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第2回Matlantis User Conference_20230421_久間薫先生

第2回Matlantis User Conference_20230421_久間薫先生

タイトル
PFPの部分電荷を利用した電場下ダイナミクスシミュレーション

講演者
信州大学 先鋭材料研究所 助教 久間 馨 先生

略歴:東京大学 工学部 機械工学科卒業(2012年)後、同大学 工学系研究科 機械工学専攻修了(2014年)。株式会社東芝/東芝エネルギーシステムズ勤務ののち、東京大学 工学系研究科 機械工学専攻にて博士課程修了。筑波大学 数理物質系での研究員を経て、2021年10月より現職。

講演概要
電場下のイオン伝導や電極界面における電気二重層の形成など、外部電場に対する材料の挙動は物理化学的に興味深く、また二次電池やキャパシタなどへの応用上も重要である。これらは分子動力学シミュレーションによって解析することが可能だが、分子間相互作用に密度汎関数理論(DFT)などの第一原理計算を用いるのでは計算コストが高すぎて十分な時間スケールの計算が困難である。また従来の経験的ポテンシャルを用いるのではパラメータの汎用性が低く適用できる材料系が限られることや、化学反応を含むモデル化が難しいことが課題であった。そこで、汎用ニューラルネットワークポテンシャルであるPFPを適用し、計算速度と汎用性・精度のバランスを高めつつ、外部電場との相互作用をその部分電荷推定に基づいて与えることで問題の解決を企図した。本講演ではそのような、Matlantisの電場下ダイナミクスへの拡張について紹介する。

Matlantis

July 25, 2023
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Transcript

  1. 自己紹介 2 • 久間 馨 (Kaoru HISAMA ) • 学歴・職歴

    • 東大機械(学部・修士) → 東芝 → 博士(東大) → PD (筑波大) → 現職 (信州大) • 研究分野 • 分子動力学(MD)シミュレーションによる材料合成過程,物性 • DFTによる材料物性
  2. 以前の研究 3 -3 -4 -5 -6 0 40 80 Energy

    [eV] DOS [states/eV] VG = -2.1 V VG = 2.1 V VG = 0 V EF EF EF 0 40 80 0 40 80 Nb: acceptor WSe2 Gate electrode - 反応性力場 (経験的ポテンシャル) による カーボンナノチューブ成長の分子動力学 (MD) シミュレーション - 密度汎関数理論(DFT) + 電場・電荷 有効遮蔽媒質 (ESM)法 ナノ物質(WSe2 )へのキャリアドーピング ◦ ナノチューブ成長のダイナミクス再現 ◦ 静的な化学反応理論的な観点との比較・裏付け × ポテンシャルの構築が大変 - 適用対象や元素組み合わせが増えると対応困難 × 精度がよくわからない - あってるの? とよく聞かれる.実際よくわからなかった ◦ ゲート電場による電荷注入とフェルミエネルギー変調 ◦ 電子構造変化の議論 × 構造の大幅な変形は計算が難しい - イオンの移動とかになると無理 × 数百原子以上は難しい K. Hisama et al., Jpn. J. Appl. Phys. 61, 015002 (2021). K. Hisama et al., J. Chem Phys. C, 122, 9648 (2018). 触媒金属(青) CNT (緑) その他の炭素 (赤/白/黄色)
  3. 電場 + Matlantis ができたら良いのではないか 4 - PFP (Preferred potential) の登場

    ◦ あらゆる構造・元素の組み合わせでDFTを再現可能 - 今後もバージョンアップで精度向上が期待 ◦ ダイナミクスシミュレーションが可能 - 1000原子以上,ns オーダーのMD 電場下とか電荷印加下でのMDシミュレーションが高精度で可能なのでは? S. Takamoto et al., Nat. Commun., 13, 2991 (2022).
  4. 電場 + Matlantis への取り組み 5 相互作用ポテンシャル DFT 経験的ポテンシャル PFP /

    汎用NNP PFP+電場/電荷 MDの時間スケール × 短い (~ 1 ps) ◎ 長い (~ 10 ns) ◦ 中間 (~ 1ns) ◦ 中間 (~ 1ns) 多元素・汎用性 ◦ あり × なし ◦ あり ◦ あり 精度 ◎高い(第一原理) × 低い ◦ DFTに近い ◦ DFTに近い 電場の扱い ◦可 ◦ 可 ? 未確立 ◦ 可 ターゲット ◎理想的 ◦可能 ×困難 E -q +q PFP+電場でイオン伝導 → トピック① PFP+電荷で電極界面での二重層形成 → トピック② PFPをベースに,機能拡張を行いより多くの系をシミュレーション可能にしたい
  5. ① PFP+電場: イオン伝導 6 E E ナノ物質内での高速なイオン伝導 電場印加による触媒反応の活性化 ナノスケールでのイオン伝導が注目されている →

    燃料電池・触媒化学など,様々な分野への応用も期待できる 電場下での,様々な材料におけるイオンダイナミクスを計算したい
  6. ① PFP+電場: 対象系とシミュレーション条件 7 (ZrO2 )1-x (Y2 O3 )x x=0.08,

