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AI時代に問われる、リサーチの感受性──地域⇄大企業の現場から見えた「違和感」との向き合い方

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September 09, 2025

 AI時代に問われる、リサーチの感受性──地域⇄大企業の現場から見えた「違和感」との向き合い方

リサーチは、単なる調査手法ではない。効率性が重視される昨今、AIには見えない違和感や、語られない言葉がこぼれ落ち、わたしたちが世界とどう関わり、何に気づき、どう変わっていくか、その営みが失われつつある。本セッションでは、地域支援や大企業の組織変革の現場で、人間の感受性をひらくリサーチ実践を重ねてきた事例を紹介。デジタル時代だからこそ必要な、関係性の中で問いを育てる方法論、プロダクト開発や組織変革にも応用可能な、AIには決して代替できない、人間の感受性から始まるリサーチの可能性を探る。

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Transcript

  1. 徳田 彩 くだーぬ 株式会社Muture Researcher / Designer 京都芸術大学 大学院 学際デザイン領域

    修士課程 20代後半シングルマザー&キャリアゼロからデザインの道へ デジタルマーケの企業でWebデザイン/ディレクター フリーランスでデザイン制作や、ケータリングなどフード コーディネーター © Muture Corp. All Rights Reserved. デジタルプロダクト中心にデザインリサーチやUX・IA・ UI設計 大企業の組織変革支援・ソーシャルセクターと共創プロ ジェクトを推進
  2. 私たちについて © Muture Corp. All Rights Reserved. 組織変革の実践による知見化 ソーシャルセクター 行政や地域などの公的機関

    ビジネスセクター 日本を代表する大企業 組織変革 組織変革 社会全体のアップデート Mutureは企業の持続的な成長と社会的インパクトの 実現を支援する、実践から生まれたデジタルとデザイ ンのプロフェッショナル集団です。 大企業の現場と経営、理念と体制、組織と個人、企業 と社会などあらゆる境界線に立ち、価値観や構造を丁 寧につなぎ直します。 企業が社会とより良く接続するために、まずは企業の 内側にある事業・組織・理念がが調和し、変革の基盤 が整っていることが不可欠です。 Mutureはその基盤 づくりの段階から、大企業の内側のあらゆる境界線に 立ち、本質的な変革を共創します。 そして、その変革を企業の内側から社会へと橋渡しす ることで、企業と社会が共に健やかに育つ未来—— 「相利共生の未来」の実現を目指しています。 変化に強い組織と 変化に優しい社会を
  3. © Muture Corp. All Rights Reserved. 主観的経験に基づくリサーチ 他者との共感・没入によるリサーチ 創発・介入型のリサーチ Research

    デザイナー自身の感覚や体験を通じて本質を探る。第一人称視点から世界との関係性を考察する。 ユーザーや現場に長期間入り込み、参与観察や対話を通じて文脈を理解する。第三者の視点に自分を重ねる。 プロトタイピングや場への介入を通じ、行動しながら問題設定と解決を創発する。自他の境界を越え実験。
  4. © Muture Corp. All Rights Reserved.  企業フィールド / 実践者視点 他者との共感・没入によるリサーチ

    ユーザーや現場に長期間入り込み、参与観察や対話を通じて文脈を理解する。第三者の視点に自分を重ねる。
  5. © Muture Corp. All Rights Reserved. 事業者の社会や環境への想いを知ることで、 共感やリテラシーが高まる 実践者や行動できない層をリサーチ 自己との照らし合わせが

    起きる 事業への共感から 購買への意識・行動が変わる 自分の語りとしてストーリーを 作ることで自己変容が起きる 消費者のサステナブルな行動を促す
  6. © Muture Corp. All Rights Reserved. デザイナーであり社会科学者でもあるパトリシア・ムーア は、1979〜1982年にかけて、特殊メイクや装具を用いて 85歳の高齢女性に変装し、実際の街で買い物や移動を体験 するフィールドワーク。

    耳にワックス、関節に制限、服装や歩き方まですべて加工 その状態で日常的なタスクを実際に経験し、たとえばお菓 子の包装を開ける困難さや、周囲からの視線などを体感し た。 その結果、高齢者でも使いやすいユニバーサルデザインの 製品(OXOのグリップ付き調理器具など)を生み出すきっ かけとなり、モノや環境のデザインに共感と思いやりの視 点を導入するきっかけに。 Empathic Research Medium(The Lifespan Design Challenge with Patricia Moore.)
  7.  地域フィールド / 主観的経験 © Muture Corp. All Rights Reserved. 主観的経験に基づくリサーチ

