2021/11/14 Cygames Tech Conference
はじめまして。サイゲームスのインタラクションデザイナーチームに所属しております鈴木と熊本と申します。インタラクションデザイナーチームは、ゲームにまつわるアニメーションやUIなど、「ユーザーの視覚、触覚を直接的に刺激する」 デザインを制作する部署になります。私たちはその中のコンテ制作をメインとしたセクション「コンテ班」に所属し、ウマ娘の開発に携わっております。本公演では、ウマ娘開発で実際に使われたコンテと、そこに込めた演出意図を解説しながら、どのような成り立ちで「コンテ班」という新しいセクションが開発内で生まれたのか、その経緯を紹介します。この講演が、ゲーム開発者の皆様、そしてゲームの演出の成り立ちに興味のある皆様の参考になれば幸いです。1
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鈴木は、プレイステーション2やニンテンドーDS時代からゲーム開発に携わり、デザイナー、プランナー、シナリオライティング業務に携わって参りました。サイゲームスに所属して以降は2Dのキャラクターアニメーションやカットインアニメーションの開発に携わり、「ウマ娘 プリティダービー」のコンテ班の立ち上げに参画し、各種コンテを制作しました。現在はコンテ班のアドバイザーとメインストーリー会話パートのカメラ監修を兼任しながら複数のタイトルでアニメーション監修や映像制作を担当しています。熊本は、ウマ娘の開発においては「コンテ班」として2019年より参画しています。ゲーム制作やアニメ制作で作画や演出に関わってまいりました。近年では3Dを利用したゲームの演出に多く携わっており、その経験からサイゲームスへの合流に至りました。2
「ウマ娘 プリティーダービー」とは、かつての名勝負、伝説のレース、偉大な記録を生んだ競走馬の名前を受け継いだ「ウマ娘」たちが織り成すクロスメディアコンテンツです。3
iOS / Android / DMMの 各プラットフォームにて、2021年2月24日からサービス開始しています。4
本セッションでは、「ウマ娘開発におけるコンテの役割」と「実制作事例の紹介」そして「コンテ班ならではの取り組み」についてお話していきたいと思います。5
それでは、本セッションの主題に移る前に、「コンテとは」 いったいどういったものなのか について解説をします。6
アニメや映画などの映像作品などには、「絵コンテ」というものがあることは、みなさんも耳にされたことがあるかと思います。映像作品を実際に制作する前に用意する、全体の流れを確認するための下書き的な設計図を 総じて「絵コンテ」と呼びます。そして今画面に出ているのが ウマ娘のゲーム内ムービーのために作られた絵コンテです。7
コンテには「文字コンテ」「絵コンテ」そして「Vコンテ」と種類があります。8
文字コンテは、主に文章だけで映像の要件を説明するものになります。その次の工程として、9
絵を合わせることで、映像の流れをより具体的にわかりやすくする絵コンテ があります。これは紙ベースでアナログで描くこともありますし、デジタル作画ツールで制作する場合もありますが、ウマ娘コンテ班では、デジタル作画で統一されています。10
そして更に、それを動画の形に落とし込み、映像の長さやタイミングをよりわかりやすい状態にしたVコンテ、ビデオコンテというものがあります。ウマ娘のコンテ班では、絵コンテ、Vコンテまでを制作しています。11
それでは、ウマ娘におけるコンテ班の役割について、解説していきます。12
ウマ娘において、コンテ班が コンテを制作する範囲については、キャラクターを 取得した時や レース中に発動するスキルカットインのコンテや、メインストーリー中のストーリーレースのように、数分に渡るゲーム内ムービーのコンテが主なものとなっています。13
他にも リリース前にはOP映像のコンテや、継承演出、ガチャ演出などのコンテを制作し、以降も、アオハル杯のOP演出用のコンテなど、その時々の施策で 新たに発生した演出のコンテ制作を 行っています。14
「コンテ班がなぜ作られたのか」についてですが、これは、ウマ娘というプロジェクトが目指したアートのこだわりに 理由があります。15
それは「競馬モチーフの丁寧な描写」と「ウマ娘の実在感の表現」です。16
ウマ娘という 実在の競走馬をモチーフとしたキャラクターを通じて、競馬の魅力、歴史を感じてもらうこと。そして、ウマ娘としてのキャラの実在感。キャラの個性をしっかり差別化して描くことで、ウマ娘たちが 実際に存在しているかのような 魅力を引き出すこと。17
つまり、実際の競馬史に根ざした「世界観」を汲み取りつつ、キャラの「実在感」も感じられるビジュアルクオリティを高い次元で融合させること。これがウマ娘開発の大きな課題でした。18
世界観をゲームに落とし込む、プランナーチームとシナリオチーム。そして、魅力的なビジュアルを作る3DCGアーティストチームウマ娘の開発陣は、全てのセクションが「より良いものを作ろう」という意識を持って働いています。この両者を強く結びつけることが「世界観とビジュアルの融合」を達成するにあたり 重要だと考えられました。そこで、開発内部に映像の設計図である「コンテ」を作る体制があればウマ娘のアートが目指す「世界観とビジュアルの融合」を効率的、かつ、効果的に目指せるはず。そういった考えが、コンテ班発足の 大きな足がかりとなりました19
