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改正民法(債権法)とクラウド利用契約・ソフトウェア開発契約/Revised Civil Code (Credits Law) and Cloud Usage Contract _Software Development Contract.pdf

改正民法(債権法)とクラウド利用契約・ソフトウェア開発契約/Revised Civil Code (Credits Law) and Cloud Usage Contract _Software Development Contract.pdf

Naru Nakashima

June 24, 2019
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  1. 債権=特定の人に請求できる権利 例:売買代金債権、請負代金債権、賃料 債権、不法行為債権 売買契約 等 総則 物権法 親族法 相続法 民法

    (債権に関する法) 債権法 121年ぶり の大改正 121年ぶり の大改正 消滅時効 請負契約 契約不適合 委任契約 債権譲渡 保証契約 不法行為 賃貸借契約 詐害行為取消権 解除 2
  2. 契約の目的を示す条項を契約に置くことの重要性 改正民法 ① 「契約自由の原則」を明文化(521条) ② 契約の申込みの際、契約の内容を示すことが必要(522条) ③ 債務不履行責任は契約の発生原因に照らして判断(415条) ④ 契約成立時に履行不能でも責任が発生(412条の2)

    ⑤ 「瑕疵担保責任」は「契約内容不適合の責任」に整理 (562条、563条、564条、415条、541条、542条) ⑥ 契約内容に照らし不履行が軽微であれば解除できない場合 がある(541条) 4
  3. 定型約款の条項が契約内容となる場合 定型取引 定型約款を契約内容とする ことをあらかじめ表示した 定型約款を契約内容 とする合意をした 定型約款を契約内容とする合意を した あらかじめ定型約款を契約内容と することを表示した

    合意も、表示もしなかった ① ② ③ ③ ② ① 定型約款が契約内容となる 定型約款が契約内容とならない ※定型約款の態様や実情、取引上の社会通念に照らし、信義則 に反して相手方の利益を一方的に害する条項は、合意がなかっ たものとされる。 6
  4. 請負における割合報酬 (仕事完成前でも、割合に応じて請負報酬を請求できる) 完了 未了 未了 総額1200万円の請負契約 仕事の完成状況(1/3完成) 仕事完成前に、 ・注文者の責任によらず仕事の完成ができ なくなった

    or ・請負契約が解除された 完了部分が可分で注文者が利益を受けるな ら400万円の請負代金は請求できる ※注文者の責任で完成できなければ請負代金全額 請求できる ※割合報酬を巡るトラブルの多発が予想される 11
  5. 委任における受任者の義務 委任する 委 任 者 受 任 者 《善管注意義務》 委任の本旨に従って善良な管理者の注意をもって事務を処理しなければ

    ならない 【受 任 者 の 義 務】 《報告義務》 委任者の請求があればいつでも事務処理状況を報告し、修了した場合は 経過と結果を報告しなければならない 《返還義務》 委任者から事務処理のために預かった物を委任者に返還しなければなら ない 13
  6. 成果報酬型委任 受 任 者 事務処理 未了 未了 完了 成 果

    成果報酬型委任の場合、 成果が得られなくなったとき には、既に行った事務処理 の結果が可分で、それに よって委任者が利益を受け るときは、その利益に応じ て報酬を請求できる (準)委任でも 事務処理自体 だけではなく、 成果に対して 報酬を支払う 契約もできる 15
  7. 追完請求権 買主 売主 追完請求 種類、品質、数量に関し契約内容 に適合しない物の引渡し 代金減額請求権 買主 売主 代金減額請求

    種類、品質、数量に関し契約 内容に適合しない物の引渡し 相当期間を定めた追完の催告→当該期間内に追完されないとき 買主の権利行使の期間制限 不適合の事実 を知ったとき 1年 民法566条 不適合通知 (権利行使できる) 不適合通知 (権利行使できない) 契約内容不適合責任 (これまでの瑕疵担保責任→契約内容不適合責任) ※損害賠償請求、契約解除もできる 16
  8. 買主の追完請求権 (追完方法は売主が選べる) 契 約 内 容 不 適 合 の

