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ON-PAM 2020 1007

Tomoki
January 07, 2020

ON-PAM 2020 1007

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  1. 1.「(公共)政策」とは 1. ⾏政⽤語としての「公共政策」=政府の⽅針・⽅策・構想・計画の総称 • 政府が(⽬的達成や問題解決のため)その環境諸条件またはその対象集団の⾏動に何らかの 変更を加えようとする意図のもとに、これに向けて働きかける政府の活動の案 • まだ決定・実現されていないものを含めて指す場合と、既に決定済み・執⾏中のものを指す 場合がある •

    現代国家においては、分野を問わず政府(国/⾃治体)が全く関与せず⺠間主体に任せた場合 の活動の達成⽔準が不満⾜な場合、補完するためにあえて実施する、という側⾯が⼤きい。 2. マネジメント⽤語としての「政策」=以下の3つのレベルの概念セット。 ①政策⽬的(理念:価値の実現/問題解決に向けた表明) ②政策指針(政策決定:複数の施策プログラムの相乗効果などを織り込んだもの) ③政策⼿段(単体の施策プログラム/事務/事業実施)
  2. ⽂化に関する政策⼿段(例) <公的規制> • 競争政策:放送・電波・ケーブルテレビ・ネットワーク コンテンツ流通市場の多様化を⽬指した巨⼤メディアが番 組を所有することへの規制 • 保護政策:⽂化財の保護、外国産コンテンツ割当規制 (クォータ制:⾃国制作コンテンツの優遇/放映を数値的 に制限)

    • その他:違法・有害・憎悪コンテンツや虚偽広告の規制・ 取締り(⺠間主体の⾃主規制/官⺠共同での規制も含む) <その他> • 著作権制度:コンテンツ流通促進と権利者への利益還元の バランスを取る制度の整備・修正 • ⼈材育成:教育機関の設⽴⽀援、職業教育(研修)の実 施、芸術教員のスキルアップ⽀援、芸術家社会保険制度 • ⾮財政的な名誉・信⽤の付与:顕彰制度、認定制度、後援 • ⾦融関連優遇措置:各種の税制優遇、公的機関による債務 保証、政策投資銀⾏の利率優遇、官⺠ファンド等 • 芸術家・クリエイター・関連専⾨家の直接的雇⽤ これらすべてを同じ官庁が担当する国もあるが、複数の機関が ⾏ったり、国の政策機関を置かず⾃治体に任せる国もある。 また、⽀援対象の商業的成功を重視するかどうかは時と場合に よる(例:英国では映画への資⾦⽀援の選定は70年代までは商 業的成功を重視せず、80年代以降は商業的成功を重視) <財政⽀援> • 認定⽂化財や優れた作品への資⾦提供(直接/間接) • コンテンツのプロモーション助成やフィルムコミッション ⽀援、映画祭・芸術祭・⽂化イニシアチブの⽀援や主催 • ⾮商業放送局や国際⽂化交流・学術交流・語学教育の⽀援
  3. ⽂化政策と産業政策の異同 ⽂化政策 ⽬的:⽂化的⼈権の充⾜=⼈々の⽣活(精神⽣活を含 む)の質的向上・活性化、国内外への⽂化情報発信、 次世代社会への意識啓発(例:ダイバーシティ、エネ ルギー/環境問題、⾼齢化社会、教育など) 対象:⾮営利活動を中⼼とする芸術⽂化活動の主体、 (有形/無形)⽂化財たる物や活動 産業政策 ⽬的:産業の育成・発展、および競争環境の整備、国

    際競争⼒の強化。(例:「⽂化産業」「広告・メディ ア産業」「⾼付加価値産業」「コンテンツ産業」「ク リエイティブ産業」「観光業」など) 対象:産業や企業の⾏う産業活動や企業の取引活動 【共通点】 ⽬的:対外的認知向上によるブランディングの強化(副次的にソフト・パワーや国⺠アイデンティティ、プライドの強化) ⼿法:補助⾦等による⽀援・振興、補助⾦や税制優遇、および認定制度や顕彰等による公的信⽤の付与等 伝統⼯芸、⼯業デザイン・建築等の分野においては重なる点が多い。 弱点:多数派の⽀持を得にくいため、⾏政・官僚機構に政治からの⾃律性がなければ戦略的・⾰新的な推進が困難 【相違点】
  4. 2.主要国の⽂化政策におけ る4つの基本パターン 1. ファシリテーター型:寄付税制などの条件整備中⼼で、政府の⽀出が無いかごく少ない。不必要な 規制/発展を拒む障害物を排除し、競争を促進する。⽂化の範囲を定義せず、多様性確保の観点から 好まれるが、商業的に成功しない芸術家・団体は活動継続が困難になりがち。 2. パトロン型:政府からの⽀出(ただし配分や結果は専⾨家に委ねる間接⽀出)あり。これにより芸 術家は商業的成功なしに継続できる可能性が⽣まれ、⾮営利的なプロフェッショナル芸術の振興(≒ 商業主義の緩和)が⾒込まれる。ただし政府の無責任な財政⽀出として批判されがち。

