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SRE × マネジメントレイヤーが挑戦した組織・会社のオブザーバビリティ改革 ― ビジネス価値...

SRE × マネジメントレイヤーが挑戦した組織・会社のオブザーバビリティ改革 ― ビジネス価値と信頼性を両立するリアルな挑戦

2025/10/27に開催された「Observability Conference Tokyo 2025」の登壇資料。
https://o11ycon.jp/
https://o11ycon.jp/sessions/997198/

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October 26, 2025
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  1. Copyright coconala Inc. All Rights Reserved. SRE × マネジメントレイヤーが挑戦した組織・会社 のオブザーバビリティ改革

    ― ビジネス価値と信頼 性を両立するリアルな挑戦 株式会社ココナラ 川崎 雄太 2025/10/27 Observability Conference Tokyo 2025
  2. Copyright coconala Inc. All Rights Reserved. 自己紹介 2 川崎 雄太 Yuta

    Kawasaki @yuta_k0911 株式会社ココナラ システムプラットフォーム部 部長 Dev Enablingグループ Group Manager 株式会社ココナラテック 執行役員 情報基盤統括本部長 SRE / 情シス / セキュリティ領域のEM AWS Community Builder(Security)
  3. Copyright coconala Inc. All Rights Reserved. ⚠はじめに⚠ このセッションで話すこと󰢏 • オブザーバビリティをシステム以外に活かし

    た取り組みや学び(失敗もあるよ) このセッションで話さないこと󰢃 • システムや技術に関すること全般 4
  4. Copyright coconala Inc. All Rights Reserved. SRE → マネジメントレイヤーのキャリアを 歩んでおり、後者でオブザーバビリティを

    利活用している事例をご紹介します。 このセッションが少しでもなにかの お役に立ちますように! 😁 6
  5. Copyright coconala Inc. All Rights Reserved. 7 Agenda 自分から見た組織や会社の課題 「オブザーバビリティ」に着目したきっかけ

    マネジメントレイヤーが「オブザーバビリティ」に 取り組んでみた 「オブザーバビリティ」の可能性 持ち帰ってほしいこと 2 1 5 3 4
  6. Copyright coconala Inc. All Rights Reserved. 「定量的」ではなく、「定性的」に語られることが多い 9 量で語れない =

    評価が難しい → 再現性が低い? システムは定量的・定性的に語られるが、組 織や会社という大きい括りになると、「定量性 が失われやすい」 状態。 たとえば、事業のKPIは定量的に設定されて いても、組織のエンゲージメントの KPIを 定量的に設定されていることは少ないのでは ないか? データの散在 / 回収コストの高さ / 誤ったKPI 設計などの理由があると思われる。
  7. Copyright coconala Inc. All Rights Reserved. 定量的な情報が取れていても、あまり活かしきれていない 10 PDCAサイクルが回っていないイメージ たとえば、以下のようなものは定量的な情報

    が取れていることが多いが、利活用できてい ない。 ・人:在籍年数、志向性、キャリアパス、 従業員満足度 ・組織:プロジェクトの進捗状況、逼迫度 合い、コンディション ・会社:経営イシューの計画と進捗、ブ ロッカーの量・質
  8. Copyright coconala Inc. All Rights Reserved. システムのことを理解している経営層は圧倒的に少ない(当社比) 11 エンジニアリングが直感的に伝わりにくい (バックグラウンド上、致し方ない&誇張も含ま

    れるが)エンジニアを経験した経営層は相 対的に少ない。 そのため、エンジニアリングに関する情報は咀 嚼したり、翻訳が必要となることで、コミュニ ケーションコストが高くなる。 上記作業は必要なものの、エンジニアから 見ると「疲弊しやすい」というイメージもあ る。
  9. Copyright coconala Inc. All Rights Reserved. (自明かと思いますが …)オブザーバビリティの定義 16 システムの状況を観測データで理解・説明できる状態

