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特定の楽曲を繰り返し聴くことにより生じる「飽き」の理解

 特定の楽曲を繰り返し聴くことにより生じる「飽き」の理解

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Kosetsu Tsukuda

October 15, 2025
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  1. 回答者 6 20代 30代 40代 50代 60代 70代 計 男性

    348 724 1,142 1,379 1,179 1,351 6,123 女性 344 668 963 1,006 927 1,293 5,201 (名) 日本のアンケート会社を通じて募集した11,324名  条件:日本に在住・日本語に堪能  謝礼:オンラインショッピングの商品券  回答:Webブラウザを通じて回答
  2. 飽きを感じる対象 8 それぞれに対する飽きをどの程度体験している? 楽曲に対する飽きの体験頻度が高ければ… 映画 ドラマ アニメ 漫画 小説 楽曲

    アーティスト アルバム プレイリスト 音楽関連 音楽以外  楽曲に対する飽きを明らかにすることは学術的に意義が大きい  飽きを考慮したユーザ支援を考えることは社会的に意義が大きい 動画
  3. 自明な結果も示す意義 13 楽曲に対する飽きの頻度が他のコンテンツより高いのは自明では? Q A  新しい研究課題では意外な結果だけでなく 自明な結果も調査に基づいて示すことに意義がある  飽きを対象とした手法やシステムを提案する今後の研究で

    その重要性などを主張するための根拠として参照可能になる 様々なメディアコンテンツの中でも,楽 曲に対する飽きを体験する頻度が特に高 いことが佃ら [12] により報告されている. ……そこで本稿では楽曲に対する飽きを 考慮した楽曲鑑賞システムを提案する. 引用 今後の研究 本研究
  4. 回答者のフィルタリング 15 20代 30代 40代 50代 60代 70代 計 男性

    150 326 508 527 332 334 2,177 女性 202 332 416 353 254 244 1,801 (名) 先ほどの質問に「時々ある」以上の回答をした3,978名を対象に分析 楽曲の飽きをある程度体験している人を対象にして結果の信憑性を高める 以下の本研究の目的に沿うように幅広い年代を対象に分析 音楽配信サービスにおける楽曲に対する飽きの理解 音楽聴取行動全般における楽曲に対する飽きの理解
  5. 質問|飽きを引き起こす理由 17 曲を聴き飽きたこれまでの体験を思い出したとき 以下にあげる理由で曲を聴き飽きたことはどの程度ありますか。 (6段階で回答:「全くない」~「頻繁にある」) R1. 自分の意思で、何度も繰り返し聴いたから R2. 流行している曲で、自分の意思とは無関係に、聴く機会が多かったから R3.

    流行している曲ではないが、自分の意思とは無関係に、聴く機会が多かったから R4. 自分の気分や感情が変わって、以前のように魅力を感じなくなったから R5. メロディーが新鮮に感じられなくなったから R6. 歌詞の内容が新鮮に感じられなくなったから R7. 歌声が新鮮に感じられなくなったから
  6. 質問|聴き飽きた楽曲の再聴取の理由 22 聴き飽きた曲を再び聴くようになった体験を思い出したとき 以下にあげる理由で曲をまた聴くようになったことはどの程度 ありますか。(6段階で回答:「全くない」~「頻繁にある」) A1. 聴き飽きてから時間が経ち、その曲を新鮮に感じるようになったから A2. 自分の気分や感情が変わって、その曲がまた合うようになったから A3.

    その曲を聴いていた時期が懐かしくなったから A4. 世の中でその曲が再び注目されたから A5. 友人や家族など、他の人がその曲を聴いていて、自分もまた聴きたくなったから A6. 利用している音楽配信サービスやYouTubeでその曲がお薦めに出されて、また聴きたくなったから A7. ラジオやテレビでその曲を聴いたから A8. TikTokやXなどのSNSでその曲を聴いたから A9. 音楽イベントやライブでその曲を聴いたから A10. 街中でその曲を聴いたから A11. 別のアーティストがその曲をカバーしているのを聴いたから ユーザ自身の 内的な要因 ユーザの周りの 環境的な要因
  7. 結果|聴き飽きることに対する感情(N=3,978) 28 DM1. 聴き飽きることで別の曲を聴くきっかけになるので、 聴き飽きることは気にしていない DM2. 曲を聴き飽きるのは自然なことなので、 聴き飽きることは気にしていない DM3. 聴き飽きた曲を再び好きになることがあるので、

    聴き飽きることは気にしていない DM1:聴き飽きることは別の楽曲に出会うためのポジティブなきっかけ ある楽曲を聴き飽きたタイミングで新たな楽曲を推薦すれば 推薦した楽曲を普段よりも高い確率で聴いてもらえる可能性
  8. 人の特性に着目した音楽情報処理分野の研究 31 開放性が高い フォークが好み [Ferwerda+ 2017] 外向性が高い 歌声を重視 [Tsukuda+ 2021]

