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Let's Change Our World—Again

Let's Change Our World—Again

スクラム祭り2026での登壇資料です #scrumat

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Koji SHIMADA PRO

October 23, 2026

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Transcript

  1. Dave Thomas • アジャイルソフトウェア開発宣言の署名者の一人 • 『達人プログラマー』の共著者 • Pragmatic Bookshelf の共同創業者

    島田にとっては、プログラマーとしての自我が芽生え始めた頃に『達人プ ログラマー』と出会い、『RailsによるアジャイルWebアプリケーション開 発』や『プログラミングRuby』などで、プログラマー人生が大きく決定づ き、他にもたくさんの影響をもらった相手。 なので、『シンプリシティ』は、自分にとって特別で大きな気持ちがある 仕事です 3 2 fl https:// ic.kr/p/LWm
  2. そんなDaveの11年ぶり(!!)の新作が『シンプリシティ』 • 現場開発者に向けた考え方が書かれている • 原書の刊行は2025年 - AIによる変化が本格化する直前 - AIへの直接的な言及などはない →

    AI時代において読む価値は失われてしまったか? 訳者(本書を日本で一番読み込んだ人間)としては本書の核となるメッ セージは、AI時代だからこそ受け取るべきものだと考えています
  3. 2026年のソフトウェア開発の状況 AIが本格的にソフトウェア開発に参加し始めた • Vibe Coding から Agentic Coding へ •

    AIによる生成を前提とした開発の仕方、仕組み、考え方が活発に議論されている • Harness Engineering、Context Engineering、Software Factory … ソフトウェア開発の仕方が大きく揺れている状況 コードを始め「生成」にかかるコストが大きく下がったことで、これまでと前提が変わったため
  4. 2026年のソフトウェア開発の状況 私たちの仕事の変化 生成がAIの仕事になったことで、重心はより上位の意思決定や判断の方へ “ Most of the tactical work of

    writing, debugging, and maintaining code shifts to AI while engineers focus on higher-level work like architecture, system design, and strategic decisions about what to build. − 2026 Agentic Coding Trends Report しかし、「生成はAI、判断は人」と単純にいかなそうなことも見え始めている
  5. 私たちへの影響(1) 認知負債(cognitive debt) • 開発者がシステムについて推論し、安全かつ自信を持ってシステムを変更する際に頼る 共有メンタルモデルが、次第に不十分になっていく性質 • 開発者がコードを書くとき、その摩擦と労力によって、少なくとも部分的なメンタル モデルがその過程で作られている…(略)…AIが同じコードを生成すると、開発者は同じ 水準の理解を築かないまま受け入れてしまうかもしれない

    Margaret-Anne Storey ”From Technical Debt to Cognitive and Intent Debt” (2026) 翻訳は和田卓人『負債のメタファと2026年』を参照。強調は引用者 この概念自体は以前から存在するもの。AIによる影響としては、人が手を動かさないことで負債がこれまでよりも速く蓄積 するだろうという点と、これまでは負債は開発の手を止めるという形で表面化していたのが、AIは開発できてしまうので、 いざというときに大きな痛みとして顕在化する可能性があるという点があります
  6. 私たちへの影響(2) 認知的降伏(cognitive surrender) • 人による判断を残していても、AIの出力をそのまま受け入れ、自覚のないまま判断を 預けてしまう傾向 • AIを使わなかった人よりも、AIを使った人の方が自信が上がる • 流暢で、自信ありげで、摩擦なく出力が届けられるときに起きやすい

    Margaret-Anne Storey D. Shaw & Gideon Nave ”Thinking̶Fast, Slow, and Arti cial: How AI is Reshaping Human Reasoning and the Rise of Cognitive Surrender” (2026) fi 判断の形は残っているのに中身がない状態。認知的降伏は、そのときに人の内で起きていることに付いた名前。外から見た 姿に付いた名前が「ミート・プロキシ(meat proxy、生成AIの出力を、検証・理解せずにそのまま他者に中継する人)」
  7. Agile is Dead(Long Live Agility) もう一度、アジャイル本来の目的に立ち返ろうというDaveの提言 Agile is Dead →

    制度やプラクティスとして「アジャイル」を導入することではなく Long Live Agility → 現在地を把握し、目標に向かって小さな一歩を踏み出し、学び、理解や判断を調整することを 繰り返していけるフィードバックループ(アジリティ)がある状態を開発者が持つことが重要 その具体的な実践を示したのが『シンプリシティ』
  8. 『シンプリシティ』/対象 自分たちの手の届く世界 変える対象は自分たちの仕事を取り囲む世界 → コード、プロジェクト、仕事の進め方、人との関わり… 「もう一度、世界を変えよう」の原文は 「Letʼs Change Our World̶Again」。

    翻訳では泣く泣く落としてしまったのですが、 「The World」(社会や組織)ではなく、 「Our World」(自分たちの世界) であるという点はメッセージとしては 大事だと思っています…!!
  9. なぜ『シンプリシティ』のテーマがAI時代の課題と符合するのか Daveの課題意識 AI時代の課題 導入される制度やプラクティスとして「アジャイル」 が使われる 生成する役割としてAIが使われるようになっていく → 外側からやり方が与えられ、そこに作用できない ことで、仕事の進め方が、働きかけるものから、従う ものになってしまう

