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ホールインワン開発の夢と現実〜AIコーディングの生産性最大化への道〜
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ディップ株式会社
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October 14, 2025
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ホールインワン開発の夢と現実〜AIコーディングの生産性最大化への道〜
ディップ株式会社
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October 14, 2025
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Transcript
ホールインワン開発の夢と現実 〜AIコーディングの生産性最大化への道〜 2025年10月10日 Copyright dip.inc All Rights Reserved.
自己紹介 黒田 所属: ディップ株式会社 SNS: @judowine (X) 専門: Androidエンジニア 好きなもの:
きのこ、作曲、数学 Copyright dip.inc All Rights Reserved. 2 / 44
目次 はじめに 〜AIコーディングはゴルフに似ている〜 1 夢の「全自動ゴルフ」と最初の池ポチャ 2 迷走のラウンド 〜スコア改善への試行錯誤〜 3 ブレークスルー!「ヤーデージブック」と監督の役割
4 見えてきた最大の壁 〜AIではなく「開発」の本質〜 5 AI-DLC:実践への道 6 Copyright dip.inc All Rights Reserved. 3 / 44
00 はじめに
AIに仕事を任せて楽になりましたか? それとも、逆に振り回されていませんか? Copyright dip.inc All Rights Reserved. 5 / 44
AIコーディングはゴルフに似ている なぜゴルフなのか? 試行錯誤が必要: 一発でホールインワンは狙えない 戦略が重要: 状況に応じて適切なクラブ(ツール)を選ぶ 対話的なプロセス: 一打ごとに状況を見て次の一手を考える 環境の理解: コース(コンテクスト)を読む力が求められる
Copyright dip.inc All Rights Reserved. 6 / 44
ゴルフ用語 AI開発での意味 プレイヤー 私たち開発者 クラブ AIモデルやツール ボール プロンプト コース 開発のコンテクスト
ホール 目指すゴール ゴルフ用語で理解するAI開発 基本用語の対応表 Copyright dip.inc All Rights Reserved. 7 / 44
01 夢の「全自動ゴルフ」と最初の池ポチャ
最初の理想:全自動ゴルフロボット PBIを渡せばPRが完成する夢 PBI(Product Backlog Item)をAIに渡すだけ AIが完璧なコードを自動生成 レビュー不要でそのままマージ 開発者は戦略立案に専念できる理想の世界 Copyright dip.inc
All Rights Reserved. 9 / 44
厳しい現実:池ポチャの連発 曖昧な指示がもたらした混乱 OB(Out of Bounds) :要件から大きく逸脱したコード 池ポチャ:動かないコード、テストが通らない バンカー:なんとか動くが品質が低い グリーンに乗らないコードの山が積み上がる Copyright
dip.inc All Rights Reserved. 10 / 44
教訓:ホールインワンは狙えない AIへの過度な期待が失敗を招く 曖昧で自由度の高すぎる指示は機能しない 一発で完璧なコードを生成させようとする戦略の失敗 AIには「段階的なアプローチ」が必要 まずはグリーンに乗せることから始めるべきだった Copyright dip.inc All Rights
Reserved. 11 / 44
02 迷走のラウンド 〜スコア改善への試行錯誤〜
結果は...? 試み1:名選手の「フォーム」を真似させる 人間のワークフローをAIに遵守させる プロの開発者の手順を詳細に文書化 AIに厳密なワークフローを指示 暴走を防ぐための「型」を提供 Copyright dip.inc All Rights
Reserved. 13 / 44
失敗:形だけでは意味がない 思考が伴わないアウトプット ワークフローは守るが、本質を理解していない 手順通りでも的外れなコードが生成される アウトプットのブレは改善されず 「なぜその手順なのか」をAIは理解できていなかった Copyright dip.inc All Rights
Reserved. 14 / 44
結果は...? 試み2: 「スパルタコーチ」になる AIの思考プロセスを徹底的にレビュー AIの出力を一つ一つ細かくチェック マイクロマネジメントで方向修正 人間が常に監視・介入する体制 Copyright dip.inc All
Rights Reserved. 15 / 44
本末転倒:ボトルネックは人間だった 精度は上がったが、負荷が爆増 コードの品質は確かに向上した しかし、人間のレビュー負荷が爆発的に増加 「自分で書いた方が早い」状態に AIで効率化するはずが、逆に生産性が低下 Copyright dip.inc All Rights
Reserved. 16 / 44
03 ブレークスルー!「ヤーデージブック」と監督の役割
発想の転換 AIは「指示待ちマシーン」ではない これまで: AIに細かく指示を出す存在 これから: AIを自律的に判断できるパートナーに 必要なのは「管理」ではなく「環境整備」 AIが自分で考え、判断できる土台を作る Copyright dip.inc