    デザイナー自身の感覚や体験を通じて本質を探る。一人称視点から世界との関係性を考察する。
  8. © Muture Corp. All Rights Reserved. 地域のフィールドワークでは、地域の実践者や研究者に話を 聞きながら、文献を調査し、実際に没入・体感を実践。 過去と現在の風景を確かめながら、風景の意味を他者の言葉 や書物ではなく、自らの体験を通じて探っていった。

    地域住民の身体的な営みに参加し、先人たちが行っていた行 為を五感を通じて地域を理解していく。 外側の人間だった自分を、この場の当事者として、関わり・ 言葉を紡いでいった。 一人称的 × 現象学的 × 身体知
  9. © Muture Corp. All Rights Reserved. Personal Narrative 自身の言葉でこの世界の語りを編み直す 自己の体験を言語化し、それを共有する過程は、

    個人の内面的変容だけでなく、 他者や社会に対する理解や責任感を育む可能性を持つ。 語ることで、自己の行動や価値観を再構成するプロセス が始まり、「自分が何者であるか」や「何を大切にして いるか」への新しい気づきが生まれる。 語りはまた、社会的な変容を生み出す手段でもある。社会運動においても、当事者が 自分の経験を語ることは、制度的な不正義や社会構造の問題を可視化する力となる。 その語りが他者の共感を呼び、連帯を生み、行動の連鎖が起こることもある。 パーソナル・ナラティブは、個人的な経験と社会的な課題とをつなぐ橋渡しの役割を 果たす。
  10. © Muture Corp. All Rights Reserved. 地域外の新しく関わろうとする第三者の存在(よそ者) は、まず現場の声や文脈を”丁寧に、丁寧に” 掬い上げて行かないといけない。 現地の人々のニーズ・文脈を無視した一方的な解決策の

    押し付けはしばしば失敗し、時に有害になる。 そして、キーマンの視点でのみ世界を捉えると、 背後に潜む関係性に気づけない。 ともに学び考える伴走者 Beyond Sticky Notes - What is co-design?
  11. © Muture Corp. All Rights Reserved.  企業フィールド / 伴走者視点 創発・介入型のリサーチ

    プロトタイピングや場への介入を通じ、行動しながら問題設定と解決を創発する。自他の境界を越え実験。 彼らの環境と成したいこと・想いの理解。外側の意見ではなく、Dwellingしながら共に創っていく。
  12. © Muture Corp. All Rights Reserved. 社内アプリ甲子園で優勝し、ある程度ノーコードで形作られていたプロダクトをフィットジャーニーに添いなが ら価値検証を繰り返し、プロダクト開発・事業化を目指していくプロジェクト。 Transition 観察・共感

    専門性の提示 Willの引き出し 共に実行 プロダクトビジョンの整理 など、彼らの環境やプロダ クトへの向き合い方をヒ アリング チームの空気や雰囲気、価値 観を観察 プロジェクトの背景や文脈を 理解するために、積極的な聞 き手に徹する 価値検証を繰り返し、バーニ ングニーズの軌道修正 チームの中で、個人の思いを 言語化するサポート UXデザイ ンや ユー ザー インサ イトの 知見を 共有 チームが 曖昧に 捉えていたア イデアを言語化・ 可視化し、 対話の 土台を 提供 問いの 設計や 仮説構築に 貢献 デザイナ ーが手を 動かす だけ でなく、チーム と一緒に 構築 作業を 実行 チーム 自身が 自分た ちで形に できる 状態を 支援 ユー ザーリサーチやM VP 構成、 画面設計などの 局 面で デザイナー としての 知見を 提供し、 橋を かけ ていく ト ライア ルでの 反応を 受 けて、 「本当に 何を 提供 したいの か?」を 再構築 するフェーズへ 現時点で は、プロト タイ ピングや 実装フェーズに おいて 「一緒に形にして いくフェーズ 」に 入り つ つある チームの 「中に 入る」段階 デザイナーの 知見を提 供 デザイナーの 知見を提 供 デザイナーの 知見を提 供 支援者の 関わり方 支援者の 関わり方 支援者の 関わり方 支援者の 関わり方
  13. Action Research © Muture Corp. All Rights Reserved. 信頼をつくる 情報を集める・

    課題を捉える 共に環境を育む 自走する 内側のパートナーになる/信頼貯金を 貯める/信頼の上に立つ専門性 組織に入りこみ 相手との関係性を築く 組織の深層構造や課題 の本質に触れる 見えた構造や仮説を共に かたちにしていく 主体的に動ける状態を支援 過干渉せず、火を絶やさず見守る 語られない構造を掘り起こす/ 力が働く場所を見極める/ 文脈を編みなおす もうひとつのストーリーを描く/ タイミングをつかむ/ 視点の死角を照らす 答えを渡さない/火を絶やさないため の薪選び/かたちを編み直す 実行・支援 自走 観察 計画 行動 振り返り 観察 計画 行動 振り返り クライ アントの 成し 遂げたい ビジョンや構 想を、共に 戦略や組織 改善をしながら実 現していく 。伴走支援 は最終 的に クライ アントの自走を 目指しており、Mutureの実行や支援 はフェー ズが育つ ごとに 薄くな っていく 。
  14. © Muture Corp. All Rights Reserved. Participatory Design 私たちは、ただアウトプットを一緒に作るのではなく、チーム自身が“デザインする文化”を育てていけるような 支援を目指しています。この図に示されているように、プロジェクト初期には観察と信頼構築から入り、やがて

