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「短期的な売上」から「長期的な顧客価値」へ。~ ZOZOTOWN HOME面におけるKPIの再...

「短期的な売上」から「長期的な顧客価値」へ。~ ZOZOTOWN HOME面におけるKPIの再設計 ~

2025/09/03 に開催された「Strategic Search & Recommendation Meetup #2」で発表した登壇資料です。
https://dmm.connpass.com/event/360175/

株式会社ZOZO
データAIシステム本部
データシステム部 推薦基盤ブロック
関口 柊人

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ZOZO Developers PRO

September 03, 2025
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  1. © ZOZO, Inc. 株式会社ZOZO データシステム部推薦基盤ブロック MLエンジニア 関口 柊人 ❏ 出身:栃木県栃木市

    ❏ 業務: ❏ ZOZOTOWN のレコメンドシステムの開発 ❏ ZOZOTOWN HOME面の改善 ❏ 趣味: ❏ 麻雀に最近ハマりました。気づいたら麻雀牌に... ❏ サウナ。長野にある The Sauna がオススメです 2 出典:YouTube「【生配信】人間麻雀【オンライン麻雀 Maru-Jan 20周年記念】」Maru-Janチャンネル, https://www.youtube.com/watch?v=5Y70g-QntcQ&t=7005s
  2. © ZOZO, Inc. https://zozo.jp/ 3 • ファッションEC • 1,600以上のショップ、9,000以上のブランドの取り扱い •

    常時107万点以上の商品アイテム数と毎日平均2,700点以上の新着 商品を掲載(2025年6月末時点) • ブランド古着のファッションゾーン「ZOZOUSED」や コスメ専門モール「ZOZOCOSME」、シューズ専門ゾーン 「ZOZOSHOES」、ラグジュアリー&デザイナーズゾーン 「ZOZOVILLA」を展開 • 即日配送サービス • ギフトラッピングサービス • ツケ払い など
  3. © ZOZO, Inc. 8 なぜHOME面の評価 指標を見直したのか? 運用の背景
 • 現状、HOME面に掲載のモジュールは複数のチームで運用・管理している状態 ◦

    Dev ▪ 推薦基盤 ◦ Biz ▪ 販促、コスメ、ZOZOUSED、ZOZOVILLA、マルチサイズ、広告 etc. • 振り返りの場として月次定例を行っている
  4. © ZOZO, Inc. 9 なぜHOME面の評価指標を見直したのか? 運用上の課題 
 • 売上とCTRを中心に確認していた ◦

      「売上に直結しないがサービス貢献する要素」の評価ができていない ◦ 例)特集記事やコーデ提案など購買目的がない時でも楽しめるコンテンツ • 月次定例が実績の共有に留まっている ◦ 中長期的に取り組むべき課題やアクションが検討されていない ◦ チームを横断した課題感やアクションの共有がない ◦   運用チーム全体で「ZOZOTOWN HOME 面をどのようにしていきたいか」の共通認識 が持てていない
  5. © ZOZO, Inc. 10 なぜHOME面の評価指標を見直したのか? レコメンドにおける課題 
 • 推薦システムに「フィルターバブル」や「多様性の喪失」といった歪みが生じる ◦

     「未知の商品との出会い」や「サービスへの愛着」といった、未来のファンを育てるた めの本質的な価値を測れない・生み出せない 
 • レコメンドチームの目標は「長期的なユーザーエンゲージメントの改善」 ◦ 短期的な売上改善だけでなく多様な商品との出会いを通じてユーザー体験を向上させること を目指している ◦   そもそもエンゲージメントの指標がないと本当に改善されているのかわからない
  6. © ZOZO, Inc. 12 我々が目指すべきHOME面とは? 
 
 オーガニック検索 経由での入り口 ZOZOTOWN

    を案 内するページ 商品の提案、情報提 供のためのページ とりあえず戻って くるページ ざっくり欲しいもの が決まっているユー ザーに対しての訴求 ZOZOらしさの提供 はじめにやったこと:HOME面の役割を改めて考える 

  7. © ZOZO, Inc. 15 我々が目指すべきHOME面とは? 
 
 関連する運用チームごとのHOME面での目的の違いをヒアリング 
 担当チーム

    HOME面での目的 販促(アパレル・シューズ) 売上の最大化 コスメ ZOZOCOSMEファンの増加・認知拡大 ZOZOUSED USED商品詳細面・一覧面への流入・認知拡大 ZOZOVILLA(ラグジュア リー) ZOZOVILLAと親和性の高いユーザーへ露出し、認知獲得。エ ンゲージの蓄積とのちの購入を目指す マルチサイズ(受注生産等) 流入向上・お気に入り獲得(から後の販促施策で受注獲得) 広告 露出・流入向上、エンゲージメントの獲得 直接の売上だけでなく、 HOME面を通じて認知を獲得し、サイト利用や購買頻度を高める こうした効果が後の販促施策につながり、最終的な売上向上を狙っているとのこと 

  8. © ZOZO, Inc. 16 我々が目指すべきHOME面とは? 
 
