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バイブコーディングの正体——AIエージェントはソフトウェア開発を変えるか?

 バイブコーディングの正体——AIエージェントはソフトウェア開発を変えるか?

MITテクノロジーレビュー[日本版]が開催するイベント「Emerging Technology Nite #33 バイブコーディングの正体——AIエージェントはソフトウェア開発を変えるか?」の登壇資料

- https://www.technologyreview.jp/s/364818/mittr-emerging-technology-nite-33/

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Shinichi Takayanagi

July 30, 2025
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  1. 2 ⾃⼰紹介 ⾼柳 慎⼀ BCG X プリンシパル 主な担当分野/役割 • ⽣成AIチームのコアメンバー

    得意な領域 • 機械学習、ソフトウェア/AI開発、数理モデリング 略歴 リクルート、LINE、Uzabase、等を経て2022年にBCGに⼊社。ソフトウェアエ ンジニアリングやデータサイエンティストとして15年以上のプロフェッショナル経験を 有する。消費者、マーケティング、官公庁など様々な業界でのAI活⽤を経験 過去の経歴 • 総合研究⼤学院⼤学複合科学研究科統計科学専攻博⼠課程修了 • 徳島⼤学デザイン型AI教育研究センター客員准教授 • 情報処理学会ビッグデータ研究グループ運営幹事 AI有識者としての活動 1. 日本経済新聞:韓国AI、米中の間隙突くアジア・中東展開 KTはタイ語モデル供給 2. 日経ビジネス:DeepSeekの驚異 中国製AIの実力を緊急解説 プロフィール
  2. 5 • 開発者がAIと⾃然⾔語で対話し、 コードを書かないソフトウェア開発⼿法 – キーボードにほぼ触らず⾳声⼊⼒ – AIが書いたものを全て受け⼊れる (”Accept All”

    always) – 変更差分は読まず、エラーはエラーメッセー ジをコピペでLLMにぶつける • 提唱者のAndrej Karpathy (アンドレイ・ カーパシー)⽒は「vibesに⾝を委ねコードの存 在さえ忘れる」と表現 ❶定義 ❷歴史 ❸実⽤性 ❹使い⽅ ❺今後 (出所)アンドレイ・カーパシー⽒のXより引⽤ https://x.com/karpathy/status/1886192184808149383 定義 源流 バイブコーディングの定義と源流
  3. 7 コーディングの主眼が、“どのように(How)” から“何を(What)”へと変化 従来のコーディングとバイブコーディングの違い バイブコーディング 従来のコーディング バイブコーディング "ユーザー認証システムを作って" ↓ AI:

    "認証システムを⽣成しました。" ↓ "セキュリティを強化して" ↓ AI: "2段階認証を追加しました。" 従来の開発 function authenticate(user, pwd) { if (validateInput(user, pwd)) { return checkDatabase(user, pwd); } return false; } 「何を(What)」 ⼈間は「何を」作りたいか考えるに集中 「どのように(How)」 ⼈間は「どのように」作るかを、 コンピュータが理解できる⾔語で指⽰ ❶定義 ❷歴史 ❸実⽤性 ❹使い⽅ ❺今後 (出所)ボストン コンサルティング グループ
  4. 8 「⾒て、話して、実⾏して、コピペするだけ」 ̶Andrej Karpathy⽒ ⼈間が⾳声やテキストで指⽰し、AIがコードを⽣成・実⾏して、結果を確認 バイブコーディングの典型的なワークフロー (AI)が⽣成 AIがコードを⾃動⽣成 し、実装の詳細を処理 指⽰する(話す)

    「PythonのStreamlitで ダッシュボードを作って」と ⾳声やテキストで指⽰ ⼈間/AIが実⾏ ⽣成されたコードを ⼈ヒト/AIが実⾏して結 果を確認 結果を⾒て繰り返す ❶定義 ❷歴史 ❸実⽤性 ❹使い⽅ ❺今後 (出所)ボストン コンサルティング グループ
  5. 9 ”Accept All”という考え⽅ Accept Allの定義 Accept Allのワークフロー AIの提案を無条件に受け⼊れ、全てを委ねる開発 • 開発者がAIの⽣成したコードをレビューし、

