難し過ぎないだろうか (コラム) . . . . . . . . . . 54 第 5 章 世界史と国際社会 55 5.1 30 年戦争とウェストファリア条約 . . . . . . . . . . . . . . 55 5.2 市⺠革命と⺠主主義 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 59 5.3 ナポレオン戦争とウィーン体制の崩壊 . . . . . . . . . . . . 60 5.4 帝国主義と第一次世界大戦 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 61 5.5 世界恐慌と第二次世界大戦 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 63 5.6 冷戦とイデオロギー . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 64 第 6 章 近代日本史 67 6.1 明治維新 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 67 6.2 軍部の暴走と第二次世界大戦 . . . . . . . . . . . . . . . . 68 8
  7. 9 目次 6.3 東京裁判と戦後の日本史 . . . . . .

    . . . . . . . . . . . . . 70 第 7 章 これからの展望や考え方について 75 7.1 持続可能性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 75 7.2 現代日本をどう考えるべきか . . . . . . . . . . . . . . . . 77 本書について 83 著者プロフィール . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 83 注意事項 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 83 9
  8. 1 0

  9. 1 1 第 1 章 序論 (Introduction) 第 1 章では、本書の序論として考えのベースとしての大原則を明記

    した上で、国家や⺠主主義などの言葉の意味合いについて確認してい きます。1-1 節で本書が考える大原則について記載し、⺠主主義に基 づいて国家を運営していくにあたって重要と思われる点について論じ ます。1-2 節では国家、1-3 節では⺠主主義について記載し、言葉の 整理を行います。1-4 節では⺠主主義のベースにある⺠衆の意思につ いて確認するにあたって、マズローの五段階欲求説やルソーの一般意 志についてご紹介しています。 1.1 本書が考える大原則 1-1 節では本書が考える大原則について整理したいと思います。国家や政 治について考えるにあたって正解は一つではありません。ですがだからと いって何をしても良いというわけではなく、大原則にあたるものは少なくと も抑えるべきではないかということで、下記にまとめることにしました。 (1) 行政は法律に基づき、法律は倫理と歴史に基づく。 (行政の根拠) (2) 経済は資本家のために、政治は社会の全構成員のために存在する。 11
  10. 1 2 第 1 章 序論 (Introduction) 1.1 本書が考える大原則 そのため、政治は社会的弱者を守らなければならない。

    (3) 政治を行う政府は小さな政府 (立法国家) と大きな政府 (行政国家) がありそれぞれマズローの五段階欲求において、小さな政府は「生理 的欲求」と「安全欲求」を、大きな政府は「生理的欲求」と「安全欲 求」に加えて「社会的欲求」の大部分を満たさなくてはならない。 まず、(1) ですが、行政の多くは法律に基づいて実施され、その法律は倫 理や歴史に基づいていると考えるということです。本書は法学の専門家向け の論述ではなくあくまで一般向けの論述のため、倫理や歴史に最終的な行政 の根拠を考えたいと思います。法律は規則であり、根拠があることが望まし いですがそれを論じるにあたっては、あるべき姿という意味での倫理的な話 であったり、過去の人類の経験ということで歴史的な話であったりが根拠に なると考えても良いと思われるためです。 次に (2) ですが、現代の国家を考えた際に大きな役割を担っているのが政 治と経済ですが、それぞれの論理は異なっているということを大原則として おきたいと思います。経済については資本主義と社会主義という考え方があ りますが、社会主義に基づいて経済を回すというのはなかなかうまくいか ず、資本主義がベースとなっているので、 「経済は資本家のもの」とするのは それほど悪い話ではないと思います。一方、政治については社会の全構成員 のために存在すると考える方が治安維持の観点からも望ましいと思います。 (3) については小さな政府 (立法国家) と大きな政府 (行政国家) をマズ ローの五段階欲求と対応付けながら説明しています。 「権利」と「義務」は 表裏一体のため、一般人の「権利」が大きい社会ほど、果たすべき「義務」 が大きい社会になります。 「権利」について議論するにあたっては、人間の 欲求と対応付けながら考えるのがわかりやすいため、マズローの五段階欲求 を引き合いに出しました。とはいえ、小さな政府においてでさえ「生理的欲 求」と「安全欲求」は満たさない限り、争いの原因になりやすいため、この 二つの欲求を満たすことは必須であるとしています。逆に大きな政府におい ては、 「社会的欲求」の大部分は満たせる一方で、 「承認の欲求」や「自己実 12
  11. 1 3 第 1 章 序論 (Introduction) 1.2 国家とはなにか 現の欲求」までを一律に満たすのは難しいと考えられます。従って、

    「社会 的欲求の大部分」を満たすかどうかというのをここでは大きな政府と小さな 政府の相違点としました。 1.2 国家とはなにか 1-2 節では⺠主主義について考える前にまず「国家」という概念について 抑えます。下記の Wikipedia の記載を中心に確認していきます。 https://ja.wikipedia.org/wiki/国家 まずは概要について確認しますが、国家は「国境で区切られた国の領土に 成立する政治組織で、領域と人⺠に対して排他的な統治権を有する政治団 体または政治的共同体である」とされています。堅い表現なのでもう少し簡 単にすると、 「日本であれば日本の領土において日本の国⺠に対し、他の諸 外国から排他的に権力行使ができる」という風に考えることができます。ま た、 「政治機能により異なる利害を調整し、社会の秩序と安定を維持してい くことを目的にし社会の組織化をする」とされています。 平和な現代の日本に暮らす我々には少々物騒にも見えるのですが、1-3 節 において取り扱う「⺠主主義」によって日本国家が構成されているため、国 家は国⺠の意思を前提として権力行使を行います。そのため、日本国家は日 本人の代理として権力行使していると、考えて良いと思います。 13
  12. 1 4 第 1 章 序論 (Introduction) 1.3 ⺠主主義とは また、近代以降における国家の統治機構を指す言葉として、

    「政府」とい う言葉も抑えておきましょう。 https://ja.wikipedia.org/wiki/政府 上記によると、政府は広義には「立法・司法・行政の各機関すべてを含む 国家の統治機構全体」を指し、狭義には「行政をつかさどる内閣と内閣の統 轄する行政機関から成る行政府」を指し、最狭義には「内閣」と同義である とされています。 また 19 世紀においては国家による社会の干渉を最小限に抑えた小さな政 府 (立法国家) と、20 世紀における選挙権の拡大からニーズとして生じてき た大きな政府 (行政国家) の考え方がそれぞれ両極としてそのバランスをど う取るかが色々と議論されています。小さな政府、大きな政府は資本主義と 社会主義という言葉とも関連していますが、言葉の定義や意味に厳密に運用 するというよりも所々良い点を取り入れつつ運用していくというのが現実的 だと思います。 国家については詳しく確認すると難しいので、上記のように軽く触れる程 度としたいと思います。 1.3 ⺠主主義とは 1-3 節では本書のテーマである「⺠主主義 (democracy)」について取り扱 います。下記の Wikipedia を元に簡単に確認します。 https://ja.wikipedia.org/wiki/⺠主主義 14
  13. 1 5 第 1 章 序論 (Introduction) 1.3 ⺠主主義とは 上記によると⺠主主義は、

    「人⺠」が「主権」を持ち行使する「政治」とさ れています。ここで「人⺠」は「政治的主体としての⺠衆 (近代以降)」 、 「主 権」は「国家の構成要素のうち、最高・独立・絶対の権力」とされています。 そのため、⺠主主義は国⺠の意思を根拠に政治を行うと考えて良いと思い ます。 言及されている「市⺠革命」としては「名誉革命 (1688〜1689)」 、 「アメ リカ独立革命 (1775〜1783)」 、 「フランス革命 (1789〜1799)」などが有名で す。これをきっかけに⺠主主義に基づく近代国家が誕生するようになったと 考えて良いと思います。また、⺠主主義の対義語として、君主制、貴族制、 独裁制、専制、全体主義となっているので、これらとの対比で⺠主主義とい う言葉を見ると良いと思います。 さて、⺠主主義において「人⺠」が「主権」を持ち「政治」を行うことを 確認しましたが、王様が 1 人いれば良い君主制と異なり、 「人⺠」の意思を 政治に反映させるには仕組みが必要です。第 2 章以降では、この際に用いら れる仕組みや基盤となる考え方などについて確認していきます。具体的には 第 2 章では統治の根本規範を定めた法律である憲法について、第 3 章では政 治学について、第 4 章では経済と財政に関して、第 5 章と第 6 章では法律な どの背景にある歴史を紐解きます。最後に第 7 章でこれからの社会をどのよ うに考えるかについて論じたいと思います。 15
  14. 1 6 第 1 章 序論 (Introduction) 1.4 ⺠衆の意思について 1.4

