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型理論のはじまり

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December 31, 2024

 型理論のはじまり

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  1. ユークリッドの原論 幾何学が定義、公理、公準2、命題、証明に整理された 具体例 定義 1 点とは部分をもたないもの 定義 2 線は幅のない長さ 定義

    3 面は長さと幅だけをもつもの 公理 5 全体は部分より大きい 命題 5 二等辺三角形の底辺はたがいに等しい 2公理は量などの一般対象の前提、公準は幾何学の対象の前提 5
  2. 5つの公準 5番目の公準は複雑 1. 任意の点から任意の点に直線を引くこと 2. 有限な線分を連続して直線に延長すること 3. 任意の点と半径で円を描くこと 4. すべての直角は等しいこと

    5. 二直線が一直線と交わるとき、同じ側にできる内角の和が 二直角よりも小さいなら二直線はその側に延長すると交わる 6
  3. 平行線公理への疑問 平行線公理は真理か ∘ ほかの公準からの証明できないか ∘ アラビア世界ではハイタム (965-1039) やハイヤーミー (1048 –

    1131) ∘ サッケーリ (1667 ー 1733), ルシャンドル (1752-1833) は独立に 平行線公理がないと三角形の内角の和は二直角以下になると証明 ∘ 平行線公理を否定しても残りの公準と矛盾しない ∘ ガウス (1777-1855) は平行線の公理は証明できないことを示唆する手 紙を残す ∘ ロバチェフスキー (1792-1856) とボヤイ (1802-1860) が独立に平行線 を二本以上ひけても矛盾しない非ユークリッド幾何学を発見 8
  4. ものの集まりで数学を考える 空集合だけで対象を定義できる 例 1. 空集合 𝜙 を {𝑥|𝑥 ≠ 𝑥}

    とする 2. 𝜙 を 0 となづける 3. 空集合 1 つからなる集合 {𝜙} を 1 となづける 4. {0, 1} を 2 となづける 5. ⋮ 6. {0, 1, 2, ⋯} を 𝜔 となづける 7. 𝜔 の積集合 𝑃(𝜔) を実数全体の集合にする 8. 𝑃(𝑃(𝜔)) を実数から実数への関数の集合にする 12
  5. 算術の基礎 フレーゲは論理学を算術の基礎におこうとした ∘ 「概念記法」で述語論理を提案 ∘ 「算術の基本法則」で概念記法と集合論による 算術の公理と定理を提案 ∘ “On Sense

    and Reference” で語には sense と reference があると提起 ∘ 明けの明星と宵の明星の reference は金星 ∘ 「金星は明けの明星である」と「金星は金星である」 の sense は違う 図は Philosophy for beginners6 より 14
  6. 思考を記号で計算する 推論を記号操作に還元する考えは17世紀以前からある 考案したもの ∘ 今日で使う微積分学の記法 ∘ 二進数 ∘ characteristica universalis

    ∘ 単語を構成するアルファベット のような思考の記号体系 ∘ 代数的な記号操作で推論 図は Philosophy for beginners6 より 15
  7. ブールの論理代数 ブールは命題に出現する個体の集合を記号で表した THE LAWS OF THOUGHT2 より引用 Let us then

    agree to represent the class of individuals to which a particular name or description is applicable, by a single letter, as x. If the name is “men,” for instance, let x represent “all men,” 図は “The Universal Computer: The Road from Leibniz to Turing” より 16
  8. 推論規則の例 命題論理は、命題と論理結合子からなる論理体系 推論規則 𝜑, 𝜓 (∧ 導入) 𝜑 ∧ 𝜓

    𝜑 ∧ 𝜓 (∨ 消去) 𝜑 𝜑 ∧ 𝜓 (∨ 消去) 𝜓 [𝜑] ⋮ 𝜓 (→導入) 𝜑 → 𝜓 𝜑 𝜑 → 𝜓 (→消去) 𝜓 ⊥ (⊥) 𝜑 [¬𝜑] ⋮ ⊥ (背理法) 𝜑 𝜑,, 𝜓 は真偽値をとる命題。 17
  9. 概念記法 フレーゲは述語による言明を形式化した ∘ 「𝜑 が〜である」という言明を引数 𝜑 を真偽値に写像する述語 𝑃(𝜑) をとして命題論理に加える ∘

    「任意の 𝜙 について」という普遍量化子 ∀ と、 「ある 𝑥 につい て」という存在量化子 ∃ も加える ∘ たとえば「家にいるペットは犬か猫だ」という命題は ∀𝑥.𝑃(𝑥) → 𝐷(𝑥) ∨ 𝐶(𝑥) のように表せる ∘ 複雑な命題を単純な命題の組合せで表現しやすくなる 18
  10. ラッセルのパラドクス 集合の集合を考えると矛盾がおきる 1. 自分自身を元にもたない集合すべての集合を 𝑅 = {𝑥|𝑥 ∉ 𝑥} とする

    2. 𝑅 が自分を元にもたない集合とすると定義から 𝑅 は 𝑅 の元になる 3. 𝑅 が自分を元にもつ集合とすると定義から 𝑅 は 𝑅 の元ではない 19
  11. 「算術の基本法則」でのラッセルのパラドクス 原因は公理V: 𝜖𝑃 = 𝜖𝑄 ≡ ∀𝑥[𝑃(𝑥) ≡ 𝑄(𝑥)] ∘

    公理 V は述語の同一である条件 ∘ 𝜖𝑃 は述語 𝑃 を充足する集合 1. 𝑅 を述語論理で ∃𝑃[𝑥 = 𝜖𝑃 ∧ ¬𝑃(𝑥)] と表せる 2. 𝑥 を 𝜖𝑅 とすると 𝑅(𝜖𝑅) ≡ ¬𝑅(𝜖𝑅) となる ∘ 型理論のはじまりは、述語論理の述語は述語をとれない規則の ような階層構造でラッセルがパラドクスの解消を試みたこと 20
  12. 参考資料 [1] Maria Rosa Antognazza. Leibniz: A Very Short Introduction.

    Oxford University Press, 2016. [2] George Boole. THE LAWS OF THOUGHT. 1854. URL: https://plato.stanford.edu/entries/settheory-early/. [3] Martin Davis. The Universal Computer: The Road from Leibniz to Turing. CRC Press, 2018. [4] Epistemology of Geometry. 2021. URL: https: //plato.stanford.edu/entries/epistemology-geometry/. [5] Richard Fitzpatrick. EUCLID’S ELEMENTS OF GEOMETRY. 2008. URL: https: //farside.ph.utexas.edu/Books/Euclid/Elements.pdf. 21
  13. 参考資料 [6] Richard Osborne. Philosophy for beginners. For Beginners, 2007.

    [7] Type Theory. 2022. URL: https://plato.stanford.edu/entries/type-theory/. [8] 竹内 外史. 新装版 集合とはなにか―はじめて学ぶ人のために. 講談社, 2001. [9] 橋爪 大三郎. はじめての構造主義. 講談社, 1988. [10] 加藤 文元. 数学の世界史. KADOKAWA, 2024. [11] 上垣 渉. はじめて読む 数学の歴史. ベレ出版, 2006. [12] 宮岡 礼子. 曲がった空間の幾何学 現代の科学を支える非ユークリッド幾 何とは. 講談社, 2017. 22