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滑空スポーツ講習会2021(実技講習)EMFT学科講習資料/JSA EMFT 2021

JSA seminar
December 03, 2021

滑空スポーツ講習会2021(実技講習)EMFT学科講習資料/JSA EMFT 2021

滑空スポーツ講習会2021(EMFTオンライン学科講習/EMFT実技講習)
http://www.japan-soaring.or.jp/2021jsaemft/
公益社団法人日本滑空協会

講師 公益社団法人日本グライダークラブ 櫻井 玲子

JSA seminar

December 03, 2021
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  1. 2021/07/03 2 本資料の作成に当たり、ご協力及びご助言をいただきました皆様に深く感謝申し上げます。 ・中部日本航空連盟岐阜支部 佐藤 文幸様 : 滑空機性能計算ツールの作成と提供 ・九州大学大学院工学研究院航空宇宙工学部門 東野伸一郎様:

    滑空機の航空力学に関する監修及び助言 前編:自家用コース 1. グライダーの危険 2. 失速のメカニズム 3. スピンのメカニズム 4. 失速・スピンの兆候と回避 5. 飛行の根拠 6. EMFT実技実施要領 後編:指導者コース追加分 7. パイロットに必要な能力 8. ケーススタディ 9. 滑空機安全啓発動画 10. 意見交換 参考資料 11. 空間識失調とサブG感覚 12. 空中接触 13. 人間の能力の限界 内容
  2. 2021/07/03 4 前編:自家用コース 1. グライダーの危険 2. 失速のメカニズム 3. スピンのメカニズム 4.

    失速・スピンの兆候と回避 5. 飛行の根拠 6. EMFT実技実施要領 後編:指導者コース追加分 7. パイロットに必要な能力 8. ケーススタディ 9. 滑空機安全啓発動画 10. 意見交換 参考資料 11. 空間識失調とサブG感覚 12. 空中接触 13. 人間の能力の限界 内容
  3. 6 滑空機事故統計(1974~2019) 運輸安全委員会航空事故報告書検索より作成 0 2 4 6 8 10 12

    14 1974 1975 1976 1977 1978 1979 1980 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 その他の事故 重傷事故数 死亡事故数 2021/07/03
  4. グライダー死亡事故原因(1974~2019) 7 27件 17 3 2 2 1 1 1

    スピン 悪天候 低空進入 空間識失調 空中衝突 器物衝突 酸素欠乏 運輸安全委員会航空事故報告書検索より作成 2021/07/03
  5. 2021/07/03 8 滑空機重大事故(死亡/重傷/大破) 1 年 場所 機体 事故原因 状況 2019

    焼岳 DG500エラン 下降気流 山岳風下側の下降気流で高度低下 2017 福島 H-36 Dimona スピン 谷間で低速急旋回 2016 妻沼 LS-4b スピン 場周経路上で低速旋回 2016 福島 GF304 CZ-17 空中分解 酸素OFFでウェーブ上昇中の低酸素症 2016 千葉 プハッチ スピン ソアリング中?の低速旋回 2016 阿蘇 ぺガス 立木衝突 ウィンチ故障の自然離脱による低空旋回 2015 霧ヶ峰 Duo Discus スピン ウィンチ索切れ低空旋回中下降風遭遇 2015 滝川 Discus bT スピン 場外着陸中の低速旋回 2013 北海道 H-36 Dimona 下降気流 山脈の稜線超えで下降気流に遭遇 2008 板倉 ASK23B 立木衝突 低高度での最終進入 2008 飛騨 G109 立木衝突 着陸時にオーバーラン 2007 都城 FOX 失速 低速進入による失速 2007 霞目 ASK23B 空間識失調 ウィンチ曳航中のヒューズ切れ 運輸安全委員会航空事故報告書検索より作成
  6. 2021/07/03 9 滑空機重大事故(死亡/重傷/大破) 2 年 場所 機体 事故原因 状況 2007

    長野 ASK23 送電線衝突 リッジソアリング中に接近 2006 但馬 ジマンゴ スピン 滑走路に引き返す時に低空旋回 2005 妻沼 ASK21 川面接触 ベースで急降下中の機首引き上げ遅れ 2005 関宿 ASW24 Top スピン ソアリング中の低空低速急旋回 2005 浜北 クラブリベレ スピン ウィンチ曳航中に不適切な上昇姿勢 2005 関宿 Super Dimona 地面接触 被曳航機が曳航機を吊り上げ 2005 久住 プハッチ スピン 追い風ウィンチ曳航による失速 2005 板倉 ベンタス2a スピン 低空進入時の低空外滑り旋回 2004 韮崎 ファルケ 不時着破損 離陸時の過度なエンジン出力減少 2004 栗橋 PW-5 スピン ウィンチ曳航中の傾き 2002 小名浜 RF5 船舶衝突 濃霧中でVMCの維持不能 2002 関宿 プハッチ スピン 飛行機曳航索離脱後の低空旋回 2000 栗橋 Ka6CR スピン 場周経路上の低速旋回 運輸安全委員会航空事故報告書検索より作成
  7. 2021/07/03 10 滑空機重大事故(死亡/重傷/大破) 3 年 場所 機体 事故原因 状況 1999

    角田 DG-400 空中分解 ウェーブ飛行中のフラッター 1998 八ヶ岳 タイフーン17E 山岳衝突 意図しない雲中飛行での空間識失調 1997 阿蘇 L23 ブラニック スピン ウィンチ曳航中の減速と自然離脱 1996 宮城 Discus bT スピン 不時着のエンジン始動遅れ 1996 美幌 ASK13 失速 ウィンチ曳航中の減速 1996 美瑛 ASK13 スピン 不適切なオーバーヘッドアプローチ進入 1992 小山 L13ブラニック スピン 不適切な飛行機曳航追随 1989 当間 Ka6E スピン ソアリング中の低速旋回 1983 妻沼 H-23C 空間識失調 ウィンチ曳航中の意図しない雲中飛行 1983 関宿 IS29D2 スピン 場周飛行中の低速旋回 1983 宝珠花 ASK18 空中分解 ウィンチ曳航中のメインピン脱落 1982 霞目 ピラタスB4 スピン 第4旋回中の低速旋回 1978 太田 B4/ASK13 空中衝突 ソアリング中の空中衝突 運輸安全委員会航空事故報告書検索より作成
  8. スピン重大事故(死亡・重傷事故)発生形態(1974~2019) 12 26件 8 6 3 3 2 2 1

