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理科学力に対する認識的認知の介入効果のメタ分析

Daiki Nakamura
September 24, 2022

 理科学力に対する認識的認知の介入効果のメタ分析

理科学力に対する認識的認知の介入効果のメタ分析
日本理科教育学会第72回全国大会(旭川大会)
2022年9月24日
オンライン発表

Daiki Nakamura

September 24, 2022
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Transcript

  1. 理科学力に対する認識的認知の介入効果のメタ分析
    中村 大輝 (広島大学)
    2022年9月24日
    理科教育学会全国大会
    1H03
    全11枚+補
    Epistemic Cognition

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  2. 認識的認知(Epistemic Cognition)の重要性 2
    ⚫ ポスト真実の時代
    • 現代社会は多くの情報にあふれていて、情報の信頼性・妥当性の判断に関するリテラシー
    が必要
    • 多くの市民は情報の確からしさよりも感情面を優先する傾向にある(Valladares, 2022)
    – 例)フェイクニュース、COVID-19に関する誤情報の拡散
    ⚫ 認識的認知とは何か
    • 「知識や知ることについての考え」(山口,2022)
    • 理科教育の分野では… (Sandoval et al., 2016; Siegel, 2014)
    ①科学的知識そのものの性質
    ②科学的知識の獲得・利用・評価に関する思考に着目
    • 何が科学を科学たらしめるのかの理解(Sandoval, 2014)
    ⚫ 理科における認識的認知の重要性(Elby et al., 2016)
    • その獲得自体が理科教育の重要な目標の1つ
    • 理科学力(概念理解、科学的思考)の育成に貢献する
    科学的知識ってどうやって
    作られるんだろう?

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  3. 認識的認知と学力の関連 3
    ⚫ 認識的認知と学業成績の相関(Greene et al., 2018)
    • 132の研究に含まれる151個の相関係数をメタ分析で統合
    • 相関係数の期待値は、r = .162 [.135, .189] でロバスト
    • 理科(science)に限定すれば、r = .199 [.153, .243]
    ⇒ 認識的認知と理科の学業成績には弱い正の相関が見られる
    ⚫ 認識的認知への介入が学業成績を向上させる効果(Cartiff et al., 2021)
    • 26の研究に含まれる59個の効果量dをメタ分析で統合
    • 効果量dの期待値は、d = 0.509 [.326, .692]
    ⇒ 認識的認知に介入することで、標準偏差0.5個分の向上が期待できる

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  4. 先行研究の課題と本研究の目的 4
    ⚫ 先行研究の課題
    • 大部分が欧米のデータであり、知見の一般化可能性が不明
    • 様々な教科の研究が混ざって統合されている
    • 効果量を算出する際に、小標本の補正がなされていない
    • 各効果量が独立であるという仮定を置いたモデルで分析している
    ⚫ 本研究の目的
    理科の認識的認知に関する国内の介入研究を加えたメタ分析を実行し、
    以下の2点についてより信頼性の高い知見を得る
    1. 理科学力に対する認識的認知の介入効果
    2. 指導法ごとの効果の差

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  5. 研究の方法 5
    • Cartiff et al.(2021)の方法に従って国内の認識的認
    知に関する介入研究を収集・コーディング
    • 収集した国内のデータと、 Cartiffらのデータのうち
    理科(science) に関するデータを統合
    • 各研究について効果量gを算出し、
    3-levelのマルチレベルモデルに基づき効果量を統合
    ⇒ 同一研究内の効果量の関連性をモデリング
    + 7 studies from Japan
    + 38 effect sizes
    Harrer et al. (2021) Fig. 10.2

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  6. 収集した研究の例 6
    ◼ 俣野ら(2021)
    • 小学生を対象にアーギュメントの主張を支える証拠として
    適切かつ十分な証拠を選択することの重要性を指導
    • アーギュメントの構成能力が向上したことを報告

