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科学教育におけるコンピテンシー概念の再考

 科学教育におけるコンピテンシー概念の再考

@SciEdu Book Club in Japan
6th season
April 9, 2022

Daiki Nakamura

April 10, 2022
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Transcript

  1. 科学教育におけるコンピテンシー概念の再考
    @SciEdu Book Club in Japan
    6th season
    📚 April 9, 2022
    Presentation by
    Daiki Nakamura

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  2. 本日のテーマ 2
    1. 社会の変化とコンピテンシー概念の登場
    2. 教育分野におけるコンピテンシー概念の系譜
    3. コンピテンシーの評価の課題

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  3. 3
    Chapter. 1
    The Concept of Competence and Its Relevance for
    Science, Technology and Mathematics Education.
    序章 コンピテンシーに関する議論の展開
    第4章 2030年に求められるコンピテンシーの要素
    第5章 2030年に求められるコンピテンシーとその基盤
    その他、複数の論文・書籍
    ◼ 今回の発表資料を作成するにあたり参照した文献

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  4. 社会の変化とコンピテンシー概念の登場
    4

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  5. コンピテンシー概念が登場した背景 5
    ⚫ 社会状況の変化と新しい能力観の必要性
    • 科学技術の進歩やテクノロジーの発達、グローバル化が恩恵をもたらす一方で、世界の複雑化と新たな
    社会問題を引き起こしている
    • このような社会変化に対応する教育目標をコンピテンシーの概念として整理したい
    • 個別のスキルを越えて、知識・スキル・情動などから構成される複合的な能力の概念化
    • 読み書き計算能力+情報処理能力のリテラシーから、知識・スキル・態度を含む全体的な能力を捉える
    コンピテンシー概念へと焦点が移行していった(松尾,2017)
    ⚫ 言葉の由来
    • Competent: 「有能な」「能力がある」
    • Competence: 「一定の能力がある」(主に~1970年代) ※Competenceの初出はWhite(1959)
    • Competency: 「一定の能力がある」(主に1980年代~ )
    ※ Competency という言葉の初出は、McClellandの研究?
    • 1970年代からアメリカ・ハーバード大学のマクレランド教授(心理学)がMcBer社とともに、1973年に学歴や知能
    レベルが同等の外交官に業績の差が出るのはなぜかを研究し、知識・技術といった目に見えるものだけでなく、人間
    の根源的特性のような目に見えないものを含む広い概念として発表した。
    https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%94%E3%83%86%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%BC
    • 試験での成績(ペーパーテストで測れる力)が必ずしも職業上の能力に直結していないのではないかという
    問題意識からスタートした

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  6. コンピテンシー概念の歴史的変遷 6
    ⚫ コンピテンシー概念の変遷(加藤, 2011 を参考に作成)
    • 従来的な定義:有能な行動
    • 「環境と効果的に相互作用する有機体の能力」(White, 1959)→動因や本能ではなくモチベーション
    • 表層的な行動のみならず,その行動を引き出す動機,自己概念,思考パターンといった表面化しない人間の
    特性やパーソナリティを包括的に含める(McClelland, 1973, 1993)
    • 「ある職務において,効果的あるいは(また同時に)優れた業績という結果を生む人の根源的な特性」
    (Boyatzis, 1982)※図1も参照
    • 「ある職務または状況に対し、基準に照らして効果的、あるいは卓越した業績を生む原因として関わってい
    る個人の根源的特性」(Spencer & Spencer, 1993)
    • 具体的には、動因、特性、自己イメージ、知識、スキルから構成される複合的なもの(Spencer & Spencer,
    1993)※図2も参照
    加藤恭子. (2011). 日米におけるコンピテンシー概念の生成と混乱 (組織流動化時代の人的資源開
    発に関する研究: 組織間協力と組織間人材移動をふまえた人材開発・育成・活動の問題を中心とし
    て). 産業経営プロジェクト報告書, (34), 1-23.
    ✓ 自分では意識しないレベル
    ✓ 自分で意識するレベル
    ✓ 行動に表れるレベル

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  7. コンピテンシー概念の様々な定義_アメリカ(加藤,2011) 7
    ◼ 加藤(2011)によるまとめ
    「多くの定義に共通するのは,高業績もしくは優
    れた業績につながる特性という点,およびそれを
    生み出す根源的な特性であるという点である.
    一方,異なっているのは根源的な特性に何を含む
    かという点である.McClelland やその流れをくむ
    者たちは,コンピテンシーを動機や自己概念,価
    値観などの見えない部分から知識,スキルなどの
    見える部分まで広い範囲にわたっているとしてい
    るが,Losey(1999)のように知能をコンピテン
    シーに含むものなどもある.」

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  8. コンピテンシー概念の様々な定義_日本(加藤,2011) 8
    ◼ 加藤(2011)による考察
    アメリカで議論になっていたのはコンピテンシー
    とはどんなもの(能力)が包含されるかという点
    であったが,日本においてはより根本的な部分,
    つまりコンピテンシーとは能力を指すのか,それ
    とも行動を指すのかという点で統一されていない.

