芝浦工業大学 デザイン工学部の3年生向けの講義「論文作成法」にてゲスト講演した際のスライドです。
大学生が書く技術を高めるべき理由とは?芝浦⼯業⼤学 デザイン⼯学部 論⽂作成法2021/05/10 株式会社翔泳社 近藤佑子編集者が考える!
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自己紹介近藤佑子(@kondoyuko)ITエンジニア系編集者/キャッチコピーは「踊る編集者」略歴• 1986年 岡山県生まれ• 2006~2010年 京都大学 工学部 建築学科• 2011~2013年 東京大学大学院 工学系研究科 建築学専攻 修士課程• 2014年~ 株式会社翔泳社現在のお仕事• ITエンジニア向けメディア「CodeZine」 編集長• ITエンジニア向けイベント「Developers Summit」企画統括好きなゲーム• 星のカービィ
所属している会社:翔泳社について• キャッチコピーは「出版だけ、じゃない出版社。」• 1985年12月創業/社員数130名(2020年4月現在)• 扱うチャンネル:出版、Webメディア、アプリ、イベント、セミナーなど• 扱うテーマ:IT、資格、デザイン、ビジネス、生活実用など翔泳社の本 より書影引用 https://www.shoeisha.co.jp/book/
私がメインで関わっている仕事CodeZine:2005年から続くソフトウェア開発者向けメディアDevelopers Summit:2003年から続くソフトウェア開発者向けカンファレンス
編集者ってどんな仕事?一般的には:• 雑誌や書籍などの本全体やページの一部を企画して編集する人のこと*– 書き手の方を中心に、写真やイラスト、デザイナー、印刷会社などさまざまな人とやり取りをしながら企画を形にしていく人私の場合:• 編集の対象がWebやイベント• 言葉に対しての向き合い方は変わらない(はず)*出典:13歳のハローワーク 公式サイト https://www.13hw.com/jobcontent/02_03_11.html
質問1:「書く」ことについてどんな悩みがありますか?自分に当てはまるものを全部チェックしてください!• 何を書いていいか分からない• 文章を書くのに時間がかかる• 文章がたくさん書けない• 書いたのにうまく伝わらない/評価されない• その他
質問2:普段どんなときに「書いて」いますか?自分がやっていることを全部チェックしてください!• メッセンジャー、チャット• メール• レポート• SNS• note/ブログ• その他
今日のお話の最後に今日の話の最後に、以下のことについてZoomのチャットに書いてもらいたいと思います(また改めて表示します)。1. 今日の話を聞いて、取り組んでみたいと思ったこと2. 1.に取り組むために具体的にどうするか– いつやるか?– どんなふうにやるか?– いつまでに取り掛かるか?
今日伝えたいこと• 書くことは学習・仕事・人生に役に立つ• 今は書くことに向き合う絶好のチャンス• 書くことに前向きになる、新しい行動のヒント
目次• 今の仕事をするようになった背景• 普段どんなふうに仕事をしているか?• 仕事で使える「書く」という技術• 今は書くことに向き合う絶好のチャンス• まとめ:大学生が書く技術を高めるべき理由とは?
編集者をしていると「本が好きそう」とよく言われるが…• 難しい本を読もうとすると、何度も同じところを読んでしまい進まない• 読書家の人にコンプレックスを抱く• 小学生の頃は読書感想文をボイコット• 大学入試は国語が一番苦手だったそんな私が編集者になるなんて思いもしなかった
編集者になるまで:学部時代(2006-2010)• 大学では建築学科に進学– 文化、テクノロジー、社会にすべて接続して面白いと思ったから• 建物を設計することに苦手意識を感じ、建築の歴史の研究室へ– 大学を飛び出して、アート系のコミュニティにもたくさん参加した今の仕事につながる原体験:• 日本都市史のレポートで「優」をもらえた• SNSの「mixi」で日記を書くことにハマった• Twitterを使って建築やアート系の人とつながり、次第にエンジニアとつながるようになった
編集者になるまで:大学院時代(2011-2013)• 進路を迷ったあげく、大学院でも建築史の研究室へ• SNSなどのインターネットのサービスに強い可能性を感じ、IT関係の企業に就職を希望するものの、就活はうまくいかず……今の仕事につながる原体験:• 研究室の活動でいろいろな場所をフィールドワークした• 修士論文をまとめるのは辛かったけど(人生で一番……)いい経験だった• 就職活動がうまくいかず、自己PRサイトを制作したらバズった– 非常に反響が大きかったものの、就職先が決まらず卒業することに
• バズった経験から得た人脈をもとに、文章執筆の依頼をもらったり、仕事を受けたりしていた(エンジニアの真似事、ライターなど)• IT関連を中心に就職活動も継続していた• ニッチな分野の編集者の求人を受けた(落ちた)ことをきっかけに、専門系編集者の道を志す– 専門家に話を聞いたり、勉強してスキルを高めていったりするのは、研究などのこれまでの経験が活かせると思った– 的を絞ったら、就活がうまくいきはじめるようになった• 今の会社に入社後、現在の編集部に配属編集者になるまで:就職浪人時代(2013-2014)
• インターネットに文章を書いてきたこと• インターネットを通じてたくさんの人と交流したこと• プログラミングを独学で学ぶなど、専門以外のことも学んできたこと• アートやリベラルアーツにも関心があったこと• 研究を通じて、一つのテーマを追求する経験ができたり、追求している人の凄さに対する想像力を持てたりしたこと学生時代の活動で役に立ったものとは?