プランナーとシナリオライターが制作した、ウマ娘世界を再現する上での豊富なヒントを「絵」を使って、3DCGアーティストチームが より直感的に理解しやすい 形にすること。これがコンテを描くことの大きな目的です。コンテ班の役割とは、ウマ娘の世界観と、ビジュアルを つなげる橋渡し だと考えています。20
コンテをすぐに制作できる状況を作り、コンテ制作の機動力を上げること。更に、コンテ制作の 専任者(せんにんしゃ)を集めて、量産力も高める。量産によって 運用とともに増えてゆく 新キャラクターの演出にも対応してゆく。これが、コンテ班が作られた理由となります。こういった経緯、考え方を経て、鈴木と熊本の2名からスタートしたコンテ班は、新規スタッフも迎え入れながら、ウマ娘の運用にあたって日々コンテを制作しています。21
ウマ娘のコンテ班が「世界観とビジュアルをつなげる橋渡し」をスムースに行うためにチームとして心がけているミッションがあります。それが「演出クオリティの向上」と「青写真を描く」この2つです。22
まず、演出クオリティの向上とは何か、からお話していきたいと思いますが、コンテと 演出のクオリティ の関わりについて語るためには、「ウマ娘」の ゲーム性と ゲームフローについて分析をする必要があります。23
ウマ娘は、プレイヤーの選択に沿って キャラクターのパラメーターが成長するのを確認していくゲームです。ウマ娘 を直接操作するゲームではないため、画面上の情報を「鑑賞」そして「分析」している感覚が 非常に強いゲームです。よって、ゲームの随所に挟まれる映像演出の満足度が高いことがプレイの快感に直結しやすいゲームであると言えます。24
コンテ班では、コンテ段階から映像の見応えを上げる要素をしっかり設計し 演出のクオリティを上げることが、同時にゲームの価値を上げることにも つながってゆくと考えています。では、その「映像の満足度」を上げるために、コンテ段階でどういった演出を盛り込んでいったのか、コンテ班が手掛けた アプリのOP映像のコンテを例に解説します。OP映像のアイデアは、シナリオチームと3DCGアーティストチームの協力を得ながら、全体の展開や それぞれのシチュエーションについては アートディレクターとコンテ班が共同で考案しています。25
先程ウマ娘のアートのこだわりとして「競馬モチーフの丁寧な描写」と「ウマ娘の実在感の表現」を心がけていると お話しましたが、「ウマ娘の実在感」は、キャラクターそのものが持っている感情表現や、行動の描写にあたります。この要素は、ウマ娘というコンテンツの中では、比較的表層に近い、誰にでも伝わりやすい表現です。26
一方、「競馬モチーフの描写」は、競馬ファンであれば反応できるようなエピソードや 実際のレース戦績など、ウマ娘の中においては より深い、奥の方にある魅力と捉えることができます。27
OPでは 特に これらの要素を多層的に入れてゆくことで、競馬を詳しく知っている人にも、競馬には詳しくないけれど キャラクターや世界観に興味がある人にも、どちらの興味も強く牽引できるよう設計しました。28
OP前半は、ゲームの舞台である トレセン学園を背景に、「ウマ娘の実在感」に沿った描写を手厚くしています。29
見る人に「ウマ娘のキャラクターと世界観に 親しみを持って欲しい」 という狙いに基づいてシチュエーションを設定しました。30
・サイレンススズカに少し遅れてしまう スペシャルウィークの 愛嬌のある仕草・真面目なメジロマックイーンがでリーダーシップを発揮する様子・居眠りするウオッカを放っておけないダイワスカーレットの表情キャラクターを顔見せするのに留めることなく、そのキャラクターらしい動きや感情表現、そしてキャラクター同士の関係性」というところまで踏み込むことで、キャラクターの生活感が強く印象に残るようにしています。31
中盤のスペシャルウィークとサイレンススズカが 草原に佇むシチュエーションでは、学園生活の描写から離れて、幻想的なイメージでまとめています。98年の天皇賞(秋)に、サイレンススズカで勝利できなかった武豊騎手が、翌年99年の同じレースでスペシャルウィークに騎乗し勝利した際に、その時のコメントで「最後はサイレンススズカが背中を押してくれた」 と語ったというエピソードがあります。同じ騎手を通じて産まれた競走馬のドラマを、キャラクター同士の特別な関係性として捉え、広大な草原や、海のイメージを重ね合わせて、どこか切ない雰囲気も併せ持つシーンとして制作しました。余談ですが、ゲーム内の育成における「継承」演出は、このOPからイメージを膨らませてコンテ班がコンテを制作しています。32
つづいて、夕暮れの一連のシーンでは学園描写に戻り、サビ直前のクールダウン感を担わせています。ここまでとはテンションを変え、キャラクターが佇む風景込みで観る人に雰囲気を感じ取ってもらおうと、キャラクターからあえて離れた位置からのカメラアングルを多用しています。33
それぞれのシーンの配役にも狙いがあります。教室で佇むメジロマックイーンとライスシャワーは、天皇賞(春)の【三連覇(さんれんぱ)】が目前だった馬と、それを阻んだ馬という間柄です。34