    1 ウィンチ曳航 場周 ソアリング中 場外着陸 飛行機曳航 動力離陸 自動車曳航 山岳旋回 2021/07/03 運輸安全委員会航空事故報告書検索より作成
  9. スピン死亡・重大事故 操縦士資格(1974~2019) 13 13 10 2 1 自家用 教育証明同乗/保持者 練習生

    飛行機自家用のみ 26件 2021/07/03 運輸安全委員会航空事故報告書検索より作成
  10. 日本の失速・スピン重大事故の機種 <複座> ( )内機数 ASK13 (2) プハッチ (2) H-36 ディモナ

    (1) 三田3改1 (2) デュオ・ディスカス (1) FOX (1) L23 スーパーブラニック (1) IS29 (1) H-23C (1) SF25C (1) ジマンゴ (1) <単座> ( )内機数 ASW24 (2) ディスカスbT (2) ピラタスB4 (2) ベンタス2a (1) クラブリベレ (1) LS-4 (1) Ka6CR (1) Ka6E (1) PW-5 (1) 14 2021/07/03 14 運輸安全委員会航空事故報告書検索より作成
  11. 300m以下のスピン スピンに入ったところでゲームオーバー。 曳航初期であれば、一旋転する前に地面 に衝突している。 スピン訓練に必要なのは、回復訓練よりも 回避訓練。 19 FAA Glider Flying

    Handbook 下を向きながら回転しているので、回復するとノーズダイブの状態 回復時の速度 エレベーターやや戻す:150km/h エレベーター中立:180km/h エレベーター押す:200km/h 増速~フレアー:失高 50-100m 150km/hからの引き起こし:約50ft上昇(プハッチの場合) 不時着適地は?風向は? 高速からフレアーかけられるか? 恐怖を感じながら、冷静に操作できるのか? 2021/07/03
  12. 20 ASK 21 glider spin entry during Flight Test 2021/07/03

    https://www.youtube.com/watch?v=yXH6XDxQdPY スピン一旋転にかかる秒数、自転中に機首が上下することを確認。
  13. 事故原因の分析 21 事故統計及び事故報告書を分析すると、下記の傾向がみられた。 1. すべての事故に共通 ・回復不能な状況に至るまで、グライダーが危険に近づきつつあることに 気が付いていない。・・・状況認識力不足 ・危険に気が付いた時は、もはや手遅れな状況となっている。 ・咄嗟の判断で行ったアクションにより、さらに事態が悪化 ・理論的な根拠のない直感的なアクション

    ・グライダー運用のために必要な知識・技量・経験不足 ・操縦士に必要な総合能力(状況認識力、判断力、法令順守)不足 2. スピン事故の特長 ・大多数の事故が場周高度(約200m)以下で発生 ・離陸直後のスピンは1旋転する前に地面に衝突 ・失速はスティックフォワードで回復することをわかっているにも関わらず、 地面に衝突するまで、渾身の力でエレベーターを引いている。 2021/07/03
  14. 事故分析から考える事故防止対策 22 1. すべての事故に共通 ・グライダー運用のために必要な知識・技量・経験の向上 →指導者の養成 (EMFT講習会、教育証明講習会等) →安全教育やヒューマンファクター、TEMを初期教育に盛り込む。 ・操縦士に必要な総合能力(状況認識力、判断力、法令順守)の向上 →自家用操縦士養成シラバスに総合能力向上訓練を入れる。

    ・咄嗟の判断で行ったアクションにより、さらに事態を悪化させている。 →低高度の運用はあらかじめ計画性を持つ(索切れ、不時着の処置等)。 ・理論的な根拠を持ったフライトを行う。 →ソアリング時のバンク角や速度の設定、低空旋回可否、風の影響を 計算して決定する。→計算ツールの利用 2. スピン事故対策 ・スピン初動でノーズが下がった時に、エレベーターを引かせない教育 →失速・スピンが発生するメカニズムを理解させる。 →ラダー、エレベーターの基本的な役割を理解させる。 - 2021/07/03
  15. 23 EMFT講習会の変遷 第1世代: フルスピンに陥った場合の回復操作を習得する 。 第2世代: スピンの兆候を早期に察知して、フルスピンに陥る前に回復する。 第3世代: 起こりうる事態を予測し回避するための知識と状況認識能力を身に着け、危険に近づかない。 第4世代:

    パイロットの技能向上には限界がある。機材の向上と組織的な取り組みが必要。 第5世代: 初期教育の見直し。危険がどこにあるのかを知り、危機感知能力を身に着ける。 第6世代: 常に根拠を持ったフライトをできるパイロットを育成する初期教育を行う。←今ココ 2021/07/03
  16. 25 グライダーはなぜ飛ぶか? グライダーの下向き重力を支えるために、揚力が必要 2021/07/03 翼が揚力を発生するのは、空気の循環が翼に発生するため 揚 力 重 力 揚力式

    L=(1/2ρV2) SCL 抗力式 D=(1/2ρV2) SCD 動圧 主翼まわりに空気が流れなければ、 揚力は発生しない。 機体正面から気流が当たらなけれ ば、設計上想定された揚力を発生 することができない。 私たちは重力に逆らって飛んでいる!
  17. 27 機体姿勢と迎え角(ウィンチ曳航中) 通常の速度でのウィンチ上昇 迎え角:小さい 低速でのウィンチ上昇 迎え角:大きい 進行方向 進行方向 迎え角 迎え角

    2021/07/03 機体の姿勢や速度計からは、どれくら い失速に近づいているかわからない。 FAA Glider Flying Handbook 迎え角=飛行方向(相対風)と 翼弦線の角度 翼弦線
  18. 28 2次元翼の失速 失速飛行 迎え角の増加 ↓ 抗力の増加 揚力の減少 定常飛行 迎え角の増加 ↓

