Upgrade to Pro — share decks privately, control downloads, hide ads and more …

科学的推論と領域固有スキルの関連に関する一考察

 科学的推論と領域固有スキルの関連に関する一考察

日本科学教育学会第43回年会 2019年8月23日

Daiki Nakamura

August 23, 2019
Tweet

More Decks by Daiki Nakamura

Other Decks in Education

Transcript

  1. 研究概要 研究の目的 理科の授業において領域固有スキルが 科学的推論能力の育成に及ぼす影響を 明らかにすること 2 1. 領域固有スキル(知識)が影響 2. 認知欲求の低群においては、

    3. 領域固有スキル(視点)が阻害要因となり得る β=.250の影響 推論場面で知識が活用できるスキルが重要 視点を機械的に当てはめ、考えることを避ける →科学的推論能力育成の阻害要因
  2. 科学的推論の重要性 4 ⚫ 科学教育の両輪(Bransford et al., 2000) 科学的概念 科学的推論 科学に関する情報を適切に利用

    することができる(Giere, 1979) 幼稚園~大学で最も価値のある 学習成果の1つ(Hetmanek, Engelmann, Opitz & Fischer, 2018) 生涯学習の観点からの価値がある (Engaleman, Neuhaus & Fischer, 2016) Scientific Reasoning
  3. 科学的推論研究の展開 5 ⚫科学的推論研究の3分類(Fischer et al., 2014) ① 科学的推論の発達段階に関する研究 (e.g., Koslowski,

    2012) ③ 教育的文脈における科学的推論や論証を支援し, 促進するための幅広い指導アプローチの研究 (e.g., Furtak, Seidel, Iverson & Briggs, 2012) ② 教育心理学,教育学,科学教育,その他の教科 教育の分野の知見から,科学的論証の過程と 成果を見る研究(e.g., Chinn & Clark, 2013)
  4. 科学的推論スキルの例 7 領域一般 スキル 領域固有 スキル 演繹 変数制御 モデリング アーギュメンテーション

    帰納 生物分類 化学式 フェーン現象 コンプトン散乱 運動方程式 ある領域に特徴的 広く適用可能 Contrast domain-general domain-specific
  5. 領域一般スキルに着目した研究 8 これまでの科学的推論の指導に関する研究は、 領域一般スキルに着目したものが多い ① 推論形式に着目した研究(e.g., 松浦ら,2015) ex. 演繹、帰納、類推、アブダクションなど ②

    研究計画の立案・方略に着目した研究(e.g., Ross, 1988) ex. 変数制御、誤差、シミュレーションなど ③ 論証(Argument)に着目した研究(e.g., Brown et al., 2010) ex. 論証の構造、根拠、論拠など Schauble(2018)による3分類
  6. 領域一般アプローチに対する批判 9 • 科学における方法の範囲と多様性に対処することができない • すべての領域には、その領域で発生している問題にある程度 固有の手順に関する知識が蓄積されている (Satterfield et al.,

    2009) • より内容に特化したアプローチを求める議論が生じる (Windschitl et al., 2008) 例 領域固有スキルに着目した研究(Lehrer, 2008) ガラス瓶の中に持続的な水系を構築させる課題を通して、 学習者が生物領域を中心とした様々な領域固有スキルを 用いる様子を詳細に報告 ⚫ 領域一般アプローチに対する批判
  7. 研究のアプローチと必要性 10 • 領域固有性を主張する研究者も、領域一般的な科学的推論 の存在を否定しているわけではない(e.g., Schauble, 2018) • 科学的推論は、両方のスキルの相互作用から生まれる (Klahr

    et al., 2011) 理科の授業において領域固有スキルが科学的推論 能力の育成に及ぼす影響を明らかにすること 研究の目的 • 領域一般/固有スキルの両方と、科学的推論との関係性を 明らかにすることが重要な課題(e.g., Engaleman et al., 2018) 領域固有スキルが科学的推論の関係 については研究の蓄積が乏しい 実験的な状況が多く、通常の 授業文脈の研究に乏しい
  8. 2種類のスキルと新学習指導要領 11 学びに向かう力 人間性 知識・技能 思考・判断 ・表現力 理科の見方・考え方を働かせ、 (問題解決の活動を通して、) 見方:領域固有スキル