    ⺠衆の意思について 1-3 節では本書のテーマである⺠主主義について確認しましたが、 「⺠衆」 の意思をどのように考えるかというのは難しい話です。個人的な見解をベー スにすると偏ってしまうので、1-4 節では⺠衆の意思について簡単に確認し ておきます。より具体的には 1-4-1 節で「マズローの五段階欲求説」につい て、1-4-2 節で「一般意志」についてそれぞれご紹介します。 1.4.1 マズローの五段階欲求説 1-4-1 節では⺠衆について分析するにあたって、人間の欲求について取り 扱った「マズローの五段階欲求説」について簡単にご紹介します。 https://ja.wikipedia.org/wiki/自己実現理論 「マズローの五段階欲求説」は上記のような図で説明されます。人間の欲 求が下記の五段階あるとされています。 16
  15. 1 7 第 1 章 序論 (Introduction) 1.4 ⺠衆の意思について ・自己実現の欲求

    (Self-actualization) ・承認(尊重)の欲求 (Esteem) ・社会的欲求 / 所属と愛の欲求 (Social needs / Love and belonging) ・安全の欲求 (Safety needs) ・生理的欲求 (Physiological needs) 上記は高次の欲求の順に並べています。就職などは真ん中の「社会的欲 求」に入ると考えて良いと思いますし、昨今の SNS は「承認の欲求」が大 きいと考えて良いと思います。人間は低次の欲求が満たされるとより高次の 欲求を求めていくと一般的に言われています。 1-1 節ではこの「マズローの五段階欲求説」をベースに大原則を考えまし たが、政府が必ず守らなくてはいけないのは「生理的欲求」と「安全の欲求」 で、どこまで満たすか議論が分かれるのが「社会的欲求」という風にしまし た。政府を公正に運営するにあたって、⺠衆全員にどこまでを提供できるか を考えた際にこの辺が妥当な線引きであると思われます。 1.4.2 一般意志 1-4-2 節では 18 世紀のフランスの哲学者ジャン=ジャック・ルソーの 政治思想の基本概念である「一般意志」についてご紹介します。下記の Wikipedia を元に簡単に確認します。 https://ja.wikipedia.org/wiki/一般意志 17
  16. 1 8 第 1 章 序論 (Introduction) 1.4 ⺠衆の意思について 上記によると「一般意志

    (General will)」は、 「個々の利害 (特殊意志) か らは離れた公共益を達成するために人⺠が共有しているとする人⺠が総体で 持つとされる意志のこと」とされています。元々の概念の意味合いとしては 「公共の利益を皆で守ろう」というのがあったと考えて良いと思います。 一方でこの「一般意志」は独裁にも利用できるということで批判もされて います。有名な例としては上記のフランス革命時に政権を掌握したジャコバ ン派のマクシミリアン・ロベスピエールの例が挙げられています。 「一般意志」という概念を一つ考えても「人⺠の意志」や「⺠意」という ものを取り扱う難しさを表しています。このため、 「人⺠の意志」や「⺠意」 という言葉の取り扱いには十分注意が必要だと認識しておく方が良いと思い ます。 18
  17. 1 9 第 2 章 日本国憲法 第 2 章では、日本国憲法について確認します。1-1 節で政治は法律

    に法律は歴史に基づくとしましたが、国家の法規範を定めたのが憲法 であり憲法は法律の中でも特別なものです。第 2 章では現在の日本 国の憲法となっている日本国憲法について確認していきます。以下、 2-1 節では日本国憲法の概要について、2-2 節では宮澤俊義の学説を ベースにした日本国憲法の三大原理として「基本的人権の尊重」 、 「国 ⺠主権 (⺠主主義)」 、 「平和主義」について取り扱います。2-3 節では 権力分立制として三権分立について簡単に紹介しています。 2.1 概要 2-1 節では「日本国憲法」の概要について確認します。Wikipedia の「日 本国憲法」の記載を主に参考に確認していきます。 https://ja.wikipedia.org/wiki/日本国憲法 19
  18. 2 0 第 2 章 日本国憲法 2.1 概要 まず概要についてですが、日本国憲法は「現在の日本の国家形態及び統治 の組織・作用を規定している憲法」であるとされています。昭和憲法や現行

    憲法とあれば、現在の日本国憲法を示すと抑えておくと良いと思います。 上記に記載があるように、 「日本国憲法」は他の多くの国の憲法と同じよ うに硬性憲法であり、改正が難しいとされています。また、概要としては人 権規定、統治規定、象徴天皇制、間接⺠主制、権力分立制、地方自治制度、 国務大臣の文⺠規定などが盛り込まれているとされています。 概要の把握についてはこのくらいで十分であると思われるため、以下で具 20
  19. 2 1 第 2 章 日本国憲法 2.2 日本国憲法の三大原理 体的な内容について入っていきます。 2.2

    日本国憲法の三大原理 2-2 節では日本国憲法の三大原理について確認します。 ・基本的人権の尊重 ・国⺠主権(⺠主主義) ・平和主義 日本国憲法の三大原理は上記であるとされています。 上記の記載では、この日本国憲法の三大原理は「天皇機関説」を唱えた美 濃部達吉の弟子である宮澤俊義の学説であるとされ、この考え方が後の日本 の憲法学の礎となったとされています。 以下、2-2-1 節で「基本的人権の尊重」 、2-2-2 節で「国⺠主権 (⺠主主義)」 、 2-2-3 節で「平和主義」についてそれぞれ確認していきます。 21
  20. 2 2 第 2 章 日本国憲法 2.2 日本国憲法の三大原理 2.2.1 基本的人権の尊重

    https://ja.wikipedia.org/wiki/日本国憲法#基本的人権尊重主義 Wikipedia の記載では「基本的人権の尊重は、自由主義と平等主義からな る」と記載されています。 自由主義 まず「自由主義」から確認します。 22
  21. 2 3 第 2 章 日本国憲法 2.2 日本国憲法の三大原理 https://ja.wikipedia.org/wiki/日本国憲法#自由主義 上記の記載によると、

    「自由主義」は「人権」と「統治構造」に分けられる とされています。下記のようにまとめられています。 (1) 人権 自由権の保障 第 3 章 11 条 97 条 (2) 統治 a) 権力分立制 41 条 65 条 76 条 (国家権力濫用防止のため) b) 二院制 42 条 (慎重・合理的な議事のため) c) 地方自治制 92 条〜(中央と地方での抑制・均衡を図るため) d) 違憲審査制 81 条 (少数者の自由確保のため) 「当初は国家権力による自由の抑圧から国⺠を解放するところに重要な意 23
  22. 2 4 第 2 章 日本国憲法 2.2 日本国憲法の三大原理 味があった」と記載されています。また、権力の恣意的な行使により個人の 人権が抑圧されないために、統治機構は権力が一つの機関に集中しないよう

    に設計されている (権力分立や地方自治) と言及があります。 平等主義 次に平等主義について確認します。 https://ja.wikipedia.org/wiki/日本国憲法#自由主義 上記の記載によると、 「平等主義」は原則とは「機会の平等」を意味し、人 権と統治の面における平等が挙げられています。ここで注意なのが基本的に 「機会の平等」であり「結果の平等」ではないということです。 とはいえ資本主義下で貧富の拡大した状況下での「弱者の個人の尊厳確 保」のための修正理念として、 「社会権と結びついた実質的平等」も含むと されています。 24
  23. 2 5 第 2 章 日本国憲法 2.2 日本国憲法の三大原理 公共の福祉 以下、

    「自由」の制約としての「公共の福祉」の概念について確認しておき ます。というのも、 「個人」は国家から自由であるべきとするのが自由主義 ではありますが、自由主義が他者の人権を脅かす可能性もあります。ここで 調整のための制約として考えられているのが「公共の福祉」です。 https://ja.wikipedia.org/wiki/日本国憲法#自由主義 上記が「公共の福祉」に関する記載ですが、通説として「公共の福祉は各 個人の基本的人権の保障を確保するため基本的人権相互の矛盾・衝突を調整 とする公平の原理であり、従って全ての人権について制限できる」となって おり、これによって全ての人権について制限が可能であるとされています。 この解釈のことを一元的内在制約説と呼び、宮澤俊義によって主張され通説 となるに至ったとされています。 25
  24. 2 6 第 2 章 日本国憲法 2.2 日本国憲法の三大原理 2.2.2 国⺠主権(⺠主主義)

    2-2-2 節では国⺠主権(⺠主主義)について確認します。 26
  25. 2 7 第 2 章 日本国憲法 2.2 日本国憲法の三大原理 https://ja.wikipedia.org/wiki/日本国憲法#国⺠主権主義(⺠主主 義)

    基本的には 1-3 節で取り扱った「⺠主主義」と同じニュアンスで理解して 良いと思います。主権については「国家の統治のあり方を最終的に決定し得 る力である」とされており、 「国⺠主権」の意味は「国家権力の正当性の根拠 が全国⺠に存在することと、国⺠自身が主権の究極の行使者であることの折 衷節が通説である」とされています。また、国⺠主権の内容としては「参政 権 (選挙)」などが中心として挙げられています。 2.2.3 平和主義 2-2-3 節では平和主義について確認します。 https://ja.wikipedia.org/wiki/日本国憲法#平和主義(戦争放棄) 平和主義は人権と統治の面で記載されており、主に 9 条に記載されていま す。昨今、集団的自衛権に関する憲法の解釈を巡って改憲の議論がなされて います。 27
  26. 2 8 第 2 章 日本国憲法 2.3 権力分立制 2.3 権力分立制