    揚力の増加 抗力の増加 2次元翼では失速は迎え角のみによって決まる。どんな姿勢または速度 でも臨界迎え角を超えれば失速する。 2021/07/03 揚力係数CL と抗力係数CD は、迎え角、翼型の形状、レイノルズ数の影響を表すもの。 翼の単位面積あたりの揚力と抗力。その翼型の特徴を表している。機体固有の値。
  19. 30 3次元翼の失速 揚力式 L=(1/2ρV2) SCL 抗力式 D=(1/2ρV2) SCD 空気密度:ρ [kg/m3]

    相対速度:V [m/s] 翼面積 :S [m2] 揚力係数:CL (無次元) 抗力係数:CD (無次元) 揚力: L [kg] 抗力:D [kg] 動圧 パイロットが変えられる要素は何か? 2021/07/03 機体の発生する総揚力<機体重量 の時 機体重量を支えられなくなる ↓ 失速する L W 機体の発生する総揚力 重力≒機体重量
  20. 32 失速速度が増加する要因 • 機体そのものの重量の増加 搭乗者・バラスト・荷物・水バラスト・燃料 • 高荷重がかかる操作 旋回・高速引き起こし・アクロ・ウィンチ索の張力 • フラップ位置

    フラップDOWNからUP→キャンバーが減る→揚力係数・抗力係数の低下 • 抗力の増加 翼面のバグ・エアブレーキ・フラップ・エンジン・着氷 • 外部要因 ガスト・ウィンドシアー・ウィンドグラディエント • 密度高度 高高度、高温、多湿→低高度では温度の影響が大きい 2021/07/03 https://www.quora.com/Why-does-an-airplane-stall-at-a-higher- airspeed-with-gear-and-flaps-up-than-with-gear-and-flaps-down フラップDOWN フラップUP
  21. 36 失速速度と重心位置(CG)の限界 CG位置 ・迎え角とCG位置は関係ない。エレベーターの効果に影響する。 ・失速速度の定義 気流の剥離(主翼の失速)または縦方向のコントロールを失う(尾翼の失速) のどち らか。 ・エレベーターの安定効果は表面を通過する気流の速さとエレベーターの制御能力で 決まる。

    CG位置が前方に移動すると速度を保つためにエレベーター操作量が多く必要。 限界までいくと主翼は失速していなくても機首は下を向く。 CGが前方限界 ・尾翼の制御能力の限界。 ・水平安定板とエレベーターの大きさを、すなわち旋回時に十分な力をエレベータが発 生するよう、決定される。 CGが後方限界 ・失速速度は気流の剥離やバフェットなどの主翼の空力上の限界で設定。 ・安定性の限界。グライダーが十分な縦安定性を有してスピンからの回復に問題がな いように決定される。 2021/07/03
  22. 38 運動包囲線図と失速の関係 すべて失速に 近づく操作 ← ス テ ィ ッ ク

    を 引 く 操 作 → ス テ ィ ッ ク を 押 す 操 作 スティックを引く操作 ・減速 ・+Gをかける 2021/07/03
  23. 39 運動による荷重倍数(Load Factor) 日本航空技術協会 飛行機構造 n=3 n=2 n=1 n=1 n=2

    n=3 荷重倍数 揚力=飛行機の重量 x 荷重倍数n ・Gがかかった時に主翼にかかる力は水平飛行時のn倍 ・パイロットにも体重のn倍の力が作用するので、+Gでは座席に押しつけられる感じ、 -Gでは、放り出されるような感じがする。 2021/07/03 エレベーター引く Positive G (+) エレベーター押す Negative G (-)
  24. 41 旋回中の荷重倍数と失速速度 FAA Pilot's Handbook of Aeronautical Knowledge 水平飛行中の失速速度をVs とすると

    W = L = ½ ρCL SVs2 Vs = √(2W/ρSCL ) 旋回飛行中の失速速度をVSθ とすると W = L cosθより VSθ = √(2W/ρSCL cosθ) = √cosθ 1 ×Vs 荷重倍数n=L/W または n=1/cosθ 2021/07/03 バンクをつけただけでは失速速度は増えない!
  25. 42 荷重倍数の増加要因(突風) 上昇気流 風速U 迎え角の増加 -迎え角の増加 速度V 風速U 相対速度V 静かな大気中を飛行してきた機体が風速Uの上昇気流に突入すると、主翼にあ

    たる気流の向きが変わる。 迎え角が増えて主翼の揚力を増し、機体全体は上方へ押し上げられる。 機体各部には正の荷重倍数がかかる。 2021/07/03
  26. 44 荷重倍数の増加要因(ウィンチ索の張力) 2021/07/03 BGA Instructor’s Manual 揚力 索の張力 重量 抗力

    100km/hで上昇中 合力 曳航初期上昇径路角45° 索角 5°100km/hで上昇中には 重量(重力)の 1.63倍の上向き 合力Ra(揚力とほぼ同じ強さ) が発生することで力が釣合う。 定常滑空時の1.63倍の 揚力が発生している 。 その時の迎え角は定常滑空 時よりやや大きい 。 100km/h定常滑空時は 4°とすると、 約7.5°。 水平飛行での失速速度60km/h 曳航中の失速速度 = √1.63VS1 ≒1.3 VS1 1.3x60km/h=78km/h
  27. 46 ウィンド・グラディエントと低空旋回 デレック・ピゴット著 「滑空工学入門」より出典 2021/07/03 風速 10m/s 風速 5m/s 風速

    13m/s 風下への旋回 風上への旋回 グライダーは翼幅が大きく、ロールの運動性がやや悪い。急旋回では上の翼は下の 翼の高さより10m以上高くなる。 ウィンド・グラディエントのために上の翼にあたる気流の速度は下の翼より大きい。 バンク角が深くなる傾向が強くなる。特に地面近くは、傾きの修正が難しくなる。 対気速度 90km/hでの旋回 より大きな揚力 より大きな揚力 より少ない揚力 より少ない揚力 水平にしやすい 水平にしにくい 翼端対気速度 108km/h 翼端対気速度 80km/h 翼端対気速度 72km/h 翼端対気速度 100km/h
  28. 48 スピンの特徴 翼が失速し、左右の翼の揚力と抗力が不均等であった場 合、失速迎角を維持しながら自転を継続している状態 スピン軸(自転軸) 2021/07/03 FAA Glider Flying Handbook

