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情報学の基礎概念: メディア

情報学の基礎概念: メディア

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saireya

June 09, 2025
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  1. (再掲) 情報の伝達: Luhmannのモデル 1. 情報の選択: 送り手𝐴により生命情報(𝜀, 𝛽)が選択される 2. 表現の選択: 送り手𝐴により、

    生命情報から社会情報に符号化される (𝜀, 𝛽) ⟼ (𝑒𝐴 (𝛽), 𝛽) 3. 理解の選択: 受け手𝐵により、 機械情報から社会情報に復号される (𝑒𝐴 𝛽 , 𝜀) ⟼ (𝑒𝐴 (𝛽), 𝑑𝐵 (𝑒𝐴 𝛽 )) 4. 理解を受け容れるかどうかの選択 受け手𝐵により生命情報として取り込まれる 3 ※受け手𝐵が観測できるのは機械情報(送り手Aの内部にある社会情報は観測できない) ※恣意性があるため、𝑑𝐵 𝑒𝐴 𝛽 = 𝛽になるとは限らないことに注意 送り手と受け手の間に 何かが必要なのでは?
  2. メディアとコミュニケーション 送り手の伝えたいことが受け手に伝わることは、 「ありそうにない(unlikely)」こと 1. その場にいない相手とコミュニケーションが できることは、ありそうにない 遠く離れた場所にいる相手や、過去や未来にい る相手など、時間的・空間的に離れた相手とコ ミュニケーションすることは、本来ありえないこと 2.

    相手に自分の主張が受け入れられることは、 ありそうにない 相手に自分の主張が伝わったとしても、自分と相 手は別の人間であるので、相手が自分に理解を 示してくれることは、本来ありえないこと 4 (参考) N.Luhmann(1993)『社会システム理論 上』(佐藤訳) p.248-250 N.Luhmann(2020)『社会システム 上: 或る普遍的理論の要綱』(馬場訳) p.214-215
  3. メディアとコミュニケーション 送り手の伝えたいことが受け手に伝わることは、 「ありそうにない(unlikely)」こと 1. その場にいない相手とコミュニケーションが できることは、ありそうにない 遠く離れた場所にいる相手や、過去や未来にい る相手など、時間的・空間的に離れた相手とコ ミュニケーションすることは、本来ありえないこと 2.

    相手に自分の主張が受け入れられることは、 ありそうにない 相手に自分の主張が伝わったとしても、自分と相 手は別の人間であるので、相手が自分に理解を 示してくれることは、本来ありえないこと 5 媒介するものが必要 機械情報の媒介が必要 社会情報の媒介が必要 (参考) N.Luhmann(1993)『社会システム理論 上』(佐藤訳) p.248-250 N.Luhmann(2020)『社会システム 上: 或る普遍的理論の要綱』(馬場訳) p.214-215
  4. メディア(media) コミュニケーションにおいて情報を媒介するもの • 「medium(中間)」の複数形がmedia • 「2つのもの(送り手と受け手)の間に入るもの」 • 「起こりそうにないコミュニケーションを起こりそう なコミュニケーションに変換することに関与するメ カニズム」(Luhmann)

    • 抽象的に捉えれば、メディアは 送り手と受け手で「共有」している情報のこと • つまり、情報全体の集合のうち、 送り手と受け手で共有する共通部分の集合 6 (参考) N.Luhmann(1993)『社会システム理論 上』(佐藤訳) p.230-232, 248-252 N.Luhmann(2020)『社会システム 上: 或る普遍的理論の要綱』(馬場訳) p.214-219
  5. 伝播メディア: 機械情報を媒介 機械情報を物理的に媒介するメディア • 例: • 空気・電波・光・音・狼煙・ポケベル・J-Alert • 粘土板・石板・木簡・紙・書籍・文章・詩・電子書籍 •

