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SREの組織構造と実践.
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ryuichi1208
May 02, 2026
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SREの組織構造と実践.
ryuichi1208
May 02, 2026
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Transcript
SREの組織構造と実践 SREを0から学ぶ会 #2 渡部 龍一
INTRODUCTION 自己紹介 Ryuichi Watanabe 株式会社IVRy SRE(電話自動応答 / 音声AI SaaS) 『SREの知識地図』
(技術評論社 ) 本講義の指定図書。共著者として執筆 SRE NEXT Co-Chair 国内最大級のSREカンファレンスを運営 (写真) 登壇・執筆 SRE・オブザーバビリティ・低レイヤ技術(eBPF等)を中心に発信 保守運用とSRE 第2回 2
RECAP 前回のふりかえり — 3つのポイント 1 信頼性は SLI/SLOという共通言語で語る 100%は目指さない。エラーバジェットで「攻め/守り」をデータで調停する。AIの品質・コストも測れる形に変換して組み込む。 2 AIシステムは「静かに」壊れる
検索劣化・モデル更新・コスト暴走。定点質問セットとコスト監視で、変化に気づける仕掛けを持つ。 3 障害対応は型で動く 検知→トリアージ→コミュニケーション→復旧。止血優先、対応役と報告役を分け、時刻と行動を記録する。 課題①(SLO設計シート)の提出期限は 9/30。講評は行いませんが、質問は随時受け付けます 保守運用とSRE 第2回 3
TODAY'S GOALS 本日のゴール — 3つ持ち帰ってください 自チームに合う運用体制を構想できる SREチームの類型とYou Build It, You
Run Itの条件を知り、「少人数で複数のAI基盤を保守する」現実に当てはめて考えられる。 AI生成コード・ AI支援運用との付き合い方を持つ 「動くが説明できない」コードのレビュー・変更管理の基準と、AIOpsに任せてよいこと/いけないことを判断できる。 非難しないポストモーテムを書ける タイムライン・根本原因・再発防止策の3点を、精神論で終わらせず「仕組み」に落とせる。今日の演習と課題②で実践。 保守運用とSRE 第2回 4
01 SREの組織構造 誰が信頼性に責任を持つのか — チームの形とオンコールの現実 45 min 保守運用とSRE 第2回 5
01 — SREの組織構造 信頼性は「誰の仕事」か 古典的な分業の失敗 • 開発は「速く出したい」、運用は「壊したくない」 • 作った人と運用する人が分かれ、壁越しに投げ合う •
障害のたびに責任の押し付け合いが起きる SREの答え • 信頼性を「運用部門の仕事」ではなく、エンジニアリングの課題として 扱う • SLO・エラーバジェットで開発と運用の利害を揃える(前回の内容が土 台) • ただし「SREという役割を置く」方法は1つではない → 次ページ 今日の問い 専任のSREを雇えない少人数チームが、顧客ごとの個別 AI基盤を複数保守するとき、 信頼性の責任と作業をどう配置するか ? 保守運用とSRE 第2回 6
01 — SREの組織構造 SREチームの 3類型 中央集権型 埋め込み型 イネイブリング型 Platform /
Central SRE Embedded SRE Enabling SRE 専任SREチームが横断的に基盤・監視・標準 を提供。深い専門性が集まる。 SREが開発チームの中に入り、そのサービス に深く関与して信頼性を上げる。 SREは伴走役。開発チーム自身が運用できる よう、仕組み・型・教育を提供する。 向き : 規模が大きい、共通基盤が厚い 向き : 重要サービスの集中改善 向き : 少人数で広くカバーしたい 不向き : 各サービスの文脈から遠くなる 不向き : 人数が要る、属人化しやすい 不向き : 即効性は低い、チームの自走が前提 どれが正解、ではない。組織の規模・フェーズ・サービスの重要度で組み合わせる 保守運用とSRE 第2回 7
01 — SREの組織構造 類型は固定ではない — 組織の成長に合わせて移行する 1 出発点: YBYRI +