    音楽ジャンルの好み 重視する音楽要素 人と音楽とのインタラクションをより深く理解するために 音楽の好み 音楽聴取行動 人の特性と との関係を調査した研究は多数存在
  9. 対象とする特性 32 ビッグファイブ グリット 音楽没入傾向  外向性  協調性 

    誠実性  神経症傾向  開放性  根気  一貫性  時間・周囲の忘却  没頭融合  音響への注意
  10. 対象とする特性|ビッグファイブ 33 ビッグファイブ グリット 音楽没入傾向  外向性  協調性 

    誠実性  神経症傾向  開放性  根気  一貫性  時間・周囲の忘却  没頭融合  音響への注意 質問例(10件の質問に7段階で回答 [Oshio+ 2012])  協調性:人に気をつかう、やさしい人間だと思う  誠実性:しっかりしていて、自分に厳しいと思う  開放性:新しいことが好きで、変わった考えをもつと思う
  11. 太字:有意な相関(𝑝𝑝 < 0.001) 飽きの 頻度 再聴取 頻度 聴き飽きることは気にしない 聴き飽きることは残念だ DM1

    DM2 DM3 UF1 UF2 UF3 開放性 −0.0297 −0.0144 −0.00173 −0.0354 −0.0373 0.00152 0.0182 0.0354 協調性 −0.106 0.0193 0.138 0.167 0.170 −0.0658 −0.0525 −0.0821 誠実性 −0.0978 −0.0483 −0.0138 −0.0121 −0.0109 0.00341 0.0292 0.0404 神経症傾向 0.106 0.0590 0.0127 0.0336 0.0273 0.0274 0.00761 −0.0204 開放性 0.0101 0.0338 −0.0248 −0.0474 −0.0230 0.0182 0.0369 0.0396 ビッグファイブと飽きの体験・感情との相関 34 DM1 協調性 回答者1 4 6.0 回答者2 2 3.5 回答者3 5 3.5 回答者3978 3 4.0 … … …
  12. ビッグファイブと飽きの体験・感情との相関 35 飽きの 頻度 再聴取 頻度 聴き飽きることは気にしない 聴き飽きることは残念だ DM1 DM2

    DM3 UF1 UF2 UF3 開放性 −0.0297 −0.0144 −0.00173 −0.0354 −0.0373 0.00152 0.0182 0.0354 協調性 −0.106 0.0193 0.138 0.167 0.170 −0.0658 −0.0525 −0.0821 誠実性 −0.0978 −0.0483 −0.0138 −0.0121 −0.0109 0.00341 0.0292 0.0404 神経症傾向 0.106 0.0590 0.0127 0.0336 0.0273 0.0274 0.00761 −0.0204 開放性 0.0101 0.0338 −0.0248 −0.0474 −0.0230 0.0182 0.0369 0.0396 太字:有意な相関(𝑝𝑝 < 0.001) 協調性・誠実性が高い 多様な楽曲を楽しむ傾向 [Ferwerda+ 2016] 楽曲を聴き飽きる体験の少なさに影響している可能性
  13. 飽きの 頻度 再聴取 頻度 聴き飽きることは気にしない 聴き飽きることは残念だ DM1 DM2 DM3 UF1

    UF2 UF3 開放性 −0.0297 −0.0144 −0.00173 −0.0354 −0.0373 0.00152 0.0182 0.0354 協調性 −0.106 0.0193 0.138 0.167 0.170 −0.0658 −0.0525 −0.0821 誠実性 −0.0978 −0.0483 −0.0138 −0.0121 −0.0109 0.00341 0.0292 0.0404 神経症傾向 0.106 0.0590 0.0127 0.0336 0.0273 0.0274 0.00761 −0.0204 開放性 0.0101 0.0338 −0.0248 −0.0474 −0.0230 0.0182 0.0369 0.0396 ビッグファイブと飽きの体験・感情との相関 36 太字:有意な相関(𝑝𝑝 < 0.001) 協調性が高い 感情の調整が上手い 楽曲を聴き飽きることを自然な現象として受け入れやすい
  14. 対象とする特性|グリット 37 ビッグファイブ グリット 音楽没入傾向  外向性  協調性 

    誠実性  神経症傾向  開放性  根気  一貫性  時間・周囲の忘却  没頭融合  音響への注意  根気:始めたことは、どんなことでも最後までやりとげる  一貫性:数か月ごとに新しい活動への興味がわいてくる 質問例(8件の質問に5段階で回答 [Nishikawa+ 2015])
  15. 飽きの 頻度 再聴取 頻度 聴き飽きることは気にしない 聴き飽きることは残念だ DM1 DM2 DM3 UF1