    3. 設計監理責任者(アーキテクト)型:政策対象を定義し、芸術家・専⾨家を国家にとって重要な 職業の⼀つとして位置づけ、⽂化省など政府からの直接⽀出で専⾨家の育成を⾏い、結果に対して政 府が責任を負う(ただし専⾨家の⾃治・⾃律が前提)。⻑期的な資⾦が約束されるが、その分創造的 な⾰新が停滞しがち。 4. 技師(エンジニア)型:政府が⾃ら⽂化芸術を作り出す主体となり、その事業従事者として芸術家 を雇⽤する。ただし中⻑期的には癒着により芸術の⽔準が低下しがち。また国⺠の⼈気を得にくく、 かえって海外⽂化の⽔⾯下での浸⾷を受けやすいため、海外⽂化の規制などの悪循環を⽣みがち。
  5. 「技師型」:中国・ベトナム・北朝鮮・以前の韓国等 • 政府⾃⾝により、政府のメッセージに沿う作品や活動を資 ⾦と⼈材を投じて⽣産する • 政府の威信と政権の正統性の確保が重要な⽬的となる • 癒着・既得権益構造ができやすく⾰新性に⽋けるため不⼈ 気になりがち。その分外国産コンテンツへの規制が厳しい •

    治外法権や外交上の地位を持つ外国機関の⽀援による、規 制を逃れた欧⽶型のアート(資⾦と場所)も存在し、それ に依存するタイプの表現もある 「ファシリテーター型」:アメリカ(連邦政府) • ⾮営利法⼈税制による巨⼤資⾦を有するセクターの存在 • 国は国⽴施設には多額の資⾦を、それ以外には少額の資⾦ を専⾨家委託で助成する(⺠間資⾦に⽐べ割合は低い) • 政府(特に連邦政府)への幅広い不信感もあり、社会問題 に対する⺠間主導ツールとしての芸術のイメージが強まる • 冷戦時代は国家戦略としての⾃国⽂化の育成・発信に正当 性がありNEAの設⽴や国務省による⽶国現代アートの宣伝 に結びついたが、近年は公的資⾦の投⼊に対してはそれに ⾒合った社会的便益をもたらすことが強く期待されている 「設計監理責任者型」:フランス・ドイツ等 • 政府の存在⽬的としての、⽂化による⼈⺠の統合・包摂 • 国内⽂化振興と同時に対外的な威信(ソフト・パワー) • ⽶国⽂化への警戒感、EU域内制作のコンテンツを優遇 • 社会福祉的に政府が芸術活動を直接的に⽀援する(フラン スの場合は⽂化省、ドイツは州政府)※専⾨家⾃治は前提 • 芸術家に対する社会保障が他の専⾨的職業と同様に充実、 フランスでは給付⾦付き職業訓練制度(講師の雇⽤も)、 ドイツでは芸術家社会保険による⽣活保護の上乗せが存在 「パトロン型」:英国および英連邦諸国 • 卓越した芸術を⽀援することを基本とする • 学術機関への⽀援と同様に、資⾦を専⾨家に委託しその ⾃⽴に任せる(アームズ・レングス原則) • 1970年代以降はエリート主義的であるとの批判が年々強 まり1980年代以降、(特に映画は)商業的成功を重視 • 1990年以降は地域経済再⽣などの社会環境整備のための ツールの役割が強まる。英国の新しいイメージの創出に ⼀役買ったが、ロンドン・オリンピック以降は低迷。 • 主にプロフェッショナル⼈材育成分野で⺠間資⾦を導⼊
  6. ファシリテーター型/パトロン型/設計監理責任者型 • 1980年代以降も技師型を取る国を除き、現在では多くの国・⾃治体で上記3つの役割のうち複数が組み合 わされている。 • パトロン型と設計監理責任者型を並列する形にゆっくり収束しつつあるとされる。またファシリテーター 型の特徴である美術品の寄付税制や⾮営利セクターへの税優遇等については、1980年代以降アメリカ以外 の国に様々な形で拡充されている。 • 例1:英国ではパトロン型の代表たるアーツ・カウンシルが有名だが、主要な美術館・博物館と⼤英図書館

