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保育現場にAIを 〜人と技術に橋を架けるデザインで考えてきたこと〜 uiuxcamp2026-hoiku-ai-design

UI UX Camp! 2026 DAY1 登壇スライドです

16:10 - 16:40
保育現場にAIを 〜人と技術に橋を架けるデザインで考えてきたこと〜
https://cp.nijibox.jp/uiuxcamp#day1

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Takahiro Yamaguchi

March 04, 2026
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Transcript

  1. 登壇者について 山口 隆広 ユニファ株式会社 執行役員CPO プロダクトデベロップメント本部 本部長 兼 AI開発推進部 部長

    1981年生、福島県出身、子(6歳)の父。 HCD-net認定 人間中心設計専門家。 ねこ大好き。ベーススキルは企画職。 @hiro93n 3
  2. 9 保育現場における業務 こどもを預かり 遊ばせる 文字や歌を教える 食事やお昼寝の 世話をする 保護者と連絡帳で やりとりする よくあるイメージ

    その裏で「保育記録に関わる業務」も多くの時間を占めています。 学習計画 日々の 振り返り 月・期単位 年単位での 保育報告 小学校への 申し送り記録
  3. 23 プロダクトコミュニケーション 偶然の産物だが、結果的に意識したこと。 • 「AI」と言うワードをプロダクトにいれない ◦ 変に構えずに使えるようにしたい • ただ、正確性や処理時間の長さは実際あり、期待値調整はしたい ◦

    名前はゆるく「たよれるくん」に。便利機能だけどたまにダメなこと もあるという印象をつくる ◦ これもひとつのコミュニケーションデザインだった認識 その上で、AIにかかる免責や「園の主義に合わない」と感じられたら すぐに園単位で機能非表示にできる準備を行ってリリース。
  4. 25 リリースしてみて起こったこと、意外だったこと • あんなに恐れていたのに、誰にも何も怒られず、非表示希望園もゼロ • 様々褒められる ◦ 「新人の指導の多くがどうしても言葉の使い方が多かった。この機能 のおかげで、本質的な指摘に時間を使えて助かる」 ◦

    「翻訳機能で、海外出身保護者からのメッセージが増えた」 社内メンバーが杞憂だったと言うことじゃない。 結果運が良かっただけかもしれない。 保護者にどう思われるか不安だという声はまだある。 それでも、「そんなに生成AIって受容性あるんだ」とかなり驚かされた。
  5. 28 「AIで保育記録をつくる」の大きな違い 何もないところから 生成AIが文章作成 先生の視点を元データとし これにAIの主観を入れず要約 取り入れたアプローチ ・文例を選んで帳票を書くよ うな状態に近い。 ・実際の観察をもとにしない

    ので、見た目はそれっぽいが 本質的ではない内容になりや すい。 ・先生の視点が入った専門性 の文章データや写真データを 探してきて要約するので、質 も要約に継承される。 取り入れなかったアプローチ
  6. 31 プロダクトのルールとして決めたこと • 先生の専門性を冒さない ◦ それっぽい専門性らしき示唆を出すとむしろ迷惑になる • 覚えなくても使えるようにする ◦ 今興味がないのに覚える人なんていない。ボタンポチッと押せばすぐ

    使える操作性と、敢えて色々できないシンプルさに抑える • 新たに何もしなくても始められる ◦ 既存データが入っていれば大丈夫。そのためだけに新たな入れ物に何 か独自の書類を入れなくてい。仕事を増やさない RAGで保育所指導指針を参考に、などの声もありつつ、まずは「そもそも 思い出しまとめる部分に本当にペインがあるのか?」を検証。
  7. 32 3段階のリサーチ ①コンセプトリサーチ • そもそもの受容性や、現場でどういった活用が考えられるかについての視 点抜け漏れ担保 ②プロトタイプリサーチ • AIで生成された文章の質評価 ◦