兼任の「 SRE的な動き」 少人数期は専任を置けない。開発チームが運用を持ちつつ、監視やデプロイ整備が得意な人が兼任でSRE的な役割を担うところから始まる。 2 痛みが出た領域から、埋め込み /イネイブリングへ 障害が集中するサービスに一時的に埋め込む、共通の型(アラート基準・プレイブック)を伴走で整える——痛みの大きい所へ重点投資する。 3 共通基盤が育ったら、中央のプラットフォームへ 監視・デプロイ・IaCが共通化されてきたら、専任チームがそれを「製品」として磨く段階へ。類型の混在は失敗ではなく、健全な進化の途中。 保守運用とSRE 第2回 8
01 — SREの組織構造 You Build It, You Run It —
作った人が運用する 開発チーム自身がデプロイ・監視・オンコール・障害対応まで持つモデル。 小規模組織や専任SREを置けないチームでは、事実上これが出発点になる。 フィードバックが最速で返る 自分の書いたコードの障害で自分が起こされる。壊れにくい設計・運用しやすい実装への強いインセンティブが働く。 文脈を一番知る人が対応する 仕様も実装も知っている人が調査するので、原因特定が速い。引き継ぎコストがない。 リリースが速い 運用部門への引き渡し・調整が不要。作る→出す→直すのループをチーム内で完結できる。 ただし、 YBYRIは「理想」ではなく条件つきの均衡。条件が崩れると機能しない → 次ページ 保守運用とSRE 第2回 9
01 — SREの組織構造 YBYRIの成立条件と、崩れるとき 成立の条件 • 観測基盤とデプロイの安全装置(ロールバック等)が整っている • オンコールを回せる人数がいる(1〜2人では持続しない) •
運用改善の時間が計画に組み込まれている(機能開発100%にしな い) • 経営・マネジメントが運用負荷を可視化して守る 崩れるサイン • 認知負荷の飽和: 担当システムが増え、どれも中途半端にしか分から ない • 特定の1人にだけ障害対応が集中している(ヒーロー依存) • 運用改善が常に後回しになり、トイルが増え続けている • オンコールを理由にした離職・疲弊が出はじめる 崩れかけたら : 型と仕組みの整備 (イネイブリング的な動き )で、個人の頑張りから組織の仕組みへ移す 保守運用とSRE 第2回 10
01 — SREの組織構造 PRR — 「本番に出してよいか」を確認する関所 1 2 3 出す前に「運用できる状態か」をチェックする
監視・アラート・SLO・プレイブック・ロールバック手順が揃っているか。障害の多くは「準備不足のまま本番に出た」ことから始まる——出す前が一番安い 防御点。 YBYRIを支える仕組みとして使う 作った人が運用するには、「運用できる状態で出す」仕掛けが要る。SREが門番になるのではなく、チェックリストをチームに渡して自己点検してもらう形 が理想。 少人数版は「 1枚のチェックリスト +30分」で十分 重厚な審査会は不要。新サービスや新しいAI基盤の投入前に、チェックリストを一緒に眺める30分を置くだけで、投入直後の障害は目に見えて減る。 保守運用とSRE 第2回 11
01 — SREの組織構造 PRRチェックリスト (サンプル ) — ★最小セットと判定 ★最小セット —
まずこれだけ 判定 — 3段階 • Go: ★がすべて「はい」。残りの「いいえ」は認識した上で宿題として起 票 • 条件付きGo: ★に「いいえ」があるが、期限付きの対応計画がある 耐性: すべての外部呼び出しにタイムアウト。リトライは上限+バックオ フ • No-Go: 対応計画がない。「ロールバック未検証」「タイムアウトなし」は 原則ここ リリース: ロールバックを一度実際に試した。暴走時のキルスイッチが ある • 使い方: 開発チームが自分で記入し、SREと30分で眺める。全部「は い」が目的ではない • SLO: ユーザー視点のSLIと目標値があり、ダッシュボードで見られる • 監視: SLO違反のアラートがオンコールに届き、プレイブックに繋がる • • フル版 (全 6章・記入欄つき )は配布資料で共有。埋められない項目は、投入後に踏む障害の「予告編」 保守運用とSRE 第2回 12
01 — オンコール設計 オンコール設計の基本形 ローテーション — 1人に集中させない プライマリ/セカンダリの2層+週次交代が基本形。持続的に回すには最低でも3〜4人、余裕を持つなら6人前後が目安。 エスカレーション —
