Android 16KBページサイズ対応をはじめからていねいに

2025年11月以降、Google Playで公開するAndroid 15向けアプリには16KBページ対応が必須です。
この必須対応で得られるパフォーマンス向上の仕組みから、Flutterプロジェクトへの具体的な導入手順までを解説します。特にFlutterエンジニアには馴染みの薄い、build.gradleやネイティブライブラリ(.so)のビルド設定をデモで丁寧にご紹介します。

CA.flutter #4

Transcript

1. Android 16KBページサイズ対応を はじめからていねいに CA.Flutter 2025年7月9日
2. 自己紹介 Profile 西峰 綾汰 にしみね りょうた 🏢 CyberAgent / SGEマンガ事業部 / 2024年入社 📱 ジャンプTOON という縦型漫画アプリを開発 🎯 趣味・興味 🏎️ F1 - Mercedes / Redbull ♠️ ポーカー - 🇲🇴 / 🇰🇷 / 🇻🇳 / 🇰🇭 / 🇭🇰 🎸 フジロック - 今年参戦します！
3. 本日の内容 2025年11月以降、必須対応となる16KBページサイズ 1. なぜ必要？ - パフォーマンス向上の仕組み 2. 何が起きる？ - Flutterアプリへの影響 3. どう対応する？ - 具体的な導入手順 今日のゴール 明日から16KB対応を始められる状態に！
4. まずは基本から 16KBページサイズって何？
5. そもそもページサイズとは メモリ管理の基本単位 ページ = OSがメモリを管理する最小の単位 本の1ページのようなもの データの読み書きはページ単位 これまでは4KBが標準 身近な例で理解 図書館の本棚 4KB = 薄い本（管理が大変） 16KB = 厚い本（管理が楽） 同じ内容なら、厚い本の方が 探しやすい！
6. 4KB → 16KBで何が変わる？ 📊 ページ数が1/4に 100万ページ → 25万ページ 管理コストが大幅削減 🔍 検索が高速化 ページテーブルが小さくなる = メモリアクセスが速い 🔋 CPU負荷軽減 ページ切り替えが減る = バッテリー消費削減 💾 キャッシュ効率UP TLBヒット率が向上 = アプリが軽快に動作 技術用語: TLB = アドレス変換キャッシュ | ページフォルト = メモリ割り込み減少 | フラグメンテーション = 断片化削減
7. Google Playの新要件 2025年11月1日 対応期限 API35+ Android 15以降 重要なポイント 対象: 新規アプリ・アップデート両方 条件: Android 15（API 35）をターゲット 未対応: Google Play審査に通らない 公式要件: Google Play Console Help
8. Google Play ターゲットAPI要件 2025年8月31日からの要件 新規アプリ・既存アプリのアップデート必須要件： Android 15 (API 35)以上 16KBページサイズ対応 API 35をターゲットにすると： 16KBページサイズ対応が必須 ネイティブコード使用時は再コンパイル必要 未対応の場合、審査でリジェクト 重要: API 34以下では16KB対応不要だが、 2025年11月以降は選択肢なし 公式ドキュメント: Target API level requirements for Google Play apps
9. 実際の効果は？ パフォーマンス測定結果
10. Googleの公式テスト結果 🚀 アプリ起動 最大30%高速化 速度向上 🔋 電力消費 4.56%削減 省電力 📸 カメラ起動 4.5〜6.6%高速化 UX向上 ⚡ システム起動 8%短縮 全体改善 出典: Support 16 KB page sizes - Benefits and performance gains
11. Flutterアプリへの影響 何が問題になるの？
12. ネイティブライブラリ（.so）とは？ Flutterアプリの構成要素 Dartコード lib/ 以下のコード Flutter Frameworkが処理 影響なし ネイティブライブラリ C/C++で書かれたコード プラグインに含まれる 要対応 主な.soファイル libflutter.so - Flutterエンジン libapp.so - Dartコードのコンパイル結果 lib〇〇.so - 各種プラグイン
13. 主要パッケージの対応状況 1/4 完全対応済みパッケージ 🔥 Firebase全般 Analytics, Crashlytics, Messaging等 対応状況: 全て対応済み 追加作業: 不要 📊 datadog_flutter 監視・パフォーマンス分析 対応バージョン: v2.11.0以降 追加作業: バージョン更新のみ 📍 geolocator 位置情報取得 対応状況: 最新版で対応済み 追加作業: 不要
14. 主要パッケージの対応状況 2/4 基本パッケージ（対応済み） shared_preferences ローカルストレージ ✓ 対応済み sqflite SQLiteデータベース ✓ 対応済み path_provider ファイルパス取得 ✓ 対応済み url_launcher URL起動 ✓ 対応済み connectivity_plus ネットワーク状態 ✓ 対応済み device_info_plus デバイス情報 ✓ 対応済み
15. 主要パッケージの対応状況 3/4 設定が必要なパッケージ 🔔 flutter_local_notifications ローカル通知機能 問題: Desugar依存によりJava 11制限 解決方法: android { compileOptions { sourceCompatibility JavaVersion.VERSION_11 targetCompatibility JavaVersion.VERSION_11 } } 🎨 Rive Flutter アニメーションライブラリ 重要: NDK r28.1への更新が必須 解決方法: android { ndkVersion "28.1.13356709" }