    完全に理解しているなら、それは単なるAI⽀援開発 • エラーが発⽣しても、そのメッセージを無⾔で次のプロンプ トとして貼り付け 「盲⽬的な信頼」が驚異的な開発スピードの源泉 従来の開発 エラー原因の分析 差分のレビュー コードの理解と検証 バイブコーディング エラーメッセージコピペ 差分を読まない 無条件の受け⼊れ AI がコードを⽣成 1 3 AI > ユーザー認証機能を⽣成 + 150 ⾏のコードが追加されました 開発者は無条件で受け⼊れ 2 開発者 > Accept All ボタンをクリック // コードの差分を読まずに全て受け⼊れ Error: Cannot read property 'user' of undefined 開発者 > // エラーメッセージをコピペ 開発者 > このエラーを修正して : Cannot read property ʻuserʼ of undefined エラーが発⽣した場合 ❶定義 ❷歴史 ❸実⽤性 ❹使い⽅ ❺今後 (出所)ボストン コンサルティング グループ
  6. 10 プロ開発者向けのAIネイティブエディタ。年間収益1億ドルを達成。マルチファ イル編集で個⼈開発者に⼈気 プロ向け マルチファイル AIネイティブ 個⼈開発者、プロフェッショナル Cursor ⾳声⼊⼒対応で⾮技術者でも使える。直感的なインターフェースで、プログラ ミング知識なしでアプリ開発が可能

    ⾳声⼊⼒ ⾮技術者向け 直感操作 ⾮エンジニア、ビジネスユーザー Lovable バイブコーディング可能なツールは⽤途・ニーズ(と宗教)に応じて選択 ツール⼀覧(例) Anthropic製のターミナル利⽤での“実⾏コマンド”を備える。 VS Code/JetBrains連携もGA済み プロ向け AIネイティブ 個⼈開発者、プロフェッショナル Claude Code ブラウザベースで初⼼者に優しく、75%のユーザーが⼿動でコードを書かない。 ⾃然⾔語からアプリを⽣成 ブラウザベース 初⼼者向け ⾃然⾔語⼊⼒ 初⼼者、学習者、プロトタイピング Replit プロ開発者向けのAIネイティブエディタ。年間収益1億ドルを達成。マルチファ イル編集で個⼈開発者に⼈気 UI特化 フロントエンド ⾼品質コンポーネント デザイナー、フロントエンド開発者 v0.dev (Vercel) VS Code筆頭にIDE統合/ブラウザでも利⽤可能。Copilot Voice(VS Code Speech 拡張)が⾳声でコーディングを補助 プロ向け AIネイティブ 個⼈開発者、プロフェッショナル GitHub Copilot Coding Agent ※紙⾯という限りある⼟地と資料更新タイミングの関係でDevin, Windsurf, Gemini CLIやAgentic IDE Kiroなどは割愛 (出所)ボストン コンサルティング グループ ❶定義 ❷歴史 ❸実⽤性 ❹使い⽅ ❺今後
  7. 11 従来の開発プロセスが「⽣成」と「検証」の2ステップにシンプル化され得る バイブコーディングにより簡素化された開発プロセス ウォーターフォールやアジャイルといった従来の開発プロセスには多くのステップと専⾨家の関与が必要 設計 実装 テスト デプロイ 要件定義 ⽣成(Generate)

    AIに⾃然⾔語で指⽰を出し、 コード⾃動⽣成・テスト・デプロイを実施(広義⽣成) 検証(Validate) ⽣成されたものが意図通りに 動作するか確認‧調整 従来の開発プロセス バイブコーディングにより簡素化された開発プロセス ❶定義 ❷歴史 ❸実⽤性 ❹使い⽅ ❺今後 (出所)ボストン コンサルティング グループ
  8. 12 バイブコーディングの可能性 ⾮技術者 による開発 ⽣産性の 向上 • 開発知識がなくても、アイデアさえあれば開発可能 • 企画担当者やデザイナーが⾃らモックアップを作成する