「迷ったら上げる」を明文化 何分応答がなければ次へ、どんな状況なら即上げるか(顧客影響・データ破損・セキュリティ)を事前に決める。上げたことを責めない。 プレイブック — 深夜の自分は昼の自分より無能 アラートごとに「最初に見る場所・よくある原因・止血手順」を書いておく。新人でも動ける状態が、属人化の解毒剤。 負荷の計測 — オンコールも SLOの対象 呼び出し回数・深夜対応・対応時間を記録する。測らないと「つらさ」が議論できず、改善も採用も交渉できない。 保守運用とSRE 第2回 13
01 — オンコール設計 少人数チームの現実解 — 全部は守れない前提で設計する 対応レベルを分ける 当番をチーム横断で束ねる 全システム24時間対応は不可能。重要度で「即時対応 /
営業時 間内 / ベストエフォート」のティアを切り、顧客とも認識を合わせ る。 システムごとに当番を置くと即破綻する。複数システムを1つの ローテーションで持ち、プレイブックで個別知識を補う。 任せられるものは任せる 鳴らさない努力を続ける マネージドサービス・ベンダーサポートに寄せ、自分たちが起きる 範囲を最小化する。「自前で持たない」のも立派な設計。 少人数ほどアラートの質が生命線。前回の「アクション可能・ユー ザー影響ベース」を徹底し、夜間は本当に緊急なものだけに絞 る。 持続可能性が最優先。倒れない当番表 > 完璧なカバレッジ 保守運用とSRE 第2回 14
01 — オンコール設計 オンコールに人を増やす — 訓練は「業務で自然に」では身につかない 配属直後の「即シフト入り」は失敗する 技術的にもメンタル的にも無理がある。誤った対応による二次障害や、調査の長期化(MTTR悪化)を招く。「高負荷」「DB停止」への対応は通常業務では経験でき ない。 シナリオ訓練
— 過去のインシデントをモブオペで再現 実際に起きた障害を題材に、全員で手を動かして対応を追体験する。安全な環境で「本番の緊張」だけを抜いた場数を積める。 段階を踏んで独り立ちさせる 見学(シャドウ) → 補助つき当番(逆シャドウ) → 独り立ち。プレイブックが整っているほど、この階段は短くなる。 詳しい人と新しい人を交互に組む エスカレーション順を「新人 → ベテラン」に設計すれば、本番そのものが安全網つきの教材になる。ベテランの負荷も一次対応の分だけ減る。 訓練はコストではなく、当番表に入れる人数を増やす最短の投資 保守運用とSRE 第2回 15
01 — オンコール設計 Game Day — 障害を「起こして」練習する 本番前に「実戦」を経験させる演習 擬似障害を注入する、またはシナリオを紙上で回す形で、検知→トリアージ→復旧の流れを実際に動かしてみる。初めての本番障害が「初実戦」になるのを防ぐ。 小さく始めてよい
いきなり本番でのカオスエンジニアリングは不要。ステージングで「STTベンダーが全滅したら?」を1時間試すだけでも、十分すぎる学びが得られる。 目的は「穴を見つけること」 アラートが飛ばない、プレイブックが古い、権限が足りない——演習で見つかる穴は、いずれ本番で見つかったはずの穴。たくさん見つかるほど成功と考える。 訓練を「仕組み」にする定例化 前スライドのシナリオ訓練の発展形として、四半期に1回のGame Dayを定例化する。新メンバーのオンコール参加前の「仕上げ」にも使える。 保守運用とSRE 第2回 16
01 — オンコール設計 オンコールを「続けられる」ものにする運用ルール 引き継ぎ (ハンドオフ )を儀式にする 週次交代時に15分、進行中の問題・今週の変更予定・怪しい兆候を口頭+メモで引き継ぐ。「当番表が変わっただけ」の交代が初動の遅れを生む。 深夜対応の翌日は、回復を業務として認める 深夜ページ対応の翌朝は遅め開始・会議免除など、回復ルールを明文化する。個人の気合いに任せると、疲弊は静かに蓄積していく。
対応の記録は「当番の仕事」に含める 呼び出しごとに事象・対応・所要時間を1〜2行残すところまでが当番。プレイブック更新の材料になり、負荷の計測も自動的に貯まる。 月次で当番のふりかえりをする 呼び出し回数・深夜比率・「無駄だったアラート」をチームで眺める30分。アラート棚卸しと人員の議論は、このデータから始まる。 保守運用とSRE 第2回 17
01 — トイル削減 トイル — 運用を静かに食いつぶす作業 トイル = 手作業で・繰り返し発生し・自動化可能で・サービスの成長に比例して増える作業 例:
手動での再起動、顧客ごとの設定コピー、定型的な問い合わせ調査、手作業のリリース なぜ放置すると危険か 顧客が増えるほど、線形に忙しくなる 顧客ごとの個別AI基盤モデルでは特に致命的。10社なら回っても、30社では同じやり方が物理的に破綻する。 改善の時間を食いつぶす トイルで一日が終わると、自動化も設計改善もできず、さらにトイルが増える悪循環に入る。 スキルと士気を削る 繰り返し作業はエンジニアリングではない。学びのない作業が続くと、チームから人が離れる。 保守運用とSRE 第2回 18
01 — トイル削減 トイル削減の進め方 — 全部は潰せないから、順番を決める ① まず記録する ② 頻度×時間×リスクで採点
③ 自動化だけが答えではない 1〜2週間、「何に時間を使ったか」をメモする だけでよい。体感ではなく記録が、削減対象 の議論の土台になる。 「毎週発生×30分×手順ミスで障害になる」も のが最優先。年1回の面倒な作業は後回しで よい。 自動化 / そもそも廃止 / セルフサービス化(顧 客・他チームに委譲) / 頻度を減らす — 4つ の選択肢から一番安いものを選ぶ。 目安: 運用作業(トイル)が業務時間の 50%を超えたら赤信号。エンジニアリングの時間を守る 保守運用とSRE 第2回 19
01 — トイル削減 事例 — 「顧客追加」のトイルを削る (個別AI基盤の例 ) After: テンプレート化
+セルフサービス Before: 1社あたり半日の手作業 • 環境の複製、設定ファイルの手書き・コピー修正 • プロンプト・辞書の個社調整を本番で直接編集 • 監視・アラートの個社設定を毎回手で追加 • 手順書はあるが長大で、実施者によって結果が揺れる • 顧客定義を1つの設定ファイルに集約し、環境はテンプレートから自動 生成 • 設定にバリデーションを入れ、誤りは適用前に弾く • 監視・ダッシュボードは顧客リストから自動展開 • 個社調整はレビュー付きのリポジトリ管理へ移し、本番直編集を廃止 ポイント : 一番効くのは「顧客ごとの差分を設定データに閉じ込める」こと。作業ではなく構造を変える 保守運用とSRE 第2回 20
01 — トイル削減 AIによる運用支援 (AIOps) — 任せてよいこと / いけないこと 今日から任せられる
• アラート・ログの要約、関連する過去事例の検索 • 初動調査の下書き: 「どのダッシュボードを見るべきか」の提案 • プレイブック・ドキュメントの検索と下書き作成 • ポストモーテムのタイムライン整理の補助(ログからの抽出) 任せてはいけない (まだ /ずっと ) • 本番への破壊的操作の自動実行(再起動・ロールバック等の最終判 断) • 根本原因の断定: もっともらしい仮説に引きずられる(アンカリング) • 顧客影響・ビジネス判断を伴うエスカレーションの要否 • 責任。説明責任は常に人間に残る 原則 : AIは「調査を速くする道具」。判断と操作の主体は人間に置いたまま、下ごしらえを任せる 保守運用とSRE 第2回 21
01 — 実践への接続 顧客ごとの個別 AI基盤を、少人数で複数保守する 今日の内容を全部つなげると、こういう設計になる : 共通部分を最大化する (中央集権型の考え方 )
監視・デプロイ・ログ基盤・プロンプト管理は全顧客で共通化。顧客ごとに違ってよいのは設定とデータだけ、に近づける。 運用は横断ローテーション +プレイブック (YBYRIの現実形 ) 「A社担当はXさんだけ」を作らない。誰でも初動できる状態をプレイブックで担保し、詳細は日中にオーナーへ引き継ぐ。 顧客をティア分けし、 SLOを分ける (前回の内容 ) 契約・重要度に応じて対応レベルと目標値を変える。全顧客に同じ水準を約束すると、少人数では必ず破綻する。 トイルは仕組みで削る + AIに下ごしらえを任せる 顧客追加・設定変更・定型調査をセルフサービス化/自動化。増えるのは顧客数であって、作業量ではない状態を目指す。 保守運用とSRE 第2回 22
01 — まとめ ここまでのポイント 1 チームの形は状況で選ぶ — YBYRIは条件つきの均衡 中央集権/埋め込み/イネイブリング。少人数の出発点はYBYRIだが、観測基盤・人数・改善時間の条件が崩れたら仕組みで補う。 2
オンコールは持続可能性が最優先 ティア分け・横断ローテーション・プレイブック・負荷の計測。倒れない当番表は完璧なカバレッジに勝る。 3 トイルは記録 →採点→一番安い手で削る 自動化・廃止・委譲・頻度削減の4択。AIには調査の下ごしらえを任せ、判断と責任は人間に残す。 保守運用とSRE 第2回 23