ハルウララ、ゴールドシップ、マヤノトップガンは、それぞれ親しみやすい性格のキャラクターですが、ここではそれぞれ目線をあえて合わせないことで、レースにおいては競い合う間柄(あいだがら)であることを静かに印象づけています。35
ナイスネイチャは、同一レースで3年連続3着だったという戦績から、自分に対するコンプレックスが強いキャラクターとして性格づけがなされていますが、そんなナイスネイチャの秘めた闘志が伝わってくるようなレイアウトを意識しています。36
そしてトウカイテイオーは、幾度も故障に見舞われたという史実エピソードを含み、練習後の疲労感に、少し憂いを帯びたような表情をさせています。以上のように夕暮れのシーンは、サビ手前の静かな印象を、ウマ娘の孤独の描写に重ね合わせることで、レースで競い合うというウマ娘世界の厳しさや切なさにもフォーカスを当てています。37
また、歌のサビ部分のレース展開において、ウマ娘が入れ替わりでカメラに入ってくる演出ですが、ここは特に実際の競走馬のつながりを意識して、シナリオチームにアドバイスを得ながら、次々駆け抜けていくウマ娘の人選を行いました。38
・シンボリルドルフとトウカイテイオーが続くのは、実馬が親子の関係であることから。・トウカイテイオーからナリタブライアンは、故障に悩まされながらも成績を残した者同士であること。・ナリタブライアンからライスシャワーは、祖父が同じであること。39
・ライスシャワーとメジロマックイーンは、93年天皇賞(春)を争ったライバルであること。・グラスワンダーからのスペシャルウィークは、同時期を競ったライバルだったこと。そして全体を通じて「サイレンススズカに始まってスペシャルウィークで閉じる」という意図を入れました。これらは、見た瞬間に関係性に気づいてもらう事が目的ではなく、わずかに関係性をほのめかすような温度感の演出にしています。40
サビ部分のテーマは、「ウマ娘たちが競争しながらも、まるでバトンを渡し合うかのようにお互いを意識し合う 世代を超えた ウマ娘世界の本質」を感じて欲しい。そんなシーンになっています。41
そしてラストは第4コーナーを曲がって 最後の直線の描写です。ここでは クライマックスの感動をゴールの瞬間で止めてしまわずに、そのあとのウィニングライブのシーンが最高潮の盛り上がりになるようにしたいと考えました。そのために「レースが一本の光の束になって集約してゆく」 というファンタジックな演出にすることで、ライブシーンの感動へと キレイにスライドするような演出にしています。42
OPに詰め込んだこれらの要素は、すべて「キャラクターの実在感の表現」と「競馬モチーフの丁寧な描写」というポリシーに基づいて設計されています。そして、こうした小さな描写の積み重ねこそが、「演出クオリティの向上」につながってゆくと、私たちは考えています。「ウマ娘」という別世界の出来事(もとは「架空の世界の出来事」)であるからこそ、競馬の光と影をしっかりと投影させる。それによってキャラクターの実在感を上げながら、元の競走馬へのリスペクトも昇華しよう という思いを込めました。43
キャラクターとそのバックボーン、それぞれが多くの情報を持つウマ娘のようなコンテンツにおいては、小さな演出のひとつひとつに意味を持たせることが「演出クオリティの向上」につながると、コンテ班は考えています。44
たくさんの人が同じ映像を見る時、ものの感じ方、価値観は人によって異なるため、見ている人全てに同じ感動を与えることは難しいです。45
しかし、要素を多層化することによって、多くの人たちにそれぞれ異なる面白みを見出してもらうことは可能です。ウマ娘のOPは、「キャラクターの実在感」そして「競馬モチーフの丁寧な描写」の 2つの軸 を丁寧に折り混ぜることで、見る人の感動を 戦略的 に引き出そうと試みました。46
ウマ娘において、演出クオリティが高い状態とは、すなわち「より多くの人が嬉しくなる」映像である、ということです。シーンに込めた意図が、3DCGアーティストチームと、外部の 協力会社様 によって細かく再現され、ウマ娘を長い間待ってくださった方々にも響くものがある映像にできたのではないかと思っています。さて、ここまでコンテ班のミッションである 「演出クオリティの向上」について、OPを例にとって説明をしてきました。47
そしてここからは、コンテ班のもうひとつの重要なミッション「青写真を描く」ことについてお話していきたいと思います。48
青写真を描く、つまり設計図を作る重要性について、キャラクターのカットイン演出を例にとって説明します。ウマ娘というゲームに置いて、カットインは、関わる人数が非常に多いコンテンツです。まずはプランナーによる要件固め、シナリオライターによる キャラクター設定の観点からの 監修、そして3Dも モデリング、モーション、エフェクト、 背景、カットシーンとで それぞれ担当が分かれ、更には、背景画や小物(こもの)の設定画などが必要な場合はイラストレーターも参加しますし、表現として、新しい 機能開発 が必要であれば エンジニアも加わります。別々のセクションをまたいだ多くのスタッフが 一つの映像を手掛ける時には全員で 共通認識 を最初に持つことが 制作上 非常に重要になってきます。49
