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科学的仮説の設定場面における思考過程に関する一考察
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Daiki Nakamura
October 23, 2016
Education
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科学的仮説の設定場面における思考過程に関する一考察
日本教科教育学会第42回全国大会 2016年10月23日
Daiki Nakamura
October 23, 2016
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Transcript
科学的仮説の設定場面における 思考過程に関する一考察 広島大学大学院 ◦中村 大輝 広島大学大学院教育学研究科 松浦 拓也 教科教育学会 2016-10-22
全39枚+補
仮説設定 研究概要 研究の目的 学習者が仮説を立てる際の 思考過程とその特徴を明らかにする 2 実験方法の考案 ? 説明仮説の形成 問題状況の把握
⚫ どのような思考を経て 仮説を立てているのか ⚫ 問題の状況が仮説設定の 思考過程にどう影響するか
仮説設定 研究概要 研究の目的 学習者が仮説を立てる際の 思考過程とその特徴を明らかにする 3 実験方法の考案 ? 説明仮説の形成 問題状況の把握
➢ 仮説設定には共通した思考 過程が存在すること ➢ 問題状況が必要な情報処理を 規定していること
発表の流れ 4 Ⅰ.研究の背景 Ⅲ.仮説設定に共通した思考過程 Ⅱ.調査の枠組み Ⅳ.問題状況と思考過程の差異
PISA2015の枠組み 5 科学的リテラシー S c i e n t i
f i c L i t e r a c y ② 科学的な調査のデザインと評価の力 ③ データと証拠を科学的に解釈する力 ① 現象を科学的に説明する力 →仮説設定能力の育成は重要な目標の1つ (OECD,2016)
仮説設定の重要性 小学校 学習指導要領 ⚫ 理科の目標 「見通しをもって 観察,実験などを行い」 中学校 学習指導要領 ⚫
理科の目標 「目的意識をもって 観察,実験などを行い」 6 学習者自らが自然事象から見出した疑問に対して、 予想 や 仮説 を持った上で観察,実験に臨むことが 重要であるとされている H20年版学習指導要領より
先行研究における実態 PISA2006において、 「現象を科学的に説明す ること」に関する能力は 相対的に低い傾向にある 「疑問に対する仮説を立 てる能力」が定着してい ると感じているのは 28% に過ぎない
7 仮説設定場面には課題があり、 現在に至るまで改善されていない (五島, 2008) (今田・小林,2004) 中学生の実態 中学校教員への アンケート調査
思考過程の重要性 8 →仮説設定の思考過程を捉えることが必要 ⚫ Newell & Simon (1972) 『人間の問題解決』 •
もしある領域の学習を理解したいなら、 どのように人々がその領域で問題を解いているか についての詳細な分析から始めるべき • そのための第1歩は、個人が問題を解くのに用い る心的過程、あるいはプログラムを見つけ出すこ とである 研究の蓄積が不十分
仮説設定の過程は、 • 論理的・合理的な プロセスである • 心理的要因を含む 歴史的経緯 古典的科学観 仮説設定の過程は、 •
ただの推測や自由な発想 • 直感の結果に過ぎない • 論理的分析は必要無い 現代的科学観 9 ⚫ 多くの科学教育、科学哲学の研究者は、 仮説設定のプロセスに関心を示してこなかった(Park,2006) 仮説設定の思考過程について理論を提唱 →見られる 調査に基づき仮説設定の思考過程を検討 →見られない
仮説設定 研究概要 研究の目的 学習者が仮説を立てる際の 思考過程とその特徴を明らかにする 10 実験方法の考案 ? 説明仮説の形成 問題状況の把握
⚫ どのような思考を経て 仮説を立てているのか ⚫ 問題の状況が仮説設定の 思考過程にどう影響するか
発表の流れ 11 Ⅰ.研究の背景 Ⅲ.仮説設定に共通した思考過程 Ⅱ.調査の枠組み Ⅳ.問題状況と思考過程の差異
調査概要 12 対象 広島県内の大学生・大学院生 計16名(男性8名 女性8名) 時期 2016年2月~4月 調査方法 仮説の設定を求める問題を
用いた面接調査 自身の思考過程を 意識し言葉にできる 被験者の必要性