    2-3 節では権力分立制について確認します。 https://ja.wikipedia.org/wiki/日本国憲法#権力分立制 権力分立制は三権分立とも言われ、古典的には立法、行政、司法の各権力 を分離・独立させて異なる期間に担当させ、互いに抑制することで均衡を保 つ制度とされています。近代においてはある程度の変容を伴った運用がなさ れるとされています。 第 3 章で詳しくは取り扱いますが、アメリカなどが導入している大統領制 はこの三権分立に忠実に運用しようと試みられており、イギリスや日本は 「議会 (立法府) が選出した首相が組閣して、内閣が行政権を担う」とされて います。 28
  27. 2 9 第 3 章 政治学 第 3 章では、政治学について確認します。政治学は主に「政治哲 学」と「政治過程論」の二つから構成されていますが、ここでは主に

    「政治過程論」について確認していきます。3-1 節では保守とリベラル ということで、政治的な考え方においてよく用いられる二つの考え方 についてご紹介します。3-2 節では三権分立の運用として、大統領制 と議院内閣制についてご紹介します。3-3 節ではデュヴェルジェの法 則を元に選挙区制と政党制について確認していきます。 3.1 保守とリベラル (政治的スペクトル) 保守 (右翼) とリベラル (左翼) はよく聞く言葉です。ですが、意外としっ かり理解している方は少ないのではないでしょうか。というのも「右翼」 、 「左翼」は元々フランス革命時のフランスの議会における議席の配置から 取っており、明確な定義に基づいているのとは少々異なるためです。そのた め、現代社会においては、時代背景や地域の違いがある一方で当時の言葉を そのまま踏襲するために、意味合いがややこしくなっています。 そのため、政治学において学術的に保守 (右翼) とリベラル (左翼) を論じ 29
  28. 3 0 第 3 章 政治学 3.1 保守とリベラル (政治的スペクトル) る際には政治的スペクトルなどが用いられたりします。

    図: 政治的スペクトル 政治的スペクトルは上記のように「個人的自由」と「経済的自由」に基づ いて、政治的な考え方を表した図です。以下この政治的スペクトルを元に、 3-1-1 節では保守 (右翼)、3-1-2 節ではリベラル (左翼) について確認してい きます。 3.1.1 保守主義 (conservatism) について 3-1-1 節では保守主義 (conservatism) について見ていきます。 https://ja.wikipedia.org/wiki/保守 30
  29. 3 1 第 3 章 政治学 3.1 保守とリベラル (政治的スペクトル) まず概要としては、保守主義

    (conservatism) は、 「従来からの伝統、習慣、 制度、社会組織、考え方などを尊重し、革命などの急激な改革に反対する政 治的な立場、傾向、思想などを指す用語」とされています。対義語はリベラ ル、進歩、革新とされています。非社会主義国において、保守主義は政治的 スペクトルにおいて通常は右翼に位置付けられるとされています。 https://ja.wikipedia.org/wiki/政治的スペクトル ここで政治的スペクトルは、フランス革命時の国⺠議会の座席位置をベー スにした「左翼-右翼」軸だけでは現実の多様な政治的信条を記述するには不 31
  30. 3 2 第 3 章 政治学 3.1 保守とリベラル (政治的スペクトル) 十分なため、学者により他の軸を追加したものであるとされています。ここ

    では文化的 (政治的、個人的) な視点と経済的な視点が広く使われていると されています。右の図において、左上の左翼と右下の右翼の他に、左下のポ ピュリズム (全体主義) と、右上のリバタリアニズムがあるとされています。 また、上記のように自由主義と全体主義についても学者によって用いられ ているそうです。 32
  31. 3 3 第 3 章 政治学 3.1 保守とリベラル (政治的スペクトル) 話が政治的スペクトルにそれたので保守主義に戻りますが、上記の記載を

    見るだけでも一言で表しにくい概念だということがわかります。ざっくりま とめるなら「伝統的な慣習・体制などを重視する立場である」と考えておき、 詳しく考える際は政治的スペクトルにあてはめる方が混乱が少なそうです。 3.1.2 リベラル (liberal) について 3-1-2 節ではリベラル (liberal) について取り扱います。 https://ja.wikipedia.org/wiki/リベラル 33
  32. 3 4 第 3 章 政治学 3.1 保守とリベラル (政治的スペクトル) 概要としては、

    「リベラルは自由な、自由主義などを意味する語で、政治 思想の分野では、(1) 自由主義や自由主義者、(2) 社会的公正や多様性を重視 する自由主義、を意味する」とされています。 上記によると、リベラルは二つの潮流があるとされておりそれぞれ、(1) 「権力からの自由」を当初は重視した個人の自由や多様性を尊重する考え方、 (2) 各人の自由な人生設計を可能にするために国家の支援が必要と考える 「権力による自由」の考え方、とされています。これらはそれぞれ政治的ス 34
  33. 3 5 第 3 章 政治学 3.2 三権分立の運用 ペクトルに対応していると考えるのが分かりやすそうです。ヨーロッパにお いては

    (1) をリベラルとし、アメリカにおいては (2) をリベラルと通常示す そうです。日本では (1) が「自由主義」 、(2) を「リベラリズム」としている となっています。また、 「リベラルは特定の思想や政治権力を意味するだけ でなく、リベラルが重視する個人の自由や多様性は自由⺠主主義社会の原則 でもある」とされています。 3.2 三権分立の運用 3-2 節では三権分立の運用として、主にアメリカで導入されている大統領 制とイギリスや日本で導入されている議院内閣制について取り扱います。そ れぞれ 3-2-1 節で大統領制、3-2-2 節で議院内閣制について取り扱います。 3.2.1 大統領制 3-2-1 節では主にアメリカで導入されている「大統領制 (Presidential System)」について確認します。 https://ja.wikipedia.org/wiki/大統領制 Wikipedia の冒頭の記述において、大統領は「国家元首ないし行政権の主 体となる大統領を国⺠からの投票により選出する政治制度」と記載されてい ます。議会 (立法府) の信任に基づいて内閣が成立する議院内閣制とは異な り、大統領制は「三権分立」をより忠実に運用したシステムになります。 35
  34. 3 6 第 3 章 政治学 3.2 三権分立の運用 上記の記載では議会 (立法府)

    と政府 (行政府) の関係性にフォーカスして 大統領制と議院内閣制が比較されています。前述もしましたが、三権分立を 厳格に適用するのが大統領制、議会と政府の間に緩やかな分立もしくは融合 を組織原理とするのが議院内閣制とされています。 上記ではアメリカにおける「大統領制」について記載されています。アメ リカでは徹底された三権分立の統治機構を取り、議会が内閣の総辞職につな がる不信任を出すことができない一方で、大統領にも議会の解散権がないと されています。 この「大統領制」が、アメリカの統治に大きな影響を及ぼしていると考え られ、強大な国力を保持しながら正常な⺠主主義を保てている理由なのでは ないかと思われます。アメリカは元々移⺠の国で、イギリスからの独立戦争 を経て⺠主主義国家を創立した頃の建国の理念が制度という形で定着したの ではないかと筆者は考えます。 36
  35. 3 7 第 3 章 政治学 3.2 三権分立の運用 3.2.2 議院内閣制

    3-2-2 節ではイギリスや日本で導入されている「議院内閣制 (Parliamen- tary Government)」について確認します。 https://ja.wikipedia.org/wiki/議院内閣制 Wikipedia の冒頭の記述において、議院内閣制は「行政権の主体たる内閣 を議会 (特に下院) の信任によって存立させる政治制度」とされています。 37
  36. 3 8 第 3 章 政治学 3.3 政党制 上記ではイギリスや日本について記載されていますが、大まかな理解とし ては大統領制との対比で把握しておけば十分だと思います。

    3.3 政党制 3-3 節では政党制論について取り扱います。 https://ja.wikipedia.org/wiki/政党制 上記は政党制の記述ですが、政党制は「ある政体における政党間の勢力分 布や交渉成立の様相を把握したもので、政党システム、政党機構、政党体系、 政党制度とも言う」とされています。 以下、 政党制に関する考察として、 3-3-1 節では政党制の分析としてのデュ ヴェルジェの法則について、3-3-2 節では小選挙区制と二大政党制の関係に ついて、3-3-3 節では中選挙区と穏健な多党制について取り扱います。 3.3.1 政党制とデュヴェルジェの法則 3-3-1 節では政党制とデュヴェルジェの法則について取り扱います。 38
  37. 3 9 第 3 章 政治学 3.3 政党制 https://ja.wikipedia.org/wiki/デュヴェルジェの法則 概要としては、デュヴェルジェの法則