    壁画・絵画・イラスト・絵巻・漫画・写真 • レコード・カセットテープ・ビデオテープ・フロッピーディ スク・光ディスク(CD・DVDなど)・HDD・microSD • 新聞・雑誌・郵便・蓄音機・ラジオ・電信(電報)・電話・ FAX・無線・有線放送・テレビ・映画・アニメ • インターネット・掲示板(BBS)・ブログ・電子メール・ メーリングリスト・ソーシャルメディア(SNS) • 琵琶法師・活動弁士・落語・浪曲・オーディオブック • 映画館・ライブハウス・劇場・博物館・美術館・図書館 8 ※ここでは「紙と書籍と文章のどれがメディアなのか?」という細部の議論には立ち入らないことにする。
  6. 伝播メディア: 狼煙(のろし) 狼の糞を燃やし煙を出す • 煙を出す・出さないの 1bitのデータを伝達 • 日本では、武田氏が 甲 信

    地 方 に 築 い た ネットワークが有名 • 武田氏は12色の煙を 使い分けていたともい われる (何bit相当?) • 現在も甲信地方では 狼煙をリレーするイベ ントが行われている 10 (参考) 城びと(2021)「時を越えてとどけ 武田信玄生誕500年記念 『第14回武田信玄狼煙リレー』アンバサダー体験レポート」https://shirobito.jp/article/1460
  7. 伝播メディア: 石碑 (岩手・宮古市姉吉) 髙 き 住 居 は 児 孫

    は 和 楽 想 へ 惨 禍 の 大 津 浪 此 処 よ り 下 に 家 を 建 て る な 明 治 廿 九 年 に も 昭 和 八 年 も 津 浪 は 此 処 ま で 来 て 部 落 は 全 滅 し 生 存 者 僅 か に 前 は 二 人 後 に 四 人 の み 幾 年 經 る と も 要 心 あ れ 11 (参考) 宮古市「昭和三陸地震津波、チリ地震津波: 重茂姉吉地区の教訓「ここより下に家を建てるな」」 https://miyako-archive.irides.tohoku.ac.jp/tatakai/showasanriku/4/
  8. 成果メディア: 社会情報を媒介 社会情報を論理的に媒介するメディア • 「成果」は、その存在によってコミュニケーションが 円滑に進むことで、相手が自分の主張を受け入 れやすくなり、コミュニケーションの成果が上がる、 ということを表している • 例:

    • 特定の組織・集団(社会システム)で通用するもの: 内輪ネタ、暗黙のルール、常識、組織文化、伝統など • 一般の人間社会(社会システム)で通用するもの: 真理、愛、貨幣、法、権力、宗教、芸術など • 「特定の組織・集団」よりも広い 「一般の人間社会(という組織・集団)」で通用する ものだとみなせば、同じ概念だと理解しやすいはず 14 (参考) N.Luhmann(1993)『社会システム理論 上』(佐藤訳) p.248-250 N.Luhmann(2020)『社会システム 上: 或る普遍的理論の要綱』(馬場訳) p.214-215
  9. 成果メディア: マリア像にドロップキックしない理由 • 「壊すことに何の利点も ないから」 • 「聖母マリアに対する思 慕があるから」 • 「壊すと大金を払って弁

    償させられるから」 • 「壊すと器物損壊罪に 問われるから」 • 「壊すと学校から厳しく 指導されるから」 • 「偶像を壊すなどもって のほかだから」 • 「優れた塑像作品を壊 してはならないから」 16 真理 愛 貨幣 法 権力 宗教 芸術
  10. メディアとコミュニケーション 送り手の伝えたいことが受け手に伝わることは、 「ありそうにない(unlikely)」こと 1. その場にいない相手とコミュニケーションが できることは、ありそうにない 遠く離れた場所にいる相手や、過去や未来にい る相手など、時間的・空間的に離れた相手とコ ミュニケーションすることは、本来ありえないこと 2.