    に対しては、設計監理責任者型の⽀援も並⾏して⾏ってきた。 また1997年に改組された⽂化・メディア・スポーツ省(DCMS)は規制の撤廃と競争の促進を任務に⼊れてお り、2013年以降は、優れた美術品を寄附・物納した場合に得られる税優遇制度(年間4,000万ポンド/約57億 円の枠があり、先着順)を設けるなどファシリテーター型の政策を拡充した。 • 例2:フランスでは伝統的に設計監理責任者型の⽀援が中⼼だが、2003年から寄付税制を⼤幅に拡充した。 • 例3:⽇本は戦後、国レベルでは国⽴施設の運営は設計監理責任者型であり、1980年代以降に舞台芸術を中 ⼼にパトロン型の⽀援を設けた。その後ファシリテーター的な税優遇制度の導⼊も徐々に拡⼤している(美 術品の損⾦算⼊限度額の拡⼤など)。ただし経済成⻑の低さ・税収の伸び悩みから規模は拡⼤していない。
  7. ⽂部科学省 ⽂化庁 外務省 国際交流基⾦ Japan FoundaAon 国⽴劇場(芸術⽂化振興会) 国⽴⽂化財機構(国⽴博物館) 国⽴美術館 総務省

    地域創造 都道府県 内閣府 厚⽣労働省(障害者芸術) 農林⽔産省(⾷⽂化・農⼭漁村⽂化) 経済産業省 国⼟交通省 環境省(国⽴公園・エコツーリズム) 観光庁 政府観光局 JNTO ⽇本貿易振興機構 JETRO クールジャパン機構 国⽴国会図書館 国⽴公⽂書館 ⽂化芸術・⽂化施設に関連する政策主体 教育委員会 ⽂化関連部局 地域⽂化創⽣本部 国際⽂化交流審議官 外郭⽂化財団 市区町村 教育委員会 ⽂化関連部局 外郭⽂化財団 国⽴科学博物館 科学技術振興機構 JST ⽇本科学未来館 ⽇本学術振興会 ⽇本学術会議 電源地域振興センター 防衛省 (特定防衛施設周辺整備調整交付⾦) 国⽴国語研究所 ジャパン・ハウス Japan House
  8. ⽂化芸術政策の主な法的根拠 • 国際⼈権規約(1966年採択、1976年発効、⽇本は1979年に批准):⼈権の不可分な⼀部とし ての⾃由権的⽂化権(B規約19条)と社会権的⽂化権(A規約15条)→⽂化的⼈権 • 背景:世界⼈権宣⾔(1949) • その他関連:ユネスコ芸術家の地位に関する勧告(1980)、⽂化のためのアジェンダ21(2004)、国連⼈間開発 報告書(2004) •

    ユネスコ⽂化多様性条約(2005年成⽴、2007年発効。⽇本は未批准だが2020年批准予定)・ユネスコ⽂化的 多様性に関する世界宣⾔(2003)および同⾏動計画。⽂化多様性条約を批准すれば法的拘束⼒が⽣じる。 • ⽇本国憲法(1946): 幸福追求権(13条)、 表現の⾃由・検閲禁⽌(21条)、職業選択の⾃ 由と居住移転の⾃由(22条)、学問の⾃由(23条)、また解釈上は確⽴していないが25条 の⽣存権規定内の「⽂化的な」の⽂⾔→⽂化的⼈権 • 教育関連法制:特に地⽅⾃治体においては地⽅⾃治法(1947)、社会教育法(1949)、博物 館法(1951) • ⽂化財保護法制:古器旧物保存⽅(1871)→古社寺保存法(1897)→国宝保存法(1929)/重要美 術品等ノ保存ニ関スル法律(1933)→⽂化財保護法(1950)
  9. ⽂化芸術政策の主な法的根拠 • 美術品の美術館における公開の促進に関する法律(1998) • 国⽴博物館法(1999)、国⽴美術館法(1999)、国際交流基⾦法(2003)等、独⽴⾏政法⼈の組 織法 • ⽂化芸術振興基本法(2001年→2017年改正で「⽂化芸術基本法」に改称) ※どちらも議 員⽴法

