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やる気をエンジニアリングする

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 やる気をエンジニアリングする

やる気が出ない。それは「バグ(意志の弱さ)」ではなく「仕様(構造上の不一致)」である。
本スライドでは、やる気を「Want(やりたいか)」と「Can(やれるか)」の二軸で分解し、自己決定理論・自己効力感・フロー理論・ツァイガルニク効果といった心理学のエビデンスを用いて、やる気の構造を可視化します。
自分というオブジェクトと環境が持つステートが振る舞いにいかに影響するかを理解し、意図的にハックする方法を考えます。​​​​​​​​​​​​​​​​

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shoki-kitajima

February 26, 2026

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Transcript

  1. やる気は「バグ」ではなく「仕様」である CONVENTIONAL VIEW 精神論のバグ 「気合いが足りない」 「意志が弱い」 バグがあるなら直せばいい、という 構造を無視した精神論的アプローチ。 ENGINEERING VIEW

    システムの仕様 ステート(自分)と環境の不一致。 構造を理解し、外部ライブラリ(心理学)で ハックを試みるシステム論的アプローチ。 // Motivation is a system state if (state.mismatch(environment)) { return Motivation.ZERO; }
  2. やる気を分解する二つの軸: Want と Can AXIS 01 Want ( やりたい )

    Self-Determination Theory やるべきことと自分の欲求が 「同一化」できているか。 行動の源泉が自律的(自ら選択)か 統制的(強制)かという問い。 AXIS 02 Can ( やれる ) Self-E cacy 自分にできるという 「見込み」を持てているか。 その行動を遂行する能力があるという 脳の期待と確信。
  3. 用語解説:自己決定理論 (SDT) NEED 01 自律性 (Autonomy) 「自分が行動の主体である」という感覚。 他者からの強制ではなく、自らの意志で選 択しているという実感が、最も強力な動機 となる。

    NEED 02 有能感 (Competence) 「自分には能力があり、環境に影響を与え られる」という感覚。課題を達成し、スキ ルが向上している実感が必要。 NEED 03 関係性 (Relatedness) 「他者や組織とつながっている」という感 覚。自分の仕事が誰かの役に立ち、認めら れているという実感が自律性を支える。 内在化のスペクトラム:外発的動機(報酬‧命令)を、自分自身の価値観と結びつけ、内発的動機へと近づけていくプロセス。 EXTRINSIC ( 外発的 ) INTERNALIZATION ( 内在化 ) INTRINSIC ( 内発的 )
  4. 用語解説:自己効力感 (Self-E cacy) 特定の課題を遂行できるという「自信」。それを支える4 つの源泉: SOURCE 01 遂行行動の達成 最も強力な源泉。自分自身の過去の成功体験。「以前できたから、今 回もできる」という確信。

    SOURCE 02 代理経験 自分と似た他者が成功するのを見ること。「あの人にできるなら、自 分にもできるはずだ」という予測。 SOURCE 03 言語的説得 他者からの励ましや評価。「君ならできる」というポジティブなフィ ードバックが効力感を高める。 SOURCE 04 生理的‧情動的状態 心身のコンディション。リラックスした状態 や健 康な体調が、自信の 土台となる。
  5. やる気のマトリクス:現在地を知る Can: High ( 自己効力感・高 ) Can: Low ( 自己効力感・低

    ) フロー状態 手が勝手に動く。挑戦とスキルのバランスが最適化され た理想の状態。 不安‧焦燥 やりたいのに動けない。不確実性が高く、完了までの道 筋が見えない状態。 退屈‧消化試合 報酬のための作業。能力は足りているが、仕事に意味を 感じられない。 完全停止 バーンアウトのリスク。意味も感じられず、達成の見込 みもない危険域。 Want: High ( 自律性・高 ) Want: Low ( 統制的・高 )
  6. 用語解説:フロー理論 (Flow Theory) THE FLOW CHANNEL 挑戦の難易度と自分のスキルが均衡した時にのみ、深い没頭状 態(フロー)が生まれる。 CONDITIONS FOR

    FLOW 01. 明確な目標 何をすべきかが完全に把握されており、迷いがない状態。 02. 即座のフィードバック 自分の行動の結果がすぐ分かり、次のアクションを修正でき る。 03. 均衡の設計 難しすぎず、易しすぎない。常にスキルの限界を少し超える挑 戦。 CHALLENGE SKILL ANXIETY FLOW BOREDOM
  7. Case Study :なぜ別のタスクに「逃げて」しまうのか FLOW STATE スロークエリの修正 const self: SelfState =

