[speaker notes]
前回の話したように,デザインは流体の流れを実装することです.
この実装とは,(建築的,静的な)アーキテクチャのなかに通り道を計画することです.
ものづくりにはおおまかに創案,設計,実装のステージがあります.
それぞれ非常に複雑で,性質の異なる仕事であり,なおかつその境界は密接に混ざり合っています.
そしてそれぞれが二重振り子の節の様に振舞い,最終的なプロダクトの座標がChaoticに決定されます.
これらの性質の異なる仕事を融合させることの難しさを示すのが二重振り子のアナロジーです.
デザインを中心にコンセプトとエンジニアリングとの越境について話します.
二重振り子の前に,(前回少し話した)デザインと(或る種我々の専門である)エンジニアリング以外のプロセス,つまりコンセプトについて少し解説します.
takramさん曰く,初期にコンセプトを固定してしまうことで実際のプロダクトとの間に齟齬が生まれるケースや,プロダクトの可能性がコンセプトの制約を受けてしまうことがあります.
このような時,デザイン・イノベーションの振り子の考え方が役に立ちます.
まず最初に,物事を扱う時なによりも最初に必要なのは文脈を捉えることです.
とはいえ文脈は,それ自体あまりに膨大でとりとめがないため,フィルターを掛けてからイシューに分解します.
例えば対象ドメインのユーザーの動きや周辺環境に着目します.
これに関しては後でもう一度話します.
抽出した複数のイシューの中から相関性や相似性を見付けだし,集約,抽象化します.
イシューがファクトの羅列であることに対して,
この作業は非常に属人的でアーティスティックなものです.
集約,抽象化によってイシューをコンセプトに落し込みます.
先に述べたように,実際のプロダクトとの間に齟齬が生まれるケースや,プロダクトの可能性を初期に決定したコンセプトが制約してしまうことがあります.
そこで最初のコンセプトから設計/実装(デザイン・エンジニアリング)されたプロダクトによって創発され枝分れしたサブコンセプトを育てることで,コンセプトから伸びた枝葉とその中で最も重要な幹をプロダクトと合せてストーリーとして定義していきます.
ここまでの話は振り子でした.
次は二重振り子のアナロジーの登場です.
越境を繰替えす概念としての振り子とはまったく別のアナロジーです.
二重振り子はコントロールできないカオスを表しています.
コンセプト→デザイン→エンジニアリングを一直線に進もうとすると,それぞれの関節でおこる微妙な"誤差"によってコントロールを失ったままに最終的なプロダクトを決定することになります.
そこでそれぞれの境界で反復的に越境することが求められます.
一方で,それらを越境して行き来することでプロダクトとストーリーを育てることは容易ではありません.
まずコンセプトを抽出します.
先程伸べたように,イシューからコンセプトへの変換は集約,抽象化することです.
コンテクストは,狭義にはユーザーがそのサービスを利用する状態の全てです.
広義のコンテクストは世界の全てです.
生活のあらゆる場面でコンテクストを読み取り,イシューとして収集することも重要な仕事です.
多くの場合複数のコンセプトが創案されるので,
それらを取捨選択,場合によっては統合する必要があります.
コンセプトの選定における最終段階では,
他の手段やコンセプトの部品について代替,排除,組み合わせなどの新たな選択肢を模索します.
有名な手法として,SCAMPERと呼ばれるヒューリスティクスがあります.
次にコンセプトを実現するために,より詳細な仕様を詰めていきます.
デザインはコンセプトよりも具体的に考える分,実際の人間が使うことを考慮して設計する必要があります.
材料の選定は,ソフトウェアではライブラリの選定になるでしょうか.
あるいはロジの構築はIaaSの構築や(アドホックではない)商流の整理などでしょう.
この時デザインは人を傷付けない,ユーザーによって支配されるという原則が最も重要です.
詳しくは「悲劇的なデザイン」(ジョナサン・シャリアート (著), シンシア・サヴァール・ソシエ (著)を読んでみるのがいいと思います.
最後に,デザイン・エンジニアリングでコンセプトとプロダクトを互いに反映していくことで,
できる限りデザインの意図に即した製品を構築していきます.
つまり,プロトタイピングやアジャイルです.
ソフトウェアではとくに可用性の追求,応答速度の維持はコンセプトそのものによって実現不可能であることがありえます.
そのような場合,先に述べたようにストーリーウィーヴィング,つまりコンセプトからストーリーの枝葉を生やして行きます.
結論
全てはコンテクストを正しく認識するところから始まり,
コンセプトとデザイン・エンジニアリングを繋げるためにストーリーウィービングという手法があります.
またデザインを実装に落し込む中でさまざまな手戻りが発生するため,
イテレーションを回してデザインを実現する必要があります.
Extra
以上はプロダクトの設計に係るものです.
その先には量産のためのロジや配布のための営業が続き,
CSによってさらなる要望の吸い上げが行われます.