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情報学の基礎(第1回): 情報・表現・内容

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情報学の基礎(第1回): 情報・表現・内容

下記のスライドの内容を精選し、学習活動を追加したスライドです。
「情報学の基礎概念: 記号」https://speakerdeck.com/saireya/01-sign
「情報学の基礎概念: 情報」https://speakerdeck.com/saireya/02-info

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saireya

March 07, 2026
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Transcript

  1. 科学的な理論の構築 科学的に理論を構築する前提として、 まず無定義語と公理を用意する • 無定義語: 定義なしに使う用語 • 公理: 証明なしに使う命題 無定義語と公理を組み合わせ、

    さまざまな用語を定義したり、 さまざまな定理を証明したりする 4 定理 定義語 無定義語 公理 (参考) B.Pascal「幾何学的精神について」(1728, 1844) (『メナール版パスカル全集 第1巻』(1993, 白水社)所収, p.394-400, 417-422)
  2. 表現と内容: 直感的な説明 「表現」と「内容」は無定義語として扱う • 直感的な説明としては、次のようなイメージ • 表現(expression): 多くの生命が直接に知覚(perceive)できるもの • 内容(content):

    多くの生命が直接に知覚(perceive)できないもの • 補足 • 「生命」は「人間以外も含む一般の生物」のこと • 「直接に」は「測定機器などを通さずに」ということ • 「知覚できる」は「五感で感知できる」のこと • 「五感」は「視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚」のこと (生物種や個体により使用できる五感には差があるが、 深入りしない。主に視覚・聴覚・触覚を想定) 6
  3. Work: この絵は何でしょう? (表現と内容) 9 (出典) Jastrow(1899)「The mind’s eye.」Popular Science Monthly

    Vol. 54. Blätter(1892)「RABBIT AND DUCK」Harper's Weekly, Vol 36, Issue 1874, p.1114.
  4. 記号 記号(sign): 表現と内容の組(対応関係) • 「[表現]は[内容]を意味(mean)する」という • 例: (ネコ, )という記号では、 「ネコ」という文字は「

    」という意味 12 表現 内容 「ネコ」 「イヌ」 (参考) Hjelmslev『言語理論序説』ゆまに書房(1998), p.32-37 (林訳)
  5. 恣意性 恣意性: 表現と内容の対応関係には、必然性はない • 記号においては、ある表現とある内容が1:1に 対応付けられるわけではない • 辞書や単語帳に書かれるような、 「”word”の意味は”単語”」というような、 表現と内容が単純に対応する関係はない

    (表現と内容の対応は、客観的には決まらない) • 表現と内容の対応関係は、客観的に決まるわけ ではなく、そのときの場面や話の文脈、心理状態 などにも影響される、主体の主観が反映される 13 (参考) Ferdinand de Saussure『一般言語学講義』研究社(2016) (町田訳) p.102-104
  6. 恣意性: 具体例 • ある表現をどんな内容だと解釈するかは、 解釈する主体である生命の主観による • 例: 京都の飲食店での「ぶぶ漬けでもどうどすか?」 は、京言葉を知っている人は「そろそろ退店してほし い」という内容だと解釈するが、京言葉を知らない人

    は「お茶漬けを注文するかどうか」を考えてしまう • ある内容にどんな表現を使うかは、 表現する主体である生命の主観による • 例1: という内容を「ネコ」という表現にするのも 「にゃんこ」という表現にするのも、表現する人の自由 • 例2: 「 の鳴き方」という内容を伝えるために、 日本人は「コケコッコー」という表現を使うが、 欧米人は「cock-a-doodle-doo」という表現を使う 14
  7. 情報の定義: 「記号」と「情報」の違い 「記号」といえないものが「情報」とされることがある • 「内容」がない「表現」だけのもの: 数値・ビット列などの「データ(data)」 • 「表現」がない「内容」だけのもの: 生命の内部にある信号・記憶など •

    これらは、記号学では「記号」とみなされない • 「表現のない内容はなく、内容のない表現はない」 (Hjelmslev『言語理論序説』p.36) ⇒ これらも含められるように、「記号」の概念を拡張 15 (参考) 大西「コミュニケーション/メディア概念と関連付けた情報概念の形式化」(2017) https://www.scribd.com/doc/385336249
  8. 情報の定義に向けて: 「information」 • 「information」は動詞「inform」の名詞形 • 「inform」 = in + form

    • 「in」: 「対象(生命)の内側に」 • 「form」: 「~を形成する・形作る」 (「ピッチングフォーム」などの名詞formの動詞) • 「inform」は「生命の内側に何かを形成する」 • 名詞形の「information」は、 「生命の内側に何かを形成する何か」 • 1つ目の「何か」: 生命の内側に形成されるもの(内容) • 2つ目の「何か」: 生命の内側に形成させるもの(表現) ⇒ 情報は「内容と表現の組」(記号)とみなせる 17 (参考) 西垣『基礎情報学――生命から社会へ』NTT出版(2004), p.24-30
  9. 情報の定義: 「記号」概念の拡張 情報(information): 表現𝜶と内容𝜷の組(𝜶, 𝜷) • ただし、𝜶または𝜷の一方は空列𝜺でもよいとする • 空列𝜺は「何もない」ことを表す (言語理論やオートマトンの分野で用いる記号)