これは実際のカットイン製作に使われたコンテになります。このコンテの中には、キャラクターの動き、カメラワークに加えて、個々の動作の長さ、必要な背景、そしてエフェクトなど、「実際に映像を作るにあたって 必要になる要素」が入った状態になっています。コンテが最初にあることで、文字コンテの内容についての 解釈の齟齬がないか確認することができますし、イメージ再現のために、エンジニア側で機能拡張対応の必要があれば、その相談を早い段階から進めることもできます。どんな背景、どんなオブジェクトが必要なのかも分かるため、使用するメモリ量のある程度の予測も可能です。いざ作り始めたら工数が足りない…3Dでの再現(さいげん)が難しい…というようなトラブルを事前に防ぐことが可能になります。50
また、コンテがあることで、ただ進行が安定するだけではなくアセット制作前にディレクター、アートディレクターと認識のすり合わせを行えるのも大きなメリットです。ディレクターチェックは、実制作の最終段階に行われる事が多いですが、コンテ完成時にチェックのタイミングを入れておけば、大体の映像の仕上がりを想像してもらった上で、ディレクターからの新規の要望も効率的に反映させることが可能になります。51
コンテ制作によって、進行全体の 青写真 を描くことが、映像の完成度をより高めることにも直結する、という事が言えます。52
コンテ班のミッションである、演出クオリティの向上。そして青写真を描いて効率化をはかること。これによってアート全体のこだわりを維持しながら、完成度の向上も同時にねらってゆきたいと 私たちは考えています。以上、ウマ娘コンテ班のミッション、そしてそのミッションをかかげた理由についての解説でした。続いては、熊本による実制作事例の紹介、具体的なコンテのテクニック、こだわったポイントについて解説します。53
ここからは「コンテ実例紹介 」と題して、コンテがどのように制作されていったかを、熊本が解説します。よろしくお願いします。54
紹介するのは、ゲーム中で見ることのできるスキルカットイン演出と、ストーリーレース演出です。スキルカットインは「サンライト・ブーケ マヤノトップガン」。ストーリーレースは、「2章10話 天皇賞春」を取り上げます。このコンテ実例紹介では「コンテを制作する中で、どのように情報を積み重ねて、映像演出を考え、実現させていったのか?」を紹介します。コンテ段階で様々な試行錯誤を経て、カットを制作していることを感じていただけたら幸いです。55
スキルカットイン演出のコンテ実例紹介に入ります。56
スキルカットインのコンテ完成までを図にしてみました。左から、文字コンテ、大ラフ、絵コンテ、Vコンテ となります。大ラフとは、コンテよりもさらにシンプルな絵で、イメージの方向性を共有できるよう示したものです。各工程を経て、少しずつイメージが明確になり、可視化されていきます。シナリオチームやプランナー、3DCGアーティストチームなど各セクションと意見交換を行いながら、映像完成に向けてコンテ作業は進行します。57
今回紹介するスキルカットインのウマ娘はマヤノトップガンです。マヤノトップガンは、末っ子で甘えん坊というキャラクター性で、大人の女性にあこがれている、といった面があります。ただ元気いっぱいというだけではなく、実馬が持っていた抜群なレースセンスを「無邪気さの奥に秘めた天才的才能」というキャラクター性に反映させています。58
今回のマヤノトップガンは「サンライト・ブーケ マヤノトップガン」という花嫁をモチーフにした衣装となっています。大人の女性にあこがれるマヤノトップガンが、花嫁衣裳を着ることによって、はたして、どのような映像になるのか?59
実際の映像の流れになります。空高くから飛来するマヤノトップガンをアオリ角度でとらえ、カメラが回り込み、降下してゆくマヤノトップガンとハート型のパラシュートを写します。最後に、持っていたブーケを手放す瞬間と、ハート型の雲を重ねたところでフィニッシュとなります。60
カット構成について紹介します。まずスキルカットイン共通の特徴でもある、タテ画面構成についてです。スキルカットインでは、タテ長な画面を生かす空間レイアウトを意識しています。61
タテ画面はヨコ画面に比べると、人物の収まりを大きくできるというメリットがあります。視認性を上げるため なるべく画面の上の位置に キャラクターの顔、とくに目を配置するようにしています。タテ画面でゲームをプレイするときに必要な情報が 画面下に集中することが多いため、プレイする人の視線を迷わせないように、適切な位置に配置したいという意図があります。また、スキル発動時に画面下にテロップが表示されるため、といった理由からです。映像作品では一般的にヨコ長の画面が多いですが、タテ画面はウマ娘たちの魅力を引き立たせる良い条件になりうると考えてコンテ制作に挑みました。62
次に各カット構成です。サンライト・ブーケ マヤノトップガンは4カット構成になっています。どのカットも複数のアクションを入れ、情報を込めてコンテを制作しました。1カットずつ検証していきます。コンテ時の試行錯誤をご覧ください。63
まずカット1です。マヤノトップガンの衣装と元気さを早い段階で見せ、このスキルカットインのテンションと、彼女の魅力を伝えます。64
青空に 白い煙を引いた飛行機が横切ります。65
そこからブーケを持った花嫁衣装のマヤノトップガンが降下します!66