私が担当している仕事(1)CodeZineCodeZineとは?2005年から続くITエンジニア向けWebメディアプログラミングをしたりITのサービスを開発したりするうえで、参考になる情報が得られる掲載している記事例• プログラミングに関する解説記事• アプリの開発秘話• エンジニアのキャリアインタビュー私の主な仕事内容• 掲載する記事の企画・編集・(時には)執筆• よりよいメディアにしていくための責任者
私が担当している仕事(2)Developers SummitDevelopers Summitとは?2003年から続くITエンジニア向け大規模イベント2日間で80近い講演が行われ、4000人以上が参加「フェスっぽい学会」のようなイメージ?2020年2月まではオフライン開催、以後のイベントはオンラインで開催私の主な仕事内容• 全体テーマの決定• 講演者や講演内容の検討・打診• その他、イベントをより良くするためのさまざまなこと
普段、どんなふうに過ごしてる?10:00~10:30 Slack、メールチェック10:30~11:30 プレスリリースをピックアップしてニュース記事作成11:30~12:00 企画案作成12:00~13:00 お昼13:00~14:00 社内のミーティング(Zoom)14:00~15:00 メンバーの原稿のレビュー、メールを返したり15:00~16:00 社外の打ち合わせ(Zoom)16:00~19:00 原稿の編集19:00~ 退勤、オンライン勉強会を視聴したりも
記事のいろいろ:ニュース記事ニュース記事:「新製品がリリースした」などの速報性のある記事https://codezine.jp/article/detail/13866https://codezine.jp/article/detail/12344
ニュース記事のつくりかた1. ニュースのネタを探してくる– プレスリリース、ブログ、記者発表会、SNS……– 読者のみなさんが関心を持ちそうな情報を探し集めるイメージ2. ネタをもとに、シンプルで中立的な内容に修正して掲載– 主観的な情報をなくす(例:「日本初」とあれば必ず根拠を探す)– 読者がわかりやすいように、順番を変えたり、補足したりする• 公式サイトなど、プレスリリース以外の情報も参照することも
記事のいろいろ:インタビュー記事インタビュー記事:参考になる知見や経験を持っている方に話を聞いた記事(エンジニアのキャリア、プロダクト開発事例、技術の最新情報など)https://codezine.jp/article/detail/13469https://codezine.jp/article/detail/13733
インタビュー記事のつくりかた1. 企画を立て、打診をする– どんな人にどんなテーマの話をしてもらいたいか?2. OKがもらえたら、具体的な質問案を作成する3. インタビューをしていく– 途中、深ぼったり、より面白い話が聞けそうなら脱線したりも4. 記事を自分で書いたり、同席したライターさんに書いてもらったりする5. お話を聞いた方の確認が取れたら、公開!
記事のいろいろ:寄稿(書いてもらう)記事寄稿記事:書き手の方に書いていただく記事(プログラミングに関する解説記事、スキルアップに関するコラムなど)https://codezine.jp/article/detail/13199 https://codezine.jp/article/detail/13672
寄稿記事のつくりかた1. 企画を立て、執筆の相談をする2. OKがもらえたら、打ち合わせをして内容のブレストをする– 著者さんが執筆のイメージができるところまでブレストする3. 構成案(目次案)を作っていただき、フィードバックする– よい点や、もっとこうしたらいいのではという内容を伝える4. 原稿が来たら、読みやすくなるように編集を行う– 誤字脱字のほか、誤解を与える箇所がないか、など5. 著者さんに確認していただき、問題なければ公開!