    エネルギー領域:量的・関係的な視点で捉える 粒子領域:質的・実体的な視点で捉える 生命領域:共通性・多様性の視点で捉える 地球領域:時間的・空間的な視点で捉える 考え方:領域一般スキル 比較:問題を見出す場面 関係付け:予想や仮説を発想する場面 条件制御:解決の方法を発想する場面 多面的に考える:結果から振り返る、考察する場面 (科学的推論能力)
  9. 科学的推論能力の測定 14 科学的推論能力 (事前) 科学的推論能力 (事後) 2題(選択・記述) 6点満点 2題(選択・記述) 6点満点

    金属の種類によって体積の増え方は異なる 考察場面 6年:より妥当な考えをつくりだす力
  10. 領域固有スキルの測定 15 領域固有スキル (知識) 領域固有スキル (視点) 計8問 8点満点 計3問 6点満点

    各領域の知識を適用する 領域に特徴的な視点でとらえる (外形や餌などの共通性・多様性に基づき, 分類の視点を記述する) • 小学校教員8名で 妥当性を検討 • 第6学年53名を対象と した予備調査 • 児童の回答傾向を参考 に適宜表現の修正 Contrast
  11. 認知欲求の測定 16 認知欲求 (非認知能力) 中村・雲財(2018) 「理科における認知欲求尺度」 の一部を使用 5件法 7項目 雲財・中村(2018)に示された

    困難度・識別力パラメーターを 用いて,調査協力者の特性値 θ をベイズ推定(EAP推定) 非認知能力が認知能力に影響を及ぼす (OECD, 2015) Cf. 項目反応理論 =考えることへの動機づけ
  12. 調査対象者と例数設計 17 𝛼\1 − 𝛽 0.7 0.8 0.9 0.95 5

    % 76 92 116 138 1 % 109 127 155 180 0.1 % 153 174 206 234 • 科学的推論能力の発達研究は小学生を対象に実証されてきた (Zimmerman, 2007) • 帰納的推論能力の発達は小学校第6学年を境に鈍化傾向 (松浦ら,2015) 小学校第6学年の児童を対象 ⚫ 調査対象者の属性 ⚫ 必要なサンプルサイズ(中程度の効果量 f 2=0.15を仮定した場合) 検定力0.95 有意水準1% 東京都内の公立小学校2校 6学級 215名 を対象に調査を実施
  13. 相関分析 19 r (N=197) 1 2 3 4 5 ◼

    科学的推論能力 1 科学的推論能力 (事前) ― 2 科学的推論能力 (事後) .23*** ― ◼ 領域固有スキル 3 領域固有スキル (知識) .30*** .29*** ― 4 領域固有スキル (視点) .23*** .09*** .38*** ― ◼ 認知欲求 5 認知欲求 .13*** .21*** .23*** .23*** ― • 科学的推論能力と領域固有スキルに弱い相関が見られる
  14. 階層的重回帰分析 20 科学的推論能力 (事前) 科学的推論能力 (事後) 領域固有スキル (知識) 認知欲求 領域固有スキル

    (視点) 認知欲求 × 領域固有(視点) 交 R2 =.170 .206 有意 非有意 .123 .250 -.069 .149 領域固有スキル(知識)が 科学的推論能力の育成に影響 標準偏回帰係数 Step4
  15. 単純斜行分析 21 科学的推論能力 (事後) 領域固有スキル (視点) 認知欲求高群 領域固有スキル (視点) 認知欲求低群

    M+1SD M-1SD .099 -.268 認知欲求が低い学習者において,領域固有スキル(視点)が 高いほど,科学的推論能力が低くなる 理科の各領域において事物・現象を捉える際に共通して当 てはめることが可能な視点(e.g., 共通性・多様性など)を機械的 に当てはめることで満足し,熟考することを避けている Cf. 認知的節約(cognitve economy) 有意 非有意 科学的推論能力 (事後) 偏回帰係数
  16. 研究概要 研究の目的 理科の授業において領域固有スキルが 科学的推論能力の育成に及ぼす影響を 明らかにすること 23 1. 領域固有スキル(知識)が影響 2. 認知欲求の低群においては、

    3. 領域固有スキル(視点)が阻害要因となり得る β=.250の影響 推論場面で知識が活用できるスキルが重要 視点を機械的に当てはめ、考えることを避ける →科学的推論能力育成の阻害要因