    等、職種の垣根を越えた開発が可能に • アイデアからリリースまでの時間を劇的に短縮 – ReplitのチュートリアルではAIとの対話だけで公園 の地図アプリをゼロから構築 – 定型的なコード(ユーザ認証、API Call等)の記 述、テストコード⽣成をAIに – エラーメッセージをそのままAIに渡して修正 • 開発者は付加価値の⾼い作業に集中 ❶定義 ❷歴史 ❸実⽤性 ❹使い⽅ ❺今後 (出所)ボストン コンサルティング グループ
  9. 15 AIコーディングは単なる補助から、開発プロセス⾃体の主導へと急速に進化 AIコーディングの進化〜バイブコーディングの発⽣〜 • エンジニアの補助・補完に特化 • コード補完、単純なバグ修正を⽀援 • ⾃律的に動作しない •

    より⾃律的に開発プロセスを主導 • コード⽣成/編集/実⾏/コミットなど全てを実⾏ • 曖昧な指⽰からでも⾃律的に動作 バイブコーディング 第1世代︓コーディングアシスタント (~2024年) 第2世代︓AIエージェント (2025年~) AIコーディング ❶定義 ❷歴史 ❸実⽤性 ❹使い⽅ ❺今後 (出所)ボストン コンサルティング グループ
  10. 16 第1世代では主権は⼈間にあり、AIはあくまでアシスタントとしての役割を担う 第1世代︓コーディングアシスタント 主な特徴 コードの⾃動補完︓開発者が数⽂字⼊⼒す るだけで、次に続くコードを予測提案 局所的な理解︓全体像や複雑な依存関係 を理解する能⼒に限界 限界と位置づけ バグの発⾒と修正提案︓⽂法エラーや論理的

    な誤りを発⾒し修正案を提⽰ ⾃律性の⽋如︓開発者の指⽰がなければ動 作せず、⼈間のアシスタントに留まる 定型コードの⽣成︓データベース接続や ファイル操作などの頻出コードを⾃動⽣成 IDEへの統合︓開発環境の拡張機能として 提供され、シームレスな開発体験 コードは ⼈間が承認 コーディング アシスタント エンジニア 主導者 指⽰ 提案 ❶定義 ❷歴史 ❸実⽤性 ❹使い⽅ ❺今後 (出所)ボストン コンサルティング グループ
  11. 17 第2世代では主権はAIエージェントにあり、 AIが開発プロセス全体を主導 第2世代︓AIエージェント • 開発者は「コードを書く⼈」から、 「AIエージェントの監督者」へと 役割が変わる • 結果、開発プロセスの主導権

    はAIエージェントへ ⾃律・⾃⼰修正的なタスク実⾏ • 「ユーザーログイン機能を実装して」といった曖昧な指⽰から、必要 なファイルの作成‧編集、テスト実⾏までを具体的に指⽰可能 • 情報検索、APIドキュメント読解など、リソースを⾃律的に活⽤ • 実⾏結果を観察し、エラーが出れば⾃らコードを修正 プロジェクト全体のコンテキスト理解 • 開いているファイルではなく、プロジェクト全体のコードを理解 • 複雑な依存関係やアーキテクチャを理解 開発プロセスへの統合 • GitHubのような開発プラットフォームと連携し、 Issueの起票からコード レビュー、マージまでを⾃動化 主な特徴 もたらされる変化 ❶定義 ❷歴史 ❸実⽤性 ❹使い⽅ ❺今後 (出所)ボストン コンサルティング グループ
  12. 18 AIエージェントとは、 ⽬標を持って、 ⾃律的に動作するAI AIエージェント の能⼒ 記憶⼒ 思考⼒ 実⾏⼒ タスクやステータスの

    変化を記憶し 続ける能⼒ LLM由来の ⾼度な推論能⼒ ⾃ら外部システムに アクセスできる能⼒ AIエージェント の動作 観察 計画 ⾏動 環境を観察し、 データを収集・処理 観察結果を評価し、 ⽬標に達するよう、 実⾏優先順位を計画 内/外部のツールや システムを活⽤した ⾏動を実施 ❶定義 ❷歴史 ❸実⽤性 ❹使い⽅ ❺今後 (出所)ボストン コンサルティング グループ
  13. 19 Copyright © 2017 by The Boston Consulting Group, Inc.

