Upgrade to Pro — share decks privately, control downloads, hide ads and more …

AIの電力問題を概観する

 AIの電力問題を概観する

2025年5月29日、人工知能学会のセッション「希望ある未来に向けたAGIの安全性とアライメント」にて、丸山から行った話題提供の資料です。

Avatar for Ryuichi Maruyama

Ryuichi Maruyama

May 29, 2025
Tweet

More Decks by Ryuichi Maruyama

Other Decks in Technology

Transcript

  1. 20250529  丸山資料 計算量の時代 • Sam Altman⽒:「計算資源のボトルネック が国家競争⼒を左右する」 (⽶国上院公聴会、2025 年5 ⽉8

    ⽇) • OpenAIのStargateプロジェクト 5000 億ドルを投じてデータセンター整備 (テキサスで着⼯)。 • Google, Meta, Microsoft, Amazonは、こ ぞって⾃らのデータセンターを整備。 OpenAIなど4社、AI中国対抗へ規制緩和訴え 米公聴会で - 日本経済新聞
  2. 20250529  丸山資料 今、計算はデータセンター(DC)で起こってる Vili Lehdonvirta ⽒(『デジタルの 皇帝たち』著者) “逆PC⾰命”が進⾏ Reverse Personal

    Computer Revolution • 計算がメインフレーム→エッジへ分散した流 れが逆転 • ユーザー端末/オンプレミスサーバーから、ハ イパースケールデータセンターへ。
  3. 20250529  丸山資料 「電⼒爆⾷」のAIデータセンター(DC) • 普通のDC:受電容量10〜25MW規模。 • AI⽤ハイパースケールDC:100MW以上 (約10万世帯分) ◦ 最⼤級では2GW〜5GW(原発5基分)に。

    • 各モデル開発企業は⾃ら電源確保に動く。 • ⽇本でも: ◦ 東電管内では2037年度までにDC向け電⼒ 容量の申し込みは9.5GW=原発9基分 ◦ ⽇経ビジネス:[新連載]AIデータセンター 原発9 基分を爆⾷ ⾸都圏‧関⻄に9割集中 Meta : 1‒4 GW 規模の新規原⼦炉調達を公表(2024年12 ⽉)。(記事) Google は、Kairos Power(⼩型モジュール式原⼦炉 業者)、Elementl Power(2022年創業の原⼦⼒プロ ジェクトの開発業者) に資⾦提供(記事)
  4. 20250529  丸山資料 これまでの電⼒需要増 出典:Energy and AI ‒ Analysis - IEA (Figure2.3)

    世界のDC電⼒消費量は41 TWh∕年 (2024年) = 世界の電⼒消費量の1.5%。 • DCの種別では、ハイパースケールの⽐ 重増⼤ • 冷却効率が⾼まり、サーバーに使う電 ⼒が⼤半に。
  5. 20250529  丸山資料 2030年までのIEA予想 • 世界のDC電⼒消費量は2030年、945 TWhに。 =2024年から倍増以上 ◦ 増分の⼤部分はAIによる。 ◦

    945 TW≒現在の⽇本の総電⼒消費量 ◦ ⽶国と中国が⼤半を占める • ⽇本のDC電⼒消費量 ◦ 2024年:20 TWh(⽇本全体の約2%) ◦ 2030年(IEA予想):35 TWh(80%増) 出典:Energy and AI ‒ Analysis - IEA Figure 2.12 Data centre electricity consumption by region in the Base Case, 2020-2030
  6. 20250529  丸山資料 ⼩括 IEA(やその他の機関)の予想では、 マクロなレベルでは「AI が電⼒を⾷い尽くす」ほどではない。 ただし、 • 電⼒需要が減少傾向の⽇本で+15 TWh

    は結構⼤変。 • 局所的な電⼒ひっ迫は存在。 例:アイルランドは電⼒の2割超がDC。 例:⽇本でも印⻄市、昭島市など、市町村の地域単位では問題に。
  7. 20250529  丸山資料 例:クーメイの法則 vs ジェボンズのパラドックス AIによる電⼒需要の 指数的増⼤は終わる説 AIによる電⼒需要の 指数的増⼤は続く説 • クーメイの法則: 1JあたりのFLOP数が約1.

    57年ごとに倍に • 「DeepSeekショック」 • 「過去のIT電力爆発は杞憂」:2010年代で全 電力消費の1.5%未満。 • ジェボンズのパラドックス :資源利用の効率化 が進むほど、その資源の総利用量が却って増 加 • Epoch AI:2023年のGPT-4から2030年までに 10,000倍のスケールアップ( 10^28~29 FLOP)が可能。 vs 参考:2025.2.18 丸山記事 AIによる電力需要はどこまで増えるのか?~「 AI電力問題」の予備的検討~ — ALIGN
  8. 20250529  丸山資料 試論:計算量に対する需要‧供給曲線 $ FLOP 今の 需要曲線 単位FLOP 当たりの価格 今のAIの

    総計算量 供給曲線の シフト要因 需要曲線の シフト要因 20xx年のAIの 総計算量 20xx年の需要曲線 今の供給曲線 20xx年の供給曲線 • チップのコスト低下 • チップやデータセンター 供給能⼒向上 • モデルの性能向上 • ユースケース開拓 • AI利⽤⼈⼝の増加 etc. 変動要因は無数に存在。 本当は誰にもわからない(はず)。 FLOPを安く多く売れる⼈(供給)+⾼くても買う⼈(需要)により、計算量は増えていく
  9. 20250529  丸山資料 ⼀回当たりの推論の消費電⼒は? 出典:Energy and AI ‒ Analysis - IEA (Figure1.16)

