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【中間報告】国会議員の立法・政策実務を支える環境を巡る現状と課題

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 【中間報告】国会議員の立法・政策実務を支える環境を巡る現状と課題

PoliPoliがPwCコンサルティング合同会社と2025年10月より開始した、国会議員の立法・政策実務のモダナイゼーションに向けた共同研究の一環として進めているものです。
本中間報告では、議員事務所における政策立案・立法実務を支える体制に「人材・スキル」・「知的資源」・「司令塔機能・民間連携」の3領域で構造的課題が存在することを明らかにしました。

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Transcript

  1. 目次 はじめに 1 国会議員の立法・政策実務を支える環境を巡る現状と課題 国会議員事務所毎のリソースの量的・質的格差や国会議員秘書のスキル向上を巡る課題 過去の議論等の知的政策資源のマネジメントを巡る課題 議員が接する情報の質と政策立案との距離に関する課題 提言:政党向けのナレッジマネジメントソリューションの構築 提言:議員事務所 BPR/議員秘書のスキルアップ・リスキリングの機会を体系化・充実化

    提言:「国会社会情勢調査室」等、マクロな国民意識の調査機能の設置 2 2 5 7 8 10 12 おわりに:ハブとネットワークによる オープンイノベーション的アプローチの必要性 政策資源の現代化に向けた企画立案機能・司令塔機能の必要性 民間人材・知見を大胆に取り込む必要性 14 14 16 最終報告に向けた検討課題:生成 AI と政策立案資源の現代化 Appendix:ヒアリング実施記録 19 21
  2. はじめに
 少子高齢化やテクノロジーの発展に伴い、これまでの政策形成を取り巻く環境の前提が大きく、
 かつ急速に変化する中で、公共セクターが対応に迫られている政策課題は拡大している。
 しかし、こうした政策課題に向き合うべき国会議員の立法・政策実務を支える環境については透
 明性・正当性・正確性等のコンプライアンス的な観点からの議論が多く、「政策議論を進めるた
 めの人材や資金、情報、あるいはデジタル技術の活用といった政策立案に必要な資源(政策立案
 資源)を十分に有しているのか?」という、国会議員の政策立案資源の充足性や効率性について、
 正面から議論されることは多くはない。
 本プロジェクトは、こうした国会議員の立法・政策実務環境における政策立案資源には、大きな
 現代化(モダナイゼーション)の余地と必要性があるという仮説の下に、株式会社

    PoliPoli と
 PwC コンサルティング合同会社による共同研究という形で調査を進めてきた。
 本レポートは中間報告時点の位置づけであり、主に国会議員へのヒアリングと海外事例調査を中
 心として、今後取り組んでいくべき課題を抽出することに主眼がある。また、本プロジェクトで
 は、基本的な視点として以下の3点を意識している。
 ① 不偏不党の中立的分析・提言を行う
 本取組は、与野党問わず国会議員を取り巻くエコシステム全体=議会・政党・国会議員事務所の
 いずれのレイヤーも視野に入れたものである。特定の政党や議員の利益を目指したものではなく、
 複雑・多岐にわたる社会課題に向き合う国会議員の立法・政策実務を支える現代的な環境の実現
 を目指すことを念頭に置いている。
 ② 国会議員の政策立案資源の在り方を統治機構設計の結果ではなく、突破口と捉える
 これまで多くの議論や国会議員自身の認識として、国会議員を取り巻く政策立案資源の現状は、
 議院内閣制や小選挙区制などの統治機構のグランドデザインの結果であると捉えられてきた。こ
 うした見方は、統治機構の有り様から見直さなければ、国会議員を取り巻く政策立案資源の有り
 様は変わりえないという一種の諦めへとつながる。本プロジェクトは、こうした諦観に抗い、国
 会議員の政策立案資源の在り方を起点に、国会議員の政策への関わり方に変化を生み出し、ひい
 ては統治機構の在り方にも変化を生み出すという視座に立っている。
 ③ 国会議員の主観的な問題意識を起点に課題提起を行う
 国会議員の「あるべき」政策立案資源を論ずるにあたり、何を拠り所にするかは常に議論が分か
 れるところである。一般的に本テーマは、国家としての意思決定の在り方や民主主義の前提等、
 統治機構を形成する大原則からのアプローチを基本とするが、本プロジェクトにおいては、具体
 的かつ手当可能な課題を抽出すべく、当事者たる国会議員の課題意識を中心として帰納的な課題
 提起を試みる。
 1
  3. 国会議員の立法・政策実務を支える環境を巡る現状と課題
 国会議員事務所毎のリソースの量的・質的格差や国会議員秘書のスキル向上を巡る課題
 国会議員(以下、特段の断りがない場合端的に「議員」と記載する。)の様々な最小単位は、議
 員本人と秘書等によって構成される国会議員事務所(以下、特段の断りがない場合端的に「議員
 事務所」と記載する。)である。衆議院・参議院問わず、議員は国費によって公務員として雇用
 される 3 名の公設秘書を置くことができる。このうち 1 名は主として議員の政策立案及び立法活


    動を補佐する政策担当秘書であり、2 名は議員の職務の遂行を補佐する公設第一・第二秘書であ
 る。公設第一・第二秘書については、資格は不要であるが、政策担当秘書については政策立案及
 び立法活動を補佐するための水準を担保するために、資格試験を合格した者または、選考採用審
 査認定者から採用が行われる。また、議員によっては議員自身の裁量と費用負担で雇用される私
 設秘書を置くことや、大学生・大学院生などのインターンを置く場合もある。
 議員事務所は、議員の選挙区内に置かれる事務所(地元事務所)と、国会近くの議員会館に置か
 れる事務所(国会事務所)の 2 種類に分けられる。地元事務所は主として地元有権者や地域の業
 界団体等からの陳情への対応や選挙対策、地域の行事への参加等を担う拠点であり、国会事務所
 は国会や政党内での政策活動を行う拠点である。 今の事務所では 3人でも仕事は回っているが、これは霞が関との協働が大前提にある。仮に独力で 今と同じ政策領域を回そうと思うと、今の 10倍ぐらいのスタッフが必要になるだろう。 多くの議員、特に野党議員は身一つで、ゼロから政治活動を始めた人ばかりであるため、リソース 不足に慣れてしまっており、永田町での政策活動についてリソース不足が充足した状況が想像も できない。 国会議員の事務所ですから、国会の事務所のスタッフとして、3人は欲しいですよね。3人分の公設 制度があるじゃないかって、言われるんだけど、地元が回らない。そうすると、選挙に勝てないと
 続かないってことになっちゃうから、地元に置きます。そうすると、こっちが明らかに不足する。 例えば公設秘書は3人いますけど、政策秘書にちゃんと政策の仕事をやらせている事務所もあれば、 全く政策に触らせない事務所もあって、多分こっちのほうが実質的に多いと思っていて、
 だからそこはもったいないなというか、結局でも選挙があるので、そっちにリソースを割かない
 といけないので、政策の勉強するのはしんどいのが現実。                                  議員ヒアリングより抜粋
 2
  4. 議員事務所において、議員秘書は会合等の日程調整や陳情の対応、議員の送迎、あるいは議員本
 人の代理として各種会議に参加するなど多岐にわたる業務を担う。政策立案における議員事務所
 の役割定義も議員によって大きく異なり、例えば政党の部会や議員連盟において政策提言等の取
 りまとめを担う事務局長の職を多く有する議員は、関係する議員事務所や関係省庁との連絡調整
 や取りまとめ等、秘書・事務所に対し総合的な調整能力を求める傾向にある。
 また、地元事務所と国会事務所にどの程度のバランスで秘書を配置するかは各議員の裁量に委ね
 られている。若手議員や野党議員についてはその資金力から私設秘書を雇う余裕がないため、公
 設秘書のうち 2 名を地元事務所に、1