さらに、画面全体に覆いかぶさる勢いで降下します!その直後、パラシュートを開くという要素でリズムをつくります。マヤノトップガンの落下速度が減速し、カメラの速度と近づくことで「顔をしっかりと見せたい!」という効果を狙いました。67
次にカット2です。こちらはパラシュートを開いた後のマヤノトップガンの表情を最初はfollowしつつ、カメラは離れていきます。68
ここでは顔の位置は画面下になりますが、すぐに上昇することでカット1 からの連続性を感じさせ、「浮遊している」イメージを強化しています。69
全身が見えることでパラシュートが開いたことが明示され、空間の広がりから 映像にポジティブな解放感を与える役割を担っています。70
カットのラストでは カメラがダイナミックにフカンとなります。パラシュートがハートマークであることもわかり、彼女の可愛らしさを描写しています。71
次にカット3です。ここではブーケを持ったマヤノトップガンの表情変化を見せてあげたいカットです。72
カット頭は、顔正面に回り込みます。73
ブーケを見たあと、ニッコリと笑顔を見せます。74
そこからブーケを大きく投げる動作により、彼女の元気いっぱいな印象が伝わるよう絵作りをしました。カット冒頭のサイドショットは、完成映像ではもう少し顔の位置が上に調整されました。そうすることで最初はブーケと衣装に目が行き、その後は顔に視線が移動しやすいレイアウトとなります。マヤノトップガンの表情を見せたい意図が、より強化される展開に繋がりました。75
そしてカット4です。投げられたブーケ、ハートマーク、大きく手を広げるマヤノトップガンといくつもの要素があります。76
まず投げられたブーケは、飛行機が描いたハートマーク型の煙と重なります。77
カメラが引くと、大きく手を広げたマヤノトップガンが見えて、カットの締めとなります。花びらの位置は3DCGアーティストチームと細かく相談し、顔や小物に被らないよう配置しました。そういった細やかな制御も、キメのカットを彩るために重要になります。コンテを制作する中で見せるべき情報を整え構成することが、キャラの魅力をストレートに伝える上では重要になります。小さな積み重ねで より高い映像演出クオリティを目指し、スキルカットインのコンテを作り上げました!78
スキルカットインとは…「約7秒のキャラクターPV」 と私たちは考えています。ウマ娘たち ひいては… ゲーム全体を輝かせる映像を作るつもりで、たくさんの情報を扱い、コンテを制作しています。79
次は、2つ目のコンテ実例紹介としてストーリーレース演出について紹介します!80
ストーリーレースのコンテ完成までの図となります。左から、発注書、絵コンテ、Vコンテ映像です。工程を経て、少しずつイメージが明確になり、可視化されていきます。81
今回 紹介するストーリーレースは、2章10話 天皇賞(春)です。これは実際の93年の天皇賞(春)をモチーフにしています。主な登場ウマ娘はメジロマックイーンとライスシャワー。メジロマックイーンは、3連覇このレースに重賞3連覇がかかっており、ライスシャワーに必ず勝つつもりでレースに挑みます。一方のライスシャワーは、ここまでのレースで、ミホノブルボンの3冠を阻止して勝ち、ブーイングを受けてしまうという展開がありました。そのため当初はこのレースに出ることをためらっていましたが、他ならぬミホノブルボンとメジロマックイーンの協力によって奮起しレース出場を決意。最終的にはライスシャワーが勝利を掴みます。メジロマックイーンとライスシャワーの対決を描く上で、いかに感情が高まるポイントを制作するかが重要な課題でした。82
ストーリーレースにおける映像表現実例1つ目は、「多彩なカメラワーク」です。83
ストーリーレース全体に通じるカメラワークの重要なポイントは「競馬中継的な 映像表現を押さえること」です。例えば、・コーナーから直線に入るときのロングショット、・コーナーを走るバ群を追いかけるカメラ、・向こう正面を望遠で追いかける、こういったアングルは、いずれもカメラとウマ娘の間に距離感を感じさせ、客観的な印象の画面を作ることができます。客観的なカメラはレースの流れをイメージしやすくなるため、レース展開の盛り上がりを自然と体感できるように…という狙いでコンテに入れ込みます。84
一方、客観的なカメラとは逆に、ウマ娘たちに積極的に迫るカメラワークも使用します。こちらは競馬中継的なカットとは役割が異なり、ウマ娘たちの対決や心情に近づきながら展開を盛り上げるカメラワークとなります。85
このカットは、奥行き感やスピード感を出すため、地面に近い位置からスタートします。バ群にカメラが走り、そこからウマ娘たちを追従し、その後 素早くメジロマックイーンに迫るという、レースの臨場感を意識したカメラワークです。「より ウマ娘たちに近い距離で 迫力を感じてもらいたい」、そういう意図で、コンテに盛り込みました!86
次のカットは、第3コーナーにさしかかるバ群にカメラが降下しつつ、メジロマックイーンをとらえ続けるという、ドローンカメラのようなカメラワークです。全体の空間を見せつつも、やや下手(シモテ)にPANすることで ライスシャワーが迫る緊張感を維持しています。単にカメラを動かすというわけではなく、そこに2重、3重の意味を込めることで、より映像に連続性を持たせる意図があります。複合的な役割のあるカメラワークを目指しました。87
