気液界面の密度プロファイルにtanhが現れる話。
127気液界面と自由エネルギー慶應義塾大学理工学部物理情報工学科渡辺
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227温度などを変えた時、ミクロな性質は変わらないまま、マクロな性質が大きく変化すること融解:氷→水沸騰:水→水蒸気どちらも、ある温度を境目に性質が大きく変化ただし、ミクロには水分子は何も変化していない融点、沸点など、相転移を起こす点をまとめて臨界点と呼ぶ
327融解はなんとなくわかる氷:くっついて動かない 水:自由に動く沸騰とはなんだろう?水:自由に動く(高密度) 水蒸気:自由に動く(低密度)
427沸騰は、非常に身近な相転移現象であり、工学応用上も重要しかし、ミクロにどのようなことが起きているかよくわかっていないミクロからマクロな振る舞いを知りたい統計力学
527原子が近づくと電子が相互作用をするこの時の電子状態まで考えるのが第一原理計算電子密度原子の距離から力を与えるポテンシャル関数を決めて計算するのが古典分子動力学法
627引力ほぼ相互作用なし斥力距離力数値計算で良く使われるLennard-Jonesポテンシャル近距離:斥力中距離:引力遠距離:相互作用なし
727もっと単純化(格子ガス模型)ひとつのセルに2つの原子は入れない近距離で斥力 中距離で引力 遠距離で相互作用無し-ε隣り合うとエネルギーがεだけ下がる隣接していないと相互作用なし
827原子がくっついている状態を液相、離れている状態を気相と呼ぶ気相液相LxLマスの中に2個だけ原子が入っている状態を考える
927ある状態のエネルギーをE、温度をTとすると、その状態の出現確率は以下に比例する𝑘𝐵exp(−𝛽𝐸) ボルツマン定数-εexp(𝛽𝜖)𝛽 = 1/𝑘𝐵𝑇逆温度液相(左)が出現する確率は気相(右)が出現する確率の倍 液相の出現確率の方が大きい
1027気相液相通り 通り液相が出現する確率 =2𝑉𝑒𝐾2𝑉𝑒𝐾 + 𝑉(𝑉 − 5)/2𝐾 = 𝛽𝜖周期境界条件V=L x Lの格子を考える2𝑉 𝑉 𝑉 − 12− 2𝑉
1127状態の数は気相の方が多い気相液相2𝑉 𝑉 𝑉 − 12− 2𝑉状態数L=3の時 18 18L=10の時 200 4750L=20の時 800 79000
1227液相の出現確率温度が低い4x4マスに2原子の場合温度が高い2𝑉𝑒𝐾2𝑉𝑒𝐾 + 𝑉(𝑉 − 5)/2𝐾
132720x20マスに2原子の場合液相気相サイズが大きくなるほど、原子が増えるほど、「確率の入れ替わり」が急峻に→相転移温度が低い温度が高い𝐾液相の出現確率
1427気相液相一つ一つの出現確率は高いが、総数が少ない→エネルギー重視一つ一つの出現確率は低いが、総数が多い→エントロピー重視
1527𝐹 = 𝑈 − 𝑇𝑆ヘルムホルツの自由エネルギーエネルギーとエントロピーをまとめて扱う自然は自由エネルギーを最小にする状態を好む低温:エネルギー重視(秩序相)高温:エントロピー重視(無秩序相)