    名のみ国会事務所に配置する場合もあるという。その場合、
 国会事務所では政党内の会議や国会での日程、あるいは関係者との意見交換などの各種日程調整
 や会合準備などで、政策担当秘書を含むリソースを使い切ることも多い。
 図表 1は政治資金収支報告を基に、各政党に所属する議員 1 名がどの程度の資金を人件費として 支出しているかを整理したものである。多くの議員が、「0 円以上 500 万円未満」、あるいは
 「500 万円以上 1000 万円未満」の範囲での支出である一方で、2000 万円以上、あるいは 3000
 万円以上の人件費支出を行っている議員も一定数存在しており、議員事務所ごとのスタッフの充
 実度合いに大きな格差が存在することがわかる。実際、ヒアリングにおいても 2-3 名の私設秘書
 を雇用できる議員とベースとなる公設秘書 3 名のみで業務にあたっている議員とでは、政策立案
 への向き合い方に相当な差が生じていることが示唆されている。
 政治資金からの人件費支出の比較(政治資金収支報告より作成) 133議員 0 50 100 150 また、今回ヒアリングを行った議員事務所を含む多くの議員事務所では、人手不足感に直面して
 いたが、一方で IT 技術の導入による業務効率化については、リモート会議ツールや生成 AI の導
 入に積極的な議員事務所とそうでない事務所の間では大きな差が生じつつある。特に直近進展が
 目覚ましい生成 AI ツールの利活用については、議員が会合で行うスピーチの文面の叩き台の作成
 や基本的な質問での利活用にとどまっている事務所と、各種会合の資料やデータを整備し、必要 3 5000万円以上 4500万円以上5000万円未満 4000万円以上4500万円未満 3500万円以上4000万円未満 3000万円以上3500万円未満 2500万円以上3000万円未満 2000万円以上2500万円未満 1500万円以上2000万円未満 1000万円以上1500万円未満 500万円以上1000万円未満 0円以上500万円未満 10議員 4議員 6議員 8議員 24議員 24議員 49議員 54議員 76議員 200 198議員
  5. に応じてデータを取り出せたり、各 種 会 議 記 録 を AI により自動取得し業務効率化に繋げていた
 りする事務所など、利活用の程度にも大きな差がみられた。また、地元事務所と国会事務所の間


    でオンライン会議をしたり、双方で受け付けた陳情を一元的にオンライン管理したりしている
 事務所や、政治活動報告のための資料作成などに生成 AI を活用している事務所がある一方で、
 オンラインカレンダーやオフィスソフトの活用に苦戦している事務所も存在する。
 こうした背景には、下記のような構造的な背景が大きく影響しており、一部の議員・議員秘書は
 先進的な取り組みを行なっている一方で、必ずしも議員・議員秘書本人の努力不足といった問題
 であるとは言い難い。 民間人材が、キャリア形成の中で、秘書や国会・政党のスタッフの世界にずっと魅力を感じて居 続けてくれることはすごく難しい状況である。民間のほうが給料も高く、議員ですら決裁権もな かなか年次を上がってくるまで持ちづらい文化というザ・昭和な組織にストレスを感じて、出て いく人のほうが多いのではないかという気はする。 デジタル技術に明るい秘書はおらず、育成も難しい。そもそも、ベースとして秘書に求められる 有権者対応等のスキルと、デジタル技術の導入・活用には大きなギャップがあり、両者を満たし ている人材が秘書として事務所に入ってくれることは稀である。
 スキル向上の機会もなく、優秀な人材が流入しにくい構造の中で、例えば Excelが使えないってい う人たちが、どんどんこの世界に残ってきてるんですよね。この事務所で Excelが使えるのは1人 だけで、他の 2人は、できたものに打ち込むことはできるが、それ以上は難しい。
                                  議員ヒアリングより抜粋
 1. 2. 3. ITツールの導入を支援する組織が存在していないこと:議員事務所ごとに衆議院・参議院の メールアドレスが付与されるものの、日程管理や資料管理、生成 AI 等のツールについては
 基本的に各事務所の裁量に委ねられており、費用も事務所負担となる(*調査研究広報滞在費 からの 支出は 可能) 。
 秘書として求められるスキルとこれらのツールを使いこなすスキルが必ずしも一致し難く両立 できる人 材が 稀である :通常、議員秘書として 採用 される人 材は 、秘書 経験者や業 界経験者で ある ことが 多く、 それらの 職種に おいては必ずしも I T ツー ルを利活用する 優先度が 高い わけ ではない。また 、ス キル向上のための 体系的な 機会も不足して おり 、自 助努力に 委ねられて い る ことが ほと んどである。
 ITツールを使いこなせる人材を安定的に雇用するには待遇等の観点で困難であることが多い :公設秘書に関しては、法律で給与水準が決められており、生成 AI 等を使いこなせる人材、 政 策調査能力に 長けた人 材を 雇用するには 民間企業の 水準と 比較して不足する ケースが 多い 。 加えて 、衆議 院議員に ついては 、少な くとも 4年に 1回は 選挙があ り、常に 失職の リス クが 付き まと うことから、特に若手にとって雇用の不安定性のリスクが高い。また、年功序列の文化 が色濃く残る事務所・組織も多く、そうした観点からも魅力的な職として捉えられにくい。 4
  6. 提言:議員事務所 BPR/議員秘書のスキルアップ・リスキリングの機会を体系化・充実化
 国会議員の政策・政治活動を支える基盤は議員事務所だが、その実務処理能力は議員ごとの資金 力、人員配置、デジタル活用度、秘書の経験値に大きく左右されている。ヒアリングでも、議員 事務所は「個人商店」「零細企業」の集まりであると言及する議員も複数存在し、限られた人員 が地元活動、日程調整、陳情対応、会合準備、政策調査、広報まで担っている実態が語られた。 この問題は単に「人が足りない」で片づけられない。もちろん人的資源の量的な拡充は重要だが、 ヒアリングでは、同じように限られた人員体制でも、業務の整理、ツールの選び方、地元と国会 事務所の連携方法、情報共有の仕組み次第で、実務処理能力に大きな差が生じていることが示さ れた。特に、事務所毎のデジタル技術への対応力は顕在化しつつあり、生成AIの急激な発展を背