    ※「表現と内容のどちらを1つ目の成分と定義する か」には、理論上の意味はない 18 (参考) 大西「コミュニケーション/メディア概念と関連付けた情報概念の形式化」(2017) https://www.scribd.com/doc/385336249
  10. 情報の分類: 生命情報・社会情報・機械情報 定義から、情報には3種類のものがあることが分かる 情報 = 生命情報 ∪ 社会情報 ∪ 機械情報

    19 (参考) 大西「コミュニケーション/メディア概念と関連付けた情報概念の形式化」(2018) https://www.scribd.com/doc/385336249
  11. Work: 情報の分類 次のものを、生命情報・社会情報・機械情報に分類 してみましょう (分類の理由も考えましょう) 1. 日本語 2. 恋愛感情 3.

    カメラで撮った画像データ 4. 喜び 5. マイクが拾った音の波形 6. 化学式 7. 怒り 8. ジェスチャー 9. 温度センサーが記録した数値 20
  12. 情報の分類: 生命情報 生命情報: 組(𝜺, 𝜷) (𝜷: 内容) • 内容𝜷のみで、内容に対応する表現がない情報 •

    生命情報の存在により生命が思考・判断を行う ことが可能になるため、生命活動が成り立つ • 内容の大きさ(価値)は客観的な測定が困難 22
  13. 情報の分類: 生命情報が関係する現象の例 • 福祉・医療分野における「もやもや(する)」: • 言語化できない思考が心の中に滞留している状態 • 精神的な「しんどさ」の原因になる • 言語学における「double

    limited」: • 「この言語なら自分の思いを表現できる」といえる 言語を十分に習得できていない状態 • BilingualやMultilingual(多言語話者)で起こりや すい 23
  14. 情報の分類: 社会情報 社会情報(記号): 組(𝜶, 𝜷) (𝜶: 表現, 𝜷: 内容) •

    表現𝜶と内容𝜷が対応している情報 • 社会情報の存在により生命間でのコミュニケー ションが可能になるため、社会が成り立つ 24
  15. 情報の分類: 社会情報の例 • 言語(language): 単語と概念の対応 • 日本語 = {(ネコ, ),

    (音, ♪), (家, ), …} • 英語 = {(cat, ), (sound, ♪), …} • 非音声言語(点字・手話・指文字) • 「やさしい日本語」「plain English」 • 口笛言語・トーキングドラム • ジェスチャー・アイコン • 鳴き声・マーキング 25 ※恣意性があるため、実際は表現と内容は1:1に対応しないが、ここでは単純化して対応例を示した
  16. 情報の分類: 社会情報の例 • 記数法: 数字と数の対応 • 2進法 = {(1, •

    ), (10, •• ), (11, ••• ), …} • 10進法 = {(1, • ), (10, •••••••••• ), …} • 符号(code): • モールス符号 = {(・・・, S), (---, O), …} 「・・・ --- ・・・」は遭難信号(SOS) • 文字コード・手旗信号・ピクトグラム(pictogram) • 楽譜・カラーコード・バーコード • 文字・符牒(符丁)・隠語 • 暗号・誤り訂正符号・Huffman符号・難読化法 • お札の突起・点字ブロック • 図(UML)・プログラミング言語 • 化学式・数式 27
  17. 情報の分類: 社会情報の例 • 視覚障害者誘導用ブロック(点字ブロック): ブロックの形状と方向指示・注意喚起の対応 • ISO 23599, JIS T9251で規格化

    • 1965年に考案され、1967年に岡山市に初設置 28 (参考) 日本視覚障害者団体連合「点字ブロックについて」(2024/12時点) http://nichimou.org/impaired-vision/barrier-free/induction-block/
  18. 情報の分類: 機械情報 機械情報(データ): 組(𝜶, 𝜺) (𝜶: 表現) • 表現𝜶のみで、表現に対応する内容がない情報 •

    機械情報の存在により機械で処理することが可 能になるため、情報システムを構築できる • 内容の部分がないので、生命の外にも存在可能 • 内容の部分がないので、量を測定できる • 2進法の1桁分に相当するbitと、 1B=8bitで定義されるByte(バイト, 単位:B) 29
  19. 情報の伝達: そもそも可能であるのか? • 「情報を伝える」ということ: ×: 「表現(データ・機械情報)を」伝える ◦: 「表現だけでなく内容も」伝える • 「内容を伝える」ことは可能なのか?

    • 生命情報・社会情報(=内容)は、 それぞれの生命の内部にしか存在しない • 「情報が伝わっている」というのは、 あくまで送り手と受け手の「思い込み」に過ぎない • では、コミュニケーションはどのようになされるか? そして、社会はどのように成立しているのか? 30