    (Duverger’s law) は「選挙におい て候補者数が次第に収束していくとする法則」とされています。 より具体的には、 「各選挙区ごとに M 人を選出する場合に候補者数が次第 に各選挙区ごとに M+1 人に収束していく法則」とされています。1950-60 年代にモーリス・デュヴェルジェが唱えた当初は政党数が M+1 に収束する 法則と考えられたが、Steven R. Reed が日本の中選挙区制 (自⺠党内の派閥 による実質的政権交代) などを調査した結果、M+1 人に収束する法則とし て理解されているとなっています。 39
  38. 4 0 第 3 章 政治学 3.3 政党制 日本におけるデュヴェルジェの法則については上記のように記載されてお りなかなか興味深いです。

    また、結果としてできる政治の状況を、デュヴェルジェは一党制、二党制、 多党制の三類型で表現しています。サルトーリやレイプハルトなどが類似の 研究を行なっていますが、ここではこの三類型で十分だと思いますので詳し くは流します。 サルトーリによると⺠主主義に効率的なのは、 「二大政党制」と「穏健な多 党制」が挙げられており、二大政党制の例としてはアメリカやイギリスがあ るとされています。この「二大政党制」と「穏健な多党制」はそれぞれ 3-3-2 節と 3-3-3 節で詳しく論述するので、注意して抑えておいてください。 3.3.2 小選挙区制と二大政党制 3-3-2 節では小選挙区制と二大政党制 (two ‐ party system) について確 認します。3-3-1 節でまとめた「デュヴェルジェの法則」に基づいて考える と小選挙区制では「二大政党制」が生じます。以下二大政党制について考え 40
  39. 4 1 第 3 章 政治学 3.3 政党制 ていくにあたって下記を主に参照します。 https://ja.wikipedia.org/wiki/二大政党制

    上記に二大政党制の背景が記載されていますので、その他の内容について 以下に列挙します。 1) 小選挙区制 2) 国⺠のイデオロギーや支持層が「保守とリベラル」などのような 2 種類または 2 方向に大別できること 3) 両政党が比較的穏健かつ⺠主的であり現実的な政権交代を相互に 許容できること 上記に基づいて成立した二大政党制の利点は下記が挙げられています。 1) 政策論争が国⺠にわかりやすい(明瞭性) 2) 二大政党への参加や支持が容易で、現実的な政権交代が容易(参 加性) 3) ⻑期政権に発生しがちな腐敗防止&政権獲得時に国⺠の支持を背 景にした大胆な政策転換を行いやすい(流動性) 41
  40. 4 2 第 3 章 政治学 3.3 政党制 また上記では二大政党制の欠点がまとめられているので以下に列挙し ます。

    1) 二大政党の思想や政策が離れている場合にイデオロギー的&感情 的な対立になりやすい(不安定性) 2) 二大政党の思惑や思想が接近している場合には国⺠の選択の余地 が狭くなってしまうこと(画一性) 3) 同じ政党・政策・支持勢力などが⻑期間存続しがちなため政党内の 新陳代謝や政策転換が進みにくい(硬直性) 日本の現状は小選挙区が中心となったのになかなか「二大政党制」が根付 かないというのは少々まずい状況なのではという印象を受けます。議員内閣 制は政権与党の権力が大きなシステムのため、二大政党間の程よい距離感と いうのが非常に重要になると考えて良いと思います。 そのため、日本における今後の課題は現状の選挙システムを前提とするな らより明確で適切な「二大政党制」を確立していくことが重要だと思いま す。とはいえ、議論の苦手な日本人の性質を鑑みるに、3-3-3 節で確認する 中選挙区制による「穏健な多党制」の方が日本には合っているのではないか と筆者は考えています。 42
  41. 4 3 第 3 章 政治学 3.3 政党制 3.3.3 中選挙区制と穏健な多党制

    3-3-3 節では中選挙区制と「穏健な多党制 (moderate pluralism)」につい て確認します。3-3-3 節でまとめた「デュヴェルジェの法則」に基づいて考 えると中選挙区制では「穏健な多党制」が生じます。以下穏健な多党制につ いて考えていくにあたって下記を主に参照します。 https://ja.wikipedia.org/wiki/穏健な多党制 上記によると穏健な多党制は、下記のような状態を指すとされています。 1) 議席のある政党の数が概ね 3〜5 2) 政党間に体制論争がない 3) 政党間の政策距離が小さいため連立が組みやすい 国際政治における「集団安全保障」の状況に少々似ているかもしれません (もちろん国際政治は様々な要素が絡んだり国ごとの差異が大きいので厳密 に同じとは言えませんが)。比較的力のある政党があったとしても他の党の 連立を無視するわけにもいかないので、独断で何事も決めるのは難しくなり ます。この際の調整によって⺠意が反映されると考えておくと良いのではと 思います。 1994 年の選挙制度の改革まで日本では中選挙区制がベースとなっており、 自⺠党の与党の状況が⻑く続いた一方で、党内の派閥の力が強く、そのパ ワーバランスで政権が運営されていました。この状況は「穏健な多党制」を 43
  42. 4 4 第 3 章 政治学 3.3 政党制 示していると考えて良いと思います。 バブル崩壊後の日本を「失われた

    10 年」 、 「失われた 20 年」 、 「失われた 30 年」などと評されますが、実はこの選挙制度の改革によって多様な⺠意 を政治に反映させられなくなったことがバブル崩壊以上に原因となったので はないかというのが筆者の見解になります。 「お金がかかる」として廃止された中選挙区制ですが、実は気骨のある政 治家が多く、良い時代だったのかもしれません。 44
  43. 4 5 第 4 章 経済と財政 第 4 章では、経済と財政について確認します。4-1 節で現代の経済

    のベースの考え方となっている資本主義について概要を確認します。 次に 4-2 節で経済が成立する媒介手段となっている貨幣を発行する中 央銀行の概要について確認し、4-3 節と 4-4 節で日本の借金 (国債) に ついての議論をプライマリーバランスと現代貨幣理論の二つの視点か ら確認します。4-5 節ではコラムとして金融の過剰な複雑さへの疑問 について簡単に触れておこうと思います。 4.1 資本主義の仕組み概論 4-1 節では経済システムのベースになっている「資本主義」の仕組みにつ いて簡単に確認できればと思います。 45
  44. 4 6 第 4 章 経済と財政 4.1 資本主義の仕組み概論 上記は Wikipedia

    の記載の冒頭ですが、資本主義 (capitalism) は「営利 目的の個人的所有者によって商業や産業が制御されている、経済的・政治 的システム」とされています。また、資本主義に基づく社会は「資本主義社 会」 、 「市⺠社会」 、 「近代社会」 、 「ブルジョワ社会」と呼ぶとされているので、 こちらも押さえておくと良いと思います。 資本主義は封建主義の後に現れた体制とされており、 「封建主義」は「封土 (領土) を与えたり受け取ったりすることによって成立する主人と臣下(家 来)の関係」とされています。封建主義は日本では大まかに鎌倉〜明治維新 の武家支配の社会、ヨーロッパでは 6 世紀〜15 世紀末頃を指すとされてい ます。⻄ローマ帝国の崩壊 (476 年) の後頃からポルトガルやスペインを中 心にした大航海時代の頃というイメージで考えておけば良さそうです。 さて、資本主義の概要ですが、資本主義は世の中の多くのものを商品化し ていく「市場システム」であり、 「企業」が主体となって「物財やサービスを 生産し流通させている」とされています。また、この時の構造として、 「資 46
  45. 4 7 第 4 章 経済と財政 4.2 中央銀行 (日本銀行) の概要

    本を私有する資本家が労働者から労働力を買い、それを上回る価値のある製 品を生産し利潤を得ている」となっています。 資本主義のマクロな説明はこのくらいで、あとはミクロなレベルの株式会 社について簡単に抑えておけば十分だと思います。株式会社は資本 (お金な ど) を持つ資本家がお金を出す代わりに株を持ち、それを元手に会社を運営 していくという考え方です。ざっくりとはこれで把握できますが、関連で複 式簿記の考え方だけは抑えておくと良いと思います。特に貸借対照表 (BS) と損益計算書 (PL) だけは読めるようになっておくと良いので、簿記 3 級レ ベルの知識だけはあると便利だと思います。 4.2 中央銀行 (日本銀行) の概要 4-2 節では資本主義経済における政府について考えるにあたって、中央銀 行について見ていきます。ざっくり概要を掴むにあたって、ここでは日本銀 行について見ていきます。 https://ja.wikipedia.org/wiki/日本銀行 上記の記載によると、日本銀行 (Bank of Japan) は「日本銀行法に基づく 47
  46. 4 8 第 4 章 経済と財政 4.2 中央銀行 (日本銀行) の概要