02 AI時代の保守運用とポストモーテム 「動くが説明できない」と付き合い、失敗を組織の学びに変える 40 min 保守運用とSRE 第2回 25
02 — AI生成コードの運用 AIがコードを書く時代の、新しい運用問題 書くコストは激減した。しかし理解・レビュー・運用のコストは減っていない。 むしろ「大量に生まれる、書いた人がいないコード」という新しい保守対象が増えた 生成量がレビュー能力を超える 1日で数千行が生まれる。従来と同じレビュー体制では、確認が形骸化するか、ボトルネックになるかの二択になる。 「書いた人」に聞けない 障害時の「これ書いた人、意図教えて」が通用しない。意図はプロンプトと会話ログの中にあり、多くは残っていない。
動くが、説明できない テストは通る、本番でも動く、でもなぜこの実装なのか誰も説明できない——そのコードの障害対応を、深夜のあなたがやることになる。 保守運用とSRE 第2回 26
02 — AI生成コードの運用 運用設計 — 3つの防衛線 1 レビュー基準 : 「誰かが説明できる」をマージ条件にする
AI生成かどうかは問わない。ただし「このPRの動作を自分の言葉で説明できる人間」がいないコードは本番に入れない。テストと観測(ログ・メトリクス)を 同梱させる。 2 変更管理 : 小さく出す・すぐ戻せる状態を保つ 生成量が増えるほど、1回の変更は小さく。カナリアリリースとワンクリックロールバックがあれば、レビューで捕まえ損ねても被害を限定できる。 3 「説明できないが動いている」既存コードは隔離して管理 全部書き直すのは非現実的。境界(インターフェース)とテストで包み、触る時に理解する。理解できていない箇所のリストを持つこと自体が運用情報。 前提は前回の内容: 観測とロールバックが整っていないチームがAI生成コードを量産するのが、一番危ない 保守運用とSRE 第2回 27
02 — AI生成コードの運用 レビュー実務 — 人間の目は「ここ」に集中させる 人間が重点的に見る • 境界条件・エラー処理・リトライ: AIが最も雑になりやすい箇所
• 新しい依存ライブラリの追加と、その必然性 • 秘密情報・ログ出力・外部通信など、セキュリティに触れる差分 • 「この実装をなぜ選んだか」をレビュイーが説明できるか 仕組みに任せて省力化する • 静的解析・自動テスト・脆弱性スキャンを人間レビューの前段に置く • PRテンプレートに「AI生成範囲・使用プロンプト・確認したこと」欄を設 ける • PRサイズに上限を置き、超えたら分割を求める(小さく出すの強制) • 生成コードにはテストと計測(ログ・メトリクス)の同梱を必須にする 原則 : レビューの目的は「間違い探し」より「説明責任の確認」。説明できる人を作る工程がレビュー 保守運用とSRE 第2回 28
02 — 安全なリリース 安全なリリースの実務 — 「小さく出す・すぐ戻せる」を具体化する 1 2 カナリアリリース —
まず一部にだけ当てる 数%のトラフィックや社内利用から始め、SLI(エラー率・レイテンシ・AI品質指標)を見ながら段階的に広げる。異常時に自動で停止・縮退できるとなお良 い。 フィーチャーフラグ — デプロイとリリースを分ける コードを本番に置くことと、機能を有効化することを分離する。問題が出たらフラグを切るだけ——ロールバックより速い「戻す手段」を標準装備にする。 3 プロンプト・モデル変更も「デプロイ」として扱う コードと同様にバージョン管理・差分レビュー・カナリア・ロールバック手順を適用する。第1回で見た「静かに壊れる」に対する、変更側からの最大の防 御。 障害の大半は「自分たちの変更」の直後に起きる。変更を止めるのではなく、安全に速く変更できる仕組みに投資する 保守運用とSRE 第2回 29
02 — 依存先障害への耐性 依存先障害への耐性 — 外部AIは「落ちる前提」で組む タイムアウトを必ず設定する 「遅い」は「落ちている」より厄介。無限に待つ呼び出しが自システムのリソースを食いつぶし、共倒れになる。ユーザー体験から逆算して上限を決める。 リトライは「控えめに、ずらして」 指数バックオフ+ジッターが基本形。全クライアントが一斉に再試行する「リトライストーム」は、復旧しかけた依存先を再び沈めてしまう。