16. 主要パッケージの対応状況 4/4 注意が必要なパッケージ jcenter依存の警告があるパッケージ memory_info - メモリ情報取得 update_available - アップデート確認 ※ 動作に影響はないがGradle警告が表示される 🔍 パッケージの対応確認方法 1. APKをビルド: flutter build apk --release 2. チェックスクリプトで確認: ./check_elf_alignment.sh app-release.apk 3. UNALIGNEDのライブラリを特定 4. 該当パッケージのGitHub Issueを確認
17. Android 16での互換モード Android 16の新機能 Android 16では16KBページサイズ互換モードが追加されます。 互換モードの仕組み 未対応アプリも4KBモードで実行 パフォーマンス低下の可能性 一時的な回避策 重要な注意点 Google Play要件は変わらない 2025年11月1日の期限は同じ 互換モードに依存しない 必ず16KB対応が必要 推奨: 互換モードに頼らず、早めに完全対応を
18. 対応方法 ステップ・バイ・ステップ
19. STEP1: 現状を確認する APKをビルド flutter build apk --release Flutterアプリケーションのリリース版APKをビルドします。
20. STEP2: 現状を確認する チェックスクリプトをダウンロード curl -O https://android.googlesource.com/\ platform/build/+/refs/heads/main/\ tools/check_elf_alignment.sh chmod +x check_elf_alignment.sh Googleが提供するアライメントチェック用スクリプトを取得します。
21. STEP3: 現状を確認する APKのアライメントをチェック ./check_elf_alignment.sh /build/app/outputs/flutter-apk/app-release.apk ビルドしたAPKに含まれるネイティブライブラリのアライメントを確認します。
22. STEP4: 現状を確認する 結果の見方 arm64-v8a/libflutter.so: ALIGNED (2^16) # OK! arm64-v8a/libapp.so: ALIGNED (2^16) # OK! x86_64/libflutter.so: ALIGNED (2^16) # OK! x86_64/libapp.so: ALIGNED (2^16) # OK! x86_64/libplugin.so: UNALIGNED # 修正しましょう armeabi-v7a/libplugin.so UNALIGNED # 修正不要 重要なポイント arm64-v8a と x86_64 が ALIGNED なら基本的にOK armeabi-v7a は32bitアーキテクチャのため影響なし UNALIGNED のライブラリがある場合は更新が必要
23. アーキテクチャ別の対応状況 16KBページサイズ対応が必要なアーキテクチャ 対応必須 arm64-v8a (64bit ARM) 最新のAndroidデバイスの主流 Pixel、Galaxy等のフラグシップ機 x86_64 (64bit Intel/AMD) エミュレータ 一部のChromebook 対応不要 armeabi-v7a (32bit ARM) 古いAndroidデバイス 16KBページサイズの影響なし x86 (32bit Intel/AMD) 古いエミュレータ ほぼ使用されていない 重要: arm64-v8aとx86_64がALIGNEDであれば、Google Playの要件を満たします。
24. build.gradleの設定 Flutterエンジニア必見！
25. build.gradleとは？ Androidアプリのビルド設定ファイル 場所 android/ ├── build.gradle # プロジェクト全体 └── app/ └── build.gradle # アプリ本体 ←こっち！ 役割 ビルドツールのバージョン指定 依存関係の管理 コンパイル設定 今回はここを修正！
26. 必須の修正内容 android/app/build.gradle android { namespace "com.example.myapp" compileSdk 35 // ← Android 15に変更 defaultConfig { applicationId "com.example.myapp" minSdk 21 targetSdk 35 // ← Android 15に変更 // NDKバージョンによって設定が異なる // NDK r26以前の場合（手動設定が必要） ndk { ldFlags += ["-Wl,-z,max-page-size=16384"] } // NDK r27の場合（CMake設定が必要） externalNativeBuild { cmake { arguments += [ "-DANDROID_SUPPORT_FLEXIBLE_PAGE_SIZES=ON" ] } }
27. NDKバージョンの指定 NDK更新の変遷 r25.1 Android 14標準 r27.2 Android 15初期対応 r28.1 16KB完全対応 ✅ 各NDKバージョンで16KB対応方法が異なります。
28. NDKバージョンの指定 - r27 NDK r27（設定が必要） android { ndkVersion "27.2.12479018" externalNativeBuild { cmake { arguments += [ "-DANDROID_SUPPORT_FLEXIBLE_PAGE_SIZES=ON" ] } } } NDK r27では手動でCMakeの引数設定が必要です。
29. NDKバージョンの指定 - r28 NDK r28+（推奨） android { ndkVersion "28.1.13356709" // 追加設定不要！自動対応 } NDK r28.1以降では16KBページサイズ対応が自動化されています。 これが最も簡単な方法です。