こちらはレース後半、ライスシャワーに迫りながらfollowするカットです。後方からメジロマックイーンも迫りますが、ライスシャワーは更なるスパートをかける!という勢いを重視したカメラワークです。二人の距離感を意識しながら、カメラを少し上手(カミテ)に回して、ライスシャワーの表情をしっかりと拾うことで、その強さを印象付ける役割もあります。カット終わりはフレームアウト気味になり、次のアクションに繋がる流れになっています。88
ストーリーレースにおける映像表現実例2つ目は「イメージ背景とキャラクターの内面描写」です。89
イメージ背景はキャラクターの心理状態を表現する際に効果的です。また、画面の見た目に明確な変化が現れるため、映像の流れにアクセントを持たせることも期待できます。ストーリーレースは実機上でリアルタイムに3D描画している都合上、新規の演出を制作する際には、メモリや新規実装など様々な制約が生じます。その上で、レースのドラマ展開をより高めるためにこういった表現へのチャレンジが必要でした。90
こちらはライスシャワーが見ているスローモーションの光景です。ライスシャワー目線であり、メジロマックイーンを必ずとらえてみせる。そういった心情を、このイメージ背景の画面に託しました。この回のストーリーレースでこうしたイメージ空間を実装したことにより、これ以降のストーリーレースでも、同じ機能を利用して演出の幅を広げることが出来るようになりました。91
ライスシャワーが過去のレースの苦い体験を思い出している回想シーンです。この後、時間軸を現在に戻して、奮起してスパートをかける…という展開を目的にした演出です。「キャラクターの、レース中の心情変化」と「時間軸の変化」これらの表現によって、物語性をより深く描写することができます。時間と場面が切り替わる表現自体は、映像作品ではよく使用される手法ですが、リアルタイム描画では、使用できるメモリを限界まで拡張してレースを再現している都合上、場所そのものが切り替わるような表現を実現させることは挑戦でしたが3DCGアーティストチーム、エンジニアチームの協力によって実現することができました。92
ストーリーレースにおける映像表現実例、3つ目は「レース展開を意識したカット構成」ですストーリーレースは、史実のレースをモチーフに作られています。ウマ娘たちそれぞれに史実に沿った因縁があり、そのドラマに耐えうる演出が求められるため、カットの構成力が非常に重要になってきます。93
レース中に、メジロマックイーンとライスシャワーが映っているカット数を図で示したものです。対決というだけあって、全38カット中、18カットで、2人が同時に入り込んでいます。94
大きなレースの流れは、序盤はメジロマックイーンの描写が多く、終盤になるにつれ、ライスシャワーや、2人の描写が増え、最終的にライスシャワーが勝つ という展開です。95
レースのクライマックスでは、ユーザーに臨場感を与え、ウマ娘たちの感情をより間近で感じ取れるようなイメージで作りました。・レース前半の展開は、メジロマックイーンの画面占有が続きます。・中盤は徐々にライスシャワーが入ってきます。2人が入るカットも増えてきます。・そして終盤!ライスシャワーがスパートをかけます。ライスシャワーの方が画面の中で大きめに配置されています。しかし、メジロマックイーンも引けを取らない様子を描写しています。注目すべき対決の行方が次々と変化していき、見ている人を白熱させる展開になるようコンテを描きました。96
最終カットは、ゴール後、静かに拳を握るライスシャワーの姿です。「彼女自身の葛藤を振り切って勝利した」という描写と「マックイーンの勝利が期待されていたレースが、静かに収束してゆく」という、キャラクターの感情と、場面の雰囲気の両方を込めたシーンとして制作しました。97
最終カットのポーズを成立させるために、コンテ絵のような顔の角度からより良いポーズにできるかどうかを3DCGアーティストチームと協力して調整し、完成させました。3Dでは比較的難しい横顔を、丁寧に角度調整しながら、表情のおさまりのよい画角を探ってゆき、ライスシャワーの特徴である長い後髪が美しく見えるように調整を重ねています。コンテをただ再現してもらうのではなく、そこに込めたニュアンスを伝えながらも改善を図っていくことがチームで映像を制作する大きなメリットです。98
ストーリーレースとは「史実モチーフに繰り広げられる、ウマ娘たちの熱いレースの物語」です。ストーリーレースのコンテ制作では、映像的な迫力はもちろんのこと、「ウマ娘たちの熱いドラマ」を説得力をもって描き出すことに挑戦しました。99
コンテ実例紹介のまとめです。・スキルカットインでは、情報を積み重ねて、短い尺で魅力ある画面を構成しました。・ストーリーレースでは、史実をモチーフとした物語をより深める映像表現にこだわり、挑戦しました。・そして、コンテ班は各セクションと協力し、ウマ娘たちの魅力をより高めるためのカット作りにこだわりました。これからも、「ウマ娘」を遊んでいただいているトレーナーの皆様により喜んでもらえる映像を目指し、コンテを制作していきます。以上、コンテ実例紹介でした。100
熊本からは、コンテをもとに具体的な意図やテクニックについて解説しました。改めて 鈴木に交代しまして、ここからは、「ウマ娘のコンテ班ならではの取り組み」について紹介していきます。101