    All rights reserved. ⾃律的な “AIエージェント” は2025年のフォーカス OpenAI’s 5 levels of “super AI” (AGI to outperform human capability) (出所)出所: Jodie Cook「OpenAIの“スーパーAI”5段階」、Forbes(2024年7⽉16⽇) Conversational AI ⼈間と会話形式でやりとりすることが可能。たとえばカスタマーサービスのサポートやAIコーチ、 ⼈間と会話しながらコンテンツ作成を⽀援する Reasoning AI 「推論システム」と呼ばれるAIで、ツールを⼀切使わずに博⼠号レベルの教育を受けた⼈間 と同等の基本的な問題解決を⾏える Innovating AI 「イノベーター」と呼ばれるこのAIは、独⾃に⾰新を⽣み出すことが可能。単にプロセスを実 ⾏するだけでなく、改善のサイクルを実⾏する。ルールに従うのではなく、より良い成果を出し、 ⽬標をより効果的かつ効率的に達成する⽅法について批判的に考えることができる Organizational AI 「オーガニゼーション」と呼ばれるこのスーパーAIの最終段階では、⼈⼯知能が組織全体の 業務を遂⾏する能⼒を有する。組織で抱えているすべての⼈員や実⾏されているすべての 機能が、協⼒し合い、改善を重ね、⼈間が⾒えない状態で、エージェントが実⾏する AIエージェント (Autonomous AI) AIエージェントがユーザーに代わって数⽇間にわたり⾃律的に動作できる (例:⼈間が休暇 を取っている間に、エージェントがビジネスを代わりに実施するなど)。現時点では、⾃動化が 毎回確実に機能するわけではない 2023年 1 2024年 2 2025年 3 2028年 4 2030年 5 ❶定義 ❷歴史 ❸実⽤性 ❹使い⽅ ❺今後
  14. 20 第1世代と第2世代の⽐較 第1世代 第2世代 AIによるコード⽣成⽐率 25% 40%~95% 開発時間の短縮 50% ~90%

    (出所)グローバルテック企業要⼈の発⾔等を含むデスクトップ調査をもとにBCGが分析 (批判はあれど)METRが直近発表した研究『Measuring the Impact of Early-2025 AI on Experienced Open-Source Developer Productivity』も存在 ❶定義 ❷歴史 ❸実⽤性 ❹使い⽅ ❺今後
  15. 22 バイブコーディング”のみ”で⼤規模システム開発(新規 ・保守)を⾏うことは、 完全には現時点では無理だが、 部分的には可能だと考える • バイブコーディングの”定義”に従うと”ガチャみ”が強すぎる – ⾃然⾔語のみ、Accept All、エラーコピぺの”縛り”はきつい

    – うっかり⼤事なファイル/Code snippetを消す、などの粗相も – CLAUDE.mdなどで徹底的に”お作法”を叩きこんでも無理ではないか(私⾒) • セキュリティ、保守性まで意識するとさすがに“⼿”を⼊れたい/こちらの⽅が早い – ⾃然⾔語/⾳声認識だけでやるのは⾟い – 痒いところに⼿が届かない • ⼀⽅、「範囲を絞って部分的に適⽤」は⼗分可能と考える – 実際やっている・できている – 皆さすがに100%定義通りのバイブコーディングだけではないであろう(推定) – 具体的な範囲は関数/Class/Module単位の開発、テストを書きの指⽰、等 完全には 無理な理由 以降、バイブコーディングでの、”縛り”を⼀部解いた”AI駆動開発”として考える (前者を狭義バイブコーディング、後者を広義バイブコーディングとする) 部分的には 可能な理由 ❶定義 ❷歴史 ❸実⽤性 ❹使い⽅ ❺今後 (出所)ボストン コンサルティング グループ
  16. 24 (広義)バイブコーディングの実⽤性を⽰す成功事例は⼤⼿企業にも存在 企業 事例 • Claude Codeで開発期間が79%短縮(24営業⽇→5⽇) • 7時間連続の完全⾃動コーディングに成功(99.9%成功率) •