    自転 スピンが持つ運動を持続する作用 失速時、機体の横安定性が失われる。 傾きを戻す力が弱まり、アドバースヨーを上まわる抗力が 発生するので、自転が持続する。 スピン初動では、自分が操作して いるわけではないのに、 「意図しない自転」が発生する。 スピン軸(自転軸)
  29. 49 スピンとスパイラル BGA Flight Instructor Manual スピンの特徴 スピン軸を中心に自転 ノーズダウン 旋回率大きい

    低速 通常のG 非常に大きな降下率 スパイラルダイブの特徴 旋回(円弧) バンクは増大(結果的に安定) 旋回率はスピンより小さい すべてのコントロールは効く 高いG 2021/07/03 スピンとスパイラルの回復操作の 違いは? EMFTスピンとスパイラル動画
  30. 50 重心位置とスピン BGA Instructor’s Manual / FAA Glider Flying Handbook

    2021/07/03 前方重心 スピン初動後、スパ イラルダイブになる。 後方重心 フルスピンになる。 重心が後方限界を 超えている フラットスピン (回復不能)
  31. 2021/07/03 51 アクシデンタルスピンのメカニズム ・沈下に遭遇したため、普段より低い高度 で場周に入った ・第4旋回に左旋回で入った。 低高度でバンクをつけるのが怖かったの で、20度程度の緩旋回を行ったが、オー バーシュートしてしまった。 ・滑走路にアラインさせようとしたが、バン

    クをつけたくなかったので、無意識のうち に左ラダーを踏んでいたため、意図せずし てスキッド旋回となった。 遠心力 向心力 パイロットは旋回外側へ の力を感じる。 <スキッド旋回> バンク角に比べてラダーが多すぎる状態。 ノーズが旋回内側に向く(旋回率に比べてバンクが少なすぎ)。 揚力の水平成分(向心力)が遠心力より小さいので、旋回の外側 へ滑る。
  32. 52 左ラダーを踏んで外滑りを起こした場合 2021/07/03 ①左ヨーにより、右翼は左翼より速く進む ②左にバンクする ③左に旋回し、左翼が下がること により、左翼の迎え角が増加する。 揚力 揚力大 揚力小

    移動速度大 移動速度小 揚力大 揚力小 ④左旋回で横滑りしながらノーズが下がるので、 エレベーターでノーズを上げようとすると、 左翼が先に臨界迎え角に達して失速する。
  33. 53 左旋回スキッド中(左ラダー過多)の問題 2021/07/03 相対風が翼の正面から当たらな いため、揚力を発生させる方向 の気流の効果が減少する(翼端 方向の分力は揚力を生み出さな い)。このため、翼は通常より早 く失速する。 スキッド中は胴体が翼面の気流をブロックし

    て、内側翼の気流が減少するため、揚力が 減少し、内側翼が先に失速しやすくなる。 翼型が変わるので、翼の揚力・抗 力特性も変わる(本来の性能が出 ないかも)。 揚力発生を妨げる要因
  34. 臨界迎角前後のヨーイングの影響 左翼の方が迎え角が増え、抗力も増 加する。 エレベーターを引くと、左翼が先に失速し、 左右の揚力と抗力差のために、自転を続 ける。 Cd 左翼>右翼・ Cl左翼<右翼 CdとCl

    左翼>右翼 旋回中左ラダーを踏んで 左にバンクした場合 左ラダーを踏んだままエレベーターを引 き、左翼が先に臨界迎え角を超えた場合 左翼 右翼 左翼 右翼 Cd抗力 係数 Cl揚力 係数 Cd抗力 係数 Cl揚力 係数 臨界迎角 臨界迎角 リッチ・ストーウェル著 「緊急機動訓練(EMT)」より出典 2021/07/03 54
  35. 55 失速付近のエルロン使用の影響 デレック・ピゴット著 「滑空工学入門」より出典 2021/07/03 失速付近で翼が傾いて下がるの を止めようとしてエルロンを大きく 使うと実際には翼端が失速しても っと左へ傾く。 失速付近で左翼が傾いて下

    がるのを止めようとして右エ ルロンを使用 失速付近で左翼が傾いて 下がる 傾きを止めるために 右エルロンを使用 キャンバーが増えることにより、 失速を起こし、さらに左に傾く 失速付近の傾きの直し方は? 近代的なグライダーは翼端失速を防ぐ設計
  36. 56 スリップとスキッド 2021/07/03 スリップ旋回 ・バンク角に比べてラダーが足りない。 ・ノーズが旋回外側に向く。 ・旋回率に比べてバンクが大きすぎる。 ・揚力の水平成分(向心力)>遠心力 ・旋回の内側へ滑る。 スキッド旋回

    ・バンク角に比べてラダーが多すぎる。 ・ノーズが旋回内側に向く。 ・旋回率に比べてバンクが少なすぎる。 ・揚力の水平成分(向心力)<遠心力 ・旋回の外側へ滑る。 FAA Glider Flying Handbook スリップもスキッドも左右翼のアンバランスがある限り失速すればスピンに入りうるが、 スキッドの場合は自転と旋回方向が同じなため、スピンに入りやすく、スリップの場合 は、自転と旋回方向が逆なので、スピンに入るのにスキッドより時間がかかる。 スリップもスキッドもラダーを踏んでいる方向に自転する。
  37. 62 3舵のコントロールする軸 エレベーター ピッチ軸 エルロン ロール軸 ヨー軸 ピッチ軸 ラダー ヨー軸