コンテ班をチームとして成立させていくにあたり、様々な試行錯誤をしてきましたが、その中でも特に重要だったのが「多様な人材が活躍できる組織づくり」そして「振り返りによる認識のアップデート」です102
それではまず「多様な人材が活躍できる組織づくり」から、お話します。103
コンテ専任のチームを作るにあたって 重視していたのは、「ムービーごとに 最適解を試行錯誤する 組織を作る」 ことでした。104
OPであれば、ゲームの世界観をしっかり示せているか。カットイン演出であれば、 短い尺で効果的に各ウマ娘の魅力 を引き出せているかストーリーレースであれば、史実レースをモチーフにした展開と、映像としての見応え をしっかり出せているか。105
一つのゲームの中でも、その映像が使われる箇所によって求められる「良い映像」は異なります。最適解をその都度試行錯誤する…という姿勢が ゲーム内の映像を作る上では、非常に重要な考え方になってきます。実際にコンテ班に所属し、コンテを制作しているスタッフが どうやって 「最適解」を探し当てようとしているかそれを説明するために、まずはコンテ班のスタッフの スキルセットを紹介します106
鈴木と熊本のスキルセットは、大きいくくりで分けると「ゲーム開発」「アニメ制作」の人材と言えます。そして現状のコンテ班のスタッフの経歴を見ると、あるスタッフは、3DCGスタジオで3Dアニメの制作経験を持っています。別のスタッフは、ゲーム用の映像のコンテ制作だけでなく、実写の特撮作品の コンテを制作した経験があり、また別のスタッフは、アニメのコンテだけでなく、マンガの制作経験もありました。107
それぞれに、何らか映像の 制作経験があり、コンテを制作するスキルがある という点は共通していますが、全体としては多種多様な経験を持つ人材が集まっています。このように、コンテ制作の経験を 主軸としながらも、様々なサブスキルを持っているスタッフが所属していることを「ムービーごとに 最適解を試行錯誤 する」という目標に、うまくつなげていきたいと考え、様々な取り組みを行いました。108
その取り組みの一つが「コンテ班内レビュー」という体制です。コンテ班内レビューとは、作業者が コンテを制作した後、他セクションに共有する前に、まず コンテ班の中で意見を募り、コンテの精度をより上げてから共有する、というルールになっています。109
はじめは、個々のスタッフがそれぞれのコンテに対して個人的に感想を言う…というところから始まりました。キャリアのバックボーンが異なると、同じコンテを見ていても 自然と指摘される箇所が異なってきます。幅広い経歴を持つスタッフだからこそ出せる「多種多様な意見」をそのまま活かすことが、コンテ班のチームとしての個性を高める役に立つのではないかと分析し、ルール化していきました。110
特撮であれば、モーションキャプチャーによる「演者の動きを想定した演出」や、3DCG経験者であれば、「立体的な動きが 映えるレイアウト」はどうか。であったりマンガ制作経験者であれば「話も絵も一人で制作する経験が豊富なため、全体の展開に対しての改善案が出せる」 などです。111
コンテ班では、これら個性的な意見を画一化することはせずそのまま「演出を見た人が持ちうる感想」のサンプルとして活かすことで、3D側で実制作に進む前に、「より高い精度、そして広い知見でアイデアの完成度を上げる」という流れを、仕組みとして定着させていきました。112
各人が意見を寄せ合うことで、まとまらなくなってしまうという事がないように、コンテ班内レビューにおいては、「あくまで個人の意見を伝えるに留め、ジャッジはしない」ということを心がけます。上がった意見のどれを採択し、どう改修してゆくかは作業者自身にゆだねられています。進行するのはあくまで作業者という部分を崩さなければ、単純に意見のサンプルが多いことと、その内容がバラエティに富んでいることは、大きなメリットです。一方で、コンテの内容が発注書から離れたものになってしまわないよう、「コンテ班リーダーがクオリティチェックを行い、必要であればコンテ班内で差し戻しをし、他セクションの確認に備える」…という体制でフォローしています。113
また、現在コンテ班は全員 在宅勤務となっていますが、定期的に 音声通話による「雑談のためだけの通話時間」を設けています。今日の天気がどうたったか、というような話題から、最近興味があることまで、何気ない会話の機会を増やすことで、スタッフの好きなものや 考え方を知っておくことは、仕事を円滑に進める上で 欠かせない時間です。その積み重ねが、長期的には コンテ班内レビューで意見を言い合う体制を 維持することに 大きく貢献します。また、「業務上気になっていたことや、作業の進め方で提案したいこと」なども会話の中からすくいとれるので雑談MTGはコンテ班のチーム運用において明確にメリットが多く、積極的に運用に活かしていくべき という認識になっています。114
コンテをチームで作っていくことのメリットについてここまでお話してきましたが、一般的にはコンテの制作は、1つのコンテを1人のスタッフが 集中して制作する というケースが多いです。コンテを制作した直後に、同業者からのフィードバックがもらえて、すぐにコンテを改善できる状況は私を含むコンテ班スタッフが、ゲーム、TVアニメの制作現場で経験したことのない珍しい体制です。115
