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コロナ禍における自殺の現状と対策

 コロナ禍における自殺の現状と対策

2021年度卒業研究論文

d-lab 北陸大学

December 10, 2021
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  1. 2021 年度 経済経営学部 卒業研究 題名 コロナ禍における自殺の現状と対策 学科名 学籍番号 氏名 マネジメント学科

    2018M128 谷口 巧 マネジメント学科 2018M179 野尻 裕樹 卒業研究担当 ◦ 印 ( 月 日) [教員署名・捺印・確認日]
  2. i 要旨 自殺者数の推移が 2003 年から減少し 2019 年を境に増加している。特に女性と小中高生 の自殺者の増加が問題となっている。また 2020 年の日本の自殺率は、男性では

    10 月と 11 月、女性では 7 月から 11 月に増加したことが指摘されている。それでは、なぜ自殺者数は 減少傾向にあったにもかかわらず、急に増加傾向になったのだろうか。既存研究では自殺 者は総合失調症やうつ病の例が多いこと、大学生特有の自殺原因について、男子が多いこ とや最終学年と過年度生が特に多い傾向があることが判明している。しかし、コロナ禍に おける自殺者数の増加は検討されておらずコロナと自殺者数増加の関連性には疑問が残る。 本研究ではその原因を明らかにし、それに対応するための政策を提案することを目的と した。ここでいうコロナ禍とは 2019 年及び 2020 年の期間とする。自殺者数の推移をクロ ス集計し重回帰分析を行うことで性別、年代別(本研究では特に変化の大きい 20 代のみを 対象)に自殺の原因の特定を行った。その結果、男性は統合失調症患者と犯罪件数が、女 性はアルコール依存症患者数、有効求人倍率及び犯罪件数が有意であり、20 代では完全失 業率、日照量、犯罪件数及び統合失調症患者数が有意に増減することがわかった。つまり 新型コロナウイルスの影響は確かに存在したがウイルスそのもというよりは、感染者増加 に伴う生活の変化が理由で自殺者数が増加しているのだと考えられる。よって男性に関し ては、5G の普及及び「遠隔診断」の定義拡張、女性に関しては、同一労働同一賃金の実現 及び正社員転換・待遇改善実現プランの周知徹底、及び明確な実施日、罰則の設定を行う こと、20 代に関しては視覚共有型警備ロボットと日光浴に対する注意喚起、以上この 3 案 を提案する。 しかし、分析の対象にしたいデータに都道府県別のものがなかったり、中止された調査 があったりしたため、至上の結論とするには限界があるため引き続き多角的な分析が求め られる。
  3. ii 目次 第1章 目的と背景 ........................................................................................................... 1 第2章 既存研究 .............................................................................................................. 3

    第3章 研究の方法 ........................................................................................................... 5 第4章 分析結果 .............................................................................................................. 7 第1節 自殺者数の推移 ................................................................................................ 7 第2節 自殺の傾向 ..................................................................................................... 11 第3節 自殺原因の特定 .............................................................................................. 12 第4節 分析結果のまとめ .......................................................................................... 25 第5章 政策提言 ............................................................................................................ 27 第1節 現在の日本における自殺対策 ........................................................................ 27 第2節 男性に対する政策案 ....................................................................................... 28 第3節 女性に対する政策案 ....................................................................................... 30 第4節 20 代の全体に対する政策案 ........................................................................... 31 第6章 結論 ................................................................................................................... 33 第1節 まとめ ............................................................................................................ 33 第2節 残された課題 ................................................................................................. 34 謝辞 ..................................................................................................................................... 35 参考文献 .............................................................................................................................. 37
  4. iii 図目次 図 1.1 女性と小中高生の自殺者数の推移 ......................................................................... 1 図 1.2 長期的にみた自殺者の推移

    .................................................................................... 2 図 4.1 性別で見た自殺者数の推移 .................................................................................... 7 図 4.2 年齢別で見た自殺者数の推移(2011-2020) ........................................................ 8 図 4.3 年齢別で見た自殺者数の前年比比較(2011-2020) ............................................. 9 図 4.4 性別×年齢別自殺者数の推移 ................................................................................. 11 図 4.5 動機別自殺者数の推移 ......................................................................................... 12 図 4.6 重回帰分析(2019 男性) .................................................................................... 13 図 4.7 重回帰分析(2020 男性) .................................................................................... 14 図 4.8 重回帰分析(2019 女性) .................................................................................... 17 図 4.9 重回帰分析(2020 女性) .................................................................................... 18 図 4.10 重回帰分析(2019,20 代) ................................................................................ 21 図 4.11 重回帰分析(2020,20 代) ................................................................................. 21 図 4.12 重回帰分析 2(2020,20 代) ............................................................................. 24 図 5.1 うつ病患者者数・男性の年代別推移 ................................................................... 29 表目次 表 1 変数表 ......................................................................................................................... 6 表 2 重回帰分析結果(2019 男性) ................................................................................. 15 表 3 重回帰分析結果(2020 男性) ................................................................................. 16 表 4 重回帰分析結果(2019 女性) ................................................................................. 19 表 5 重回帰分析結果(2020 女性) ................................................................................. 20 表 6 重回帰分析結果(2019,20 代) ................................................................................ 22 表 7 重回帰分析結果(2020,20 代) ................................................................................ 23 表 8 重回帰分析結果 2(2020,20 代) ............................................................................. 24 表 9 2019 年から 2020 年における自殺者数の推移・属性別傾向 ................................... 26 表 10 2020 年の重回帰分析結果・属性別傾向 ................................................................. 26
  5. iv

  6. 1 第1章 目的と背景 執筆担当:谷口巧 2020 年 1 月 23 日朝日新聞朝刊にて

    自殺者数が増加しているという記事を発見した。 同 記事にはコロナの影響ではないかとの記載があり本当にそうなのかを疑問に感じ、当時取 り組んでいたデータプロジェクトにて分析の対象として取り上げた。 図 1.1 女性と小中高生の自殺者数の推移 出所:朝日新聞 実際に自殺者数の推移を調べてみると、1998 年にピーク、その後横ばい、2003 年から 減少し始めたという長期的な推移をまず説明する。バブル崩壊後、日経平均株価が最安値 になったため、1991 年から自殺者数が増加傾向になったようだ。1997 年には消費税率が 5%に引き上げられた結果、自殺者数の急増につながった。しかし 2003 年から生命保険の 対象に自殺が含まれなくなったため減少したと言われている。 その後、自殺者数は 2019 年を境に増加し始めた。この 2 年間では、特に女性と小中高 生の自殺者の増加が問題となっている。
  7. 2 図 1.2 長期的にみた自殺者の推移 しかし、コロナ禍における自殺者数の増加は検討しておらずコロナと自殺者数増加の関 連性には疑問が残る。 では、なぜ自殺者数は 2019 年からいまだに増加傾向にあるのだろうか。そこで、本研 究では、コロナ禍における自殺者数増加の原因を明らかにし、それに対応するための政策

