書籍執筆時にアウトラインを決めるために作成したプレゼンテーションです。 第2章について。
メンタリング技術概論株式会社レクター
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メンタリングとは何か?
メンタリングとは?メンタリングとは何か?メンターの由来は、古代ギリシャ神話にまで遡ります。ホメロスの叙事詩「オデュッセイア」の中で、「メントール」という人物が登場します。彼は、オデュセウス王の息子を立派な王に育てた賢者として、広く伝承されました。そのため、良き指導者、良き支援者を「メントール」にちなんで、「メンター」と呼ぶようになったのです。近年では、ビジネスや教育の現場で「メンター」と呼ばれる年長者を若いメンバー(メンティ)につけ、良き導き手としてサポートするようになりました。この際の指導・支援方法を「メンタリング」と呼びます。しかし、この「メンタリング」について、年長者であるというだけでうまくいくはずがありません。そのためには、成長を促すテクニックが必要です。これは、特殊な技能ではなく意識的に行えば誰もができることです。
メンタリングとエンジニアリングの関係メンタリングとは何か?コードレビューをする際に、メンタリングのテクニックは重要です。プログラミングの良し悪しは、何か1つの正解があるものではないですが、問題に対してより良い考え方というのはあります。その考え方に気がついて、成長を促すのがコードレビューです。その点で、メンタリングそのものとも言えます。エンジニアリングあるいは技術力というと、知識面が強調されることが多いように思いますが、実際には心理的な課題と技術的な課題というのはリンクすることが多いものです。それは、プログラミングひいてはソフトウェア開発自体が複数人で行われるチームプレイであることもそうですし、個人的な問題解決においても、自分自身との対話によって制御していくものだからです。これらは、3章で深く語ります。コードレビュー2つは切っても切れない関係ペアプログラミングという技法があります。2人で、片方がプログラムを書く人(ドライバー)、もう片方がどんな風に書くか考える人(ナビゲーター)にわかれて、ペアでプログラミングを行うものです。これは、相互に対話的に問題解決を行う実践的なピアメンタリング技法と言えます。ペアプログラミング・問題解決アジャイルなチームマネジメント技法というのが、近年ではソフトウェア開発の主流になりつつあります。この技法においても、スクラムマスターと呼ばれる役職は、メンタリングやファシリテーションの能力を要求されます。それによってチーム全体を自発的なものに変える集団メンタリングでもいえる方法です。アジャイルなチームマネジメント技術的課題 心理的課題
メンタリングは、「自ら考える人材を作る」ためのテクニックメンタリングとは何か?自立型人材 依存型人材自立型人材は、「自ら問題を発見し解決することができる人」のことを意味しています。ビジネスの問題解決が複雑化する中で、自発的に問題を設定する能力が求められるようになりました。しかし、自立型の人材の育て方というものがあまり意識されない文化的な問題のある組織は多く存在しています。依存型人材とは、● 問題を与えられてから考える人● 問題と解決策を渡されてから動ける人の両方をさしています。ソフトウェア開発では、問題の発見と解決は、極めて密接に関わっています。そのため、依存型人材では、パフォーマンスを発揮することが難しくなります。
メンタリングの成立する状況:不安と信頼のアービトラージメンタリングとは何か?不安が大きいが信頼がない 信頼が大きいが不安がないメンタリングが成立しづらい状況として、メンターとメンティの信頼関係が作られていないときが一つあります。そうであっても、メンティの不安の量が大きい場合、メンタリングを受け変化する場合もあります。しかし、不安が多い状況では冷静な話し合いは難しいので、まずは「傾聴」を行い、信頼を勝ち取ることが必要です。一方、信頼が大きくても、絶対的な自信を持った人物が相手だと、不安と信頼のアービトラージが低く、メンタリングによって、考え方の枠を外すことの難易度は上がります。この場合、その自信を肯定(承認)しながら、自ら乗り越えるのが難しめのハードルを提供してあゲルことが大事です。自信を持っているように見えても、課題から逃げているというケースもあります。信頼不安信頼不安