    財務省所管の認可法人で日本の中央銀行である」とされています。 より詳細としては、日本銀行は「日本国政府から独立した法人で公的資本 と⺠間資本により存立し、資本金 1 億のうち政府が 55 %の 5500 万円を出 資している」となっています。政府以外の出資者は、40.1 %が個人である一 方で、会社における株主総会に当たる出資者で構成される期間は存在しない ことから出資者は経営に関与することはできないとされています。 48
  47. 4 9 第 4 章 経済と財政 4.2 中央銀行 (日本銀行) の概要

    日本銀行の役割としては、1998 年の日本銀行法の全面改定によって「物 価の安定」と「金融システムの安定」という二つの日本銀行の目的が明確に 示されたとなっています。 また日本銀行の主な機能として、 「日本銀行券の発行及び管理を行う (発券 銀行)」や「政策金利 (公定歩合) 操作などによって通貨流通量を調節するこ とで物価と国⺠経済を安定させる」 、 「銀行や政府の銀行」などの役割が挙げ られています。 49
  48. 5 0 第 4 章 経済と財政 4.3 日本国の借金 (国債) について

    4.3 日本国の借金 (国債) について 4-3 節では日本国の借金と表現されることが多い国債について確認しま す。一般論としては現在日本政府には 1100 兆円ほどの借金があり、 「財政破 綻」の危険性があると言われています。一方、この後 4-4 節で言及する現代 貨幣理論に基づき「政府は中央銀行を介して通貨を発行できるため財政破綻 の心配はない」というのが筆者の見解ではあります。とはいえ結論の周りだ け解説すると応用がきかなくなるので、4-3 節では背景としての基本知識に ついて掴めるようにしたいと思います。 現在の日本国の借金についての議論は「プライマリーバランス (基礎的 財政収支)」をベースに行われていますのでこちらを確認します。https: //ja.wikipedia.org/wiki/基礎的財政収支 上記によるとプライマリーバランス (基礎的財政収支) は、 「公会計におい て過去の債務に関わる元利払い以外の支出と公債発行などを除いた収入との 収支」とされています。これは企業でいうなら PL(損益計算書) にあたると 考えておけば良いです。 50
  49. 5 1 第 4 章 経済と財政 4.4 現代貨幣理論 (MMT) について

    上記でも損益計算書のような説明がなされています。この時政府が通貨を 税収以上に使う場合に発行するのが国債です。日銀を政府から完全に独立し た機関という前提で複式簿記をベースに考えるなら国債は日本政府の借金と なります。 このプライマリーバランスの考えについては重要性が非常に強調されてい る印象です。が、KPI(Key Performance Index) としては有意義な一方で、 KGI(Key Goal Index) としてはこだわる必要がないというのが筆者の見解 です。詳しくは 4-4 節で現代貨幣理論について触れながら見ていきたいと思 います。 4.4 現代貨幣理論 (MMT) について 4-4 節では現代貨幣理論 (MMT; Modern Monetary Theory) の概要を把 握し、4-3 節で触れたプライマリーバランスを再確認できればと思います。 まずは現代貨幣理論の概要を掴めればということで Wikipedia の記載を元 に確認していきます。 https://ja.wikipedia.org/wiki/現代貨幣理論 51
  50. 5 2 第 4 章 経済と財政 4.4 現代貨幣理論 (MMT) について

    まず MMT の概要についてですが、大まかに「貨幣は政府が作ったもので あるため、自国通貨を有している政府は、税収ではなく、インフレ率に基づ いて財政支出を調整すべきだ」という理論です。近年の日本の借金について の論考の多くは国債の残高に目を向けていますが、MMT では「そもそも貨 幣は政府が作ったものではないか」という事実に目を向けます。そして、自 国通貨を有しているのであれば、 「税収ではなくインフレ率 (物価だと考えれ ば良いです) を気にすべきだ」としています。 ここで注意したいのが「中央銀行は政府から独立しているのではないか」 という指摘もありそうですが、 「中央銀行は三権分立として明記されている わけではないので、国家内にある中央銀行が政府から完全に独立しているこ とはありえない」というのが筆者の見解です。また、日本においては日本銀 行は財務省所管とされており、その⻑である財務大臣は内閣の構成メンバー です。 もう少し概要を読み進めてみます。 52
  51. 5 3 第 4 章 経済と財政 4.4 現代貨幣理論 (MMT) について

    上記も概要の記述と同様のことが記載されています。 「MMT は財政赤字 の拡大を容認し、自国通貨建ての債務であれば、政府の財政的な制約はない ため、赤字が増えても財政は破綻しない」とされています。企業に置き換え るなら銀行からの借入というよりは株式の発行に近いイメージで考えるのが 良いと思います。 また、上記が MMT の事実解釈ですが、同様なことが記載されています。 要するに、政府にとっての国債は企業にとっての株のようなものと考えるの 53
  52. 5 4 第 4 章 経済と財政 4.5 金融って難し過ぎないだろうか (コラム) が、現代貨幣理論

    (MMT; Modern Monetary Theory) だと大まかに考えて しまって良さそうです。 プライマリーバランスと現代貨幣理論の大まかな違いとしては、政府を企 業にたとえるなら「国債を負債と考える」のがプライマリーバランス、 「国 債を株式のように考える」のが現代貨幣理論であると考えると良いのではな いかと思います。 4.5 金融って難し過ぎないだろうか (コラム) 4-5 節では「金融」について少しだけ取り扱っておきたいと思います。と いうのも「金融」がどうも難し過ぎる印象を受けるためです。金融の意味と しては「資金余剰者から資金不足者へ資金を融通する」と考えて良いと思い ますが、これが複雑化し過ぎると混乱の原因にならないかということです。 たとえば企業の株式や国債、預金についてはある程度わかりやすいので良 いと思うのですが、 「先物取引」などになると段々と複雑になります。そし てこの複雑なシステムがバブルやその崩壊を引き起こして社会的な問題とな ります。有名どころでいえばバブル崩壊やリーマンショックが日本だと馴染 みが深いと思います。 これらは結局実体経済をあまり反映させないものになっていく可能性があ るため、過度な金融は「金融のための金融」になり、単なるマネーゲームに なってしまっているのではという印象を受けます。 このため筆者の意見としては、金融に関する過度に複雑な話については基 本的に聞き流すというのも大事なのではないかと思います。株式と為替だけ ある程度理解していれば十分だと思います。 54
  53. 5 5 第 5 章 世界史と国際社会 第 5 章では、世界史と国際社会について取り扱います。世界史の観 点から「⺠主主義」を考えていくにあたって、

    「国際秩序/安全保障」 や「市⺠革命」 、 「世界大戦」などが重要と思われたので、その辺を中 心に話題をピックアップしました。 5.1 30 年戦争とウェストファリア条約 5-1 節ではカトリックとプロテスタントの宗教論争をきっかけに国際戦争 へと発展した三十年戦争 (1618〜1648) とその講和条約であるウェストファ リア条約について取り扱います。まずは三十年戦争について確認します。 55
  54. 5 6 第 5 章 世界史と国際社会 5.1 30 年戦争とウェストファリア条約 https://ja.wikipedia.org/wiki/三十年戦争

    上記は三十年戦争についての Wikipedia の記載の冒頭ですが、 概要をざっ くりまとめるなら下記になると思います。 (1) 元々はプロテスタントとカトリックの宗教戦争 (中世ヨーロッパ においてはカトリックに圧倒的な権威があったため、現代の感覚で単 なる宗教戦争と見るのはよくないと思います。) (2) 1618〜1648 年の 30 年にわたってヨーロッパ全体を巻き込む国際 戦争へと発展 56
  55. 5 7 第 5 章 世界史と国際社会 5.1 30 年戦争とウェストファリア条約 また上記が勢力図で、ヨーロッパ全土にわたっての国際戦争であったこと

    が地図からも確認できます。ここまでが三十年戦争そのものの概要です。 戦争そのものの中身は詳しく見ていくときりがないので、本書ではこの戦 争の講和条約の「ウェストファリア条約 (ドイツ語読みでヴェストファーレ ン条約ともいう)」によって成立したヨーロッパの近代的秩序について主に 見ていければと思います。条約そのものを確認していくと大変なので、まず はその結果生じた「ヴェストファーレン体制」を確認します。 57
  56. 5 8 第 5 章 世界史と国際社会 5.1 30 年戦争とウェストファリア条約 https://ja.wikipedia.org/wiki/ヴェストファーレン体制

    上記の記載においてヴェストファーレン体制 (ウェストファリア体制) は、 「ウェストファリア条約 (1648) によってもたらされたヨーロッパの勢力均 衡 (balance of power) 体制」とされています。このウェストファリア体制は 「主権国家体制」とも言われるので、主権国家体制についても簡単に確認し ます。 https://ja.wikipedia.org/wiki/主権国家体制 上記の記載によると主権国家体制は、 「英仏間の百年戦争や三十年戦争に 58
  57. 5 9 第 5 章 世界史と国際社会 5.2 市⺠革命と⺠主主義 よって中世における普遍的な世界の崩壊にともなって 16