    「それっぽくできていそう」までは社内で判断できても、本当に使い 物になる要約なのかどうかは、もとの記録を書いて日々こどもを見て いる園の先生しか評価できない ③クローズドβリリース後のリサーチ(ヘビーユーザー) • 具体的に何が良かったのか、どういう使い方をしているかの深掘り
  8. 37 リサーチで得られた特徴的なインサイト 時間をかけて書類を作成しても二度 と読まれなかったのが変わりそう 要約により自分だけでなく他の 先生も保育計画に活かせる 若手とベテランで質が変わるので 普段の書類作成力を評価できそう ベテランの視点について気軽に アクセスし学べる

    他のクラスの活動計画を気軽に見ら れるので「それなら一緒に」と言え る機会が増えそう 他クラスの詳細について把握す る心理的ハードルが低下 負荷軽減だけでなく先生の自尊心向上や教育・協力に繋がる可能性。
  9. 41 補足:すくすくレポートが生み出した価値の一例 過去の写真や書類を探せる範囲で 探し、あとは残り時間で記憶頼み で書類作成。 要約内容をフックにエピソードを 思い出しながら書類作成。 保護者面談の前日に急いで最近の 連絡帳を読み返し、ギリギリ面談 準備を終える。

    要約内容を片手に面談に臨み、保 護者の方と一緒に振り返る。 月間クラス会議に備え日々の記録 をまとめ、会議資料を準備。 先月分の要約を印刷し、不足エピ ソードを加えて月間クラス会議に 持ち込んで議論する。
  10. 42 保育AIにより生まれた大義名分「デジタル化は、保育の質のため」 使えるPCも少なくキーボード入 力も大変。書類をデータにする意 義を感じない データに残せばAIで要約でき保育 記録作成の負荷も下がる 園内写真撮影は大変なだけだし、 他にもやることが多いのでやる意 味を感じない。

    写真をたくさん撮っておけば保育 記録も充実する 園内でICT担当する先生、自社でICTを提案する営業にとって、これまで点 で利用価値を感じていた状態から線としての価値を語れるようになった。
  11. 45 一方、リリースして分かった「AIの限界」 • 「写真で笑ってても、別に楽しんでいるわけじゃない」 ◦ AIは写真から「楽しんでいる」と判断。 ◦ 実際は「この子は困ったときにとりあえず笑顔で乗り切ろうとするタ イプであり、それはAIじゃわからないよね」との声 •

    「いわゆる手のかからない子の内容ほど薄い」 ◦ 自分だけで色々とできてしまう子の園内記録は相対的に少なく、エピ ソードが足りないので要約の有用性が低い 限界があることがダメなのではなく、AI(客観)だけでは完結せず、先生 の専門性・文脈理解(主観)が不可欠だということが理解できた。
  12. 49 AI利用が広がると、『社会インフラ』としての責任も増えてきた • 情報管理体制として適正か?の評価 ◦ 園の書類サポートでは個人情報を入れられないとほぼ意味がない。個 人情報を活用できる前提条件について弁護士や有識者と相談しつつ、 必要な機能担保やポリシーの整理も進めた ◦ 園・施設が何も意識しなくても情報管理として問題にならない状況を

    作ることも重視(学習除外など含め) • 行政他、対外的な説明責任に対する準備 ◦ 導入者だけでなく、導入者がどう保護者に説明するかについてもサー ビス提供者の責任として設計する必要があった 世の中にAIプロダクト自体が増えたことで、質の担保を問われるシーンが増加。
  13. 54 AIプロダクトで求められる、人と技術に橋を架けるデザイン • 「便利だから使おうよ」だけでは社会実装は進まない。不安に向き合うこ とはまだまだ重要。 • 大事な情報を預かっていること。できるからいいよね?だけでなく、信頼 を勝ち得る重要さ。信頼がない会社のAIソリューションは使われない。 • 相対するのはAIではなく人。先生にも保護者にも、そして自治体やこども

    を取り巻く人たちにも大義名分を感じてもらえるような絵を描く • 実際にリリースしてみて「想定外の価値が生まれた。それなら次に必要な 施策はこれでは?」と考え、世に出し続けることがわたしたちの責務。 一度架け終わったと思ってもいつの間にか現場は変わっているからこそ 人と向き合って悩み続けるプロダクト開発って楽しいんだと思います。