    追 完 方 法 修補 売主は、買主に不相当な負担を与えない限り、 どの追完方法によるか自由に選べる 追完方法で争い発生 追完方法を具体的に特定する特約を契約に 入れておくべき 代替物の引渡 し 不足分の引渡 し 17
  9. ◦ SaaS : クラウド上でソフトウェアを利用できる ◦ PaaS : クラウド上でプラットフォームを利用できる ◦ IaaS

    : クラウド上でインフラストラクチャを利用できる これらクラウドサービスの利用契約は、サービスの提供という事務を行うことが目 的であるため「準委任契約」またはその性質を有する複合的な契約と解される。 具体的な義務の内容は、原則として、個別契約条項による ただし、受任者には善管注意義務がある クラウドサービス利用契約の法的性質 19
  10. ◦ 契約期間中、顧客に対し、毎月99.95%以上の稼働率(「サービスレベル目標」ま たは「SLO」)を提供する。 ◦ SLOを満たしていない場合、顧客は下記返金を受けられる。 本SLAは、GoogleによるSLOへのあらゆる債務不履行に対して、単独かつ排他的に顧客を救 済する手段を定めるものである。 隔月の稼働割合 返金割合 99・00%以上

    99・95%未満 10% 95・00%以上 99・00%未満 25% 95・00%未満 50% ◦ 返金の最大額 返金の最大額は、該当月の対象サービスに対して顧客に請求する金額の50%を超えないもの とする。 Google Compute Engine サービスレベル契約 (SLA) 22
  11. ソフトウェア使用許諾契約における品質保証の検討 ソフトウェアの使用許諾契約では、本ソフトウェアに関するいかなる保証も賠償を 行わないとする免責条項が存在することが多い。 多くの場合、ソフトウェア使用許諾契約書は定型約款と考えられる。 改正民法下では、重大なバグがあったり、performance(速度)が期待以上に遅く、契約の目的を著しく達成 できない場合、免責条項が利用者側に一方的に不利で信義則に反するとして無効となる場合があり得る。こ の場合、契約解除、損害賠償請求も可能となる。損害賠償請求の範囲は、契約当事者が一般的に予見できる 範囲 ・あるソフトウェアで収集した大量の顧客データをコンサルに分析依頼したが、ソフトウェアの不具合でデータが 一部欠損し正確な分析ができなかった場合、免責条項があっても、分析目的のために当該ソフトウェアを利用

    することが明示黙示の合意として存在し、データ欠損の程度が著しいことが証明できれば、免責条項は無効と なり得る。 ・あるソフトウェアの速度がCDロムでOKでもインターンネットでは落ちる場合、利用目的の明示黙示の合意が 成立し、速度落ちが著しくて利用目的が達成できない場合も免責条項は無効となり得る。 ※契約目的の合意の存在、どの程度パフォーマンスが落ちたか等の品質管理が重要 26
  12. 業務システム開発の失敗とベンダ、発注者の責任 ~野村HD、野村證券VS日本IBM~(1) 東京地方裁判所2019年3月20日判決(控訴により東京高等裁判所で(現在2019.6.19)審理中) 野村證券 日本IBM システム開発業務委託 WMを用いた システム開発 (事案) 野村證券側が投資一任口座サービス業務のため

    パッケージソフトウェアである 「WealthManagerTMSoftware」(WM)を用いたコン ピュータ・システムの開発業務を日本IBMに委託 ↓ 野村は、平成24年11月2日、IBMに開発業務中止 を通告(本件通告)。平成25年1月29日、開発業 務の履行不能を理由として本件各個別契約を解除。 野村はIBMに34億3500万円余の損害賠償請求 をし、IBMは野村に反訴し、て3億9000万円を請求 ↓ 【裁判所の判断】 IBMに対し、個別契約13~15が履行不 能になったことを理由に、16億2000万 円の支払いを命じ、IBMの野村に対する 反訴請求は棄却した。 27
  13. 争点② 本件通告当時、実はIBMの見直しプランにより完成が 確実な状況であり、解除は野村側の社内事情によるも のといえるか ◦ WMは本邦で初めて導入されるパッケージソフト ウェアで、継続してリスクが懸念されてきた。 ◦ 見直しプランの検討は、契約目的を変更するかの 検討であったところ、IBMによるリスク報告までの遅延