    ロール軸 ピッチ軸 1つの操縦系統を動かすと複数の軸の動きがある。 図:FAA Glider Flying Handbook 2021/07/03 62 単舵操作の段階で理解している必要がある。
  38. スピンの兆候 63 2021/07/03 63 エレベーターを引いても機首が上がらない。 これはスピンに近づいている唯一の「スピンの兆候」 絶対にそれ以上引いてはいけない!! ラダーを中立にすること!! 「意図しない自転」のフェーズはすでにスピンに入っており、 そこからの回復は困難。

    ラダー使用時の機体の動き ・低速旋回中、ラダーを少しでも使用すると、バンクがつき、ノーズが下がる。 ・この状態でエレベーターを引いても機首は上がらず、逆に下がる。 ・エルロンとラダーを中立にすると機首が上がる。 単舵操作の段階で理解している必要がある。 スピン旋転から自転への移行 ラダーを踏んだ時のノーズの動き
  39. 65 エレベーターの役割 ・エレベーターのコントロールする要素 ・ ピッチ ・迎え角 ・揚力 ・速度 ・荷重倍数 リッチ・ストーウェル著

    「緊急機動訓練(EMT)」より出典 「エレベーター=高度」 「エレベーター=上昇」 エレベーターの使用を間違えると、失速、構造破壊に直結する取り扱い 要注意の舵。 根拠のある時しか使用してはいけない!! 2021/07/03 65
  40. 68 スピンからの回復操作(飛行規程) 1. フル・トップラダー 2. エルロン・ニュートラル 3. フラップ・アップ 4. スティック・フォワード

    5. 旋転がとまったら、ラダー・ニュートラル 6. 高速ダイブからのリカバリー これは、意図的にスピンを入れたらできる操作。 アクシデンタル・スピンの場合、ラダーを踏んでスピンに入っているという認識が そもそもないので、何が起こっているのかわからないのが現実。 スピンと認識できず、機体の挙動がおかしいと思ったらやるべきこと。 引いている操縦桿の力を緩め、エルロン・ラダーを中立にする。 それでも自転が止まらなかったら、トップラダーとスティックフォワード量を増やす。 (スピンがフラットな場合。多くのスティックフォワード量が必要) 2021/07/03 TWIN Ⅱ Spin Recovery
  41. 69 失速・スピンからの回復時の注意 1. 引いている操縦桿を戻す 量はどれくらい戻せばよいのか? 2. 旋回を伴う高速ダイブからの回復時の速度、制限荷重超過 3. スパイラルダイブへの転移 スピンとの違いは?

    見分け方は? 回復方法の違いは? 4. 2次スピンへの転移 回復操作時に使ったトップラダーを中立に戻さなかった場合、急激にエレ ベーターを引いた時に再度失速し、反対側にスピンに入ることがある。 2021/07/03
  42. 70 5. 飛行の根拠 「滑空性能計算ツール」 Special Thanks to Mr. F.Sato 2021/07/03

    70 ▪作成者紹介 中部日本航空連盟 岐阜支部 佐藤 文幸 氏 1977年 福岡県生まれ 2002年~ 航空機の研究開発、飛行試験、型式証明審査業務に従事 37歳でグライダーを始める 中部日本航空連盟岐阜支部所属、自家用操縦士(上滑、動滑)
  43. 旋回中の沈下率 出典:佐藤文幸「旋回中の沈下率について」 2021/07/03 74 n n w w  =

    =   cos 1 cos 1 直線 旋回 旋回中の沈下率比= バンク角 荷重倍数n 沈下率比 30° 1.15 1.23 45° 1.41 1.67 60° 2.00 2.83 (注)この計算は基準のポーラーカーブの 精度に強く依存しており、また、旋回の曲 率により風が胴体に真っすぐに当たらな いこと、及び舵面を動かすことによる抵抗 増を考慮していないため、この結果を参 考程度にとどめること。
  44. TWIN Ⅱ 旋回中のポーラーカーブ 出典:佐藤文幸「旋回中の沈下率について」 2021/07/03 75 速度[km/h] -3 -2 -1

    0 0 50 100 150 200 旋回中の沈下率[m/s] 基準のポーラーカーブ バンク20° バンク40° バンク60° 理論曲線(バンク0°) 理論曲線(バンク60°) 最大滑空比 最小沈下率 失速 理論曲線(0°) バンク角を増すと、沈下率は悪化し、速度を増さなければ失速するという実際の現 象を正しく再現できている。 定常旋回中に最小沈下率及び最大滑空比となる迎え角はそれぞれ直線飛行時と 同じであることが分かる。 ×は各バンク角の定常旋回において直線飛行時の失速時と同じ迎え角である点 ▲は同様に最小沈下率と同じ迎え角である点 ◦は同様に最大滑空比と同じ迎え角である点
  45. TWIN Ⅱ 旋回半径と沈下率 出典:佐藤文幸「旋回中の沈下率について」 2021/07/03 76 旋回半径[m] -3 -2 -1

    0 0 50 100 150 沈下率[m/s] バンク20° バンク30° バンク40° バンク45° バンク50° バンク55° バンク60° 60° 55° 50° 45° 40° 30° 20° バンク角40~45度付近で旋回すると、旋回半径と沈下率が程よく小さくなる。 コアのみが強いタイプの上昇気流に対してソアリングの上昇速度のみを追求すると、失速(× のマーク)と隣り合わせになる可能性が高くなる(TWINⅡに限らず、他の機体でも同様)。 小さな旋回半径には、より速い速度と大きなCL値(迎え角)が必要。 重量が重いほど早く最大CL値に達してしまう。 旋回中は内側の翼がより低速で進むこと、及びエルロンの当て舵により旋回内側のエルロン付 近の迎え角が増え、図中の×よりも速い速度で失速が始まる。 90km/h 80km/h 105km/h 77km/h バンク0°の失速速度=75km/h
  46. 2021/07/03 78 沈下率 対気速度・対地速度 0 無風時のポーラーカーブを 風速分だけそれぞれ平行移動 無風時のポーラーカーブ =対気速度のポーラーカーブ 向かい風時の