    1⼈の開発者が5タスクを並⾏処理できる環境を構築、結果、テスト⾃動 化・バグ修正、⾃動コードレビューなど開発ライフサイクルの効率が向上 ⼤⼿IT企業 国 内 海 外 • エンジニア数千名にAmazon Qを付与、4か⽉で10万⾏のコードを⽣成し、 開発作業が12%⾃動化 • 「ルーチン作業が減り、本来やるべき業務に集中できる」「同じ機能をより少な い⾏数で実装できコード品質も向上」との声 ⼤⼿通信企業 • Pull Request数が25%増、サイズが100%増 • デリバリーする出荷コード量が約 50 % 増加 ⼤⼿⼈材ビジネス企業 • Devinを活⽤し、エンジニアリング効率が8~12倍向上 • 作業コストも、エンジニアの作業と⽐べて20倍以上低減 • タスク完了速度も40 分 → 10 分と75%減 • プロジェクト期間: 数ヶ⽉〜数年かかる予定が数週間で完了 ⼤⼿フィンテック企業 ❶定義 ❷歴史 ❸実⽤性 ❹使い⽅ ❺今後 (出所)ボストン コンサルティング グループ
  17. 26 ⼀部、(有り得そうだとは思うが)やや強気過ぎる⾒⽴ても存在 ⽶外交問題評議会(CFR)でのAnthropic創業者アモデイ⽒の会での発⾔ (原⽂)I think weʼll be there in three

    to six months̶where AI is writing 90 percent of the code. And then in twelve months, we may be in a world where AI is essentially writing all of the code. • 3~6カ⽉後には、AIがCodeの90%を⽣成 • 1年後には、AIがほぼ全てのCodeを⽣成 (出所)「The Future of U.S. AI Leadership」Anthropic社CEO ダリオ・アモチE⽒発⾔(2025年3⽉、Council on Foreign Relations) ❶定義 ❷歴史 ❸実⽤性 ❹使い⽅ ❺今後
  18. 28 システム・AIエージェント起因の両軸で課題が存在 「⼤規模システム開発に(広義)バイブコーディングを適⽤したときの課題は何か︖」に対する仮説 • アーキテクチャ設計やシステム全体の⼀貫性を維持することが困難 • ⼤規模なリファクタリングやアーキテクチャ変更の実施が困難 (そもそもたまにすべてを壊して(rm -rf)くる・・・) •

    将来の拡張性を⾒据えた設計が不⼗分になりがち • プロジェクトが⼤規模になるほど、全体⽂脈理解が困難になる • セッション間での作業の継続性や状態管理の難しさ • 複雑なビジネスロジックや多数のシステム連携の実装が困難 • 複雑な既存コードとの整合性を保った新規コード⽣成の精度 % & ' ( AI • AI出⼒の「揺れ」に依存した品質のばらつきが発⽣ • 特に、性能・セキュリティ等の⾮機能要件が⾒逃されがち 開発 内容 全体設計の⼀貫性 ⽂脈理解の制限 複雑なCodeの理解 品質の不安定化 課題 ❶定義 ❷歴史 ❸実⽤性 ❹使い⽅ ❺今後 (出所)ボストン コンサルティング グループ
  19. 29 AI⽣成コードの25-70%には脆弱性がある1と⾔われ、最⼤のセキュリティリスク よくある脆弱性とコード例 APIキーやパスワードが直書き ハードコードされた認証情報 const apiKey = ”bcg_abcdef123456"; const

    dbPass = ”bcg123"; ユーザー⼊⼒がそのままHTMLに反映 XSS攻撃に対して無防備 document.getElementById('content').innerHTML = userInput; // ⼊⼒値のエスケープ処理なし ユーザー⼊⼒がサニタイズされていない SQLインジェクションの脆弱性 const query = `SELECT * FROM users WHERE username = '${username}'`; db.execute(query); 権限チェックが不⼗分/⽋如 不適切な認証・認可実装 function deleteRecord(id) { // 権限チェックなし database.delete(id); } 脆弱性 コード例 セキュリティ 1. (出所)デスクトップリサーチをもとにBCG作成 ❶定義 ❷歴史 ❸実⽤性 ❹使い⽅ ❺今後
  20. 30 セキュリティガバナンスの⾒直しも視野に、技術・⼈間の両⾯でセキュリティを担保 「AIが⽣成するコードのセキュリティをどう担保するか︖」に対する仮説 ⼈ 間 技 術 • 静的/動的アプリケーションセキュリティテスト(SAST/DAST) を開発プロセスに組み込む