    景に、政策形成力や有権者対応力の差に直結する時代が到来するだろう。 それゆえ、まず取り組むべきは、追加資源の議論の前提として、現有資源をどこで浪費し、どこに 再配分できるかを明らかにするBPR(Business Process Re-engineering:業務プロセス・リエ ンジニアリング)である。 各議員事務所の実務の棚卸・可視化を行い、どういったデジタル技術の活用が可能かを、個別議員 事務所の枠を超えて協調領域として整理を行うべきである。日程調整、陳情受付、地元・国会事 務所間の連絡、会議準備、質問通告や資料作成、広報、政策調査、関係者管理といった業務につ いて、誰が、どこで、どのツールを使い、どれだけの時間をかけ、何が滞留や属人化の原因になって いるのかを棚卸しする作業である。 また、デジタル化はされていても検索性が悪い、会議日程の調整における秘書同士の個別確認に 多くの時間を奪われている、という声もあり、ツール不足だけではなく、業務設計と情報設計の 整備も含めて検討を行うべきである。 もっとも、BPRは業務改革・システム導入だけでは成功しない。現場には、ITツールの導入を支援 する組織が乏しく、秘書のスキル向上の機会も体系化されていない。ゆえに並行して、議員秘書 のスキルアップ・リスキリングの機会を体系化・充実化すべきである。 例えば、スケジュール管理、来客・電話・メール対応、陳情処理などの議員秘書の主たる業務に ついて、生成AIをはじめとしたIT技術による効率化に係る議員秘書に必要な知識・スキルや、政 策立案・立法活動等をより専門的な立場から補佐するための研究調査、資料の収集分析並びに作 成に向けて、生成AIの活用も念頭に置いたリサーチスキルの向上に資する研修・e-learningの構 築が考えられる。 5
  7. Case Study I
 オーストラリアにおけるProfessional Development Program / PWSS Academy (議員スタッフ向け研修プログラム)


    オーストラリアの Parliamentary Workplace Support Service(PWSS)は、連邦議会における 安全で尊重ある職場づくりを支援するための法定機関である。 PWSSの主な活動として、議員本人、スタッフその他関係者に対して、人事に関する助言、紛 争・苦情の予防、労働安全衛生支援、カウンセリング・サポート、教育研修(PWSS Academy) を提供している。 そのうち、PWSS Academy は、教育、訓練、専門能力開発などを集約するハブ機能を有し、
 国会議員およびスタッフにライブ配信や e-learningなどの形で提供している。研修は、効果的 な業務の遂行、職場での行動に係る最低限の基準を保つための不可欠な業務スキルなどに重点が 置かれている。例えば、個人・オフィス向けに厳選された専門能力開発パスウェイ、ピアラー ニングのためのネットワーキングの機会などが提供されている。 6
  8. 過去の議論等の知的政策資源のマネジメントを巡る課題
 日本においては、国会における本会議、委員会等の議論については会議録を作成し保存すること
 が定められている。また、これらの会議録は一般に向け公開もされており、国立国会図書館の検
 索システムで過去の会議録を閲覧できるようになっている。
 一方で、政党内での政策会議(政務調査会内の各部会・調査会等)においては、法案提出等にむ
 けた調整が行われる場面における議論の記録に関する取り扱いの特定の規則は存在せず、各党の 差配に委ねられている。共通の関心テーマを持つ議員同士が集まって政策等の議論をする議員連 盟においても、各会議の議事録や履歴、資料等の取りまとめ・保管などの運営については、事務局 を司る事務局長の議員事務所に委ねられており、統一された管理・運営方法が存在していない。
 日本における政策過程の特徴として、国会に法案が提出される前の党内の議論によって大枠の政

    策内容が形作られる事前審査制であることがあげられるが、そうした最も重要なフェーズの議論 の多くにおいて、議事録が作成されておらず、会議資料や履歴が散逸している。政策立案の重要 な一過程における議論が「残らない」ことは、政策の根拠や論点整理の履歴等が保存・継承され にくい、という問題を生む。また、過去議論されてきたアジェンダや論点が新人議員等に共有さ れないため、同じような議論や質問が繰り返され、組織全体としての知的政策資源の共有・利活 用が困難となる要因にもなっている。
 一方で、このような運用になっていることにも理由がある。議事録の作成や資料管理等の運営に
 割く人的リソースが足りていない(特に議員連盟を運営する議員事務所については顕著)こと、
 非公開の場での発言をどの程度記録として残すか、つまりクローズドな場での会議録を作成する
 ことで、闊達な議論を阻害し、政策立案に必要な、率直な議論が損なわれるのではないかなど、
 特に議事録の作成においては少なくない懸念が存在している。 しかし、こうした状況について、過去の政策の根拠や論点、危機対応時の判断理由等において、 属人的な記憶や断片的な資料を参照するしかない状況が広く存在していると多くの議員から課題 が提起されている。具体的には、政策の検討経緯や履歴が組織のナレッジとして継承されず、属 人的な運用に頼ってしまっている点である。幹事長や政務調査会長等の党要職の交代によって、 過去の議論が断絶し、参照されなくなることで、政策議論の効率性や効果的な政策立案に一定の 負の影響が発生している。 各党とも党内で行っている会議はかなりの量がある。一方で超党派の議連もかなり動いており、 議連によっては相当政策に関与しており重要であるが、いずれも議論の経過が全く蓄積をされて いない。
 国会の本会議や委員会のみならず、政党内部においても、これまでの議論のプロセスをきちっと 管理し、継続させておくということはやはりやるべきだと思う。現状は相当属人的であり、
 幹事長が変わればある意味全部やめるみたいなことがかなり発生している。数字にしろ、過去の
 議論のプロセスというのはねじ曲げることはできないので。無視することはできても、残して
 おくっていうのはありだと思う。 7
  9. おそらく一番問題になるのはクローズの会議での発言を記録するとなれば、会議の発言が全く変 化してしまう点である。外向きの発言と内輪での実際の議論するのは全然違うが、そうしたこと を踏まえても、危機管理対応等で発生した膨大な打ち合わせについては、記録を取っておらず後 から振り返ることができないのは問題である。
                                  議員ヒアリングより抜粋
 提言:政党向けのナレッジマネジメントソリューションの構築
 こうした、政策検討の重要な情報が散逸しており、議論の効率性を阻害しているという課題に対 し、政党向けのナレッジマネジメント・ソリューションを標準パッケージとして整備すべきであ る。ポイントは、「残すこと」と「守ること」と「使えること」を同時に実現することが重要で