 項目 目的 具体的な状態

    売上向上 GMV 最大化 ユーザーがスムーズに購入へと進む動線が整備され、売上 の最大化を実現していること 認知拡大 多様な商品との出会いを創出・ 促進されている ZOZOTOWNを訪問・回遊した くなる環境を提供されている リターゲティングだけでなく、ユーザーが自分の欲しい商 品やブランドと出会える仕組みを提供されていること コスメ・USED などのカテゴリを幅広いユーザーに認知さ れること エンゲージ蓄積 愛されるZOZOTOWNの実現 ユーザーのファン化 ZOZOTOWNが継続的に利用される関係性を築いているこ と HOME面の役割と目的を踏まえて「理想の状態」を考える
  9. © ZOZO, Inc. 18 我々が目指すべきHOME面とは? 
 
 HOME面のミッション 
 1.

    新たな出会いを通じた「認知と流入」の起点 2. ZOZOTOWN と顧客の関係性を深める「育成の場」   2つのミッションを果たして理想の状態に近づけることで結果的に GMV 最大化を目指す
  10. © ZOZO, Inc. 21 KGI
 売上
 認知・流入 
 エンゲージ メント


    HOME面訪問者の 受注金額 KPI
 • モジュール経由受注金額 • モジュール経由受注点数 • モジュール経由受注商品単価 • モジュールCTR • モジュール経由ブランド流入数 • モジュール経由カテゴリ流入数 • 商品多様性 • アクティブユーザー率 • HOME面再訪問率・再訪問間隔 新指標設計と運用戦略

  11. © ZOZO, Inc. 22 KGI
 売上
 認知・流入 
 エンゲージ メント


    HOME面訪問者の 受注金額 KPI
 • モジュール経由受注金額 • モジュール経由受注点数 • モジュール経由受注商品単価 • モジュールCTR • モジュール経由ブランド流入数 • モジュール経由カテゴリ流入数 • 商品多様性 • アクティブユーザー率 • HOME面再訪問率・再訪問間隔 新指標設計と運用戦略

  12. © ZOZO, Inc. 24 KGI
 売上
 認知・流入 
 エンゲージ メント


    HOME面訪問者の 受注金額 KPI
 • モジュール経由受注金額 • モジュール経由受注点数 • モジュール経由受注商品単価 • モジュールCTR • モジュール経由ブランド流入数 • モジュール経由カテゴリ流入数 • 商品多様性 • アクティブユーザー率 • HOME面再訪問率・再訪問間隔 新指標設計と運用戦略

  13. © ZOZO, Inc. 25 モジュールCTR 認知拡大の「前段階」を評価 モジュール経由ブランド流入数 認知・流入 
 モジュールを見たユーザーが、新しいブランドへの

    興味を持ち、そのブランドページにどれだけ辿り着 いたかを評価 モジュールを見たユーザーが、新しいカテゴリへの 興味を持ち、そのカテゴリページにどれだけ辿り着 いたかを評価 モジュール経由カテゴリ流入数 新指標設計と運用戦略

  14. © ZOZO, Inc. 26 KGI
 売上
 認知・流入 
 エンゲージ メント


    HOME面訪問者の 受注金額 KPI
 • モジュール経由受注金額 • モジュール経由受注点数 • モジュール経由受注商品単価 • モジュールCTR • モジュール経由ブランド流入数 • モジュール経由カテゴリ流入数 • 商品多様性 • アクティブユーザー率 • HOME面再訪問率・再訪問間隔 新指標設計と運用戦略

  15. © ZOZO, Inc. 28 定常モニタリング ABテスト評価指標に追加 • モニタリングダッシュボードに指標 を追加
 •

    運用チームとの月次定例 
 ◦ HOME面の理想の状態に向けて運用 チーム全体でモニタリングする 
 ◦ 各チームにおける最新状況を把握す る
 ◦ モジュールの実績を確認し、改善案を 提案するとともに、具体的な改善アク ションを実施する 
 ◦ 長期的に活用できる有益な知見を取 りまとめる 
 
 
 • 評価指標にエンゲージメント指標 を追加
 • ABテスト終了後に施策の深掘り 分析を実施 
 • 分析結果を元に改善施策を検討・ 実施する
 
 
 
 
 
 
 新指標を運用プロセスに組み込む 新指標設計と運用戦略

  16. © ZOZO, Inc. 30 新指標によるレコメンド施策の効果検証
 https://techblog.zozo.com/entry/home-module-contents-personalization ZOZOTOWNホーム画面の 商品パーソナライズ施策 
 •

