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気液界面と自由エネルギー / Gas Liquid Surface

気液界面と自由エネルギー / Gas Liquid Surface

気液界面の密度プロファイルにtanhが現れる話。

kaityo256
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January 13, 2022
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  1. 1
    27
    気液界面と自由エネルギー
    慶應義塾大学理工学部物理情報工学科
    渡辺

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  2. 2
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    温度などを変えた時、ミクロな性質は変わらないまま、
    マクロな性質が大きく変化すること
    融解:氷→水
    沸騰:水→水蒸気
    どちらも、ある温度を境目に性質が大きく変化
    ただし、ミクロには水分子は何も変化していない
    融点、沸点など、相転移を起こす点をまとめて
    臨界点と呼ぶ

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  3. 3
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    融解はなんとなくわかる
    氷:くっついて動かない 水:自由に動く
    沸騰とはなんだろう?
    水:自由に動く(高密度) 水蒸気:自由に動く(低密度)

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  4. 4
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    沸騰は、非常に身近な相転移現象であり、
    工学応用上も重要
    しかし、ミクロにどのようなことが
    起きているかよくわかっていない
    ミクロからマクロな振る舞いを知りたい
    統計力学

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  5. 5
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    原子が近づくと電子が相互作用をする
    この時の電子状態まで考えるのが第一原理計算
    電子密度
    原子の距離から力を与えるポテンシャル関数を
    決めて計算するのが古典分子動力学法

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  6. 6
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    引力
    ほぼ相互作用なし
    斥力
    距離

    数値計算で良く使われるLennard-Jonesポテンシャル
    近距離:斥力
    中距離:引力
    遠距離:相互作用なし

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  7. 7
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    もっと単純化(格子ガス模型)
    ひとつのセルに
    2つの原子は入れない
    近距離で斥力 中距離で引力 遠距離で
    相互作用無し

    隣り合うとエネルギーが
    εだけ下がる
    隣接していないと
    相互作用なし

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    原子がくっついている状態を液相、離れている状態
    を気相と呼ぶ
    気相
    液相
    LxLマスの中に2個だけ原子が入っている状態を考える

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    ある状態のエネルギーをE、温度をTとすると、
    その状態の出現確率は以下に比例する
    𝑘𝐵
    exp(−𝛽𝐸) ボルツマン定数

    exp(𝛽𝜖)
    𝛽 = 1/𝑘𝐵
    𝑇
    逆温度
    液相(左)が出現する確率は気相(右)が出現する確率の
    倍 液相の出現確率の方が大きい

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    気相
    液相
    通り 通り
    液相が出現する確率 =
    2𝑉𝑒𝐾
    2𝑉𝑒𝐾 + 𝑉(𝑉 − 5)/2
    𝐾 = 𝛽𝜖
    周期境界条件
    V=L x Lの格子を考える
    2𝑉 𝑉 𝑉 − 1
    2
    − 2𝑉

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    状態の数は気相の方が多い
    気相
    液相
    2𝑉 𝑉 𝑉 − 1
    2
    − 2𝑉
    状態数
    L=3の時 18 18
    L=10の時 200 4750
    L=20の時 800 79000

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  12. 12
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    液相の出現確率
    温度が低い
    4x4マスに2原子の場合
    温度が高い
    2𝑉𝑒𝐾
    2𝑉𝑒𝐾 + 𝑉(𝑉 − 5)/2
    𝐾

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    20x20マスに2原子の場合
    液相
    気相
    サイズが大きくなるほど、原子が増えるほど、「確率
    の入れ替わり」が急峻に→相転移
    温度が低い
    温度が高い
    𝐾
    液相の出現確率

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  14. 14
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    気相
    液相
    一つ一つの出現確率は高いが、
    総数が少ない
    →エネルギー重視
    一つ一つの出現確率は低いが、
    総数が多い
    →エントロピー重視

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    𝐹 = 𝑈 − 𝑇𝑆
    ヘルムホルツの自由エネルギー
    エネルギーとエントロピーをまとめて扱う
    自然は自由エネルギーを最小にする状態を好む
    低温:エネルギー重視(秩序相)
    高温:エントロピー重視(無秩序相)

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    系は自由エネルギーを最小にする状態を好む
    低密度相(気相)と高密度相(液相)が存在する
    「自由エネルギーを最小にする密度」が存在する
    自由エネルギーが密度の関数で書けるはず

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    自由エネルギー
    密度
    低温の時
    液相(高密度相)
    高温の時
    気相(低密度相)
    自由エネルギー
    密度