    あり、具体的には以下の要件に配慮しながら進めるべきである。
 まず、会議やヒアリングの音声をAIを活用して自動文字起こしし、日時、テーマ、出席者、関連 資料、政策分野タグとひも付けて保存する。これにより、従来は人的負担が大きく作成されなかっ た議事メモを、最小限の追加負担で継続的に蓄積できる。
 また、政党向けの高度なセキュリティを前提とする。アクセス権限の細分化、閲覧・編集履歴の 記録、端末制御、暗号化、外部共有制限を標準装備し、党本部、国会議員、事務所、支部組織等 など立場に応じて安全に運用できるようにする。加えて、党外クラウドの無秩序な利用や個人端 末への資料散在を防ぎ、機密情報の所在を一元的に管理することが重要である。加えて、 クローズ ドな議論では完全匿名化処理を行い、発言者名や識別可能情報を伏せたうえで、論点、賛否、懸念、 代替案のみを構造化して保存する。これにより、率直な意見表明を損なわずに、議論の中身だけを 組織知として残せる。つまり、 「記録すると発言しにくくなる」という懸念に対し、記録の粒度を 設計することで応えるべきである。
 最後に、生成 AI と統合し、蓄積された過去の議論を横断検索・要約・比較できるようにする。 たとえば「過去に同様の論点がどの部会で議論されたか」「反対意見の主な理由は何か」「当時 見送られた案は何か」「どの資料や有識者ヒアリングが判断材料となったか」を瞬時に抽出し、 論点整理メモ、会議資料、法案検討ペーパー、危機対応時の参照レポートとして自動生成する。 これにより、属人的な引継ぎを補い、役職者の交代後も議論の連続性を確保できる。
 また、こうしたソリューションの構築は各政党による自助努力として構築するのではなく、政党 間の協調領域として整備を進めることを念頭に置くべきである。すなわち、こうした基盤的な環 境は、各政党の資金的な余力が反映されるべき類のものではなく、立法府全体として政策資産を 継承するためのインフラ整備として位置づけるべきである。
 8
  10. Case Study II
 海外における政党内部の議論を蓄積する試み 諸外国の主要政党においては、党内の政策形成過程を深化させるために、議論や政策の素材を 参照できるかたちで蓄積している例が複数ある。
 英保守党の記録は、オックスフォード大学ボドリアン図書館に記録を蓄積されており、 「 30年ルー ル」に基づいて公開されている。蓄積されている文書の中には、保守党調査部門(Conservative

    Research Department(CRD))が作成した委員会の議事録等の文書が含まれている。これは、 少なくとも一定期間は外部公開を前提にしない形での蓄積であり、後年に公開を可能とする仕組 みである。またオーストラリア国立図書館の目録には、豪労働党の議事録や報告書が収蔵されて いる旨が示されている。
 デジタル技術を用いて議論の蓄積を実践している例も存在する。独 CDU のポータルサイトは、 議員やスタッフ向けのアイデアやプロジェクトを交換する場になっている。外部へ公開し、意見 を募るためのポータルサイトではなく、内部で議論・検討するための作業空間として位置付けら れたものであり、政策テーマごとの議論が断絶せず深化できる仕組みとして機能している。類似 例として、カナダ自由党も、情報・文書・知見を一元管理する基盤を整備している。
 これらの事例は、党内部向けに保存し、検索性を担保している事例である。また外部に公開する 場合であっても、時間差でアクセス可能とすることにより、議員の心理的安全性を一定程度担保 していると考えられる。日本でも、党内部の議論蓄積の設計を、政策形成過程の基盤として整え る余地がある。 9
  11. 議員が接する情報の質と政策立案との距離に関する課題
 国政で議論される課題や政策の仮説は議員個人の経験やスキルや、研究者などの有識者からの助
 言、あるいは業界団体や職能団体等からの提言等によって支えられている。
 一方で、こうした政策立案資源は属人的なものであることに加えて、政策領域によって大きなム
 ラが存在する。有識者ネットワークについては、自身のこれまでの経歴や、所属する政党等によっ てその質・量ともに大きな影響を受ける。まず、自身の求める政策の実現を第一に考える団体に とって、野党議員の戸を叩くインセンティブは弱く、必然的にそうした各種団体からの提言や要 望は与党に集中することになる。加えて、課題を政策へと変化する機能は業界団体や職能団体等 によって大きな濃淡が存在する。 また、政策的な課題の存在に気づく契機として、議員が地元活動や日々の対話のなかで接する


    「市民の声」は極めて重要である。生活現場で生じている違和感や不便、不満、切実な要望は、
 制度のほころびや新たな社会課題をいち早く映し出すことが多く、政策議論の出発点として大き
 な価値を持つ。とりわけ、既存の統計や行政資料では捉えきれない変化を察知するうえで、現場
 の声は欠かせない。
 他方で、個々の市民の声は、その切実さゆえに重みを持つ一方、経験や立場に依存した断片的な
 情報であるとともに、ある地域や立場から寄せられる声が、そのまま全国共通のニーズや優先順
 位を示すわけではなく、声の大きさと課題の大きさも必ずしも一致しないため、それ自体が国政
 レベルの政策課題を判断する決定的なエビデンスになるとは限らない。また、日々の生活に根差 した市民から上げられる声には、地方自治の枠内で対応すべきものも多く含まれるため、国政で の議論と接続がしにくいという課題もある。 加えて、どのように市民の声を拾い上げるのかという方法論にも課題が存在する。例えばSNSを 用いて、意見を拾い上げることを試みる議員も多く存在するが、より過激な発信が注目される傾 向にあるというSNSの特徴や、投稿やコメントを行うアカウントが自動で投稿を行う「ボット」 である可能性が排除できない、また高齢者のSNS利用者が少なく声を拾い上げにくい等の、考慮 すべき事項が多くある。また、伝統的な市民との接点である個別訪問についても、若者を中心に 無党派層が増える中で、接点として機能しくい状況にある。
 議員に対して放り込まれる情報や仮説の質や量が重要である。与党側であれば自分の担当する 政策分野であれば「投げ込み」で霞が関から情報が届いて勉強できるが、野党にはそれがない。 そもそも。 現在の社会は、個人が個として成り立っているので、いわゆる団体連合みたいなもの自体が弱 まってきている。組織や団体に属さない民の声をどこまで拾い上げられるかがすごく求められて おり、大事なんだと思う。そのような声を拾うアプローチは2つで、現状として使える手段は、 ひとつはSNS。もうひとつは個別訪問であるが、いずれも難しさを抱えている。SNSについては アカウントが本物なのか判断がつかない点や、言説が過激になりやすいという側面がある。個別 訪問についても、若者からの抵抗感が強く、なかなか入り込めない。 10
  12. 国会に設けられている補佐機関では、過去のものとか、今出てるものを調査しようと思ったら、 それなりの質のものが出てくる。でも、それを受けて、じゃあこれからどういう課題が出て くるので、どういう政策が必要ですかっていうことについて、インプットしてくれるネットワー クとかチャンス、機会が、野党は圧倒的に少ない。今のこと、過去のことは言えるけど、じゃあ これからのことについて政策の提言を、われわれにインプットしてくれるかといったら、それは ない。
                                  議員ヒアリングより抜粋
 また、国会には、政策的な調査の面から議員を補佐するための組織として衆議院における調査 局、参議院における調査室、国会図書館における調査及び立法考査局の3組織が置かれている。