企画しているエンジニア向けイベントのいろいろ2003年- デブサミ(2月)2019年- デブスト関西(6月)2012年- デブサミ夏(7月)2015年- デブサミ福岡(8月)2011年- デブサミ関西(9月)2018年- デブスト(11月)
エンジニア向けイベントの企画方法• イベントの全体テーマを決める• テーマの世界観を表すようなビジュアルを作成する(ディレクション)• 公募を募集する• 全体テーマをもとに、セッション案と講演者を考える• 講演者に打診する• 公募を選考する• タイムテーブルを組む• 懇親会などのその他の企画も行う• Webサイトを公開し、広く告知する• 本番の運営を行う
これまで紹介した以外にもいろいろな仕事がある• メールマガジンを作る• 記事広告の企画編集を行う• Webサイトの改善やグロースのための施策を行う• チームメンバーが成長するように支援する• などなど……
この仕事の醍醐味• たくさんの先進的な取り組み、チャレンジングな取り組みに触れられる– コロナ禍でのピンチをチャンスに変えた話は心に響きました……• 自分の携わった記事がたくさんの方に読まれると嬉しい• 記事やイベントが「参考になった」「勇気づけられた」と言われるととても嬉しい• 「エンジニアを輝かせることによって世の中を良くしたい」という使命感を持てる
仕事で使える「書く」という技術• 自分が書く• フィードバックする• 企画を作る• 人に話す(プレゼンする)• プロジェクトを導くすべてに「書く」という技術が関わってくる編集に限らず、どんなプロジェクトをするにも共通して必要な技術
「書く」技術の使いどころ:自分が書く• 記事を書く– 内容が誤って伝わらないように書く• そもそも用語を間違っていないか• 複数の意味に取れることはないか• 指示語(「これ」「それ」)が何を表しているか明確か、など– 読んでほしい読者に伝わりやすいように書く• 最初に「この記事で伝えたいこと」が書いているか• 前提知識をすっ飛ばしていないか• 無駄に長過ぎたりしないか• メールやメッセージを書くときにも使える– コロナ禍のリモートのコミュニケーションでは必須スキル
「書く」技術の使いどころ:フィードバックする• 著者さんの原稿や、チームメンバーの仕事をフィードバックする– 読み手の視点で、違和感を感じるところを指摘する• 「ここがこう分かりにくい」も十分なフィードバックになる– 修正提案する場合は「なぜこうしたほうがいいか」という根拠を示す• 書き手の人にとって納得感もあるし、次から気をつけられる– よかったところをしっかりと伝える• 書いた人にとって学びになるし、嬉しい気持ちになる
「書く」技術の使いどころ:企画を作る• 最終的なアウトプットが記事とは限らない企画も、全て言葉で作られる– 「ウケる企画はみんな『ひと言』」「センスはいらない、むしろベタがいい」(石田章洋著『企画は、ひと言。』)• 例:プリウス「地球に優しいエコカー」• 私がエンジニア向けイベントの全体テーマを作る際も、世相を反映しつつ、短くて覚えやすいものを考えるようにしている
「企画を作る」の具体例:イベントのテーマhttps://event.shoeisha.jp/devsumi/20210218
「書く」技術の使いどころ:人に話す(プレゼンする)• 人に話すときは、即興で書いているようなもの– あらかじめ考えたり、書いていたりするからこそ伝わる話ができる• プレゼン資料の作成や、何を話そうか考えているときも言葉を使っている
「人に話す」の具体例:仕事で得た知見を人に共有https://speakerdeck.com/kondoyuko/
「書く」技術の使いどころ:プロジェクトを導く• 言葉によって、プロジェクトのありたい姿を示すことができる– プロジェクトメンバーに示して価値観を共有したり– 社外に示して、共感・応援してもらったり• 「ビジネスをドライブするのは数字ではなく、言葉」(三浦崇宏著『言語化力』)
「プロジェクトを導く」の具体例:ミッションの設定コンテンツで人と社会の可能性を拡げるデベロッパーの成長と課題解決に貢献するメディアデベロッパーをスターにし、世の中をアップデートを加速する
今は書くことに向き合う絶好のチャンス機会に恵まれている• 学生のうちは書く機会がたくさんある• 深く考え、書く機会(=論文)がこれから待っているモチベーションも高めやすい• コロナ禍で書く技術の重要性が増している• 書く技術を発揮できるチャネルが多様化している
学生のうちは書く機会がたくさんある• この講義に限らず、レポートや課題で文章を書く機会が定期的にあるはず→すでに習慣化が実現している(一般にはこれが難しい……)• 毎回ちょっとだけ改善する、ちょっとだけ工夫してみるだけで書く技術はどんどん向上していく– 工夫の例:文章術の本を読んで、一つだけ取り入れて書いてみる本の作者になったつもりで読み物のように書いてみる• エンジニアコミュニティでよく言われていること– アウトプットが最大の学び– 締め切り駆動
