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統計的仮説検定のロジック/hypothesis-testing

 統計的仮説検定のロジック/hypothesis-testing

統計的仮説検定の分かりにくいポイントを易しく解説
1. 「棄却できない」の意味=判断保留
2. なぜ逆から出発するか:p値を計算するため
3. 実データで注意すること:データの構造を見て検定法を選ぶ

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Oka Natsuki

July 12, 2026

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Transcript

  1. 統計的仮説検定のロジック 「差がある」は、どうすれば言えるのか? ― 宮崎の焼酎データを入り口に ― データ分析コンペ 事前講座 2026/7/13 宮崎産業経営大学 経営学部

    エコノデータサイエンス学科 岡 夏樹 このスライドはFable 5で初版を作成し、講師が追加修正した。内容についての責任は講師が負う。
  2. はじめに 宮崎市の焼酎支出は、全国平均より多い? 家計調査のデータを見ると… 宮崎市 全国平均 全国トップクラス 「見れば明らかじゃん。 なんで検定なんて必要なの?」 実は、この数字は… •

    宮崎市の全世帯を調べた値ではない • 調査対象は百世帯規模の「標本」 • 標本の平均は、たまたま選ばれた世帯次第で毎回ズレ る=誤差を持つ推定値 • 知りたいのは母集団(宮崎市民全体)の話 → だから「 推測」の道具=検定が要る キーワード:母集団 と 標本
  3. 全体像 仮説検定の流れ ― 4つのステップ 1 主張したいこと 「AとBには差がある」 (対立仮説) → 2

    あえて逆を仮定 「A=B(差はない)」 (帰無仮説) → 3 確率を計算 その仮定の世界で、今回の データ以上の差が偶然出る 確率 = p値 → 4 判定 p値が小さい → 仮定を疑う(棄 却) p値が小さくない → 判断保留 今日のポイントは2つ。 ❶ ステップ④で「棄却できない」ときに何が言えるか ❷ そもそもなぜステップ②で“逆”を仮定 するのか
  4. ポイント① 「棄却できない」の意味 検定は裁判に似ている ― 無罪 ≠ 無実の証明 裁判では「疑わしきは罰せず」。被告は最初「無実」と推定され、検察が証拠で覆す。 有罪判決 •

    「無実」と考えるには不自然すぎる証拠が出た • = 帰無仮説「A=B」を棄却 • 積極的に「差がある」と主張できる 無罪判決 • 「無実が証明された」のではない • 「有罪とするには証拠不十分」なだけ • = 棄却できない = 判断保留。「A=Bだ」と積極 的には言えない p値が有意水準より大きい = 無罪判決。言えるのは「A=Bでないとは言えない」まで。
  5. ポイント① なぜ断定できないのか(理由 1) データが少ないと、本当の差も見つけられない 実験:コインを 4 回だけ投げる 表 表 表

    裏 表が 3 回。でも公正なコインでも 「4回中3回以上が表」は約 31%(8回中5回)で起こる → p値は大きく、まったく棄却できない 「棄却できない」の原因は 2 つありうる 原因 A:本当に差がない コインは実際に公正だった 原因 B:データが少なすぎた 偏ったコインでも 4 回では見抜けない データからは A と B を区別できない 原因を切り分けられない以上、「差がない」と断定はできない ― 言えるのは保留だけ。
  6. ポイント① なぜ断定できないのか(理由 2) 棄却されない仮説は、実は無数にある 同じデータで「差=0」が棄却されないとき、その近くの仮説も棄却されない。 差=−0.5 差=0 差=0.1 差=1.2 この範囲の仮説は

    どれも棄却されない 棄却 棄却 もし「棄却されない=正しい」なら、「差=0」も「差=0.1」も「差=−0.5」も全部正しいことになり矛盾。 だから棄却されなかった仮説は「正しい」ではなく「候補として残っている(保留)」としか言えない。
  7. ポイント① まとめ 検定の結論、正しい言い方・危ない言い方 p値 が 有意水準 より大きかった(棄却できなかった)とき ◦ 言ってよい •

    「A=B でないとは言えない」 • 「差があるとは言えなかった」 • 「今回のデータでは判断を保留する」 • レポートでは「有意差は認められなかった」と書く × 言ってはいけない • 「A=B であることが分かった」 • 「差がないことが証明された」 • 「AとBは同じだった」 • → どれも「無罪=無実の証明」と同じ誤り コンペのレポート採点でも、ここの言葉づかいはよく見られます。
  8. ポイント② なぜ“逆”から出発するのか 実は、数学で習った「背理法」と同じ発想 数学の背理法 例:√2 が無理数であることの証明 • 主張したいこと:√2 は無理数 •