    → 内側で手を動かす機会が失われることで、仕事す る対象が、働きかけるものから、受け取るものにな ってしまう 仕事の進め方を支援・改善するために導入されたものが人と仕事の間に入り込み、 人が自分たちの仕事を動かしていく力を弱めてしまう
  10. 人が判断していける力を養うには そうした力はいずれも「意思を持って働きかけ、結果を受け取り、期待との違いから学び、 次の行動を調整する」という経験の繰り返しを通じて育つことがわかっている 認知技能 この種の知識(長期記憶からの想起・認知技能)は、使うことと、その効果のフィードバックを通してしか育たない Lisanne Bainbridge「Ironies of Automation」(1983) 直感

    状況と、その後の結果のあいだに、安定した手がかりがあること。そして、その規則性を学ぶ十分な機会。長い実践と、速く 明確なフィードバックがあることで育つ Kahneman & Klein「Conditions for Intuitive Expertise: A Failure to Disagree」(2009) 理論 理論は実作業で形成され、文書で代替できない Peter Naur「Programming as Theory Building」(1985)
  11. AIが実作業を担いつつも、人が結果を受け取れる状態をどう作るか ① 受け取る量を、確かめられる量にする “ The agent should move at the

    speed of the verification, not the speed of the typing 生成の速度ではなく、検証の速度で進む — Dave Thomas たとえば、WIPの量を従来のようにPRの数で制限するのではなく、チームが許容できる複雑さの量で制限するとか
  12. dance of agency Andrew Pickering『The Mangle of Practice』 •人が世界に働きかけ、世界が返してくるものに応じて、人がまた働きかける。人の 行為主体性(agency)は、その往復の中で形を得ていくという考え方

    •ダンス…抵抗と調整の往復 抵抗(Resistance) 調整(Accommodation) 人は対象に働きかけるが、対象は必ずしも期待通りに は応じない 人はその結果を受けて、方法を変え、ときには目標 や意図も変えていく 人の行為主体性とは、与えられるものでも、元から持っている素質でもなく、 世界との相互作用の中で発揮され、育まれていく
  13. 2026年のソフトウェア開発の状況 AIが本格的にソフトウェア開発に参加し始めた • AIによる生成を前提とした開発の仕方、仕組み、考え方が活発に議論されている • Harness Engineering、Context Engineering、Software Factory …

    • 一方で、AIと働くことでの人の側への影響についても問題提起がされ始めている • 認知負債、認知的降伏 … • 正解もわからないし、将来的にどうなるかも見えていない状況…… 少なくとも今はまだ、私たちが主体的に判断をしていくことを手放さずに AIと仕事をしていく方法を模索していく必要がある
  14. 持続可能かつ人間的で効果的なソフトウェア開発 sustainable, humane, and e ective software development 持続可能(Sustainable) 理解し、学び、変化に適応し続けられること

    人間的(Humane) 人が仕事の行為主体として尊重され、働きかけていけること 効果的(E ective) 本当に必要な価値を生み出していけること ff ff AI時代に私たちが考えていかなければならないDaveからの宿題
  15. 参考文献 Dave Thomas『Simplicity: Sustainable, Humane, and E ective Software Development』Pragmatic

    Bookshelf, 2025(邦訳『シンプリシティ― 持続可能かつ人間的で効果的な ソフトウェア開発』) David Thomas, Andrew Hunt 『The Pragmatic Programmer 20th Anniversary Edition』(邦訳『達人プログラマー 第2版』) Dave Thomas「Agile is Dead (Long Live Agility)」2014 GOTO Book Club「Simplicity」2025-06 Anthropic「2026 Agentic Coding Trends Report」 Anthropic「Auto mode is now the default in Claude Code for Pro, Max, and Team plans」2026-08-07 Margaret-Anne Storey「From Technical Debt to Cognitive and Intent Debt: Rethinking Software Health in the Age of AI」2026(訳:和田卓人「負債のメタファと2026年」) Steven D. Shaw & Gideon Nave「Thinking̶Fast, Slow, and Arti cial: How AI is Reshaping Human Reasoning and the Rise of Cognitive Surrender」PsyArXiv preprint, 2026 Marty Cagan「誰もが「つくれる」時代、価値はどこに宿るのか」Findy Media, 2026 Lisanne Bainbridge「Ironies of Automation」Automatica, 1983 Daniel Kahneman & Gary Klein「Conditions for Intuitive Expertise: A Failure to Disagree」American Psychologist, 2009 Peter Naur「Programming as Theory Building」1985 Dave Thomas (@pragdave) X, 2026 Geo rey Litt「Understanding is the new bottleneck」2026-07-02 Andrew Pickering『The Mangle of Practice: Time, Agency, and Science』University of Chicago Press, 1995 クリストファー・アレグザンダー『パタン・ランゲージ』鹿島出版会 Martin Hinshelwood「The Role of Agency in Scrum: Why Self-Management Without Agency Is a Lie」Scrum.org, 2026-10-06 fi ff ff 角征典「サンキュー、XP」XP祭り2026 基調講演, 2026-09-05/Robert C. Martin『Clean Agile』