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  9. 教育分野におけるコンピテンシー概念の系譜
    9

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  10. 教育におけるコンピテンシー概念の導入と混乱 10
    ⚫ 経済領域で登場したコンピテンシー概念が教育に影響する理由 (Dolin, 2013)
    • 国際的な傾向として、国のカリキュラムや学校教育で期待される学習成果に関する記述は、学ぶべき
    知識やスキルではなく、コンピテンシーという言葉で組み立てられることが多くなっている。
    • この点で、教育界へのコンピテンシーの導入は、特定の知識のみを提供するのではなく、一般的な社
    会化や人生への準備を提供するという学校の役割を反映している。
    • コンピテンシーの概念は、近代およびポスト近代が個人に課す要求の複雑さをとらえる概念の必要性
    を反映している。
    • 社会における知識の量が制御不可能なほど急速に増加しており、教育が無作為に知識を選択し伝達す
    るのではなく、知識の習得方法や教科内の汎用的な能力に焦点を移さなければならなくなった。
    ⚫ コンピテンシー概念の混乱
    • Weinert (2001) は、コンピテンスの概念に対する理論に基づいたアプローチを検討した結果、広く
    受け入れられる定義や統一的な理論が存在しないことを指摘している。
    • 「学校、職場、社会的状況で個人が学ばなければならないこと、知らなければならないこと、できな
    ければならないことを説明するために、スキル、資格、能力、リテラシーなどの用語が不正確に、ま
    たは互換的に使用されている(Rychen & Salganik, 2003, p. 41)」
    →教育におけるコンピテンシー概念を整理する必要性
    Dolin J. (2013) Competence in Science. In: Gunstone R. (eds) Encyclopedia of Science
    Education. Springer, Dordrecht. https://doi.org/10.1007/978-94-007-6165-0_430-1

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  11. DeSeCo(Definitions and Selection of Competencies)プロジェクト 11
    ⚫ OECDのDeSeCoプロジェクト(1997年~)
    • 現在および将来の課題に直面するために必要な幅広いコンピテンスについて、確固たる理論的・概念的
    基盤を提供することが目的
    • PISAやPIAACといった国際調査の理論的な根拠となることが期待されていた(OECD, 2005)
    • Weinert (2001) のアクションコンピテンスモデルを参考に、要求・機能指向アプローチでコンピテン
    スを定義することにした。(社会や職業上の要求と、それにこたえるために必要な機能)
    • 「コンピテンスとは、知識や[認知的、メタ認知的、社会情動的、実用的な]スキル、態度、価値観を
    結集することを通じて、特定の文脈における複雑な要求に適切に対応していく能力」(Rychen &
    Salganik 2003, p. 43)
    • 様々なリソースを持っているだけでなく、複雑な状況の中でそれらを動員して調和させることが求めら
    れる。
    • キーコンピテンシー:
    多くのコンピテンシーの中でも、
    ①個人と社会の両方に価値があり、
    ②汎用的であり、
    ③非専門家にも重要であるもの。

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  12. Programme for International Student Assessment (PISA) 12
    PISA 2015 Science Framework

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  13. 多様な機関・プロジェクトが21世紀のコンピテンシーを提案 13
    ◼ 米国の国家プロジェクト
    • Partnership for 21st Century Skills (2002~)
    • ATC21S (Assessment and Teaching of 21st Century Skills) (2009~)
    ◼ EUのプロジェクト
    • EU European Reference Framework (2006)
    • Europe Reference Framework of Competences for Democratic Culture (2016)
    ◼ 国際機関
    • UNESCO Global Citizenship Education (2015)
    ◼ 企業中心
    • enGuage 21st Century Skills (2002)
    • Deeper Learning Competencies (2010)
    ◼ 国家のカリキュラム改革
    • ニュージーランド:5つのキー・コンピテンシーを組み込んだカリキュラム
    • オーストラリア:汎用的能力の育成を目指すカリキュラム改革
    • シンガポール
    ➢ コンテンツベースからコンピテンシーベースへ

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  14. OECD Future of Education and Skills 2030 (Education2030) 14
    ⚫ OECDのEducation2030プロジェクト(2015年~)
    • DeSeCoプロジェクトの最終報告から12年が経過し、コンピテンシー概念を再検討する必要性
    • 第1期(2015~2018):将来的にどのような知識、スキル、態度、価値観が必要になるのか(What)
    • 第2期(2019~):それらのコンピテンシーを効果的に育成するにはどうすればよいか(How)
    DeSeCoプロジェクトとの違いは、コンピテン
    シーを発揮した先にある目標をウェルビーイン
    グとして設定している点にある。

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  15. ウェルビーイングの指標の変化 15
    ⚫ 近年の幸福度の指標:多様なQOL
    • 日本の幸福度(2018年データ:OECD, 2020)
    ⚫ かつての幸福度の指標:お金
    国内総生産(Gross Domestic Product, GDP)
    →経済活動の規模を包括的に評価
    • 2018年 名目GDPランキング
    GDPが高い=幸福?