    を提案することを目的とした。そこで本研究では第 2 章で、既存研究で明らかになったこ とをまとめた。第 3 章では研究の方法をまとめ、第 4 章ではその方法に沿って分析を行っ た。第 5 章では本研究で明らかになった自殺の原因を基に政策提案を行った。最後に第 6 章では本研究の内容を総括し残された課題を記した。
  8. 3 第2章 既存研究 執筆担当:野尻裕樹 近年の自殺者の統計についての先行研究は以下の通りである。 エミール・デュルケームは自著『自殺論』 (中央公論新社,2018)の中で、自殺者数は未 婚であることや離婚、別居の件数、年齢差、道徳的貧困によって増減すると述べている。 また上平(2012)は、自殺に至った者の中で総合失調症やうつ病の例が多い・対象のう ち半数が無職であったこと・配偶者が居ない者が半数以上いたことが述べられている。総

    合失調症やうつなどの精神疾患が自殺の要因として挙げられる統計・研究はこの他にも多 く存在し、関連性の高さが示されている。 さらに、東京大学(2021)の『新型コロナウイルス感染症流行下における日本での自殺 者数の変化について』 (2021)で例年と比較すると、2020 年の日本の自殺率は、男性では 10 月と 11 月、女性では 7 月から 11 月に増加したことが指摘されている。 上平(2012)は、自殺に至った者の中で総合失調症やうつ病の例が多い・対象のうち半 数が無職であったこと・配偶者が居ない者が半数以上いたことが述べられている。総合失 調症やうつなどの精神疾患が自殺の要因として挙げられる統計・研究はこの他にも多く存 在し、関連性の高さが示されている。 平野(2019)は、社会学の観点から自殺を研究されており、宗教的統合の水準が高い地 域ほど、自殺死亡率が低くなることが述べられている。 東京都福祉保健局(2018)によると、大学生特有の自殺原因について、男子が多いこと や最終学年と留年生が特に多い傾向があることが述べられている。 森山(2020)は、 「日本においてどのようにフィンランドの自殺対策が参考にされてき たのか、そして日本とフィンランドの自殺対策にはどのような違いがあるのか」について 述べている。現在のフィンランドでは自殺対策として、いじめ防止対策としての小学校に おける Kivaというプログラムの実施・精神疾患や自殺予防及び自殺未遂等についてどのよ うなケアを行うかについてのガイドライン作成などが行われている。 高玉(1999)は、 「都道府県別の自殺死亡 率を重 回帰分析すると,男では気象 条件と課 税所得が,女では高齢化や生産年齢人口の扶養負担と気象条件が深く関与している」と述べ ている。この研究はやや古いものだが、地域ごとの自殺率について平成 7 年のデータに基
  9. 5 第3章 研究の方法 執筆担当:谷口巧 本研究では、Tableau及びExploratoryを使用してデータ分析を行った。Tableauとは、 有償のビジネスインテリジェンスツール製品である。この分析ツールを使うことで簡単に データを可視化することができる。今回はこれらを活用することで、現状の把握と原因の 特定を行うことができた。 Tableau を使って行った分析は以下の通りである。

    1. 年齢別、性別、自殺動機ごとの自殺者数の推移 2. スモールマルチプル 3. 自殺者数の前年比比較 スモールマルチプルとは、Tableau や Power BI で作成できるグラフの表現方法の一つで ある。複数の小さなグラフを同時に作成することで、グラフ間で傾向の比較が可能になる。 また単位が揃っているため比較が容易なことが特徴である。例えば、年齢別、性別におけ る年ごとの自殺者数の増減が容易に比較できる。 Exploratory とは、重回帰分析や因子分析などを簡単に行え、さらに可視化も容易なデ ータ分析のアプリである。今回は重回帰分析を行うのに使用した。これにより自殺者が自 殺を行う原因となりえそうなものを特定することで、本研究の目的である自殺者数を減ら す政策提案に繋げる。 今回の重回帰分析の詳細、変数表は以下の通りである。 被説明変数:男性の自殺者数、女性の自殺者数、20 代の自殺者数 説明変数:鬱病患者数、統合失調症患者、アルコール依存症患者数、薬物乱用患者数、酒 類消費額、外食費、喫茶代、被服代、医療サービス費、1 人当たり賃金、離婚 率、日照量、犯罪件数、いじめ認知件数、12 月 31 日時点における 10 万人あた りの新型コロナウイルス感染者数(2020 年のみ) N=47(都道府県)
  10. 6 表 1 変数表 変数名 出典・備考 鬱病患者数 (人) 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部精神・障害保健課、精神保 健福祉資料における

    630 調査から 主診断×年齢・入院形態×性別より 統合失調症患者 (人) 同上 アルコール依存 症患者数(人) 同上 薬物乱用患者数 (人) 同上 酒類(円) 総務省統計局、家計調査より 外食費(食事 代) (円) 同上 喫茶代(円) 同上 被服代(円) 同上 医療サービス費 (円) 同上 1 人当たり賃金 (万円) 厚生労働省から賃金構造基本統計調査・賃金の推移より 離婚率(%) 厚生労働省・人口動態調査における人口動態統計から離婚都道府県 別にみた 年次別離婚件数・離婚率(人口千対)より 日照量(時間) 気象庁 HP より。各都道府県の月別日照量を年平均で計算。 犯罪件数(件) 警察庁 Web サイト-警察白書統計資料、2-1 都道府県別刑法犯の 認知件数、検挙件数、検挙人員で刑法犯総数認知件数とした。 いじめ認知件数 (件) 文部科学省の児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に 関する調査より 10 万人当たりの 感染者数(人) 厚生労働省、データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報- より国内の 2020 年 12 月 31 日時点で人口 10 万人当たりにおける 各都道府県別の新型コロナウイルスの感染状況
  11. 7 第4章 分析結果 執筆担当:谷口巧 第1節 自殺者数の推移 警察白書における自殺者数の統計を 2011 年から 2020