    世紀〜18 世紀の ヨーロッパで形成された国家のあり方と世界秩序」とされています。この 主権国家体制は 1、2 箇所で出現したのではなく、諸国家のシステムとして ヨーロッパ全体で成立した点が重要ともされています。また、18 世紀〜19 世紀を通じて世界的に拡大し、現代も基本的に踏襲されている世界政治シ ステムとされています (国際秩序に関する国際法も大元のベースがウェスト ファリア条約やウェストファリア体制におかれます)。 「集団安全保障」の概念はこの時に成立したと考えることができ、 「集団的 自衛権」についての憲法論争がされるのもこれに関連する話です。筆者の意 見としては、憲法 9 条の「平和主義」は平和主義自体の考え方自体は良いと 思うのですが、 「集団的自衛権」についての考え方がはっきりしないのでよ り「国際秩序」を意識した上で改正の議論はあっても良いと思います。 とはいえ、ここ数年の「憲法改正」の議論にあたって 9 条以外の改正につ いても同時に議論されることもあり、それらもしっかり確認する必要があり ます。一般的に議論になっているポイントと違うところの条項も変わるとな ればそれらについても議論が本来必要ですが、現状の報道のあり方を見るに この辺は少々甘くなる危険を感じています。憲法改正は国⺠投票のため、通 常の法律の改正などとは違い、ある程度は注意しておくと良いと思います。 考え方の参考になれば幸いです。 5.2 市⺠革命と⺠主主義 5-2 節では市⺠革命 (Civil revolution) と⺠主主義 (democracy) について 取り扱います。1-3 節でも簡単に触れましたが、まずは市⺠革命について見 ていきます。 59
  58. 6 0 第 5 章 世界史と国際社会 5.3 ナポレオン戦争とウィーン体制の崩壊 https://ja.wikipedia.org/wiki/市⺠革命 上記によると市⺠革命は、

    「封建的・絶対主義的国家体制を解体して、近 代社会 (市⺠社会・資本主義社会) を目指す革命を指す歴史用語」とされて います。君主制を廃して、 「⺠主主義」に基づく政治体制を構築したとざっ くり抑えておくと良いと思います。ブルジョワ革命や資本主義革命、⺠主主 義革命とも呼ばれ、イギリスの「名誉革命 (1688〜1689)」 、 「アメリカ独立 革命 (1775〜1783)」 、 「フランス革命 (1789〜1799)」などは知っておくと良 いと思います。 これらによって 1-3 節で言及した「⺠主主義国家」が成立し、この⺠主主 義に基づく国家運営は 5-3 節のナポレオン戦争を経て欧州各国に広がり現代 のほとんどの国家で実行されています。 5.3 ナポレオン戦争とウィーン体制の崩壊 5-3 節ではナポレオン戦争 (1803〜1815) とその後のウィーン体制につい て確認します。まず時代背景ですが、 「フランス革命 (1789〜1799)」によっ てフランス王政が崩壊し、その後の対外戦争 (絶対王政の国では自国への影 響を恐れてフランスに戦争を仕掛けた; フランス革命戦争) を通して台頭し たナポレオンがフランスの皇帝となります。 ナポレオンは軍事的に天才であり諸外国との戦争に勝ち続ける反面、対仏 大同盟を何度か組まれロシア遠征での失敗後、第六次〜第七次対仏大同盟を 経てナポレオンは追放となります。 60
  59. 6 1 第 5 章 世界史と国際社会 5.4 帝国主義と第一次世界大戦 ナポレオン自身は皇帝となったので君主制と見ることもできますが、 ・ナショナリズム

    (一般的には自己の所属する⺠族のもと形成する政 治思想や運動を指す) を用いて軍事行動を起こしていた ・在位がそれほど⻑くならなかった (10 年ほど) ・ヨーロッパ全体に勢力を伸ばすことでフランス革命が生んだ普遍的 理念としての自由・平等・博愛の精神がヨーロッパに広がった ・戦争終結後のウィーン体制で反動としてナショナリズムの抑圧を 図った などの理由から、結果的にこれを機にナショナリズムをベースとした「⺠ 主主義国家」の成立の土台となりました。この結果、1848 年革命が起こり 「ウィーン体制」が崩壊し、 「諸国⺠の春」を経てヨーロッパ諸国におけるナ ショナリズムにつながりました。 ナポレオンを論じるのは非常に難しいですが、最終的に外圧に敗北し滅ぶ ことで「⺠主主義」の普及における一種の象徴的役割を果たしたと考えられ るのではないかと思います。帝政が⻑く続き過ぎると 2 世、3 世と経る毎に 権力集中によるデメリットが生まれた可能性もあります。 5.4 帝国主義と第一次世界大戦 5-4 節では帝国主義と第一次世界大戦について取り扱います。まずは帝国 主義について確認していきます。 61
  60. 6 2 第 5 章 世界史と国際社会 5.4 帝国主義と第一次世界大戦 https://ja.wikipedia.org/wiki/帝国主義 上記によると帝国主義は、

    「一つの国家または⺠族が自国の利益・領土・勢 力の拡大を目指して、政治的・経済的・軍事的に他国や他⺠族を侵略・支配・ 抑圧し、強大な国家をつくろうとする運動・思想・政策」とされています。 上記のように「19 世紀後半から激化した (ヨーロッパ諸国による) 植⺠地 支配を指す」と考えておけば一旦十分かと思います。この帝国主義同士が ぶつかったのが第一次世界大戦 (1914〜1918) です。これによってドイツ、 オーストリア=ハンガリー、オスマン、ロシアの 4 帝国が崩壊し、共和制国 家 (ざっくり理解するなら君主のいない国家という認識で十分だと思います) が増えたとされています。 一方戦後処理として敗戦国のドイツの取り扱いが苛烈なものとなり、こ 62
  61. 6 3 第 5 章 世界史と国際社会 5.5 世界恐慌と第二次世界大戦 のことがナチスの台頭の背景となり、第二次世界大戦につながってしまい ます。

    5.5 世界恐慌と第二次世界大戦 5-5 節では世界恐慌と第二次世界大戦について取り扱います。主に下記を 主に参考にします。 https://ja.wikipedia.org/wiki/第二次世界大戦 1919 年のパリ講和条約による戦後処理の体制をヴェルサイユ体制と呼び ますが、ドイツに課された多額の賠償金など禍根を残す部分もありました。 戦勝国となったイタリアも「未回収のイタリア問題」や不景気によって政情 が悪化し、ムッソリーニのファシスト党により権威主義的なファシズム体制 (全体主義、独裁) が成立しました。 このような不安定さに対し 1928 年のパリでの不戦条約などで平和維持の 試みが行われますが、1929 年の世界恐慌により状況が一変します。植⺠地 の多い英仏両国はブロック経済体制を築き、アメリカはニューディール政策 によって危機を回避しました。一方失業者が増加したドイツはヒトラー率い る国家社会主義ドイツ労働者党 (ナチス) が政権を獲得し全体主義に向かい、 デフレ政策を取っていた日本においては深刻な恐慌 (昭和恐慌) となり五・ 一五事件 (1932)、二・二六事件 (1936) を経て軍部の政府介入が大きくなり ます。 こうして軍国主義となった日本と全体主義の体制 (ファシズム) となった ドイツとイタリアは日独伊三国同盟を結び、第二次世界大戦 (1939〜1945) に至ります。 戦後戦勝国の中でもアメリカとソ連が強大な国家となり、代理戦争 (朝鮮 戦争、ベトナム戦争など) や核兵器開発競争などの冷戦に突入します。 63
  62. 6 4 第 5 章 世界史と国際社会 5.6 冷戦とイデオロギー 5.6 冷戦とイデオロギー

    5-6 節では冷戦とイデオロギーについて見ていきます。主に下記を参考に します。 https://ja.wikipedia.org/wiki/冷戦 冷戦は「第二次世界大戦後の世界を二分した⻄側諸国のアメリカを盟主と する資本主義・自由主義陣営と、東側諸国のソ連を盟主とする共産主義・社 会主義陣営との対立構造」とされています。 上記が勢力図で、世界がアメリカとソ連の二つにわかれている状況が見て 取れます。 この冷戦は「資本主義・自由主義」と「共産主義・社会主義」のイデオロ ギーによる対立とされています。社会主義では経済がうまく回らず資本主義 をベースとする⻄側諸国 (アメリカ中心) が優勢となり、1991 年にソ連が崩 64
  63. 6 5 第 5 章 世界史と国際社会 5.6 冷戦とイデオロギー 壊するに至りました。 基本的には「資本主義・自由主義」の方が「社会主義」ベースよりも社会

    が発展するということになっていますが、冷戦終結から年月が経つにつれて 対立軸を失った「資本主義・自由主義」の欠点も出てくる頃なので、思考を 柔軟に色々と考えていかねばならないタイミングだと思います。 65
  64. 6 6

