人工知能技術の発展、および端末の性能向上の発展により、物体の判別や自然言語処理などiOSの様々な可能性が広がってきました。これらの技術の延長線として、我々が備えているものと同等の知能をいつかiOSアプリは宿すのでしょうか?
ヒトなどの動物が備える天然の知能にあって、現状のAIに欠けているものを2つ挙げるとすると「自律性」と「汎用性」が考えられます。
自律性についてですが、現状のAIは特定の問題をヒトが設定し解決するためのツールとしての使い方が主流です。それに対して、我々動物が持つ知能は環境から独立し、相互作用する自律性を備えています。
汎用性に関してですが、限られた状況においてのみ高い能力を発揮するのが、現状のAIです。砂漠から北極圏、都市での生活まで広く適応可能なヒトの知能には、まだまだ遠く及びません。例えばクジラの消化管にのみ適応した寄生虫のように環境を限定することで生き残った動物もいますが、高度に進化した動物の知能は、様々な環境に適応できる汎用性を備えています。
iOSアプリがこのような自律性と汎用性を兼ね備えるためには、何が必要なのでしょうか。1つ考えられるのは、「内部世界」です。我々の脳は常に情報が循環し複雑に流れる内部世界を持っています。iOSDC2019ではこのような複雑な流れを簡単にシミュレートするプログラムを公開しました。もう1つ考えられるのは、「感情」です。動物は、美味しい、美しい、心地よいなどのポジティブな感情を多く得られるように、痛い、醜い、苦しいなどのネガティブな感情を避けるように行動します。AIが自律性を備えるためには行動の指針が必要なのですが、この感情のような仕組みを模倣できればそのような指針になるでしょう。今回の発表では前回の「内部世界」のシミュレーションを踏まえ、アプリへ感情のようなもの?を導入しようとする試みについて話します。