1627系は自由エネルギーを最小にする状態を好む低密度相(気相)と高密度相(液相)が存在する「自由エネルギーを最小にする密度」が存在する自由エネルギーが密度の関数で書けるはず
1727自由エネルギー密度低温の時液相(高密度相)高温の時気相(低密度相)自由エネルギー密度
1827自由エネルギーはこんな形になっていそう𝐹 𝜌 = 𝑎𝜌4 − 𝑏𝜌2※変数変換で奇数次を落としているb>0の時密度極小点は一つ気相と液相の区別はなくなるb<0の時極小点が2つ→気相と液相(超臨界状態)自由エネルギーの微分がゼロとなる点が平衡状態
1927系の示強変数が空間的に一様で、時間的に変化しない状態を平衡状態と呼ぶ気液共存状態温度、圧力、化学ポテンシャルは空間的に一様だが、密度が非一様空間的に非一様な密度を自由エネルギーで論じたい→局所自由エネルギーの導入
2027自由エネルギーが局所自由エネルギーの積分で書けるとする𝐹 𝑓 = ∫ 𝑓 𝑥 𝑑𝑥局所自由エネルギーが、局所密度の関数になっていると仮定𝑓 𝜌(𝑥)密度の全系にわたる積分が粒子数𝑁 = න0𝐿𝜌𝑑𝑥
2127𝑓 𝜌 = 𝑎𝜌4 − 𝑏𝜌2局所自由エネルギーもこう書けてると仮定𝐹 𝜌 を極小化する密度分布はステップ関数になる𝑥𝜌𝜌𝑓
2227𝑓 𝜌 = 𝑎𝜌4 − 𝑏𝜌2 + 𝑐2𝑑𝜌𝑑𝑥2𝑥𝜌密度が急激に変わるのは非物理的密度変化に対するペナルティ項を追加
2327最終的に自由エネルギーは以下のようになった𝐹 𝜌 = න 𝑎𝜌4 − 𝑏𝜌2 + 𝑐2𝑑𝜌𝑑𝑥2𝑑𝑥一般に、自由エネルギー密度を局所秩序変数φの関数として𝐹 𝜙 = න 𝑎𝜙4 − 𝑏𝜙2 + 𝑐2𝑑𝜙𝑑𝑥2𝑑𝑥と表すことが多い。これをφ4 (ファイフォー)模型と呼ぶ自由エネルギーの変分がゼロとなる点が平衡状態
2427𝛿𝐹 = 4𝑎𝜙3𝛿𝜙 − 2𝑏𝜙𝛿𝜙 + 2𝑐2𝜙′𝛿𝜙′𝐹 𝜙 = න 𝑎𝜙4 − 𝑏𝜙2 + 𝑐2𝑑𝜙𝑑𝑥2𝑑𝑥変分をとる部分積分𝛿𝐹 = 4𝑎𝜙3𝛿𝜙 − 2𝑏𝜙𝛿𝜙 − 2𝑐2𝜙′′𝛿𝜙= 4𝑎𝜙3 − 2𝑏𝜙 − 2𝑐2𝜙′′ 𝛿𝜙=0
25272𝑐2𝑑2𝜙𝑑𝑥= 4𝑎𝜙3 − 2𝑏𝜙a = 1/2, b = 2の時𝑐2𝑑2𝜙𝑑𝑥= 𝜙3 − 2𝜙𝜙 𝑥 = tanh(𝑐(𝑥 − 𝑥𝑐))この常微分方程式の解はこれを「キンク解」と呼ぶ※変数変換で係数を落とせる𝑁 = න0𝐿𝜙𝑑𝑥𝑥𝑐 は以下の条件から決まる
2627𝜌 𝑧 = tanh𝑥 − 𝑥𝑐𝜆𝐹 𝜙 = න 𝑎𝜙4 − 𝑏𝜙2 + 𝑐2𝑑𝜙𝑑𝑥2𝑑𝑥x密度𝜆 = 1/𝑐𝜆c:界面張力の強さλ:界面の幅の長さ
2727相転移とは何か?エネルギーを重視する相(秩序相)と、エントロピーを重視する相(無秩序相)の競合自由エネルギーとは何か?それが極小となる点において平衡状態が実現するもの界面がtanhになるのはなぜか?2つの極小値を持ち、かつ密度勾配にペナルティがある局所自由エネルギーの変分を取って出てくる微分方程式の解だから