    これらの組織は調査に基づく刊行物を議員に対して提供しているほか、議員からの依頼に 応じた調査を行っている。
 こうした議会組織は、議員からの発注に応えて調査を行うが、調査を行う以前の課題定義や政 策的仮説の検討を補佐する機能は十分に備わっていない。上述の3組織については、あくまで も中立的な組織として設計されており、議員の依頼に対して迅速に事実を伝えるということを 重視しているが、ヒアリングの中では、生成AIの進歩により個々人のリサーチ効率が劇的に 向上していく中で、こうした依頼に対する調査に甘んじることは「人材配置としてもったい ない側面が否めない」という意見や、「そもそも何を調べればよい政策や質問に繋がるのか」 という仮説立案・検討に対する補佐機能こそが重要ではないかという意見があげられている。 議会の機能としては国会図書館がある。国会図書館の持つ機能は調査機能だが、正直、 ここ一年程でも生成AIの水準が上がったため、個人的には急激に活用頻度が低下した。 国会図書館は優れた機能であり、正確性を期してストックしておきたい情報がある場合は 依頼するが、利用頻度は10分の1以下になった。国会図書館は優秀なスタッフが多いので、 生成AIの時代において伝統的な調査機能に甘んじるのはもったいないと感じている。 議員側から発注をして、それに対して何かを出してもらうという一連の流れで良いものを 作るということ自体が相当なコストを要する。
                                  議員ヒアリングより抜粋
 11
  13. 提言:「国会社会情勢調査室」等、マクロな国民意識の調査機能の設置
 日本国憲法等においても明記のある通り、国会議員は、主権者である国民の信託を受け、全国民 を代表して国政の審議に当たる役割である。すなわち、立法府における高質な議論においては、
 地域における現場の課題や世論等、主権者の意識を高い解像度で把握していることが求められる。
 その認識のもと、現在、立法府においては、個別の議案審議の過程において公聴会の開催がある。
 また、国会議員個人に対しては、各種の陳情等の形で意見をエスカレーションする動きは一般的
 に存在する。加えて、政府内においても、内閣府大臣官房政府広報室において定期的な世論調査
 が実施されている他、各種の政府統計・委託調査等を通じて意見を吸い上げる仕組みが存在して
 いる。加えて直近では、ブロードリスニングと呼ばれる取組等、多様な形態が見られる。
 その上で、これらの仕組みの多くは、立法府との関係性に限って論ずれば、国会議員がこれらの


    ナレッジ・ネットワークの中心に存在していると考える。国会議員に多くの情報が集まり、それ
 ら情報を引用し、様々な場で提言することにより成立している。いかなる情報を引用するかは国
 会議員の裁量のもとにあり、加えて、引用する情報を、提言の形への仕立てていく役割も、基本
 的には国会議員が有していると考えられる。
 この基本認識と本調査で見えた国会議員等の政策立案資源の問題を重ねると、下記2点の機能そ
 れぞれに現代化の余地があると考えられる。
 社会情勢をタイムリーに可視化する機能や仕組みの設置:本研究におけるヒアリング結果を通じ、
 国会図書館や衆議院の調査局と連携した情報収集を重用しているとの議員の声は多く集まった。
 他方、それらを集合知とした世論のレベルとなると、個別の政策単位において、タイムリーな収
 集を行う機能が存在していない。現状は内閣支持率、政党支持率など、個別の政策との因果関係
 が曖昧な、複雑系からなる数字が注目されがちな状況である。一方で、個別の政策テーマごとの
 議論となると、限られた有識者や学識者、業界団体からの提言などの限られたチャネルからの情
 報にとどまる。近年では、SNS 上で話題になる・炎上することで注目を浴びる政策テーマも数
 多く存在しているが、フィルターバブルやエコーチェンバー現象等が発生することを踏まえ、
 SNSでの注目度の多寡がそのまま政策を推進する正当性たり得るかどうかについては多くの議 論がある。
 この状況に鑑み、より公式かつタイムリーな意見集約が可能な「国会社会情勢調査室」といった、
 国会議員が集合知を求める事案について意見集約を「公式」かつ「オープン」に諮るプラット
 フォームを形成し、各党あるいは各議員の要請に従って迅速な社会情勢調査を行うことを可能と
 する態勢を構築するべきである。
 例えば、特定の政策課題に対して、国勢調査等で明らかである実世界の人口セグメンテーション
 に基づき、高度なマーケティング調査に類するサーベイを行い、より国民の実感に近い結果を個 別政策課題毎に出力していく方法が有効と考える。 12
  14. インターネット上で世論調査のようなものが廉価で数多くできれば、次元の違う政策立案 ができると思う。前から国会でも言っているが、エビデンスをちゃんと集めてくれる部署 は欲しいと考えている。別に国会に限らず政府も全くできておらず、都合のいい手作り エビデンスがいまだに幅を利かせている。
                                  議員ヒアリングより抜粋
 また、個別政策毎に行う社会情勢調査において「賛否」を把握できたとしても、これらは通例、
 財源等、各種政策のトレードオフ関係が整理されないことにより、各種の国民の声を「本当に 実行すべきか/できるか」という観点について、検証が不十分であり、結果として「無責任な 声」という整理がなされやすい。上記の世論調査についても、これを国会での熟議と提言に

    役立てることを念頭に、「無責任な声」ではなく、国民一人一人の迷い(トレードオフ)や、
 その政策実行による国民の行動変容(=狭義の政策効果)を整理した結果であることが求められる。
 例えば「消費減税」等のアジェンダでいえば、単なる賛否を聴取するのではなく、同様の財源 で提供可能な公共サービスの選択肢や、消費税収の減少を補う別の財源(増税や、赤字国債の 発行とそれによるリスク)等の選択肢を提示しながら、これら選択肢群との比較優位の中で、 国民意識と近い、トレードオフ関係を可視化し、これをもって、立法府における議論を展開し ていくことが、国会での熟議の深化には有効と考える。
 また、「消費減税」といった賛否が明瞭な論点に限らず、例えば、新規の政策課題について、 国民や法人等の行動変容のパフォーマンスを事前に予測する調査等も考えられる。具体的には、 特定の課題に対する補助金について、それによって、どのような行動変容がなされるのか等を 明らかにすることである。例えば「設備投資に対する補助金」といった政策を行うとした場合、 これを補助することにより生まれる企業の内部留保が何に向かうのかを一定の動向調査に基 づいて把握し、立法府での議論に生かす等も考えられる。
 なお、こうした仕組みについては、従前、相応の調査の設計や仮説構築、リサーチが必要であり
 これまでは技術的に困難であったと考えている。他方、現在は例えば生成 AI 等の活用を通じ て、これらトレードオフ関係のある「選択肢」を高速で仮説構築し、それら仮説に基づいて調 査を行う等、技術的なブレイクスルーによって、これが実現可能になってきている。「国会社 会情勢調査室」といった公式な機能がこれを行い、様々な立法府のアクターが調査結果を
 引用し議論にあたる環境を構築することは、国民の信託を受けた国会議員らしい、政策立案
 資源の充実化に繋がると考える。 13
  15. おわりに
 ハブとネットワークによるオープンイノベーション的アプローチの必要性
 本報告では、議員事務所の実務処理能力の格差、過去の議論の蓄積・継承の弱さ、そして議員が
 接する情報と政策立案との距離という三つの課題を取り上げ、それぞれに対して、事務所BPRと 秘書のリスキリング、政党向けナレッジマネジメントソリューション、 「国会社会情勢調査室」等 の設置を提言してきた。これらは一見すると別個の論点に見えるが、実際には、国会議員の政策 立案資源を現代化するための基盤が欠けているという一つの構造的問題に収れんする。すなわち、 日本の立法府には、個々の議員、政党、議院事務局、既存の補佐機関に散在する人材・情報・技 術を束ね、優先順位を付け、実装し、横展開していく「ハブ」が弱く、あわせて、民間の高度専門