    年にかけて収集し、そのデータを 分析することによって明らかになったその推移は図 4.1 の通りである。 図 4.1 性別で見た自殺者数の推移 まず性別で見ていくと、自殺者数は男女ともに減少傾向にあったことがわかる。しかし、 2019 年を境に女性のみ自殺者数が増加傾向に転じているのが見て取れる。男性が依然とし て減少傾向にあるにもかかわらず、全体としてみても増加し始めたことを鑑みると、男女 別にみた自殺者数においては女性の自殺者数の増加は深刻であることが窺える。
  12. 9 図 4.3 年齢別で見た自殺者数の前年比比較(2011-2020) 次に年齢別に詳しく見ていくと、以下のことが分かった。 10 代 図 4.2 からは

    2017 年より緩やかな増加傾向を示している。2018 年には 16.39% 、2019 年には 8.80%、2020 年には 15.70%それぞれ前年より自殺者数が増加している。ここ 3 年 間、自殺者数における前年比が増加しつ続けているのは 10 代のみである。 20 代 図 4.2 からは 2020 年に急増していることがわかる。これは前年比で表すと 17.65%自殺
  13. 10 者数が増加していることになり図 4.3 で 2020 年におけるもっとも高い上昇率となってい る。さらに、その前年である 2019 年が 6.33%減少していることから、2019

    年から 2020 年にかけて主に 20 代の自殺の原因となりえる何かが生じた、あるいは急激に上昇または減 少したであろうことが予想される。 30 代 図 4.2 からは 2020 年に微増していることがわかる。これは図 4.3 で表すと 4,10%の上昇 である。2018 年は 3.63%、2019 年は 4.43%前年比が減少していることを踏まえると、20 代と同じように自殺の原因となりえる何かが生じた、あるいは上昇または減少したであろ うことが予想される。 40 代 図 4.2 からは 2011 年から一貫して減少傾向にある。しかし 2018 年からは減少の仕方に 鈍りがみえる。実際に図 4.3 は 2012 年に 9.80%、2014 年に 7.30%、2016 年に 9,51%減少 しているが、2019 年は 1.91%、2020 年は 0.67%の減少に留まっている。 50 代 図 4.2 からは 2011 年から依然として減少傾向にあることがわかる。しかし図 4.3 で見る と、50 代は少し不思議な傾向が見える。2012 年に 13.68%、2016 年に 9.71%と大幅に減 少しているかと思えば、2017 年に 2.11%の上昇、2018 年に 1.06%の減少と変化が少ない 年もある。さらには 2019 年に 4.09%、2020 年に 5.68%減少しており、2018 年と合わせて みると減少率がだんだん大きくなっている。このように他の世代のように掴みやすい特徴 が見つからない。 60 代 図 4.2 からは、急激な減少傾向にあることがわかる。図 4.3 で見ても、どの年も最低 5% 以上減少している。そのため現状において 60 代に関して自殺対策は必要ないだろう。 70 代 図 4.2 からは、緩やかな減少傾向にあることがわかる。図 4.3 で見ると 2016 年に 13.72% と大幅に減少している程度で、大きな動きは存在しない。
  14. 11 80 代以上 図 4.2 からは、おおむね横ばいで変化が少ない年代であることがわかる。ただ図 4.3 で 見ると 2019

    年に 8.78%減少していたが、2020 年に 6.34%の増加に転じている。そのため、 20 代 30 代と同じように自殺の原因となりえる何かが生じた、あるいは上昇または減少し たであろうことが予想される。 第2節 自殺の傾向 この節では第 4 章第 1 節で行った分析を踏まえ、もっと詳細に自殺者についてみていき、 傾向を特定していく。 図 4.4 のグラフは性別、年齢別でクロス集計を行ったグラフである。クロス集計である ため、性別と年齢をかけ合わせ、細分化して把握できる。 図 4.4 性別×年齢別自殺者数の推移 図 4.4 で特に注目するのは、2019 年から 2020 年にかけて増加がみられる属性である。 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000 4500 5000 男 ⼥ 男 ⼥ 男 ⼥ 男 ⼥ 男 ⼥ 男 ⼥ 男 ⼥ 男 ⼥ 〜19歳 20〜29歳 30〜39歳 40〜49歳 50〜59歳 60〜69歳 70〜79歳 80歳〜 合計 / 2011年 合計 / 2012年 合計 / 2013年 合計 / 2014年 合計 / 2015年 合計 / 2016年 合計 / 2017年 合計 / 2018年 合計 / 2019年 合計 / 2020年
  15. 12 そのことに合致しているのは、10 代女性、20 代男女、30 代女性、40 代女性、50 代女性、 60 代女性、70 代女性、80

    代男女である。しかし都道府県別自殺者数は性別もしくは年代 別のみでの集計であるため、年代と性別を組み合わせて行うような分析をすることはでき ない。そのため、自殺者数の推移で変化がわかりやすく生じていた男女別、さらに男女揃 ってもっとも変化が大きかった 20 代の自殺者数も考察の対象とする。 つまり後述する重回帰分析においては、考察する対象を男性、女性及び 20 代の男女とし た。 次に自殺の動機別に行ったクロス集計が図 4.5 である。 図 4.5 動機別自殺者数の推移 一目見て分かる通り、もともと健康問題を原因に自殺を実行に移す人が多かった。それ も近年減少傾向にあったが、やはり 2019 年を境に増加している。そのため後述する重回 帰分析の変数においても、鬱病患者数、統合失調症患者、アルコール依存症患者数、薬物 乱用患者及び、医療費を採用するなどして、健康問題に関する変数を多く採用した。 第3節 自殺原因の特定 この節では、2019 年及び 2020 年における男性、女性、20 代について重回帰分析を行っ 0 5000 10000 15000 20000 25000 30000 35000 家 庭 問 題 学 校 問 題 勤 務 問 題 経 済 ・ ⽣ 活 問 題 健 康 問 題 男 ⼥ 問 題 そ の 他 合計 / 2011年 合計 / 2012年 合計 / 2013年 合計 / 2014年 合計 / 2015年 合計 / 2016年 合計 / 2017年 合計 / 2018年 合計 / 2019年 合計 / 2020年
  16. 13 た結果をみていく。詳細を今一度まとめると以下の通りだ。 被説明変数:男性の自殺者数、女性の自殺者数、20 代の自殺者数 説明変数:鬱病患者数、統合失調症患者、アルコール依存症患者数、薬物乱用患者数、酒 類消費額、外食費、喫茶代、被服代、医療サービス費、1 人当たり賃金、離婚 率、日照量、犯罪件数、いじめ認知件数、12 月 31