    • 劇場・⾳楽堂等の活性化に関する法律(劇場法)(2012) ※議員⽴法 • ⽂部科学省設置法改正(2017) ⽂化の振興に加え、⽂化に関する施策の総合的な推進を 位置付けるとともに、政策の企画⽴案推進と関係⾏政の調整が追記される。またこれまで ⽂科本省との間で分かれていた博物館(・美術館)⾏政および芸術教育⾏政の所管がそれ ぞれ⽂化庁に集約⼀元化される。 • 国際⽂化交流の祭典の実施の推進に関する法律(2018)※議員⽴法 • 2020年度には博物館・美術館の国際観光拠点化に関する法律が提出される⾒込み(閣 法)。 また通常国会で⽂化多様性条約の批准に向けた審議が⾏われる可能性もある。
  10. 戦後・昭和期の国の⽂化⾏政 1,国:国内政策としては統制⾊/政治⾊忌避 ・・・「⽂化財保護」はあるが「⽂化振興」はほぼない時代 • 戦中の⽂化統制を連想させるため「⽂化政策」は忌避される • ⽂化財保護⾏政が先⾏し、国としての⽂化振興については1968年の⽂化庁の設置をもってはじまった。 • それ以前の社会教育法に基づく博物館法や図書館法(ともに1951年)は地⽅⾃治体や⺠間を対象とするもので 国⽴機関は対象外。

    • 1980年代まで⽂化財保護中⼼(他に著作権、国語、宗務、国際⽂化)で⽂化振興は⼩規模 • ⾳楽・演劇・芸能・放送作品については⽂部省芸術祭(後に⽂化庁芸術祭)、またそこから派⽣した顕彰事業 である芸術選奨(1950年〜、舞台芸術に加えて美術と⽂学も追加)がある • ⺠間芸術団体等の活動を⽀援する補助⾦は1959年度に社会教育関係団体補助⾦の⼀部として開始。1967年度に 「芸術関係団体補助⾦」として分離独⽴。1978年度には「⺠間芸術等振興費補助⾦」と改称された。 • ⺠間芸術等振興費補助⾦は、⾼⽔準の芸術活動事業、⻘少年等に対する芸術普及事業、芸術関係の資料整備、 芸術の国際交流促進事業等に係る経費に対して交付され、⻑く⽂化庁の芸術創作活動⽀援の中⼼的役割を担っ た。ただし⼩規模な個別後援の⾚字補てんの域を出なかった。
  11. 戦後・昭和期の国の⽂化⾏政 2,国:外交政策上の⽂化交流の促進 • 1960 年の⽇⽶安全保障条約改定をめぐって⽇本で反対運動が起こり、アイゼンハワー ⼤統 領の訪⽇が中⽌に。直後、エドウィン・ライシャワーが論⽂「損なわれた対話」(Broken Dialogue with Japan)を発表。池⽥⾸相とケネデ

    ィ⼤統領は、⽇⽶関係の停滞に対応し対話を 促進するため、 1961 年に⽇⽶⽂化教育交流会議(CULCON)を創設、翌年から隔年開催 • 1966年、中曽根康弘ら芸術議員連盟(現在の「⽂化芸術振興議員連盟」は⾳楽議員連盟を⺟体としており 当時の芸術議員連盟とは直接の関係はない)の後押しで、通産省系の団体が⾒本市「ジャパン・アート・ フェスティバル」をニューヨークで開催。後に⽶国各都市を巡回。 • 1972年、国際⽂化交流機関として前⾝の国際⽂化振興会を⺟体に外務省管轄特殊法⼈国際交流基⾦が設⽴ • 1984年のCULCONで舞台芸術交流⼩委員会の設置が勧告される(その後設置〜1991廃⽌)。 • ⽂化庁は⽇本の現代舞台芸術を⽶国に派遣し公演を⾏う「⽇⽶舞台芸術交流事業」(1986年度開始)、また広く舞 台芸術の創作活動を促進するため、創造性に富む優れた⾳楽、舞踊及び演劇の公演の再演を奨励する「優秀舞台芸 術公演奨励」(1987年度開始)を創設。さらに、企業等⺠間からの積極的な協⼒を得て、海外フェスティバルへの 参加公演や⼤規模な国内公演を⽀援する「芸術活動特別推進事業」(1988年度開始)を創設、実施
  12. 戦後・昭和期の⾃治体⽂化⾏政 3,地⽅:「⾃治体⽂化⾏政」発展の時代 • 1960年代から⾰新⾸⻑の⾃治体において国からの財源上/縦割りの縛りのな い地域社会振興という新たな⾏政領域として「⽂化⾏政」が広がる。 • 1970年代以降、地⽅で⽂化ホールや美術館・博物館の建設をはじめとする各 種⽂化施設の建設が急増。 • ソフト⾯や⼈材育成⾯の遅れが指摘され、1994年総務省(旧⾃治省)の外郭機関とし