メンタリングでは、相手の思考を「リファクタリング」するメンタリングとは何か?感情的な対立を除去する 可視化・単純化する 心理的盲点を取り除く多くの問題では、大元に感情的な「こじれ」が発生していて、それをすべて吐き出させる必要があります。「あいつの発言がゆるせなかった」という思いを抱えたまま、問題の解決に向かうと誤った意思決定をしてしまいます。感情的な対立を自覚し、客観視できる状態にまで話を引き出すことで、問題が解決に向かいます。単純な問題も、複数乱立すると複雑な問題に変わってしまいます。そのためには問題を単純な問題に分けてあげる必要があります。分けるための技法は、いくつかのベクトルに向けて「極論」を考えて、そのケースについて考えてみてもらうことや、複数当事者を一人一人について、個別に問題を考えることなどがあります。状況がクリアになったとしても、問題が解決されない場合、それはメンティの「思い込み」が解決を阻害しています。この「思い込み」を取り除くことが重要です。たとえば、上司=会社だという思い込みをしていた場合、上司≠会社だと納得すると、自然と転属希望がベストだなといったように想像が膨らみます。対話を通じて、「論理的思考」を阻害する要因を取り除く。それによって「行動」を促す
「他者説得」から「自己説得」にメンタリングとは何か?他者説得 自己説得他者から、たとえや理屈、学習などを通じて、そのことを説得することを「他者説得」と言います。「他者説得」の難しい点は2点● 体感を伴わない● 理解を確認できないそのため、次に述べる自己説得に比べて、効果が持続せず、また、誤解をもって捉えられていることがあるなど弊害も多いです。周りの状況などから、自らいままでわからなかったことを理解した状況を「自己説得」と言います。自己説得は、● 他人が促すのが難しい● 体感を伴う● 行動の変化が発生しやすいといった特徴があり、これを促すようにサポートするのが、メンタリングによる教育効果と言えます。
メンタリングと類似する概念メンタリングとは何か?類似した制度に徒弟制(アプレンティス:見習い)制度があります。いわゆる師匠(先生)と弟子の関係ですが、これらは「見て学ぶ」「雑用をこなしながら学ぶ」といった要素が多分に含まれています。メンターはより積極的にメンティの成長に介入します。徒弟制度コーチングの技術とメンタリングの技術は被っているところが多いです。一方て、メンターにはその専門分野での経験や能力がより重視されます。そのため、信頼と不安のアービトラージが発生しやすく、正しく促せれば、効果も高いですコーチング直接の上長となるリーダー・マネージャは、メンバーの成長よりも組織の目的達成にコミットします。目的の優先順位が異なるため、同一人物がメンターとリーダーを兼務するのは大変難しいです。メンター制度自体が、従来のマネージメント手段の限界をサポートするために生まれたため、本末転倒なことになってしまいます。マネジメント
メンターとピアメンターメンタリングとは何か?メンター ピアメンターいわゆるメンターには2種類あって、メンターとピアメンターがあります。メンターは、メンティにとってのロールモデルとなるような、能力と経験を持った人物です。一定の距離感を持っているため、弱さを見せきれないとか、時間を十分にかけれないなどのむずかしさもあります。それを乗り越える信頼があると、メンターの言葉はメンティに深く届きます。ピアメンターは、近年において企業内で数年上の先輩が新入社員をサポートする形でとられるメンタリング制度で導入されるような、比較的距離が近い、しかし、ロールモデルとなる程尊敬度が高いわけではない状況から始まるメンター関係です。距離が近い分、悩みを言いやすく、その分、尊敬度や信頼度を勝ち取るのが難しい関係と言えます。よりコーチングに近いスキルが要求される形でしょう。尊敬度が高い距離が遠い尊敬度が低い距離が近い
「悩む」と「考える」の違いメンタリングとは何か?悩む 考える「悩んでいる」というのは、頭の中に様々なことが去来し、ずっと思考をぐるぐるともたげていて、もやもやがとれない状態だと考えています。これは非常に苦しい上生産的ではないので、「頑張っている」ように感じるわりに結果が伴いません。この状態になったときには、サポートが必要でともに考えるための戦略を立てていく必要があります。これは手が動いていない状況が続くことでメンターもメンティも観測できます。「考える」とは、メモ帳やホワイトボードなどに、課題を書き出し、分解したり、抽象化したり、具体化したりといったことや、次に進むために必要な情報を書き出して調査したり、様々な事例や論文を調べたり、数値分析をしたり、関連するアイデアをクリップしたり、本を探しに行ったりと何かと忙しく行動をとっていました。また、答えがでていなくても次になにしたらよいかは明確で、手が止まるといったことがあまりなかったのです。これは習慣となっていたので、「当たり前のことだ」と思い込んでしまっていたのです。悩むは「状態」で考えるは「行動」
