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2025/6/21 日本学術会議公開シンポジウム発表資料

2025/6/21 日本学術会議公開シンポジウム発表資料

AIを用いた集団スポーツのデータ解析
2025/6/21 日本学術会議公開シンポジウム
「スポーツとは何か ~スポーツを取り巻く情報とテクノロジー~」

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Keisuke Fujii

June 20, 2025
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Transcript

  1. 自己紹介: 藤井 慶輔(ふじい けいすけ) 2 対人動作分析(2012) 立命館大学にて計測 半面での5対5 (2015) 東海大学にて計測

    年 所属 対象 2008-14 京大人環 個人・対人運動 (1対1)を計測・分析 NBAのゲームデータ (SportVU) 2014-17 名大保体 センター (学振PD) 集団運動(1対1 ~多対多) を計測・分析 2017-19 理研AIP (研究員) 集団運動 (提供されたデータを利用) 画像処理でデータ取得も 2019- 名大情報 (助教) 2021- 同上 准教授 研究室では様々な 競技を研究:サッカー、 バスケ、野球、バレー、 ハンド、陸上、 フィギュアスケートなど
  2. AIのスポーツ応用の例 本日の話 • 最先端の研究では何ができるか? • そのメリットとデメリットは? • どのようにしたら実現できるか? サッカーのオフサイド判定 野球のロボット審判

    最近のテレビ出演: • Tokyo MX 堀潤モーニングFLAG出演 AI活用のメリット・デメリット(2024/8/21) • ABEMA Prime、取材映像出演 AI審判への期待(2024/8/29) (※以降のイラストはいらすとやから) 3
  3. スポーツ審判AIを4つに分類 5 認識系の例: テニス・バレー・卓球など 評価系の例: 体操の採点 空間系の例: 野球のロボット審判など 対人(接触)反則系は難しく、 議論になりやすい…

    AIが競技のルールに 合わせられる AIの答えと人間の感覚 が一致しない場合がある (AI側が大きく改善するか ルールを変える必要がある)
  4. AI活用のメリット・デメリット(審判) メリット • 正確性・公平性・一貫性の観点からプラスになることが期待 • 人や場所の制限を受けない、判断の根拠も説明できる • ライン判定など、基準が明確なケースではAIを優先するとメリット大 • 低コストで利用できれば、競技の普及が進む?

    デメリット • 判定の早さはAI/人間だけなら問題ないが、両者の合議判定は遅い • 人間の感覚と異なる判定になることも(野球など) • スポーツそのものが変わってしまうことも • 人間がプレーするので、人間が楽しめるような制度設計が大事 • 人間も評価が難しい動きなど、どちらの判定を優先するか? 審判に限らず、選手強化への活用も期待(次の話) 6
  5. スポーツのデータ解析の前提 • スポーツ動作は感覚で行わ れる。試行錯誤して上手く なっていくが、その過程はわ かっていないことの方が多い 9 赤がNeymar選手(NHKの撮影協力) • 身体内部の感覚なので、一般的に言語化するのが難しい

    • 同じ説明を聞いてすぐにできる人もいれば、そうでない人もいる。 • 技術的な問題、体力的な問題、メンタル的な問題など様々 • そのあたりを総合的に深く理解した指導者・コーチに出会える と運動がうまくなることが多い • そういう人がどこにでもいるわけではないので、それも課題 • 今は映像にアクセスしやすくなったが、今後は定量化・可視化したい
  6. スポーツ戦術の評価とそれにまつわる問題 10 勝敗や得点などの結果はすぐに手に入り、理解できる 例えば、以下について知ることが難しい(が知りたい): • その結果はどのように定量的に説明・評価できるか? • 次のゲームではどのようにプレーしたら良いか? 問題: 基本的に正解(最善)がない

    • 正解のプレーをされても、その裏をかけば優位になる • 経験豊富なコーチ/選手なら良さそうな戦術を選択できる? • なんとなくそんな気もするが、主観や結果論かもしれない • 共通理解できる基準(数値)で評価できないか? • まずはデータの収集が必要(できれば自動で)
  7. 2. 姿勢推定 14 フィギュアスケート3D姿勢を初公開 [Tanaka+24, MMSports] サッカーのシュート時の 単眼3D姿勢推定と分析 データセットも初公開 [Yeung+24,