サーキットブレーカーで連鎖を断つ 失敗が続いたら一定時間呼び出しを止め、即座に代替動作へ切り替える。無駄な待ち時間を消し、依存先の回復も助ける、両得の仕組み。 全断ではなく「機能を落として生き残る」 primary/secondaryの切り替え、品質を落とした代替応答、「後ほどおかけ直しください」の導線。電話は無応答が最悪——何かしら返せる設計にする。 保守運用とSRE 第2回 30
02 — キャパシティとコスト クォータ・キャパシティ・コスト — 「上限」も障害原因になる 上限を一覧化して把握する 外部AIのレートリミット(RPM・同時実行数・トークン/分)は「知らないうちに踏む」障害の定番。契約とドキュメントを確認し、依存先ごとの一覧を持つ。 使用率を監視する 上限の50%・80%で段階アラート。ピーク時間帯(電話なら平日午前)の余裕を定点観測し、成長に対して手を打つ時間を確保する。
暴走へのガードレールを入れる リトライのバグや無限ループは一晩でコストを溶かす。呼び出し回数とコストに上限・キルスイッチを仕込む——第1回のコスト監視の「実装編」。 キャパシティは「先に」増やす クォータ引き上げはベンダー審査で数日〜数週間かかることがある。キャンペーンや大口導入が見えたら、前倒しで申請するところまでが運用。 保守運用とSRE 第2回 31
02 — 外部AIベンダー運用 外部AIベンダーと付き合う — 平時にやること / 障害時にやること 平時にやっておくこと 障害時にやること
• SLA・サポート窓口・エスカレーション経路を契約時に確認し、記録して おく • まず「自分か相手か」の切り分け——リージョン・別ベンダー・合成監 視で確認 • ステータスページと障害通知を購読し、自分たちの監視と突き合わせ る • ベンダー起因でも、顧客にとっては自社の障害。説明責任はこちらに ある • モデル更新・廃止アナウンスを追う担当を決める(定点質問セットと併 用) • サポートチケットは早めに起票し、影響規模・再現条件・時刻を添える • • secondary候補の評価(品質・コスト・切替手順)を平時に済ませておく 復旧後はベンダーのRCAを取り寄せ、自社のポストモーテムに組み込 む 原則 : ベンダー障害は「起きるもの」。関係構築と切替手段の準備は、平時にしかできない 保守運用とSRE 第2回 32
02 — ポストモーテム ポストモーテム — 障害を「組織の学び」に変換する文書 障害対応が終わったあとに書く「ふりかえり」の文書。 目的は犯人探しでも報告義務でもなく、同じ仕組みの失敗を二度と起こさないための投資。 タイムライン 検知から復旧まで、時刻つきで何が起き・誰が
何をしたか。障害中のチャットログが最良の材 料。 根本原因分析 直接原因の奥にある「なぜそれが起こり得た か」。技術要因と仕組みの要因の両方を掘る。 再発防止策 オーナーと期限つきのアクション。「気をつけ る」は対策ではない。仕組み・デフォルトに落と す。 この3つが課題②の必須項目。 (実務ではさらに影響サマリ・学んだことを加える ) 保守運用とSRE 第2回 33
02 — ポストモーテム 根本原因分析 — 「人のミス」で止めない 障害: 全顧客でAI応答が停止 なぜ →
設定ファイルの誤りをデプロイした なぜ → レビューで気づけなかった(差分が巨大だった) なぜ → 設定変更に検証環境もバリデーションもなかった ← ここまで掘ると対策が「仕組み」になる 「担当者の確認不足」で止めると、対策が精神論になる 人はミスをする前提でシステムを設計するのがSREの立場。ミスが本番に届いた経路こそが根本原因。 原因は 1つとは限らない 複数の防衛線が同時に破れたときに障害は起きる。「これが原因」と1つに決めず、破れた防衛線を全部挙げる。 保守運用とSRE 第2回 34
02 — ポストモーテム Blameless(非難しない )の本当の意味 非難しないのは「優しさ」ではなく、正確な情報を引き出すための仕組み。 人を責める組織では、次の障害から人は事実を隠す。隠された事実からは何も学べない。 非難する文化で起きること Blamelessを実践する書き方 •
報告が遅れる・事実がぼかされる • 個人名ではなく役割で書く(「担当者」「オンコール」) • 「誰がやったか」に議論が集中し、仕組みが直らない • 「なぜその判断が当時は合理的だったか」を書く • 同じ障害が、別の人によって再演される • 問いを「誰が」から「何がそれを可能にしたか」へ変える 参考 : Google SREブック 14章 (Blameless Postmortem Culture) 保守運用とSRE 第2回 35