All Rights Reserved. 18 / 44
プロゴルファーが使う、コースの詳細情報が記載されたガイドブック ヤーデージブック作戦 ゴルフのヤーデージブックとは? Copyright dip.inc All Rights Reserved. 19 /
44
AI開発への応用 ヤーデージブック作戦の4つの柱 コースのシンプル化 - アーキテクチャの統一 1 ローカルルールの制定 - 制約の明文化 2
参照ページの限定 - コンテキストの提供 3 指示の構造化 - Gherkin記法など 4 Copyright dip.inc All Rights Reserved. 20 / 44
役割の変化:コーチから監督へ Before: スパルタコーチ 一つ一つの動きを細かく指示 AIの出力を常に監視 汗だくで現場に張り付く After: 戦略的な監督 大局的な戦略を立案 環境を整備し、方針を示す
AIが自律的に動ける仕組みを作る Copyright dip.inc All Rights Reserved. 21 / 44
具体例:Claude Codeでの監督の役割 従来(スパルタコーチ) 「この関数をこう書いて」と細かく指示 AIの出力を一行ずつレビュー 修正指示の繰り返し 監督としてのアプローチ ヤーデージブック(アーキテクチャ、制 約)を整備 「このユーザーストーリーを実装して」
と意図を伝える AIが自律的に判断・実装 人間は結果を検証し、方針を調整 Copyright dip.inc All Rights Reserved. 22 / 44
指示の構造化:自然言語は最適なDSLではない 自然言語の限界 曖昧さが残る コンテキストの共有が難しい 意図が正確に伝わらない Copyright dip.inc All Rights Reserved.
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コードベースでの対話が最適 AIとのコミュニケーション戦略 実際の振る舞いを見せる: テストコード、サンプル実装 構造化された指示: Gherkin記法(Given-When-Then) コードが語る: アーキテクチャ、パターン、制約がコードに表れる AIは実際のコードから学習し、一貫性のある実装を生成 Copyright
dip.inc All Rights Reserved. 24 / 44
04 見えてきた最大の壁 〜AIではなく「開発」の本質〜
それでも残る疑問 なぜまだ究極の理想には届かないのか? ヤーデージブック作戦で生産性は向上した しかし、PBI→PRの完全自動化は実現していない 依然として人間の介入が必要な場面がある 何が本当の壁なのか? Copyright dip.inc All Rights
Reserved. 26 / 44
本質的な気づき 本当の壁は、AIではなく「人間」だった 人間自身も、実際にやってみるまで要求を完全には理解していない 「作ってみて初めてわかる」ことが多い これは開発の不変の真理 AIの問題ではなく、ソフトウェア開発の本質的な課題 Copyright dip.inc All Rights
Reserved. 27 / 44
実装=発見のプロセス 設計と実装は要求を発見するための「対話」 要件定義は「完璧な設計図」ではない 実装する中で隠れた課題が見えてくる エッジケース、パフォーマンス、UX... コースを歩いて初めて気づくハザード(罠)がある Copyright dip.inc All Rights
Reserved. 28 / 44
AI時代に求められる設計能力 不確実性をナビゲートする力 完璧な設計図を描く能力ではない AIと共に不確実な状況を探索していく能力 実装しながら要求を明確化していくプロセス これこそが、AI時代の真の「設計力」 Copyright dip.inc All Rights
Reserved. 29 / 44
05 AI-DLC:実践への道 〜AIの生産性を増す=人間の生産性を増す?〜
SDLC(Software Development Lifecycle)とは ソフトウェア開発のライフサイクル 要件定義 → 設計 → 実装 →
テスト → 運 用保守 アジャイル、スクラム、ウォーターフォ ールなど様々な手法 従来は人間が主体となって各フェーズを 進める 従来の手法の課題 数週間〜数ヶ月単位の長いイテレーショ ン 手動のワークフローと厳格な役割分担 AIの速度や柔軟性と合致しない Copyright dip.inc All Rights Reserved. 31 / 44
AI-DLC(AI-Driven Development Lifecycle) AIを中心に据えた開発ライフサイク ル 既存の手法に「後付け」ではなく、第一 原理から再設計 数時間〜数日単位の高速イテレーション AIが主導し、人間が戦略的に監督する 重要な原則
会話の方向を逆転: AIが対話を開始・推 進 設計技法をコアに統合: DDD、BDD、 TDDを組み込む 人間とAIの共生: 検証・意思決定は人間 が保持 Copyright dip.inc All Rights Reserved. 32 / 44
Intent(意図)を捉え、Unit(作業単位)に分解 ドメイン設計から論理設計、コード生成とテスト AI-DLCの3つのフェーズ 1. Inception Phase(構想フェーズ) 2. Construction Phase(構築フェーズ) Copyright
dip.inc All Rights Reserved. 33 / 44
デプロイメント、監視、インシデント管理 AI-DLCの3つのフェーズ(続き) 3. Operations Phase(運用フェーズ) Copyright dip.inc All Rights Reserved.