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  16. 科学教育におけるコンピテンシーとウェルビーイングへの貢献 16
    ⚫ コンピテンシーの要素
    • 科学の内容的知識・理解
    • 科学の方法についての理解
    • 科学についての理解
    • 科学の技能
    • 科学的思考力
    • 意思決定能力
    • 科学的態度
    • 科学への興味・関心
    • 自己調整能力
    • 粘り強さ
    • レジリエンス
    • 高次思考スキル
    • 科学的市民としての社会参画力
    職業機会の獲得
    STEM分野の職業は高給
    科学的知識は、職業上の安全に貢献
    科学の知識は自身の健康を保つうえで役立つ
    自然について知ることの喜び
    科学に関する情報が分かる安心感
    科学に興味がある人たちのコミュニティ
    環境問題に関する理解と行動
    ※集団的な幸福
    科学的市民としての行動
    科学が関わる社会問題に関する意思決定

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  17. 理科教育におけるコンピテンシー 17
    ◆ 生物教育におけるコンピテンシーの構想(鈴木,2019) 鈴木誠. (2019). コンピテンス基盤型教育の動向と日本の理科教育への導入
    の可能性―理科教育を通して育成すべき資質・能力とは何か―. 理科教育学
    研究, 60(2), 235-250.

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  18. コンピテンシーの評価の課題
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  19. コンピテンシーの評価 19
    ⚫ Behaviour or Dispositions?
    • 行動と気質のどちらがコンピテンシーの焦点なのか?
    • 第1の解釈:行動と気質が複雑に関連していて、相互に影響し合っている
    ➢ 「知覚、解釈、意思決定を支える気質が、現実世界の状況で行動を生み出す過程を連続的に捉える
    べき(Blömeke et al., 2015, p.3)」
    ➢ Cf. McClellandの伝統を批判したRavenの評価論(Raven & Stephenson, 2001)
    • 第2の解釈:コンピテンシーを細分化し、行動と気質を分離する(cf. 要素還元主義)
    ⚫ コンピテンシーの評価
    • コンピテンシーの有効な評価は、教育プロセスの向上や教育システムの開発に不可欠であると考えられ
    ている。
    • コンピテンシーを測定するための評価法は、従来の知識テストとは異なる要件を満たす必要がある
    ➢ 評価の際のタスクが現実的な状況からの代表的なサンプルになっている(Blömeke et al., 2015)
    • 第1の解釈の立場をとれば、特定の気質的資源の貢献を考慮することなく、現実のパフォーマンスを評
    価することに焦点を当てることになる(e.g., Shavelson, 2010)[全体論的アプローチ]
    • ただし、パフォーマンス課題は時間がかかるし、その複雑性から測定誤差が大きい?
    • 第2の解釈の立場をとれば、異なる潜在的な特性(認知的、感情的、動機的)を異なる測定器で測定する
    ことになる(Blömeke et al., 2015)[分析的アプローチ]

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  20. 評価の課題 20
    ⚫ コンピテンシーの評価が直面している課題(Klieme et al., 2008)
    • 第1の課題:コンピテンシー文脈に応じて変化することから、状況に応じた構成要素を同時に考慮しな
    ければならないこと。
    ➢ 特定の文脈レベルのコンピテンシーと、それらに共通の基礎的な次元のコンピテンシーを定義する
    必要がある
    • 第2の課題:コンピテンシーがどのように発達するか。連続的か非連続的か。相互の関係性は?
    ➢ コンピテンシーの発達と認知プロセスを対応付ける必要がある(Leuders & Sodian, 2013)
    • 理論的なコンピテンシーモデルが開発されたら、それを心理測定モデルによる実証的な評価の結果と結
    びつける必要がある。
    • 教室文脈の評価にどのように反映させるか。
    ⚫ 諸課題の解決に向けて
    • この分野を前進させることは、分析的アプローチと全体論的アプローチのどちらかを選択する問題では
    なく、むしろそれらを生産的に組み合わせる方法を見つけることである(Blömeke et al., 2015)
    • 形成的評価を総括的評価として用いるというアイデア

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  21. 論点 21
    1. コンピテンシーとはどのように定義できるか
    2. 個別の領域や教科の目標とコンピテンシーの関係性は?
    3. 学習指導要領においては、資質・能力が3つの柱で整理されているが、
    これらは別々に捉えるべきものか?
    4. 科学に関連するコンピテンシーをどのように評価するか
    5. その他

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