    日時点における 10 万人あた りの新型コロナウイルス感染者数(2020 年のみ) N=47(都道府県) 今回は、Exploratory で行った重回帰分析からアナリティクスタブより係数欄に注目し て自殺原因を特定していく。表に使われている色の違いについては以下の通り である。 青色:P 値が 0.05 未満で係数が正 赤色:P 値が 0.05 未満で係数が負 灰色:P 値が 0.05 以上 各変数の縦棒の長さが信頼区間を表している。 図 4.6 重回帰分析(2019 男性)
  17. 14 図 4.7 重回帰分析(2020 男性) 図 4.6 及び図 4.7 は男性の数値を使って出力したものである。まず、それぞれの特徴に

    ついてまとめる。 具体的名数値について Excel で出力したものを記載する。 青:正の係数 赤:負の係数 ピンク:P 値が 0.05 未満 2019 年男性 鬱病患者数、統合失調症患者、犯罪件数、いじめ認知件数、医療サービス費が有意な数 値を示しかつ係数の符号が正である。薬物乱用患者も有意な数値を示すが、係数は負であ る。 細かい係数は以下のとおりだ。修正済み決定係数は 0.969314 である。 具体的名数値について Excel で出力したものを記載する。
  18. 15 青:正の係数 赤:負の係数 ピンク:P 値が 0.05 未満 表 2 重回帰分析結果(2019

    男性) 特に注目すべきなのは鬱病患者数、統合失調症患者であろう。かなり高い確率で患者数 が 1 人増えるごとに、鬱病を理由とする自殺者数が約 1.5 人、統合失調症を理由とする自 殺者数が約 1.1 人増えることになる。他の有意な数値で正の係数である項目は千単位増え てようやく実数になる。例えば犯罪件数であれば 1,000 件増えて 6 人自殺者数が増えるこ とになるため、上記の精神疾患2種より現実味は少ないかもしれない。しかし、2019 年の 犯罪認知件数が約 749,000 件という規模の大きさであることを考えると、ないとは言い切 れない。 もう1つ気になることは、薬物乱用患者数の係数が約−24.2 人を示していることだ。こ れを無理矢理解釈すると自殺を考えるに至った人々が薬物乱用を行うことで一旦は自殺を 係数 標準誤差 t P-値 切片 -18. 3889 211. 8522 -0. 0868 0. 931406935 鬱病患者数(人) 1. 464131 0. 620627 2. 359116 0. 025025233 統合失調症患者(人) 1. 054395 0. 213245 4. 944514 0. 000027247 アルコール依存症患者数(人) 0. 445175 1. 904673 0. 233728 0. 816783928 薬物乱用患者数(人) -24. 1737 5. 845474 -4. 13546 0. 000262820 酒類 0. 000644 0. 001253 0. 514237 0. 610853581 外食費(食事代) -0. 00045 0. 000516 -0. 88058 0. 385546793 喫茶代 0. 00136 0. 00626 0. 217289 0. 829454081 被服代 0. 000551 0. 000635 0. 868229 0. 392161761 医療サービス費 0. 001435 0. 000642 2. 236741 0. 032887506 1人当たり賃金 -0. 17392 0. 352536 -0. 49333 0. 625369610 離婚率 -67. 6147 57. 64108 -1. 17303 0. 250013566 日照量 0. 72182 0. 68661 1. 051282 0. 301524203 犯罪件数 0. 006544 0. 001049 6. 238314 0. 000000718 いじめ認知件数 0. 00342 0. 001356 2. 521464 0. 017232183 完全失業率 8. 496901 24. 77621 0. 342946 0. 734030639 有効求人倍率 -29. 7878 28. 55946 -1. 04301 0. 305276831
  19. 16 思いとどまり、結果的に自殺を減らしているということになる。薬物乱用は日本を含む諸 外国でも違法行為にあたるため、薬物乱用を推進することはできないが興味深い結果とな った。 2020 年男性 統合失調症患者、犯罪件数が有意な数値を示し係数の符号が正である。細かい係数は以 下のとおりだ。修正済み決定係数は 0.97601 である。

    表 3 重回帰分析結果(2020 男性) 2019 年とは打って変わり有意な P 値を取るものは、統合失調症患者、犯罪係数のみとな った。また係数は同じような数値を取っているが、2020 年の犯罪係数が約 614,000 件と前 年より減少していることを考えると、犯罪の件数よりは犯罪そのものが自殺の理由となり えるのかもしれない。他に、前年と比較して気になるものはいじめ認知件数と新たに取り 入れた各都道府県の 10 万人当たりの新型コロナウイルス感染者数が有意な数値を取らなか ったことである。前者は休校による学校との関係の希薄化によりいじめに関して思い悩む 係数 標準誤差 t P-値 切片 135. 6606 177. 9381 0. 762403 0. 451772471 鬱病患者数(人) -0. 8596 1. 021175 -0. 84178 0. 406573390 統合失調症患者(人) 1. 163315 0. 237612 4. 895861 0. 000031257 アルコール依存症患者数(人) -0. 21616 2. 559775 -0. 08445 0. 933262200 薬物乱用患者数(人) 7. 496018 7. 269516 1. 031158 0. 310708798 酒類 0. 000174 0. 00081 0. 214502 0. 831607177 外食費(食事代) -0. 00415 0. 006406 -0. 64776 0. 522064734 喫茶代 0. 000814 0. 002772 0. 293714 0. 770998648 被服代 0. 000637 0. 000793 0. 802846 0. 428378757 医療サービス費 0. 000466 0. 000576 0. 80991 0. 424370064 10万人当たりの感染者数(2020.12.31) 0. 700622 1. 500556 0. 466909 0. 643938613 いじめ認知件数 -0. 00058 0. 00163 -0. 35554 0. 724676305 離婚率 0. 725274 66. 0953 0. 010973 0. 991317517 完全失業率 -8. 07378 23. 66834 -0. 34112 0. 735389681 有効求人倍率 -43. 0281 39. 29727 -1. 09494 0. 282256527 日照量 -0. 76875 0. 475077 -1. 61816 0. 116095869 犯罪件数 0. 007204 0. 001226 5. 877797 0. 000001963
  20. 18 図 4.9 重回帰分析(2020 女性) 図 4.8 及び図 4.9 は女性の数値を使って出力したものである。まず、それぞれの特徴に

    ついてまとめていく。 2019 年女性 鬱病患者数と犯罪件数が有意な数値を示し係数の符号が正である。薬物乱用患者も有意な 数値を示すが、係数の符号は負である。細かい係数は以下のとおりだ。修正済み決定係数 は 0.979902 である。
  21. 19 表 4 重回帰分析結果(2019 女性) 男性の傾向とは異なり、鬱病患者数とアルコール依存症患者数が有意な値をとった。ま たこちらは男性と同じく薬物乱用患者数、犯罪件数が有意な値を取った。犯罪件数はとも かく薬物乱用患者数も同じく係数が負であることを見ると、他の精神疾患と比べると何か 違うメカニズムが生じている可能性が存在するのではないかと考えられる。 2020