チームで作るからこそ、コンテに様々な意見を吸収しあいながら それぞれの成長を促せる。そして、コンテ班はそれを 個人の間でのやりとりに留めず、ルール化して持続できるよう努めています。という事例でした。以上、「多様な人材が活躍できる組織づくり」について、お話しました。116
ウマ娘コンテ班ならではの取り組みについて、最後は「振り返りによる認識のアップデート」についてです。ここまでの解説では主に コンテ制作中 についてのお話でしたが、コンテを納品し、3DCGアーティストチームが実制作した後完成した映像を確認しながら「どういったコンテが3D的に効果的なのか」を分析する機会を設けています。117
ストーリーレース開発中の出来事を例にとりますと制作初期のコンテでは、このように「走っているウマ娘をカメラの中央で捉え続ける」レイアウトを多用していました。コンテ側、3DCGアーティストチーム ともに、ゲーム中のリアルタイムムービーでどこまでの表現が可能なのかが 手探り段階だったため、「想定したような絵にならない」というリスクを回避する意味でも、比較的安定感のあるカットチェンジでコンテを構成していました。118
しかし、3DCGアーティストチームによって実制作が進んでいく中で「もっと迫力のある映像ができそうだ」と、提案を受け制作された映像はコンテ時点での想定よりもカメラに躍動感が増し、よりキャラクターが生き生きとしていました。119
今画面に表示されているのが、3DCGアーティストチームが制作に使用している社内製ツールの「ストーリーレースエディターです」こちらのツールでできることのレクチャーを受けながら、3Dとコンテ班とで相互に意見交換を重ねてゆくことで「ストーリーレースエディター」は、かなり自由度が高く、当初想定していたより幅広い表現ができる…ということがコンテ班側にも分かってきました。120
こういった流れを経て、「3Dで出来ることが増えるなら、コンテ班は常にそれを学習しながら、次のコンテでは 更に新しい表現を探っていく」という姿勢が望ましい、と コンテ班内で意見が固まりました。コンテ班をチームとして強くしていくためには、コンテ側も3DCGアーティストチームと同じ視線を持つことが重要であり、そのためには、3Dとして完成された映像をしっかり分析、自分たちのコンテが3D側に対して最適な情報を提供できるものだったかを振り返り、認識をつねにアップデートしてゆく事が重要だと考えました。この考え方が「振り返り」のルール化につながってきます。121
ウマ娘の表情などを 3D側でフェイシャルを細かく調整している事例を振り返り、ストーリーレース3章では「今までのコンテではやっていなかった表現で 観る人を驚かせる」ことを目指して、意図的にコンテの段階での崩しを激しくしました。ウイニングチケットが鼻水を垂らすような大胆な表現は、発案したスタッフと、実際にコンテを描いたスタッフは別人です。「個人の発想力に任せるだけでなく、チームで話し合って表現を高めてゆく」という動きが現れた例で、これも振り返りを蜜に行った効果と言えます。熾烈(しれつ)なレースの中で、なりふり構わぬ必死さを隠さないウィニングチケットというキャラクターの良さを3DCGアーティストチームとの二人三脚で 引き出せたのではないか と思っています。122
そして振り返りには、見た人の反応をよく知ること も含まれています。自分たちがやりたい表現を達成した後は、その表現が見る人にどう受け止められたかを必ず分析します。何がポジティブに受け止められたか。うまく伝わらなかった部分はなかったか。それらを振り返ることで、次回のコンテではどういう工夫をすれば より効果的に演出を伝えられるか?と考える姿勢が自然と産まれてきます。振り返りによって、演出の精度を高める努力を続け、見る人に新しい驚きを提供することを忘れない姿勢を心掛けています。123
以上、ここまで「コンテ班ならではの取り組み」についての解説でした。多様な人材が活躍できる組織づくり、その一環として コンテ班内の相互レビューが有効であったことそして、振り返りの機会を蜜に設定することで、他セクションとの連携を高めながら、見る人に届く新しい表現を探ってゆけたこと。これらを自覚的に運用していくことが、ウマ娘コンテ班という まだ若いチームを より強いものに育ててゆくために重要なことだと考えています。124
では、最後に まとめに入ります。125
ウマ娘は、実在の競走馬をモチーフにした キャラクターが活躍する コンテンツであると同時に、競馬そのもののロマン、競馬ファンの思いまでをも含めたコンテンツ として育って欲しい と私たちは考えています。今回は、コンテ班という一部分の紹介ではありましたが、ウマ娘のゲーム開発はプランニング、シナリオ、3DCGエンジニア、イラストレーション、デバック…と様々なセクションの人たちの努力によって成り立っています。ウマ娘をより良いコンテンツに育て、より多くの人に楽しんでもらえるものを作れるよう、開発者全体で 演出技術を高めてゆく方法を 試行錯誤し続けていきたい と考えています。126
全ては、ウマ娘たちが輝く最高の瞬間のために!以上を締めの言葉として、本セッションを終了とします。本日はご清聴ありがとうございました。127