    • ⽣成AIについていは、AIガードレール機能を組込み • 影響範囲 (Blast radius) 可視化ツールを導⼊し、影響範囲を明確化 セキュリティツールの活⽤ ⼈間によるレビューの徹底 • AIが⽣成したコードは、No Review Mergeしないで、⼈間のPRレビュー・承認を経てからマージ • AIが⽣成したコードであっても、最終的な責任は⼈間が負う AIに付与する権限を絞る • 基本的な考え⽅は最⼩権限の原則(PoLP / Principle of Least Privilege) • 動作チェックは、(当然)本番環境のデータベースやインフラではなく、Sandbox環境で実施 • 利⽤可能なツール制限、ネットワーク分離の実施 セキュリティ ❶定義 ❷歴史 ❸実⽤性 ❹使い⽅ ❺今後 (出所)ボストン コンサルティング グループ
  21. 31 保守性の問題 • 監視しないと構造が複雑で⼀貫性のないコードがプロダクションに⼊り得る – 短期的には動作するものの、将来の拡張性を著しく損なうコード – 中⻑期的な視点でみると改修コストを増⼤させるコード • 特に⻑期運⽤を前提とした⼤規模システムで、技術的負債増が深刻化

    技術的負債の蓄積 • 全体の20%の「AIにはできない⾯倒なタスク」に80%の時間がかかる – 実運⽤に耐えうるパフォーマンス・負荷対策の調整 – 既存システムとの連携・依存関係の解決 – 考慮していない例外的なケース(エッジケース)への対応 – AIが⽣成した複雑なコードのデバッグ対応 • 結果、コーディング⾃体の⽣産性向上が、後の保守コストで相殺され得る (AI駆動開発版) パレートの法則 保守性 課題 内容 ❶定義 ❷歴史 ❸実⽤性 ❹使い⽅ ❺今後 (出所)ボストン コンサルティング グループ
  22. 32 主に⼈間が頑張ろう 「AIが⽣成するコードの保守性をどう担保するか︖」に対する仮説 ⼈ 間 AI 保守性 • LLM でコードコメントと

    API ドキュメントを⽣成し、コード変更時に再⽣成するパイプラインでドキュメントと 実装の乖離を防ぐ ⾃動ドキュメント⽣成と同期 ⼈間によるレビューの徹底 • AIが⽣成したコードは、No Review Mergeしないで、⼈間のPRレビュー・承認を経てからマージ • AIが⽣成したコードであっても、最終的な責任は⼈間が負う – Q◯◯◯aやZ◯◯nからインスパイアされたCodeへの責任は当然エンジニアが持つ 保守性が⾼いCodeになるように設定を⾏う • CLAUDE.md/GEMINI.mdのような設定ファイルで”しつけ”を⾏う • pre-commitで単体テスト, Formatterが⾛るようにし、AIエージェントに“気づかせる” ❶定義 ❷歴史 ❸実⽤性 ❹使い⽅ ❺今後 (出所)ボストン コンサルティング グループ
  23. 35 完璧さより速度が重要or低リスクな領域が(狭義)バイブコーディングの得意領域 (狭義)バイブコーディングが向いている領域 • アイデアから動くデモまで数時間で実現 • ビジネスコンセプトを素早く実装し、フィードバックを得る • 品質より、アイデアの検証速度が重要な局⾯に最適 プロトタイピング

    概念実証(PoC) • 技術的な実現可能性を詳細な設計や最適化なしに 迅速に検証 MVP構築 社内ツールの開発 • 市場反応を素早くテストするための最⼩限の製品開発 • 完全な製品ではなく、核となる機能だけを実装し、ユー ザーからのフィードバックを早期に集める • セキュリティリスクが限定的な内部向けツールの開発 • データ変換、レポート⽣成、簡易分析ツールなど、企業 内部で使⽤する補助的なアプリケーション開発 速 度 重 視 低 0 & 1 領域 内容 ❶定義 ❷歴史 ❸実⽤性 ❹使い⽅ ❺今後 (出所)ボストン コンサルティング グループ
  24. 36 速度重視な低コスト開発により、ビジネスリスクを低減しながらイノベーション促進 (狭義)バイブコーディングの具体的な事例 スタートアップ • Y Combinator2025年冬期採択企業(⼀部)は85%以上CodeをAIで⽣成 • 新サービスのMVPを数⽇で開発し、投資家向けデモや初期ユーザ獲得を実施 ⼤企業の