心理的安全性責任高低 高コンフォートゾーンラーニングゾーン無関心ゾーン 不安ゾーン
お互いの感情の連鎖が問題vs私たちを崩す問題問題問題お互いの感情を確認する構図 問題vs私たちの構図
共感と同感はちがう。共感 同感確かにあの人は許せない!そういうわけで、あの人のことを許せないんですね
コントロールできるものに注目する。成果行動習慣能力コントロールできるコントロールできない
ジョハリの窓とストーリーテリング高開放の窓( open self )盲点の窓( blind self )秘密の窓( secret self )未知の窓(unknown self)他人にわかっている他人にわかっていない自分にわかっている 自分にわかっていない
ジョハリの窓とストーリーテリング高盲点の窓( blind self )秘密の窓( secret self )未知の窓(unknown self)他人にわかっている他人にわかっていない自分にわかっている 自分にわかっていない開放の窓( open self )自己開示フィードバック
メンタリングは、「悩む」を「考える」に変えるメンタリングとは何か?悩むTodo:・あれをして・これをして・それをするメンタリングは、「悩む=停止」から「考える=行動」に変えていくことで、問題解決に近づけていくための手助けを行います。
「傾聴」と「リフレーミング」の技法
からっぽのコップにしか水は入らない傾聴とリフレーミングの技法何かに困っている人がいると、その解決策を知っている・思いついた人はどうしても教えてあげたくなってしまいます。しかし、あなたが話を聞いて一瞬で思いつく解決策は彼自身ももしかしたら思いついているかもしれません。そうであっても、頭の中が「迷い」「不安」などで一杯に埋め尽くされてしまっています。そのため、あなたの言葉はメンティに入らず溢れてしまいます。これを例えるのに「水で一杯のコップには水は注げない」と言ったりします。まずは頭の中に一杯になった不安や迷いの水を吐き出させてあげることが重要なのです。空っぽになったコップであれば、あなたの意見や考えはスッと入るかもしれません。そこで重要なのが「傾聴」という行動です。これはメンタリングの基本スキルとなるものですが、とても難しいものでもあります。傾聴は、話を聞くだけでなく効率的にコップをからにするテクニックなのです。水を注ぐならどちら?
「傾聴」と「ただ話を聞くこと」の違いただ話を聞くこと 傾聴傾聴するというと、長い時間その人の話を聞かないといけないというイメージがあります。実際にはそんなことはありません。長時間を必要とせずとも相手のコップを空にすることはできます。そのために意識しなければならないテクニックがあります。ただ、話を聞く場合ときは:● 自分の意見を言ったり● 自分の興味のあることを掘り下げたり● 興味のないことには興味がないというノンバーバルな信号を発していたりと、その人が本当に話をして吐き出したい部分を意識的に探すということをしません。そのため、場当たり的に時間をかけてしまうのです。「傾聴」は、次のような点が普通に話を聞く場合と異なります。● 感情への共感を言動で表す● 話の内容を「可視化」しながら聞く● 思考の「盲点」を探索しながら質問をするさらにその人が「見えていない」「意識していない」ところを探し出し、そこに至る質問をします。傾聴とリフレーミングの技法
共感をして話を聞き出す「信号」うなづき・位置関係 表情 あいづち、リピート相手の話を聞くときの「うなづき」にもテクニックがあります。たとえば、ポジティブな話を聞くときは早く細かくうなづき、ネガティブな話や感情への共感を示すときは、ゆっくり深くうなづくといったことです。また、メンティとの位置関係も重要で、共感を引き出すときは、真正面でなく横側に座るといった工夫も効果的です。 相手の苦しさに呼応して、苦しそうな表情をするといったように、同じような感情を表現するミラーリングという技法があります。状況に応じて、メンティよりも大げさに表現したりすることで、話をより引き出しやすくなります。あいづちの打ち方も重要で、事実関係の場合は、というような事柄には、「Aさんが、〜したんですね」と行ったように主語と術語を抜き出して、話への相槌を打ちます。感情的な部分に関してはその部分のみ抜き出して、「不安なんですね」「それは不安ですね」といったように感情に関わる箇所のみを抜き出して、リピートすることで、感情も吐き出しやすくなります。 メンティに「話を聞いている」というノンバーバルな信号を出し続ける。傾聴とリフレーミングの技法