    て財団法⼈地域創造設⽴。⾃治宝くじ等を財源に地域⽂化振興事業を展開。 • 1970年代以降の世界的な傾向と同じく、市⺠活動の活発化とともに、地域・ 都市アイデンティティ確⽴、ブランディングとも関わり、経済的志向とも結 びついて複雑化。 • 1990年代以降バブル崩壊と⾏政改⾰の流れの中で荒波に晒される(後述)。
  13. 平成期以降: 国が「⽂化政策」を開始 1,国:⽂化振興の開始 • 1989年、⽂化政策推進会議創設 • 1990年、芸術⽂化振興基⾦の設⽴ <⺠間:1987年セゾン⽂化財団設⽴。 1989年アサヒビール⽂化財団設⽴。 1990年企業メセナ協議会設⽴、1994年から税制優遇が受けられる「助成認定制度」を開始。>

    • 1996年、アーツプラン21。21世紀の⽂化⽴国を⽬指した芸術⽀援事業(30億円規模) ⽇本を代表する芸術団体への重点⽀援、海外フェスティバルへの参加や海外公演、国内の国際フェス ティバルへの⽀援など。それまで国の芸術⽂化への⽀援は、規模も⼩さく、個別公演の⾚字補填的なも ので、⽀援対象が幅広いことから、「ばらまき」との批判もあった。アーツプラン21は、舞台芸術の⽔ 準を⾼めるため、各分野で牽引⾞的な役割を果たしている芸術団体を対象に、年間を通じた公演活動費 の3分の1を限度に重点的に⽀援するというもので、初年度は15団体にそれぞれ数千万円から1億円の ⽀援が実現した。翌年度以降も⽂化庁の⽬⽟事業として拡⼤が続く。 • 1997年、従来の⽂化庁芸術祭に加え⽂化庁メディア芸術祭がスタート。新国⽴劇場開館 • 2001年、⽂化芸術振興基本法(議員⽴法)成⽴・施⾏
  14. 平成期以降: 国が「⽂化政策」を開始 1,国:⽂化振興の開始 • 2002年、アーツプラン21、⽂化芸術創造プラン(新世紀アーツプラン)に改組、予算120億円、原則3年継 続。芸術拠点形成事業も開始 • 2005年、⽂化芸術創造プランの3年継続が廃⽌。その後も後援や事業ごとの⽀援へ変更され⽀援対象も拡散 し⽀援額は低下。総額で⾒ても、2006年ごろをピークに⽂化庁から芸術団体への直接助成は減少 •

    2009年、⺠主党政権の事業仕分け、芸術創造活動特別推進事業 • 2012年、劇場、⾳楽堂等の活性化に関する法律成⽴・施⾏、⽂化芸術振興費補助⾦ • 2017年、⽂化芸術振興基本法、⽂化芸術基本法に名称変更/改正。 ⽂化庁京都移転が決定、2021年度中の本格移転を⽬指す。 内閣官房と⽂化庁、「⽂化経済戦略」を策定・公表 • 2018年、国際⽂化祭典法成⽴・施⾏。⽂化庁⼤幅改組(新・⽂化庁) ⽂化部・⽂化財部の2部制廃⽌、 博物館⾏政と芸術教育⾏政がはじめて⽂化庁に集約⼀元化 • 2020年、出国税財源で博物館の観光拠点化について初の閣法が提出される⾒込み
  15. 平成末期以降の⽂化政策の傾向 3,現在の傾向 • 観光を含む地⽅振興と都市間競争における⽂化芸術(⽂化財も)の利⽤ • 内閣官房と⽂化庁による「⽂化経済戦略」の策定・公開(2017)同戦略アクションプランの策定・公開(2018) • ⼤規模な芸術祭→⽂化祭典法(2018) • ⼤規模な美術館・博物館→博物館観光拠点化法(2020?)※新たな「出国税」が財源