    相手に自分の主張が受け入れられることは、 ありそうにない 相手に自分の主張が伝わったとしても、自分と相 手は別の人間であるので、相手が自分に理解を 示してくれることは、本来ありえないこと 18 媒介するものが必要 機械情報の媒介が必要 ⇒ 伝播メディア 社会情報の媒介が必要 ⇒ 成果メディア (参考) N.Luhmann(1993)『社会システム理論 上』(佐藤訳) p.248-250 N.Luhmann(2020)『社会システム 上: 或る普遍的理論の要綱』(馬場訳) p.214-215
  11. 受け手B 送り手A 情報の伝達: Luhmannのモデルと情報・メディア 20 (参考) 大西ら(2016)「コミュニケーション・情報・メディアの統合モデルに基づく教育実践」 http://www.scribd.com/doc/299911454 生命情報 (𝜀,

    𝛽) 生命情報 (𝜀, 𝑑𝐵 (𝑒𝐴 𝛽 )) 1. 情報の選択 2. 表現の選択 4. 理解の受容の選択 次の コミュニケーション 社会情報 (𝑒𝐴 (𝛽), 𝛽) 符号化(encode) 機械情報 (𝑒𝐴 (𝛽), 𝜀) 3. 理解の選択 社会情報 (𝑒𝐴 (𝛽), 𝑑𝐵 (𝑒𝐴 𝛽 )) 復号(decode) 前の コミュニケーション 伝播メディア 成果メディア ×
  12. メディアが個人に与える影響: 「It’s Media」 21 (出典) W.A.Henry III(1985)「The Dangers of Docudrama」TIME,

    1985-2-25号, https://magazineproject.org/TIMEvault/1985/1985-02-25/1985-02-25 page 79.jpg (イラストの作者はD.Suter) 「メディアが媒介できる のは現実のうちの一部」 ということを示すイラスト
  13. メディアが個人に与える影響: 現実イメージ メディアの媒介により、人の心のなかに「自らが生き ている世界の現実とはこのようなものである」という、 現実に対するイメージ(現実イメージ)が構築される • そもそもメディアは、さまざまな制約から、 現実のすべてをそのまま媒介することはできない (たとえば放送時間・画角・媒体の伝達能力など) •

    そのため、メディアの媒介で人が受け取るものも、 あくまでも「現実に対するイメージ」であり、 「現実そのもの」ではないことに注意 (現実イメージ ≠ 現実) • すべてを表現できないからこそ、どのような表現に するか精選してデザイン(符号化)することが必要 22 (参考) 西垣(2004)『基礎情報学』(NTT出版) ISBN:4757101201
  14. 参考文献 • 大西「情報学基礎 補助資料」第5章 https://info-programming.github.io/ informatics/ • 西垣(2004)『基礎情報学』(NTT出版) ISBN:4757101201 ※絶版

    • 西垣(2012)『生命と機械をつなぐ知――基礎情報学入 門』(高陵社書店) ISBN:4771109958 ※2022年に藝術学舎より再販 • C.Borch(2014)『ニクラス・ルーマン入門―社会システ ム理論とは何か』(新泉社) 庄司訳 ISBN:4787714066 https://www.shinsensha.com/books/509/ • T.Standage(2024)『ヴィクトリア朝時代のインターネッ ト』(早川書房) 服部訳, ISBN:4150506094 26
  15. 参考文献: 伝播メディアに関する博物館 • 印刷博物館 https://www.printing-museum.org • NISSHA印刷歴史館 https://www.nissha-foundation.org • ニュースパーク

    https://newspark.jp • 郵政博物館 https://www.postalmuseum.jp • NHK放送博物館 https://www.nhk.or.jp/museum/ • 金沢蓄音機館 https://www.kanazawa-museum.jp/ chikuonki/ • アドミュージアム東京 https://www.admt.jp • ゼンリンミュージアム https://www.zenrin.co.jp/museum/ 27 (画像素材の出典) acspike「male user icon」https://openclipart.org/detail/4749 dagobert83「female user icon」https://openclipart.org/detail/1646 みふねたかし「いらすとや」https://www.irasutoya.com