    ポーラーカーブ 追い風時の ポーラーカーブ 向かい風 追い風 追い風時の最大滑空比速度(対地) 向かい風時の 最大滑空比速度(対地) 追い風時に パイロットが選ぶべき速度 向かい風時に パイロットが選ぶべき速度 向かい風または追い風時の最大滑空比速度の求め方
  47. 2021/07/03 79 横風を考慮したポーラーカーブ 偏流修正角∠ WCA 風速Vwind 真 針 路TH 、対

    気 速 度 Vtas 真 航 路 TC 対地速度 GS コースに対する風向 ∠wind -5 -4 -3 -2 -1 0 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200 220 240 260 対地速度[km/h] 昇降率[m/s] ポーラーカーブ(無風) ポーラーカーブ(風あり) 失速(無風) 失速(風あり) 最大揚抗比(無風) 最大揚抗比(風あり) 最大滑空比 図7 コースに対する横風30kt時のポーラーカーブ(TWINⅡ、最大重量、海面高度) 風力三角形 対気速度 対地速度 風 偏流修正角の取り方
  48. 2021/07/03 80 -6 -5 -4 -3 -2 -1 0 0

    20 40 60 80 100 120 140 160 180 200 220 240 対地速度[km/h] 沈下率[m/s] ポーラーカーブ(無風) ポーラーカーブ(風あり) 滑空経路(無風時) 風 風を考慮した最適滑空経路 最大揚抗比(無風) 最大揚抗比(風あり) 最大滑空比 風速の約半分を加算 正対風が40ktの場合の最適速度 約風速の半分である20ktを無風時の最 適速度(最大揚抗比となる速度)に足すと、 向かい風時の最適速度になります。それよ りも風速が弱い場合は足すべき風速の割 合が少なくなる。 -6 -5 -4 -3 -2 -1 0 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200 220 240 対地速度[km/h] 沈下率[m/s] ポーラーカーブ(無風) ポーラーカーブ(風あり) 滑空経路(無風時) 風 風を考慮した最適滑空経路 最大揚抗比(無風) 最大揚抗比(風あり) 最大滑空比 最小沈下率速度へ接近 背風が40ktの場合の最適速度 背風の場合は、風が強くなると最適速 度は最小沈下率となる速度に近付く。 ポーラーカーブからわかること
  49. 2021/07/03 81 無風 10ktの風 20ktの風 30ktの風 40ktの風 30° 20°   

    10° 正対風   10° 20° 30° 40° 140° 150° 160° 170° 背風  170° 160° 150° 140° 130° 130° 120° 110° 100° 90° 80° 70° 60° 50° 50° 60° 70° 80° 90° 100° 110° 120° 最良滑空速度 [km/h] 最良滑空比 1km区間の失高[ft] 実線:片道 点線:往復 (旋回は含まない) 真航路 TC 真航路TCに対する風向 40° 40kt 30kt 20kt 10kt 無風 50 20 100 40 150 60 200 80 250 100 300 120 350 140 50 20 100 40 150 60 200 80 チャート(TWINⅡ、530kg、高度2,000ft) 全方向の風に対する最大滑空比及び最適速度チャート チャートの左側には、1㎞あたりの 最小失高を実線で、その往復分を 点線で表示。 無風時の往復による失高は、片道 分の失高の2倍となる。 風がある場合は、風が強いほど往 復の失高は大きくなり、風が40kt の場合は片道分の失高の2倍では なく、3倍から4倍となる。 注意: このチャートが作成された場合、シー ト名を変更して保存すること。 そのまま保存すると、システムが動 かなくなる。
  50. 2021/07/03 93 前編:自家用コース 1. グライダーの危険 2. 失速のメカニズム 3. スピンのメカニズム 4.

    失速・スピンの兆候と回避 5. 飛行の根拠 6. EMFT実技実施要領 後編:指導者コース追加分 7. パイロットに必要な能力 8. ケーススタディ 9. 滑空機安全啓発動画 10. 意見交換 参考資料 11. 空間識失調とサブG感覚 12. 空中接触 13. 人間の能力の限界 内容
  51. グライダー・パイロットに求められる技能について グライダー パイロットの技能 操縦技術 知識 判断 取組姿勢 通常操作 非常操作 モニター

    航空機・空力・機材 環境(気象・地形) 人間の能力の限界 意志決定能力 リスクマネージメント能力 タスクマネージメント能力 状況認識(危険予知)能力 搭載機器マネージメント能力 CFIT*マネージメント能力 法令遵守 積極性 協調性 沈着性 コミュニケーション能力 計画マネージメント能力 リーダーシップ 緊急時の対応 不時着時のサバイバル リーダーシップ エアマンシップ (ICAO 定義) 正しい判断力、確固 たる知識と技術、そし て飛行目的を完遂す る心構えを常に持ち 続けるパイロット精神 飛行技術 計画・判断力 状況認識力 規則の遵守 CRM・TEM*能力 同乗者の安全確保 *CFIT=Controlled Flight Into Terrain *CRM=Crew Resource Management *TEM=Threat and Error Management 2021/07/03 95 テクニカルな能力 ノン・テクニカルな能力
  52. 2021/07/03 96 https://www.mlit.go.jp/common/001224427.pdf TEM (Threat & Error Management)モデル JCAB 安全啓発リーフレット

    UAS(望ましくない航空 機の状況)が発生してし まった場合、パイロット がそのUASの対処に失 敗すると、インシデント・ アクシデントとなる。
  53. リスクとなりえる状況をどう認識するか? リスク要素 評価内容 パイロット 健康状態、精神・感情の状態、疲労度、極度の緊張等 スピン訓練の実施状況、機体の慣熟度等 機体 性能・運用限界・装備・耐空性、重量、フラップ・ダイブ位置、計器 の作動、速度や降下率等 環境

    風向と風速・天候の変化、上昇気流・下降気流の状態、他機の動 向、地形や障害物の位置、ピストによる指示、法令・空域・空港規 則等の指定経路・高度、離着陸場の条件等 外圧 他者からの飛行完遂への期待や圧力。スケジュール上の圧力。 仕事・家庭・友人・先輩・教官からの圧力等。 2021/07/03 97 Threat=複雑な運航環境の中で航空機乗組員に降りかかり、航空機乗組員の業務 負荷や心理的負担を増大させ、乗員が適切な対応をしなかった場合には乗員のエラ ーを誘発する可能性がある乗員以外の要因(エラーの発生する確率が高くなる要因)
  54. 98 出発前の確認 スレット&エラー・マネージメント スレット エラー マネージメント 気象 強風と大きな沈下帯 滑空比の計算間違いに よる高度の低下