    3x3x3 cubic cell 電場なしのNPTアンサンブルMDから格子定数を決定(0.5 ns) 電場なしのNVTアンサンブルMDで構造緩和(0.5 ns) NVT アンサンブル, 電場あり (0.5 ns; 800 K, 1000 K, 1200 K). 電場を変化させてイオン伝導度を計算 YSZ HCl 水溶液 水214分子に対してH+, Cl-イオンを一つずつ配置(0.27 mol/L) D3による分散力モデルを追加 電場なしのNPTアンサンブルMDから格子定数を決定(0.3 ns) 電場なしのNVTアンサンブルMDで構造緩和(0.2 ns) NVT アンサンブル, 電場あり (0.2 ns; 300 K). 電場を変化させてイオン伝導度を計算 E E K. Hisama et al., Comput. Mater. Sci. 218, 111955 (2023).
  7. ① PFP+電場:電荷推定と電場との相互作用の統合 8 • PFP による力 F(r) と,外部電場による力 Fex =

    qE を力計算の際に足す • 積分: velocity Verlet法 • 温度制御は力をLangevin dynamicsで補正して行う. r (t), v(t) F(r(t)) r (t+Δt) F(r(t+Δt)) v(t+Δt) F = F + Fex F = F + Fex 1) 電荷 q を計算 2) Fex = qE を計算 3) F = F + Fex 4) 温度制御* *温度制御 Langevin dynamics 1) から 4) (上記) q: PFPで推定されるBader charge, E: 外部電場(定数入力) K. Hisama et al., Comput. Mater. Sci. 218, 111955 (2023).
  8. ① PFP+電場:イオン伝導度の計算手順 9 MDデータ模式図 𝑞: 電荷(イオン価数) 𝑛: イオン数密度 𝑥 𝑖

    (𝑡): 𝑖番目のイオンの電場方向の座標 𝑁: 対象イオンの原子数 (電場方向の平均変位) (平均速度) (イオン移動度) 𝑇: MDシミュレーション時間 𝐸: 電場の強さ(一定) (イオン伝導度) (電圧) (電流密度) MDの結果から平均変位 Δ𝑋(𝑡) を求め,回帰線の傾きからイオン速度𝑣 を算出 イオン伝導度 𝜎 と電流密度・電圧を直接算出 → イオン伝導度の電場に対する依存性・j-V特性
  9. 結果: YSZ イオン移動度の算出 10 Δx: 電場方向の平均変位 v = Δx/ΔT μ

    = v/E (イオン移動度) q: 電荷(イオン価数) n: 数密度 σ = qnμ (伝導度) O2-イオンの電場方向の平均変位-時刻 平均変位のプロファイルは線形 平均変位Δxの回帰直線の傾きからイオン移動度 μ を算出 E K. Hisama et al., Comput. Mater. Sci. 218, 111955 (2023). [V/Å]
  10. ① PFP+電場: YSZ イオン伝導度とI-V 特性 11 ・イオン伝導度はσ=0.01~0.5 S/cm 程度となっており,文献値 [1,2]と同じかやや高い値

    ・Buckinghamポテンシャル[2]を用いて計算したものと傾向は一致 ・電場とともに伝導度が上昇する傾向 [3] G. V. Huerta and A. K. S. Kabelac, Chemical Physics 485–486 108 (2017). イオン伝導度-電場 電流密度-電圧 K. Hisama et al., Comput. Mater. Sci. 218, 111955 (2023). [1] S-H. Guan et al., J. Phys. Chem. C 124, 28, 15085 (2020). [2] 電気化学便覧 第6版
  11. ① PFP+電場: HCl 水溶液 化学反応 12 initial +25 fs +50

    fs O-Hx0 O-Hx1 H O O-Hx2 O-Hx3 (O-H距離1.2 Å以下をO-Hボンドと判定して可視化) PFPでは結合の入れ替えを再現可能 → プロトンホッピングによる伝導をシミュレーションできる K. Hisama et al., Comput. Mater. Sci. 218, 111955 (2023). ホッピングによってH+は高速に伝導するはず
  12. ① PFP+電場: HCl 水溶液 イオン移動度の算出 13 3個の水素が結合するH3 O+の酸素の位置をトレース → H3

    O+ イオンの変位を求める E=0.2 V/Å H3 O+ Cl- プロトンホッピングを観察 イオン移動度は一定 (波線回帰線の傾き) Cl K. Hisama et al., Comput. Mater. Sci. 218, 111955 (2023).
  13. ① PFP+電場: HCl 水溶液イオン伝導度とI-V 特性 14 ・モル伝導度はH3 O+で100~400 S cm2/mol

    (@0.27 mol/L), Cl-は0.5~40 S cm2/mol → オーダーは文献値*に近い (希薄極限で H+: 349.82, Cl-: 76.35 S cm2/mol) ・ホッピングの影響でH3 O+はCl-はに比べて高速で伝導 イオン伝導度-電場 電流密度-電圧 *電気化学便覧 第6版 K. Hisama et al., Comput. Mater. Sci. 218, 111955 (2023).
  14. ① PFP+電場:結論 • 汎用NNPに静電場との相互作用を統合し,電場下でのイオンダイナミクスのシ ミュレーション手法を開発 • YSZ: 汎用NNPでも,経験的な電荷を持つポテンシャルと同様にイオン伝導度を 直接計算可能 •

    HCl水溶液: プロトンホッピングによるイオン伝導の直接シミュレーションに成功 • 電場誘起による,より複雑なイオン伝導や化学反応の解明も今後期待できる 15 K. Hisama et al., Comput. Mater. Sci. 218, 111955 (2023).
  15. ② PFP+電荷: 電気二重層 (EDL) 現象とその応用 16 電気二重層 (EDL) https://en.wikipedia.org/wiki/Double_layer_(surface_science)#/me dia/File:Double_Layer.png

    (CC-BY SA 3.0) 電極 – 液体界面中で形成される二層構造 界面での電荷分布に影響 電気化学現象・マイクロ流体現象に寄与 電気化学反応だけでなく電子デバイスへの応用も期待 電気二重層コンデンサ イオン液体を用いた半導体へのゲート電界の印加