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Replication crisis in psychology, and recent pr...

Ken
September 15, 2018

Replication crisis in psychology, and recent progress in resolving the “social dilemma”

Ken

September 15, 2018
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  1. Open Science Collaboration (2015, Science) 3  心理学のトップジャーナル3誌に2008年以降刊行され た100の研究を,世界各国の270人の研究者が追試 

    Psychological Science,Journal of Personality and Social Psychology,Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition 元論文 追試 元論文 追試 p値 (p value) 効果量(effect size) 有意の割合 97%→36% 半減 doi: 10.1126/science.aac4716
  2. 経済学では? 5  “It is like a grade of B+

    for psychology versus A– for economics.” 経済学 心理学 Camerer et al. (2016). Evaluating replicability of laboratory experiments in economics. Science, 351, 1433-1436. doi: 10.1126/science.aaf0918
  3. 構造的な問題の一つとして, 統計的検定のあり方に再考が迫られた 6 ATLAS Collaboration (2012) Observation of a new

    particle in the search for the Standard Model Higgs boson with the ATLAS detector at the LHC Physics Letter B, 716, 1-29. http://dx.doi.org/10.1016/j.physletb.2012.08.020
  4. Bem (2011, J Pers Soc Psy)  どちらかのカーテンの背後には画像があり,どちらかには 何もない。画像がある方を当ててほしい 

    手続きを変えて実験を9個行い,うち8個で「有意な」結 果を得ているが,たとえば実験1は:  N=100, 1人あたり36試行  (性的な画像12試行, ネガティブな画像12試行, 中立画像12試行)  結果,性的な画像の時だけチャンスレベルを超える 53.1%の正答率 ( t(99)=2.51, p=.01, d=.25) 8
  5. Wagenmakers & Lee (2013, Cambridge U Press)  Bem (2011,

    JPSP)の論文は「統計的に有意になる までデータ収集を繰り返した」可能性がある 9 Bem (2011, JPSP)の実験1~9における効果量とサンプルサイズとの関係 サンプルサイズ 効果量 両者の相関係数 (の事後分布) (Lee & Wagenmakers, 2013 井関訳, 2017 ベイズ統計で実践モデリング 北大路書房) (南風原, 2002)
  6. Simmonsら(2011, Pscych Sci)の実験 11  ペンシルバニア大学の2034名の学生に,“When I’m sixty- four”または”Kalimba”または”Hot Potato”を聴かせた。参加

    者10名が集まるごとに統計解析を実行した。事前にデータ 収集をどのタイミングで終えるのかについては決めていな かった。さらに,無関係な別の課題として,本人の生年月 日に加えて,何歳ぐらいだと自分で感じているか,食事が 楽しいと感じる程度,100の平方根,”コンピュータは複雑 な機械だ”と思う程度,父親の年齢,母親の年齢,早期割 引を使うかどうか,政治的志向,カナダ人クォーターバッ クのうち誰が賞をとると考えているか,昔のことを”古き よき日々”だと感じる程度,そして性別を尋ねた。参加者 のばらつきを統制するために,父親の年齢を使用した。….  結果,“When I’m sixty-four”群はKalimba”群よりも年齢が 有意に若かった。この曲を聴くと若返る??? Simmons, Nelson, & Simonsohn (2011). False-positive psychology: Undisclosed flexibility in data collection and analysis allows presenting anything as significant. Psychological Science, 22, 1359-1366. doi: 10.1177/0956797611417632 樋口匡貴・藤島喜嗣(2018).アスタリスク~真実の石を求め(すぎ)て ヒューマンインタフェース学会誌,20, 12–16. https://osf.io/zua7d
  7. Simmonsら(2011, Pscych Sci)の実験 12  ペンシルバニア大学の2034名の学生に,“When I’m sixty- four”または”Kalimba”または”Hot Potato”を聴かせた。参加