    計算結果に十分なマージ ンがあるかの確認 ATC 宇都宮ACAの通過 他機とのニアミス レーダーアドバイザリー と見張りの強化 空港 夕方の西日による 視程低下 他機とのニアミス 自機の位置を一方送信で アナウンス 地形 場周経路場の送電線 索切れ時の送電線との 異常接近 事前に地図をチェック。 場外着陸の手順を決める 。 組織 場外着陸した際の リトリブ要員確保 要員がいないので、 無理に滑走路に帰る 。 事前に場外着陸時の手順 を決めておく。 その他 体重が軽いパイロ ットとの交代 バラスト搭載忘れに よる不適切な重心位 置 事前に交代パイロットに注 意喚起する 2021/07/03
  55. 飛行中の意思決定のための3Pモデル FAA Aviation Instructor’s Handbook 状況認識 実行 決定 危険の認識 すべての行動の始まり

    ソアリング中、風が強く、沈下 が強くなってきた。滑走路に届 くか? リスクレベルの検討 滑走路に届かないと判断した 場合に、プランBを用意してい るか? リスクマネージメントの実行 このままだと滑走路に届く のは難しいため、場外着陸 の意思決定をする。 途中、その結果をレビュー し、必要であれば別の場外 適地を選択。 状況認識に戻る。 場外着陸の経路はどう するか?無線で連絡す るか?注意点は? 2021/07/03 99
  56. 危険に近づかない工夫例 注意力散漫・一点集中になる状況の除去 • 状況認識能力を高めるためのシミュレーション実施 • 注意力をそらせる訓練等の実施 • 優先順位の判断 • 普段と異なる経路の飛行の実施

    • 考える訓練、自分の考えを評価してもらう機会の設定 失速から遠ざけるためのマージン ・ソアリング速度の検討 ・旋回時にバンクをしっかりつける。 ・旋回時に内滑り気味で飛ぶ。 ・ベース~ファイナルを高めに持ってきて、ダイブを使用して降りる。 ・トリムを前気味に取る パイロットだけでなく、ピスト、曳航パイロット、教官だったら何ができるのか? 100 2021/07/03
  57. スピン事故1 ベンタス2a 概要 2005年 板倉滑空場 機体:ベンタス2a型(単座) 機長の飛行経験 総飛行時間:354時間 最近30日間の経験:3.5時間 同型式の飛行時間:3.5時間

    機体損傷:大破 パイロット:死亡 日本選手権出場を計画しており、選 手権に使用するレース機の慣熟とク ロスカントリーの練習飛行 2021/07/03 102 運輸安全委員会事故報告書より
  58. スピン事故1 ベンタス2a 状況 風向約300°風速約5m/s。滑走路は33。上 空では、2/8程度の積雲が4-5,000ftで、赤城 山から佐野市付近まで雲道があった。 飛行後、約2km北北西の佐野ICを100mで通 過して、高度約58mまで160km/hに増速し、 高さ約85mの鉄塔間の高圧線を、高度約 100m、対地速度約80km/hで越えたところで

    ピストに対し 「高度が下がったのでダイレクト に入る」との通報。 進入中、ピスト担当者から同機に、現在の使 用滑走路は風に正対する33との通報。機長 は滑走路15上のピスト横を通過時、ギヤを出 さず、エア・ブレーキも使用しないまま滑走路 上を 低高度で通過し滑走路のエンド付近で 中央付近に向け、旋回を開始した。 2021/07/03 103 運輸安全委員会事故報告書より
  59. スピン事故1 ベンタス2a 状況 追い風の滑走路上を低高度で通過後、 滑走路端で風にほぼ正対する滑走路に 着陸しようとして、左上昇旋回(対地高度 42m、対地速度116km/h)したが、オー バーシュート気味になり、深いバンクで 外滑り状態となり失速状態に陥ったため、 地面に衝突した。

    当日は高度による風の強さの違いによ るウィンド・グラディエントがあったと予測 された。 2021/07/03 104 ・Threatは何か? ・Errorは何か? ・Countermeasuresは何ができたか? ・事故再発防止のためには何をすれば 良いか? 運輸安全委員会事故報告書より
  60. スピン事故2 Ka6CR 概要 2000年 読売大利根滑空場 機体:Ka6CR型(単座) 機長の飛行経験 総飛行時間:600時間 最近30日間の経験:39分 同型式の飛行時間:不明

    機体損傷:大破 パイロット:死亡 ウィンチ曳航による単座のソロ飛行 2021/07/03 105 運輸安全委員会事故報告書より
  61. スピン事故2 Ka6CR 状況 天気 曇り、 視程10km以上、風向 北、風速 約0.5m/s、 同機は、滑走路31からウインチ曳航により 発航し、高度約1350ftで離脱、場周経路を

    飛行し、ダウンウインド・レグで利根川左岸沿 い(滑空場対岸)にある工業団地 の上空約 1200ftで数回旋回した後、徐々に高度を下げ ながら、他の会員の 飛行速度と比較し、ゆっ くりとした速度で川下側へ飛行を続けた。 同機が工業団地と東武線の鉄橋の中間付近 上空を飛行中、同鉄橋付近上空で最終進入 中であったモーター・グライダーからタッチア ンドゴーの要求がピストにあった。その後、同 機機長から「オン・ダウンウインド」とピストへ 無線連絡があった。ピストは同機に対して、 モーター・グライダーに続いて着陸するよう通 報した。 2021/07/03 106 運輸安全委員会事故報告書より
  62. スピン事故2 Ka6CR 状況 通常、この付近では、会員は約500ftで飛行 し、最低でも400ftの高度が 必要であるが、こ の時の高度は350~400ftに見えた。 その後、同機は左へ旋回した後、落下するよ うに降下し、堤防の陰になり見えなくなった。 進入するものと思っていたら、左旋回を開始