    あえて逆を仮定:「√2 は有理数だ」 • その仮定から矛盾が導かれる • → 仮定が誤り。よって √2 は無理数 仮説検定 = 確率的な背理法 例:AとBに差があることを示したい • 主張したいこと:AとBには差がある • あえて逆を仮定:「A=B(差はない)」 • その世界では滅多に起きないデータが出た(p値が小 さい) • → 仮定を疑う(棄却)。差があると主張 違いは1つ:数学は 100% の矛盾、検定は「滅多に起きないことが起きた」という確率の矛盾。
  9. ポイント② もう一歩深く 「A=B」は、確率を計算できる唯一の出発点 p値を計算するには「その仮定の下でデータがどう散らばるか」が 1 つに決まる必要がある。 帰無仮説「A=B(差=0)」 分布が 1 つに固定される

    →「差=0 の世界で、今回以上の差が偶然出る確率」が計算でき る = p値 対立仮説「A≠B(差がある)」 差=0.1? 差=5? 差=100? 仮説が無数にあって分布が決まらない → そもそも確率(p値)が計算できない 主張したい側からは計算が始められない。だから“逆”の「A=B」から出発する。
  10. ポイント② 手を動かして実感 コインで確かめよう ―「偏っている」と主張したい コインを 10 回投げたら、表が 9 回出た。「このコインは偏っている!」と言いたい。 表

    表 表 裏 表 表 表 表 表 表 「公正(表の確率 1/2)」と仮定すると 「10回中9回以上が表」になる確率は 11/1024 ≈ 約 1.1% と計算できる 公正な世界では滅多に起きない → 「公正」を疑ってよい( 棄却)→「偏っている」と主張できる 「偏っている」と仮定すると…? 「偏っている」って、表の確率いくつ? 0.6? 0.8? 0.99? …決まらない 確率が決まらないので「9回以上表」の確率も計算できない → p値が作れず、検定が始まらない 片側検定の p値 = (10回中9回表 + 10回全部表) の確率 = (10+1)/1024。電卓で確かめてみよう。
  11. ポイント③ 実データで注意すること 宮崎の焼酎データ、そのまま t 検定できる? SSDSE(教育用標準データセット)の家計消費データで確かめようとすると、3 つの壁がある。 1 1都市に1つの値しかない SSDSEにあるのは宮崎市の平均支出額という「点」だけ。世帯ごとのばらつきや

    標本サイズが分からず、そのままでは t 検定の計算ができない。 2 全国平均に宮崎も入っている 比べたい相手(全国平均)の中に宮崎自身が含まれ、AとBが独立でない。厳密に は「宮崎以外の平均」と比べるべき。 3 「見れば明らか」に見える 数字の大小は一目瞭然。でも元は百世帯規模の標本調査=誤差を持つ推定値。こ こが母集団と標本を考える最大のチャンス。
  12. ポイント③ おすすめの進め方 焼酎データはこう使おう ― 役割分担が鍵 1 つかみ・問いづくり 宮崎の焼酎 「宮崎は本当に多い? 偶然じゃない?」と

    いう問いを立てる題材に。母集団と標本の 区別もここで議論する。 2 ロジックの練習 コイン・アンケート 検定の考え方はコイン投げや、自分たちで 集めた生データ(クラスのアンケート等) で練習。ばらつきが手に入る。 3 数値演習 年次データ 宮崎市と全国の焼酎支出を過去10年分そろ え、対応のある t 検定に。実際に手を動か して p値まで計算できる*。 *厳密には、時系列の自己相関に目をつぶった簡略 化であることに注意 「どのデータなら検定できるか」を考えること自体が、コンペで一番差がつく力になる。
  13. 今日のまとめ 1 棄却できない = 判断保留 「A=Bでないとは言えない」まで。「A=Bだ」とは言えない。無罪判決は無実の証明ではない。 2 “逆”から出発するのは計算のため 検定は確率的な背理法。「A=B」と仮定して初めて分布が1つに決まり、p値が計算できる。 3

    データの構造を見てから検定を選ぶ 1つの値しかないデータに t 検定はできない。「そのデータで何が計算できるか」を最初に確認する。 結論を「正しい日本語」で書けることが、分析力の証明です。