    人材や知見を継続的に取り込み、制度知へと変換する「ネットワーク」も十分に形成されていない ということである。 政策資源の現代化に向けた企画立案機能・司令塔機能の必要性
 その際に参考となるのが、米国と英国の取組である。米国では、下院に設置された超党派の議会
 近代化特別委員会が 2019 年から 2022 年にかけて 202 の勧告を取りまとめ、その後は下院管理
 委員会内の近代化小委員会が実装と追加的な近代化施策を継続している。英国では、
 Parliamentary Digital Service(PDS)が両院と議員・職員の IT・デジタル需要を支える共通
 基盤として機能し、議会のデジタル戦略を担うとともに、利用ガイダンスや研修も提供している。 ここで重要なのは、個別ツールの導入そのものではなく、議会全体の課題を俯瞰し、共通基盤を 整備し、実装を継続的に支える組織的中枢が存在している点である。 もちろん司(つかさ)にいる議員がどう考えるかはすごく大きいファクターだが、それを ちゃんとサポートする体制は弱いので、そこの機能が必要だと思う。
 国会改革の仕事は、議院運営委員会の伝統的なコンセンサス主義を中心とした手間のかか る仕事であり、国会関係者の中では評価をされるが世論的には響きづらく非常に悩ましい 立ち位置である。
 ボトムアップは成り立ちづらく、合意形成の中心にいる権力のある人物が変化しなければ 国会も党も変化はない。国会を動かすには議院運営委員会を動かさなければならないが、 議院運営委員会は理想的な合意形成プロセスを重んじている機関であるからこそ結論を 出すのに時間がかかり、その間に人は入れ替わるので中々話が進まない。
 様々な改革が、たぶん霞が関だったら、8:2ぐらいの割合で安定領域と不安定領域になる が、永田町はこの比率が逆であり、その時々のトップの意向や主義主張によって大きく方 向が変わったり、揺り戻してしまったりする。
                                  議員ヒアリングより抜粋
 14
  16. 日本においてこの種の機能が必要であると考えられる。議会運営、調査機能、政党実務、議員 事務所運営、デジタル基盤、人材育成、外部連携といった個別論点を、各所の自助努力に委ねる のではなく、立法府全体の「政策資源の近代化」という観点から整理し、共通課題を抽出し、 実証事業を設計し、標準化から普及までをつなぐ企画立案機能・司令塔機能が必要である。 その役割は、単なる管理部門ではなく、各議院事務局、既存の補佐機関、政党、議員事務所、 さらには民間の技術・知見を接続し、どこに共通投資を行うべきかを見定める「編集機能」を 持つべきである。前章までで示した三つの提言も、それぞれを単独で実施するだけでは効果が 限定されうるが、このようなハブが存在することで、相互に補完し合う改革として位置付ける ことができる。 Case

    Study III
 米国下院におけるモダナイゼーション委員会と 英国 Parliamentary Digital Service の試み
 米国における政策資源や議会の現代化については、連邦議会下院における「Select Committee on the Modernization of Congress(モダナイゼーション委員会)」が挙げられる。モダナイゼ
 ーション委員会は、政策を創発する機能基盤の強化を担っており、同委員会の最終報告書の中では、 4年間で 202 件の勧告をまとめ、65%が実装に至ったと報告されている。
 モダナイゼーション委員会は現場の課題を吸い上げ、議会内で共有可能な形に整える機能を有し ていた。委員会では、期初に超党派のリトリート(planning retreat)を行い、優先課題の整理 と相互理解の土台を作ったと示されている。また、政策の議論や勧告文言を調整のために、定期 的に非公式会合も開催したとされている。この非公式会合は、モダナイゼーション委員会に留ま らず、他の政策分野でも協力関係を築く基盤となった。
 現場の課題・現状を把握するための設計もされている。報告書内で「議会を改善・近代化するた めに現職スタッフに対し専門知識と提言を要求することは合理的である」と述べられているよう に、実際に現職スタッフが複数の公聴会で証言している。議会の運営をより良いものとするため に、議員や現職スタッフ、元スタッフ、学者、民間企業、一般市民から広く意見を収集した事例 である。
 英国の Parliamentary Digital Service(PDS)は、庶民院と貴族院にまたがる共同部局として、 議会に必要なデジタルサービスを提供する組織である。公式の説明では、450 人ほどのデジタル 人材で構成され、議会の職員と議員向けに技術・イントラネット等のデジタルサービスを提供し つつ、議会のデジタル提供(digital offering)の戦略面も担う、とされている。 重要なのは、デジタル化を単発の IT 更新・デジタルサービスの導入として捉えているのではなく、
 意思決定と説明責任を支える情報運用の改革として扱っている点である。英国の2024–27年
 のInformation & Digital Strategy は、縦割りを作らずに議会全体で協働し、デジタル技術を最大 15
  17. 限に活用して、 効果的でエビデンスに基づく意思決定を支えるデータと情報を利用可能にする ことを確実にする、という旨を中核に据えている。
 PDS は「誰もが議会で何が起きているかにアクセスし理解できること」を重視していると述べ、 庶民院、貴族院、議会スタッフのニーズに応えるかたちでデジタルプラットフォームの提供と 管理を実施している。デジタルサービスの提供を、議会改革を手続の議論だけに閉じることなく、 立法府の能力を支えるものだと捉え直す上で、PDS は実装主体のモデルといえる。 民間人材・知見を大胆に取り込む必要性