    と障害の状況の下で、ベンダから完成や円滑な移行、 稼働開始後の運用保守を危惧することもやむを得な い見直し案提示しか受けられなかった場合、更なる費 用と期間を掛け、契約目的を変更してまで継続するべ きとはいえない。 野村側の社内事情によるとは認められない 【裁判所の判断】 争点③ 本件システムの完成が不能となった以上、各個別契約 は全て遡って履行不能となるといえるか ◦ 各個別契約が順次締結され、その個別具体的な 債務の履行の終了を順次積み重ねていくことにより、 段階的に達成されていくことが当事者間で予定されて いた。 ◦ 各契約に定められた工程が終了し、対価の支払 いが完了しても、なお最終的な契約目的が達成される まで債務が履行未了のものとして残存すると解するこ とは、契約当事者の合理的意思に反する。 本件システムの完成不能により、各個別契約が 遡って全て履行不能となるとはいえない 【裁判所の判断】 ~ 野村HD、野村證券 VS 日本IBM ~(3) 29
  14. 争点④ テメノス社によるカスタマイズ量の把握不足等が、IBMの 責任といえるか ◦ 度重なる出荷遅延は、テメノス社による要件及びカスタマイズ量の把握不足による可能性が極めて大きい。テ メノス社は、個別契約13~15にかかるIBMの履行補助者だから、その行為はIBM自身のものと同視される。 ◦ 要件及びカスタマイズ量の把握不足を原因としてプログラムの出荷を遅延するような行為は、ベンダとしての 通常の注意を欠いたものである。 ◦

    テメノス社による要件の把握は、IBMの野村担当者に対するヒアリングに基づいて行われた。 テメノス社のカスタマイズ量の把握不足は、IBMとの連携に原因がある可能性が高く、IBMの責任といえる 【裁判所の判断】 ※ IBMは、オランダ法人テメノス社が著作 権を有するWMを利用した本件システム開 発を野村に提案し、テメノス社とともに本件 開発業務を行った ~ 野村HD、野村證券 VS 日本IBM ~(4) 30
  15. 野村VS日本IBM(7) 争点⑦日本IBMの反訴請求について A 個別契約13・15は履行完了していない B 個別契約14の総合テストの報酬発生否定 ∵サブシステム内連結テストが終了したプログラムから順次並行し て行われたものにすぎない.未履行は野村の責任とはいえない C 追加作業分の報酬発生も否定

    ∵報酬合意なし、追加作業は履行不能によるIBM自身の債務の履行又 は終了した契約の清算作業 【裁判所の判断】 棄却 ※日本IBMの反訴請求:個別契約13・15は履行完了、14の一部は履行完了、14の未履行は野村 の責任だから、個別契約13~15にかかる報酬全額及び追加作業代を請求 33
  16. ~三菱食品 VS インテック~ 【予想される争点】 ・インテックがシステムの完成義務を負うか ・各個別契約の義務は履行されていたか ・インテックがプロジェクトマネジメント義務を怠ったといえるか。 ・他社への支払いと本件システム開発ができなかったこととの間に(相当)因果関 係があるか ・責任制限条項契約の存在とその有効性

    平成30年(2018年)11月、三菱食品がシステム開発失敗を理由として、委託 先であるインテックに対し、約127億円の損害賠償の支払いを求め、東京地方 裁判所に提訴。 現在係争中 三菱食品は、インテックがビジネスルール管理システムを利用した電子デー タ交換システムを完成できなかったと主張し、インテックへの支払分、本件シ ステム開発に関する他社への支払い分、旧システムの他社メインフレーム 延長料、合計約127億円の損害賠償を請求 34