    共に問いを立て、試行錯誤を重ね、最終的には彼らが自律的に改善し続けられる状態へと進んでいきます。 三野宮定里・原田泰(2022)『課題解決型デザインから活動構成型デザインへ』、デザイン学研究 68巻4号、pp.14-23.(図4をmuture伴走事例に合わせて作成) LEVEL4 LEVEL3 LEVEL2 LEVEL1 共に動く| 共に実装し、共創から自走へ役割を委ねていく段階 共 鳴する| プロジェクトの意味を 一緒に 深め動 機を共に 掘り起こす段階 橋をか ける| 意味ある貢献で信頼を 形に する段階 耕す| 相手の世界に 入り、 信頼を 耕す段階 支援 者は、 相手の 輪の 外にいる 「よ そ者」として 関わり 始める 。 無理に 価値提供しようとせ ず、 相手の WILLや動 機、 関係性の 土壌を 丁寧に観察・ 傾聴す る フェー ズ。チームの 中で 何が 起きているのか、 どんな 力学が あるのかを 把握し、 安心し て もら える 存在になることが目的。 自 分の 持つ専門性や スキルが、 相手の問いや課題に 対して どのように 役立 つかを 対話を 通じて 提示していく。 価値提供=「支援しますよ 」という一 方通行ではなく、 「あなたの問いに、私 はこう 応答できるか もしれない 」という共 同作 業の入 口。 この 段階での 可視化・ 言語化の 力は重 要。 対話の 中に 「共 創の 土台」を作る。 「な ぜこれをやるのか ?」「このプロジェクトの 根っこに ある 想いは 何か ?」をチーム自身が 言語化できるよう支援 者が サポートする フェー ズ。 単なる 表層的な課題 対応ではなく、 本質的 な WILLや目的 意識を 深めるプロ セス。支援 者は、問いかけの 編集者となり、 内発的動 機の 火 種を共に育てる 役割に 変化する。 支援 者が共に動くことで、 メン バーが 「自 分の 手で 形にできた 」実感を 持つようになる 。 共に 実装し、試行錯誤を重ねる 中で、支援 者の 存在が 「助言者」ではなく 「仲間」として 認識 される。最終的には、支援 者が 手を 引いて もチームが 主体的に動き続ける 「自走状態 」を目指 す。 支援伴走 者 キー マン メン バー
  15. © Muture Corp. All Rights Reserved. 大企業組織変革支援のレシピ 大企業の組織変革には、華やかな成功の裏に数えきれない 試行錯誤があります。 



    Mutureは、そうした変革の現場に深く入り込み、経営と 現場の間に立ち、戦略づくりから実行まで長期で伴走して きました。その過程で蓄積した成功事例をパターン化し、 再利用可能な知恵としてまとめたのが、大企業組織変革支 援のパターン・ランゲージ」です。
  16. © Muture Corp. All Rights Reserved. Humanness? Humanness 感覚・身体性・文脈知・共感的理解 自己の内面が揺さぶられ、

    価値観が変化していく 倫理・経験・想像力・違和感 問いを持ち続け、言葉にならない 何かを探り続ける AI 論理・統計・再現性・高速処理 学習はするが、自律的な価値変容はしない データ・ロジック・最適化 既知の問いに対して正確に答える
  17. © Muture Corp. All Rights Reserved. Research ⇆ Humanness リサーチとは、正解を探す作業ではなく、

    感受性をひらき、関係性の中で違和感や揺れる表情をセンシングしながら、 自分自身の中に生まれる意味と向き合い、変容していく行為と考えています。 それは、人を支援するための知識ではなく、 人間そのものの“humanness”を取り戻す行為であり、 AIには担えない、身体知や感情、問いを紡ぐ力こそが、 私たち人間の可能性ではないでしょうか。
  18. © Muture Corp. All Rights Reserved. デ ザ イ ン

    は 常 に 人 間 の 役 に 立 つ も の と し て そ の 姿 を 現 す が 、 そ の 本 当 の 狙 い は 人 間 を リ ・ デ ザ イ ン す る ( デ ザ イ ン し な お す ) こ と で あ る 。 Beatriz Colomina, Mark Wigley. 我々は人間なのか?デザインと人間をめぐる考古学的覚書き (p. 13)