面接の流れ 13 仮説設定問題の提示 発話思考法を用いな がら、仮説を立てる ことを求める 面接の流れ 思考過程が不明瞭な 部分について 補足質問を実施
n=16 全 6 問 次に・・・ なぜ~ Aの方が~ 最初に・・・
調査問題 14 問題 番号 問題状況 推論種 Q1 水を入れて加熱したフラスコに風船をかぶ せ、フラスコを水で冷やすと風船がフラス コ内に入る
演繹 Q2 寒い地域ではLED式信号機があまり普及して いない 演繹 Q3 ある地層から生息年代が不明な生物の化石 が産出した 枚挙的帰納 Q4 タンポポが花を閉じる現象には規則性が存 在する 枚挙的帰納 Q5 人間には生まれるときになってはじめて広 げて使用する器官が存在する 類推 Q6 軽石も割り箸もそのままの状態では水に浮 くが、粉にすると水に沈む 類推 問題状況に 対応した 推論種
調査問題の例 15 (問題状況の要約) そのまま水に入れる 粉にして水に入れる 軽石 浮く 沈む 割り箸 浮く
沈む 軽石も割り箸も1つのかたまりのときは浮くのに、削ると 沈むという同じような性質を示すのはなぜでしょうか? 仮説を立ててください。 類推
調査方法 16 仮説設定問題の提示 発話思考法を用いな がら、仮説を立てる ことを求める 思考過程 面接の流れ 思考過程が不明瞭な 部分について
補足質問を実施 n=16 全6問 発話データ 発話データ
研究の方法 17 Ⅰ.研究の背景 Ⅲ.仮説設定に共通した思考過程 Ⅱ.調査の枠組み Ⅳ.問題状況と思考過程の差異
思考内容の分類 18 仮説設定問題の提示 発話思考法を用いな がら、仮説を立てる ことを求める 思考過程 面接の流れ 思考過程が不明瞭な 部分について
補足質問を実施 カテゴリー 質的アプローチ 仮説設定においてその思考 が持つ意味に着目して分類 n=16 全6問 発話データ 発話データ 計6種類 に分類
思考内容の分類 19 カテゴリー 発話の例 A) 問題状況の理解 軽石の写真を見ると、表面がブツブ ツしている B) 目標・方向性の確認
密度が大きくなる理由を考えないと いけない C) 変数の同定 軽石が浮かぶのは空気が入っている からだろう D) 因果関係・規則性の認識 削ることによって空気が入る余地が なくなる E) 仮説の批判的検討 木ってそんなに空気を含んでいるの だろうか F) 仮説の表現 どちらも同じ空気を含む構造なのだ ろう
発話分析の例 20 A) 問題状況の理解 軽石の写真を見ると、表面が ブツブツしている C) 変数の同定 軽石が浮かぶのは空気が入っ ているからだろう
D) 因果関係・規則性の認識 削ることによって空気が入る 余地がなくなる F) 仮説の表現 どちらも同じ空気を含む構造 なのだろう A → C → D → F 思考の推移
隣接行列 21 (回) A B C D E F A
- 40 49 8 0 0 B 2 - 42 6 0 2 C 1 9 - 114 2 7 D 2 2 34 - 14 84 E 0 1 4 6 - 13 F 1 0 3 2 10 - ⚫ カテゴリー間の推移(6問合計) A) 問題状況の理解 B) 目標・方向性の確認 C) 変数の同定 D) 因果関係・規則性の認識 E) 仮説の批判的検討 F) 仮説の表現 (回) A B C D E F A - 40 49 8 0 0 B 2 - 42 6 0 2 C 1 9 - 114 2 7 D 2 2 34 - 14 84 E 0 1 4 6 - 13 F 1 0 3 2 10 -
推移のネットワーク 22 5つの構成要素からなる思考過程が明らかになった ⚫ 共通した思考過程 (出現回数 > 16回) 問題 変数
因果 目標 仮説 批判 40 49 84 34 114 42 Fitting = 44/(16問*6人-4欠損)*100 = 47.83% A C B D F E 批判
先行研究のモデルとの比較 23 問題 変数 因果 目標 仮説 福岡・竹村 (1989)
先行研究のモデルとの比較 24 問題 変数 因果 目標 仮説 福岡・竹村 (1989)
先行研究のモデルとの比較 25 問題 変数 因果 目標 仮説 福岡・竹村 (1989)
先行研究のモデルとの比較 26 ⚫モデル間で差が生じた要因 ①実際の調査データに基づいているため ②仮説設定においてそれぞれの思考が持つ意味に 焦点を当てて分類カテゴリーを作成しているため →先行研究では抽象度の高い思考と認知的な思考操作が混在
研究の方法 27 Ⅰ.研究の背景 Ⅲ.仮説設定に共通した思考過程 Ⅱ.調査の枠組み Ⅳ.問題状況と思考過程の差異