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    自由エネルギーはこんな形になっていそう
    𝐹 𝜌 = 𝑎𝜌4 − 𝑏𝜌2
    ※変数変換で奇数次を落としている
    b>0の時
    密度
    極小点は一つ
    気相と液相の区別はなくなる
    b<0の時
    極小点が2つ
    →気相と液相
    (超臨界状態)
    自由エネルギーの微分がゼロとなる点が平衡状態

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    系の示強変数が空間的に一様で、時間的に変化しない
    状態を平衡状態と呼ぶ
    気液共存状態
    温度、圧力、化学ポテンシャルは
    空間的に一様だが、密度が非一様
    空間的に非一様な密度を自由エネルギーで論じたい
    →局所自由エネルギーの導入

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    自由エネルギーが局所自由エネルギーの積分で書けるとする
    𝐹 𝑓 = ∫ 𝑓 𝑥 𝑑𝑥
    局所自由エネルギーが、局所密度の関数になっていると仮定
    𝑓 𝜌(𝑥)
    密度の全系にわたる積分が粒子数
    𝑁 = න
    0
    𝐿
    𝜌𝑑𝑥

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    𝑓 𝜌 = 𝑎𝜌4 − 𝑏𝜌2
    局所自由エネルギーもこう書けてると仮定
    𝐹 𝜌 を極小化する密度分布はステップ関数になる
    𝑥
    𝜌
    𝜌
    𝑓

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  22. 22
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    𝑓 𝜌 = 𝑎𝜌4 − 𝑏𝜌2 + 𝑐2
    𝑑𝜌
    𝑑𝑥
    2
    𝑥
    𝜌
    密度が急激に変わるのは
    非物理的
    密度変化に対するペナルティ項を追加

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  23. 23
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    最終的に自由エネルギーは以下のようになった
    𝐹 𝜌 = න 𝑎𝜌4 − 𝑏𝜌2 + 𝑐2
    𝑑𝜌
    𝑑𝑥
    2
    𝑑𝑥
    一般に、自由エネルギー密度を局所秩序変数φの関数として
    𝐹 𝜙 = න 𝑎𝜙4 − 𝑏𝜙2 + 𝑐2
    𝑑𝜙
    𝑑𝑥
    2
    𝑑𝑥
    と表すことが多い。これをφ4 (ファイフォー)模型と呼ぶ
    自由エネルギーの変分がゼロとなる点が平衡状態

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  24. 24
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    𝛿𝐹 = 4𝑎𝜙3𝛿𝜙 − 2𝑏𝜙𝛿𝜙 + 2𝑐2𝜙′𝛿𝜙′
    𝐹 𝜙 = න 𝑎𝜙4 − 𝑏𝜙2 + 𝑐2
    𝑑𝜙
    𝑑𝑥
    2
    𝑑𝑥
    変分をとる
    部分積分
    𝛿𝐹 = 4𝑎𝜙3𝛿𝜙 − 2𝑏𝜙𝛿𝜙 − 2𝑐2𝜙′′𝛿𝜙
    = 4𝑎𝜙3 − 2𝑏𝜙 − 2𝑐2𝜙′′ 𝛿𝜙
    =0

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  25. 25
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    2𝑐2
    𝑑2𝜙
    𝑑𝑥
    = 4𝑎𝜙3 − 2𝑏𝜙
    a = 1/2, b = 2の時
    𝑐2
    𝑑2𝜙
    𝑑𝑥
    = 𝜙3 − 2𝜙
    𝜙 𝑥 = tanh(𝑐(𝑥 − 𝑥𝑐
    ))
    この常微分方程式の解は
    これを「キンク解」と呼ぶ
    ※変数変換で係数を落とせる
    𝑁 = න
    0
    𝐿
    𝜙𝑑𝑥
    𝑥𝑐 は以下の条件から決まる

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    𝜌 𝑧 = tanh
    𝑥 − 𝑥𝑐
    𝜆
    𝐹 𝜙 = න 𝑎𝜙4 − 𝑏𝜙2 + 𝑐2
    𝑑𝜙
    𝑑𝑥
    2
    𝑑𝑥
    x
    密度
    𝜆 = 1/𝑐
    𝜆
    c:界面張力の強さ
    λ:界面の幅の長さ

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    相転移とは何か?
    エネルギーを重視する相(秩序相)と、エントロピー
    を重視する相(無秩序相)の競合
    自由エネルギーとは何か?
    それが極小となる点において平衡状態が実現する
    もの
    界面がtanhになるのはなぜか?
    2つの極小値を持ち、かつ密度勾配にペナルティ
    がある局所自由エネルギーの変分を取って出てく
    る微分方程式の解だから

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