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生成AI時代における変革的創造性の再考——社会的ランドスケープ概念を手がかりに

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 生成AI時代における変革的創造性の再考——社会的ランドスケープ概念を手がかりに

2026年度 人工知能学会全国大会(第40回)で2026年6月11日に行った発表で使用したスライドです。

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Shigeru Kobayashi

June 11, 2026

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Transcript

  1. はじめに 創造性の定義は立場や研究者によって実に多様である(Treffinger 1996; Aleinikov et al. 2000) メカニズムやシステムとして創造性を捉えた定義として広く知られているもの 心理学者のMihaly Csikszentmihalyiによるもの(Csikszentmihalyi

    1996) 計算機における創造性のモデルについて論じた認知科学者のMargaret Bodenによるもの(Boden 1996, 2003, 2009) : 組み合わせの創造性(combinational creativity) :複数の異質なアイデアを組み合わせる 探索的創造性(exploratory creativity) :決められたコンセプトの中で可能性を探索していく 変革的創造性(transformational creativity) :コンセプトそのものを拡張し新たなジャンルを生み出す AI研究における創造性をめぐる議論において、AI単独の創造性を問うだけでなく、人とAIの共創性(co-creativity)が 注目されつつある(Wingström et al. 2024) 人はテクノロジーを変化させるだけでなく、テクノロジーによって変化させられもする(Ihde and Malafouris 2019) 昨年度の本セッション第1回では、制作過程における時間が論点になった。本発表は社会的ランドスケープ(Hirai 2025; Taniguchi et al. 2025)を手がかりとして、社会変容という数十年スケールの時間について考えてみたい。 2
  2. 社会的ランドスケープ:慣性と変容(Hirai 2025) 平井が2025年の論文で提唱した、社会の規範・価値観・集合的行動を規定する 動的な構造を指す概念 社会には、人々が最もエネルギー効率良く行動できる安定した状態、すなわち 〈 谷 〉がある アトラクター 長年の慣習や制度の積み重ねによって深く掘られたこの〈谷〉に沿って

    思考し行動することは、個人にとって最も抵抗が少なく自然な選択となるため、 社会には一定の状態を維持しようとする極めて強い「慣性」がある この慣性のため、単一の英雄的行為や政治的革命のように大きな出来事でも、 その影響は既存の〈谷〉の引力によって容易に中和されてしまい、一気に 社会的ランドスケープが変容することはない そうではなく、変革者が新たなビジョンを提示し、そのビジョンに対する イノベーター 人々の共鳴が長い時間をかけて伝播していくことにより、数十年という時間を レゾナンス かけて社会的ランドスケープは変容していく i. 変革者による斬新なビジョンの提示 イノベーター ii. 支持者と模倣者ら少数のアーリーアダプターとの共鳴 フォロワー イミテーター レゾナンス iii. 社会全体への伝播 〈⾕〉 引⼒ 社会的ランドスケープの概念図。新たな行動の多くは〈谷〉 に沿って行われる。 〈⾕〉 変⾰者のビジョン 変⾰者のビジョン 変⾰者のビジョン 引⼒ 変革者が新たなビジョンを提示しても、ただちに 社会的ランドスケープが変容することはない。 3
  3. 社会的ランドスケープ:アーリーアダプターの役割 社会的ランドスケープにおいて重要な役割を果たすのが、支持者と模倣者からなるアーリーアダプターの存在 フォロワー イミテーター 支持者:変革者のビジョンが自分自身の潜在的な信念や記憶と共鳴し、その言葉を自分自身の声として受け取った人々 フォロワー イノベーター 模倣者:変革者のアイデアに類似したバリエーションを展開するだけでなく、変革者と同様の重力効果(人を イミテーター 引き付ける力)を再現する人々(否定的な意味合いではない)

