あなたは今、「自分のキャリアの軸を何にしようか」と迷っているかもしれません。
そんなとき、私はひとつの軸をおすすめします。
それは「貢献志向」です。
ここで言う貢献志向は、いわゆる「顧客志向」に近い考え方です。ただし単なる「お客様第一」ではなく、自分が関わる「誰か」の課題に寄り添い、価値を生み出そうとする姿勢を指します。
自分の成長を目的にするのではなく、「関わる他者のために何ができるか」を突き詰めることで、より難しい課題に挑戦し、学びの機会が自然に増える。結果として成果が上がり、さらに新しい挑戦がやってくる。
この循環が、長期的にキャリアを動かし続ける原動力になります。
Momentor代表の坂井風太さんは「顧客志向こそが成長の好循環を生む」と表現していました。
なぜ「貢献志向」はキャリアの鍵になりうるか
「貢献志向(顧客志向)」を持つことで、仕事は単なるタスクではなく「誰かのための行為」に変わります。
たとえば、あなたが提案やサポートで相手の課題を解いた瞬間、その「誰か」の変化が、あなた自身の手応えや成長感として残ります。
実際、複数の調査でも「顧客志向」や「社会貢献」を感じられる職場では、従業員のエンゲージメント(仕事への没頭感・満足度)が高い傾向があります。
「顧客志向」や「社会貢献」が従業員エンゲージメントの重要なドライバーに――、クアルトリクス調査
クアルトリクス合同会社は12日、年次レポートとなる「2025年消費者トレンドレポート」および「2025年従業員エクスペリ
cloud.watch.impress.co.jp
またキャリア理論の視点でも、利他志向(他者の役に立ちたいという動機)や他者価値創造は、長く続くキャリアの軸として有効です。
人は「自分のため」だけで働いていると、成果が出ない時にモチベーションが下がりやすいですが、「誰かのために」という軸を持つと、相手の反応が小さな達成感を生み、明日も挑戦したいという気持ちが自然に続きます。
「成長の好循環」とは、まさにこの心理的メカニズムを職業人生の中に組み込むことだと感じます。
ただし、環境と構造がなければ軸は揺らぎます
一方で、「貢献志向を持たなければ」と焦るあまり、自分を追い詰めてしまう人もいます。誰かのために尽くそうとしすぎて、疲弊してしまうケースです。
リクルートマネジメントソリューションズの調査によると、「主体的・自律的なキャリア形成をしたい」と答える人が8割を超える一方で、
「そのことにストレスを感じる」「難しい」と答えた人も7割にのぼります。
【調査発表】若手・中堅社員の自律的・主体的なキャリア形成に関する意識調査|人材育成・研修のリクルートマネジメントソリューションズ
組織行動研究所は、2021年9月、「若手・中堅社員の自律的・主体的なキャリア形成に関する意識調査」を実施し、調査結果から見
www.recruit-ms.co.jp
また、労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査では、長期的なキャリア形成には「制度・支援・組織の仕組み」が不可欠であると指摘されています。
調査シリーズNo.206『人生100年時代のキャリア形成と雇用管理の課題に関する調査』|労働政策研究・研修機構(JILPT)
www.jil.go.jp
つまり、貢献志向や顧客志向という軸は素晴らしい出発点なのですが、軸だけでは不安定なのです。
軸を支える構造を意識することが大切です。
貢献志向を軸に据えるための三層構造
ここからは、私自身の考えをお話しします。
キャリア相談を受けていて感じるのは、「貢献志向を持ち続けられる人ほど、三層でキャリアを設計している」ということです。
1. 価値観のレイヤー(Why)
まず、「誰のために、何をしたいか」を具体的に言葉にしてみてください。
貢献志向という抽象的な言葉ではなく、自分にとっての「誰か」と「何をするか」を描くことです。
例:顧客Aの課題を減らす/同僚が安心して働ける仕組みをつくる。
価値観が明確になると、日々の判断が速くなり、迷いが減ります。
このレイヤーがある人は、環境が変わっても「自分が何を大事にして働きたいのか」を見失いません。
2. スキルのレイヤー(How)
次に大切なのは、貢献志向を実際の仕事に落とし込むための力です。
顧客理解、課題発見、コミュニケーション、信頼構築といったスキルを磨くこと。
貢献志向を実践するとは、相手の立場を理解し、仮説を立て、行動に変える力を育てることです。
このスキルは一朝一夕には身につきませんが、日々の対話や小さな挑戦の中で確実に鍛えられます。
そして、自分の軸(Why)が明確であれば、学ぶ方向もぶれません。
3. 環境・関係性のレイヤー(Where/Who)
最後に、あなたを支えてくれる「まわりとのつながり」を見直しましょう。
たとえば、「貢献志向を評価してくれる会社か」「挑戦を支援してくれる上司がいるか」「共に学び合える仲間がいるか」。
人は、一人では走り続けられません。
制度や文化、そして一緒に働く仲間の存在が、貢献志向を続ける力を与えてくれます。
この環境を軽視してしまうと、どんなに強い志を持っていても、やがて摩耗してしまうのです。
関係性がある人ほど、挑戦の機会が増え、結果的に学びの量が大きくなる。
これは、私が多くのキャリア支援で見てきた共通項です。
もし今の環境が「貢献志向を活かせる場」ではないと感じたら、
その環境を少しずつ変える工夫をしたり、外に新しいつながりを持ったりしてみるのも一つの方法です。
変化の時代だからこそ、「軸+構造」がキャリアを支える
キャリアは、まっすぐには進みません。
うまくいかない時、環境が変わる時、顧客のニーズが変わる時。
そんな時こそ、価値観・スキル・環境を見直す「キャリア・レジリエンス」が求められます。
ここで言うレジリエンスとは、折れないことではなく、「折れた後に形を変えて立ち上がる力」です。
私は、貢献志向を軸にすることで、このレジリエンスが鍛えられると感じています。
なぜなら、「誰かのために働く」という姿勢は、自分の内側だけで完結しません。顧客の反応、チームの支え、環境の変化、それらと対話しながら自分を更新していく。
この「しなやかな更新力」こそ、キャリアのレジリエンスの正体です。
そしてレジリエンスを高めるために大切なのは、「ちょっとの一歩を踏み出し、小さな挑戦を続けること」だと思います。
安全な範囲で少しだけリスクをとり、相手に貢献できる行動を積み重ねる。
それが失敗しても、次の挑戦の糧になる。
貢献志向とは、結果を恐れず、他者への関心を軸に試行錯誤を繰り返す姿勢そのものだと思います。
あなたにとっての「今日の一歩」
・最近関わった他者(社内社外どちらでも構いません)を一人思い浮かべて、「この人のために自分は何をしたか」「何が変わったか」を一行で書いてみましょう。
・自分の今いる環境を俯瞰して、「貢献志向を実践し続けるために、この会社は何を支えてくれているか/何が足りないか」を整理してみましょう。
・そして次の1〜2週間で、顧客または社内の仲間との対話を一つ設定し、「貢献志向って自分はどう実践しているか」を話してみてください。
「他者のために考える」ことは、最終的に自分の成長にもつながります。
キャリアを動かす燃料は、あなたの中ではなく、誰かの変化の中にあることが多いです。
その一歩を、今日から始めてみませんか。