    • ⾏政外郭機関の名⽬上の「アーツ・カウンシル(芸術評議会)」化 • アームズ・レングス原則:パトロン型を前提に、⽂化領域の⾃⽴性と専⾨性を担保するため、 審査者による判断を尊重する。 • 専⾨性を持った⼈々の経済的な⾃⽴と⼈事権的な⾃治権、またそれを⽀える社会的信⽤が担保 されていることが前提となるため⽇本の⾏政外郭機関では基本的に妥当しない。⼀例として、 ⽇本芸術⽂化振興会(1990年に国⽴劇場から改称)は英語名はJapan Arts Councilだが、歴代の役員 は以前と変わらず⽂部科学省出⾝者が多くを占めており、アームズ・レングス原則は当てはま らない。 • 公共放送への政治介⼊や政治家のマスコミ批判が国⺠の広い怒りを買う英⽶と異なり、⽇本で はアームズ・レングス原則の強みである「専⾨家に判断と責任を全て委ねる」ことが政府の無 責任(な公⾦⽀出)と⾮難されるという負の側⾯が強い政治⽂化があるため、徹底しにくい。
  16. ⽂化政策に内在する問題点 • もともと「⽂化」は縦割りや法的な規定と相性が悪い。 • さらに、政策の対象となる「⽂化」の概念が拡⼤していることもあり、「⽂化事 業」はある意味で誰でもできる。 • 税務署の書道展や、法務省や⾃治体の⼈権部局の⼈権擁護の標語コンテストな ど、さまざまな「啓発的な」⽂化イベントは各府省・⾏政が独⾃に⾏っている。 •

    質を⾼めるか、社会課題解決へのインパクトを重視して波及効果・連携を増やす のか、あるいは別の⽅向に向かうのか。 • 説明責任やインパクト、質的なものを重視する場合に、下記の要素が軽 視されがちになる • 商業的な成功や⼈気のあるものへの偏りを防ぎ、⾮商業的な芸術活動の多様性・ 厚みを確保する • ⾰新性を阻害せず、癒着の弊害を防ぐため、分野の専⾨性を保護し、分野独⾃の ⾃⽴性/⾃律性を阻害しない形で進める(=⽂化専⾨職の職責の保障)
  17. 現在の国の⽂化政策における問題点の例 • 2017年芸術基本法で⽂化庁による各府省の連携推進が規定された。 • ⽂化事業はむしろ府省庁連携・協⼒にとって有益な機会と捉えるべきで、多くの府省が協⼒し、 また⺠間もパートナーシップに⼊る形をより模索すべきではないか。 • 内閣官房と⽂化庁は2017年末に「⽂化経済戦略」を、2018年8⽉に「⽂化経済戦略アクションプラ ン2018」を発表。関係府省庁連携の下,⽂化と他分野が⼀体となって新たな価値を創出して,⽂ 化への再

    投資につなげ,⾃⽴的・持続的に発展していくことが⽬的。 • しかし実態では、事業仕分け以降、府省の⽂化分野でのデマケーションの重複に対して総務 省等から指摘が⼊るなど厳しい⽬に晒されており、その結果、連携について関係府省が及び 腰になっており、また⽂化庁に調整を⾏う⼈員や権限が不⾜。上記のアクションプランにお いても、既に関係府省庁がバラバラに取り組んでいる状況を束ねて⾒せている側⾯が強い • ⼀案として「主催」「共催」「協賛」「後援」といった名⽬上のランク付けをやめて、例え 実体が委託契約や実⾏委員会による運営であっても、「連携・パートナーシップ」に揃える べきでは。 • ⾮営利的な芸術団体・芸術機関への⽀援が、量的にも質的にも不⼗分なだけではなく継続性や活 動の質の向上に向けた「戦略」が共有されていないのでは。
  18. ⽂部科学省 ⽂化庁 外務省 国際交流基⾦ Japan FoundaAon 国⽴劇場(芸術⽂化振興会) 国⽴⽂化財機構(国⽴博物館) 国⽴美術館 総務省

    地域創造 都道府県 内閣府 厚⽣労働省(障害者芸術) 農林⽔産省(⾷⽂化・農⼭漁村⽂化) 経済産業省 国⼟交通省 環境省(国⽴公園・エコツーリズム) 観光庁 政府観光局 JNTO ⽇本貿易振興機構 JETRO クールジャパン機構 国⽴国会図書館 国⽴公⽂書館 (再掲) ⽂化芸術・⽂化施設に関連する政策主体 教育委員会 ⽂化関連部局 地域⽂化創⽣本部 国際⽂化交流審議官 外郭⽂化財団 市区町村 教育委員会 ⽂化関連部局 外郭⽂化財団 国⽴科学博物館 科学技術振興機構 JST ⽇本科学未来館 ⽇本学術振興会 ⽇本学術会議 電源地域振興センター 防衛省 (特定防衛施設周辺整備調整交付⾦) 国⽴国語研究所 ジャパン・ハウス Japan House
  19. 4.現場からの⽂化政策への 働きかけ • ⽂化審議会やパブリックコメントへの参加 • 政策を通じて改善すべき問題の分析と研究(ほとんどの政策 主体は実際それができていない) • 団体としての声明・ヒアリング、政治家への働きかけ、特定 のイシューの盛り上げ、調整