    こうした人々は、変革者に出会うまでは変化を好まない社会の規範に沿って生きている しかしながら、変革者が明確に表明したビジョンが、自らの中で持続しつつも日常の社会規範との相互干渉によって〈中和〉 (複数の力が打ち消し合い均衡する状態)されることで潜在化していた記憶と共鳴すると〈脱中和〉されて前景化し、 逸脱する新しいアイデアに従うことを選択する こうした人々が現れることにより、変化が再帰的に増幅されて伝播し、やがて社会的ランドスケープの変容へと つながっていく この動態システム論は、生物個体から集合的に構築される社会までをベルクソン時間哲学のマルチ時間スケール解釈で つなぐものとなっている(Taniguchi et al. 2025) 4
  4. Bodenの3類型と社会的ランドスケープ 創造性の類型 社会的ランドスケープ上の位置づけ 帰結 探索的創造性 〈谷〉の中での可能性の探索 ランドスケープは不変 組み合わせの 創造性 〈谷〉からの一時的な逸脱(既存ランドスケープ内で

    評価) オリジナリティと評価されるが変容には至りにくい 変革的創造性 ランドスケープそのものの変容 創造性の前提条件が変わる(例:Marcel Duchamp《泉》 1917) Bodenも創造性の評価が社会的・歴史的交渉に依存すると述べている 「創造的」と見なされるアイデアは、興味深いものでなければならない。しかし、何が興味深いのかは、その分野によって大きく異なる。 さらに、この判断はしばしば社会的・歴史的要因に左右される。科学的な「発見」とは何かは、関連する専門家グループ間の(時には 長期間にわたる)交渉によって決定される(Schaffer, 1994) 。芸術の分野でも同様の交渉が行われている。こうした評価を説明できる、 純粋に心理学的(非歴史的)な理論は存在しない。 (Boden 1996, 268) 6
  5. Floridi(2018)の「archetype」と「ectype」 デジタルテクノロジーがスタイル、手法、手続きなど 制作の過程からアーティストの心などにある原型的源泉 (archetypal source)を分離した 源泉が本物かどうか(originality)と制作過程の真正性 (authenticity)のうちいずれか一方が欠けた産物を ectype、両方が欠けたものはfake(贋作)と呼んだ Floridiが提出した概念を参照すると、AIを用いた作品に 関する議論の解像度を高めることができる

    例:2016年の取り組み「The Next Rembrandt」 : この「新作」は、Rembrandt本人が描いた ものではない(not original)が、彼の技法を忠実に 再現した制作過程を経ている(qualified authentic) ため、贋作ではなく、ectype①と位置付けられる。 Floridiが提出したこれらの概念と 社会的ランドスケープ論との接続を試みてみたい。 Floridi の ectype 分類:源泉 (originality) × 過程 (authenticity) 源泉が original (源泉から来ている) 源泉が original でない (源泉から来ていない) 過程が authentic 過程が authentic でない archetype(真正のオリジナル) original & authentic 例:レオナルドのモナ・リザ ← ⼈+AI の共創が⽬指す先(新たな archetype) ectype ① authentic but unoriginal 例:The Next Rembrandt ← 現状の⽣成AI はここ ectype ② inauthentic but original 例:JFK 最後の演説(合成⾳声) 贋作(fake / forgery) not original & not authentic 例:van Meegeren の偽フェルメール ⼈と AI の共創が⽬指す移⾏:右上 (ectype①) → 左上(新たな archetype)  = 変⾰的創造性 Floridi (2018, tbl. 1) を基に作成 7
  6. 社会的ランドスケープ論との接続 現状の生成AIモデルは、社会的ランドスケープに 埋め込まれた過去の作品群——すなわちそれらの archetypeが生み出した成果——をデータとして、その スタイルや技法を再現する(authentic) そうしたAIと創造的意図を持つ人間が共創することに より、authentic and originalなだけでなく、それ自体が 新たなarchetypeとして機能しうる作品を制作することも