問題の「可視化」と「明晰化」メンティにとっての不安の源泉となっているような問題は、すべて頭の中にあるもやもやとした気持ちとして、体感しているものです。人に伝えていくだけでも、説明力・言語化力の高いメンティであれば、問題が整理されていくことはあります。俗にいう、「話しただけで解決した」という状態です。これは、メンティの中に最初から答えがあるわけではなく、頭の中ではごちゃごちゃと絡んだ糸がある状態で、それを人に伝えようとすることで、整理された結果、答えが見つかったということです。そのような現象をより支援するために、話を聞きながら問題を可視化していきます。ホワイトボードや紙があれば、それに状況を書きながら話すのも良いでしょう。例えば、カフェなどでメンタリングを行なっていて、書くようなものが仮に何もなければ、登場人物や構図をグラスや灰皿、携帯電話みたいなもので可視化していくのも一つの手です。これによって、互いに目を見ながら話しているという状態よりも、より第三者的に問題を眺めることができます。話をしながら互いを見ている可視化された問題をお互いが見ている傾聴とリフレーミングの技法
「可視化」の技法事実と意見を分ける 対立構造を描く 無関係なものを取り除く強い感情は自らがおびやかされるのではないかと感じた時に発生します。不安の大本となるものはこれです。その結果、対話を通じて「事実でないもの」が引き出されてきますが、可視化することはあくまで、事実関係です。事実として起きたこと、邪推していること、そういったことはわけていき、第三者的な課題を可視化します。 課題の構造をいち早く捉えることが重要です。悩みの構造は、多くの場合Aを立てれば、Bが立たないといったように2つ(ないし複数)のものが衝突している。といった状況を変形したものが多いです。まずは、悩むからには「選択肢」があるはずだと理解してそれを探していくと、可視化しやすくなります。感情が高ぶっている場合、様々な現象が、1つの原因によって起きているのだというバイアスがかかってしまいます。そのため、話の中には脱線して、関係のなさそうなことも現れます。それを無視するのではなくて、一度受け入れてから、この問題とは関係があるかもしれないけど、今ははっきりとしないから、一度置いておこうとメンティと合意して、別の位置に動かすことで、問題をクリアに記述することができます。 メンティの感情や不安を取り除いて第三者的に問題・課題を見せる傾聴とリフレーミングの技法
事実と認知の差をリフレーミングする事実 認知 リフレームされた認知たとえば、「雨が降った」という出来事があったときに、人はそれをネガティブに捉えて、「嫌なことだ」という風に認知を行います。これは、出来事と認知が短絡していて、不可分なことであるように捉えてしまうからです。出来事と認知の短絡的なつながりのことを「認知フレーム」と呼びます。あるいは、「心理的な盲点」と呼ばれることもあります。たとえば、お金持ちは悪人であるはずだとか、自分に仕事を押し付ける人は悪意があるはずだとかそういった偏見が認知の歪みとなって現れます。それに対して、一度認知と事実の切り離しを行い、他の人の立場になって考えることや、考え方を変えていく質問をすることで、この「認知フレーム」を壊して、より広い視野での「認知フレーム」を獲得する支援をリフレーミングと言います。切り離し リフレーミング傾聴とリフレーミングの技法
認知の歪みとリフレーミング極論化 目的の明確化 立場の入れ替え認知の歪みの中に「ゼロイチ思考」があります。自分の考えとマッチしていない思考について、悪意を見出し、責め立てるといったような思考です。 このような認知フレームを持ってしまったメンティに対しては、あえて、その考えを極論化したような質問を投げかけます。たとえば、プロジェクトで自分の意見を聞き入れないプロジェクトマネージャがいた時に、「その人はプロジェクトを失敗させたいと思っているんですか?」といった具合に、極論化して質問をします。すると、メンティは、「そんなわけない」と今までの思考過程をもう一度考えはじめます。認知の歪みの中に「〜すべき思考」というのがあります。誰かから、押し付けられたわけでもないルールをなぜか頑なに守ろうとしてしまうのが、この認知の歪みです。