    年女性 アルコール依存症患者数と犯罪件数が有意な数値を示し係数の符号が正である。有効求 人倍率も有意な数値を示すが、係数の符号は負である。細かい係数は以下のとおりだ。修 正済み決定係数は 0.975431 である。 係数 標準誤差 t P-値 切片 80. 37295 95. 73096 0. 839571 0. 4077899286661 鬱病患者数(人) 0. 05131 0. 013012 3. 943218 0. 0004462297189 統合失調症患者(人) -0. 00417 0. 005546 -0. 75109 0. 4584514585828 アルコール依存症患者数(人) 0. 366211 0. 170689 2. 145485 0. 0401281060850 薬物乱用患者数(人) -3. 68056 0. 688642 -5. 34466 0. 0000088017572 酒類 0. 000137 0. 000559 0. 245254 0. 8079298342565 外食費(食事代) -0. 00024 0. 000216 -1. 11123 0. 2752980960993 喫茶代 0. 000989 0. 002473 0. 399825 0. 6921176746116 被服代 -3. 3E-05 0. 000277 -0. 11931 0. 9058281041990 医療サービス費 7. 32E-05 0. 000276 0. 265141 0. 7927139036295 1人当たり賃金 0. 278399 0. 160822 1. 731103 0. 0937077412815 離婚率 -20. 6953 23. 71532 -0. 87265 0. 3897832452390 日照量 -0. 34821 0. 285262 -1. 22068 0. 2317166725153 犯罪件数 0. 005021 0. 000485 10. 3455 0. 0000000000206 いじめ認知件数 0. 00101 0. 000579 1. 745214 0. 0911844352234 完全失業率 -7. 95236 10. 46723 -0. 75974 0. 4533400721956 有効求人倍率 -19. 3049 11. 0496 -1. 74711 0. 0908499602050
  22. 20 表 5 重回帰分析結果(2020 女性) 前年とは打って変わり、有効求人倍率が有意で係数の符号は負となった。この係数は約 ‐73.57 で、やはりコロナの患者数よりかは感染症蔓延による変化によって自殺に至って しまうことの裏付けとなるだろう。実際に 2019

    年の有効求人倍率は 1.60、2020 年のそれ は 1.18 である。この間の下げ幅は 0.42 ポイントである。つまり表 5 より有効求人倍率の 係数が約‐73.57 であることから 0.42 ポイントの下げ幅で生じる自殺者数は 30.8994 人と なる。 係数 標準誤差 t P-値 切片 299. 8007 90. 93041 3. 297034 0. 002518689 鬱病患者数(人) 0. 029419 0. 035407 0. 83086 0. 412616715 統合失調症患者(人) 0. 016729 0. 009061 1. 846269 0. 074740968 アルコール依存症患者数(人) 0. 460963 0. 189872 2. 427764 0. 02140361 薬物乱用患者数(人) -1. 36963 0. 87007 -1. 57416 0. 125939845 酒類 0. 000295 0. 000495 0. 595604 0. 555906594 外食費(食事代) 0. 005403 0. 003743 1. 443331 0. 159289114 喫茶代 0. 00024 0. 001548 0. 155137 0. 877752718 被服代 -0. 00049 0. 00044 -1. 11458 0. 273881324 医療サービス費 0. 000202 0. 000341 0. 59121 0. 558808705 10万人当たりの感染者数(2020.12.31) 0. 545196 0. 912405 0. 597538 0. 554632262 いじめ認知件数 0. 000687 0. 00091 0. 755473 0. 455856002 離婚率 -53. 8815 34. 32469 -1. 56976 0. 126959624 完全失業率 -26. 8951 13. 25481 -2. 02908 0. 051404451 有効求人倍率 -73. 5702 22. 00156 -3. 34386 0. 002228872 日照量 -0. 53118 0. 283743 -1. 87205 0. 07097699 犯罪件数 0. 004559 0. 000666 6. 848899 1. 33694E-07
  23. 21 図 4.10 重回帰分析(2019,20 代) 図 4.11 重回帰分析(2020,20 代) 図

    4.10 及び図 4.11 は 20 代の数値を使って出力したものである。まず、それぞれの特徴に
  24. 22 ついてまとめていく。 2019 年 20 代 アルコール依存症患者数、犯罪件数、いじめ認知件数が有意な数値を示し係数の符号は 正である。薬物乱用患者数も有意な数値を示すが、係数の符号は負である。細かい係数は 以下のとおりだ。修正済み決定係数は 0.96107

    である。 表 6 重回帰分析結果(2019,20 代) 特に注目すべきなのは、アルコール依存症患者数の係数が 1.43 であることだろう。近年 特に若者のアルコール離れが顕著になってきたにも関わらず、アルコール依存症患者数 の P 値が有意な数値をとるのは興味深い。またいじめ認知件数も有意である。しかしこの 変数は小中高生が対象であるため有意な値を取るのは合理的に考えてつながりが見えない。 2020 年 20 代 犯罪件数が有意な数値を示し係数の符号は正である。細かい係数は以下のとおりだ。修 係数 標準誤差 t P-値 切片 12. 7308286 50. 27144 0. 253242 0. 801808792 鬱病患者数(人) 0. 0991956 0. 089631 1. 106709 0. 277215438 統合失調症患者(人) 0. 0349815 0. 026723 1. 30905 0. 200456140 アルコール依存症患者数(人) 1. 4303591 0. 375545 3. 808751 0. 000644062 薬物乱用患者数(人) -5. 6003450 0. 962711 -5. 81726 0. 000002326 酒類 -0. 0001234 0. 000285 -0. 43297 0. 668133894 外食費(食事代) -0. 0000294 0. 000117 -0. 2505 0. 803907908 喫茶代 0. 0000899 0. 001412 0. 063666 0. 949658739 被服代 0. 0000685 0. 000153 0. 449037 0. 656632401 医療サービス費 -0. 0000213 0. 000146 -0. 14607 0. 884844156 1人当たり賃金 0. 1412453 0. 083124 1. 699213 0. 099627605 離婚率 -16. 3045431 13. 48973 -1. 20866 0. 236232792 日照量 -0. 2000138 0. 155479 -1. 28643 0. 208131107 犯罪件数 0. 0017348 0. 000272 6. 383397 0. 000000480 いじめ認知件数 0. 0007290 0. 000313 2. 329153 0. 026774146 完全失業率 -1. 3829636 5. 72991 -0. 24136 0. 810919216 有効求人倍率 -4. 7513677 6. 6362 -0. 71598 0. 479541874
  25. 23 正済み決定係数は 0.9305796 である。 表 7 重回帰分析結果(2020,20 代) 前年とは打って変わり、有意な数値となったのは犯罪件数のみである。一応、統合失調 症患者のP値が

