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トライとダブル配列の基礎

 トライとダブル配列の基礎

昔勉強会で使ったもの

Shunsuke Kanda

August 03, 2022
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  1. キー検索 3 ¨ 文字列のキーを検索して,レコードを取り出す ¤ 人間が辞書から検索するのと同じ ¤ 応用:辞書検索、かな漢字変換、etc… キー(読み) 内容(表記)

    レコード1 あっぷる アップル,etc… レコード2 こころ 心,ココロ,此処路,etc… レコード3 かお 顔,買お,^^;,∧( ’Θ’ )∧,etc… レコード4 ぴかちゅう ピカチュウ,光宙,etc…
  2. 代表的なキー検索手法 4 ¨ 線形探索(Linear Search) ¤ キー集合を探索 ¨ 二分探索(Binary Search)

    ¤ 整列済みのキー集合を探索 ¨ 二分探索木(Binary Search Tree) ¤ キーの大小関係に基いて二分木を構築 ¨ ハッシュ表(Hash Table) ¤ ハッシュ関数による分配 ¨ トライ(Trie) ¤ トライ木を用いた探索 O(mn) O(m lg n) O(m lg n) O(m) O(m) n:キー数、m:パターン長
  3. 文字列照合とは 5 ¨ テキストに含まれる特定のパターンを見つける ¤ 特定のパターン = キー ¤ 例)力任せのアルゴリズム

    O(mn) n m:パターン長、n:テキスト長 n テキスト: “ピーチボーイリバーサイド” n パターン: “リバー” ピ ー チ ボ ー イ リ バ ー サ イ ド リ バ ー ずらして照合していく
  4. 代表的な文字列照合手法 6 ¨ 状況による分類 ¤ 長いテキストから少数のキーを検索する場合 n 手法:接尾辞配列,接尾辞木,転置索引,etc… n 応用:全文検索,ウェブ検索,ゲノム解析,etc…

    ¤ 短いテキストから多数のキーを検索する場合 n 手法:トライ,AC法,etc… n 応用:形態素解析,フィルタリング,ウイルス検知,etc… ¨ 参考書籍 ¤ 情報検索アルゴリズム [北ら 02]
  5. トライにおける検索 10 ¨ 根から葉までの移動 ¤ “嶺上開花”を検索 n 葉に到達 ➔ Found

    ¤ “四槓流れ”を検索 n 到達不可 ➔ Not Found 連 子 牌 開 上 風 槓 花 打 嶺 四
  6. トライの特徴 12 ¨ 時間効率 ¤ 理論的にはキー数の影響を受けない ¤ 該当キーの長さのみに影響を受ける ¨ 空間効率

    ¤ 共通の接頭辞は共有される ¨ 機能 ¤ 入力文字列に含まれるキーの検出(形態素解析) ¤ 照合失敗位置の検出(スペルチェック) ¤ キーの補完(入力補完,文書校正)
  7. トライの実装 13 ¨ 遷移関数 goto を実現する ¤ 節点 cur から節点

    next への遷移が文字 label に対し て定義されている場合、goto(cur, label) = next ¤ そうでなければ、goto(cur, label) = –1 next cur label
  8. 代表的なトライのデータ構造 14 ¨ 行列 ¤ 時間効率 ➔ 良い O(m) ¤

    空間効率 ➔ 悪い O(nσ) ¨ 二分木 ¤ 時間効率 ➔ 悪い O(mσ) ¤ 空間効率 ➔ 良い O(n) ¨ ダブル配列 ¤ 時間効率 ➔ 良い O(m) ¤ 空間効率 ➔ 良い O(n) m:パターン長 n:節点数 σ:アルファベットサイズ
  9. 行列によるトライ 15 ¨ 次のノードへの参照を配列に格納 ¤ 遷移時間 O(1) n 高速 ¤

    空間効率 O(nσ) n 悪い(疎) ¨ def goto(cur, label) ¤ return M[cur][label] 7:牌 4:開 3:# 2:上 8:# 5:花 6:# 1:嶺 0: # 嶺 上 開 花 牌 0 1 1 2 2 3 4 7 … σ n
  10. 二分木によるトライ 16 ¨ 次のノードへの参照を連結リストに格納 ¤ 遷移時間 O(σ) n 低速 ¤

    空間効率 O(n) n 良い(密) id label child sib node structure 4 開 5 7 例 7:牌 4:開 3:# 2:上 8:# 5:花 6:# 1:嶺 0:
  11. 二分木によるトライの遷移 17 ¨ def goto(cur, label) ¤ next := cur.child

    ¤ loop n if next = –1 then return –1 n if next.label = label then return next n next := next.sib 3 # 4 4 開 5 7 7 牌 8 7:牌 4:開 3:# 2:上 2 上 3 child sib sib
  12. # 嶺 上 開 花 牌 0 1 1 2

    2 3 6 8 3 4 4 5 5 5 6 7 7 7 8 コンセプト 20 ¨ 疎な行列をうまく畳み込む +3 +5 +7 上下で衝突しないようにスライド
  13. # 嶺 上 開 花 牌 0 1 1 2