メンティがこのような思考に囚われているときは、それを「あなたがしたい」ことや「あなたがしたくないこと」は何か?と質問していくことで、目的を明確にしていきます。そうすると、メンティが制約条件だと思っていたものが実は、そんなものはないのだとリフレーミングされ、自由に思考を始めることができます。認知の歪みの根本的な原因は、「自分」が「他人」ではないという当たり前の事実から発生します。他人の心のうちは決してわからないので、なぜ、自分の安全を脅かそうとするのか、なぜ自分の思い通りに動かないのかと考えてしまいます。「もし、あなたが彼だとして、あなたの望む行動を取らない原因はなんだと思いますか?」というように、状況設定を変えて思考を促します。これによって、相手の立場をクリアにしたり、「それがわからない」場合、その理由を知ることがまずすべきことだと次の行動へと発展させます。傾聴とリフレーミングの技法
信頼と心理的安全性
信頼と心理的安全性信頼と心理的安全性心理的安全性メンタリングの必要条件として、メンターの話をメンティが「真摯に受け入れ、自ら考える状態」というのがあります。単純にメンターとメンティの関係であることや、表面上先輩後輩の関係であるというだけでは、メンタリングの効果は薄くなります。上司部下の関係であったり、ある種の師弟のような緊張関係が強いと、効果的なメンタリングをすることが難しくなります。そのためには、自分のことについて「なんでも話せる」関係を相互に気づきあげていくと同時に、その問題を話し合っていくことで解決できるはずだという相互の信頼関係が必須になります。この関係性を「心理的安全性が高い」状態と言います。心理的安全性は、「仲が良い」とか「心配がない」といったような関係性だと誤解されがちですが、次のような条件が満たされなくては、成立しません。イシュー駆動:課題 vs私たち相互の人間関係や役割分担が問題になると、対立構造がメンターとメンティーの中で対立が起きます。課題に対してのみ、自分たちが向き合っている状態がイシュー駆動です。オープンマインド:失敗と不安の開示失敗を隠蔽したり、不安なことを隠してしまう状況は心理的安全性が高いとは言いません。これは自分を強く見せたいという心理であれ、脅かされたくないという心理であれダメな状況です。同調圧力の排除日本人同士の場合、あるいはホモソーシャルなコミュニティの場合、ある規範に従うようにという同調圧力が発生します。これでは、問題を問題として捉えられなくなります。
メンタリングにおける心理的安全性の確保の技法アクノレッジメント ストーリーテリングアクノレッジメントは「承認」を意味します。メンティに対して、メンターはその存在に対して「承認」しているというメッセージを発し続ける必要があります。これは「褒めること」と似ていますが、褒めることが「結果を褒めること」と同一視されがちですので、あえて「承認する」ことだと捉えることで、相手へのポジティブなメッセージを伝え続けることができます。ストーリーテリングは、メンターからメンティーに対しての自己開示です。メンター自身の経験から、迷いや不安がどう乗り越えられてきたのか、どのように考えてきたのかなどを「自分を大きく見せる」ことなくつたえることで、メンティー自身も乗り越えられると感じ、メンターへも自分と同じ人間であるという理解を獲得することができます。それによって、メンティ自身の自己開示が進みます。信頼と心理的安全性
アクノレッジメントには、3つの段階がある存在承認 行動承認 成果承認存在承認とは、相手が今ここにいてくれてありがたいというメッセージのことです。一番単純なものであれば、挨拶をするといったことでもいいでしょう。あった時に笑顔であることなども重要です。前に行っていたことを覚えているとか、頑張っている様子を見て肩を叩いて励ますといったことも存在承認です。「結論から話すようになった」とか「前よりよく調べてある」とか「時間通りに来ているね」などポジティブな行動をとったときに、褒めるでもなく、その行動を言葉に出して伝えます。これによって、この行動は承認されているのだと相手が感じることがあります。「〜〜はすごい成果だね」とか「〜〜はうまくできているね」といったように出来上がったものに対して、それを主観を込めて伝えるのが、成果承認です。これは「ほめる」に近いことですが、「ほめる」ことも承認の一部ですので、より広い範囲で承認を捉えることが重要です。メンティに対して意識を向けているというメッセージを伝えることが「承認」することにつながる。信頼と心理的安全性
