本発表では、現代の多様な「実況」文化を分析するための新たな記号論的枠組みの提案する 。コミュニケーションを「いま・ここ」に投錨させる記号「指標」に着目し、従来のテレビ記号論を拡張 。メディア技術に由来する①「技術的指標性」、時空間を指し示す②「ダイクシス」、そして言葉遣い等で社会関係を構築する③「社会的指標性」からなる《指標の三層構造》モデルを構想する 。
この分析視角から、マスメディアにおける本田圭佑のサッカー解説と、ネット配信におけるVTuber宝鐘マリンという対照的な事例を分析 。前者が「内輪」の語りによってナショナルな一体感を立ち上げるのに対し、後者はファンとの双方向的なやり取りの中でローカルな指標資源を共同で創出していく様子を明らかにする 。本研究は、多様な実況が生成する「いま・ここ」の社会的な多層性を、指標のミクロな働きから解明する視座を提示するものである 。