    未知の問いに、計測と文脈で素早く 答えられる能力 のこと。 ※ただの監視(Monitoring)= 既知の 閾値で鳴らす仕組みではない ・計測(MELT)× コンテキスト(依存関 係/トポロジ)× 探索性(自由検索・相 関)× 反復(SLO/学習)の総称 ※MELT = Metrics / Events / Logs / Traces(+Profiles)
  10. Copyright coconala Inc. All Rights Reserved. オブザーバビリティの概念を組織・会社に広げようとした動機 17 試行錯誤してみないとバリューが出せなかった もともとのエンジニア経験はバックエンド

    → インフラ → SRE。 そこに現職で、社内情報システム・セキュリ ティや技術広報が追加。 エンジニアリングマネージャー → マネジメン トレイヤーのキャリアを歩みだしても最初は なかなかバリューが出せなかった。 原点のSREに立ち返って俯瞰したとき、閃い た。
  11. Copyright coconala Inc. All Rights Reserved. (…余談ですが)少し関係した話で、 SRE NEXT 2025に登壇した🎉

    20 マネジメントレイヤーに SREのプラクティスを適用 「SREの次のキャリアの道しるべ 〜SREが マネジメントレイヤーに挑戦して、気づいたこ ととTips〜」というタイトルで発表した。
  12. Copyright coconala Inc. All Rights Reserved. 改善のステップは「対話」と 「試行錯誤」の繰り返しでした💦 「失敗 =

    悪と切り捨てる」状況に対し、 どうすれば良くなるか?を説明することで少しず つ改善しました。 23
  13. Copyright coconala Inc. All Rights Reserved. 可視化その①:共通認識の確保 24 まずは「共通認識を取れる状態」を実現する 組織・ビジネスの可視化を行う際は、職

    種を超えて「共通認識」を取れる状態に する。 エンジニアに焦点を当てて、共通認識を取る ために以下を可視化する。 ・開発チームのパフォーマンス ・組織間のコミュニケーションのボトルネック ・施策のブロッカー / …and more
  14. Copyright coconala Inc. All Rights Reserved. 可視化その②:仮説・検証のネタ集め 25 組織の隠れた問題を「見る」ために試行錯誤する 多角的に組織・ビジネスの可視化してい

    くために仮説 / 検証を行う。 「従業員サーベイの結果」をそのまま分析する のではなく、以下の要素と突き合わせて、相関 を見る。 ・施策の計画と進捗 ・採用 / 離職状況 ・席替え / MTG比率 / …and more 相関を見ないと判断を誤るリスクがある。
  15. Copyright coconala Inc. All Rights Reserved. 【失敗談🙅】可視化その②:仮説・検証のネタ集め → 1人では変えられない 26

    やっぱり周りを巻き込むことは大事 「自分がやりきらなければ」という思い込 みは結果として、うまくいかない方向に 進んでしまう。 「餅は餅屋」の部分が大きいので、適材適所で 動く。 ・まずは「共感してくれる仲間」を1人見つける ・小さな成功を一緒に体験してもらう ・人事 / 経営企画と連携して推進力UP
  16. Copyright coconala Inc. All Rights Reserved. 問題特定その①:現状評価の実施 27 「目指すゴール」「マイルストーン」とのギャップを評価 経営指標に対して、

    SLOを設定し、チー ムの健全性やビジネス価値の創出を評 価する。 社員定着率、従業員サーベイ、などもSLOを 設定し、定期的なモニタリングとしきい値未満 になった場合の改善を行う。 結果として、従業員サーベイスコアが10%上 昇した。=成果の最大化に繋がった。
  17. Copyright coconala Inc. All Rights Reserved. 【失敗談🙅】問題特定その①:現状評価の実施 → データ至上主義すぎた 28