「承認」の示し方傾聴 言葉 行動話を注意深くきき、その人の話を引き出すことは、それ自体がその人への「承認」です。逆に、話の途中で「わかった」と切り上げたり、意見を押し付けたりすることは承認されているという意識を阻害します。承認をしめす一番わかりやすいものは言葉をかけることです。挨拶であれ、「元気?」といった言葉であれ、言葉をかけることはすなわち承認を与える行為です。なかなかしづらいのが、「感謝を伝える」ということです。関わる中で、あるいは関係性の中で当然と思うようなことが出て来ても、それに対して相手に感謝を伝えましょう。何かをしてもらって、感謝すら伝えることができないのは、存在を認めていないのも同じです。上司部下の関係であれば、たとえば、権限の委譲や、給与や役職を上げるといったことも承認の一つになります。他にも、意見を聞きにくるや、助けを求めるといったことも承認になります。信頼と心理的安全性
YouメッセージとIメッセージYouメッセージ Iメッセージメッセージの中で、主語が「あなた」になっているものをYouメッセージと言います。「あなたは○○だね」という承認の形もありますが、場合によっては思っていることや効果が薄い場合があります。逆に、主語が「あなた」になっているために真意が伝わりにくく、攻めているようなニュアンスになってしまうことがあります。たとえば、「なんで、(あなたは)遅れたの?」と伝えた時に、言外に「なんで、説明もなく遅れて来たのか」と責めるようなニュアンスが伝わってしまうことがあります。これをIメッセージに変えることで、ニュアンスを変えることができます。Iメッセージは、主語を自分にしたメッセージです。先ほどの「なんで、(あなたは)遅れたの?」であれば、「連絡がなかったから、(私は)心配したよ」と伝えれば、責めるようなニュアンスは減ります。これによって、「心配させてしまったな」と考えるようになり、メンティは自分が承認されていると同時に、相手に心配をさせてしまったのだとこの行為を捉えるようになります。信頼と心理的安全性
怒りと悲しみの変換怒り 悲しみ人間の脳は、なにか自分や仲間が脅かされるであるとか、ぞんざいに扱われたと感じると、恐怖と感情を司る扁桃体が発火します。これによって、人間は自分自身を守るために、「怒り」を発生させ、相手に対する攻撃と防御を無意識に起こそうとします。これが、誤解を招く「Youメッセージ」の発生源です。「Iメッセージ」は自分の中に起きたことを説明することを意味しています。つまり、自分が脅かされたのかと心配した、であるとか、相手に何かあったのではないかと心配したというようにです。これは、ごく小さなレベルでも発生します。そのことを意識して、メッセージを変換していくと、自己開示と承認を相手に与えることができます。信頼と心理的安全性
ストーリーテリング3つのポイント自己開示 感情の共有 価値観の共有ストーリーテリングとは、自己開示の手法でもあります。メンティにメンターの人となりや人間性のようなものが伝わるように包み隠さず、苦労や思いを伝えることが重要です。それによって、信頼を獲得し、メンティ自身にも同じような問題を乗り越えられるのだという感覚を得てもらうことが重要です。それを強化するために、感情の共有が不可欠です。そのときは、「辛い」と思っていたとか「憎い」と思っていたといった感情を説明することで、メンティにとってもその話を自分ごととして理解することができ、話を深く聞こうとする姿勢を取ることができます。物語全体を通じて、伝えたい価値観をはっきりさせておくことが重要です。そして、それによって上手くいったという実体験によってメンティは、同じような価値観を持つことの重要性を理解し、現在の自身の問題に当てはめて感がようとします。信頼と心理的安全性ストーリーテリングとは、抽象的な「伝えたいこと」をわかりやすく理解してもらうために、実際にあった経験を物語として、相手に追体験をして、理解を深めてもらうために「語る」手法です。そのためには、メンティが追体験できるだけの事実関係と情緒的な情報が必要になります。ストーリーテリングとは
内心でなく行動に注目する
