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Matlantisを用いた反応経路と遷移状態の計算

 Matlantisを用いた反応経路と遷移状態の計算

Preferred Computational Chemistry (PFCC)が2023年7月21日に主催した第3回Matlantis User ConferenceでPreferred Networks (PFN)リサーチャーの林亮秀が用いた講演資料です。

概要
Matlantisを用いて反応経路と遷移状態を探索する方法について発表する。特にドメイン知識を用いて欲しい反応から優先的に探索する方法に焦点を当てる。化学者が持つドメイン知識は反応経路最適化の初期値を作成するのに使い、反応経路や遷移状態の最適化は自動的に進行するようにするとMatlantisの高速なポテンシャルの恩恵を受けやすい。今回の講演では、Matlantisに実装予定の大まかな反応経路を作るプログラムを用いて反応経路最適化の初期値を作成する方法と、Matlantisに既に提供されているReactionStringFeatureを用いて大まかな反応経路を自動的に最適化して反応経路と遷移状態を得る方法を紹介する。

Preferred Networks

July 27, 2023
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Transcript

  1. 2 • 最⼩エネルギー反応経路︓ Reactant (IS) とProduct (FS) を繋ぐエネルギー最⼩の経路 • 遷移状態︓反応経路の最も

    エネルギーが⾼い構造 • 安定構造(EQ)と遷移状態(TS) のエネルギー差が化学反応の 速度に重要な寄与を持つ。 最⼩エネルギー反応経路と遷移状態理論 https://ja.wikipedia.org/wiki/遷移状態理論
  2. 5 • MMA合成のAu@NiO触媒に関し DFTを⽤いて遷移状態探索 • 触媒の表⾯状態によって遷移状態 のエネルギーが変わり、 NiOの内側にAuがあることで 活性化障壁が低くなる原因を研究 •

    DFTを使った拘束つき最適化を うまく使って反応経路の概形を 作成 • NEBとDimer法を⽤いて遷移状態 を探索 過去の密度汎関数理論(DFT)による触媒の研究事例 J. Phys. Chem. C 2020, 124, 31, 17039–17047
  3. 6 NEBとDimer法とIRC J. Chem. Phys. 111, 7010–7022 (1999) J. Chem.

    Phys. 113, 9978–9985 (2000) NEB Dimer法 全体の⼿続き 1. NEBでTS付近の構造を得る 2. Dimer法で正確なTSを得る 3. TSから勾配に従って下ろし ていき(IRC)、始状態と終状 態に辿り着くことを確認し て、得たTSが欲しい反応の TSであったことを確認する。 • NEBとDimerの間に Climbing-Image NEBとい う頂点のイメージだけ経路 を登るようにする⼿法を使 っても良い。 イメージ間を仮想的なバネのようなもので繋ぐ 反応経路⽅向には登り、それ以外には降りる 反応経路⽅向は重⼼を固定した⼆点の⾃由回転 で推定する
  4. 7 • 右上の画像を作成するのに1年近く • VASPでNEBを実⾏ ◦ 1-2週間して失敗がわかって 再計算 • VASPでDimer法を実⾏

    ◦ 数⽇かけて発散したり、 収束しなかったり、 収束してもそこからIRCする と始状態でも終状態 でもない状態に 迷⼦になったり 過去のDFTによる触媒の研究事例 失敗したNEB
  5. 9 • DFTで反応経路を計算すると時間がかかる ◦ Matlantisの⾼速なポテンシャルで解決 • 反応経路の初期値を作ることが出来たとしても、遷移状態を収束させる のが難しい。⼿間がかかる ◦ ReactionStringFeatureで⾃動でTSまで収束

    • 適切な反応経路の初期値を作るのが難しい ◦ RestScanFeatureや他の⽅法で作成 ◦ 本質的に多峰性のglobal最適化で困難な ため、系の⼤きさや特性によって 適切な⽅法を選択 本⽇紹介する反応経路探索の課題と解決 J. Phys. Chem. B 2005, 109, 14, 6688–6693
  6. 10 • ReactionStringFeature ◦ NEBやDimer、Climbing NEBと似たアルゴリズム ◦ イメージ数の調整が⾃動で⾏われ、TSの精度がDimer法に近く、local minimaがあっても問題なく動き、反応経路とTSを同時に最適化するので IRCで迷⼦にならない

    ◦ その代わりNEBより時間がかかるケースあり • RestScanFeature ◦ GaussianのScanのような機能 ◦ Scanが座標を拘束して最適化し、拘束の値を連続的に変えて構造を連続的 に変化させるのに対し、RestScanFeatureでは座標を不等式の条件を満た すまで動かす ◦ これによって反応座標に関する知識が曖昧でも逐次的な処理をすることが できる。 本⽇紹介する機能の概要
  7. 14 • 収束条件 ◦ TSの収束条件を0.01eV/Å以下に ◦ TS付近のイメージ間隔を0.01Å以下に ◦ TS以外の収束条件は0.03eV/Å以下に •

    距離0.01ÅのDimer法に相当する結果と 反応経路が同時に得られる。 • 今回は⼭が1つしかないので0番⽬の⼭の み取得 ReactionStringで反応経路の最適化
  8. 15 • 悪い条件下のNEBやCI-NEBのような破綻の仕⽅をしにくい • 全体のイメージ数は動的に変化する • 遷移状態(TS)付近のイメージ密度が密 (dx_ts以下) • TSと安定構造(EQ)のforceが⼗分⼩さい

    (fmax_ts, fmax_eq以下) • 全てのTSとEQのforceを⼩さくする(スキップすることも可能) • TSと経路を同時に最適化しながら、Dimer法が動かない程度の精度を実現 ReactionStringで得られた反応経路の特徴
  9. 16 • fmax_rp: 反応経路(RP)の収束条件 (0.05eV/Å) • fmax_ts: 遷移状態(TS)の収束条件。infにするとTSを計算しなくなる (0.05eV/Å) •

    fmax_rd: ⼀番⾼いTSの収束条件 (0.01eV/Å) • fmax_eq: 安定構造(EQ)の収束条件 (0.001eV/Å) • local_extrema_tol: この値より⼩さい⼭を無視する(0.001eV) • optimize_is: 始状態を構造最適化するかどうか。(True) • optimize_fs: 終状態を構造最適化するかどうか。(True) • dx_rp: 計算点の数を決めるパラメーター。点の間の距離がこの値にな るように点の数を決定する。 (0.3Å) • dx_ts: TS付近の点の密度を決めるパラメーター (0.01Å) • interesting: 興味のあるTSかどうかをPythonの関数で決定する引数 ⾃作の関数で興味がないと判定された⼭は最適化をしなくなる。 ReactionStringの代表的な引数(デフォルト値)
  10. 20 • ReactionStringFeatureを動かしたことのある系の例 ◦ 1500-2000量体程度の⾦属クラスター上での⼩分⼦の化学反応 ◦ バルクの空孔移動 ◦ オリゴマー •

    ReactionStringFeatureを利⽤したハイスループットTS計算の例 ◦ ⼩分⼦に関する1万程度の経路 ◦ fcc111 4x4x4程度のスラブモデル上の分⼦に関する数千程度の経路 • 他のInitial guessの作り⽅ ◦ RestScanの代わりにMetadynamicsを利⽤ その他の例