    もっとも、司令塔機能を整備すれば、それだけで政策資源の現代化が進むわけではない。ヒアリ
 ングでは 、デジタル 技術に 明るい 秘書が少ないこと 、ス キル 向上の 機会 が乏しいこと、 民間の 高
 度人材にとって永田町の職場環境が必ずしも魅力的ではないことが率直に語られた。これは、日本 の立法府 内部だけで 必要な知見を 自給し ようとしても 、 現実には 限界が大きいことを 示している 。 政策形成を 取り巻く技術、データ 、調査手法 、コミュニケー ション手 段が急速に 高度化する中で、 閉じ た人材循環の ままでは、 行政府 や民間との能力 差は むし ろ拡大し かねない。
 この点で示唆的なのが、米国の TechCongress である。TechCongress は、エンジニアやコン
 ピュータサ イエンティス トなどの 技術人材を 、一定期間、連邦議会の議 員事務所や委員会に 配置
 する フェロー シップとして 運営されて おり、議会の能力 構築と、 テクノロジー ・コミュニティと
 議会との 橋渡しを 目的としている。 重要なのは、こ れが単発の 助言や外注では なく、内部に 入り
 込み、実 務をともに 担う 形で 設計されていることで ある 。こ れに より、議会の 側は 専門性を実 装
 に 結び付け やす くなり、 民間人材の 側も 政策過程への理 解を 深め、 後に 外部へ戻った後も「議 会
 を理 解する 人材」として ネットワー クに 残る。
 日本でも、民間人材・知見の活用は、個別の関係性や属人的な紹介に依存するのではなく、より
 制度的かつ中立 的な枠組みとして 設計される べきで ある 。例え ば、一定期間の フェロー シップや
 出向、 特定テー マごとの プロジ ェクト参加、議 員・政党・議 院事務局が共通で 利用で きる 専門人
 材バンク、大学・シンクタ ンク・テック企業・コンサル ティング企業等との 連携プログラムなど
 が考え られる。 その 際には 、利益相反管理、 守秘義務、 アクセス 権限、成果物の 帰属、離任後の
 行動規範などを 明確にし、 特定政党や特定企業への 依存では なく、立法府 全体の能力 向上に 資す
 る 制度として 組み立てること が重要で ある 。外部知見の 導入は、 単に「人手 不足を 埋める 」ため
 では なく、議会の 内部だけでは 生まれに くい 視点や技術を 取り込み、こ れを 制度知として 蓄積・
 共有してい くための 戦略で なけ ればならない。 16
  18. 議会改革やデジタル化は、自身の仕事にどのような影響を及ぼすのか議員がイメージを 持てないと前に進まない。例えば、議論をデータベース化しておくというのを言葉では 何となく理解しているが、具体的にどう効果を与えてくれるのかまで理解を深めるには 時間がかかり、ソリューションに知見の深い民間人を取り込みつつ解像度を上げながら進 めなければならない。
 国会に民間人を取り込んだ過去事例として、原発事故の際に国会事故調査委員会ができて、 一時的にその臨時の民間人スタッフを雇用し、議会主導で取り扱ったケースがあった。 ただし、臨時で行うと、組織のトップになった人物の色が色濃く反映される。また各党の 意見も異なるため、メンバーの中に非常に批判的な人物がいる場合、ニュートラルに組織 が運営されるわけではない。国会において、臨時で取り扱うと、各政党の思惑もあり、そう

    いうことになりがちである。 国会でも臨時ではなく公共的な機能をテクノクラートにして作っておくことはあり得る。
                                  議員ヒアリングより抜粋
 本報告が提示するのは、立法府の機能強化を、個別施策の足し算としてではなく、「ハブ」と
 「ネットワーク」の設計問題として捉え直す視点である。必要なのは、立法府の内側に、企画 立案・司令塔・標準化・実装支援を担うハブを持つこと、そして外側には、民間人材・技術・ 有識者ネットワークと接続し続ける開かれた回路を持つことである。この内と外の両輪が噛み 合って初めて、議員事務所のBPR、知的政策資源の蓄積、国民意識の高度な把握といった個別 提言は、単発の改善ではなく、立法府全体の政策資源の現代化へとつながる。国会議員の政策 立案資源の在り方を、統治機構の結果として受け入れるのではなく、そこから変化を起こす 突破口として捉えるという本報告の立場に立つならば、今後求められるのは、まさにハブと ネットワークによるオープンイノベーション的アプローチである。
 17
  19. Case Study Ⅳ
 アメリカにおけるTechCongress(IT人材フェロー派遣)
 TechCongress は、中立の立場をとることを明確にしており、政治とテクノロジーに関する知識 と経験のギャップを埋め、双方にとってより良い成果を生み出すことを目指している団体である。 テクノロジーをめぐる政策立案と議論の活性化を促進させるために、科学者、エンジニアその他 の技術者をフェローとして議会事務所へ派遣し、AI からデジタルプライバシーまであらゆる分野

    について助言を提供している。 具体的には、中堅の技術者を 12 か月派遣する「Senior Congressional Innovation Fellowship」 と、若手の技術者を 10 か月派遣する「Congressional Innovation Fellowship」とがあるほか、 新型コロナ感染初期には、議会のデジタル課題に対応する単発のプログラムも実施しており、 これまで、報告書の起草への協力や、法律制定の推進を行ってきた。上記の取組によって、 技術者側は「公共の利益」を踏まえた政策形成を経験でき、その学びが産業界等のネットワーク
 にも波及して対話が増えることが期待されている。また、技術者は、ユーザー中心設計の発想を
 持ち込み、政策検討を有権者目線から後押しすることができる。 立上げ当初、資金の確保が特に課題だったとされる。財政基盤を堅固なものにするため、まず、 クラウドファンディングキャンペーンを通じて約 8000 ドルを調達した。このキャンペーンでの 露出を契機に、ワシントンポストで取り上げられ、多数の資金提供者へのアクセスが可能となっ た。2024 年時点では、収入のほぼ 100%が寄附で占められている。議会への在籍期間が長いほど 成果は大きくなることから、今後は短期の派遣ではなく常勤化へ転換し、最終的には議会内に 技術者が定着し、外部からの支援が不要になる状態を目指している。 18
  20. 最終報告に向けた検討課題:生成 AI と政策立案資源の現代化
 本中間報告では、議員事務所のBPR、ナレッジマネジメント、国会社会情勢調査室の設置、そして ハブとネットワークによるオープンイノベーション的アプローチという四つの提言を示したが、 これらの提言を実装していく過程で、避けて通れない構造的な論点が存在する。それは、生成AI の急速な発展が、政策立案資源の現代化の前提そのものを変容させつつあるという事実である。 最終報告に向けて、以下の論点をさらに探究していく必要がある。
 (1)行政府における AI