  65. 6 7 第 6 章 近代日本史 第 6 章では、明治維新以後の近代日本史について取り扱います。 6-1

    節では明治維新について、6-2 節では第二次世界大戦とその際の 軍部の暴走について、6-3 節では東京裁判と戦後の日本史についてそ れぞれ確認します。 6.1 明治維新 6-1 節では明治維新について簡単に確認します。 67
  66. 6 8 第 6 章 近代日本史 6.2 軍部の暴走と第二次世界大戦 https://ja.wikipedia.org/wiki/明治維新 上記によると明治維新は、

    「明治時代初期の日本が行った大々的な一連の 維新をいう。薩⻑土肥の四藩中心に行われた江戸幕府に対する倒幕運動から 明治政府による天皇親政体制への転換と、それに伴う一連の改革を指す」と されています。 改革の範囲としては多岐にわたり、中央官制、法制、宮廷、身分制、地方行 政、金融... など多くが挙げられています。現先進国の近代の体制転換・内戦 における死傷者が最小だったことでも評価されているとなっています。ざっ くりとした理解としては 1867 年の大政奉還を区切りに明治維新による改革 が始まったと考えておくのが良いと思います。薩⻑土肥の四藩が中心に行わ れ、有名人物としては木戸孝允、大久保利通、⻄郷隆盛などがいます。 内閣制度 (1885)、大日本帝国憲法 (1889)、帝国議会 (1890) などが次々と でき、アジアで初の初の本格的な立憲君主制・議会制国家が完成したとされ ています。 6.2 軍部の暴走と第二次世界大戦 6-2 節では軍部の暴走と第二次世界大戦 (太平洋戦争含む) について確認 していきます。戦争自体は当時の国際情勢上ある程度の勢力争いはあったの でこれまで言われてきたほど大きな問題はないと筆者は考えます。むしろ 1930 年頃を境に日本の国家運営が明らかに秩序立っていないという方が問 68
  67. 6 9 第 6 章 近代日本史 6.2 軍部の暴走と第二次世界大戦 題です。 戦争そのものは問題ないとしましたが、1937

    年に始まった日中戦争や 1941 年に始まった太平洋戦争など明らかに総力戦の戦争となっています。 近現代において総力戦となる戦争はあまりプラスにならない (現に第二次世 界大戦以後は総力戦は起きていない) と思われるので、もう少し回避に努め る必要はあったと思います。 この回避ができなかった理由としては、1930 年代に五・一五事件 (1932)、 二・二六事件 (1936) を経て事実上の軍部独裁の状況が出来上がったという のが原因としては大きいと思います。それではなぜ軍部独裁の状況が出来上 がったのでしょうか。様々な説がありますが、筆者は下記が有力だと考えて います。 (1) 統帥権干犯問題 -> 大日本帝国憲法第 11 条の「天皇は陸海軍を統帥す」の天皇大権 を拡大解釈し、統帥権は内閣から独立するものだという憲法解釈を 1930 年のロンドン軍縮会議の際に犬養毅や鳩山一郎らが主張しまし た。言いがかりのような理屈ですが、伊藤博文や山縣有朋などのよう な明治維新時の元勲がいない状況下では明確な否定がなされないとい う状況が生じました。この結果当時の首相の濱口雄幸の銃撃事件につ ながりました。結果としてこのことで軍部の独立性という解釈性が生 じてしまい、軍部独裁につながりました。 https://ja.wikipedia.org/wiki/統帥権#統帥権干犯問題 (2) 軍部大臣現役武官制 -> こちらは「軍部大臣(陸軍大臣・海軍大臣)の就任資格を現役の 大将・中将に限定する制度」で、これにより「軍部によるその意向に そわない組閣の阻止」が可能となってしまいました。1900 年に導入 され、1913 年に予備役や後備役の将官まで対象が拡大されたものの、 1936 年の「二・二六事件」を契機とした軍部の政治進出にあたって広 田弘毅内閣が現役武官に限る形で復活させたとされています。 69
  68. 7 0 第 6 章 近代日本史 6.3 東京裁判と戦後の日本史 https://ja.wikipedia.org/wiki/軍部大臣現役武官制 (1)

    は最初持ち出されたタイミングでは単なる政権争いだったものの、よ くない前例を作ってしまったことでその後の軍部の暴走につながりました。 直近の例では「内閣の東京高検検事⻑人事への介入」が非常に話題になって いますが、主張されたタイミングでは単なる政治家同士の権力争いや自己保 身であったとしても、それを見逃すことで後日全く違うように悪用される危 険性があるので非常に注意が必要です。 (2) についてはシビリアン・コントロール(文⺠統制)の理念が守られて いる欧米ではこの辺はうまく対処されていたと考えて良いと思います。現行 憲法の 9 条は「平和主義」の理念を残したまま、より「集団安全保障」につ いて検討することにより「国際平和」の実現に貢献できるようにするのがバ ランスが良いと思います。 この件一つとっても憲法や法律の解釈の問題は非常に難しいと思います。 起草者の考えと起草者がそう考えるに至った背景をしっかり吟味をして、考 えるのが良いと思います。少なくとも明治憲法を起草した伊藤博文や同時代 の山縣有朋などは (1) の統帥権干犯問題について、 「内閣が軍部を掌握して 然るべき」という共通認識は持っていたと思います。この辺は非常に難しい 問題で慎重に考える必要があります。 6.3 東京裁判と戦後の日本史 6-3 節では日本の戦後に関してということで、東京裁判 (極東国際軍事裁 判; 1946〜1948) と戦後の日本史について取り扱います。 https://ja.wikipedia.org/wiki/極東国際軍事裁判 70
  69. 7 1 第 6 章 近代日本史 6.3 東京裁判と戦後の日本史 上記によると東京裁判は、 「第二次世界大戦で日本が降伏した後の

    1946 年 (昭和 21 年)5 月 3 日から 1948 年(昭和 23 年)11 月 12 日にかけて行われ た、連合国が「戦争犯罪人」として指定した日本の指導者などを裁いた一審 制の軍事裁判のこと」とされています。 東京裁判には様々な議論が行われており、裁判の公平性やその他の論点を めぐって歴史認識問題の一つとなっているとされています。戦勝国であるア 71
  70. 7 2 第 6 章 近代日本史 6.3 東京裁判と戦後の日本史 メリカやヨーロッパにおいても判事や関係者による指摘が起こると同時に国 際法学者間で議論がなされたとされています。

    特に論点として大きいのが「勝者の裁き (Victor’s Justice)」であったの ではないかということです。 「事後法の訴求的適用であったこと」 、 「裁く側 は全て戦勝国が任命した人物で戦勝国側の行為が全て不問だったこと」など が指摘されています。 筆者の見解としては、 「法の一貫性」という観点 (臨機応変に決断するより も法に基づく方が後世にも参考にしやすい) から見ればこの裁判は例外が多 く良くないと考えるべきだと思います。なので、この裁判が手続き上は不当 だという主張があっても良いと思います。一方で、現実的に考えた場合に敗 戦当時の日本国に公平な裁判を行う能力があったかと考えるとそれも怪しい と考えます。ニュルンベルク裁判 (ドイツに対する裁判) もそうですが、第 二次世界大戦は同盟国と連合国の戦争という意味合いもありますが、一方で 全体主義に陥ってしまった国家と⺠主主義がある程度機能している国家の戦 争という見方もできなくはないと思います。そういう文脈で考えるなら敗戦 国の⺠衆の立場からすると連合国がある程度強引に裁判を行ったというのも 72
  71. 7 3 第 6 章 近代日本史 6.3 東京裁判と戦後の日本史 ⻑い歴史の中の一点で見るならそれほど悪い話でもない気もします。もしか したら、

    「敵国兵士よりも味方の上官が怖い可能性」などもあったかもしれ ません。日本国の⺠衆や戦争関係者からしたら連合国側が勝手に裁いて悪者 になってくれる方がしがらみがなくて良かったという見方もできそうです。 とはいえ、 「国際法」を可能な限り遵守していく方が後の国際社会にとっ ては良かったはずです。 「及第点には届かないが当時の選択肢の中で可能な 限りベストを尽くした結果」くらいの評価が良いのではないでしょうか。戦 勝国の立場で考えたときに、全体主義国家の敗戦に際しての裁判は非常に難 しいのではないかと思います。 さて、この東京裁判やサンフランシスコ平和条約 (1951)、東京オリンピッ ク (1964) を経て日本は戦後の復興を遂げます。実質経済成⻑率が約 10 % 以上だった時期を高度経済成⻑ (大体 1954〜1970 頃) と呼ばれていますが、 これらを経て経済大国となっていきます。一方、バブル崩壊後は「失われた 〇〇年」などとも言われますが、徐々に勢いがなくなってきていると一般的 に言われています。 73
  72. 7 4