    0.05006 と有意な数値に近い犯罪件数の係数は前年とさほどかわりないた め、20 代の自殺者数が増加している理由が見つからない。 そのため、より精度の高いデータを得るために P 値を参照し、明らかに関係ないであろ う変数を除外して、再び重回帰分析を行った。使用した変数は以下のとおりだ。 10 万人当たりの感染者数(2020.12.31) 、アルコール依存症患者数、いじめ認知件数、完 全失業率、日照量、犯罪件数、統合失調症患者、薬物乱用患者数、鬱病患者数 係数 標準誤差 t P-値 切片 15. 80325 65. 68445 0. 240593 0. 811507 鬱病患者数(人) 0. 00735 0. 202969 0. 036203 0. 97136 統合失調症患者(人) 0. 11470 0. 056181 2. 041692 0. 050061 アルコール依存症患者数(人) 0. 71086 0. 758446 0. 937263 0. 356108 薬物乱用患者数(人) -0. 87417 2. 134744 -0. 4095 0. 685083 酒類 0. 00025 0. 000329 0. 748282 0. 460116 外食費(食事代) -0. 00146 0. 00258 -0. 56408 0. 576896 喫茶代 0. 00084 0. 001096 0. 763426 0. 451172 被服代 -0. 00001 0. 000312 -0. 01637 0. 987045 医療サービス費 0. 00033 0. 000231 1. 432757 0. 162266 10万人当たりの感染者数(2020.12.31) 0. 58117 0. 602647 0. 964361 0. 342575 いじめ認知件数 -0. 00052 0. 000605 -0. 86711 0. 392764 離婚率 5. 38737 25. 57659 0. 210637 0. 834595 完全失業率 -10. 76497 9. 10009 -1. 18295 0. 246119 有効求人倍率 3. 77933 15. 58866 0. 242441 0. 810088 日照量 -0. 38806 0. 195299 -1. 98701 0. 056119 犯罪件数 0. 00169 0. 000494 3. 421353 0. 001818
  26. 25 除外前の結果と比べると、大きな違いが出ている。大きな違いの一つとして完全失業率 が有意な数値をとり、係数が-16.13 であったことである。やはりコロナ禍という災禍を前 に、対応しきれなかった求職者がこういった形であらわになってしまったのであろう。 第4節 分析結果のまとめ 本節では上記で得られた分析結果をまとめていく。 まずは自殺者の推移である。性別で見ると、2019 年をさかいに女性のみ自殺者数が増加

    している。男性は依然として減少傾向にある。 次に年代別に見ていく。10 代は、図 4.2 からは 2017 年より緩やかな増加傾向を示して いる。ここ 3 年間、自殺者数における前年比が増加しつ続けているのは 10 代のみである。 20 代は、図 4.2 からは 2020 年に急増していることがわかる。これは 2020 年におけるもっ とも高い上昇率となっている。30 代は、図 4.2 からは 2020 年に微増している。40 代は、 図 4.2 からは 2011 年から一貫して減少傾向にある。しかし 2018 年からは減少の仕方に鈍 りがみえる。50 代は、図 4.2 からは 2011 年から依然として減少傾向にある。しかし図 4.3 で見ると、50 代は他の世代のように掴みやすい特徴が見つからない。60 代は、図 4.2 から は、急激な減少傾向にあることがわかる。70 代は、図 4.2 からは、緩やかな減少傾向にあ ることがわかる。だが、あまり大きな動きは存在しない。80 代以上は、図 4.2 からは、お おむね横ばいで変化が少ない年代であることがわかる。ただ図 4.3 で見ると 2019 年から 2020 年において増加している。 最後に、2020 年の重回帰分析で得られた結果をまとめる。男性では、統合失調症患者、 犯罪件数が有意な数値を示し係数の符号が正である。女性では、鬱病患者数と犯罪件数が 有意な数値を示し係数の符号が正である。薬物乱用患者も有意な数値を示すが、係数の符 号は負である。20 代は、1 度目の分析において、犯罪件数が有意な数値を示し係数の符号 が正である。2 度目の分析において、犯罪係数、統合失調症患者が有意な数値を示し係数 の符号が正である。完全失業率、日照量も有意な数値を示すが、係数の符号は負である。 上記のことを簡単に表 9 及び 10 でまとめた。
  27. 26 表 9 2019 年から 2020 年における自殺者数の推移・属性別傾向 2019 年から 2020

    年における自殺者数の推移 自殺者数の推移 傾向 男性 減少 女性 増加 10 代 増加 20 代 増加 30 代 増加 40 代 減少 50 代 減少 60 代 減少 70 代 減少 80 代以上 増加 表 10 2020 年の重回帰分析結果・属性別傾向 2020 年の重回帰分析結果 対象 P 値が 0.05 未満で係数が正 P 値が 0.06 未満で係数が負 男性 統合失調症患者、犯罪件数 なし 女性 鬱病患者数、犯罪件数 薬物乱用患者 20 代(1 回目) 犯罪件数 なし 20 代(2 回目) 犯罪係数、統合失調症患者 完全失業率、日照量
  28. 27 第5章 政策提言 執筆担当:野尻裕樹・谷口巧 第1節 現在の日本における自殺対策 日本における自殺対策の始まりは 2006 年に制定された「自殺対策基本法」である。こ の法律では以下のような基本理念が述べられている。