    できるだろう そのための鍵となるのは、 〈谷〉の中での探索や一時的な 逸脱にとどまらず、社会的ランドスケープそのものの 変容をもたらす新たなビジョンの源泉---変革的 創造性である Floridi の ectype 分類:源泉 (originality) × 過程 (authenticity) 源泉が original (源泉から来ている) 源泉が original でない (源泉から来ていない) 過程が authentic 過程が authentic でない archetype(真正のオリジナル) original & authentic 例:レオナルドのモナ・リザ ← ⼈+AI の共創が⽬指す先(新たな archetype) ectype ① authentic but unoriginal 例:The Next Rembrandt ← 現状の⽣成AI はここ ectype ② inauthentic but original 例:JFK 最後の演説(合成⾳声) 贋作(fake / forgery) not original & not authentic 例:van Meegeren の偽フェルメール ⼈と AI の共創が⽬指す移⾏:右上 (ectype①) → 左上(新たな archetype)  = 変⾰的創造性 Floridi (2018, tbl. 1) を基に作成 8
  7. 社会的ランドスケープの変容をもたらすarchetype ⻑期的には変容 新たなarchetype 組み合わせ+探索 〈⾕〉 新たな〈⾕〉 引⼒ 変⾰的創造性 変⾰的創造性 変⾰的創造性

    =既存archetypeの再現(ectype) =既存archetypeの再現(ectype) =既存archetypeの再現(ectype) =現状の⽣成AIの領域 =現状の⽣成AIの領域 =現状の⽣成AIの領域 Boden(1996, 2003, 2009)の3類型、Hirai(2025)の社会的ランドスケープ、Floridi(2018)を統合した概念図 9
  8. 参考文献 Aleinikov, Andrei G., Sharon Kackmeister, and Ron Koenig. 2000.

    Creating Creativity: 101 Definitions (What Webster Never Told You). Alden B. Dow Creativity Center. Boden, Margaret A. 1996. “Chapter 9 - Creativity.” In Artificial Intelligence, edited by Margaret A. Boden. Academic Press. https://doi.org/10.1016/B978-012161964-0/50011-X. Boden, Margaret A. 2003. The Creative Mind: Myths and Mechanisms. 2nd Edition. Routledge. Boden, Margaret A. 2009. “Computer Models of Creativity.” Articles. AI Magazine 30 (3): 23–34. https://doi.org/10.1609/aimag.v30i3.2254. Csikszentmihalyi, Mihaly. 1996. Creativity: Flow and the Psychology of Discovery and Invention. HarperCollins Publishers. Floridi, Luciano. 2018. “Artificial Intelligence, Deepfakes and a Future of Ectypes.” Philosophy & Technology 31 (3): 317–21. https://doi.org/10.1007/s13347-018-0325-3. Hirai, Yasushi. 2025. “From Closure to Transformation: Bergsonian Dynamics of the Societal Landscape.” Continental Philosophy Review 58 (2): 265– 87. https://doi.org/10.1007/s11007-025-09697-z. Ihde, Don, and Lambros Malafouris. 2019. “Homo Faber Revisited: Postphenomenology and Material Engagement Theory.” Philosophy & Technology 32 (2): 195–214. https://doi.org/10.1007/s13347-018-0321-7. Taniguchi, Tadahiro, Yasushi Hirai, Masahiro Suzuki, Shingo Murata, Takato Horii, and Kazutoshi Tanaka. 2025. “System 0/1/2/3: Quad-Process Theory for Multitimescale Embodied Collective Cognitive Systems.” Artificial Life 31 (4): 465–96. https://doi.org/10.1162/ARTL.a.12. Treffinger, Donald J. 1996. Creativity, Creative Thinking, and Critical Thinking: In Search of Definitions. Center for Creative Learning. Wingström, Roosa, Johanna Hautala, and Riina Lundman. 2024. “Redefining Creativity in the Era of AI? Perspectives of Computer Scientists and New Media Artists.” Creativity Research Journal 36 (2): 177–93. https://doi.org/10.1080/10400419.2022.2107850. 小林茂、徳井直生(2025) 「人工知能と創造性 — 人の模倣を超えて」 『人工知能学会全国大会論文集 JSAI2025』 :4S3OS4301-4S3OS4301。 https://doi.org/10.11517/pjsai.JSAI2025.0_4S3OS4301. 11