30. 依存関係の更新 1/2 androidx.coreの更新が必須 dependencies { implementation 'androidx.core:core-ktx:1.16.0' // ← 1.16.0以上必須 // その他の依存関係... } androidx.core 1.16.0以降が16KBページサイズに対応しています。
31. 依存関係の更新 2/2 AGPバージョンも確認 android/build.gradle (プロジェクトレベル) buildscript { ext.kotlin_version = '1.9.0' dependencies { classpath 'com.android.tools.build:gradle:8.6.0' // ← 8.6.0以上 } } Android Gradle Plugin (AGP) 8.6.0以上が必要です。
32. テスト環境の構築 16KBページサイズでの動作確認
33. 16KBテスト環境の準備 Google公式の推奨環境 実機テスト Pixel 8/8a 以降 Android 15 Developer Preview Flash Toolで書き込み エミュレータテスト Android Studio Iguana以降 Android 15 (API 35) 16KB page size system image テスト対象デバイス 必須: Pixel 8/8a/8 Pro 推奨: Pixel 9シリーズ 確認: Pixel 6/7も対応可 注意事項 16KBページサイズは実験的機能 実機の方が正確な結果を取得可能
34. エミュレータのセットアップ Android Studio での設定手順 1. Tools → AVD Manager → Create Virtual Device 2. Hardware Profile: Pixel 8 以降を選択 3. System Image: Release Name: Android 15 API Level: 35 ABI: x86_64 Target: Android 15 (16 KB Page Size)
35. 動作確認 基本的な確認コマンド # ページサイズの確認 adb shell getconf PAGE_SIZE # 期待値: 16384 # APKのインストールと起動 adb install app-release.apk adb shell am start -n com.example.app/.MainActivity # アライメントログの確認 adb logcat | grep -E "alignment|page_size" ページサイズが16384と表示されれば環境設定OK アプリが正常に起動すれば基本動作OK
36. パフォーマンス測定 測定コマンド # 起動時間の測定 adb shell am start -W com.example.app/.MainActivity # TotalTime: XXXXms を確認 # メモリ使用量の確認 adb shell dumpsys meminfo com.example.app | grep TOTAL # TOTAL: XXXMB を確認 # CPU使用率のモニタリング adb shell top -m 10 | grep com.example.app 期待される結果 起動時間: 初回は遅いが、2回目以降は改善 メモリ使用量: 4KB時と比べて約5%削減 CPU使用率: ページフォルト減少により低下
37. トラブルシューティング よくある問題と解決方法
38. エラー別対処法 1/3 INSTALL_FAILED_INVALID_APK # Gradleキャッシュをクリア ./gradlew clean rm -rf ~/.gradle/caches/ # 再ビルド flutter build apk --release 原因: ネイティブライブラリのアライメント不良 対処: クリーンビルドで解決することが多い
39. エラー別対処法 2/3 AGP/Gradle互換性エラー エラーメッセージ Dependency 'androidx.core:core-ktx:1.16.0' requires AGP 8.6.0+ 解決方法 android/gradle/wrapper/gradle-wrapper.properties を更新： distributionUrl=https://services.gradle.org/\ distributions/gradle-8.11.1-all.zip AGPとGradleのバージョンは互換性が必要です。
40. エラー別対処法 3/3 NDKバージョンエラー エラーメッセージ No version of NDK matched the requested version 解決方法 Android StudioでNDKをインストール： 1. SDK Manager → SDK Toolsタブ 2. Show Package Detailsをチェック 3. 必要なNDKバージョンを選択してインストール（推奨: NDK r28.1.13356709）
41. 本日のまとめ 重要な日付 2025年8月31日 API 35が必須に 2025年11月1日 16KB対応の期限 対応方法 NDK r28.1を使用（最も簡単） targetSdk 35に更新 androidx.core 1.16.0以上 確認方法 ./check_elf_alignment.sh \ app-release.apk ゴール arm64-v8aがALIGNED (2^16) x86_64がALIGNED (2^16) エミュレータ/実機で動作確認
42. 参考リソース 公式ドキュメント 16KBページサイズのサポート Android 15の入手とテスト Flutter Android 15 Wiki トラブルシューティング Flutter Issue #150168 Rive Issue #479 サンプルとツール check_elf_alignment.sh Android Flash Tool
43. ご清聴ありがとうございました みんなで Android 16KB 対応を乗り越えましょう！ Twitter: @nihon_kaizou GitHub: @mine2424