    第二条 自殺対策は、生きることの包括的な支援として、全ての人がかけがえのない個人として尊 重されるとともに、生きる力を基礎として生きがいや希望を持って暮らすことができるよ う、その妨げとなる諸要因の解消に資するための支援とそれを支えかつ促進するための環 境の整備充実が幅広くかつ適切に図られることを旨として、実施されなければならない。 2 自殺対策は、自殺が個人的な問題としてのみ捉えられるべきものではなく、その背景に 様々な社会的な要因があることを踏まえ、社会的な取組として実施されなければならない。 3 自殺対策は、自殺が多様かつ複合的な原因及び背景を有するものであることを踏まえ、単 に精神保健的観点からのみならず、自殺の実態に即して実施されるようにしなければなら ない。 4 自殺対策は、自殺の事前予防、自殺発生の危機への対応及び自殺が発生した後又は自殺が 未遂に終わった後の事後対応の各段階に応じた効果的な施策として実施されなければなら ない。 5 自殺対策は、保健、医療、福祉、教育、労働その他の関連施策との有機的な連携が図られ、 総合的に実施されなければならない。 この法律の制定以降「自殺対策白書」と呼ばれる、年毎の自殺傾向や対策が述べられた 白書が発行されており、今日の自殺対策における基準となっている。 この自殺対策白書は 2021 年 11 月に新しい版が公開された。今回の対策案は新型コロナ ウイルス感染症拡大下の自殺対策について重点的な項目が含まれている。主な内容は以下 のとおりである
  29. 28 ① 電話相談や SNS を活用した相談事業への支援 新型コロナウイルス感染症が流行しだした令和2年度に始まったものである。感染拡 大による経済活動や社会生活への影響が拡大している状況を踏まえ、これらの自殺対 策に係る相談事業への支援を拡充した。 日常生活のコミュニケーションを取る手段として広く国民生活に浸透している SNS

    は、 自殺対策を行う相談手段としても重要な役割を果たしている。 ② 新型コロナウイルス感染症に特化した相談窓口 上記で述べた、支援を受けた民間の団体のうち一部は、通常の相談窓口に加えて、新 型コロナウイルス感染症の影響による心の悩みに特化した相談窓口を設置。 「特定非営 利活動法人 東京メンタルヘルス・スクエア」と「特定非営利活動法人 自殺対策センタ ーライフリンク」の 2 団体であり、令和二年度の相談延べ件数は 8,262 件であった。 相談件数のうち、年齢不詳を除いて年齢階級別にみると 30 歳代・40 歳代の合計相談件 数が全体の半数以上を占めており、通常の相談窓口に比べて相談者の年齢層が高いこ とが明らかになっている。 出所:令和三年度自殺対策白書 以上が令和 2, 3 年度に実施された対策である。2006 年の自殺対策基本法の制定から、毎 年変化に応じた対策が練られていたが、今回は新型コロナウイルス感染症の拡大・拡大に 伴い、人とのつながりがさらに希薄になるなど比較的変化が大きい年だった。 そこで以上の現段階における日本の自殺対策を踏まえて、分析の結果明らかになった自 殺の傾向に合わせた対策・政策があれば、より一層自殺減少への効果が期待できるのでは ないだろうか。そこで私たちは分析結果のうち年代や性別ごとに増加傾向や特徴がある集 団に着目し、それらに対する対策・政策を提案する。 第2節 男性に対する政策案 ここでは全世代の男性について着目する。男性の自殺者数が増加する要因として分析の 結果明らかになったのはうつ病と統合失調症である。
  30. 29 先行研究などで自殺の原因としてよく挙げられるうつ病・統合失調症だが、近年の傾向 を見ると 2019 年から 2020 年において、2019 年ではうつ病患者者数は優位な数値を取っ ているが、2020 年では優位ではなくなっており新型コロナウイルス感染症の影響により何

    か変化が生じたのではないかと考えられる。 図 5.1 うつ病患者者数・男性の年代別推移 うつ病が減った要因として考えられるのは、感染症拡大による対人環境の変化ではない だろうか。代表的なものとして挙げると「オンライン化の進展」である。例を挙げると、 テレワーク等のオンライン上での仕事や、主に大学を主とした学校での Zoom を用いたオ ンライン授業が急速に広がったことだ。 心理学者のアドラーの言葉に「すべての悩みは対人関係の悩みである」と残されている ように、対面での人との関りが減ったことにより日々のストレスが軽減された人も多いの だろう。 そのため、with コロナ時代に向けて、従来の仕事や学校の形は残しつつインターネット 上においても同じ要領で行え、どちらをとっても支障ない環境の整備を促進させることが 必要であることが推測される。またもっと心の悩みを解決しやすい状況の整備も急がれる。 これらを解決できる環境という考え方は実はもうあるように思われる。それは Society 5.0 の存在だ。仕事関係においては、5G の普及で解決できるであろう。今はまだぎこちな いインターネット上でのコミュニケーションを円滑に行うことが可能になればより精神に 0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 〜19.男 20〜39.男 40〜64.男 65~74.男 75〜.男
  31. 30 負担のない形で生活が送れる。心の悩みにおいては、IoT や AI を活用した「遠隔診療」が、 今はまだ医療・介護を提供する手段としか考えられていない状況を精神医療にまで広げる ことで活路を見いだせる。家の中という安心できる状況で医師がより詳細な状況把握、診 察ができるため、重篤な患者数は減らせるに違いない。ただ、電話による相談は匿名で素 顔を出さないという安心感も存在することは間違いないので、それも同時に続ける必要が ある。

    男性に対する政策提案をまとめると、5G の普及及び「遠隔診断」の定義拡張である。 第3節 女性に対する政策案 次に、全世代の女性に対する政策案である。女性の自殺者数増加の特徴としては、変数 の 1 つである有効求人倍率が有意な数値をとり、さらに係数が約‐73.6 となった。新型コ ロナウイルス感染症の拡大下において、雇用の変化の影響を強く受けたのは女性であるこ とが推測される。そのためそれらをいち早く解決・支援するための対策が急がれる。つま り有効求人倍率の改善である。 まず初めに有効求人倍率とは、働き手を探している求人数を求職者数で割ったものであ り、経済指標の一つとして扱われる。テレビニュースでも「県内の有効求人倍率は~」と 発表されるので耳にしたことがある人も多いだろう。 ただそこには、好んで非正規雇用を続ける人と不本意ながら非正規雇用を続ける人の 2 種類が存在していることを抑えておかねばなるまい。好んで非正規雇用である人は、家事 や趣味と両立するために、つまり自分の都合で働き方を選べることに魅力を感じているよ うだ。そして不本意ながら非正規雇用である人は、正規雇用で働ける会社がないために今 の立場に甘んじているようだ。そのため今回は後者がターゲットとなる。 その実態を受けて政府では、次の取り組みが行われている。同一労働同一賃金の実現及 び正社員転換・待遇改善実現プランである。しかし、これらはまだ始まったばかりで実行 されているのかまだ不透明なところがある。同一労働同一賃金の実現に至っては 2020 年 4 月 1 日から全国の大企業で施行され、中小企業に対しては 2021 年 4 月から適用されてい る。しかもこれらには 2021 年 3 月時点では、明確な罰則は設けられていないようなのだ。 つまり賃金に関しては企業側の匙加減であり、それを指摘しようにも従業員が訴えるほか
  32. 31 方法はなさそうだ。 そこで、企業側に明確な実施日の設定、及びそれを行わなかった際の明確な罰則を設け ることで好む好まざるにかかわらず非正規雇用であるという不満はやわらぎ、多様化して いく生き方に対応することができるに違いない。 まとめると、女性に関する政策提案は、同一労働同一賃金の実現及び正社員転換・待遇 改善実現プランの周知徹底、及び明確な実施日、罰則の設定を行うことである。 第4節 20 代の全体に対する政策案