    { ownership: true, meaning: 0.8, clarity: 0.9, uncertainty: 0.1 }; 自分で起案し、価値が明確で、すぐ終わる見通しがある。 Want/Can 共に高く、手が勝手に動く状態。 ANXIETY STATE 巨大な新規プロジェクト const self: SelfState = { ownership: false, meaning: 0.6, clarity: 0.2, uncertainty: 0.9 }; 降りてきた企画で、完了までの道筋が見えない。Want はあっ てもCan が低く、焦燥感で動けない状態。 人は無意識のうちに、自分のステートに合ったタスクを選択して「逃避」する。
  8. Want軸のハック:自己決定理論の活用 HACK 01 内在化 (Internalization) 外発的な動機(給料や命令)を、自分 自身の価値観と結びつけるプロセス。 「やらされている」を「自分の目的の ために利用する」へ再定義する。 HACK

    02 ownership フラグの注入 降りてきたタスクに「自分の改善案」 を一つ混ぜる。 心理的所有権を確立し、脳に「自分が 起点である」と認識させることで Wantを増幅させる。 自律性ボーナスを発生させる HACK 03 顔の具体化と meaning 抽象的な「会社への貢献」ではなく、 「この人が助かる」という具体的な顔 を想定する。 社会的欲求と承認欲求を刺激し、行動 の閾値を突破する。
  9. 用語解説:ツァイガルニク効果 THE MECHANISM 未完了の課題が 記憶に居座る仕組み 完了した課題よりも、中断されたり未完了だったりする課 題の方が、脳は強く記憶し続けるという現象。 未完了の状態は脳に「緊張(Tension) 」を生み、それを 解消しようとするエネルギーが再開を促す。

    PRACTICAL HACK あえて「キリの悪い」 ところで止める 脳に[UNFINISHED]タグを付けさせるハック。 キリの良いところで終えると、脳はそのタスクを 「アーカイブ」してしまい、翌日の再開コストが跳 ね上がる。 「1%の進捗」をわざと残すことで、脳が勝手に続きを考 え始め、スムーズな再突入を可能にする。
  10. Can軸のハック:自己効力感の設計 HACK 01 1%のコミット 0%と1%の心理的距離は最大。 あえてキリの悪いところで止め、ツァイガ ルニク効果で脳に「未完了」を記憶させ る。 if (progress

    === 0) { progress = 0.01; commit("WIP"); } HACK 02 タスクの極小化 不確実性の霧を晴らす。 難易度を現在のスキルまで引き下げ、完了 までの見通し(Clarity)を確保する。 const taskSize = 0.1; const clarity = 1.0; // E cacy up HACK 03 隙間リスト 15〜30分で終わるタスクを事前定義。 隙間時間の判断コストをゼロにし、実行プ ロセスを即座に起動する。 onGap(minutes) { const t = list. nd(m); if (t) execute(t); }
  11. 用語解説:マズローの欲求階層説 HIERARCHY OF NEEDS 05 自己実現欲求 04 承認欲求 03 社会的欲求

    02 安全欲求 01 生理的欲求 下位の欲求が満たされないと上位へは進めない。逆に、下位が 満たされていても上位(意味や貢献)が空っぽなら、やる気は出 ない。 MAPPING TO WANT AXIS エンジニアの「Want」は上位階層に強く依存する。 meaning ── 自己実現欲求 (仕事の意味・ビジョンの一致) ownership ── 承認・社会的欲求 (貢献の実感・チームへの所属) 「誰かの役に立つ(社会的‧承認) 」という具体的な手応えが、 エンジンの点火剤となる。
  12. ハッキング‧リファレンスまとめ HACK NAME AXIS MECHANISM ACTION Ownership注入 Want 心理的所有権‧自律性の確保 言われたタスクに自分の提案を一つ混ぜる

    顔の具体化 Want 社会的促進‧承認欲求の刺激 そのコードで助かる具体的な誰かを想定する 1%のコミット Can ツァイガルニク効果(未完了の記憶) キリの悪いところで止めて脳にタグを付ける 隙間リスト Can 選択コストの排除 15 分で終わるタスクをあらかじめリスト化 戦略的逃避 Can 自己効力感の回復 やる気が出る別のタスクで小さな成功を積む