    OSSモデルによる計測(IEAより) • ⼩モデル(9B)テキスト⽣成〜0.3Wh • 中モデル(70B)テキスト⽣成〜5Wh • 画像⽣成〜1.7Wh • 動画⽣成(6秒、8fps、低品質)〜115Wh (参考) • スマホ充電:約15Wh • ノートPC充電:約60W ※OpenAI, Google, Anthropicらは開⽰していない!
  10. 20250529  丸山資料 Hugging Face “AI Energy Score” Hugging Face、オープンモデルの電⼒消 費量を⽐較する“AI

    Energy Score”公開。 • H100 GPUクラスタで実験し、1,000 クエリ あたりの消費電⼒を測定。 • (例)Qwen3-8Bにて、四桁の掛け算で reasoningモードは素の推論の43倍の電⼒ (1.7Wh)を消費(2025年4⽉)。 出典: https://x.com/SashaMTL/status/1917306158995382581
  11. 20250529  丸山資料 簡単なback of envelope計算 ⽇本⼈の⼀⼈当たりの年間発電量:8,220 kWh(ソース) • 年の電⼒を利⽤→1秒に直すと、0.261 Wh/秒=938

    W → 0.2Wh ≒ ⼤規模モデル(ChatGPT-4oなど)の推論の⼀回程度のはず → 全⽇本在住者がChatGPT-4oの推論を毎秒1回⾛らせたら、年間の消費電⼒量は倍増! • そこまであり得ない想定でもない? • したがって、全員が「裏で⾛らせる」技術にするには、まだ⼤幅な省エネが必要。 (考えたいこと:⼈がAIにつぎ込むエネルギーには、「常識的な上限」が存在しない)
  12. 20250529  丸山資料 【環境問題】 • 水問題 • e-waste問題 データセンター急増に伴う様々なリスク 【地域問題】 •

    景観・騒音・熱 • 地域の電力ひっ迫 • 都市計画上の問題 DC銀座「INZAI」で起きている地殻変動 目を背けられない現実 | 毎日新聞 【産業政策】 • 外資系DC急増=「デジタルイン フラのニセコ化」問題 (さくらイン ターネット田中邦裕氏) さくらインタ―ネット社長 田中邦裕氏資料(総務省審議会) 海外ハイパースケーラーによる近年の対⽇DC投資 出典:活況の裏で進むデジタル赤字 深まる巨大IT依存 迫る「ニ セコ化」危機 (日経ビジネス)
  13. 20250529  丸山資料 AIへの電⼒供給を増やせないリスク∕便益逸失 • 産業競争力の低下 ◦ デジタル赤字など • AI研究能力の低下 ◦

    AI人材やAI企業の誘因の低下など • 安全保障・地政学リスク ◦ 情報セキュリティ ◦ AIの海外依存リスクなど 日本を含む各国政府は、AIの電力確保を急ぐ。 例:日本の経産省・総務省は「ワット・ビット連携」(電力と通信の効果 的な連携)を検討。 ワット・ビット連携とは何か? 第1回:「生成AI活用」「脱炭素」「経済成長」を同時実現する電 力・情報通信インフラの最適化 | MRIエコノミック・レビュー
  14. 20250529  丸山資料 AIの電⼒問題の整理試⾏ (A)AIのために電⼒供給を急速に増やす ことのリスク (B)AIのために電⼒供給を増やせないことの リスク∕便益逸失 1. 世界にとって A-1

    :脱炭素の難易度上昇、原発‧化⽯燃 料回帰 B-1 :AIの⼤規模化から⼈類全体として得ら れる便益の逸失。 2. ⽇本にとって A-2 :電⼒供給の局所的ひっ迫、⻑期的な エネルギー政策への影響、外資DCの場合 「デジタルインフラのニセコ化」 B-2:デジタル⾚字‧地政学的依存(安全保障 上の脆弱性)。 3. 地域にとって A-3 :地域の電⼒供給をはじめとする環境 負荷、騒⾳、景観、発熱、その他都市計 画上の問題。
  15. 20250529  丸山資料 まとめ • 2030年でもDC消費電⼒予測は3%(世界‧⽇本)程度。 ◦ しかし、現状の予測はトレンドの外挿。 • 「どれくらいの電⼒が必要なのか」は誰も議論できていない。 ◦

    推論時の消費電⼒は、透明性が低い。 ◦ オーダーとしては、ChatGPTを全国⺠が24時間365⽇裏で⾛らせると、電⼒量は2倍に? • 「AIの電⼒問題」は複層的。 ◦ 「増やすリスク∕増やせないリスク」×「世界にとって∕国にとって∕地域にとって」
  16. 20250529  丸山資料 問い 短期的には、⽇本にはもっと計算資源があったほうが良いのは前提として、私たちは、⾒通しもなく、 DCをつくり続け、電⼒を供給し続けるのか? そうでないとしたら、何Whを計算につぎ込み、そこか らどんな「知能」を引き出し、そこからどんな「価値」を⽣もうとしているのか? 「エネルギー - 計算量 -

    知能 - 価値の連関」を議論する道具⽴てが求められているのではないか? 電⼒量 Wh 計算量 (学習+推論) FLOP “知能” x? 価値 $+? 電⼒-計算量効率 FLOP/Wh 「知能」は計算量に どこまで追随? cf. scaling law 「知能」の向上は どんな価値を有む?