    最後に、20 代全体における自殺対策における政策案である。おそらく新型コロナウイル ス感染症の影響・変化によって他の属性とは異なる変化がもっとも見られた年代であった。 また、ここまで挙げた男性・女性とは異なり、男女混合となるため性別の違いを考慮する ことは難しくなるが、変化が大きかったことを考えると対策は必須であると思われる。 ① 完全失業率の改善及び向上 完全失業率とは、労働力人口(15 歳以上の働く意欲のある人)のうち、完全失業者(職 がなく、求職活動をしている人)が占める割合で、雇用情勢を示す重要指標のひとつ。 総 務省が「労働力調査」で毎月発表している。 完全失業者数を労働力人口で割って算出し、 数値が高いほど仕事を探している人が多いことを示す。 この完全失業率悪化の要因として考えられるのは、近年の社会情勢の変化により就職活 動における売り手市場が買い手市場に逆転してしまったことだろう。実際には、買い手市 場はデメリットだけではなく少なからずメリットも存在するが、職を選びにくくなるとい う点では精神的なダメージも大きい。 また、最近ではオンラインでの就職活動が活発化しており、今やほとんどの会社でオン ライン説明会、オンライン面接が当たり前になっている。オンラインでの就職活動・面接 はリアルでの面接と違い、移動の必要がないので交通費がかからない・移動時間を考慮し なくて良い分、時間さえ合えば一日に複数回の面接可能(数をこなせる)というメリット がある。しかし、会社の説明会で初めに出会う時から雇用契約に至るまで一度も”実際に会 わない”ことが多いため、会社や現場の雰囲気を掴めず入社時にギャップを感じ退職…とい
  33. 32 うリスクもある。つまりどこかで会社のリアル寄りに近い雰囲気の把握、働いている実際 の景色を知ることができれば、ミスマッチは限りなく減らせるだろう。 これらの情報を発信する手段として、第五章・第二節で紹介したケースと同様に Society5.0 に準じた環境の導入が最適ではないだろうか。そこで、普段の会社の雰囲気を 伝える手段として”視覚共有型警備ロボット”の導入を提案する。昔では産業など特定の用 途でしか利用できなかったロボットだが、近年では街中での商業施設などで案内用ロボッ トを見かけることも多くなり身近な存在となっている。企業内においては、普段オフィス の警備等に利用できるモデルを導入し、必要な時には内部のカメラ機能を利用した会社案

    内に使う、といった使い方が可能であり、環境の改善が期待される。 ② 日照量 分析結果から、日照量が多い地域では 20 代の自殺者数が少ないことが判明した。しかし 第 3 章における既存研究から「自然の抗うつ剤、すなわち日光を浴びることがかえって自 殺リスクを高めてしまうかもしれないことを示唆する」 (薄田,2014)ことがわかっている。 つまり太陽光を浴びることはうつ抑制につながるが、中途半端に浴びると却って逆効果と なり望む結果は得られない、ということだ。そのことを踏まえると、周りの見守る立場に ある人が「あっあの人、日光浴している。もう安心だね」とそこで警戒を解かずにその時 点でより注意を向ける事が必要である。 まとめると、精神的に参っている人が日光浴し始めたとき、周りの人は警戒レベルを上 げることが求められる。一般的に日光浴は精神の回復に良いとされているため、この事実 をどこかで周知させることが 20 代に関しての政策提案の 1 つとなる。
  34. 33 第6章 結論 執筆担当:谷口巧 第1節 まとめ 本研究では、自殺者数の推移や動機を参考に分析を行った。そこで本研究では第 2 章で、 既存研究で明らかになったことをまとめた。第

    3 章では研究の方法をまとめ、第 4 章では その方法に沿って分析を行った。第 5 章では本研究で明らかになった自殺の原因を基に政 策提案を行った。 特に本研究では、2019 年から 2020 年に注目することでコロナ禍における変化をとらえ ようとした。その結果、以下のことがわかった。第一に、男性は 20 代と 80 代、女性は全 世代において自殺者数の増加が確認された。第二に、男性と女性及び 20 代に対して重回帰 分析を行った結果、次のことが判明した。2020 年において、男性は統合失調症患者と犯罪 件数が、女性はアルコール依存症患者数、有効求人倍率及び犯罪件数が、20 代では完全失 業率、日照量、犯罪件数及び統合失調症患者数が有意に増減することだ。さらに 2020 年 には新型コロナウイルスにおける 10 万人当たりの感染者数を変数として追加したが、有意 な値は取らなかった。この結果から、新型コロナウイルスの影響というものは確かに存在 したがウイルスそのもというよりかは、感染者増加に伴う生活の変化が理由で自殺者数が 増加していると言っても過言ではないはずだ。 その結果を踏まえて、以下の政策を我々は提案した。 • 男性に関しては、5G の普及及び「遠隔診断」の定義拡張 • 女性に関しては、同一労働同一賃金の実現及び正社員転換・待遇改善実現プランの 周知徹底、及び明確な実施日、罰則の設定 • 20 代に関しては、視覚共有型警備ロボットと日光浴に対する注意喚起 以上をもって本研究の結論とする。
  35. 34 第2節 残された課題 最後に本研究の限界点について述べておく。まず自殺者数のデータについてである。全 国の統計は性別と年代別が組み合わさって載っていた。しかし都道府県別となるとどちら か一方のみとなり、例えば 20 代男性と言った変化が顕著に表れている属性をピンポイント で分析できなかった。同じ 20

    代であっても性別によってメカニズムが異なるのであれば結 果に沿って政策案を考えたとしても全くの的外れになってしまう。 次に変数となるデータの不足である。本来のプランであれば、10 代にも言及し分析を行 いたかったが、長期欠席者数や、DV 相談件数など変数となりえそうなものは都道府県別 で揃っているものがなく、分析としてはまだまだ甘さが残る。また国民生活基礎調査が 2020 年においては中止されており、変数の選定という点では狭いものにならざるを得なか った。そのため、これからも様々な視点、分析方法で多角的な研究が必要になる。
  36. 36

  37. 37 参考文献 厚生労働省(2021) 『令和三年度自殺対策白書』https://bit.ly/3CR0rTz (2021 年 11 月 1 0

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