内心は見ることができないが、行動は見ることができる内心でなく行動に注目するメンターの役割は、自転車に乗るときの補助輪のようなものだと考えるといいでしょう。陥りがちなミスや手が止まりがちな仕事をうまく補助して進めていきます。このときに、避けるべきなのは「心構え」や「力不足」といったメンター自身が本来コントロールできないところに注目して、指導をする方法です。人の内心は、簡単には変えることができませんし、観測することができません。たとえば、メンターが「仕事に対する考えが甘い!」と怒ったとき、メンティが「これからは心を入れ替えてしっかりやります!」と言ったとします。果たしてこのとき、何か状況が変化したでしょうか。メンティは心を入れ替えたかもしれないし、入れ替えてないのに表面上嘘をついたかもしれません。つまりメンターはメンティの返答から何も情報が得られていないのです。行動 = 他者が見ることができる内心 = 他者が見ることができない
内心は見ることができないが、行動は見ることができる内心でなく行動に注目するそれは具体的な行動や、それが起こったら誰にでもわかるものです。つまり、互いに観測でき、見解がぶれないものに注目することが大事です。「仕事に対する甘さ」は、メンティの内心であり観測できません。メンターは、抽象的で、観測できない仕事上のポイントを明解な「観測できる行動」に砕いて伝えていく仕事です。メンターは何が、どうできていないことを「仕事に対する甘さ」と捉えたのでしょうか。それは、「メールでの確認が具体的でなく答えづらい」とか、「手が止まっている時間が長い」とか「動作確認をせずリリースした」とかもう少し具体的なことで、感じたはずです。そして、何ができている人はそれをしないのでしょうか。それを改善するためにとったら良い具体的な行動はなんでしょうか。それを考えて伝えることが必要です。行動 = 他者が見ることができる内心 = 他者が見ることができない
SMARTな行動
スマートな行動とは?内心でなく行動に注目するスマートな行動 スマートでない行動メンターとメンティがその行動を見て、「それが達成できている/できていない」といった評価が同じになるような行動をSMART化された行動であると言えます。この場合、できなかったことは、互いに承知できているので、どうすればできるようになるかを考えれば良いのです。逆に同じものを見て、片方ができているといい、片方ができていないというようなものはSMART化されていない行動と言えます。その場合、何が認識のズレを生み出したのかが問題であって、その行動自体を責めてはいけません。= ≠
わかった?は意味のない言葉内心でなく行動に注目する意味のない言葉 意味のある言葉たとえば、何かを説明して「わかった?」と聞きます。そのときに、メンティは「わかりました/わかりませんでした」と答えるとします。どちらにしても、わかったかわからないかは、メンティの頭の中にしかなく、必要な情報は得られません。それに対して、「ためしにこれをやってみて」と行動を促した場合、わかっている場合はできる/なにか誤解をしている場合はできないといった具合に、理解を確認することができます。これは、必要な情報が得られる質問であったためです。このように意味のある質問を行うことが重要です。質問 回答必要な情報質問 回答情報が得られない
能力は習慣の積分。習慣は行動の積分。内心でなく行動に注目する私がよく使う言葉として、「能力は習慣の積分だ」というものがあります。習慣とは行動が染みついたものなので、行動や習慣は外からでもコントロールできることです。一方、能力や成果といったものはコントロールできません。人の成長のサイクルは、上の図のような4つの事柄のループなのだと思います。習慣が能力に変われば、成果につながり、成果は自信となって次の行動を強化してくれます。メンターは、このコントロールできる部分にだけ注目していくことが重要です。また、会議などの議事をするファシリテーションにおいても、コントロールできるものに注目し、コントロールできないものを排除していくのは非常に重要です。綺麗に板書することがファシリテーションだと勘違いされがちですが、議論の流れを生産的にするためのフォーカスを作るのがファシリテーションの基本です。成果行動習慣能力
では、なぜ行動を起こせないのか?内心でなく行動に注目する行動の原理はフォースの非平衡 リインフォースある行動を継続的にとれるかとれないかを決定づけるのは、その人の中でどのような力学がはたらいているのかを理解する必要があります。ある行動が取れない時は、行動を促進する力よりも阻害する力の方が大きいからだと考えます。メンタリングの様々な活動を通じて、行動を促進する力を増やすことをリインフォースと言います。たとえば、良い行動を取った時にそれを「承認」したりすることで、その行動へのインセンティブを深めます。また、阻害する要因を取り除いてもいいでしょう。行動を促進する力行動を阻害する力 行動を促進する力行動を阻害する力