02 — ポストモーテム 「振り返りが改善につながらない」典型パターンと処方箋 対策が精神論 アクションが多すぎる 「ダブルチェックを徹底」「注意する」 対策が 15個並び、結局どれもやらない 処方箋:
人の注意力に頼らない形へ。バリデーション、自動テスト、デフォルト を安全側に。 処方箋: 効果の大きい1〜3個に絞る。「やらないこと」を決めるのも立派な意 思決定。 オーナーと期限がない 書いて終わり 「チームで対応します」のまま風化 共有されず、次の障害で誰も読んでいない 処方箋: 全アクションに個人のオーナーと期限。既存のタスク管理に乗せて 追跡する。 処方箋: 全員が読める場所に置き、定例で読み合わせ。新メンバーのオン ボーディング教材にする。 合言葉: 再発防止策は「気をつける」で終わらせず、仕組み・デフォルトに落とす 保守運用とSRE 第2回 36
02 — ミニ演習 悪いポストモーテムを直そう (5分) ある日のポストモーテム (抜粋) 「9/12、RAG基盤で回答が返らなくなる障害が発生した。原因は、デプロイ時の設定ミス (担当Aさんの確認不足 )。再デプロイで復旧した。再発防止策として、今後はデプロイ時の
ダブルチェックを徹底し、より一層気をつけて作業する。」 問い: このポストモーテムの問題点を、できるだけ多く挙げてください ヒント: 今日の内容(必須3項目 / Blameless / 仕組み化)と照らし合わせる 保守運用とSRE 第2回 37
02 — ミニ演習 直すべきポイント タイムラインがない いつ検知し、いつ復旧したのか。影響時間と影響範囲(何件の顧客・どの機能)が分からず、重大さを評価できない。 根本原因が「人」で止まっている 確認不足はきっかけにすぎない。設定ミスが検証もバリデーションも通らず本番に届いた「経路」が根本原因。個人名の記載もBlamelessに反する。 対策が精神論で、仕組みになっていない 「ダブルチェック徹底」「気をつける」はいずれ破られる。設定のバリデーション自動化、検証環境での事前適用、ロールバック手順の整備などに落とす。
検知の改善観点がない どうやって気づいたのか(ユーザー報告? アラート?)。次はもっと早く気づくために、監視に何を足すかが書かれていない。 課題②では、まさにこの観点で採点します 保守運用とSRE 第2回 38
02 — ポストモーテム ポストモーテムを組織に定着させる — 書かれ続ける仕組み 書く基準を決める 鮮度を保つ 「大きい障害だけ」が曖昧で、結局書かれない 1ヶ月後に書かれ、記憶も熱も冷めている
こうする: SEV2以上は必須・それ未満は任意と明文化。ニアミスの投稿も歓 迎する。 こうする: 復旧から48時間以内にドラフト、1週間以内にレビュー会(30分)。 書き手を守る アクションを追う 当事者が一人で書き、査問のように扱われる 対策がドキュメントの中で眠ったまま風化 こうする: 当事者+ファシリテーターの共同執筆に。会は改善案を出す場と宣 言する。 こうする: 全アクションをタスク管理へ転記し、月次で完了率を確認。滞留した ら絞り直す。 定着の最大の敵は「重さ」。テンプレは 1ページ・会は 30分——軽く保つことが継続の条件 保守運用とSRE 第2回 39
02 — ポストモーテム 社外向けの障害説明 — 社内ポストモーテムをそのまま出さない 書くこと 書かないこと・注意 • 個人名・担当チーム名・ベンダーへの責任転嫁(信頼を失う書き方の
筆頭) • 影響: 誰に・何が・いつからいつまで——顧客の言葉で、最初に書く • 原因の要約: 技術詳細ではなく「何が起きたか」の平易な説明 • 確定していない原因の断定——あとから訂正するほうがずっと痛い • 再発防止: 実施済み / 実施予定を分けて、具体的に書く • 社内用語・内部システム名(伝わらない上に、情報漏えいの種になる) • 進行中なら「次の更新はいつか」を必ず示す(沈黙が一番信頼を削る) • 法務・広報のレビュー経路は平時に決めておく(障害の最中に揉めな い) 社内版は「学び」のため、社外版は「信頼」のため。目的が違う 2つの文書として書き分ける 保守運用とSRE 第2回 40
02 — まとめ ここまでのポイント 1 AI生成コードは「説明できる人がいる」ことをマージ条件に 小さく出してすぐ戻せる状態を保ち、説明できない既存コードは境界とテストで包んで管理する。 2 ポストモーテムは犯人探しではなく、組織の学びへの投資 タイムライン・根本原因・再発防止策。非難しないのは、正確な事実を引き出すための仕組み。