思考内容の分類 28 仮説設定問題の提示 発話思考法を用いな がら、仮説を立てる ことを求める 思考過程 面接の流れ 思考過程が不明瞭な 部分について
補足質問を実施 カテゴリー 質的アプローチ 認知的な思考操作を分類する n=16 全6問 発話データ 発話データ 計16種類 に分類
分類カテゴリー 29 大区分 中区分 カテゴリー 選 択 的 注 意
自 分 の 思 考 へ の 注 意 分かることの明確化 分からないことの明確化 間違い可能性の検討 適用範囲の認識 情 報 へ の 注 意 問題状況の把握 問題状況への素朴な疑問 変数への着目 対象の明確化 推 論 演 繹 モードゥス・ポネンス(MP) モードゥス・トレンス(MT) 帰 納 枚挙的帰納 アナロジー アブダクション 知 識 ・ 経 験 の 想 起 - 宣言的知識の想起 - 手続き的知識の想起 - 経験の想起
推論種と出現回数 30 想定 推論種 問題 番号 演繹MP 演繹MT 枚挙的 帰納
アブダク ション 類推 演繹 Q1 16 1 0 0 1 Q2 14 3 0 12 0 枚挙的 帰納 Q3 13 0 9 1 0 Q4 3 11 14 5 0 類推 Q5 8 5 0 9 6 Q6 10 0 0 8 8 (人)
推論種と出現回数 31 実際の 傾向 問題 番号 演繹MP 演繹MT 枚挙的 帰納
アブダク ション 類推 演繹 Q1 16 1 0 0 1 Q2 14 3 0 12 0 枚挙的 帰納 Q3 13 0 9 1 0 Q4 3 11 14 5 0 アブダク ション Q5 8 5 0 9 6 類推 Q6 10 0 0 8 8 問題状況に対応した推論を使用することは、 合理的な仮説設定に関係しているか (人)
合理性の得点化 32 仮説設定能力 思考過程における2つの要素の 合理性を0~2点で得点化 0~2点 0~2点 仮説設定の 合理性 変数の同定過程
の合理性 因果関係の認識過程 の合理性 ⚫ 合理性評価の枠組み(中村・松浦,2016) ◆個人間の思考の差は合理性の差として説明される (Manktelow, 2012)
合理性の評価基準 33 変数の同定過程 の合理性 因果関係の認識過程 の合理性 2点 根拠を持って変数を 選択・消去している 変数間の因果関係を論
理的に説明できている 1点 根拠なく変数を選択・ 消去している 変数間の因果関係の説 明に飛躍や破綻がある 0点 変数を意識できていない 変数間の因果関係を説 明していない
合理性得点の集計 34 Q 問題状況に対応した推論の使用することは、 合理的な仮説設定に関係しているか 変数の同定 因果関係の認識 2点 1点 0点
2点 1点 0点 状況に対応した推 論の使用 32 19 1 33 18 1 状況に対応した推 論の不使用 16 22 2 18 15 7 < < > < > >
分析の方法 35 Q 問題状況に対応した推論種の使用とその他の推 論種の使用では合理性得点に差があるのか? ベイズ推定 サンプリング方法:HMC法 事前分布 :多項分布 チェイン
:長さ21000を5つ発生 バーンイン期間 :1000 乱数 :計100000個 ソフトウェア :R(ver. 3.3.1) パッケージ : rstan(ver. 2.12.1)
得点間の比較 36 Q 問題状況に対応した推論種の使用とその他の推 論種の使用では合理性得点に差があるのか? ◼ ピアソン残差 e の推定値(上段) および
e >0の確率 (下段) 合理性得点2点を獲得した者は 対応した推論種を使用している傾向 e 変数の同定 因果関係の認識 2点 1点 0点 2点 1点 0点 対応した推論の 使用 0.09 -0.09 -0.05 0.08 -0.02 -0.15 0.98 0.04 0.21 0.97 0.39 0.00 対応した推論の 不使用 -0.11 0.10 0.05 -0.09 0.02 0.17 0.02 0.96 0.79 0.03 0.62 1.00 Cramer’s V 0.23 0.28
まとめ 37 ⚫ 仮説設定には共通した思考過程が存在する ⚫ 問題状況に対応した推論種の使用と、 仮説設定の合理性には関係が見られる ⚫ 問題状況が使用するべき推論の種類= 必要な情報処理を規定している
研究概要 学習者が仮説を立てる際の 思考過程とその特徴を 明らかにする 38 研究全体の目的 ⚫ 仮説設定には共通した思考過程が存在する ⚫ 問題構造に対応した推論種の使用と、
仮説設定の合理性には関係が見られる ⚫ 問題状況が必要な情報処理を規定している