    • 学会は増えた(⽇本⽂化政策学会、⽇本⾳楽芸術マネジメン ト学会、アートマネージメント学会、⽂化経済学会<⽇本 >)が、より現場から近い場所からの⼒強い声と、政治家・ ⾏政・他分野を巻き込む調整能⼒を持つ団体が必要では。
  20. 4.現場からの⽂化政策への 働きかけ • アドボカシーを担うべき全国レベルの職能団体の例 • 実演芸術:芸団協、ON-PAM、劇作家協会、劇団協、演出者協会、バレエ団連盟、 ⽇本児童・⻘少年演劇劇団協同組合 • 映画・映像:映画監督協会、⽇本映画製作者連盟、⽇本脚本家連盟、独⽴映画鍋 •

    美術・写真:⽇本美術家連盟、⽇本写真家協会、美術評論家連盟 • ⾳楽:⽇本⾳楽家ユニオン、⽇本作曲家協議会 • 職能団体はあまり増えておらず、会員の世代交代が進まずに活動・プレ ゼンスが縮⼩している団体も少なくない。 • 企業メセナ協議会のような⺠間の政策研究・アドボカシー機関も同様の問題を抱 えている。 • むしろ職能団体を活性化させるための政策が必要なのではないか
  21. 4.現場からの⽂化政策への 働きかけ • 施設運営者の団体における⾃治⾃律・互助意識・専⾨性の向上 • 公⽂協 • 全国美術館会議(今年法⼈化予定)、⽇本博物館協会 • 他には?

    館⻑・芸術監督レベルの組織なども必要では。 • 館⻑や芸術監督レベルの組織の⽴ち上げはどのように⽀援されるべきか、 現場サイドからの議論が少ないのでは。 • 教育分野との再度のつながりの強化・アウトリーチ • 地域の学校や⺠間教育機関、他の社会教育施設との連携強化 • 教育委員会や学校へのアプローチ、⽂化庁への要求などを検討すべきでは • 芸術教育専⾨家の育成への協⼒ 全国芸術⾼等学校校⻑会/全国美術⾼等学校協議会等との連携 • 論争が起きた場合の味⽅づくり
  22. 「アームズ・レングス原則」 • 「アームズ・レングス」は⻄欧社会の権⼒抑制・癒着防⽌・公正性確保に必要とされる「独⽴性」。個⼈に 認められる⾔論・.表現の⾃由ではなく公益上のルール。)「アームズ・レングス」は独⽴性を指す⼀般⽤語 であり、⽂化政策⽤語ではなく、 「公的資⾦の配分」と結びついた概念でもない。 • 司法と⽴法と⾏政の権⼒分⽴(司法の独⽴性は他より強いはずだが、アームズ・レングスにはそのよ うな強さ/程度を表すニュアンスはない。法的に強制されている場合もそうでない場合も両⽅含む。 独⽴性を持つという程度の意味。)

    • ⽶国やカナダ、ドイツ、スイスなど連邦制の国において、憲法上州が有する権限と、それを調整する 国の機関の関係。(例:⽶国の州が持つ公教育の権限と教育省、ドイツの州の⽂化⾼権と⽂化省) • 政府⾼官が任期中の利益相反を回避するために、⾦融資産を本⼈の⽀配から遠ざけて管理させる規制 • 政府への報道機関の独⽴性(警察が発表する情報を受け取る記者とその警察との関係などを含む ) • ⼈権擁護や特定の機密データの監視を⾏う、公的なオンブズパーソンが政府から独⽴して働くこと • 学問研究に対して研究資⾦配分を研究者コミュニティに委ねること • ⽂教⾏政や住宅⾏政など⻑期的な⾏政において、⾏政執⾏団体を政治の影響から遠ざけて独⽴させる • 親会社と⼦会社のような利害関係が共通する⼆者間取引において市場と同様の条件で取引を⾏うこと
  23. 「アームズ・レングス原則」 • もともと英国のアーツカウンシルが発⾜した1945年に、初代総裁ケインズのラジオ演説で、以前の ナチやスターリン体制化のソ連(⼯作技師型)を念頭においてそれと⼀線を画することが謳われた (ハリウッドとも⼀線を画し、商業芸術以外の育成の重要性も同時に強調された点に注意) • しかし⽇本では「アームズ・レングス」が表現/芸術の⾃由との関係で語られがち • だが、表現の⾃由や中⽴性、政治的影響⼒からの切断を強調すると、単なる形式的な⾏政形態 の問題として第⼆の教育委員会ができるだけ。本来むしろ重要なのは、芸術の専⾨家の「専⾨