深く考え、書く機会(=論文)がこれから待っている• 人生において、これだけ一つのテーマを突き詰める機会はそうそうない– 指導してくれる先生がいて、同時期に論文を書く仲間がいて、締切があり、人生がかかっているような状況• 「考えが整理されているから書くのではなく、書くことで考えが整理される」(藤𠮷豊・小川真理子著『「文章術のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』 )• 「Connecting the dots」(スティーブ・ジョブズの言葉)– 論文は今の自分の集大成– 今後の人生で、論文で扱ったテーマや考えのアプローチが生きてくる
コロナ禍で書く技術の重要性が増している• リモートメイン、テキストメインのコミュニケーションになってきている– 第一印象が「テキスト」なんてことも– 文章だけで感じよく見せる、分かりやすく伝えることは必須スキル• 人と会うのが難しくなったなか、書くことで自分に向き合える– 私は2020年は日課として毎日noteを書いていた• 毎日書くことで言語化するいい機会になる– ほとんどの内容はしょうもないけどたまに光るものがある• 毎日書くから続けられる
書く技術を発揮できるチャネルが多様化している• 書く技術は仕事のさまざまな場面で生きる• SNS、ブログ、noteはもちろん、YouTube、Podcastなどの動画・音声コンテンツを作る際にも役に立つ– 反響が得られやすいので楽しく続けられる– 始め方についてもたくさんの情報がある
理由①:書くことは学習・仕事・人生に役に立つから• 書くことは、仕事のさまざまな場面で役に立つ– 自分が書く– フィードバックする– 企画を作る– 人に話す(プレゼンする)– プロジェクトを導く• これは仕事以外にも、学習や人生においても大きな力となる
理由②:今は書くことに向き合う絶好のチャンスだから機会に恵まれている• 学生のうちは書く機会がたくさんある• 深く考え、書く機会(=論文)がこれから待っているモチベーションも高めやすい• コロナ禍で書く技術の重要性が増している• 書く技術を発揮できるチャネルが多様化している
書くことに前向きになる、新しい行動のヒント• 書く機会を「自分の学び」「自分と向き合う時間」と捉える• 書く機会のたびにちょっとずつ新しいトライや改善をしてみる• SNSなどを使い、楽しいやり方で書くことや研究に向き合えないか考える
例えばこんなことにトライしてみよう• 文章の書き方の本をなにか1冊読んでみる– 個人的なおすすめは、最近出版されて高評価な本• レポートを、単なる課題ではなく多くの人が読むブログだと思って書く• 授業に関して、受け手視点で分かりにくいと思ったことを質問する• 研究に関して、学んだことをブログやSNSに書く– その分野が分からない人に分かりやすく伝えるつもりで書く– 学習のまとめだけでなく、自分の発見や感想なども書く
質問1:「書く」ことについての悩みの回答の一例• 何を書いていいか分からない– 自分の専門や興味と組み合わせる/まず何か書くと考えが深まる• 文章を書くのに時間がかかる– 考えをとりあえず出してみる/書くことを習慣化させる• 文章がたくさん書けない– そのテーマについてYouTuberのつもりで喋ってみるのもアリ• 書いたのにうまく伝わらない/評価されない– 書き終わったら編集者になったつもりで読み返してみる
質問2:書く技術を使う機会はたくさんある• メッセンジャー、チャット• メール• レポート• SNS• note/ブログ• その他論文だけでなくどんな場でもトライできるし、書く技術が活かせる
おすすめの本• 『「文章術のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』(藤𠮷豊・小川真理子著、日経BP)– たくさんの名著のエッセンスが詰まったお得な本– より多くの本で重要だと言われている順に述べてあり、取り入れやすい• 『書くのがしんどい』(竹村俊助著、PHP研究所)– 書くのが苦手な人に徹底的に寄り添った本– 具体的で効果的な手法がたくさん書かれていて、読むとnoteやSNSで発信したくなる• 『小さな習慣』(スティーヴン・ガイズ著・田口未和訳、ダイヤモンド社)– 習慣化には「小さ過ぎて失敗しようがない」ことを継続するのがいいことを説いた本
これから何に挑戦してみたい?以下のことについてZoomのチャットに書いてみてください!1. 今日の話を聞いて、取り組んでみたいと思ったこと2. 1.に取り組むために具体的にどうするか– いつやるか?– どんなふうにやるか?– いつまでに取り掛かるか?