    者10名が集まるごとに統計解析を実行した。事前にデータ 収集をどのタイミングで終えるのかについては決めていな かった。さらに,無関係な別の課題として,本人の生年月 日に加えて,何歳ぐらいだと自分で感じているか,食事が 楽しいと感じる程度,100の平方根,”コンピュータは複雑 な機械だ”と思う程度,父親の年齢,母親の年齢,早期割 引を使うかどうか,政治的志向,カナダ人クォーターバッ クのうち誰が賞をとると考えているか,昔のことを”古き よき日々”だと感じる程度,そして性別を尋ねた。参加者 のばらつきを統制するために,父親の年齢を使用した。….  結果,“When I’m sixty-four”群はKalimba”群よりも年齢が 有意に若かった。この曲を聴くと若返る??? Simmons, Nelson, & Simonsohn (2011). False-positive psychology: Undisclosed flexibility in data collection and analysis allows presenting anything as significant. Psychological Science, 22, 1359-1366. doi: 10.1177/0956797611417632 樋口匡貴・藤島喜嗣(2018)アスタリスク~真実の石を求め(すぎ)て ヒューマンインタフェース学会誌,20, 12–16. https://osf.io/zua7d
  8. p-hacking  心理学の研究論文における(従来において)一般的な 報告の基準を満たしつつ,p値を小さくすることを意 図する操作  結果を見ながら参加者を少しずつ足して検定を繰 り返し,有意になったところでとめる  多くの説明変数・共変量を用いて分析を行い,有

    意になったものだけを報告する  行った条件や測定した変数の一部だけを報告する  p値を切り捨てて報告する などなど  従来の研究慣習において,論文中に書かれない研究者 の自由度(researchers’ degrees of freedom)が大きいこ とによる 13
  9. Masicampo & Lalande (2012, Quart J Exp Psych)  Journal

    of Experimental Psychology: General, Journal of Personality and Social Psychology,Psychological Science の3 誌で2007年から2008 年の間に報告された p値を集計 14
  10. Legget et al. (2013, Quart J Exp Psych) 15 

    2誌における1965年と2005年の比較
  11. p値についてのアメリカ統計学会声明 (2016)  p値は何でないか?  0 が正しい確率ではない  データが偶然得られた確率ではない 

    科学的もしくは実社会の決定は,統計的有意性の みに基づいて行われるべきではない  有意になったもののみだけでなく,すべての結果 を報告する透明性が必要  p値や有意性は,効果の大きさや結果の重要性を表 すわけではない  p値だけでは,モデルや仮説についてのエビデンス のよい指標とはならない 19 岡田謙介 (2017) ASA声明とこれからの統計学の使われ方. 社会と調査,19, 88-93. 日本計量生物学会による翻訳 http://www.biometrics.gr.jp/news/all/ASA.pdf
  12. QRPs (Questionable Research Practices)  有意になるまでサンプルサイズを増加させる  測定・分析した変数のうち一部だけを報告する  結果を見てから作った仮説を,あたかもデータ収集前

    からあったかのように報告する(HARKing; Hypothesizing After the Results are Known) といった,現代の観点からは問題のある研究・報告にお ける実践のこと  第1種の誤りの確率を増加させてしまう  Bem (1987)などに見られるように,以前は問題な いと認識されていたり,むしろ推奨されてさえい たりした(池田・平石, 2016) 20 (John, Loewenstein, & Prele, 2012) John, L. K., Loewenstein, G., & Prelec, D. (2012). Measuring the prevalence of questionable research practices with incentives for truth telling. Psychological Science, 23, 524–532. doi: 10.1177/0956797611430953 池田功毅・平石界 (2016). 心理学における再現可能性危機:問題の構造と解決策. 心理学評論, 59, 3-14.
  13. QRPs (Questionable Research Practices) 21 (John, Loewenstein, & Prele, 2012)

    John, L. K., Loewenstein, G., & Prelec, D. (2012). Measuring the prevalence of questionable research practices with incentives for truth telling. Psychological Science, 23, 524–532. doi: 10.1177/0956797611430953 池田功毅・平石界 (2016). 心理学における再現可能性危機:問題の構造と解決策. 心理学評論, 59, 3-14.
  14. 心的回転 (Shepard & Metzler, 1971, Science)を例に 22 仮説検定・p値だけが問題ではない Okada, K.