    職の職責」の概念。こちらは「学問の⾃由」に近い。「⽂化政策を専⾨的・中⻑期的・戦略的 に⾏うための政治権⼒からの切り離しと(精神的・経済的)⾃律性の確保」が重要。 (なお、教育委員会は⽇本の⽂教⾏政におけるアームズ・レングスの機関であるが、⾃治体の ⽂化⾏政が教育委員会以外のところで発展した経緯から、あまり強調されない) • アームズ・レングス原則は、英国アーツカウンシルと同様のパトロン型の⽂化芸術⽀援政策に おいて強く妥当するが、他の3つの型においては必ずしも妥当しない。⽇本では1980年代以降 に⽂部(⽂科)省・⽂化庁が⽂化振興⾏政に本腰を⼊れ始めた際に、戦中の全体主義的⽂化政 策回帰への懸念に対する応答として説明されてきた(「内容不関与の原則」ともいう)。 →2001年⽂化芸術基本法の「⽂化芸術活動を⾏う者の⾃主性の尊重」「⾃主的な活動の促進」
  24. 18世紀以降の⽂化政策の⼤きな流れ(世界)その1 1,⾃由放任主義時代 • 国家観の変容(消極国家、夜警国家) 2,19世紀初頭から1945年まで • 国家学における、国家による⼈々の精神的領域(教育等)に対する責務論 • 国家の役割は制限的に捉えつつ、⾃⽴した⽂化領域の保護者・振興者と位置づけ •

    ⼈間の内⾯に国家は踏み込めないが⽂化育成の領域について国家や⾏政の補完は必要。 • ⽂化コンテンツへの政治的検閲の強化(⽂化統制体制の確⽴) • ⽂化領域への規制の正当化 • ⽂化領域の⾃律性の観点から、特に教育分野から激しい抵抗 • ⽂化領域の⾃由論、国家関与の慎重論→市⺠の⾃由運動 • 1919年ワイマール憲法における「芸術・学問・教授の⾃由」の規定
  25. 18世紀以降の⽂化政策の⼤きな流れ(世界)その2 3,20世紀中盤における「パトロンとしての国家」 • ⾃由放任・国家からの⾃由の時代を経た後で登場する • 経済性を重視すると商品価値が⾼いものしか⽣き残れない状況になる • ⼤衆⽂化の広がりがナショナリズムと結びつくと、強⼒な⽂化統制に⾄る • さらに全体主義国家も登場し、芸術の政治的利⽤/⽂化への極端な介⼊が⾏われる

    • 「⼤ドイツ芸術展」「頽廃芸術展」/スターリニズム/⽇本の翼賛体制や⽂化統制 • 福祉国家論の広がり • イギリス(ケインズ)、アメリカ(ニューディール政策) • 冷戦下における国家レベル・国際関係的な⽂化のあり⽅の模索 • 国連における⼈権条約やユネスコによる⽂化的権利の成⽴ • ⽶国の国際的威信を⾼める動き • ⽶国国務省やロックフェラー家の資⾦による現代美術振興、欧州における⾃国⽂化の宣伝 • 結果的にドイツ統⼀・冷戦終結をもたらしたともいえる(ソフト・パワー)
  26. 18世紀以降の⽂化政策の⼤きな流れ(世界)その3 4,1970年代以降〜現在 • 福祉国家の終焉が⾔われる • 冷戦終結により⽂化的優位が経済戦略の⽂脈に回収される • 財政⾚字の増⼤・⾏政改⾰、先進国における社会の⾼齢化(=労 働⼈⼝の相対的減少) •

    芸術⽂化は(学問・⼤学と同様に)社会から⼀定程度の⾃⽴性を 確保しつつ、どのようにその⾃律性を確保できるかが問題となっ ている。 • 「芸術⽂化政策」から「⽂化政策」へ • 社会環境整備や、⽣活基盤の整備の延⻑線上でより豊かな⽣活を求める市⺠への対 応などが含まれるようになってくる • 「⽂化⾸都」、国営宝くじ、税制と資⾦調達、マーケティング