    CVSports] 動的かつ複雑な動作、データセットの少なさが課題 集団スポーツには遮蔽の問題もある SoccerNet datasetでの姿勢推定
  8. 課題②機械学習を用いた予測による評価 多くの場合… シュートやアシストなどの結果を収集して分析する 1. 結果論になりがち、その過程がわからない • 過程の動きは多様すぎて、可視化しても理解しにくい (例: ヒートマップ) 2.

    別のプレーを選択した時の結果がわからない • 1つの結果を予測するだけなく、複数のシナリオを 予測する必要がある 必要なこと 1. 行動ごとに、将来の結果予測に基づいて評価する 2. 選手の動き自体を予測して、複数のシナリオを作る 18
  9. 結果例: J1 2019 横浜FMのC-OBSOと年俸*との関係 • C-OBSOと年俸は正の相関(𝜌 = 0.45, 𝑝 <

    0.05)だがOBSOは相関なし • C-OBSO-年俸の外れ値は、(最)優秀選手賞を受賞 C-OBSOは選手の総合評価(年俸,個人賞)を説明できる可能性あり 20 *1 Soccer-Money.net https://soccer-money.net (アクセス日2021/1/9) 優秀選手賞 最優秀選手賞 [Teranishi+22, MLSA]
  10. より戦術的なモデル化:強化学習 23 Google Research Football (2019) 強化学習: 現在の状態から、報酬に基づき取るべき行動を決定 エージェント (方策

    𝜋) 状態 𝑠 行動 𝑎 報酬 𝑅 環境・他者 • 最近研究が増えているが、アルゴリズムの 改善がメインで、実データとの関連が議論 されていない • シミュレータの仕組みを上手く使って、実際 のサッカー選手の選手評価に利用したい (次の[Nakahara+23, IEEE Access])
  11. どうしたらAIの恩恵を受けられる未来を実現できるか? 今後の課題 • 今は資金のある大会やリーグのみデータや技術が利用できるので、 多くの人が利用できるようにすることが必要 • 多くの人にとっては、映像はあるがデータやその先の分析ができない • トップ層も、情報が秘匿されすぎて技術交流が少なく発展しない •

    科学・技術の民主化と発展のためには、秘匿すべき情報は守りつつ、 オープンサイエンスを実現することが必要 26 • 将来的には将棋のように 人間より強く、良い戦術を 提案したり、正確に評価が できるようになりそう • ただし現状は実現が難しい 構造になっている (※図はいらすとや)
  12. オープンサイエンスとは? • 科学研究プロセスや成果を広く公開・共有する取り組み • データやコード、方法論の共有 • 成果物(論文、報告書など)への自由なアクセス • 主な目的 •

    透明性と再現性の向上、知識の迅速な拡散・共有 • コミュニティ内での相互検証や協力促進 • 期待される成果 • 科学的発見の効率的な促進、研究資源の効果的な活用 • 新たな研究テーマや共同研究の創出 • スポーツの課題に向けた私たちの取り組み 必ずしもデータを公開する必要はない! ① 解析プログラムをオープンにしたプラットフォームを発表 ② コンペティションやイベントの開催など技術交流を増やす取り組み 27
  13. その他の懸念点とその対処 • データの扱い: 取り扱い規則に従う、データは出さない • 選手個人情報: FIFA指針や英サッカー協会GDPRなど • リソース不足: チーム・リーグ・教育機関等で人材循環を

    まとめ • 今できなくても、AIで可能になることは数多くある • 様々な立場が絡む構造的課題も、解決する必要がある • AIの恩恵を誰もが受けられる未来を、一緒に創りましょう! 最後に https://link.springer.com/book/ 10.1007/978-981-96-1445-5 気軽にご連絡ください mail: [email protected] X(twitter): @keisuke_fj スポーツAIの未来を 書いた書籍(無料) もご覧ください! 本日の資料も こちらから 30