    ユーザー情報を元にモジュール枠のコンテンツ並び順をパーソナライズ化
 • Two-TowerモデルとVertex AI Vector Searchを組み合わせ、新規性・多様性を意識した
 パーソナライズを実現
 商品パーソナライズ ユーザー情報 年齢, 性別, 閲覧・購入履歴etc. 属性情報、行動履歴を踏まえると 君にはこんな商品がオススメ
  17. © ZOZO, Inc. 31 A/Bテストの内容と結果 • 実施内容 ◦ 対象: ホーム画面に訪れたZOZOTOWN会員(=非会員は対象外)

    ◦ 期間: 約1ヶ月 • 結果 ◦ 「商品クリック58%増・経由受注26%増」で結構なGMVのupliftがあった ▪ 売上KPI・認知拡大KPI は爆増 ◦ エンゲージメントKPIを改めて確認 ▪ 商品多様性、再訪問間隔が有意に改善 指標 結果(T/C uplift値) 商品多様性 6.96 (%) アクティブユーザー率 0.22 (%) 再訪問率 0.01 (%) 再訪問間隔 6.13 (%) 新指標によるレコメンド施策の効果検証

  18. © ZOZO, Inc. 32 結果: 多様性が向上 
 
 
 


    
 
 
 
 
 
 新指標によるレコメンド施策の効果検証
 商品多様性 6.96% UP 定義: 商品 coverage(全商品のうち、どれだけの割合の商品がユーザーに表示されたか) 考察: パーソナライズが一部の人気商品に頼るのではなく、これまで埋もれがちだったニッチな商品や新しいブランド(ロング テール商品)まで、幅広くユーザーに届けられている ことがわかる 「システムは多様な商品を提案し、ユーザーはその多様な提案を歓迎している」 
 ユーザーあたりクリックした商品ユニーク数 6.30% UP この指標が向上していたため、幅広く提案された商品が、実際にユーザーの興味と的確にマッチしていた ことがわかる ユーザーに常に新鮮な発見を提供できるため、顧客の「飽き」を防ぎ、長期的なエ ンゲージメント(LTV)に寄与していると考えられる
  19. © ZOZO, Inc. 33 結果: 再訪問間隔が短縮、再訪問率とアクティブユーザー率は変わらず 
 
 
 


    
 
 
 
 
 
 
 
 新指標によるレコメンド施策の効果検証
 再訪問間隔の短縮(=訪問頻度の向上)6.13% UP 定義: テスト期間中のHOME面再訪問時間[分] 考察: 自分に最適化されたコンテンツが提示されることで、「またすぐに見たい」という再訪問への動機が生まれた 再訪問率 0.01% UP 定義: テスト期間中にHOME面を2回以上訪問したユーザー/テスト対象者 考察: 訪問頻度の低いライトユーザーを新たに惹きつけ、リピーターへと転換させるまでには至らず アクティブユーザー率 0.22 (%) UP 定義: テスト期間で、HOME面訪問したかつ一回以上購入したユーザー/テスト対象者 考察: 短期的な購入者数を押し上げる効果は限定的
  20. © ZOZO, Inc. 結果から仮説を出してみる 
 
 
 
 
 


    
 
 
 
 
 
 新指標によるレコメンド施策の効果検証
 このモデルに基づけば、今回の「再訪問間隔の短縮」という結果は、行動変容プロセスの第一段階 におけるポジティブな兆候を捉えたものであり、長期的な成功に向けた先行指標である可能性が考 えられる ユーザーの行動変容として「エンゲージメントの深化は上記の段階的なプロセスを辿る」という新 たな仮説を立てられる 訪問頻度の向上 (再訪問間隔の短縮) 利用の習慣化 (再訪問率の向上) 購買行動の活性化 (アクティブ率の向上) エンゲージメントの深化の段階的なプロセス(案) ステップ1 ステップ2 ステップ3
  21. © ZOZO, Inc. 結果から仮説を出してみる 
 
 
 新指標によるレコメンド施策の効果検証
 訪問頻度の向上 (再訪問間隔の短縮)

    利用の習慣化 (再訪問率の向上) 購買行動の活性化 (アクティブ率の向上) エンゲージメントの深化の段階的なプロセス(案) この短期効果が長期的なユーザー行動変化やLTV向上に繋がるかを検証するため、今後のレコメンド施策 ではエンゲージメント指標を利用したHoldout Testの実施を検討する 仮説から立案 
 
 
 ステップ1 ステップ2 ステップ3
  22. © ZOZO, Inc. 37 まとめ
 1. 戦略基盤の構築 a. HOME面の「理想の状態」と「ミッション」を定義 b.

    改善活動における戦略的方向性の明確化 2. 評価フレームワークの策定 a. 「売上・認知・エンゲージメント」の3軸によるKPI設計 3. 運用プロセスの具体化 a. KPIを活用した定常モニタリング・ABテスト b. 事業部連携によるPDCAサイクルの確立 4. データに基づくインサイトの獲得 a. 商品パーソナライズ施策の効果検証 b. 新指標による示唆と次期戦略への展開