    UF2 UF3 根気 −0.0615 0.0386 0.0465 0.0416 0.0433 0.0527 0.0823 0.0655 一貫性 −0.174 −0.113 −0.119 −0.146 −0.141 −0.0429 −0.0352 −0.00408 グリットと飽きの体験・感情との相関 38 太字:有意な相関(𝑝𝑝 < 0.001) 一貫性が高い 一度聴き飽きた楽曲は そのまま聴かない点で一貫 聴き飽きた楽曲を再度聴く頻度が低い 一貫性が低い ある楽曲を聴き飽きても 次々に別の楽曲を聴く 楽曲を聴き飽きることを気にしない
  16. 飽きの 頻度 再聴取 頻度 聴き飽きることは気にしない 聴き飽きることは残念だ DM1 DM2 DM3 UF1

    UF2 UF3 根気 −0.0615 0.0386 0.0465 0.0416 0.0433 0.0527 0.0823 0.0655 一貫性 −0.174 −0.113 −0.119 −0.146 −0.141 −0.0429 −0.0352 −0.00408 グリットと飽きの体験・感情との相関 39 太字:有意な相関(𝑝𝑝 < 0.001) 一貫性が高い 一度聴き飽きた楽曲は そのまま聴かない点で一貫 聴き飽きた楽曲を再度聴く頻度が低い 一貫性が低い ある楽曲を聴き飽きても 次々に別の楽曲を聴く 楽曲を聴き飽きることを気にしない
  17. 対象とする特性|音楽没入傾向 40 ビッグファイブ グリット 音楽没入傾向  外向性  協調性 

    誠実性  神経症傾向  開放性  根気  一貫性  時間・周囲の忘却  没頭融合  音響への注意  時間・周囲の忘却:音楽を聴いていると、時間の流れを速く感じる  没頭融合:音楽を聴いている時、音楽と一体になる感じがする  音響への注意:音楽を聴いている時は、演奏の上手・下手が気になる 質問例(19件の質問に6段階で回答 [Nagata+ 2015])
  18. 飽きの 頻度 再聴取 頻度 聴き飽きることは気にしない 聴き飽きることは残念だ DM1 DM2 DM3 UF1

    UF2 UF3 時間・周囲の忘却 0.137 0.218 0.134 0.127 0.180 0.137 0.155 0.0825 没頭融合 0.174 0.135 −0.113 −0.181 −0.105 0.243 0.292 0.245 音響への注意 0.166 0.0957 −0.113 −0.151 −0.110 0.182 0.219 0.192 音楽没入傾向と飽きの体験・感情との相関 41 太字:有意な相関(𝑝𝑝 < 0.001) 音楽没入傾向が高い 楽曲の飽きを体験しやすいが聴き飽きた楽曲を再度聴く頻度も高い  特定の楽曲に没頭して繰り返し聴くため飽きを感じやすい  楽曲への興味の消失ではない一時的な飽きなのでいずれは再度聴く
  19. 飽きの 頻度 再聴取 頻度 聴き飽きることは気にしない 聴き飽きることは残念だ DM1 DM2 DM3 UF1

    UF2 UF3 時間・周囲の忘却 0.137 0.218 0.134 0.127 0.180 0.137 0.155 0.0825 没頭融合 0.174 0.135 −0.113 −0.181 −0.105 0.243 0.292 0.245 音響への注意 0.166 0.0957 −0.113 −0.151 −0.110 0.182 0.219 0.192 音楽没入傾向と飽きの体験・感情との相関 42 太字:有意な相関(𝑝𝑝 < 0.001) 没頭融合・音響への注意が高い DM (気にしない) が低い UF (残念に思う) が高い 飽きによって楽曲の魅力が下がることを敏感に感じやすく 楽曲を聴き飽きることを残念に思う という結果で全回答者の結果とは逆の傾向
  20. 音楽聴取行動に基づく特性推定 43 ビッグファイブ グリット 音楽没入傾向 多様な楽曲を聴く人 一貫性:高 [Ferwerda+ 2016] 協調性:高

    ◯◯な人 音響への注意:高 ✕✕な人 音楽配信サービス上のユーザの音楽聴取行動から を推定 グリット 音楽没入傾向 音楽配信サービス上でアンケートを実施するのは非現実的
  21. 本研究の貢献・今後の発展 44 2アンケート結果の定量評価に基づいて3つのRQに対して回答 RQ1. 飽きの体験頻度 / RQ2. 飽きの体験内容 / RQ3.

    人の特性との関係 1楽曲を聴き飽きる現象の理解を目的として11,324名を対象に調査 アンケートに基づいて楽曲に対する飽きの体系的な理解に取り組んだ世界初の研究 3調査結果に基づき楽曲推薦や鑑賞支援などの新たな研究課題を議論 一度聴き飽きた楽曲の推薦 / 楽曲を聴き飽きないための鑑賞支援 / 聴取行動からの特性推定 今後の 発展  年代などの回答者の属性による回答傾向の違いの分析  聴き飽きた楽曲に特化した楽曲推薦技術の提案と検証