    & Hoshino, T., (2017). Researchers’ choice of the number and range of levels in experiments affects the resultant variance-accounted-for effect size. Psychonomic Bulletin & Review, 24, 607-616. https://doi.org/10.3758/s13423-016-1128-0 (Okada & Hoshino, 2017)
  15.  図形の回転角度(要因,独立変数)が,反応時間(従 属変数)にあたえる影響を調べる  要因の効果の大きさを分散 説明率の効果量2で評価する  実験用プログラムでは0度 と60度が回転角度の既定値 (水準の範囲)となっている

     回転角度と反応時間は線形  水準数を増やす場合には範 囲内で水準の等間隔性を保つ 問1 期待される効果量2を大きくするためには,研究者 は実験の水準数を増やすべきか? 問2 水準の範囲も操作できる(上限を60度から変更でき る)ときならどうか? 23 要因の分散 2 誤差分散 2 効果量2 = 2 2 + 2 Okada, K. & Hoshino, T., (2017). Researchers’ choice of the number and range of levels in experiments affects the resultant variance-accounted-for effect size. Psychonomic Bulletin & Review, 24, 607-616. https://doi.org/10.3758/s13423-016-1128-0
  16.  実験水準数の操作だけで,分散説明率の効果量の期待値 を何倍にもできる;つまり,「効果量ハッキング」もで きてしまう。  1つの基準だけに大きく依存してしまうことの問題 効果量ハッキング(effect-size hacking) 24 実験の水準数

    効果量 の期待値 Okada, K. & Hoshino, T., (2017). Researchers’ choice of the number and range of levels in experiments affects the resultant variance-accounted-for effect size. Psychonomic Bulletin & Review, 24, 607-616. https://doi.org/10.3758/s13423-016-1128-0
  17. 再現性の問題は社会的ジレンマ  再現性の問題は,「しくみの問題」という側面がある  “Publish or Perish”の世界で,とくに若手研究者に とっては,従来の研究慣習上,不正とは言えない 程度の操作(p-hackingやHARKing)で「新規な」 論文が出版できれば評価につながる

     逆に,追試研究は新規性に乏しいために評価され ず,論文としても出版されにくかった  社会的ジレンマ:研究者個々人が「合理的な」行動を とると,研究コミュニティ全体にとって望ましくない 結果になる(再現できない結果が増え,研究界への信 頼が揺らぐ)  ジレンマ解消のためには新しい「しくみ」が必要 25 Everett & Earp (2015). A tragedy of the (academic) commons: interpreting the replication crisis in psychology as a social dilemma for early-career researchers. Frontiers in Psychology, 6:1152. doi: 10.3389/fpsyg.2015.01152 (Everett & Earp, 2015)
  18. 新しい研究のしくみ  オープンデータ・オープンマテリアル:生データや研 究素材(調査票,実験刺激等)の公開を評価・出版する  研究の透明性を上げ,QPRsの可能性を減らす  事前登録された研究を評価・出版する  再現研究を評価・出版する

     有意性検定・p値への過度な依存をやめる  Basic and Applied Social Psychology誌:検定・p値 の報告を禁止(2015)  ベイズ統計学の再評価  オープンサイエンスを実践する研究は,出版以外にも, たとえば被引用数の増加という形で著者にもメリット がある 26
  19. ベイズ的t検定 (Rouder et al., 2009) 27 データ = {−1.7, 1.6,

    0.3, −0.5, 0.3, 0.2, −0.2, −0.9, 0.8, 0.5} 図: 岡田謙介(2018)ベイズファクターによる心理学的仮説・モデルの評価 心理学評論,61, 101-115. http://team1mile.com/sjpr61-1/okada.pdf Rouder et al. (2009) Bayesian t tests for accepting and rejecting the null hypothesis. Psychonomic Bulletin & Review, 16, 225-237. https://doi.org/10.3758/PBR.16.2.225 27
  20.  事前の検定力分析・標本サイズ決定方式・効果量と 95%信頼区間の報告などを推奨  補正のない多重検定の禁止  結果を見てデータ収集を停止すること,収集した項 目・データのうち一部だけ報告することの禁止  方法・結果についての字数制限の撤廃