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  7. 結果:収集した効果量の一覧 7
    • 24の研究から得られた71の効果量を昇順に並べ替え
    て整理(右図)
    • 研究に含まれるサンプルサイズの合計は、N=12335
    • 介入効果が正のものから負のものまで多様だが、
    多くの研究は、g = 0.5 付近に集中している
    • 1つの研究から複数の効果量が出てきている
    ⇒ 3-levelのマルチレベルモデルに基づく統合
    推定法は、制限付き最尤法(REML)

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  8. メタ分析の結果 8
    ⚫ メタ分析の結果
    model k ES (g) 95% CI 95% PI I2
    2-level
    (従来の方法)
    71 0.449 0.320, 0.578 -0.562, 1.461 89.6%
    3-level
    (新しい方法)
    71/24 0.554 0.282, 0.826 0.282, 0.826 89.6%
    • 従来の2-levelモデルよりも3-levelモデルの方がデータに適合していた(p <.05)
    • 全体として、認識的認知に関する介入によって、標準偏差0.554個分の理科学力向上
    が期待できる
    • 様々な教育介入の平均効果量 d=0.4(Hattie, 2008)と比較しても、相対的に効果の高
    い指導だと言える
    • しかし、異質性(I2)が高いため、研究によって効果の大きさがばらついている
    ⇒ 効果のばらつきを生み出す要因を探す必要がある

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  9. サブグループ分析 9
    ⚫ 効果量のばらつきを説明する変数を探す
    • 介入方法間で効果量に大きな差は見られない
    • 学校種によって効果が異なる
    – 小学生において特に高い効果
    ⇒ 異なるメカニズムが存在する可能性
    factor group k ES (g) 95% CI I2
    - All 71/24 0.554 0.282, 0.826 89.6%
    介入
    方法
    Other 25 0.583 0.200, 0.967 90.7%
    Argument 46 0.520 0.091, 0.949 88.9%
    対象者
    小学生 41 0.804 0.346, 1.262 89.8%
    中学生 5 0.556 -0.411, 1.522 89.9%
    高校生 4 0.499 -0.814, 1.812 92.0%
    大学生 21 0.295 -0.208, 0.799 86.0%

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  10. まとめ 10
    ⚫ 研究の成果
    • 認識的認知に関する介入によって、g=0.554 の理科学力向上が期待できる
    • 同一研究内の効果量の関連性を考慮した3-levelモデルの方が適合的
    • 研究間で効果量のばらつきが大きく、学校種の違いがその一部を生み出している
    ⚫ 理科授業への示唆
    • 認識的認知への介入は、理科学力の向上につながる可能性がある
    ⚫ 研究の課題
    • 効果量のばらつきを生み出す要因とそのメカニズムが分からない
    • アウトカムの測定方法や介入期間といった研究デザインの多様性がこのようなばら
    つきを生み出している可能性がある
    • 今後は、これらの要因をより細かく検討していく必要がある

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  11. 引用文献 11
    • Cartiff, B. M., Duke, R. F., & Greene, J. A. (2021). The effect of epistemic cognition interventions on
    academic achievement: A meta-analysis. Journal of Educational Psychology, 113(3), 477–498.
    • Elby, A., Macrander, C., & Hammer, D. (2016). Epistemic cognition in science. In Handbook of
    epistemic cognition (pp. 113-127). Routledge.
    • Greene, J. A., Cartiff, B. M., & Duke, R. F. (2018). A meta-analytic review of the relationship between
    epistemic cognition and academic achievement. Journal of Educational Psychology, 110(8), 1084–1111.
    • Harrer, M., Cuijpers, P., Furukawa, T.A., & Ebert, D.D. (2021). Doing Meta-Analysis with R: A Hands-On
    Guide. Boca Raton, FL and London: Chapman & Hall/CRC Press.
    • 俣野源晃, 山本智一, 山口悦司, 坂本美紀, 神山真一. (2021). 複数の証拠を利用するアーギュメント構成
    能力の育成: 小学校第 5 学年 「電流がつくる磁力」 の事例. 理科教育学研究, 62(1), 187-195.
    • Sandoval, W. (2014). Science education's need for a theory of epistemological development. Science
    Education, 98(3), 383-387.
    • Sandoval, W. A., Greene, J. A., & Bråten, I. (2016). Understanding and Promoting Thinking About
    Knowledge: Origins, Issues, and Future Directions of Research on Epistemic Cognition. Review of
    Research in Education, 40(1), 457–496.
    • Siegel, H. (2014). What’s in a name?: Epistemology,“epistemology,” and science education. Science
    Education, 98(3), 372-374.
    • Valladares, L. (2022). Post-Truth and education. Science & Education, 31, 1311–1337.
    • 山口悦司(2022)「第8節 認識論的認知」日本理科教育学会編『理論と実践をつなぐ理科教育学研
    究の展開』pp. 136-141, 東洋館出版.