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Inception Phase:不確実性をナビゲートする 第4章で述べた「設計能力」の実践 完璧なPBIを最初から作ることはできない AIとの対話を通じて要求を「発見」していく これが「実装=発見」プロセスの第一歩 曖昧な意図(Intent)から始める AIが質問し、人間が答える対話 隠れた要件、リスク、制約を明らかにする Copyright
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AI-DLCについて詳しく知りたい方はこちら: https://aws.amazon.com/jp/blogs/news/ai-driven-development-life-cycle/ AI-DLCを実践してみた AWSの公式リソース Copyright dip.inc All Rights Reserved. 36
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実践:簡単なサンプルアプリで試してみた アプローチ Inception Phaseを使ってユーザーストーリーを作成し、そこからPBIを作成 AIとの対話を通じて要件を明確化 実際の体験から見えてきたこと Copyright dip.inc All Rights
Reserved. 37 / 44
connpass APIを使用して「参加したconnpassのイベントで誰に会ったかを記録・管理 し、次回会う時に備える」 サンプルアプリ:connpass出会い管理アプリ Intent(意図) 解決したい課題 イベントに参加しても、後で「あの人誰だっけ?」となる 「何を話したっけ?」と会話の内容を忘れてしまう 次回会う時に備えて、情報を整理しておきたい Copyright
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手動で作成すると数時間〜数日かかる作業 が、対話を通じて数十分で完成 Inception Phaseで生成された成果物 AIとの対話で得られたもの ユーザーストーリー: 6件 エピック: 5件 ユニット:
11件 ユニットの依存関係: 自動生成 PBI(Product Backlog Item): ユニット から自動生成 従来との違い Copyright dip.inc All Rights Reserved. 39 / 44
実践から見えてきたこと 従来のAI後付けSDLC レビュー地獄: 実装前にAIが大量の設計書を生成 人間が全ての設計書をレビュー スパルタコーチ状態に逆戻り Copyright dip.inc All Rights
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AI-DLCのアプローチ 対話による必要最小限の情報抽出 AIが「わかること・わからないこと」を自己申告 対話を通じて必要な情報だけを引き出す 構造化された成果物(ユーザーストーリー、ユニット、依存関係) 人間は重要な判断ポイントだけを検証する「監督」へ Copyright dip.inc All Rights
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まとめ:ホールインワン開発への道 学んだこと AIに完璧を求めない: 段階的なアプローチが鍵 1 形だけ真似ても意味がない: 思考プロセスの理解が重要 2 監督としての役割: マイクロマネジメントから戦略的監督へ
3 不確実性のナビゲート: AIとの対話で要求を発見する 4 Copyright dip.inc All Rights Reserved. 42 / 44
AI時代の開発者に求められるもの 新しい「設計能力」の定義 完璧な設計図を描く能力ではない AIと共に不確実性を探索し、ナビゲートする力 これが真の「設計能力」 Copyright dip.inc All Rights Reserved.
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ありがとうございました Copyright dip.inc All Rights Reserved.