    設定するSLOがきつすぎるとシンプルに疲弊する 社員定着率、従業員サーベイなど何でも かんでもSLOを設定すればよいというわ けではない。 たとえば、「離職率を3%未満にする」と設定し た場合に、マネージャー陣のプレッシャーとな り、逆に士気低下してしまう。(特に達成が難し い場合は顕著) ・現実的な目標設定が大事 ・バッファの重要性を再認識
  18. Copyright coconala Inc. All Rights Reserved. 問題特定その②:問題発生時のコントロール 29 「会社の信頼性」「プロジェクトの信頼性」をマネジメント エラーバジェットを経営指標や組織に適

    用し、コンティンジェンシープランを構築 する。 経営指標や組織のエンゲージメントがどの程 度損なわれる状態を許容するかを数値化する ことで、不測の事態 → 想定の範囲内と置き 換える。(「なんとなく」を排除) ・採用ヘッドカウント不足 = エラー消費 ・採用凍結期間 = バジェット回復
  19. Copyright coconala Inc. All Rights Reserved. 改善その①:複雑な状態をシンプルに 30 「Simple is

    the best」を徹底する プロジェクトの複雑性はさまざまな要素 が絡み合っているから。係数に分解し、 それをマネジメントする。 複雑なプロジェクトやシステムの状態を、エン ジニア以外にも伝わるように工夫することで可 観測性を担保する。 ・技術難易度の指標化 / 定量化 ・運用保守性を蔑ろにすることの影響の一般 化 / 具体化
  20. Copyright coconala Inc. All Rights Reserved. 【失敗談🙅】改善その②:複雑な状態をシンプルに → 「翻訳ミス」による混乱 31

    エンジニアの用語をエンジニア以外に伝えるのは難しい SREやオブザーバビリティの用語をなん とか翻訳して伝えたものの、真意が伝わ りにくかった。 伝わりやすい言い方を心がけた。 ・SLO:目指す健康状態の数値目標 ・エラーバジェット:許容できるリスクの範囲 ・オブザーバビリティ:組織の今が見える状態
  21. Copyright coconala Inc. All Rights Reserved. 改善その②:SLOの共通言語化 32 意思決定の判断支援に SLOを適切に使える状態にする

    SLO/SLIの指標を使い、技術的な投資 / 優先度変更の意思決定に SLOを共通言 語化して活用する。 予算や人員配置を経営層へ提案するときに定 量化はしていることが一般的。経営判断のリ スク許容度を数値化し、チャレンジできる幅を 見繕う。 リスクを感覚値で判断するのではなく、データ ドリブンな意思決定をする。
  22. Copyright coconala Inc. All Rights Reserved. 改善その③:ポストモーテムの普及 33 「失敗 =

    悪」という文化の脱却 営業は数値のウェイトが大きく、「失敗 = 悪」となりがち。これを血肉にする文 化を醸成する。 「失敗はあまりひけらかしたくないもの」という 認知を「次に繋げる改善のネタ」へと変換し、 失敗から得られた教訓を組織全体にフィード バックする。 ポストモーテムのテンプレートを利活用。(原 因、影響、対策、再発防止、etc)
  23. Copyright coconala Inc. All Rights Reserved. オブザーバビリティ観点の SREとマネジメントレイヤー 34 こうやって翻訳して比較すると、共通点が見つかる

    レイヤ SRE用語 経営/組織へ翻訳 メトリクス例 可用性 SLO / エラーバジェッ ト 従業員可用性 離職率 内定承諾率 変更健 全性 変更失敗率 施策の撤回率 方向転換コスト キャンセル率 再見積もり比率 俊敏性 リードタイム / MTTR 意思決定リードタイ ム 検知→決定の中央値 合意までの回数 観測 ログ / トレース パルスサーベイ 1 on 1メモ 回答率、感情スコア
  24. Copyright coconala Inc. All Rights Reserved. 汎用的に使えるプラクティスであり、システムだけでなく組織・会社へ転用可能 37 オブザーバビリティの可能性は無限大!? 「事実に基づく可視化と学習」