    2 3 6 8 3 4 4 5 5 5 6 7 7 7 8 コンセプト 21 ¨ 疎な行列をうまく畳み込む +3 +5 +7 上下で衝突しないようにスライド 畳み込むとダブル配列になる
  14. 畳み込みのご様子 22 0 1 2 3 4 5 6 7

    8 BASE CHECK ?:牌 ?:開 ?:# ?:上 ?:# ?:花 ?:# ?:嶺 0: # 嶺 上 開 花 牌 0 ✔ +0 0 1
  15. 畳み込みのご様子 23 0 1 2 3 4 5 6 7

    8 BASE 0 CHECK 0 ?:牌 ?:開 ?:# ?:上 ?:# ?:花 ?:# 1:嶺 0: # 嶺 上 開 花 牌 1 ✔ +0 1 2
  16. 畳み込みのご様子 24 0 1 2 3 4 5 6 7

    8 BASE 0 0 CHECK 0 1 ?:牌 ?:開 ?:# 2:上 ?:# ?:花 ?:# 1:嶺 0: # 嶺 上 開 花 牌 2 ✔ ✔ ✔
  17. 畳み込みのご様子 25 0 1 2 3 4 5 6 7

    8 BASE 0 0 CHECK 0 1 # 嶺 上 開 花 牌 2 ✔ ✔ ✔ +3 2 2 2 ?:牌 ?:開 ?:# 2:上 ?:# ?:花 ?:# 1:嶺 0: 3 6 8
  18. ダブル配列 26 ¨ BASE, CHECKという2つの配列によるトライ表現 ¤ 遷移時間 O(1) ➔ 高速

    ¤ 空間効率 O(n) ➔ 良い 0 1 2 3 4 5 6 7 8 BASE 0 0 3 5 0 7 CHECK 0 1 2 6 4 2 8 2 8:牌 6:開 3:# 2:上 7:# 4:花 5:# 1:嶺 0:
  19. ダブル配列における遷移 27 ¨ def goto(cur, label) ¤ next := BASE[cur]

    + label ¤ if CHECK[next] = cur n return next ¤ return -1 # 嶺 上 0 1 2 8:牌 6:開 3:# 2:上 0 1 2 3 4 5 6 7 8 BASE 0 0 3 5 0 7 CHECK 0 1 2 6 4 2 8 2 6 := BASE[2] + 開 = 3 + 3 開 花 牌 3 4 5 CHECK[6] = 2
  20. ダブル配列の構築 28 ¨ 静的 ¤ ソート済みのキー集合から構築 ¤ 他の構築済みのトライから変形 ¨ 動的

    ¤ ずらして挿入 ¨ 詳細は略 ¤ 効率的なダブル配列の構築はめんどくさい ¤ とりわけ動的は職人芸
  21. トライの比較 29 ¨ 時間効率 ¤ ダブル配列 >= 行列 > 二分木

    ¨ 空間効率 ¤ ダブル配列 > 二分木 > 行列 ¨ 実装難度 ¤ ダブル配列 > 二分木 > 行列 ¨ 結論 ¤ ダブル配列は優秀 ¤ 多くのケースで十分に小さく、十分に高速
  22. ダブル配列の応用例 30 ¨ 辞書検索 ¤ Darts、Darts-clone ¨ 形態素解析 ¤ ChaSen,MeCab

    ¨ 係り受け解析 ¤ CaboCha ¨ ウイルス検知 ¤ ClamAV ¨ Nグラム言語モデル ¤ DALM ¨ 全文検索エンジン ¤ groonga ¨ オンラインテキスト処理 ¤ Cedar ¨ 圧縮文字列辞書 ¤ Xcdat
  23. ダブル配列の圧縮 32 ¨ ポインタベースなデータ構造なので、簡潔データ 構造と比べるとさすがに大きい ¤ ダブル配列: Ω(n lg n)

    ビット ¤ LOUDS: 2n + n lg σ + o(n) ビット ¨ 圧縮方策 ¤ 節点削減:冗長な節点を削減する ¤ 要素圧縮:要素あたりのメモリ消費を抑える
  24. CHECKの圧縮 [Yata+ 07] 33 ¨ CHECKに親番号ではなく遷移文字を記入する ¤ CHECKが log n

    から log σ に ¤ BASE[i] ≠ BASE[i’] for any i ≠ i’ 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 BASE 0 2 3 7 1 9 CHECK 嶺 # 上 花 開 # 牌 # 6 := BASE[4] + 開 = 3 + 3 CHECK[6] = 開 # 嶺 上 0 1 2 開 花 牌 3 4 5 6:開 4:上 親の参照はできない!!
  25. BASE、CHECKの圧縮 [Kanda+ 17] 34 ¨ 基本的なアイデア ¤ 遷移条件さえ満たせば節点は自由に配置できる ¤ BASE値とCHECK値が、その要素番号と近くなるように節点

    を配置し、その差分を代用する ¤ ランダムアクセス可能な可変長符号で配列を表現 0 50000 100000 150000 200000 250000 0 50000 100000 150000 200000 250000 CHECK[i] XOR i Address: i XOR ほとんどの値が 1バイトで表せる 0 50000 100000 150000 200000 250000 0 50000 100000 150000 200000 250000 CHECK[i] Address: i 親の参照もできます