     データ公開,マテリアル公開,教示等の正確な報告  帰無仮説検定以外の統計分析の受け入れ  事前登録,追試の推奨 などなど 主要学会・論文誌の対応 28 (池田・平石, 2016) 池田功毅・平石界 (2016). 心理学における再現可能性危機:問題の構造と解決策. 心理学評論, 59, 3-14.
  21. 研究の事前登録(pre-registration)  仮説  方法  デザイン(独立変数・従属変数・共変量)  サンプル・除外基準 

    分析計画  用いる変数  統計分析法 31 van't Veer & Giner-Sorolla (2016). Pre-registration in social psychology—A discussion and suggested template. Journal of Experimental Social Psychology, 67, 2-12. https://doi.org/10.1016/j.jesp.2016.03.004 https://osf.io/t6m9v/
  22. 和文誌の動き  心理学の和文誌では厳しいページ数制限があることが 多く,再現可能性を高めるために詳細な記述を求める 動きとは矛盾する  査読が必要以上に厳しくなってしまう一因ではないか ↔ 方法・結果のセクションは文字数にカウントしな い(英文誌に多くみられる)

     紙での出版を基準とする限り費用負担との問題が生じ てしまうが,オンライン公開を活用すればOpen Science Framework やJ-STAGE電子付録(追加費用な し)が利用できる  「著者Webページで公開」の例もあるが,URL変更 の可能性や透明性(変更履歴が残る)の観点から 外部Webサイトが望ましい 38
  23. 和文誌の動き  『基礎心理学研究』誌  J-STAGE上の機能を利用して,2016年より,電子付録 (supplementary material)の掲載可に (村上, 2017) 

    『実験社会心理学研究』誌  2017年より「研究に用いた調査票,動画,音声,高解 像度の写真,ローデータなど,本文と図表に含めるの は困難な資料や,審査の際に有用な資料を,付録とし て添付することができる」(三浦, 2018)  『パーソナリティ研究』  再現性問題に関するエディトリアル準備中,追試研 究・事前登録研究の掲載を検討中(渡邊, 2018)  『心理学研究』 電子付録coming soon…? 39 村上郁也(2017). 学会誌『基礎心理学研究』改善に向けての取り組み. 基礎心理学研究, 36, 1-2. https://doi.org/10.14947/psychono.36.9 三浦麻子(2018). 心理学におけるオープンサイエンス 心理学評論, 61, 3-12. http://team1mile.com/sjpr61-1/miura.pdf 渡邊芳之(2018). 和文学会誌は再現性問題にどのように立ち向かうか. 2018年度第1回基礎心理学フォーラム https://researchmap.jp/?action=cv_download_main&upload_id=162978
  24. 「再現性」の構成要素  再生性(reproducibility):他の研究者が,同じデー タで同じ分析をして同じ結果を出せること  再現性(replicability):他の研究者が,同じ研究方法 による研究を行って同じ結果を出せること  頑健性(robustness):異なる条件・サンプルで同種 の研究をして同じ結論に辿りつけること

     一般化可能性(generalizability):大きく異なる設 定・文脈下で同じ結論に辿りつけること 40 Vandekerckhove et al. (2018). Robust tests of theory with randomly sampled experiments. MathPsych 2018 https://osf.io/azh38/ Baribault et al. (2018). Metastudies for robust tests of theory. Proceedings of the National Academy of Sciences, in press. https://doi.org/10.1073/pnas.1708285114 Plesser (2018). Reproducibility vs. Replicability: A Brief History of a Confused Terminology. Frontiers in Neuroinformatics. 11:76. doi: 10.3389/fninf.2017.00076
  25. まとめ  心理学は再現性の危機を経験した  QPRsが蔓延していた背景には,研究の実施と評価に おける「しくみ」の問題があった  心理学研究への信頼を取り戻すには,コミュニティ としての対応が必要 

    研究の再現性を高める「新しいしくみ」が広がっている  オープンサイエンス  研究の事前登録  再現研究の評価  論文出版基準の改め  R Markdownによる再現可能な分析・報告 45