    したので、モーター・グライダー との間隔をと るためかと思ったが、他の会員の飛行速度と 比較し、低速度で飛行しており、低速度のま まで、バンクをしないで左旋回をしたように見 えた。 2021/07/03 107 ・Threatは何か? ・Errorは何か? ・Countermeasuresは何ができたか? ・事故再発防止のためには何をすれば良いか? 運輸安全委員会事故報告書より
  63. 山の斜面への衝突事故 H-36ディモナ 概要 2015年 日高山脈付近 機体:ホフマン式H-36ディモナ型(動力滑空機) 機長の飛行経験 総飛行時間:5811時間 最近30日間の経験:2時間 同型式の飛行時間:3171時間

    機体損傷:大破 パイロット:死亡 同乗者:死亡 女満別空港から鹿部空港への野外飛行 当日の目的地は花巻空港 最終目的地は沖縄 2021/07/03 108 運輸安全委員会事故報告書より
  64. 山の斜面への衝突事故 H-36ディモナ状況 機長は下降気流に遭遇し対地速度が減少す る中、最終的に稜線を越えるための安全な 高度を確保できるものと判断して約2000mで 事故現場となる九ノ沢の谷に進入したが、そ の後、予想以上に下降気流が強くなったため 当該機体の上昇性能では降下を止めること ができなかった。機長は風上側に発生する斜 面上昇風を利用して

    高度を上げようとしたが、 それが十分にできず、約1800mの斜面に衝 突し、雪山を滑り落ちた。 ELTはスイッチOFFであったため、作動しな かった(事故発生3日後に発見)。 2021/07/03 110 ・Threatは何か? ・Errorは何か? ・Countermeasuresは何ができたか? ・事故再発防止のためには何をすれば良いか? 運輸安全委員会事故報告書より
  65. 2021/07/03 122 前編:自家用コース 1. グライダーの危険 2. 失速のメカニズム 3. スピンのメカニズム 4.

    失速・スピンの兆候と回避 5. 飛行の根拠 6. EMFT実技実施要領 後編:指導者コース追加分 7. パイロットに必要な能力 8. ケーススタディ 9. 滑空機安全啓発動画 10. 意見交換 参考資料 11. 空間識失調とサブG感覚 12. 空中接触 13. 人間の能力の限界 内容
  66. 人間の空間識 1. 視覚 3. 体性感覚 (筋肉、皮膚、関 節より) 2. 内耳の感覚 脳内で情報の統合処理

    空間中の位置把握 身体各部へ指令 http://code7700.com/spatial_disorientation.html リンク切れ 2021/07/03 124 3次元空間の中でどのように自分の姿勢や方向を知るのか? 地上 重力の方向は、体の各部分によって感じること ができ、地球がどの方向にあるかがわかる。 空中 遠心力と重力の合力がGとなり、体の感覚が姿 勢指示器として役立たなくなる。
  67. 内耳の働き FAA Pilot Handbook of Aeronautical Knowledge ①三半規管 回転角加速度検出 ロール・ピッチ・ヨーの動き

    長時間一様な動きのあとのゆっくりした動きを感知することができない。 ②耳石器 直線加速度検出 上下・前後・左右の動き 重力と運動による加速度を区別することができない。 空間識失調 正常な感覚機能を有したパイロットの空間識が混乱した状態。 加速度による錯覚:地球に対する航空機の動きを正しく認知していない場合。 視覚による錯覚、体性感覚による錯覚、平衡感覚による錯覚などがある。 バーティゴ、飛行錯覚とも呼ばれる。 2021/07/03 125 https://www.skybrary.aero/index.php/Main_Page#operational-issues ①三半規管 ②耳石器
  68. 空間識失調の事故例 1983年 妻沼滑空場 機体:萩原式H-23C 前席:ファースト・ソロの練習生 機体損傷:大破 パイロット:死亡 2021/07/03 126 事故の概要

    事故当日は雲が低く、今にも雨が 降りそうであった。 複座によるソロチェック後、パイ ロットはファーストソロでウィン チ曳航により発航したが、地上約 250mで雲に入った。 その後、機体が見えたときには垂直 急降下姿勢になっており、そのまま 地面に激突した。 約250m 雲に入る 運輸安全委員会航空事故報告書検索より作成
  69. Reduced Gにより空間識失調に陥りやすい状況 Derek Piggott著 「Sub-Gracity Sensation and Gliding Accident」より出典 ①乱気流やウィンドシアに遭遇し、機体が沈下して

    いる状態 ②失速からの回復時に過剰な機首下げをした状態 ③滑空中に機首下げをした状態 2021/07/03 128 ④ウィンチ索切れからの回復時 ⑤スティックを押しすぎた時
  70. 空中衝突 http://jeremy.zawodny.com/blog/archives/007288.html Mid-Air Collision of Glider and Jet near Reno:

    ASG-29 vs. Hawker XP800 Mid-Air Collision of Glider and Jet near Reno: ASG-29 vs. Hawker XP800 2021/07/03 131
  71. 人間の視機能の問題点 FAA Pilot Handbook of Aeronautical Knowledge https://www.nidek.co.jp/eyestory/eye_9.html 盲点(Blind Spot)

    誰にも眼には見えない点がある。 http://www.skybrary.aero/ Empty Field Myopia(空間仮性近視) コントラストがない空間を見ていると、焦点が自動的に手前に合ってしまうため、 他機を見つけにくくなる状態。 2021/07/03 145
  72. 149 人間の情報処理能力 BGA Instructor Manual 40歳を超えると眼の調節機能が劣化。遠近の物体に焦点を合わせにくく なる。また動体視力も劇的に低下するため、発見が遅れる。 2021/07/03 物体の視認 1秒

    航空機と認識 1秒 衝突コースと認識 5秒 回避を決心 4秒 筋肉の反応 0.4秒 機体の動きの遅れ 5秒 他機を視認してから、回避操作 が完了するまでかかる時間は、 16.4秒