    基盤整備の加速と、立法府における非対称性の拡大
 行政府においては、デジタル庁が推進するガバメントAI「源内」の大規模実証事業(2026年5月 から全府省庁 39機関・約1 8万人の政府職員が対象)をはじめ、国会答弁作成支援 AIの開発実証、 資料分析や審査業務を支援するAIアプリケーションのプロトタイプ開発など、霞が関におけるAI 基盤の整備は急速に進展している。こうした行政府側の動きは、立法府にとって二つの意味を持 つ。
 第一に、行政府がAIで答弁を効率化する一方で、質問する側の立法府が従来のアナログ的な手法 に留まるとすれば、行政府と立法府の情報格差はさらに拡大する。例えば、AIが過去の答弁 履歴や関連政策資料を瞬時に横断検索・要約して答弁を最適化する一方で、質問を作成する議員 側が断片的な情報に依拠したままであれば、質問の質と深度において後れを取ることになる。
 この非対称性は、立法府による行政監視機能の実質的な弱体化につながりかねない。監視機能を 引き上げるために、立法府においても、AIを活用した質問作成が可能な体制を整備することが必 要であると考えられる。
 第二に、行政府がAIを政策形成に活用し、そのアウトプット(答弁、資料、政策立案)がAIを 介在したものである場合、そのアウトプットの形成過程やアウトプットそのものについて、立法 府がどのように検証・評価するのかという新たな問いが生じる。人間がアウトプットする政策と、 AIが介在した政策との間で、透明性、トレーサビリティ、責任帰属の点で留意すべき差異は何か。 この問いは、政策形成過程の根幹に関わるものであり、立法府の機能強化を論じる際に正面から 向き合う必要がある。
 (2)AIが政策議論に介在する際の倫理的論点と、立法府におけるAIガバナンスの必要性
 本中間報告で提言した政党向けナレッジマネジメントソリューションにおいて、生成AIを統合し て過去の議論を横断検索・要約・比較できるようにする方向性を示したが、その実装にあたって は、重要な倫理的論点を慎重に検討する必要がある。
 まず、AI による要約や比較は、必然的に文脈の脱落を伴う。政策議論において、ある発言がなぜ その文脈でなされたのかという背景は、政策判断において極めて重要であるが、現状の生成AIは こうした文脈を十分に保存できない場合がある。また、AIによる論点整理や資料生成は、特定の 19
  21. フレーミングを不可避的に伴う。どの論点を主要として抽出するか、どの反対意見を少数意見と して位置づけるかは、AIの訓練データやプロンプト設計に依存する政策的判断であり、それ自 体がバイアスの再生産や特定の政策的方向への誘導につながりかねない。さらに、LLM(大規 模言語モデル)はモデルごとに特性が異なり、同一の問いに対しても異なる論点の整理や要約を 返す可能性がある。政策形成においてAIを活用する際には、複数のAIモデルの出力を相互に比 較・検証する仕組みや、人間による最終確認のプロセスを制度的に埋め込むことが不可欠であ ろう。
 この点で注目すべきは、行政府が既にAIガバナンスの枠組み構築に着手していることである。
 各府省庁におけるAI統括責任者(CAIO)の設置、生成 AI

    調達・利活用ガイドラインの策定、
 職員への周知啓発と意識改革など、組織的なガバナンス体制が整備されつつある。翻って、立 法府においては、これに相当するガバナンスの枠組みが存在しない。AIをどの業務にどの範囲 で用いるか、AIの出力をどのように検証するか、AIを用いた資料や文書の扱いをどう定めるか といった、「立法府版AIガバナンス方針」の策定は、最終報告に向けて深掘すべき重要な論点 である。
 (3)政策立案資源の配分を規定するインセンティブ構造への着目
 本報告では、議員事務所の BPR や秘書のリスキリングを通じて政策立案に投下できる資源を
 拡充する方向性を示したが、他方、BPRによって組み替えられた資源が実際に政策立案に向か
 うのか、それとも選挙活動や地元対応に吸収されるのかという問いは残る。これは、議員の政 策活動と選挙活動の間の資源配分を規定するインセンティブ構造の問題であり、政策資源の拡 充だけでは解決できない構造的な課題である。
 現行の制度下では、議員にとって政策活動よりも選挙活動への資源配分が合理的となる場面が
 構造的に存在しうる。この点について、本プロジェクトが掲げる「統治機構の結果として受け 入れるのではなく突破口として捉える」という基本的な立場を踏まえれば、政策資源の現代化 の成果が政策立案へと還流するための仕組みをどう設計するかという問いにも向き合う必要が ある。例えば、政策活動の成果が有権者に可視化される仕組みや、政策立案への貢献が議員 の評価として反映される環境を整えることも、広く政策資源の現代化の一環として探究する価 値があるだろう。
 これらの論点は、いずれも、生成AIの発展が政策形成のエコシステム全体をどのように変容
 させるかという、より大きな問いの一部である。永田町と霞が関の政策形成エコシステムは、
 AIの発展とともに共進化していくことになるが、その過程で何を捨て、何にどのように適応し、
 あるいは何を残すべきなのか。例えば、属人的な記憶や関係性に基づく政策形成の暗黙知は、
 AIによる組織知への転換によって失われるかもしれないし、それがかえって政策の質を低下さ
 せる可能性もある。最終報告に向けて、こうした共進化の方針と道筋を見定めるための調査を 深めていくこととしたい。
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  22. Appendix:ヒアリング実施記録 実施日 ご所属 (ヒアリング実施時点) 2025 年 10 月 22 日

    自由民主党(衆議院議員) 2025 年 11 月 11 日 立憲民主党(衆議院議員) 2025 年 11 月 12 日 立憲民主党(衆議院議員) 2025 年 11 月 14 日 日本維新の会(衆議院議員) 2025 年 11 月 14 日 立憲民主党(衆議院議員) 2025 年 11 月 18 日 自由民主党(参議院議員) 2025 年 12 月 4 日 立憲民主党(衆議院議員) 2025 年 12 月 10 日 立憲民主党(衆議院議員) 2025 年 12 月 10 日 自由民主党(参議院議員) 2025 年 12 月 12 日 日本維新の会(衆議院議員) 2025 年 12 月 15 日 自由民主党(衆議院議員) 2025 年 12 月 16 日 国民民主党(衆議院議員) 2025 年 12 月 18 日 自由民主党(衆議院議員) 2025 年 12 月 18 日 自由民主党(衆議院議員) 2025 年 12 月 24 日 自由民主党(衆議院議員) 2025 年 12 月 26 日 立憲民主党(参議院議員) 2026 年 1 月 6 日 公明党(衆議院議員) 2026 年 3 月 11 日 自由民主党(衆議院議員) 2026 年 3 月 23 日 チームみらい(衆議院議員) 国会議員の立法・政策実務を支える現代的な環境の実現に向けた共同研究チーム 中井澤 卓哉(株式会社PoliPoli)
 秋 圭史(株式会社PoliPoli)
 大森 達郎(株式会社PoliPoli)
 河村 勇紀(株式会社PoliPoli)
 中保 友里(株式会社PoliPoli)
 篠崎 亮(PwCコンサルティング合同会社)
 萩原 桐平(PwCコンサルティング合同会)
 古賀 崇之(PwCコンサルティング合同会社)
 三浦 遥(PwCコンサルティング合同会社) 21 2025 年 10 月 22 日 2025 年 11 月 4 日 2025 年 10 月 22 日 自由民主党(衆議院議員)