    新規事業 • 複数の事業アイデアを並⾏でプロトタイプ化、社内評価や顧客インタビューで検証 • まず社内ツール開発やPoCから導⼊を進め、うまくいった場合にスピンアウトを検討 個⼈‧⼩規 模開発 • 個⼈が週末や空き時間を使って複雑な機能を持つツールを開発 • 専⾨知識がなくても、⾃らのアイデアを形にできる 活⽤シーン 具体的な事例 ❶定義 ❷歴史 ❸実⽤性 ❹使い⽅ ❺今後 (出所)ボストン コンサルティング グループ
  25. 37 ⼀⽅、PoC/MVP/プロトタイプと、プロダクション(製品) の差は⼤きい PoC/MVP/プロトタイプ プロダクション(製品) ⼤きな差 • ⼀時的な利⽤が前提 • スピード重視

    • ドキュメント・エラー処理・監視等はなし • ⻑期の運⽤が前提 • 品質重視 (セキュリティ、保守性、拡張性、等) • ドキュメント・エラー処理・監視等もあり ❶定義 ❷歴史 ❸実⽤性 ❹使い⽅ ❺今後 コードの (出所)ボストン コンサルティング グループ
  26. 38 (広義)バイブコーディングでは、⼈間とのコラボは必須 (広義)バイブコーディングにおいて⼈間がやるべきこと • AIが⽣成したコードは、No Review Mergeしないで、 ⼈間のPRレビュー・承認を経てからマージ コードレビュー テスト駆動開発

    (TDDの実践) ガイドライン策定 • AIのコード動作を担保する、機能要件を満たすテストを書く(⼈間/AI) • AIが⽣成したコードが意図した通りに動作することを保証する • 組織でバイブコーディング適⽤可能な範囲(例: プロトタイプ、内部ツー ル)と、不可能な範囲(例: 基幹システム、決済機能)を明確化 • 上記も含め、”コーディングお作法”まで記載したAIのふるまいを ファイル(CLAUDE.md/GEMINI.mdなど)で指定 ⼈間がやるべきこと 内容 ❶定義 ❷歴史 ❸実⽤性 ❹使い⽅ ❺今後 (出所)ボストン コンサルティング グループ
  27. 39 テスト駆動バイブコーディング(TDD?TDVC?)で品質を担保していくことが、 現時点での保守性のプラクティスの可能性 テスト駆動バイブコーディングのプロセス 1. テスト作成 (AI/⼈間どちらでも) 2. 指⽰ 「このテストをパスす

    る関数を作って」 3. コード⽣成 テスト仕様を満たす コードを⽣成させる 4. ⾃動検証 テストが品質を ⾃動的に担保 ❶定義 ❷歴史 ❸実⽤性 ❹使い⽅ ❺今後 テストが”仕様”として機能し、AIの理解を助け、品質を客観的かつ⾃動的に検証でき、 コードの意図と期待動作が明確化され、結果、AIの創造性を活かしつつ品質担保できる (出所)ボストン コンサルティング グループ
  28. 42 IT産業においては、開発・ビジネスの両⾯が⼤きく変化する可能性 IT産業における変化(仮説) • SDLC(ソフトウェア開発ライフサイクル)が簡素化 • 「⽣成(Generate)」と「検証(Validate)」の2ステップへ • ⼈間の役割が「コードを書く⼈」から「監督者」へシフト •