3 根本原因は「人」で止めず、対策は「仕組み」に落とす なぜを重ね、破れた防衛線を全部挙げる。アクションは絞って、オーナーと期限をつける。 保守運用とSRE 第2回 41
03 課題②の説明 模擬インシデントのポストモーテムを書く— 今日の演習の実践版 10 min 保守運用とSRE 第2回 42
03 — 課題② 課題② ポストモーテム作成 (目安 1.5時間) 題材 (講師が配布 )
書くのは必須 3項目に絞る • 模擬インシデントシナリオを配布します • 生成AI基盤での品質劣化+コスト超過を含む複合障害 • ① タイムライン整理 — シナリオのログから時系列を再構成する • 時系列のイベントログ・チャットログ形式で提供 • ② 根本原因分析 — 「なぜ」を重ね、破れた防衛線を挙げる • ③ 再発防止策 — 仕組みに落ちたアクション(オーナー・期限つ き) 提出物・期限 • テンプレートに沿ってポストモーテムを1本作成 • 提出期限: 9/30(課題①と同じ) 保守運用とSRE 第2回 影響サマリや学びの項目は任意。まず3項目の質を上げることに時間を 使ってください 43
03 — 課題② 評価観点 — この3つで見ます ① タイムラインの正確な再構成 シナリオ中の出来事を取捨選択し、時刻つきで正確に並べられているか。検知・エスカレーション・復旧の節目が押さえられているか。 ②
根本原因分析の深さ 表層(直接原因)で止まっていないか。「なぜそれが起こり得たか」まで掘り、複数の要因を挙げられているか。 ③ 再発防止策が仕組み化されているか 「気をつける」で終わっていないか。検知の改善を含み、実行可能なアクションに落ちているか。 保守運用とSRE 第2回 44
03 — 課題② 生成AIの使い方 — 課題②では特に注意 シナリオを丸ごと AIに分析させると、最初に提示された仮説に引きずられた表層的な分析になりがち (アンカリング )。
これは課題のルールであると同時に、実務でAI支援のインシデント対応を設計するときの本質的な論点です(今日のAIOpsの話) OK: 用語調査 / 自分の分析を書いた後のレビュー / テンプレ形式の確認 自分の根本原因分析を先に書き切ってから、「見落としている観点は?」と聞くのは良い使い方。 NG: シナリオを入力して分析・本文を書かせ、それを提出する 評価対象は「あなたの判断と言語化」。ここを委ねると課題の意味がなくなります。 利用した場合は成果物末尾に用途を 1行記載。利用自体は減点になりません 保守運用とSRE 第2回 45
質疑応答 全2回、お疲れさまでした。 この講義で持ち帰ってほしいこと • 信頼性はSLI/SLOという共通言語で定義し、 AIの品質・コストも観測できる形にする • サイレント障害に気づける仕掛けを持ち、障害対応とポストモーテムは型で回す • 少人数の運用は、持続可能性を最優先に「仕組み」で設計する
さらに学ぶ: 『SREの知識地図』4章以降 / 『Site Reliability Engineering』(O'Reilly 無料公開版) 保守運用とSRE 第2回 46
REFERENCES 参考文献 — さらに学ぶために 書籍 • 『SREの知識地図』(技術評論社) — 指定図書。今日の範囲は4章以 降
• 『Site Reliability Engineering』(O'Reilly) — 原典。14章=ポストモーテ ム、32章=PRR • 『システム運用アンチパターン』(O'Reilly Japan) — オンコールや非難 しない文化の実務書 • 『Release It!』 — タイムアウト・サーキットブレーカーなど耐性設計の 古典 オンライン (無料 ) • sre.google — SREブック/ワークブックの全文が無料公開(英語) • The Site Reliability Workbook — SLO運用とポストモーテムの実例 集 • PagerDuty Incident Response / Postmortem ガイド — 対応フローと テンプレの公開版 • 各社の公開ポストモーテム・ステータスページ — 「社外向け障害説 明」の生きた実例 迷ったら『 SREの知識地図』 → SREブックの該当章、の順にたどるのがおすすめです 保守運用とSRE 第2回 47