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  12. 補足:国内で行われたアーギュメントの指導の研究 12

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  13. 補足:Cartiff et al.(2021) 13

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  14. 補足:独立した2群の標準化平均値差 14
    ◆ 独立した2群の標準化平均値差に関する母効果量𝛿は以下の式で定義される。
    𝛿 = 𝜇𝐴−𝜇𝑏
    𝜎
    ここで 𝜇𝐴
    , 𝜇𝑏
    はそれぞれ群A, 群Bの母平均、 𝜎 は2群に共通な母標準偏差である。
    この母効果量𝛿の推定量にはいくつかの種類がある。
    • 群間で等分散が仮定できる場合
    Hedges & Olkin’s 𝑑 ⇒ 今回は扱わないが、これは母効果量の最尤推定量である
    Cohen’s 𝑑𝑠
    ⇒ いわゆるCohenのd。これをgと表記する文献もあるので注意。
    Hedges’ 𝑔 ⇒ Cohen’s 𝑑𝑠
    に小標本の補正をかけたもの。これが不偏推定量。
    • 群間で等分散が仮定できない場合
    Glass’s Δ ⇒ 片方の群の標準偏差を計算に用いる方法。
    Glass’s Δadj
    ⇒ Glass’s Δ に小標本の補正をかけたもの。

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  15. 補足: Cohen’s 𝑑𝑠
    15
    Cohen’s 𝑑𝑠
    は以下の式で求められる。
    𝐶𝑜ℎ𝑒𝑛′𝑠 𝑑𝑠
    =
    ҧ
    𝐴 − ത
    𝐵
    𝑠
    ただし、 s = 𝑚−1 ∗𝑠𝐴
    2+ 𝑛−1 ∗𝑠𝐵
    2
    𝑚+𝑛−2
    ここで、 ҧ
    𝐴, ത
    𝐵 はそれぞれ群A, 群Bの標本平均、𝑚, 𝑛 は群A, 群Bのサンプルサイズ、
    𝑠𝐴
    2, 𝑠𝐵
    2 は群A, 群Bの不偏分散を表す。
    誤差分散は以下の式で求められる。誤差分散の平方根を求めれば標準誤差になる。
    𝑉𝑑𝑠
    =
    𝑚 + 𝑛
    𝑚𝑛
    +
    𝑑𝑠
    2
    2(𝑚 + 𝑛)
    , 𝑆𝐸𝑑𝑠
    = 𝑉𝑑𝑠
    標本効果量の標本分布を正規分布で近似すれば、効果量の95%信頼区間は以下のよう
    に求められる。(※ただしこれは正確ではない。非心t分布を用いた計算がより正確。)
    𝑑𝑠
    ± 1.96 ∗ 𝑆𝐸𝑑𝑠

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  16. 補足: Hedges’ 𝑔 (小標本の補正) 16
    • Cohen’s 𝑑𝑠
    には、母効果量を過大に推定するバイアスがあり、特にサンプル
    サイズが小さい時(n<20)に顕著である。
    • このバイアスを補正する方法として、標本効果量に以下の補正係数を乗じる
    方法が提案されている。
    𝐽 ≈ 1 −
    3
    4 𝑚 + 𝑛 − 2 − 1
    𝐻𝑒𝑑𝑔𝑒𝑠′ 𝑔 = 𝐽 ∗ 𝑑𝑠
    誤差分散は以下の式で求められる。誤差分散の平方根を求めれば標準誤差になる。
    𝑉
    𝑔
    = 𝐽2 ∗ 𝑉𝑑𝑠

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