  73. 7 5 第 7 章 これからの展望や考え方につ いて 第 7 章では、これからの時代をどのように考えるべきかについて論

    点をまとめていきます。7-1 節でこれからの国際社会において一番の 重要な論点になると思われる「持続可能性」について確認した後に、 7-2 節で現代日本をどう考えるべきかについて論じます。 7.1 持続可能性 7-1 節ではこれからの国際社会において一番重要となってくると思われ る、 「持続可能性 (sustainability)」について確認します。20 世紀までの人類 史においては基本的に「成⻑」が「良いこと」とされ、 「成⻑」を目的に社会 の運営がされることが多かったと思います。一方で、現代の社会はかなりの レベルで高度に発展してしまいました。そこで我々が次に考えるべきは「成 ⻑」ではなく「持続」ではないかというのが近年出てくる論点です。有名な のが国連の持続可能な開発目標 (SDGs; Sustainable Development Goals) です。 75
  74. 7 6 第 7 章 これからの展望や考え方について 7.1 持続可能性 以下では「持続可能性」について簡単に確認しておきたいと思います。 https://ja.wikipedia.org/wiki/持続可能性

    上記で持続可能性は、 「人間活動、特に文明の利器を用いた活動が、将来 にわたって持続できるかどうかを表す概念」とされています。環境問題やエ ネルギー問題について使用されることが多いですが、経済や社会など人間活 動全般に用いられるとされています。 「エコロジー」 、 「経済」 、 「政治」 、 「文化」の 4 つの分野を含むものとされ、 地球上の資源をどのように利用するのが適切なのかについて今後はより一層 強い取り組みが必要になると思います。資本主義は本来的に緩い制約を望み ますが、 「囚人のジレンマ」のように個々人が自分の利益に基づいて判断す ることで結果として一つ一つの経済主体にとっても不利益となる可能性があ ります。 そこで、政府や政府の集まりである国際連合のような国際的な枠組みで、 従来より厳しい制約を資本主義に課していく必要があると筆者は考えます。 とはいえ、ここで述べたいのは競争の否定ではなく、制約条件を課すにと どめるべきだということです。 「資本主義」は市場における競争がベースと 76
  75. 7 7 第 7 章 これからの展望や考え方について 7.2 現代日本をどう考えるべきか なっていますが、競争の否定は資本主義の否定ですが制約条件の付与は方向 だけ定めるで済むと思われます。

    筆者がこう考える背景としては、 「最適化」に対する知見にあります。最 適化では目的関数と制約条件を定めるのですが、目的関数を定めなくては最 適化ができませんが制約条件は多少厳しく設定しても「最適化」ができると いうことに基づいて論述しています。 要するに全体として望ましい挙動となるように、 「制約条件をいかに設定 するか」が今後の国内政治、国際政治における大きな重要事項だと思いま す。世界史の流れで見るなら、近現代の国家を考えるにあたっては下記のト ピックが最重要と筆者は考えます。 (1) 集団安全保障 (1648〜; ウェストファリア条約〜) (2) ナショナリズムと⺠主主義国家の成立 (18 世紀頃〜; 市⺠革命、 ナポレオン戦争〜) (3) 帝国主義と第一次世界大戦 (1914〜1918) (4) 全体主義と第二次世界大戦 (1939〜1945) (5) 冷戦とイデオロギー(1950 頃〜1991) (6) 持続可能性 (1992〜; リオ・サミット) 歴史上の重大事項に加えて「持続可能性」を取り上げている理由は、人類 史において「成⻑」を目指す段階から「持続 (可能な成⻑)」を目指す段階に 移ってきた印象を受けるためです。 思考停止で「成⻑」を追い求めないということがこれからの時代の国家や 国際社会の舵取りに求められていると思います。 7.2 現代日本をどう考えるべきか 7-2 節では現代日本をどう考えるべきかについて簡単にまとめておきま す。第 1 章の序論、第 2 章の日本国憲法、第 3 章の政治学、第 4 章の経済/ 財政、第 5〜6 章の歴史、そして 7-1 節の持続可能性について見てきました 77
  76. 7 8 第 7 章 これからの展望や考え方について 7.2 現代日本をどう考えるべきか が、これらに基づいて現代日本について考えてみます。 現代日本において筆者が一番問題と感じているのが「二大政党制がなか

    なか機能しないこと」です。1994 年の政治改革による選挙区制の変更によ り中選挙区制から小選挙区比例代表並立制が導入されましたが、これによ り「穏健な多党制」のように機能していた自⺠党の派閥政治が終了したこと です。 派閥政治についてはメリットデメリットが色々とありますが、少なくとも パワーバランスが保たれるようになっていたという点においては筆者は良 かったと思っています。 「穏健な多党制」がある程度正常に機能していれば、 一般人がそれほど過度に政治に関心を持たなくとも、政界のパワーバランス で中庸な政策を実行していくことが可能になります。 ですが、1994 年の政治改革によって小選挙区制が中心となったことで、 「二大政党制」に移行していくはずでした。が、2009 年の⺠主党の政権交代 において、マニフェストに過度な期待を盛り込みすぎたことや外交問題な どであまり運営が芳しくなかったことで、2012 年に政権与党がまた自⺠党 に移りました。⺠主党はその後に党の運営に問題が生じ瓦解し、現在では立 憲⺠主党などが主だった野党になっています (が、まだ衆議院議席が全体の 10 %強である 50 程度と二大政党という段階には来ていない状況です)。 ここで問題は政権交代自体は良いのですが、なかなか二大政党制が根付か ないことです。また、二大政党制は選挙のごとに大きく議席が動くので、大 統領制よりも権限が集中しやすい議院内閣制では非常に管理が難しくなり ます。 78
  77. 7 9 第 7 章 これからの展望や考え方について 7.2 現代日本をどう考えるべきか 上記は 2009

    年と 2017 年の衆議院選挙の獲得議席数ですが、議席が大き く動く結果となっています。マスコミの報道も中選挙区制の時代の感覚で報 79
  78. 8 0 第 7 章 これからの展望や考え方について 7.2 現代日本をどう考えるべきか 道しているからか、議席の大きな変化を⺠意として報じがちです。こちらに ついて筆者はかなり危険だと考えています。

    というのも「小選挙区制」が中心になるとどうしても議席の変動が大きく なるためです。 「衆議院の優越」があるために与党が簡単に 3 分の 2 以上を 占めることができ、さらに「小選挙区制」により党首権力が強く (党公認の 選挙結果に対する影響が大きくなった)、議院内閣制によって権力が集中し やすい、これらの点が同時に起こるとすると権力集中の危険性があります。 第二次安倍内閣の政権運営において、不祥事などが数多くあるにも関わら ず無理やり押し切ることができるのはこの辺のパワーバランスが背景にある と筆者は考えます。与党や政府をなんでも批判や否定をするのはよくないで すが、間違ったことがあった際は必要に応じた自浄能力が政権内部には求め られます。 さて、こちらの解消に至ってですが、いくつかアイデアを考えてみます。 (1) 現在の小選挙区を中心とした選挙制度をやめ中選挙区中心にし、 「穏健な多党制」ベースの政治の運営とする (2) 大統領制を導入し、立法と行政を分離する (1) は 1994 年より前の日本の政治におけるパワーバランスにする、(2) は アメリカのように厳密な三権分立の運用を試みるです。本来は (2) のように 明確な対立軸を作るというのが理想的だとは思うのですが、日本人はアメリ カ人ほど議論が苦手 (論理ではなく感情で考えがち) なのと、日本がアメリ カ以上の大国になる可能性はなさそう (国際社会において一強になる可能性 がある国家は国家運営において厳密に三権分立が適用されている方が望まし いというのが筆者の見解です) というのが理由で、(1) の方が望ましいので はと筆者は考えています。 アメリカが世界一の大国であり続けながら内部において著しい崩壊が起こ らないのは論理的に議論する土壌と大統領制の導入などが大きいのではない かと筆者は考えています。日本はアメリカを無理に真似る必要はないと思う ので、(1) が望ましいのではないかというのが筆者の意見です。 80
  79. 8 1 第 7 章 これからの展望や考え方について 7.2 現代日本をどう考えるべきか 現在の日本の政治における問題は一極集中しやすい現行の政治システムに 大半があり、その他はそれほど考えなくて良いのかなと思っています。政治

    改革以前の日本の国家運営は、社会情勢を差し引くのであれば現在よりは良 かった印象で、かつ政治家の質も高かったのではないかと筆者は考えます。 81
  80. 8 2

  81. 8 3 本書について 著者プロフィール 下記などを運営しています。 https://note.com/lib_arts_journal お問い合わせなどは Twitter(https://twitter.com/JournalLib) などにお 願いいたします。

    注意事項 ・著作権は著者に帰属しています。著者に無断での複製は著作権法上での 例外を除き禁じます。 ・本書の内容については著者の力の及ぶ限りでベストを尽くしたものにな りますが、誤記などがありましたら気軽にご連絡いただけたら嬉しいです。 ・本書の内容に関して運用した結果の影響については記載内容に関わらず 責任を負いかねますのでご注意ください。 83