    テストと品質保証の重要性がより⾼まる • 個々の顧客ニーズに合わせたソフトウェアを低コストで開発に勝機 – カスタマイゼーションが標準化を超える、⽇本のチャンス︖ • 開発コストの⼤幅な削減の結果、ビジネスアイディアがより重要に – 今まで投資余⼒のなかった中⼩企業でもシステム開発が可能に – 上記を踏まえ、どうやるか︖ではなく何をやるか︖がより重要に • サブスクリプション型からオンデマンド型へ – AIが瞬時にカスタムソリューションを⽣成 – 必要な時だけ機能を⽣成・利⽤する新しいビジネスモデルが登場(?) ビジネスモデル 開発プロセス 変化 内容 (出所)ボストン コンサルティング グループ
  29. 43 組織においては、チーム構成やその中にいる⼈材が⼤きく影響を受ける可能性 組織における変化(仮説) ⼈材戦略 • 既存⼈材のAIリテラシー向上が競争⼒の源泉となる • 数よりも質、AIリテラシーを重視した採⽤へ • AIを最⼤限活⽤できる⼈材の育成・組織編成が最優先事項に

    • 3⼈のチームが30⼈分の成果を出す10xチーム”が現実に – エンジニアだけではなく、全ての職種において10x • シニアエンジニア:ジュニアエンジニア⽐率が1:2から2:1に逆転 – 実装作業はAIが代替 – アーキテクチャ設計・レビューなど判断が必要な業務の⽐重が増加 • PdM︓エンジニア⽐率が、現在の1:6から1:3に変化 – 過激派は1:0.5を予測(Andrew Ng) – より多く企画・検証が可能になるため、PdM需要が相対的に増加 チーム構成 変化 内容 (出所)ボストン コンサルティング グループ
  30. 44 開発者の役割は2つの異なるタイプに分かれていくと予測 開発者像の⼆極化(仮説) プロダクトエンジニア(~90%) エキスパートエンジニア (~10%) ドメイン知識とユーザー理解を武器に、AIツールを駆使し て迅速にソフトウェアを形にする役割 ビジネス要件を的確なプロンプトに変換 システムの根幹を⽀える専⾨家で、AIによる⾃動化が難

    しい⾼度な技術領域を担当 AIが⽣成したコードを評価‧修正 プロダクトの価値を最⼤化することに集中 AIとの対話能⼒が重要 重視されるスキル 構想⼒、ドメイン知識、AIとのコミュニケーション能⼒ 重視されるスキル 深い技術知識、システム設計能⼒、問題解決能⼒ 複雑なアーキテクチャの設計 セキュリティの担保 パフォーマンスの最適化 ミッションクリティカルな⼤規模システムに不可⽋ (出所)ボストン コンサルティング グループ
  31. 45 Copyright © 2017 by The Boston Consulting Group, Inc.

    All rights reserved. "⼈は仕事をAIに奪われるのではなく「AIに精通した⼈」に奪われる" (出所)エヌビディアCEO「AIに精通しなければ時代に取り残される」Bloomberg(2023年5⽉29⽇) Agile companies will take advantage of AI and boost their position. Companies less so will perish. アジャイルな企業はAIを活⽤して地位を向上させるが、アジャイルさに⽋ける企業は消滅するだろう。 While some worry that AI may take their jobs, someone who’s expert with AI will. AIに仕事を奪われると⼼配する⼈もいるが、AIに精通した⼈に仕事を奪われることになるだろう。 NVIDIA CEO Jensen Huang 2023/5/27 国⽴台湾⼤学 卒業式でのスピーチ
  32. 46 まず⼩さく始めて、素早く学び、組織全体へと⼤きく展開 (バイブコーディングのみに限らない)AI活⽤プロジェクトの進め⽅ 2 3ヶ⽉程度 3 半年~1年程度 1 即時 即実⾏(今週中︕)

    主要AIなツール (Cursor/Lovable)を試⽤ 簡単な社内ツールを 1つ作成してみる リスク︓最⼩限 投資︓ほぼゼロ 短期施策(3ヶ⽉程度) チームでPoCプロジェクトを ⽴ち上げ AIツールの効果と 限界を実体験で学ぶ ⽬標︓具体的な成果と課題 の明確化 中期施策(半年~1年程度) AI活⽤ガイドライン策定 全社的なAIリテラシー教育 プログラム開始 セキュリティ・品質保証 プロセスの確⽴ ⽬標︓組織全体への持続 可能な展開 (出所)ボストン コンサルティング グループ ⽬標︓⾃ら試して感覚を 掴む