    がシステ ム、組織、ビジネスといったあらゆる領域へ 転用可能。 たとえば、以下のような変化があった。 ・Before:組織エンゲージメントが雰囲気議 論、意思決定が属人的 ・After:SLO(例:離職率・パルスサーベイ・ 進捗遅延率)を置き、投資の優先順位が定 量的に合意形成できる
  25. Copyright coconala Inc. All Rights Reserved. さまざまな信頼性向上だけでなく、キャリア形成にもつながる 38 取り組みがキャリアパスの広がりに寄与する 「What(何を)」を達成するだけでなく、「Why

    (なぜ)」を追求するオブザーバビリティの姿 勢が重要。 技術的な専門性だけでなく、経営的な視点を 持つことでさらに上のキャリアが拓かれる可 能性が増える。 「キャリアの選択肢が増える = キャリ アの可用性が高まる = 成功の確率が 上がる」とも言えるかも?
  26. Copyright coconala Inc. All Rights Reserved. 結局はキャリアの掛け算が選択肢を増やした 39 希少性を高める手段としては有効 100分の1を3乗すれば100万分の1。

    キャリアの希少性はその人の有用性に つながるので、それも十分武器になるという ことを認識することが、はじめの一歩。 もちろん1つのことを突き詰められれば、十分 それが希少性・有用性につながるので、キャ リアパスにおける正解はひとそれぞ れ。
  27. Copyright coconala Inc. All Rights Reserved. マネジメントレイヤーになり、視座が上がる中での試行錯誤 40 SREのプラクティスを俯瞰して使えるようになった システムの課題解決を担っていたが、役割

    が「会社全体の信頼性の向上」 に変わっ ていった。 試行錯誤の中でSREのプラクティスはあらゆ る部署の課題解決に応用できることに気づ けたことが成果。 そして、SREのプラクティスが会社を「信頼性 のあるシステム」として設計・運用するための フレームワークとして機能すると確信した!
  28. Copyright coconala Inc. All Rights Reserved. オブザーバビリティは「橋渡し」を可能とするプラクティス 43 オブザーバビリティは万人が行うべきもの オブザーバビリティはエンジニアとビジネス

    部門の効率的・効果的な対話を可能とする。 エンジニアが日々実践していることが、役割・ 職責を超えた橋渡しを可能とするプラク ティス。これは手段としてはとても良い ので、使わないのはもったいない。
  29. Copyright coconala Inc. All Rights Reserved. オブザーバビリティにはさまざまな利用用途があり、可能性がある 44 必要な箇所の可観測性を高めることにムダはない 前述の通り、

    ・組織のエンゲージメント ・プロジェクトのリスク ・経営指標 といったシステムに留まらない領域で利活用 可能。 少しでも取り組んでみようかなと思われたら ぜひ今日から取り組んでほしい。 上長や経営層にもインプットしてほし い。
  30. Copyright coconala Inc. All Rights Reserved. キャリアパスの広がりにもつながる 45 引き出しを増やすことがキャリアの選択肢を広げる 繰り返しだが、100分の1を3乗すれば100万

    分の1。 キャリアの希少性はその人の有用性に つながる。 SREのスキルは次のキャリアパスを模索す るすべての技術者にとって、組織とビジネ スの信頼性を設計する戦略的な武器 と なる。
  31. Copyright coconala Inc. All Rights Reserved. 最後に告知! 47 SRE Kaigi

    2026に今回と関連するテーマで登壇 タイトルは「SREのプラクティスを用いた3領 域同時マネジメントへの挑戦 〜SRE・情シス ・セキュリティを統合したチーム運営術〜」 で、どのように「観察」して、どのようなア クションを講じたか? の各論をお話する予 定。 1/31(土)@中野セントラルパーク カンファレンス(今日の会場)でお待ちしてい ます!
  32. Fin